No.1183993

熾天使・外伝 蒼の章 短編・機動兵器編

Blazさん

久しぶりの真面目な投稿ですよ。
ええ。今回は真面目です。……多分。きっと。めいびー

2026-03-13 23:09:10 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:20   閲覧ユーザー数:20

 

「旅団内におけるコンペティション」

 

 

 

 ―――楽園・団長クライシスの執務室

 

 楽園の中にある旅団長クライシスの仕事部屋。そこには部屋の主であるクライシスと、もう一人、この場に招かれた人物の姿があった。

 

 「……保有機体の更新と機種転換ですか」

 

 「ええ。いい機会なので、この際にとね」

 

 珍しくトレンチコートを脱いでシワのない白のカッターシャツを見せているクライシスは来客に対してもてなすためにコーヒーを入れている。ほんのりと香るコーヒーはゆったりと空気にのって部屋を満たすが、そんな香ばしい香りをしていても客人の顔は微塵も変わらない。

 特に、彼女、マリオン・ラドム博士ならなおの事だろう。

 

 「機動兵器の出撃が少なくなりつつも、新型や量産機の生産で総数が増えているのでね。一度、部隊の整備と再編を行おう、ということだ」

 

 「……まぁ、作るだけ作って既存の機体を放っておくのは確かによろしくはないですわね。格納庫も日増しに増設と布の山になっていますし」

 

 「耳の痛い話だ」

 

 サイフォンから香るコーヒーの香ばしい匂いが強くなるが、ラドムの顔はそれに関さず表情を変えることはない。

 クライシスもそれはわかっており、小さな失笑だけしか出てこない。

 

 「で? わざわざそんなことを話すためだけに私を呼んだわけではないのでしょう。クライシス団長」

 

 「もちろん。貴方が優れた機動兵器の開発技術者であることを見込んで、少し頼みをね」

 

 「思ってもいないおべっかを言われても嬉しくありませんわよ。本題は機種転換ですわね」

 

 ああ、とクライシスが頷くと振り返り、コーヒーカップを一つ。片手で握り、供えられたテーブルの上に置いた。ラドムは座りこそしないが、その厚意に甘えてなのかクライシスの手から離れてすぐに、カップの取っ手を握った。

 

 「旅団の大規模部隊再編計画。その一つとして機動兵器部隊の再編成を掲げている。そこで……」

 

 「機動兵器部隊用の新型量産機を作れ、と」

 

 「そうだ。とはいえ、ただ新型を生産すれば今までの機体が残り、そうなればまた我が団は大量の機体を抱え込むこととなって、二百式やokaka、竜神丸の顔が苦痛で歪むこととなるだろう」

 

 ……若干一名、果たしてそうなのか、と言いたいラドムは自然と沸き上がったツッコミを頭の隅においてクライシスの話を聞く。

 

 「だから、まずは再編のために現在運用されている機体の整理と運用目的の把握、それによるドクトリンの決定が急務だ。今、Blazらが行っているソレだな。それが完了し次第、既存保有機の中でドクトリンに沿わない機体は解体ないし他組織へ譲渡。保有機体数を調節する」

 

 「ずいぶんと贅沢なことですこと」

 

 「仕方ないことだ。解体するのは忍びないが、そのままで他の勢力へ横流しされるよりはマシだ。それに、他の組織との交渉材料にもなる」

 

 事実、クライシスの指示で既に解体が決定した機体がいくつか存在し、楽園内の工廠で分解作業がこの時点で始められている。各世界、勢力様々な機体群であるため作業は難航しているが、今後のことを考えるとまだ序の口だとクライシスは言う。

 一見すれば分解処理は作業が多いためあまり得策とは言えないかもしれない。だが、パーツの確保から次期主力機への流用、規格統一によるコスト削減など、考えられるメリットも多く、クライシスが言ったように組織内でなら最悪横流しの結末は免れる。廃棄処分をするよりは後々を考えてこちらを選択したのだろう。

 

 「保有機体の整備後、必要な機体および次期主力量産機の開発と生産を行う」

 

 「……ここまでは普通の流れですわね」

 

 「そうだな。だが、話はここからだ。問題はその次期主力機だ」

 

 現在、旅団で使用される量産機はP.D(鉄血の世界)の機体を中心にMS(モビルスーツ)がメインとなっている。そして、各ナンバーズがいる世界などから持ち込まれた機体を解析、量産した機体が脇を固め、その総数に拍車をかけている状態であることから、比率的に見てもMSが圧倒的だ。

 

 「現在、MSが我が団の主力を担っているが、その機体の特性上、量産はあまり向いていない。他の世界の機体より製造の時間がかかる」

 

 「あの世界の機体、ビーム兵器が全く使えないんでしたわね」

 

 「ああ。だから、生産数の制限とハイローミックスで運用している」

 

 P.Dの世界のMSは動力と機体装甲材の堅牢さから一定数が量産されているが、その動力の生産が問題で数はあまり揃ってはいない。なにより、元の世界ではビーム兵器が廃れており、実弾兵器と物理兵器が主となっているので、対策されやすいという問題点がある。

 これは鹵獲直後から団の中でも指摘されており、その結果、生産数の制限がかけられたという経緯がある。

 それなら量産の必要はないのでは……と思われるが、旅団の敵の数や他世界の兵器の武装から需要はあったため、一定数の生産が進められたという背景もあるのだ。

 

 「このまま運用するのは可能だが、もとより足並みが揃えられていないのは目に見えている。そこで……」

 

 「パーソナルトルーパーということですか?」

 

 「理にかなっているとは思うがね」

 

 MSが主力となっている中で例外的な立ち位置にいるのがBlazのいるクロガネ隊で、現在はMS以外の機動兵器とパイロットが集まる寄り合い所帯になっている。クロガネ隊の出身世界である新西暦世界ではMSではなくPT(パーソナルトルーパー)AM(アーマードモジュール)、特機など多種多様な機動兵器があるというのもあるが、それよりもそれを受け入れる懐の広さが、流れ着く理由になっている。

 

 「私たちの世界では今でも質量兵器とビーム兵器はあります。でも、それは他の世界の兵器でも言えた話でないなくて?」

 

 「たしかに、MSのある世界やバルキリーの世界ではビーム兵器のみにならないように実弾の兵器も存在しているが、いずれも次第に脇を固める程度にまでなっている。それはウチにある機体もだ」

 

 旅団が他に保有している機動兵器は、戦闘機から派生した「バルキリー」小型・高機動性を誇る「KMF(ナイトメアフレーム)」現代技術から進歩した技術によって開発された「AS(アームスレイブ)」などで、その他にも戦術機などがあるが、現在はモスホールされている。

 これらの機動兵器はほとんどが実弾系の火器をメインに使用しているため、ビーム兵器主体の機動兵器となると、なるほどMSしか残らなくなる(バルキリーもビーム兵器はあるが)

 PTやAMもその点で言えば実弾主体なのだが、ビーム武装もあるためある意味では両立していると言えなくもない……が

 

 「言い訳に聞こえますわよ。本当に贅沢な悩みですわね」

 

 「これを贅沢ととるか、節操の無さかはさておくとして、この機会に戦力の刷新と更新は必須だ。事実、この前はひどい有り様だったからな」

 

 「ああ。C.Eの世界での出来事ですか」

 

 「あの時は被害を最小に食い止められたとはいえ、反時空管理局組織にMSが横流しされたという事実が浮き彫りになった。今回は105ダガー程度だったとはいえ、もしとなれば」

 

 「近頃はナンバーズも多忙ですからね。彼ら任せにならないようにするのは同意しますわ」

 

 ラドムはそういうとコーヒーを一気に口に流し込んで中身をすぐに空にした。元々長居する気もない彼女にとってはコーヒーの味などはどうでもよく、本音を言うならばすぐにでもこの場から離れたい一心だ。とはいえ、せめてもの礼儀は必要とばかりに、飲み干したカップをテーブルに置くと、得意げな笑みを浮かべて言葉を紡いだ。

 

 「まぁ、私も好きにやらせてもらっているのですから、そろそろ成果物提出は必要ですわね。その件、引き受けますわ」

 

 「頼む。そちらの成果も楽しみにしているよ」

 

 長居する必要もないと執務室のドアに向かったラドムはノブに手をかけると、ふと脳裏に過ったことを口にする。

 

 「……最後にひとつ。貴方が以前使っていた機体、あれはどうなのです」

 

 旅団の原点と言える存在であるアーマードコア・ネクストことネクストACは現在、団長命令により全機が専用区画にてパーツ込みで封印されている。

 ACを語る上で、いや、そもそもあの機体を語ることはそう必要なことではない。

 とはいえ、この場では少なくともラドムが気にする程度には必要だったようだが

 

「ネクストか。あれは……一つの時代だ」

 

その言葉を最後に、クライシスはそれ以上、なにも口にしなかった。

 

 

 

 

 

 

 「量産機のコンペだぁ!?」

 

 場所は変わり、クロガネ艦内のブリーフィングルームでは集まったクロガネ隊の面々がこれまた帰ってきたラドムから返ってきた言葉に耳と目を疑う。

 特に驚いたのがクロガネ隊のメンバーでもあるBlazで、彼はラドムがクライシスから言われたことそのままを聞き、その言葉を疑う。

 

 「マジで何考えてんだ、団長のヤツ……」

 

 「さぁ? とはいえ、これは団長が決めたこと。次期主力機を決めるコンペディションと、そのためのトライアルを行うそうです」

 

 「はぁ……」

 

 開いた口のふさがらないBlazはしばらく呆然としているが、彼だけが話を聞いているわけではないため、パイロットたちが小声で話したりしてそれぞれ議論をしている。その中で、クロガネ隊の実質的なリーダーであるレーツェルが口を開く。

 

 「我々、いや。新西暦側からも機体を?」

 

 「ええ。戦術オプションの拡充のためにAMやPTはうってつけだそうです。特に、今ここでやっている【ファントムパーティ・プラン】が目に留まった様子でしたし」

 

 ファントムパーティ・プランとは、ゲシュペンストの近代化改修計画【ハロウィン・プラン】の派生プロジェクトで、ゲシュペンストではなく、その改造機であるゲシュテルベンをベースに複数の換装パーツを製造、組み合わせることで戦術の幅を広げるというものだ。機体への換装を上下半身の最低限にすることで換装時間や性能向上による操作性の違いの最小限化、コストカットを実現しており、既にベース機を含めいくつかの換装パーツがクロガネ隊の中で製造、テストが行われている。

 

 「ATX-A計画(博士の趣味)じゃないだけマシか」

 

 一方、ATX-A計画はBlazが悪態をついたように、ラドムの趣味がやや(・・)前面に押し出たプロジェクトで、ATX計画の開発機であるアルトアイゼン、ヴァイスリッターなどの機体の派生や改修プランの模索がコンセプトとなっている。

 この時点でヴァイスの派生機が製造されており、アルトの方はまだ図面段階となっている。

 

 「趣味なものですか。あれはれっきとした開発計画です」

 

 「企画から予算と実行まで全部ひとりでやってる時点で計画って言えるか!!」

 

 しかも、これを数日で完成からの提出というスピードなのだから、これを私的理由からの情熱と言われてもなんら不思議ではない。ラドムにその気がどこまであるのかは一同にもわからないが、少なくとも私情が入っているだろう、という意見だけは一致している。

 訂正する部分に対してのツッコミを入れるBlazを横に、レーツェルが冷静に質問を続ける。

 

 「では、機体はゲシュペンストを?」

 

 「いいえ。ヒュッケバイン系とリオン系をトライアルにかけます」

 

 話の流れからゲシュペンストかゲシュテルベンをコンペディションに提出する。そう思われたが、ラドムから出た言葉にBlazを含め、一同が驚愕する。

 トライアルに出されるのは、彼女が一切手掛けていない機体シリーズであるからだ。

 

 「意外ですね、てっきりゲシュペンストを出すと思いました」

 

 「私も本来はそうしたいのですが、いかんせんベース機が不足しています」

 

 横からユウキ・ジェグナンが会話に加わり、ラドムが自分の手掛けた機体シリーズを出さない理由を聞く。ラドムのいう通り、実は旅団およびクロガネ隊で保有しているゲシュシリーズには限りがあり、それも今は不足しがちになっている。

 その理由はラドムが目線を向けた先にあり、レーツェルとユウキが目を向けた先にはBlazの姿がある。当人は自分に目が向けられると、同時に言われた嫌みにも反応した。

 

 「まぁ、原因はそこなナンバーズさんのご友人のせいですが」

 

 「俺かよ……」

 

 今から数日前、FP(ファントムパーティ)・プランのテストを行うため、専用で製造されたゲシュテルベン4機の内、3機が損傷した。そのうち、2・4号機は大破レベルの損傷だったためにクロガネ隊の専用基地でのオーバーホール行き。それ以前に修理中だった3号機は難を逃れ、1号機のみ即時稼働可能な状態にまで修復された。

 

 「別にあなた1人のせいではなくてよ。他2人の扱いが雑なのも事実ですので」

 

 「……二百式が聞いたらどんな顔するやら」

 

 1号機に搭乗していたのはBlazで2号機に支配人、4号機は二百式が乗っていたのだが、2号機、支配人はテスト中に3人が遭遇したトラブルで機体が大破(パイロットの支配人は無事だった)、4号機の二百式にいたっては、パイロットの無茶で機体の電装系が損傷。可動不能となり、内装をすべて引っ張り出しての修理となった。

 

 「仕方ないでしょうに。誰もあの次元転移は予想できなかったんだから」

 

 「それは仕方がないにしても、もうちょっと扱ってくれませんこと? 4号機は機器類から黒煙が出ていたレベルなのですよ」

 

 「それは、二百式だからとしか言えねえしなぁ……」

 

 いずれにせよ、テストベッドの機体が軒並み使用不可なので、これ以上の消耗を避けるためにゲシュテルベンは本来のテストのみに運用されることとなり、残る量産機種はヒュッケバインとリオンの2種で、トライアルも実施されることから次世代機開発ノウハウの蓄積のために機体の草案が提出されることとなった。ゲシュテルベンの再生産は可能だが、元々の運用目的と汎用性と操作性の面から選ばれたのがもう一つの理由だ、と後にラドムが歯ぎしりとともに語った。

 

 

 

 ♢

 

 

 

 ミーティングを終えた一同は自由解散していくが、そこへゼンガーがBlazを訪ねてくる。

 

 「……Blaz、ひとつ確認したい」

 

 「なんすか、ゼンガー少佐」

 

 「うむ。ヴァイスの派生機だが、アレの引き取り手が決まっているというのは本当か」

 

 ゼンガーの言葉を横で聞いていたカーラが、目を丸くして驚く。彼女も話は聞いていたので、それの乗り手候補が現れたことには驚きを隠せないでいた。

 

 「え、あの機体、誰か使うの?」

 

 「聞いた話ではディアーリーズのサポートメンバーらしいが」

 

 ディアーリーズのサポートメンバーといえば、そのほとんどが彼を愛する者たち(ハーレムという名の修羅場)の集まりだが、生身の戦闘ならまだしも機動兵器に乗るという話は聞いたことがない。

 それはゼンガーも、まして話を振られたBlazも同じで頭を掻くと「ええ」と答えて事情を説明する。

 

 「アスナのヤツが使いたいって言ってきたんスよ。なんでも、アイツの機体速度に追いつくのをって、方々探してたみたいで。モビルスーツの方じゃ良いのなかったってんで、こっちに来たそうです」

 

 「……そうか。訓練は」

 

 「既に博士が主導で。近々、用事もかねて新西暦の世界に戻るんで、伊豆に預けるかもって」

 

 Blazの言葉にゼンガーは「ふむ」と顎に手を置く。

 新西暦世界の伊豆には連邦軍の大型基地があり、その規模は新西暦世界でも大規模なもののひとつだ。クロガネのようなスペースノア級を寄港できる数少ない場所でもあり、それだけに多くの人員、機動兵器が保有されており、SRX計画のような新型機動兵器の開発計画の本拠地にもなっている。

 また、クロガネ隊の面々としても知らぬ相手どころか戦友ともいえる人物が多く所属しているので、アスナが預けられる場所という点では文句のつけようもなかった。

 

 「ということはカイ少佐の下(特殊戦技教導隊)にか」

 

 「んにゃ、聞いた限りイルム少佐(PTXチーム)預かりらしいっス」

 

 預かる人物の名を聞いてゼンガーの顔が少しだがしかめっ面になる。疑問はもっともで、それは言い出したBlazも同じだった。

 伊豆基地に所属している部隊で、外部協力者が所属、預かるとなればSRXチームのような特殊性の強いチームを除けば同基地を本拠地としている特殊戦技教導隊に預けられるのが筋だ。しかし、Blazが挙げたのはPTXチームという全く別の部隊で、所属しているメンバーこそ顔見知りなれど預ける理由が見つからなかった。

 少なくとも、Blazからの説明があるまでは。

 

 「元は教導隊預かりの予定でしたけど、全員任務で出払うし、まとめ役のカイ少佐は多忙なんでって断られたんスよ」

 

 「断られた?」

 

 「ええ。あとで聞いた感じ、断ったのは少佐本人じゃなくて基地司令、ひいては統合参謀本部らしいっスよ」

 

 本来なら基地司令レベルで済むはずの話にその上の統合参謀本部の名前が出てくることにゼンガーの目はさらに細く、鋭くなる。

 

 「新人パイロットの教育で統合本部が遮る……か」

 

 「また、向こうでの問題……ですかね」

 

 「だろうな。おそらく鋼龍戦隊絡みか」

 

 いずれにしても些細なことで上層部からの圧がかかるのは明らかにおかしい。異変の兆候とも言うべきこの出来事は、後、すぐさま部隊に共有されることとなる。クロガネ隊の今後の方針にも関わることであるが、何より特定個人を狙ったようで旅団とも関わりがあるように思えてならないからだ。

 事実。この後、新西暦の世界でひと騒動あるのだが、それはまた別の話となる。

 

「アスナちゃんってあの子だよね、レイピア使ってた。あの子って機動兵器動かせるの?」

 

「微妙なラインっすね。ディアみたいに経験を積んでじゃないんで……」

 

 ゼンガーとの話に続き、今度はカーラが率直な質問を投げかける。人型機動兵器の操縦が生半可な物でないのはこの場の人間なら言うに及ばず。それを経験ゼロの少女が動かそうという話なのだ、そもそもの質問に対しBlazは全部を見たわけではない、と枕を置きながら説明をする。彼がこうも答えられるのはもちろん、先ほどの訓練の話が絡んでくる。

 アスナの操縦訓練ということで、ディアーリーズはもちろん、現在機動兵器を運用しているナンバーズには優先的に情報が共有・開示される。Blazもナンバーズであるため見たい時に見れる。

 

「車とはワケ違うから、あとは肉体頼みになるんで……ま、ステゴロは言うまでもなくなんて問題ないんですが、あとは典型的な感覚の齟齬ってヤツっすね」

 

「あー……なるほど」

 

 人型機動兵器の操縦におけるパイロットの初期課題として、機体からのGに対する耐性と感覚のズレが挙げられる。前者は人型でなくても戦闘機でも必要とされるスキルで、これがなければ戦闘機に乗ることすら難しい。特に新西暦の世界では戦闘機からの発展としてAMが開発されたのを鑑みれば、耐Gは標準適性と言ってもいいだろう。

 それとは別に、もう一つ。後者である感覚のズレは操縦することで生じる問題だ。車などの車両ならいざ知らず、人型機動兵器は操縦することで人のような動きをすることができるのは言うまでもない。それがやがて自分の意のままに操れれば、いいが問題はその過程だ。

 人が人として振舞えるのは脳から信号が発信され、それが筋肉等に作用し動く……というのは当然の話だが、機動兵器となればさらに「操縦」というプロセスが割り込まれる。そうなると、どうしても感覚や動作は車両系のものではない、普段の動きをベースとしたものとなる。

 

 「リオン系ならいいけど、いきなりヒュッケやゲシュはちょっとキツイんじゃない?」

 

 「俺もそう思ったんすけど、リオン系は足早すぎて逆に使いづらいって苦情あったらしいんすよ」

 

 そのため新西暦の世界ではまず人型の機動兵器を開発するとともに戦闘機からの派生としてAMのリオン系が完成された。操縦感覚が戦闘機に近いことが機種転換及び習熟度の早期向上に役立ったと言われている。

 

 「……あの子、意外と難しいのね」

 

 「贅沢な悩みってヤツっすよ」

 

 しかし、肉弾戦を行えるアスナからすれば、リオンの直線的な機動やそもそも人型の動きは亀の動きに等しい。彼女の要望を叶えるには最低でも当人の反応速度についてこれるMMIと機体ポテンシャルを持った高機動機が最適であると判断されたのだ。

 

 「なら、それこそゼンガー少佐のようなダイレクトフィードバックの方がよかったんじゃ……?」

 

 そこにさらに横から聞いていたユウキが加わり、量産機などにこだわらなければ別の選択肢があっただろう意見を提示する。それにはBlazもうなずいたほどだ。

 機動兵器だからといってレバーやボタン等で操縦するだけではない。専用のアタッチメントを装着して機体内で動き、それを機体が真似て動くというシステムは既に存在しており、それこそゼンガーの機体であるダイゼンガーやアクセルのソウルゲインがそれに該当する。他にもモビルトレースシステムもあるが、今回は割愛するとしても、その選択もあったのは事実だ。

 

 「……なんかエロいスーツ着させられるって嫌がったらしいんすよ」

 

 「……はぁ?」

 

 が、どういった偏見なのか、そんな理由でダイレクト型の機体に乗らないことを宣言したらしく、結局、従来型の機体操縦方法となったのだという。

 それを聞いたユウキ、カーラだけでなく口にしたBlazも呆れるほかない。

 

 「……着なければならないのか?」

 

 「少佐、それマジで言ってます?」

 

 

 

 ♢

 

 

 

 その後。旅団に所属する技術者陣は各出身世界に分かれ機体の設計を開始。ラドムら新西暦世界を含め3つの陣営が名乗りをあげた。

 

 度重なる戦乱によって黎明からの頂点を経験した宇宙世紀。

 

 多様性こそU.C世界に劣るものの、単体の高性能さを誇るコズミック・イラ。

 

 そして、地球外の技術を取り入れ、早期に単独飛行が可能となった新西暦。

 

 新西暦世界の開発陣はヒュッケバイン系列とリオン系列を提出。ゲシュペンストおよびゲシュテルベン系は少数生産前提の機体として設計したため提出を見送ることとした。

 同時期、U.C世界陣はジェガン系を、C.E世界陣はザク系を。その後、ムラサメ系の近代化改修機を追加で提出した。

 最終的な判断は団長を中心に旅団の機動兵器運営にかかわるメンバーにゆだねられるが、各陣営の機体スペックとコスト面から早期確定はできそうになく、トライアルに持ち込まれる可能性を示唆される。

 また、同時並行で各主要メンバー用やエース・指揮官機向けの機体開発・改修計画もスタート。新西暦世界ことクロガネ隊では「ATX-A計画」がスタートし、さっそく一号機がロールアウトする。

C.E世界開発陣は「MSVプロジェクト」を開始。ディアーリーズにテスターを依頼し、現在、機体の設計と改修を行っている。

 かくして。旅団保有機体の整備ならびに一新という大規模計画がスタートし、楽園内はまた騒がしくなっていく……が。そこに乗り遅れる人物が一人……

 

 

 

 

 

 某世界、地球・ディア宅 リビング

 

 「……おい」

 

 「んぅ? なによ」

 

 「お前、楽園には行かなくていいのか?」

 

 ディアーリーズの自宅では、ソファにくつろぐイザナミとテーブルで読書をするこなた。2人の姿だけがあり、そのほかは閑散としていた。その理由を知っているイザナミは死んだ目のように瞼を横一直線にだけ開かせ、こなたの様子を伺うが、当人は質問の意図がわからないのか、眉間にしわを寄せる。

 

 「……なによ。行ってほしいっていうの?」

 

 誰がそう言った。とイザナミは即答で返す。

 

「お前のことだ、てっきり負けじと向こうに籠るかと思ってたんだがな」

 

 「はぁ? どういう意味よそれ」

 

 ますます意味がわからないこなたは本から目を離し、イザナミの方へ目をむけたが当のイザナミはその反応に口元を釣り上げた。

 ああ、どうやら本当に……

 些細で滑稽、イザナミにとってはその程度のことだが、それがかえって彼女の中の愉悦心を揺さぶらせる。

 

 「……いや、知らんのならいい。ただの戯言だ」

 

 「ちょっと、それどういう……」

 

 不快だが気になってしまいこなたはイザナミに詰め寄るが、それを察知してかすぐに手元に置いていたポテチの袋を手に空間に干渉し、ごく短距離の転移を行う。

 逃げ出した、と認識しているこなたは「あっ!?」と声だけを漏らすと風のように消えたイザナミに怒りを露わにしつつ頭を掻きむしった。

 その様子をイザナミは別の場所からのぞき見ていたが、ふと、何かを思いつき考え込むようなしぐさを取る。

 

 「―――どれ。暇つぶしに見に行ってみるか」

 

 ―――この出来事から数日後。こなたがイザナミの言葉の意味を知って大慌てするのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 おまけ。

 

 

 打ち合わせ後、偶然にも楽園内工廠でアスナと遭遇したBlazとアクセル。話題はアスナが妙にこだわるパイロットスーツについてになり……

 

 アスナ「うーん……なんていうか、全身タイツじゃなかったらなんでもいいかなって」

 

 アクセル「なら普通のパイロットスーツを着ればいいだろう」

 

 アスナ「それが、私の合うサイズのがないって言われて……」

 

 Blaz「しゃーねーなぁ……ホレ、俺が保管してたの使え」

 

 アスナ「えー……アンタのってあの緑のダサ……え、ナニコレ」

 

 Blaz「耐圧服」

 

 アクセル「お前、それどこで手に入れた」

 

 Blaz「………。」

 

 アクセル「こっちを見ろ」

 

 

 

 この後、ディアのパイスーもメンテに出されたとかの理由でコレがロッカーに入ってたり。

 

 ディア「……なにこれ」

 

 Blaz「別にいいだろ? どっちもローラーで走行するんだから」

 

 ディア「いや、装甲とか動力とか違うから。っていうかアレATですから!」

 

 

 
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