No.125702

バカップル観察日記

掘江弘己さん

ゆったりまったりいちゃいちゃな激甘仕様。
ユーノとなのはが同棲を始めた、という未来で展開される二人だけの時間。でもそこにはヴィヴィオもいて!?
原点に帰ってハートフルな安らぎを、あなたに。

2010-02-21 01:53:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2430   閲覧ユーザー数:2328

「まったく、ママもパパも……はぁ」

その日の夜も、ヴィヴィオは辟易していた。

「はいユーノ君、あーん」

「うん、いつ食べてもなのはの料理は美味しいね」

「そう? それじゃもう一口、どうぞ♪」

「あぁ、もう、なのはごと食べたくなっちゃうよ」

「だぁめ。ヴィヴィオが見てるよ」

 

終始、この調子である。『見てるよ』と口では言いつつも、さっぱり見ていない。

食事の最中くらい、封鎖領域を解除してくれてもいいんじゃないかと思う。

Aクラスの結界魔道師が以下に厄介か、身体で分かってきた自分が悲しい。

 

事件の後、色々あって二人は恋人になったらしい。

一度だけ、その時の話を聞いてみようと思ったが、果てしない長さののろけを貰ったので諦めた。

……が。

聞きたくないのに聞かされた。それはもう延々と、眠くなるまで、否、眠くなってもずっと。

その話は、いずれまたされるだろうから、今は思い出したくない──確かに良い話だけど、それ以上にいちゃつきすぎだ。

 

「ほら、ヴィヴィオも食べなよ」

「ヴィヴィオ、あーんしてあげようか?」

「もうっ、二人ともご飯の時くらいいちゃいちゃするのやめてよ!」

言っても無駄だろうが、取り敢えず提言する。

「ねぇ、ヴィヴィオ、ヴィヴィオには素敵な男の子とかいないの?」

「うんうん、僕となのはみたいに一緒に過ごす人はいないのかい?」

「な、な……」

開いた口が塞がらないとはこのことを言うのだろう、文字通り口がパクパクいって声が出ない。

「まだ見つからなくても、大丈夫だよ。わたしたちはお互いに9歳の頃知り合ったから」

「あれ、あの頃なのはまだ誕生日来てたっけ? この嘘つきさん」

「にゃはは、そういうユーノ君だって──」

 

頭が痛い。

 

「でもさ、なのはと僕が出会ったのって、ホント運命だよね」

「そうだね~。ヴィヴィオも、いつか運命の人が見つかると良いね」

「この僕でも見つかったんだから、ヴィヴィオならきっと大丈夫だよ」

「わたしよりも美人だもんねー、ヴィヴィオってば」

「なのは、君の方がキレイだよ」

「もう、ユーノ君なに言ってるのー」

この二人、いちゃいちゃするに飽き足らず娘の前でのろけたい放題……

「あー、ヴィヴィオむくれちゃってるよ」

「ヴィヴィオ、好きな男の子とかいないの?」

「……」

何とか口を閉じて、無言を突き通す。一種の抗議活動だった。

「ん~、図星でしょ!」

「そうか、ヴィヴィオもついに好きな男の子が見つかったのかぁ……でもお嫁に行くのは早い、まだ早いよ!」

「ユーノ君、それこそまだ早いよ」

「あはは、それもそうだね」

 

怒りともなんともいえないものが胸からこみ上げてきて、ヴィヴィオはテーブルを叩きつけた。

「ま、ま、ママたちのバカー!!」

思わず、口を突いて出てしまった言葉。

立ち上がって、そのままダイニングを後にする。

「あっ、ヴィヴィオ──」

後ろから声が聞こえたが、もうどうでもいい。

ドアをバタンと勢いよく閉めて、走り出す。

そして飛び上がるように階段を駆け抜けて、自室のベッドに突っ伏した。

「ママのバカ。パパの、バカ……」

ぼふっと枕に顔を埋めて、視界を遮る。

暗闇の中で浮かんでくるのは、笑ってる二人の顔。

でも、それは自分の方を向いていない。

 

「なんでそんなにいちゃいちゃしてるの? 私のことはどうでもいいの?」

もっと、自分を見てほしい。

二人だけの世界を作ってないで、三人で一緒にいたい。

仕事が忙しくて、二人が中々一緒にいられないのは、もちろん知っている。

でも、たまの休みだからこそ、三人がいい。

遊園地に行きたいとか、レストランで美味しいものを食べたいとか、そんなことはどうでもいい。

ただ、笑いながら手を繋いでいたい。それだけなのに。

それだけなのに、言葉が出ない。

「パパ……ママ……ひぐ、えっぐ」

涙が出てくる。止めたいのに、止まらない。

「パパぁ……ママぁ……うあああああああああん」

もう、ぐちゃぐちゃだ。何も分からないし、何も感じられない。

ただ、悲しかった。ただ、泣きたかった。

そして、誰かに受け止めてほしかった──

 

「ヴィヴィオ!」

泣き疲れて眠りそうになった頃、誰かが抱きしめてきた。

「ごめんね、ごめんね、ヴィヴィオ。わたしたちばっかり……」

頭がぼーっとしていて、誰なのかわからない。

「ヴィヴィオ、ごめん。ちょっと、ふざけすぎたよ」

ちょっとじゃないよ、と言おうとしたが、上手く舌が回らなかった。

「マ、マ……パ、パ……」

「ママはここにいるよ、ヴィヴィオ。ここにいるよ」

身体が温かい。"誰か"の体温が、伝わってくる。

「ママ……」

パパの声を聞こうとしたが、それは無理だった。

フッと、スイッチを切ったように、眠ってしまったからだった。

 

***

 

「明日、ヴィヴィオに謝っておかないとね」

「そうだね……」

所移り変わって、居間。

「はしゃぎ、過ぎてたね。ユーノ君と一緒にいられることを……ヴィヴィオのこと、ちっとも考えてあげられなかった」

「それは僕も一緒だよ。ヴィヴィオ、独りぼっちであんなに泣いて」

謝罪とも後悔ともつかぬ溜息が、場を支配する。

「ね、明日はさ」

なのはが提案する。

「ヴィヴィオを精一杯、可愛がろう?」

すると、待ってましたとばかりにユーノも同意した。

「たった今、それを言おうとしてたところだよ」

二人は顔を見合わせて笑い、そして互いに頷いた。

「明日は、ヴィヴィオの日だね」

 

次の日。

「ヴィヴィオー、ちょっと来て」

休みの朝早く、ヴィヴィオは起こされた。

「なぁに、ママ?」

「朝ご飯作るの、手伝ってちょうだい」

「うん」

ここまでは、普通のできごとだった。

しかし、次にママの言った言葉は、ヴィヴィオを大喜びさせるには十分だった。

「ママもパパも、たまにはヴィヴィオの朝ご飯、食べてみたいの」

「……うん!」

二人で作り始めるご飯は、何よりも素晴らしいスパイスだった。

「これ、ヴィヴィオが切った大根?」

「うん! えとね、こっちがママの切った大根で、こっちが私の!」

「へぇ~。うん、ヴィヴィオのはママよりも美味しいね」

「ホント! えへへ……」

 

掃除、洗濯、買い物。

そのどれ一つをとっても、必ずヴィヴィオの隣には二人がいた。

「一緒にシーツ広げようね、ヴィヴィオ」

ママと一緒に洗濯物を干して、

「ヴィヴィオ、これを戸棚に持って行って」

パパと一緒に洗い物をして、

「この二つ、どっちがお得かな、ヴィヴィオ?」

パパと、ママと、三人で買い物をして。

こんなに楽しい日は、なんと久しぶりなことか。

「ママ、パパ」

スーパーからの帰り道、二人に手をつながれながら、ヴィヴィオは言った。

「「どうしたの?」」

二人の声が綺麗にハモって、聞き返してくる。

ヴィヴィオは、元気一杯に答えた。

「だーいすき!」

 

その笑顔が両親をどんなにか涙ぐませたのかを、この時のヴィヴィオは知る由もないのだった。

 

夕飯のあと、三人で仲良くお風呂に入った。

「ママの髪、長くてキレイ。私も、もっと伸ばしたいな」

「ふふっ、じゃあヴィヴィオ、伸ばすの頑張ってみようか」

「うん!」

ママに髪を洗ってもらうのが、凄く気持ちいい。

代りに、シャンプーをいっぱいつけて、ママの髪も洗い返す。

しかし、

「僕は短いヴィヴィオも好きだけどなー」

とパパが言うものだから、ちょっと意地を張りたくなった。

「パパも、ママくらい髪伸ばせばいいのに」

「えー、あー、いやそれはちょっと……」

「はははっ」

「でもユーノ君、伸ばしてみても面白いかもね」

「もう、なのはまで」

皆で洗いっこしながらシャワーを浴びるだけなのに無性に楽しかったのは、気のせいではない。

絶対に、気のせいじゃない。

 

今日だけは、一緒のベッド。

二人が大きなベッドで一緒に寝てるから、そこに潜りこむのは簡単だった。

右手はママ。左手はパパ。

「えへへ、今日、私、とっても楽しかったよ。パパ、ママ!」

「そう? よかった……ごめんね、昨日は。ヴィヴィオのこと考えないで、わたしたちばっかり」

「僕もごめんね、ヴィヴィオ」

「ううん、いいの」

嫌いになったわけじゃない。いらない子じゃない。

「私は、パパと、ママと、一緒にいられるだけでいいの」

 

二人に挟まれて眠って、とても素敵な夢をみた。

それが何なのかは、ママにもパパにも、秘密だった。

 

***

 

数日後。

「ユーノ君、あーん」

「なのはも、あーん」

「……はぁ」

元の木阿弥、という訳ではない。

だが、それにしてもこの年中新婚カップル、どうにかならないものか。

「私の家のママとパパ、一緒にお風呂入ってるし、『あーん』ってやってるよ」

と学校の友達に言ったら、クラス中の笑いものになった。

曰く、「大人はそんなことしない」。

曰く、「いい年の父と母は一緒の風呂に入らない」。

色々なものが当たり前ではない場所に生きてきたから、カルチャーショックも大概だった。

 

そんな二人は、相も変わらずいちゃいちゃし続けている。

これを「バカップル」と呼ぶのだと知ったのは、ちょうどこの日だった。

「まったく、パパもママも……」

ただ、一つだけ言えることがある。

 

このバカップルが、ヴィヴィオは誰よりも好きなのだ。


 
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