No.131681

『想いの果てに掴むもの』 ~第14話~

うたまるさん

最近忙しくて書く暇が・・・・

今回は、呉ルートへのちょっとした繋ぎの話しになります

2010-03-22 20:08:15 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:26740   閲覧ユーザー数:18541

真・恋姫無双 二次制作小説 魏アフターシナリオ

『 想いの果てに掴むもの 』孫呉編

  第14話 ~ この世界で生きていくために ~

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、今日も良い天気だなぁ」

「そうですねー」

 

暖かな日差しの中、思いっきり背伸びをしながら、体をゆっくり解してはいるが、眠気は収まりそうも無い。

だが、それでも、体を解していくうちに、次第に頭がすっきりとしていくのが分かる。

 

「でも、お兄さんには学ぶべき事は一杯あるのですから、そうのんびりな事は言ってられないのですよー」

「いや、どうにも睡眠不足と言うか」

「それは風も同じです。

 それに、お兄さんのは自業自得と言うものなのです。

 あんなに何度も頑張られては、疲れもすると言うものです。風はお兄さんの被害者なのですよ」

「いや、風はちょくちょく寝ているし、風だって夕べは・・・・・・はい、すみません俺が全部悪いです」

 

言い訳をしようとする俺を、風は"じとーー"と見つめてくる。

別に迫力とかがあるわけではないのだが、風にああ言う風に見つめられると、なんかこう罪悪感が湧き、ついつい謝ってしまう。

(頭の上の宝譿まで、同じ表情というのは・・・・・・本当にいったい、どんな原理で動いているんだろう?)

確かに、そうのんびりとは出来ない旅では在るが、現在はどうしようもない。

なにせ、船の上だ。

馬より速いが、所詮、基本は川の流れに任せと、風の気の向くままとなる。

そんなわけで、船上では特にやる事も無いので、ぼーと日向ぼっこをするか、"氣"の鍛錬をするか、風から勉強を教えてもらう事ぐらいしかないわけだが、やはり、体をおもいっきり動かせないもどかしさ、と言うものもあり、ついつい毎晩頑張ってしまうという悪循環を繰り返してしまう。

そう言うわけで、俺は機嫌を損ねた風に、ひたすら謝り倒しているわけだが・・・・・・・いかん、周りの視線が痛い、特に、護衛の兵達の視線が、

 

『てめぇばっか女連れで良い御身分だな、こちとら、てめえの護衛でずっと御無沙汰だと言うのにっ』

 

と言わんばかりだ・・・・・・・・・ちょっと、気配りが足りなかったかな・・・・・・反省

まぁ、風も本気で怒っているわけではなく、俺に付き合っての退屈しのぎなんだろう。

あっさりお許しがでると、

 

「さてさてー、お兄さん、このまま日向ぼっこと言うのも魅力的ですが、今日もお勉強のお時間なのですよー」

 

と、ここ数日の間、毎朝聞く台詞を今日も告げてくるのであった。

風は、船旅のおかげで空いた時間を、俺の勉学へと割り振ってきたわけだが、

・・・・・・流石に、"氣"の修行の時間以外、一日中と言うのは勘弁して欲しいです。

 

「えーと、風・」

「駄目ですよー」

「あの俺まだ何も言ってないんだけど」

「言わなくても分かるのです。

 お兄さんの事ですから、せめて半日だけとか、今日は休みの日にしようとか、先送りにする事を考えている

 のです」

「うっ・・・」

 

あっさり、俺の言葉を遮り、更に

 

「お兄さんは、蜀で依頼されたお仕事以外に、お兄さんが勝手に顔を突っ込んだり、問題を起こしたりで、予

 定より遅れているのです。

 お兄さんが頑張っているのは分かっていますが、自分の撒いた種が原因なのですから、きちんと責任を取っ

 て遅れを取り戻さないといけないのですよ。

 このままでは、お兄さんは華琳様や桂花ちゃんに、なんて言われるか分からない訳ではないでしょう。

 その時、風は素直に事実を話すだけなのですよー」

「えーと別にさぼっていた訳では・」

「少なくとも今は怠業しようとしているのです」

 

反撃する場を与えず、逃げ場を塞ぎ、反撃したとしてもそれすら利用し、立ち止まる事すら許さない遣り口

・・・・・・確かに勉強になりますが、早速勉強ですか?

風は、普段のんびりな口調と、穏かな雰囲気に騙されやすいが、攻めるとなると、本当に容赦が無い。

その遣り口は、桂花はおろか華琳だって舌を巻く時がある。

とにかく、相手の心理を読み、状況を利用し、相手を誘導する事が巧いのだ。

普段寝た振りしたり、奇行が目立つが、それさえ彼女の策なのかもしれないと思えさえする。

・・・・・・まぁ地なのだろうけど

 

俺が風から学ぶようになって、一番変わったのは、風の俺への接し方だろう。

公の時以外では、以前は風の穏かな雰囲気で、癒されたり、変わった感じが楽しかったり、と私人としての付き合い方ばかりだったが、

今では、教師と出来の悪い生徒・・・・・・まぁ俗に言う師弟の間柄として、こうやって、文官としての必要な考え方や攻め方を実践して見せてくれる事が多くなったわけだけど・・・・・・・俺を対象にする事が多いのは気のせいですか?

 

「身をもって知る事が一番の勉強なのですよー」

 

風が凄いのは分かっているから、頼むからこっちの心を読むのはやめてほしい。

と言うか、俺そんなに考えている事が読みやすいですか?

 

「ふふふふふっ、大丈夫ですよー。

 お兄さんは本当に隠したいと思っている事は、きちんと隠せているのです」

 

風は、悪戯っぽい笑顔を浮かべたと思っていたら、今度は少し悲しそうな顔を俺に見せる。

いや、俺には見せているのだ。

 

 

 

 

 

本来風は、自分の考えている事を相手に分からせるようなヒントは、与えるような真似はしない。

したとしたら、それは誘導や罠でしかない・・・・・・いや、そう思わせることが既に風の罠に嵌っているのだろう。

だが、そんな風が、俺には素直な感情を見せてくれる。

むろん、そう見せている時のほうが多いが、それでも、その行動は俺を想ってくれての事だと分かる。

そして、今回は・・・・・・・・・そうか、

 

「そう言えば、この辺りだったな。 あの戦いがあったのは・・・・・・」

 

俺は、川の流れに、辺りの風景に、目をやり、あの時を事を思い出す。

あの時は、こうやって落ち着いて景色を見る事なんてできなかった。

周囲を警戒し、使える場所が無いかの確認・・・・・・そして、なにより余裕事態、俺には無かった。

それでも、目の前の光景の幾つかは、見覚えのある箇所があった。

 

「はい、双方が、持てる力を総てをかけての大戦でした。

 あの勝敗で、総てが決したと後世は考えるでしょうねー」

「そうだね。 でも、そんな単純なものでは決してなかった。

 それに戦だけで決着が付いたなら、今のような平穏は得れなかったと思う。

 あの後の戦いだって、決して楽な物ではなかった。

 あの戦いで敗れた、蜀や呉は、それこそ死に物狂いだった。

 それを、物量や奇策で押し切り、

 あの舌戦、そしてありえない王同士の一騎打ち・・・・・・・・

 お互いが民を想う王だったから、

 覇王となる事で、民が希望の持てる世の中を作りたかったから、

 王となり、皆が笑って過ごせる世の中を作りたかったから、

 王として、国と言う家族が笑っていられる家を守りたかったから、

 皆が、今を勝ち取れたんだと思う」

 

俺の言葉に、風は無言で、俺と同じように、川の流れを、あの時の光景をその目に映す。

大河ゆえ、心地良いせせらぎには程遠い、大きな音が聞こえる。

波の音が、波が船べりに叩きつける音が響く、

まるで、あの時、逝ってしまった者が、己の存在を忘れないでくれと言わんばかりに、絶え間なく聞こえる。

それだけの、大勢という言葉すら霞む数の人間が、あの戦で命を散らしていった。

そして、その命を落すの大半の兵は、本来ならば魏の兵士達、もしかしたら、将の誰かも逝っていたかもしれない。そうおもうと、堪らなかった。

だから、反則なんていう言葉すら生ぬるい手段で、

未来を歴史という形の知識で、自分の存在総てをかけて、その未来を捻じ曲げた。

その事事態に後悔は無い。

そうしなければきっと、もっと後悔する羽目になっていたと思うから、

 

 

 

 

 

「・・・・・お兄さんは、あの時、自分がどうなるか、知っていたんですよね?」

 

チクッ

 

風の静かな言葉が、俺の心の奥深くに染み渡る。

俺がこの世界に来て、魏の誰もが聞かなかった事、華琳でさえ・・・・・・・・いや、聞けなかった事だろう。

俺の考えていた事など、きっと皆にはお見通しだろうし、それを言葉にすれば、傷つく事しかならないと知っているから-------------------------------

でも、風は、それをあえて口にした。

必要な事だと・・・・・・それが、あの時風達に黙って消える事となった、俺の罪のけじめだと・・・・・・

 

「たぶん、皆と一緒だよ。

 俺の出来る事総てをかけて、華琳を勝たせたかった。 皆を守りたかった。

 本来なら、俺の識る歴史では、あの戦いは魏の敗北で終わっていたんだ。

 その後、華琳・・・・いや曹操は苦難の道を歩む事になるんだ。

 それでも、曹操は諦める事をせず、力を蓄え、己の夢を邁進し続けるんだ。

 それでも、其処に至るまでに、多くのものを、失った事に変わりは無い」

「お兄さんの世界でも、華琳様は、華琳様らしいのですね」

「ああ、力溢れる人物だったらしい。

 もっとも、俺の世界の曹操は髭面の大漢だったらしいけどね」

「・・・・・・それは、華琳様に言わないほうが、いいと思うのですよ」

「・・・・・・実は以前言ったら」

 

『 そんな不漢と、私を一緒にするなんて、一刀そんなに死にたいの?』

 

「と、腹に思いっきり、膝を入れられた」

 

俺の言葉に風は、大きく溜息を吐いて

 

「お兄さんは、時々英雄並みの苦渋の選択をするのです」

「・・・・・・いや、そんなものをしたつもりは無いんだけど」

「・・・・・・」

 

風は、俺の言葉に、再び溜息を吐いて、静かに俺の言葉を待つ

そうだよな、俺から言わなければ

 

「風、やっぱり皆怒ってるんだ」

「当たり前なのです。

 風達が、お兄さんの立場だったら、きっとお兄さんと同じように、自分の存在をかけて華琳様を勝たせたの

 です。

 でも、風達が怒っているのは、それを、お兄さんが隠していた事です。

 最期まで、何も言ってくれなかった事が、・・・・・・・・とても悲しかったのですよ」

 

何時もの淡々とした口調ではない。

宝譿に代弁させる事も無く、ゆっくりとだが、確かな感情の篭った言葉が、

俺の耳に、心に染み込んで行く、

俺は、それを黙って受け止める事しか出来ない。

これは俺の罪、

俺の業

そして、俺を責めて見せる事で、俺の心を軽くするための風の優しさだから・・・・・・

 

「ごめん、・・・・・・でも、言えなかった。そして、言う訳にもいかなかった。」

「知っているのです。

 お兄さんの想いが分かるから、余計悲しかったですし、 その事で、お兄さんを責めれないのです。

 でも、こればかりは、いつまでも、黙っているわけには行かないのですよー」

「ああ、分かっている、今度皆にあったら、一人一人俺から謝っておくよ。

 それと、風、ありがとう」

「むふふふーー」

 

俺の謝罪の言葉と礼に、風は、満足げに、目をつぶって笑ってみせる。

これで、この件の話は終わりと言わんばかりに、

 

・・・・・・本当は、色々言いたい事はあるんだろう。

当たり前だ。

俺はあの時、みんなの想いを知っていながら、

皆が悲しむ事を知っていながら、

それを無視して、黙っていたのだ。

本当なら、知らせるべき関係にあったと言うのにっ、

あの時の俺の状態を、待ち受けるであろう運命を、知る事で悲しむ顔を見たくないと、俺の我儘を通したんだ。

 

だが現実は、俺の想像と違っていた。

あのまま消えてなくなると思っていた俺は、もとの世界に戻り、

色々在ったが、俺はこうして帰って来れた。

なら、謝らないといけない。

本来なら罵倒され、殴られてもおかしくない事を、俺はしたんだ。

皆は、なんやかんやと優しいから、その事を何も言わない。

でも、これからずっと皆と生きていくつもりなら、その事は謝らなければいけない。

きっと皆、何を今更そんな下らない事でと、言うだろう。

 

 

 

 

 

華琳は、気付いていた例外としても、それでも俺の気持ちを察して、

 

『一刀、今更そんな事蒸し返して、態々私を怒らせたいなんて、どんな罰が良いかしら』

 

と、怒って見せるだろう

他のみんなは、

 

『北郷、お前に今更、女心を解かれとは言わん。

 だが、家族として、つけるべきけじめはあったはずだ。』

 

『貴様っーーー! あの時はよくも、私はともかく、皆を泣かせるような真似をしてくれたなっ!

 我が剣の錆びにと言いたい所だが、態々謝りに来たのだ。

 貴様の軟弱さを、一度徹底的に鍛えなおしてやるくらいで勘弁してやろう。

 さぁかかって来いっ! 来ぬなら、こちらから行くぞっ!』

 

『ふんっ、これだから、男って嫌なのよ。

 自分勝手で、我侭で、此方の気持ちなんて考えずに、勝手に格好つけて、勘違いを押し付ける最低極まりな

 い生き物よ、塵よ塵っ!

 大体、黙って消える事が、どこが格好いいって言うのよ、後始末が大変なだけじゃないっ。

 ただでさえ気落ちしている所に仕事ばかり増えて、堪らないわ

 ・・・・・・って、あんたの事じゃないわよっ!

 華琳様の事よっ!勘違いしないでよねっ!私はあんたの事なんてなんとも思っていないんだからっ!

 いから、私のところなんかに来ないで、とっととみんなに謝って来なさいっ!』

 

『一刀の気持ちは、よー分かる。 うちかて、きっと言えへん。

 でもな、矛盾しているかも知れへんけど、はっきり言っとく、次は、な・い・でっ

 その足叩き斬ってでも、逃がさへんからな、よう覚えとき』

 

『兄ちゃん、もう勝手にいなくなるなんてこと無いんだよね。じゃあもう心配ないよね』

『兄様、兄様がこうして謝りに来られただけで十分です。

 でも、もしあのような事があるなら、今度は必ず話してください。約束ですよ』

 

『隊長が決めた事です。 私は隊長を信じます。

 ・・・・ただ、隊長に話してもらえない自分が、あれほど自分が情けないと思ったことは、ありませんでした』『そやなー、隊長はんの気持ちは分からないでもないけど、あの時はごっつい傷ついたでー、

 此処は、いつぞや張三姉妹を連れて行ったと言う高級料理店で、手を打ってもええでぇ』

『ああー、それなら、ついでに、新しいお洋服一式とかもつけて欲しいかなぁ』

『おお、ええなぁ』

『お、おい、真桜、沙和、あまり隊長に無理を・』

 

『一刀殿、貴殿の気持ちは分かりました。

 ですが他にやりようと言うものがあるはずです。

 まだまだ学んでいただけなければいけませんね』

 

なんて、勝手な想像が浮かぶ。

でも、自己満足かもしれないけど、これからを楽しく生きるため、

後になって、後悔しないように、必要な事なんだと思う。

後回しにすればするほど、謝り辛くなる。

かと言って、出立前に謝れば、皆の喜びに水を差すだけだったろうし、皆を不安にさせるだけだったと思う。

だから、今回の旅から帰ってから言うのが、ちょうど良いのだと、風は言っているのだ。

 

 

 

 

 

むろん、それだけならば、魏へ向かう途中に言えば良いだけの事、

でもこのタイミングで風が話を振ったと言う事は、思い出しやすいと言う事もあったのだろうが、これから向かう呉について色々考えておけ、と言う事なんだろうな、きっと・・・・・・

あの戦いで、一番被害を受けたのは呉だ。

それ故に、あの戦いで、天の御遣いの虚名を世に知らしめた俺の立場は、呉では微妙なものになるに違いない。

蜀は王が王だけに、比較的穏かな雰囲気だったが、呉ではそうは行かないだろう。

家族意識が強いと言えば聞こえは良いが、

見方を変えれば、閉鎖的で、余所者には厳しいお国柄とも取れる。

雪蓮は気さくな感じに見えるが、どこまでが本当か分からないし、

宴の時も、雪蓮以外は、冷たい、何処か警戒するような目で、俺を見ていた節があった。

華琳が意図的に広めた噂や、あの戦での事で、きっと過大評価をしているに違いないが、過大評価は必ずしも、此方にとって良い事とは限らない。

 

風は、きっとその事を言っているのだろう。

ましてや、俺はこの世界の礼儀作法をはじめ、高位の文官として身に付けていなければいけない物を、禄に身に付けていない。

もっとも、俺が天の世界の人間と言う事で、世間知らずで通せるし、同盟関係を気付いているから、その事で強く言ってくる事はないだろうが、機嫌を損ね無いに越した事はない。

一応、文官の勉強の一環として、風や稟達に学んで来てはいたが、仕事の合間に学んでいる程度では、早々身に付くようなものでは・・・・・・・・と言うか、自分でやってて違和感有りまくりなんだよな・・・・

儒教社会の考え方なんて、幾ら武道をやってたと言っても、現代日本で暮らした俺にとっては、そう簡単に馴染めるものではない。

生まれた時から、それが当たり前のようにしてきた人達からしたら、五常や五倫はできて当然だろうし、そうあろうとするのだろう。

まぁ風達に言わせれば、五常は礼儀以外は、そこそこ出来ているらしいが・・・・・・・・実感は沸かない。

五倫は・・・・・・最初の父子のところで、もう、俺にはその資格は無い。

家族を捨てて、この世界に来ることを選んだ時点で、人間失格だ。

だが、この世界を選んだ事を悔やみはしない。

なら、俺が捨てた家族の為に出来る事は、俺を育ててくれた家族に恥じないよう、一生懸命生きる事だ。

親から授かった力一杯の愛情を、この世界で還していくだけだ。

・・・・・・・・なんだ、結局、やる事は変わらないじゃないか。

俺は、俺の出来る事をやっていくだけだ。

礼儀作法も、不器用ながら身に付けていけば良いだけだ。

笑われようが、蔑まされようが、やる事に変わりはないんだ。

なら、楽しんでやる事を考えるだけ、

そう思えるようになると、少しだけ心が軽くなる。

 

やっぱり風は凄い、あれだけの言葉で、俺にいろいろな事を教えてくれた。 導いてくれた。

いや、風だけではない、魏のみんな歴史に名を残す程凄い人達なんだ。

その皆から多くの事を学ぶ事が出来るなんて、よくよく考えたら、ものすごく贅沢な事なんではないだろうか?

だからと言って、学ぶ者が幸せとは限らないが、少なくとも俺にとって、皆と居れる事は至福の時である事には違いない。

俺は、学んだはずだろ?

現状維持に満足しているようでは、現状維持すら難しいと、

風達は教えても無駄な事を、教えるような無意味な真似はしない。

俺がこの世界で、警備隊長として、文官として、天の御遣いとして、生きていくのに大切な事を教えてくれているんだ。

きっと、呉では今まで、学んだ事なんて役には立たないだろう。

蜀でだって、禄に生かせなかった。

それは学んだ事が身についていない証拠。

学んだ事を生かせるように心構えていない証拠とも取れるかもしれない。

だからこそ、風は集中して教える事のできる船旅を選んだんだ。

呉に向けてではない。

その先にあるであろう、本当に必要なときの為に、

風が一体どんな未来を想定しているかは分からない。

だが、風の俺のためと言う心は信じられる。

なら、その厚意を、これ以上無碍には出来ないよな、

 

そう思い至たり、風をあらためて見ると、

俺の眼を見て、さっきより満足げに笑みを浮かべている。

まったく、どこまで俺は風の掌にいるんだか・・・・・・我ながら、自分の情けなさに呆れる。

怠業か・・・・・・確かにそうだな、この世界に戻ってくる前は、それこそ必死だった。

でも、本当に必死になって勉強しなければいけないのは、この世界の事なんだ。

もう今更、風の勉強から逃れようとは思わない。

せっかく学べる機会があるんだ。

なら、学ぶ事を楽しむだけだ。

 

だが、俺にもちっぽけながらプライドがある。

こうも風の良いようにされている、と言うのも少し面白くない。

なら、せめて、今夜は少し仕返しの意味も籠めて、

 

「むふふふふー」

 

今夜の悪巧みを考えていると、風のそんな楽しげな笑い声が耳に入り、

ある考えが、おれの背中を伝う汗と共に浮かび、戦慄を覚えた。

 

・・・・・・・・あの、風? もしかして、これも計算のうちですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

こんにちは、うたまるです。

久々の、『想いの果て・・・』の投稿となりました。

別に忘れていたわけではないです。

『舞い踊る・・・』の方が、有る程度、切りの良い所まで持っていきたかったのがあったからです。

(もちろん、いいわけですw)

 

今回は、呉に到着するまでに、一刀のこの世界に対する想いを書いておきたかったからです。

一刀は一刀なりに、色々想う所が在ったと思います。

ですが、急がしい日々を過ごす事となり、落ち着いて考える余裕が無かったと思います。

 

蜀では、一刀が皆の悩みや歪みを解決してきましたが、今話では風が一刀の歪みの一つを解決する手助けをする話となりました。

さて、次回は、とうとう呉に到着します。

前回のあとがきで、宣言したような事態が、一刀を巻き込みます。

どうか最後までお付き合いの程お願いいたします。


 
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