No.135338

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 九の章

Chillyさん

双天第九話です。

うん、お母さん伯珪さんがうちの伯珪さんなんだ。普通さんではなくてすみません。きっとどんどんいろんなキャラが崩壊していくでしょうが、双天ではこんなキャラと見逃していただけると幸いです。

桃香よ、このまま幼児化しないでくれよ・・・

2010-04-09 20:07:17 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2722   閲覧ユーザー数:2448

 オレたち幽州の伯珪さんだけではなく冀州の袁紹、兗州の曹操など多数の諸侯が参戦し、黄巾党の勢力は縮小の一途を辿っている。もちろんオレたちの下から旅立った劉備さんたちの活躍も風のうわさに聞いていて、そのたびに伯珪さんはホッと安心したように息を吐いていたのを良く見かけた。

 

 各地の黄巾党が敗退を続け撤退する中、オレたちも幽州黄巾党の止めをさすべく、兗州にある小さなと言っても二〇万人規模の黄巾党がいる砦に撤退中の部隊に追撃を仕掛けている。この部隊を壊滅することが出来れば幽州黄巾党はいなくなったも同然と言えるだろう。まあ、ここで壊滅させなくても兗州に撤退させてしまえばいなくなることにはなるが、兗州の砦の黄巾党本隊に余計な戦力を与えるのも考えものだ。

 

「明日明後日にはここにいる相手は討伐できそうだな」

 

 日が沈みかけ、部隊を一時後退させた伯珪さんが敵味方の動きを見てそう呟く。オレにはどこをどう見ればそう判断できるのがわからない。もしかしたら動きそのものを見ていっているわけじゃないのかもしれない。今日これまでにあった伝令から伝えられた情報、彼我の戦力差、武装の違い、士気の違いがいろいろ合わさっての判断だろう。

 

「確かに明日には殲滅できるでしょうな。……しかし、この後にある兗州での攻城戦、厳しいものがあるやもしれませんぞ」

 

 部隊を撤収し野営の準備も指示終えたのだろう、子龍さんがオレたちのいる本陣にやってきていた。伯珪さん同様、未だ小競り合いが小規模であるが続く前線に視線を向けている。そういえば子龍さんの今日の配置は左翼後曲だったかな?日が沈むことで戦闘が一時終結するのを見越してさっさと後退したのだろう。

 

「各地の黄巾党の敗残兵に食い詰めの流民等が集まって、その数二〇万。この数だとさすがに私といえども我らだけではとてもとても……」

 

 そう子龍さんの言うとおり、勅令によって各地で立ち上がった諸侯の活躍により黄巾党は各地で敗北を続け、続々と首謀者張角がいる兗州の砦に集まっている。それから未だに黄巾党に流れる流民も相当数いるらしく、砦に篭る黄巾党の数はどんどん膨れ上がっているらしい。

 

 今、ここにいる伯珪さんの兵数は二万。砦を攻略するとなると十倍もの兵数の相手をしなければいけないことになる。まずもって勝ち目などあるわけがない。

 

「単純に数だけを言うのでしたらその通りです。が、二〇万のうち実戦力となりうるのはその半分にも満たさないと思われます。ただそれでも一〇万もの大軍、彼我戦力差が五倍もの相手です、単独では勝ち目はないでしょう」

 

 越ちゃんも部隊の撤収作業が終わって報告に来たらしく、伯珪さんと子龍さんの会話に入ったようだ。“これが先触れで出した細作の報告をまとめたものです”と伯珪さんに木簡を渡していた。

 

「越ちゃん。単独ではってことは砦にはもう他の諸侯が来ているの?」

 

「報告書にあるとおり、砦に撤退している兵はほぼ着の身着のままで、兵糧、武器その他の補給が出来ていません。病傷兵に非戦闘員を含めた数が二〇万という数字になっています」

 

 あれ?聞こえているはずなのにオレの問いには答えてくれず、報告を続ける越ちゃん。こっちを見ようともしてくれないってどうしたんだろうか?

 

「ふむ……。すでに袁の旗に曹の旗が立っているのか。おぉ劉旗も立っているということは桃香もここにいるのか?元気にしていればいいけど」

 

 越ちゃんの報告を聞きながら報告書を読んでいた伯珪さんの呟きがオレの問いに答えてくれた。劉備さんの他にも二勢力がすでに砦に来ているのか。となると共同戦線を張って一緒に戦うのかな?

 

「ほう、劉備殿もおりますか。いやはや噂も数々流れてきておりましたが、早々の活躍にこの場に居合わせる目、さすがですな」

 

 子龍さんも劉備さんがいることにうれしそうだ。将来はやはり劉備さんに仕えるのかな?資金も貯まったからとこの黄巾討伐が終わったら再び旅に出るらしいが、出来たらこのままここにいて欲しい。

 

「はい、その他にも孫家の旗が近づいています。ですが袁術は荊州から西進して黄巾党の別働隊を叩くようです」

 

 オレを置いてきぼりに越ちゃんの報告は続く。なんだろう意図してオレを無視しているような気がするけど……理由がわからん。

 

「ほう。さすがは孫家と言ったところですか。袁術に押し付けられたのやもしれませぬが、こちらに来たこと間違いではありますまい。曹操に劉備殿、そして孫策、いやはや綺羅星のごとく輝く御仁が集まりましたな」

 

「子龍、嘘でもいいから私の名前を言ってくれ。……数の上では、一五万くらいにはなるのか。少し厳しいかな?」

 

“はーっはっは”と笑う子龍さんに肩を落として弱めのツッコミを入れる伯珪さんだけど、報告書の記載数と諸侯の数、越ちゃんの報告に表情は厳しい。数の上でほぼ互角になるわけだし、戦いが有利に運ぶのではないのだろうか?その疑問を素直にぶつけてみる。

 

「ふむ。確かにしっかりと連携がとれ互いが支援しあうことが出来れば、有利どころか今の黄巾党では相手になりますまい。しかし世の中そううまくはいきませぬ」

 

 子龍さんがオレの疑問に答えてくれた。

 要約してみると軍隊の連携と言うものは日ごろの訓練と長い時間によって得た信頼関係によってその効果が違ってくる。俄か連携では力が発揮できるどころか足を引っ張り合い本来の力が出せないそうだ。

 たしかに言われてみればそうだろうが、そこは部隊同士の連携ではなく作戦で連携を取っての行動ではいけないんだろうか?

 

「諏訪……今ここに諸侯が何を求めてきているか考えたら、そんなことは言えないぞ。皆名声を求めてここに来ているんだ。にもかかわらず一緒に戦いましょうではそれこそ求めている名声が少なくなる」

 

 つまり、ここに集まったけれども協力はせず個々で戦闘を行い、他の諸侯よりも多くの黄巾党を倒しどこよりも速く首魁の張角を単独で討たないといけないってことか?なにその無理ゲー。

 

「しかし他の諸侯も単独で黄巾党の本隊を倒すことが出来ないのは理解しています。どこが何を狙い、どこが何をするのか……それをどこよりも正確にそして多く把握せねば、今回の討伐令で益を得ることが少なくなるでしょう」

 

 越ちゃんの言葉を聴くだけでこれから求められることの大変さが十二分に伝わってくる。

 基本として細作を放って情報を集めて、その情報を基に作戦を立ててとやることは今までの討伐と変わらないけど、その確度と精度、そして作戦立案がいままで求められていたレベルを遥かに超えた位置にないといけなくなっている。

 そんなことが出来る人間が……伯珪さん、越ちゃん、子龍さん、オレとこの場にいる人間にいるわけがない。しいて挙げるとすれば子龍さんと越ちゃんが挙げられるけど、子龍さんは武人なだけあって力押しが主体な作戦を考えがちだし、越ちゃんは真面目な分、情報をしっかりと集め分析してくれるだろうけど作戦に発展性や柔軟性にかけたものが多いとオレは思う。

 伯珪さんは人が良すぎて、相手を利用し押しのけてでも自分が利益を得るような作戦を立てそうにないし、太守が自らそんな作戦を立てたと言うのは醜聞になる。

 そして最後にオレはまさしくそんなことが出来る能力などありはしない。

 

「幸い、劉備殿に接触することができ、共同行動の了解は得ています。この討伐行の間に優秀な軍師が傘下に加わったと聞きますので、その方と協力して作戦を立てていくことになると思います」

 

“勝手に接触を取り申し訳ありません”と謝っているけど、これは伯珪さんに伺いを立てても即座に共同行動しようとするんじゃないかな?現に笑顔で伯珪さんは了承してるし。

 

 それにしても劉備さんの陣営に加わった優秀な軍師って誰だろうか?……劉備の軍師というと諸葛亮とかがでてくるけど、まだまだ後の話だろうから徐元直だっけか?そのあたりになるのかねぇ。

 

「となるとまた劉備さんと直接会えるのか。楽しみだね」

 

「そうですね。また抱きつかれて鼻の下を伸ばさないよう気をつけてください。天の御遣いとしての立場がありますから」

 

 えぇと越ちゃん、オレなんか悪いことしたかな?この会話中結構無視されたと思ったら、いきなりのお小言ってどうよ。そこ!子龍さん、顔そむけて忍び笑いはどんな理由からですか!伯珪さんもなにその目つき、憐れむようなバカにするような複雑な視線の意味なんてわかりませんよ。

 

「とりあえずは目の前の障害を取り除いてからにはなるが、各々ある程度の行動の指針を考えておいてくれ」

 

 伯珪さんのこの言葉でこの場は解散となり、皆それぞれの陣幕へと帰っていった。

 

 オレは越ちゃんを追いかけて、わからないなりに謝ってみたのだけれど、越ちゃんはジッとオレを見つめた後、見せ付けるようにわざとため息をついて何も言わずに行ってしまった。なんなんだよ、ホントに。

 

「白蓮ちゃーん、元気だった?あ、星ちゃんに紅蘭ちゃんも元気だったぁ?あ!御遣い様もいるぅ!」

 

 幽州の黄巾残党を倒し、本隊を倒すべくやってきた兗州の砦近くにある劉備さんの軍営に着いたときに聞こえてきた声がそれだった。

 飛ぶようにやってきた劉備さんはまず伯珪さんに飛び掛り、その首に抱きつくと甘えるように顔を胸に擦り付ける。

 

「え、あ、あのさ、と、桃香?私は元気だから、はな、離してくれ。皆がみてるだろ?」

 

 顔を真っ赤にして劉備さんを諭す伯珪さんだけど、こうやって甘えられるのがうれしいのか、それとも変わらず元気にいてくれたことがうれしいのか、その顔は笑顔だった。

 

「えへへ。皆が元気そうなのがうれしかったんだもん」

 

「だからと言って抱きつくのはどうかと思いますよ、桃香様」

 

 照れ笑いを浮かべ伯珪さんから離れる劉備さんに関羽さんが注意を入れる。うんいつものやりとりだ。そしてその隣にいる赤髪のちびっ子張飛ちゃんもいるし……えぇとちびっ子が増殖してる?黄色の髪の子は大きな緑色のリボンのついた帽子で赤くなっているだろう顔を隠しながら張飛ちゃんの後ろに隠れ、さらにその後ろに魔女みたいなとんがり帽子で顔を隠した薄紫の髪をツインテールにした子の二人が増えてる。

 

「あっそうだ、白蓮ちゃん!新しい仲間を紹介するね。朱里ちゃんに雛里ちゃん、すっごい頭いいんだよ!それにそれにね、こぉんなにかわいいの!」

 

 劉備さんは後ろに隠れていた二人を引っ張り出して、二人を後ろから抱きかかえるようにくっつくと二人の赤く染まった頬をこれでもかと言うくらいに自身の頬に寄せほお擦りをする。

“あわわ”とか“はわわ”と言いながら真っ赤になって頭から湯気が出ていそうだけどいいのか、これ。

 そう思っていたらツカツカと黙ったまま伯珪さんが劉備さんのところに歩いていき……その桃色の髪の頭に容赦なく平手を叩き落す。

 

「こら、桃香!そんなことをするから二人が固まってるだろ。一軍を率いるものならそれなりの礼儀なり態度なりしたらどうだ」

 

 叩かれた頭を抑えて、涙目の上目遣いで伯珪さんを見上げる劉備さんを少しかわいいと思ってしまったのは内緒だ。

 

「うぅぅ。白蓮ちゃんのいけずぅ」

 

「桃香!」

 

 伯珪さんの一喝に“ひゃい”と返事をして勢い良く劉備さんは立ち上がる。うん、なんかお母さんが出来の悪いというか小さな娘相手に怒っているようだ。睨むように劉備さんを見つめる伯珪さんの目は真剣で、本気で劉備さんを叱っているのがわかる。劉備さんも反省はしているようで、ごにょごにょと言っている呟きを良く聞いてみると“ごめんなさい”とか“気をつけます”とか言っている。

 

「ハァ……わかってくれればそれでいいんだ、桃香。……二人ともすまなかったな。こいつを支えるのは大変だと思うが、よろしく頼む。私は姓は公孫、名は賛、字は伯珪だ、よろしくな」

 

 劉備さんの態度に一応矛先を収めた伯珪さんは、劉備さんに抱きつかれ顔を真っ赤にして混乱している二人の目線に自分の目線を合わせ挨拶をする。

 

「はわわ!す、すみましぇん。わ、わたしゅが先にあいしゃつしないといけないのに」

 

 黄色の髪の子が噛み噛みで言って、さらに噛んだことでまた混乱に拍車がかかったようです。

 

「あわわ!しゅ、朱里ちゃん、噛み噛みだよぉ」

 

 相方のツインテの子もさらに混乱してしまったようだし、本当に劉備さんが言うように頭が良いのか?

 

 劉備さんを筆頭にこの二人、そして張飛ちゃんをまとめる関羽さんの気苦労が知れるというものだね。

 

「はっはっは。気にしないでくれ。それよりも真名で呼び合うのではなく、自己紹介してもらえると助かる」

 

 優しく笑う伯珪さんに安心したのか噛み噛み少女二人は頷きあうと口を開いた。

 

「私は姓は諸葛、名は亮、字は孔明です」

 

「私は姓は鳳、名は統、字は士元です」

 

 信じられない名がその口から飛び出した。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
20
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択