No.127851

ロマーノと悪友4【腐】

けんざきさん

・APH
・4話目
・消失

2010-03-03 15:29:20 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2651   閲覧ユーザー数:2624

ロマーノと悪友

 

 ヴェネチアーノと暮らすようになって、ロマーノの体調はいくらか回復していった。無くなった味覚が戻るぐらいには。ヴェネチアーノが本心で、必要としてくれたのか、彼が作る美味しい料理のおかげか。

「畑に行ってくる」

「ヴェー、行ってらっしゃい」

 ちょうどトマトの収穫時期だ。一つ取って、服の裾で拭いて口に運ぶ。

「うん。さすが、俺だな」

 今年の格別に甘い。甘い中にも酸味がちゃんと生きている。今まで、一番良い出来かもしれない。消える前にこんな美味しい物を作れて良かったと思う。

 二人分にはしては多いが、収穫出来る分は収穫してしまう。余った物は、お世話になっている人にお裾分けをすれば良い。籠に入るギリギリの所まで入れて、家に戻ることにした。

 畑側に面した裏口のドアを開けると、ヴェネチアーノ以外の男の声が聞こえた。

「イタちゃん、かわええわぁ。なんで、こんなにかわええのやろ」

「おい、スペイン、早くお兄さんに変わってよ。ハァハァ」

「イタちゃーん、ジャガイモどこ?」

 もうすでに見慣れた、フランス、スペイン、プロイセンがヴェネチアーノを囲むように話している。スペインに至っては、後ろから抱きついていた。

 ロマーノの家に来ても結局用があるのは、ヴェネチアーノ。最初に声をかけるのも可愛がるのもヴェネチアーノが最初。時間が経った後、思い出したかのようにロマーノを可愛がる。それが、何千回も繰り返されれば、もう何も感じることはない。ただ当たり前のように風景として、ロマーノの目には映った。

 見つからないように、そっと、キッチンに籠を置き、ロマーノは自室のベッドに横になる。さっきまでは、上手くトマトを育てられた自分を褒めていた筈なのに、今は自分が嫌で嫌で仕方がない。何が嫌なのかも分からない。ただ、こういう事が今までにも何度もあった。だから、これもいずれ、風景と同じになる。感じなくなる。

 いや、きっと、何も感じなくなる頃に自分は、もうこの世界には居ないじゃないかと、ロマーノは思っている。心が壊れる前に身体が壊れる。

 

「戻って来たらな、挨拶ぐらいしに来いよな」

「……なんだよ、ジャガ芋2号」

「いやいや、俺様の方がお兄様だから」

 肩を揺らされて、ゆっくり目を開けてみると、ギルベルトが居た。ベッドに腰をかけている。

「イタちゃんが、昼飯くえって」

「イラねぇ。お前、食っといて」

 そう言い、目を閉じる。食欲は無い。今、食べたら確実にもどす。

「スペインが、褒めてたぞ。トマトがうまいって」

「あっそ」

 トマトがうまいのは、今に始まったことじゃない。うまくなかったら、ここまで広まらなかっただろう。それに、スペインは、大抵どのトマトを食べてもうまいと言っている。

「飯ぐらいちゃんと食わないと、消えちまうぞ」

「もう、消えかけてんだから良いんだよ」

 一度消えかけたプロイセンになら分かるだろう。ここまで来たら、どうしようもないことを。統一された以上、国は一つだ。どんなに文化が違っていてもそれは変わらない。

「俺様は、偉いからな。芋食ってたら、消えなかったんだぜ。だから、お前もトマト食って来いよ」

「そんな時期、とっくに過ぎたっつうの」

 どんなに頑張ってもどうしようもないことが、沢山ある。頑張った結果が必ず良い物になるとは、限らない。

「……イタリアには、俺はいらない。ただ、それだけだろ」

 プロイセンのように必要とされなかったら、後は消えるだけだ。だいたいプロイセンの方が、例外だ。どんなに力あった奴でも、国でなくなった時点で消える。ローマ帝国のように。

「なあ、ロマーノ。お前、未練とかないのか?」

「ない」

 唯一の未練だったトマトは、無事に食べる事が出来た。これ以上、ここに留まることは無い。

「そっか」

「おい、やめろよ」

 髪をぐちゃぐちゃに撫でられ、抵抗するために目を開けた。

「え、気持ち悪いぞ。その顔」

「何々、格好良すぎて、鼻血が出そうだって? 出せ出せ。盛大に出せ」

 優しく、慈しめるような、表情。ぐちゃぐちゃになった、髪は丁寧に直して行く。

「もし、あっちの世界で、親父にあったらよろしく言っといてな。あと、ゴメンって」

「誰が言うかよ。それに、お前の親父なんてしらねぇ」

「ケセセセ。それもそうだ」

 直し終わったのか、最後に頭をポンポンと軽く叩かれた。

「帰る時ぐらいには、顔出せよ。じゃないと、スペインが、泣き出すからな」

 そう言って部屋から、出ていった。

「ウルセー。そんなの俺の自由だ」

 

 

「帰るのか?」

 目が覚めて、水を飲むためにキッチンに行くと、スペイン達は帰る支度を初めていた。てっきり、夜までいると思っていたから、意外だ。

「ロマーノ! もう、具合はええの?」

「ああ、それなりに」

 額に手を当てて熱を計るスペイン。

「うーん、なんや、熱いちゅうか冷たすぎへん?」

「気のせいだろう」

「気のせいちゃうもん。親分の熱、分けたるで」

「……離せ」

 抱きついて来るスペイン。ロマーノは、抵抗せず言葉だけで、反抗する。

「アカンよ。具合悪いのに、薄着で居ちゃ」

 スペインの体温は、服を着ている上からでも分かる。暖かくて、全てがどうだってよくなる。

 ロマーノは、このまま消えることが出来たら、それが一番いい幸せのように感じて仕方がなかった。

「ロマーノ、聞いとる?」

「ああ。聞いてるから、離せ」

 だが、このままではいけない。消えるなら、誰も居ない所で、静かに消えるのが一番だ。特に、スペインには消える所を見せたくない。誰よりもロマーノに愛情と時間を費やしたのは、間違いなく彼だからだ。最後ぐらい迷惑をかけたくない。

「ほら、早く帰るよ。今度は、ロマーノが元気な時に遊びに来るからね」

「もう、そんなにせかさんといて」

 力が弱くなかった所を見計らって、フランスが声をかけた。

「イタちゃん、飯旨かったぜ。今度は、俺様の家にご招待するぜ。ヴェストも喜ぶだろうしよ」

「ヴェ、楽しみにしてるね。フランス兄ちゃんもスペイン兄ちゃんも、今日はありがとう」

 別れの言葉を言いながら、玄関で見送る。三人は、車に乗り早々に行く。最後まで、スペインがようやく出てきたロマーノに構いたくて仕方がなかったが、そこは、悪友が、うまくたしなめた。

「兄ちゃん、大丈夫?」

 閉じられたドアを見つめたまま動かなくなったロマーノ。

「……寝る」

「ええ、起きたばっかりなのに!」

「うっせ。眠いから、寝るんだ」

 ヴェネチアーノが何か言っているが、ロマーノは聞こえないふりをして、部屋に戻った。

 

 ――――――もう少し、あと少し、あと、ナンニチ? なんビョウ?

 不安定な身体と心を抱きしめるように、また眠りにつく。

 


 
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