No.118294

真・恋姫†無双~三国統一☆ハーレム√演義~ #20-3 洛陽の日常|華蝶仮面vs呉勇士/後編

四方多撲さん

第20話、後編です。
雪蓮がいつもオイシイ役なのは何故だろう? ぶっちゃけノリは時代劇ですw
仮面に隠した正義の心、悪党たちをぶっとばせ! 蜀END分岐アフター、正義の味方がいる限り、この世に悪は栄えない!

2010-01-13 00:31:29 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:34330   閲覧ユーザー数:24344

≪権力争い、光と闇の正義 ≫

 

 

『数え役萬☆姉妹』の大公演が終了した次の日。

 

「おーい、穏。休日なのにごめん。ちょっと訊きたいんだけど……」

 

そう言って、一刀は穏の私室を訪れていた。

今日、穏は休日で出仕する日でなかったのだが、彼女にしか分からない案件があった為、わざわざ出向いて来たのだ。

こういうときに相手を呼び出さず、自分が向かうというのが北郷一刀という男であった。

それはともかく、一刀は私室の扉をノックする。

 

「どうぞ~……」

 

どこかくぐもった声が返ってきた。少々不審に思いつつも扉を開け、中に入る。

 

「あのさ……」

「……どぉしたぁんですかぁ~、旦那様ぁ~~#」

「ひょえ!?」

 

そこにいたのは、今にも怒りを爆発させそうな、ぴりぴりした雰囲気を発する穏であった。

 

「どうしたって訊きたいのはこっちだよ!? 何があった!?」

 

普段が“のほほーん”としている彼女だからこそ、余計に緊迫した雰囲気に違和感を覚える。

というか、これ程に怒りの感情を隠せていない穏を一刀が見たのは初めてであった。

 

「…………うぅっ」

「の、穏?」

「うわあぁぁぁぁぁん! 旦那様ぁぁぁぁぁ!!」

「どわぁぁっ!?」

 

突如、穏が一刀に抱きついた。一刀には何がなにやら分からず、そのまま押し倒されてしまった。

 

「「…………」」

 

そして、開けっ放しだった扉の先、廊下からその様子を見ている、冥琳と桂花。

 

「い、いや、あのね?」

「……最っ低! いつか去勢してやる!」

「怖っ!? それは勘弁して! てか、宦官って皇帝になれないんじゃないの!?」

「ふんっ!」

 

桂花はそのまま立ち去っていった。本当に通りすがりだったようだ。

残った冥琳は眼鏡を指で押さえ、静かに言い放つ。

 

「で、北郷。言い訳を聞こうか」

「だ、だから! 穏に訊きたいことがあったんだけど、今日は穏が休日だったから、ちょっと尋ねに来たの! そしたら……」

「うあああぁぁぁぁぁん! 旦那様ぁぁぁぁぁ! こんなのってないですぅぅぅぅぅ!!」

「……だそうだが?#」

「お願いだから、俺にも分かるように泣いてぇ~~!?」

 

それはそれで無茶な注文である。

 

 

なんだかんだとあったものの、ようやく穏は落ち着いた。今はお茶を飲んで気を静めている。

 

「(俺が来たときには、もう怒ってたみたいなんだけど……)」

「(ふむ。となると、本人に訊くしかないな)」

 

「……ぷはぁ。……取り乱してしまい、申し訳ありませんでしたぁ……」

「う、うん。それはもういいんだけど……何があったんだい?」

「……これをお読み下されば、全て分かって戴けますぅ……」

 

そう言って、穏は一通の書状――手紙――を渡してきた。

一刀と冥琳は、それを受け取り、早速読む。

 

「「…………」」

 

手紙の差出人は、穏の実家である陸家から。内容は、単純に言えば、『正室の権力を使い、陸家から外戚(皇帝の妻の親類)として何人か王朝に仕官させろ』というものだった。

 

陸家は『呉郡の四姓』と呼ばれる有力豪族であり、陸遜こと穏はその傍系として生まれた。陸家は一時孫策・雪蓮と戦を交え敗北したことがあり、陸家と孫家は暫し対立関係にあった。しかし、穏が周瑜・冥琳に見出され、その弟子となっていたことと、陸家直系の陸績よりも年長であったことで陸家の家長となったことで、陸家は以後、孫呉の幕僚となったのである。

 

「穏は……穏は、これ程自分の家系を情けなく思ったことはないのですぅ~~~!!#」

 

穏はそれこそ“ハンカチを口で喰い千切りそうな”勢いで叫んだ。

 

「ま、まあまあ。自分の家から皇帝の正室が出れば、誰だって考えることだろう? そんなに怒らなくても……」

「それに、呉郡は昔から豪族の支配力の強い地域だ。中央集権化を進める『和』王朝に危機感があるのだろう」

「一応、陸家直系の陸績は仕官してるんだけどなぁ」

「陸績は自身の希望通り、“学者”として仕官しただろう。陸家が望んでいるのは“権力”だ。つまり、官僚として誰かを仕官させろ、ということだ」

「ああ、そういうことか。陸績なら官僚としても十分やっていける……というか、寧ろなって欲しいくらいなんだけど。正義感強いし、頭いいし、ホント申し分ないんだけどなぁ。彼、『足が悪いから』とか屁理屈つけてきて、結局煙に巻かれちゃったんだよ」

「陸績ちゃんは昔から“本の虫”でしたので、家長にならなかったことを喜んでいたくらいですし~……」

 

穏から“本の虫”扱いされる陸績の学者っぷりは推して知るべし。なお、彼には“書物・知的刺激による欲情”のような性癖はない。

 

「ともかくぅ~! 穏は、穏はぁ~~~~!!#」

「はいはい、どうどう! 落ち着いて!」

「私達は、孫呉としてでさえ、平和を求めて戦ったのです! 三国同盟を経て、ようやっと得た平和だと言うのに! 権力が欲しいなら、中央へ相応の実力を見せて士官するのが道理でしょう~! 外戚という手軽な権力が手に入ると見るやこれですか!? 陸家は、そんな俗物しかいなかったのですかぁ!#」

 

冥琳すら、これ程激昂する穏は初めて見たのだ。それほど、彼女にとってこの手紙は逆鱗に触れるものだったらしい。

 

「ですからぁ! 私は、これを実家に叩きつけるのですぅ!」

 

穏は机の上にあったもうひとつの書状を取り出した。

 

「なに、それ?」

「絶縁状ですぅ!#」

「ええっ!? そ、それはやり過ぎだって! ちょっと冷静になれ、穏!」

「だってぇ、だってぇぇぇぇぇぇ! う゛え゛ぇぇぇぇぇぇん!!」

 

穏はまた泣き出してしまった。ひたすら慰める一刀であるが、ちいっとも効果がない。

 

「聞きなさい、穏」

 

すると、冥琳が口を開いた。

 

「うぅっ……はい」

 

(さ、流石は穏の師匠……俺の言葉より、よっぽど重いなぁ。微妙に悔しい……)

 

そんな一刀の感想はともかく。

 

「これから、『和』王朝は同じようなことが続いていくだろう。我等が全員正室となったあのときから、こうなる運命だった、と言ってもいい」

「……つまり、俺のせいってことですか?」

「まぁ、そうとも言うな。だが、気にすることではない。我等は、今後もずっとこうやって“俗物”……いや、全ての民の“利”と戦っていかなくてはならないのだ。それこそが国政……“政(まつりごと)”の本質なのだ」

「「全ての民の“利”……」」

「そうだ。人間は、動物は自己に“利”がなくば動かない。それが自然なのだ。だが、時に人間というものはそれに反する行動を取ることがある。我等が目指す“理想”もまた、“利”と一部で反するものなのだ」

「「…………」」

「故に。我等が一刀や桃香の“理想”を求め目指すならば。常に民の“利”と戦わねばならない。“利”しか求めぬ者を“俗物”と言って切ってしまうのは簡単だ。だが、それだけでは民は付いては来ない」

「……そう、ですね……」

「ああ。俺も前に詠やねねに似たようなことを言われたっけな……」

「感情では納得いかぬこともあるだろうが。『九卿』に過去の有力者を配しているのと、同じ理由だ。“利”を求める者に、ある程度の“利”を与えつつ。場合によってはそういった“俗物”に利用されてでも。そうでなくては成せぬこともあるのだと知りなさい」

「「はい……」」

 

こうして冥琳の説法によって穏は絶縁状を取り下げ、一刀もまた、皇帝として必要なことを学んだのだった。

 

さらに次の日。

一刀はもう活動を再開した張三姉妹を労う為、洛陽のとある劇場の控え室を訪れていた。

 

「お疲れ様、三人とも。はい、水」

「ありがとー、一刀♪」

 

なお、今日のお供は小蓮と季衣である。

 

「今日も凄かったよー!」

「ありがとっ、季衣♪」

「確かにすっごい力を感じたわ。お姉ちゃんから聞いた通りね」

「えっと……」

「孫尚香……真名は小蓮よ。シャオって呼んでね♪」

「い、いきなり!?」

「お姉ちゃんの真名も預かったんでしょ? 事情も聴いたしね……(じとり)」

「目が怖いッス、シャオさん……」

「そっか。わたしは張角。真名は天和だよ~!」

「張宝――地和よ。宜しくね、シャオ」

「有難く真名をお預かり致します。張梁、真名は人和です」

「うん、ありがと。でもさ~……天和と地和はいいんだけど、人和ってかたーい!」

「は、はあ。す、すいません……」

「はははっ! シャオのとこ……孫家だって三姉妹みんな個性的だろ? 他の人のことは言えないんじゃない?」

「あー……確かにそうかも。人和はお姉ちゃんと気が合いそうね。あははっ☆」

「これは……褒められてるのかしら……?」

「まあまあ、気にしない。とにかくお疲れ様。今日はこれでお仕事お終いかい?」

「ええ。月末が近いから……そろそろ地方公演の準備もしないと」

 

どこか寂しげな雰囲気でそう答える人和。

『数え役萬☆姉妹』こと張三姉妹は、九月末まで洛陽で活動し、十月の月初から大陸中を回る予定なのだ。

そして、それもまた一刀との『約束』のひとつだった。

 

「そっか……。よっし、今日は俺が全部奢るから、どっかで豪勢に飯食おう!」

「ほんと!? やったね!」

「破産するほど注文してやるから、覚悟しときなさいよ♪」

「いつもありがとう、一刀さん。ご馳走になります」

「ねえねえ、それってシャオたちもだよね?」

「もちろ……ん」

「……兄ちゃん。今ボクを見て、一瞬言葉詰まらせなかった?#」

「そんなことはないぞー! 季衣だって勿論奢っちゃうもんねー! 来月の小遣いだって前借りしちゃうぞー!」

 

最早やけくそで叫ぶ。メンバーに季衣がいる時点で高級店など候補に入れるのは論外だろうに。張三姉妹との一時の別れへの寂しさに判断を誤ったのだ。

 

「……皇帝になっても相変わらず小遣い制なのね、一刀さん……」

 

苦労人・人和の哀愁漂う台詞が胸に沁みた一刀であった。

 

 

どこで食べるかで、季衣と地和、小蓮が揉めつつも、とりあえず通りへ出た一行。

 

「ん? あれは……」

 

一刀の視界に、なにやら挙動不審というか、何か、或いは誰かを探している既知の男が映った。

 

「おーい、曹仁!」

「は? はっ! これは陛――」

「こ、こら! 俺がこの格好してるときは警備隊の隊長として来てるんだ。敬称ならせめて“隊長”って呼んでくれよ!?」

 

人混みで『陛下』などと呼ばれては困ると、思わず曹仁の口を押さえる一刀。

一刀は洛陽警備隊の“隊長”として街に来るときは、普段の学生服ではなく、一般的な衣服に革鎧などを纏った、警備兵スタイルなのだ。

……と言っても、洛陽の民の半分以上がその正体に気付いているのだが。

 

さて、この曹仁なる人物は、曹操の従兄(但し血は繋がっていない)であり、魏の勇将として名を馳せた将軍である。因みに二十代後半の偉丈夫だ。

現在は侯(統治権はないが領邑から税を受け取る権利を与えられた爵位のひとつ)の一として封じられており、洛陽にはいない筈だった。

 

「で。洛陽で何か……というか誰か探し人? きょろきょろしてたけど」

「は、はっ! 実は、妹らにせがまれ、今日の『数え役萬☆姉妹』の公演を見に来ていたのですが……」

「ああ、そうなんだ。しかし、侯の親族まで見に来てくれるとは、嬉しいねえ♪」

「こ、侯などとは言っても、拙者は武官出の無骨者ですぞ? 官僚や貴人とは格が違うと申しますか。まして、拙者は家長ですらないのです」

「んな謙遜しなくても。確かに家長は弟が継いだのかもしれないけど。曹仁と言えば、正に魏の勇将の一人だろう……いや、その話はいいや。で、その流れだと、妹らと逸れちゃったのか」

「は、はい。何分三人揃ってお転婆共なものでして……」

「そっか。こりゃ警備隊の出番だな。……みんな、悪いけど今日の予定は延期させてくれ。緊急事態だ」

「「「ええー!?」」」

 

季衣、小蓮、地和が揃って非難するも、状況からして優先順位は明らか。

三人とも、とりあえず不満を一刀にぶつけたかっただけらしく、彼の苦笑いにすぐ引き下がった。

 

結局、張三姉妹は旅支度の為に先に帰った。小蓮も城へ帰そうとしたのだが、本人が拒否。

 

「よし、始めるか。……って、よく考えたら俺、曹仁の妹達の顔知らないや」

「それはそうでしょう。華琳様から絶対に会わせるなと……はっ!?」

「……どゆこと?」

「せ、拙者がばらしたとは華琳様には何とぞご内密に……。実は、陛――北郷隊長に妹どもを会わせること罷(まか)りならぬ、と華琳様からの厳命がありまして。何でも、近付いただけで孕むから、と……」

「ンな馬鹿なことあるかっての!? 桂花じゃあるまいし、華琳までそんなこと言ったのかよ……」

「ま、まあ要するにですな。華琳様は、貴方様に他の女を近づけたくなかった、ということです。正直、妹らはまだまだ子供だと思うておりました故、華琳様も変な心配をすると思っておりましたが……」

「おりましたが?」

「……結局、季衣殿や流琉殿も正室として召し上げられたとのことで。華琳様のご命令は正しかったなぁ、と……」

「……。……はいはい、どうせ俺は“種馬”ですよ……もう、どうとでも言ってくれ……」

「はははは! 拙者としては華琳様を初め、皆が笑顔であってくれれば良いのですが、それは全く心配無用でありましょうや。ともかく、妹らの顔は、季衣殿などの旧魏勢の者ならば見知っております」

「そっか。しかし中々難問だな、これは。見つかったら洛陽城へ集まって、任務完了を伝達するってことで。基本的に人海戦術しかないな……警備隊でも魏出身は多い。もしかしたら知ってる奴もいるかもしれないし。俺はシャオと一緒に一旦詰め所に行く。曹仁、季衣はこのまま探索を続けてくれ」

「はーい!」「まっかせて♪」「はっ」

 

その後、警備隊でも旧魏勢の兵を中心に探索が始まったが、結局日が落ちるまでに彼女らを発見することは出来なかった。

 

(おかしい。幾ら何でもこの規模で探して見つからない筈がない。洛陽の外へ出たか、そうでなければ……警備隊が入れない場所……。最悪、“誘拐”の線も考えておくべきなのか?)

 

日が落ちた為、一旦城へと戻った一刀は、一先ず中心人物が揃うのを待っていた。季衣、流琉、凪、沙和、真桜を中心に探索したが発見には至らず、既に今挙げた将達は戻って来ている。

つまり、一刀は曹仁の帰りを待っていたのだが、曹仁は日の入りから二時間以上経って、ようやく戻って来た。

 

「曹仁! 見つかったか!?」

「…………。……はっ、ようやっと先程発見し、宿へ閉じ込めて参りました。連絡が遅れましたことをお詫び申し上げまする」

 

早速に発見の成否を問うた一刀に、曹仁は謝罪を交え、そう答えた。

 

「……そうか。無事見つかったのなら、そんなことはいいんだが……」

「諸将の皆様方にも、ご迷惑をお掛けし、申し訳ござらぬ。この詫びはいずれ必ず。今は、これにて失礼致します」

「……分かった。だが、ひとつ訊きたい」

「……なんでございましょう?」

「君らは……暫く、洛陽に滞在するのか?」

「……はい。月末までは滞在の予定にございますが。それが如何しましたか?」

「いや、ならいい。妹達に宜しく」

「はっ!」

 

手を打って一礼した曹仁はそのまま去っていった。

 

「……明命!」

「――はい!」

 

一刀の呼び出しに、すぐさま馳せ参ずる明命。

 

「……曹仁の後をつけてくれ。出来れば宿の中の様子も探って欲しい。……絶対に、何かがおかしい……」

「はい! 分かりました!」

 

返事が耳に届くと同時に明命は既に姿を消している。

数多い密偵の配下ではなく、『大和帝国』最高の密偵である明命自身へ命じたのは。

今の状況が、それだけ逼迫した事態なのではないのか。そう感じた、一刀の勘だった。

 

「隊長。私もそう思います。曹仁殿は……実直な方です。ですから嘘は苦手であられる。あの様子……」

「せやなー。あら、なーんか隠してるって面や……」

「沙和もそう思うの!」

「ということは……妹さん方が見つかってないのでしょうか?」

「ええ!? じゃあ、なんで『見つかった』なんて……」

「……とにかく情報が足りない。明命が戻るのを待とう」

 

 

 

曹仁を尾行し、その宿を突き止めた明命は、宿の屋根から天井裏へと身を隠し、更なる情報を求めた。

その宿は、流石に地方の侯爵が用いるだけあって、立派で警備も相応だったが、明命にとってはザルも同然。

しかし、その天井裏には“先客”がいた。

気配を悟られぬよう、場所を確認するが、やはりその“先客”の密偵も曹仁の部屋を窺っていた。

 

(曹仁さん、既に監視されているのです……)

 

明命は“先客”の密偵からも姿を隠しつつ、曹仁の部屋の様子を窺うが、妹達がいる様子は無い。

部屋にいたのは曹仁の実の弟、曹純であった。

 

曹純は、若かりし頃乱暴者であった兄に代わって家督を継いだ、学問を愛し部下を愛する、誰からも信望篤き将である。彼も兄・曹仁と同様に侯の一として封じられている旧魏勢の将軍である。

 

「……子和(曹純の字)。あれから、なにか連絡はあったか?」

「ええ。……『曹孟徳を殺せ。さもなくば妹らの命は無い』だそうです」

 

(はぅあ~~~!?)

 

「おのれ……! 何処の馬の骨か知らぬが、卑劣な手を……!」

「……ですが、有効な手段であるのは確か。確かに華琳様の信頼篤い兄さんなら、色々な方法が採れますからね……。こうなっては最早、我等兄弟に残された手段は二つしかありません……」

 

即ち。本当に戻るかも分からぬ妹らの為に、かつての主君を殺すか。忠に準じ、妹らを見殺しにするか。

既に見張られていることに彼らも気付いている。故にそう簡単には華琳や一刀たちへ連絡を取ることも出来まい。

そして、人質がいるとなると、明命もまた迂闊な動きは出来なかった。

 

「……答えなど決まっておる。たとえお前が反対しようとも」

「兄さんなら、そう言うと思っていましたよ。……口惜しい。兄である我等が油断したばかりに……」

「……そう、だな。父母に顔向け出来ぬわ……」

 

(お二人とも、もう……“見捨てる”ことを選んだのですか!? そ、そんな……)

 

だが、これで二人が自発的に動くことはないことははっきりした。明命はすぐさま天井裏から抜け出す。

 

(私は……そして、必ずや一刀様も、こんなことを許しはしないのです!)

 

今、この情報を城へ持って帰っても、根本的解決を図る対策は打ち出せない。だからこそ、明命は決意する。

 

(今、ここで。私が、犯人を突き止めるのです!)

 

裏庭へと降り立ち、身を隠した明命は、瞬く間に町娘へと変装。そして、神経を集中し始めた。

 

(奥義……『不可視の術』!)

 

明命から“気配”が消えていく。まるで存在そのものが無くなったかのように。

 

何気ない所作で明命は表通りへと出る。そして、堂々と宿の入り口から中へと入っていった。

しかし、そのことに気付くものはいない。

『不可視の術』……隠密技術の最高峰とも言うべき、脅威の技法。そこにいながら、それを誰にも認識させないという、密偵・周幼平、究極の奥義である。

 

(必ず、もう一度曹仁さんに連絡が来るのです。その連絡役を追跡すれば……!)

 

但しこの術は凄まじい集中力を必要とする為、戦闘はおろか、駆け足すら出来ない。連絡役を発見した後に追跡する為に、彼女は予め町娘の姿に変装したのだ。

また、連絡がもう一度あると踏んだのは、先程の曹純の言葉にあった黒幕からの伝言に、期限が切られていなかったからである。二人が動かないと決めているならば、必ず催促の連絡がもう一度来る筈と判断したのだ。

 

 

……

 

…………

 

 

果たして明命の予想通り、曹仁への連絡役が宿を訪れた。

彼は、宿の女中に頼み込み、手紙らしき紙片を渡し、早々と宿を去る。

普通の庶人の格好をしていたが、見る者が見れば、その立ち居振る舞いから相応の修羅場を潜った戦士であることが分かる。

 

(お二人は、既に徹底抗戦を決心しています。たとえ催促されようとも動かない筈。ならば、私の使命は“黒幕”を突き止めること!)

 

自然に歩き出し、徐々に術を解きながら、明命は連絡役の追跡を開始した。

 

(……絶対に逃がしはしません!)

 

――このような理不尽を許さぬ為に。

 

後宮の奥庭。その池のほとりの東屋で、一刀と大半の正室たちが集まっていた。

明命によってもたらされた情報は、一刀と彼女達を戦慄させるに十分なものだった。

 

「……妹の命を盾に曹仁を使って、この私を害そうとはね……」

「問題は、その“黒幕”だ。……非常にまずい事態だぞ、これは……」

 

冥琳は頭痛を我慢するように、額に手を当てる。

明命によって突き止められた、この事件の黒幕。それは『九卿』のひとつ、司法と刑罰を司る『廷尉』に任じられた男。名を何咸(かかん)と言った。後漢王朝末期の大将軍、何進の息子である。

 

これはつまり、一種のクーデターであった。

 

「で、でも! 黒幕ははっきりしたんでしょう? だったら後は弾劾すれば……」

「そうね。事件自体はそれでも解決出来るでしょう。三姉妹の身の安全を確保したり、考えねばならないことも多いけれど、最悪武力行使という手段だってあるわ。但し……」

 

華琳の言葉を冥琳が継ぐ。

 

「……その場合、華琳は最低でも降格。最悪の事態を考えるならば、丞相職をいい様に更迭されてしまう可能性もある」

「ええっ! ど、どうしてです!?」

「それはね、桃香。何咸を『廷尉』に推挙したのが、私だからよ……」

「そ、そんな……」

 

何進の息子であった何咸は、父・何進が後漢王朝末期の政権争いによって謀殺された際、生母の伝手で曹一族に保護されていた。

彼は華琳の目からみても才気煥発であり、美丈夫だった。困ったことに相当のナルシストで漁色家でもあったが、その才能を買い、華琳はこの『和』王朝の『九卿』の一として推挙したのだ。

 

にも拘らず、彼は華琳を裏切った。

 

しかし彼を弾劾すれば、その彼を国の重鎮として推挙した華琳もまた、その罪を問われる。

『和』王朝は、ここまで過去の有力者を抑え込み、庶人優先の制度を敷いてきた。その為、現在の政権中枢に不満のある有力者は少なくない。ここで華琳が何かしらの罪に問われる事態は、不満を持つ有力者に『和』王朝政権の中心人物とも言える、丞相・曹操――華琳を排除する、絶好の機会を与えてしまうことになるのだ。

 

罪は罪、罰は罰という法治主義を目指していたことを逆に利用されてしまった形であった。

 

「次善策としては……私を降格させた後、なんとか異論を抑え込んで桃香を丞相に据えること、かしら……」

「……そうですね。それが限界かと思われます……」

 

華琳の次善策に、朱里が無念げに賛同した。しかし、ここで反対したのは。

 

「――私は、反対です!」

 

陸遜こと穏だった。

 

「……穏。気持ちは分かるが……」

「私は、納得出来ません! 確かに冥琳様には『“俗物”に利用されてでも、そうでなくては成せぬこともある』と言われましたが、今このときがそうとは、とても思えないですぅ……! これでは、利用どころか……悪人の“欲望”に、私達の……桃香ちゃんの、旦那様の“理想”が穢されたも同然じゃないですか!」

「穏、さんっ……」

 

穏は涙ながらに叫んだ。桃香も、その涙に悔しい気持ちが抑えられず、その名を零した。

 

「百人に百通りの正義があることなど、それこそ百も承知です! でも、でもぉ! “これ”は明らかに悪党の行いです! こんなものに、私達の“理想”が負けていいんですか!」

 

穏の叫びに、言葉を返せる者はなかった。それこそ、かつての三国の頭脳と謂われた桂花も、冥琳も、朱里も。そして華琳自身さえも。

 

そして、悔しげに拳を握るのは、皇帝・北郷一刀もまた同じだった。

 

(くそッ! 穏の言う通りじゃないか! 考えろ、北郷一刀! “万別の正義”ですらない、こんな低俗な“悪”に屈さない方法を――!)

 

彼の周囲の正室たち……『三国志』に謳われた英傑たち、その誰もが悔しげに俯いている。

そのとき、一刀の視界に映った、光。

それは、月光に煌く、二股槍の穂先。

趙子龍――星の『龍牙』だった。

 

(――これ、なら……)

 

だが、すぐに一刀は小さく頭(かぶり)を振った。

 

(駄目だ! “これ”は俺の力じゃ、到底出来ない! 畜生、俺が“弱い”せいで、こんな時に役に立たないなんて……!)

 

「…………。とりあえず、一旦休憩を挟みましょう。冷静でなければ、この先の難局は乗り切れないわ」

「そう、ね。少し休憩としましょう……」

「……はい……」

 

雪蓮の提案に華琳が同意し、先程まで激昂していた穏も頷いた。

 

「……一刀。ちょっと付き合いなさい」

「雪蓮? あ、ああ……」

 

 

 

二人は、池のほとりから離れ、別の東屋で腰を下ろしていた。

 

「…………」

「……悩んでいるわね、一刀」

「当たり前だっ! こんな、こんな卑劣な手段は許せない! でも、それを法で裁けば……!」

「……でも、何か思いついたんでしょう?」

「!?」

「さっき、確かに見たわ。あなたの瞳に、鋭い光が宿るのを」

「――駄目だッ!」

「何故? 何が駄目だと言うの。今このときも。かの三姉妹は危機に晒されているというのに」

「ぐうぅぅぅ……!」

 

頭をぐしゃぐしゃに掻き毟り、唸る一刀。

 

「教えて。あなたが見つけた“光”を。それを皆に説明できない理由も含めて」

「……違う」

「…………」

「違う。これは“光”なんかじゃない……!」

「……そう。そういうこと……」

 

はっと一刀が顔を上げる。まさか、その一言で察せられるとは思ってもみなかったのだ。

 

「……あなたの瞳に光が宿ったとき。あなたが見ていたのは、星の槍だったわね……」

「駄目だ、雪蓮!」

「なら、逆に訊くわ。もし、あなたが私と同等の“武力”を身につけていたら。あなたはどうした?」

「そっ……そ、れは……」

「同じことよ。――いいえ。あなたはこの国の皇帝。“闇”に塗れてはならない」

「だからって! 雪蓮にそうさせるなんて――」

 

「甘ったれるなッ!!」

 

雪蓮の叱責に、一刀は怯んだ。

戦乱時代を生き抜いた、普段の彼ならば、この程度の重圧で怯んだりはしなかったろう。

しかし、今彼は悩み、弱さを見せていた。

 

「……ありがとう、一刀。私の心配をしてくれるのは、本当に嬉しい。でも、今は優しさでは切り抜けることは出来ない」

「…………」

「今、私達の前に立ち塞がるのは、冷徹なる現実。それを打ち破るには……修羅となることさえ、必要だわ」

「……ッ」

「だから。此処は私に任せて。必ず、全てを片付けて来るわ」

「……。……重いものを背負わせて、ごめん。ありがとう。……暫くの間だけ、甘えさせて貰うよ……」

「うん。あなたがそう言ってくれるだけで、私は誰にも負けないわ。此方こそ、ありがとう。一刀……」

 

雪蓮はゆっくりと一刀と唇を重ねあった。

 

その後、一刀は正室全員に『今後のことは、全て俺に任せてくれ』とだけ伝えた。

勿論、誰もが理由や手段を訊いたが、一刀は一切を答えなかった。ただ、首を横に振るばかり。

最終的には華琳も折れ、全員が後宮の自室へと戻っていった。

 

 

……

 

…………

 

 

私室へと戻った雪蓮は、変装道具一式を揃え、今度は蓮華の私室を訪れていた。

二人は沈黙を以って相対して立っている。

 

「……蓮華。本来なら、あなたこそが最後の呉王。だから、これを譲りに来たわ」

 

雪蓮が差し出したのは、孫家当主の証である宝剣『南海覇王』。

 

「雪蓮姉様。今、このときにこれを私に授けるということは……この急場で、孫家の家長を私に譲るということです! ……一体、何が起こるというのですか!?」

「今の『和』王朝には、華琳は必要不可欠な人材よ。そして……あなたは国を治めることに関して私より優れる。……この急場は私が凌いでみせるわ。その代わり、私は孫家の家長としての正義を捨てる。だから、今こそ『南海覇王』を、孫家の全てを託します」

「姉様!?」

「そんな顔をしなくても大丈夫よ。ただ――どうあれ、私はこの剣の主として相応しくなくなる。だから……一刀の、この国の支柱のひとつとして。孫家の長として。あなたはこの剣に相応しく在りなさい」

「……分かりました。雪蓮姉様の覚悟、確かに受け取ります!」

 

蓮華は跪き、雪蓮から宝剣『南海覇王』を両手で受け取る。

 

「――孫仲謀、御剣を拝領致します」

「ありがとう、蓮華。……このことは一切他言無用。征ってくるわ――」

「――ご武運を」

 

立ち上がった蓮華は、『南海覇王』を胸に抱き、深々と頭を下げた。

 

 

……

 

…………

 

 

蓮華の私室を後にした雪蓮。

だが、中庭で彼女を待ち受けていたのは、親友の冥琳と、手に一振りの剣を持った一刀だった。

 

「……随分気が利いてるわね」

「茶化すな、馬鹿者が……。蓮華様は、確と受け取って下さったようだな」

「ええ。ようやく、といった感もあるけどね。中々機会が無かったし」

「……雪蓮。本当なら、こんな形で渡したくなかったけど……」

 

一刀は、手に持った剣を雪蓮へと手渡す。

その剣は、完全に『南海覇王』と同じ形状、重量、重心に作られた逸品だった。違うのは、鞘と柄が金ではなく、朱に塗られていることと、蜀の優秀な製鉄技術を以って作製され、強度と鋭利さが増していること。

 

「……いい剣ね。銘はあるの?」

「いいや。雪蓮に決めてもらおうと思ってたから」

「そう……」

 

雪蓮は、持っていた道具類から、猿の面を取り出し、じっと見つめている。

 

「……今度は『呉勇士』じゃなくて、猿なのか?」

「……“闇”の中からでも、私の守るものが“正義”なら。人から外れても、乱暴者でも。最後は『天』を守ったっていう奴を真似てみようかなって。となると、剣の銘は――『天河鎮定』、かしらね」

 

 

……

 

…………

 

 

室内の蓮華と、中庭の冥琳・一刀に見送られ、雪蓮は闇夜の中、洛陽城を出る。

すると、そこに彼女を待っている者がいた。

 

「……睡蓮?」

「雪蓮。無理を承知で頼む。僕も連れて行ってくれ」

「馬鹿言ってんじゃないわよ。そりゃ多少は武術も習ったかもしれないけど。あなた、実戦経験が全くないでしょう?」

「その通りだ。だから、無理を承知でと言った。……僕は。“朕”は、奴に言わねば気が済まんことがあるのだ!」

 

自身の覚悟を示す為、敢えて睡蓮は皇帝としての一人称を用いた。

 

「足手まといとなるのは確かだ。だが、頼む! たとえ殺されてでも、奴に言わねばならんのだ! 奴の父を知る“朕”こそが伝えねばならんことなのだ!」

「別に足手まといが一人いたくらいで負ける積もりはないけど。……最悪、助けないわよ」

「構わん!」

「……はぁー……義理でも兄弟になると性格って似るものなのかしら……。いいわ、その“覚悟”に免じて、連れてってあげるわ」

 

「くくく……。今頃、皇帝も曹操も、それ以外の正室共も。さぞ困り果てていることだろうよ」

 

低く笑いながら、酒を呷る男。この男こそ『廷尉』、即ち司法と刑罰を司る『九卿』、何咸である。

相応に整った外見、曹操・華琳に才気煥発と評される程の才能、漢王朝の大将軍の息子という家名。様々なものに恵まれた男だった。しかし、それ故というべきか。その性根は見る影もなく腐り果てていた。

かつての十常侍のように、私腹を肥やすことにしか興味がなく、自身の権力の及ぶ範囲では我儘勝手に振る舞い、肝心の刑罰すら、まともに機能しなくなりつつあった。つまり、悪行を働いても何咸に賄賂を贈ることで刑罰を軽くするような真似をしていたのだ。

 

「さて……」

 

何咸は部屋の隅を見遣る。そこには、縄で縛られ身動きも取れず、猿轡を噛まされた三人の女子。曹仁の妹である憲、節、華の三人であった。

 

「折角だ。“味見”でもさせて貰おうか。どうせ、事が済めば殺すのだしな」

 

せめて末妹の曹華を守ろうと、曹憲・曹節が妹を背後に隠す。しかし悲しいかな、抵抗にすらなっていないのは明白だった。

 

「はっはっは! 抵抗するならしてくれてもよいぞ! その方が楽しめるというものだ!」

 

迫る魔手に、末妹・曹華は縮こまって泣くばかり。

次女・曹節は気丈にその身を盾にせんとするが、身体は恐怖に震えていた。

長女・曹憲は、なんとか自身だけを犠牲に妹二人を守ろうとするが、猿轡で交渉すら出来ない。たとえ出来たとて、交渉に応ずるような男でないことは、この数時間の様子からだけでも分かってしまっていたが……

 

「さあ、誰からだ? それくらいは選ばせてやろう! はっはっは!」

 

その瞬間。窓を打ち破り、室内に何かが飛び込んできた。拳大の大きさの、真っ黒い球体だった。

 

「……なんだ、曲者!?」

 

まるで何咸の言葉に反応したかのようなタイミングで、その球体から大量の煙がもうもうと発生した。たちまち室内は真っ黒い煙で満たされる。

 

「くそっ! なんだ、これは! 誰かある! 曲者だ、警戒しろ!」

 

何咸は煙で見えなくとも、ここは自室。手探りで部屋の窓を開け、廊下への扉を開こうとした。しかし。

 

「(扉が……開いている!?) まさか!」

 

大まかな辺りまで足を進めるが、確かにさっきまでいた三姉妹は、もう室内にはいなかった。

 

「……誰かが逃がしたということかっ! おい、兵ども――」

 

配下の兵に捜索を命じようと廊下に出た何咸は更に驚くこととなった。なんと廊下から中庭まで、煙が充満し、碌に視界が通らない状況だったのだ。

 

「なんたることだっ! おい、誰かいないのか!」

「はっ! 煙で視界が通りませんで……!」

「そんなことは見れば分かる! 女共が連れ去られた! すぐに捜索しろ!」

「し、しかし、この状況では!」

「つべこべ抜かすな! 殺すぞ!」

「し、失礼しました! 只今!」

 

何咸が“殺す”と言えば、最悪自分だけでなく家族にまでその影響が及ぶ。配下の兵は、恐怖に顔を青ざめさせながら走っていった。

 

「畜生が! 逃がすものか……!」

 

何咸の執念か、悪運か。そのとき、周囲に猛烈な風が吹いた。それによって、屋敷中に充満していた煙が吹き飛ばされる。

 

「――ははっ! どうやら天もオレに味方しているようだな!」

 

廊下からは、たった今逃げようとしていた三姉妹の後ろ姿が見えていた。どうやら足の縄だけを切り、逃げ出したようだ。

その隣には小柄な人間が一人。覆面をしている為、性別までは判別がつかなかった。煙玉をばら撒き、煙と混乱に乗じて姉妹を連れ出そうとした犯人に違いあるまい。

何咸は懐から小刀を抜き、廊下の柵を飛び越え、一直線に曲者へと走り寄る。

 

「残念だったな、曲者よ! 天が、風がオレに味方したぞ!」

「くっ!」

 

走りざま何咸が小刀を突き出す。覆面の人間――睡蓮は、何咸の腕を押さえるようにして、その刃を腹で受け止める。

 

ガリッ!

 

金属の擦れる音。睡蓮は、そのゆったりとした衣服の下に鎖帷子を着込んでいたのだ。

本来なら、三姉妹を外に逃がしてから、改めて問い詰める積もりであった睡蓮だったが、こうなってはもう身動きはとれない。三姉妹を守る為、何咸に最後の訓告を為す為に、全身に力を籠めて踏ん張る。

 

「げほっ……何咸! 貴様の悪事も、これまでだ!」

「ハッ、小柄だと思えば餓鬼か。なにをほざくか、小童が!」

「それは此方の台詞だ! 仮にも王朝の要職に在る官僚が、婦女子を攫い、その郎党に丞相の殺害を命じるとは!」

 

睡蓮の暴露に、何咸の表情に怒りとも焦りともとれるものが浮かぶ。

 

「……そこまで調べ上げるとは。さてはあの馬鹿皇帝の差し金か!」

「これは僕個人の意思だ! おぬしの父、何進の知己としてな!」

「なん、だと!? 貴様ァ……何者だ!?」

「答える義理はない! 今のおぬしは、徒(ただ)の悪党に過ぎん! 確かに何進も権力に取り憑かれた男だったが……少なくとも、あやつは家族を愛することを知る男だった! 故にあやつは、妹の裏切りと十常侍の謀略によって殺されたのだ!」

「だ、黙れ! 父はその愛とやらで死んだのだ! 叔母に裏切られ、宦官どもに無残に殺された! 分かるか、これがこの世の倣いなのだ! 信頼すれば殺される! 絶対的な力で支配せねば、心休まる場所など在り得んのだ!」

「家族を愛すること知っていたあやつの子が、“怨嗟”に呑まれ、このような外道に成り下がるとは……! 正しく才を評し、『九卿』という最上級の官僚に取り立てた曹操の期待すら裏切り! そればかりか、その郎党を利用して殺害を企むとは、言語道断!」

「戯言を! 庶人庶人と権力を軽んじる、あの甘ったれた皇帝に骨抜きにされた女共に、どうこう言われる筋合いなどないわ!」

「国とは庶人そのもの――そんなことも分からんのか! 今こそ、その庶人が長引く貧困からようやっと脱却する機会なのだ! それを搾取し、一部の上層階級だけが肥え太ったのでは、また漢王朝の二の舞ではないか!」

「何も分かっておらんのは貴様――そして、あの皇帝共だ! この世は権力と金で動いているのだ! “利”無くして、誰が動く! 力で支配せねば、その庶人とて黄巾党のように反乱を起こすのだ!」

「馬鹿を言うな! 力で支配するから庶人は反乱するしかなくなるのだ! 皇帝陛下は――北郷一刀様は、平和な未来を、“理想”を見せてくれたであろう! おぬしは……『九卿』としてそれを間近で見て、それでもなお“自分”しか見えんのか!」

「あんなものは偽善者の戯言だ! 官僚が庶人に施してどうする! 庶人を従え、諸侯を抑え込み、官僚が財力と権力を握り、戦うしか能のない武官共に守らせる! それこそが国のあるべき姿、為すべき“政”なのだ! 『天の御遣い』か何か知らんが、皇帝などというものは我等官僚の言うことに只頷いておれば良いのだ!」

「……自らの意に沿わぬ皇帝を失脚させる為に、関係のない女子を攫い、その一族を脅して殺めさせるのが……おぬしの言う“政”か!」

「言った筈だ! この世は権力と金で動くのだ! その為に手段など選ぶ方が馬鹿なのだ!」

「手段を選ぶのが馬鹿ならば……! 利己に固執し、他者を貪ることに躊躇せぬ者――おぬしのような者を“悪党”と呼ぶのだ!」

「黙れ!」

「ぐぁ!?」

 

何咸が小刀を更に押し込もうと力を込める。小柄な睡蓮では、それを押え切れない。まして鎖帷子は構造上、斬撃には強い防御力を誇る反面、刺突には脆い点がある。このまま強引に押し込まれれば致命傷となるだろう。

 

「皇帝の刺客としては、雑魚に過ぎるな! 死ね、小童!」

「ぐぅぅ……! く、くくっ、ははははっ!」

「な、何がおかしい!?」

「皇帝の刺客!? この僕が、武官ですらない僕が刺客の筈があるか!」

 

その瞬間、何処からか飛来した飛刀が何咸の手の甲に突き刺さる。

何咸は小刀を取り落とし、飛刀に付けられた鈴がちりんと鳴った。

 

「ぐおぉぉっ!? な、何者だ!?」

 

数歩たたらを踏んだ何咸は、振り向き誰何を叫ぶ。

 

「岩から生まれし美猴王(びこうおう)……『孫行者』!」

 

屋敷の塀の上に一人の女。

露出の多い金縁の真紅の衣装、結ばれた長い髪に挿された簪。腰には朱塗りの鞘の剣。

何より目を引くのは、その相貌を隠す猿を模した仮面。頬より上部を隠し、その目元は帯が巻かれ、彼女の髪と共に風に棚引いていた。

 

「孫行者!? 猿の化生を騙る愚か者が、此処を何処(いづこ)と心得るか!」

 

何咸の言葉には反応せず、孫行者はひらりと中庭へと舞い降り、腰の剣を抜き放つ。

 

「婦女子攫いて政を牛耳ろうとは、断じて許しがたし。孫行者、天に代わって『鬼』退治致す!」

 

「――そちが刺客の本命という訳か! 出会えい、出会えい! この賊共を殺せ!」

 

何咸の呼集に、護衛兵らがわらわらと集まってくる。

しかし孫行者は微動だにせず、兵たちへと警告する。

 

「……自らが“悪を為す”と知らぬ者は去りなさい。私は追いはしない。しかし、刃を向けるならば……」

 

そこで言葉を切って瞑目し。

 

「――斬る!」

 

開眼と同時、孫行者の裂帛の気合と共に放たれた一言。その凄まじい重圧で兵達に動揺が走る。

 

「何をしておる! オレを誰と心得るか! 『九卿』がひとつ、『廷尉』たる何咸ぞ!」

 

動揺を収めんと何咸が声を上げるが、それを制すように、睡蓮が動いた。

覆面を捨て去り。月明かりの下、全てを睥睨し。有らん限りの力で叫ぶ。

 

「――“朕”の顔を見忘れたかッ!」

 

「なっ! り、劉協!?」

「「「(劉協様!?)」」」

 

動揺し、何咸は思わずその名を口走ってしまった。三姉妹も、意外な正体に驚愕を隠せない。

皇帝の義弟たる先帝の登場に、配下の兵達には更なる動揺が走る。

 

「先帝として、また皇帝・北郷一刀様の義弟として断言しよう! ――正義は我に在り! 何咸の悪業を知らぬ者は、疾くこの場を去れ! さもなくば、おぬしらも悪として断罪する!」

 

劉協のこの一言に、とうとう兵達には逃亡者が現れた。

しかし、それでも逃げない者が大半だった。正規の護衛兵でない、何咸の私兵である。

 

「おのれぇぇぇ! 殺せ! 今や劉協など一郡の公に過ぎん! なんとでも言い訳はつく!」

 

主の言葉に、劉協へ迫る私兵達。しかし。

 

「ひとつ、人の世の生き血を啜り――」

 

迫る兵を一刀の下に切り捨て。

 

「ふたつ、不埒な悪行三昧――」

 

凄まじい連撃で、次々に私兵の一団を切り崩し。

 

「みっつ、醜い浮き世の鬼を、退治てくれよう――孫行者!」

 

孫行者は、劉協と曹三姉妹を守るように立ちはだかる。

 

「何をしておるか! 相手はたった一人! 劉協など戦力にはならんのだぞ! 殺せ、殺せぇ!」

「――相手との力量差も量れぬ愚か者が!」

 

既に何咸の護衛兵は完全に浮き足立っており、統制すら取れていない。最早何咸のみが喚いているだけだ。

孫行者は暴風のように暴れ回り、逃げずに残っていた兵を容赦無く斬り殺していく。

結局、護衛兵が全滅するのに、数分と掛からなかった。

 

「そ、そんな……馬鹿、な……! オレが、オレを誰だと……!」

 

唯一人残った何咸は、恐怖に震え、なお自身の“権力”を誇示しようとするが、最早言葉は続かない。

 

「あなたが誰かなんて知らないわ。私は只、『鬼』を殺すのみ」

「何咸。おぬしが曹仁の妹らを狙った時点で、破滅は決まっていたのだ。おぬしが“怨嗟”を呑み込んで、義兄上の力になってくれたならば……何進も浮かばれように……!」

「り、劉協……! 貴様に、貴様のような餓鬼に……!」

「――成敗ッ!」

「地獄で精々金勘定でもするのね――」

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ……!」

 

事件は解決し、何咸の悪事は“なかった”ことにされた。

 

無事、曹仁の妹ら三人は解放。何咸の悪事の証拠は全て孫行者によって焼却され、また本人が殺されたことで、彼を推挙した華琳に処罰が下ることはなかった。

曹仁の妹ら、曹憲、曹節、曹華は何咸の屋敷に“招待”されていたことになった。

逃亡した護衛兵には、不審に思うものもあったろうが、自身が“悪”とされることを恐れたか、元より真実を知らぬからか、問い質す者はなかった。

唯一現場で素顔を晒し名乗ったことで、劉協のみは何咸殺害の罪に問われた。

しかし、曹仁の妹らから、彼自身は“不本意な招待を受けた”姉妹を連れて逃亡しようとしただけで、何咸の殺害は別の人物であるとの証言があったことで、その罪は殺害から不法侵入・他となり、刑罰としては三ヶ月の減俸と三日間の禁固となった。

ついでに義兄である一刀から強烈な拳骨を貰ったそうだ。

 

こうして――事件の真相は深淵の闇へと沈んだのである。

 

空席となった『廷尉』には、陸家直系の才子である陸績が抜擢された。彼は持ち前の正義感と清廉な性格で、正しく司法・刑罰を司った。

一刀自身は、この事件に色々と思うところがあり、数日は多少気落ちしていたようだったが、すぐにいつもの調子を取り戻した。雪蓮に“闇”を背負わせたことを認めた上で呑み込み、それすら利用して策を組み立て始めていたのだ。

その結果が出るのは、まだ少し先の話となる。

 

 

 

「可憐な花に誘われて、美々しき蝶が今、舞い降りる! 我が名は華蝶仮面! 混乱の都に美と愛をもたらす、正義の化身なり!」

 

今日も洛陽に“正義の味方”が現れる。人口が増加していることでトラブルの種は尽きない。

 

「正義は勝つ! では、これにて御免っ!」

 

 

いつもの様に、街の建物の屋根を飛び移って移動していた華蝶仮面は、正面に立つ姿に気付いた。

 

「これは呉勇士殿。……雪辱戦をお望みかな?」

「いいえ。あなたに、お別れを言いに来たわ」

「……ほう」

 

呉勇士は、懐から猿の面を取り出す。孫行者に“変身”する為の面だ。

 

「――それは!? ……そうか、おぬしが『孫行者』であったのか」

 

華蝶仮面の槍を握る手に力が籠もる。『孫行者』が為したのは、確かに“正義”だったが、その行為そのものは“罪”に塗れている。故に、彼女を止めるべきか、華蝶仮面は悩んだ。

しかし、そんな彼女を見て、呉勇士は語り出した。

 

「あなたは光。“勧善懲悪”を世に具現する、正義の味方……」

「……」

「私は……闇。昏く薄汚い世界で暗躍する悪党――『鬼』を断罪する、“必要悪”」

「……それが、おぬしの選択、という訳か」

「ええ。もう逢うこともないでしょう。でも……あなたと私は表裏一体。目指すものは同じだと。そう、思っていても、いいかしら……?」

「……我が主の“理想”には、ある意味反しておるのやもしれぬ。しかし……」

 

華蝶仮面……星は、孫行者・呉勇士の覚悟を見て、“表裏一体”を意味を悟った。

 

「おぬしもまた、“正義”を為す者だ。私は……そう思う」

「……ありがとう。じゃあね……」

 

儚げに微笑み、呉勇士が立ち去ろうとした瞬間。

星の目に映った彼女は、知己の姿だった。

 

「――雪蓮!?」

「へっ!?」

「……成る程……呉勇士を初めて見たときの違和感。そう言う事、か」

「い、今更気付くのぉ~~!? 私、全然格好つかないじゃなぁ~~い!!」

「はっはっは、まぁよいではないか。おぬしも、私の正体に気付いていたのだな。……そうか、雪蓮の選択は……修羅の道か」

「もう! ……まあね。あなたほど頻繁に出張る気はないわ。私の選んだ道が、一刀の“理想”にそぐわないのは、分かってるから……」

「……主はなんと?」

「……『重いものを背負わせて、ごめん。ありがとう。……暫くの間だけ、甘えさせて貰うよ』だって」

「ほう? 主め、何か企んでおるな」

「そうみたいね……私なら大丈夫なのに」

「そう言うな。主の性格を考えれば、おぬし一人に“闇”を背負わせることを善(よ)しとはすまいよ」

「ふふっ、そうよね。それでこそ、私達の旦那様よね?」

「全くだ。はっはっは!」

 

笑い合う“勧善懲悪”の具現者と“必要悪”の断罪者。

かくして、帝都・洛陽に光と闇の“正義の味方”が立ち並んだのだった。

 

 

 

続。

 

諸葛瞻「しょかっちょ!」

曹丕「そうっぺ!」

周循「しゅうっちの!」

 

三人「「「真・恋姫†無双『乙女繚乱☆あとがき演義』~~~☆彡」」」

 

諸葛瞻「お読み戴き多謝でしゅ。諸葛亮こと朱里の娘にして北郷一刀の第23子、しょかっちょでしゅ!」

曹丕「乱文乱筆なれど楽しんで戴けたかしら。曹操こと華琳の娘にして北郷一刀の第9子、そうっぺよ♪」

周循「少しでも面白いと思って下されば重畳。周瑜こと冥琳の娘にして北郷一刀の第25子、しゅうっちで~す☆」

 

 

曹丕「今回の投稿では、読者様におかれては随分驚かれたかと思うわ。余りの容量に、3分割することになったそうよ。というか、危うく4分割するハメになるところだったとか。何をどうトチ狂ったらこうなるのかしら……?」

 

諸葛瞻「はぁ。何でもプロットでは……題名通り、華蝶仮面と呉勇士の戦いで始まり、日常風景を挟んで、最後にあのような形で星様と雪蓮様が表裏一体となって“正義”の為に戦うことを誓い合う、みたいな感じだったらしいでしゅよ」

 

周循「ところが、挟む日常のエピソードが膨らむ膨らむ。ごく短く、各シーンをテキスト3KB程度で見積もっていたらしいです。でも書いてみたら、1エピソード平均13KB強。どんだけ増えてるんだって感じですが」

 

曹丕「分量が分からないとは言い訳してたけど、限度ってものがあるでしょうに……。まあ書いてしまったものは仕方ないということで、応援ボードで戴いたT.K69様からのご助言通り、分割することにしたらしいわ。でも2分割では収まり切らず、3分割することに……」

 

諸葛瞻「TINAMIが3作まで連続投稿可能で良かったでしゅねぇ(嘆息)」

 

曹丕「でも、なんで同時投稿なの? 時間を置いてもいいと思うのだけど」

 

周循「あー、序文(作品説明)の口上のネタがもうないからだとか? 一応最終話予定の第26話まで考えてあるみたいですが」

 

諸葛瞻「それは表向きの理由で、実際は『華蝶仮面vs呉勇士』が最初と最後にくるので、纏めて読んで欲しかったみたいでしゅ。前後編なら、分けても良かったんでしょうけど、3分割だと、中編に『仮面』たちが出てきましぇんから……」

 

曹丕「……あ、そう……。一遍に読まれた方、お疲れ様でした。本当にありがとうございます(ぺこり)」

 

 

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○お詫びと訂正

 

曹丕「で、いきなり謝罪なの?」

 

周循「はい。筆者は今まで“詠は月を同性愛の対象とは見ていない”と思い込んでいたのですが。実は、『真』の蜀ルート(正確には三バカ+白蓮拠点)で『愛しのあの娘とどうやったらあーんなことやこーんなことが出来るか考えようの会』に所属していることが判明しました」

 

曹丕「……明らかに愛欲の対象として見てるじゃない。それで?」

 

諸葛瞻「ということで、本作第7話本編の一部を修正しておりましゅ。具体的には、以下の文を削除致しました」

 

 

<削除部分>

(女同士ってだけで、どうかと思うけど……確かに、そ、そういう時の月は可愛いと思うけど。自分達だけで、とは思わないし……)

などと考えていた詠であったが、口には出さなかった。

 

 

曹丕「穏様が鼻血癖に悩む稟様に、お母様(華琳)以外の女性と関係を持つことに対しての所感を聞いているシーンね。確かに女性の同性愛に対する否定的意見ね」

 

周循「明らかに筆者のリサーチ不足によるものです。ここに改めてご報告および謝罪申し上げます。どうかご了承の程お願い致します」

 

 

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○議題:劉協と華佗の真名について

 

周循「まずは劉協様の真名、『睡蓮』からですが。これは花言葉ありきのネタです。ただ、正直今後公式が続編やFDなどを発表した際、新キャラについてもおかしくないくらい、普遍な名前なんですよね」

 

曹丕「筆者としては、以前の管輅のように、オフィシャルと被る設定は極力排除したいのだけれど……」

 

諸葛瞻「宝石言葉など、色々調べたのでしゅが、残念ながら“滅亡”やそれに類する意味・言葉を持つものは発見出来ましぇんでした。よって、しょのまま『睡蓮』を採用した次第でしゅ」

 

曹丕「まあこちらは普通だし、まだいいわ。問題は華佗先生の真名よ」

 

諸葛瞻「筆者が“医者王ならコレしかないだろう!”と、最初はまんま『凱(がい)』だったそうでしゅ。しかし、作中で華佗先生を真名で呼んでも、読者様には「は? 凱って誰?」となるだろうと」

 

周循「しかし、既に葉雄(華雄)様にも設定する予定の真名があり、父さんと真の意味で打ち解けたのなら、真名を預けないのはおかしい。という訳で無理矢理こじつけたのが『獅凱(しがい)』であったそうです。医者としては忌避したい名前なので、真名を預けるけど、今まで通り華佗と呼んでくれ、と」

 

曹丕「これまた強引な手段に出たものね。読者様におかれては、華佗の真名を覚える必要は全くありません。今後、恐らく出てくることは無いでしょう。しゅうっちの言った通り、『真名を預けた』という事実こそが重要であるということです」

 

諸葛瞻「オフィシャルで華佗先生に真名が付いたら、『凱』だったりして……」

 

三人「「「…………」」」

 

 

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○議題:孫行者について

 

曹丕「雪蓮様が“変身”した際の呼称ね。詳しい方なら、“岩から生まれた”などの表現から、すぐに『西遊記』のネタだと気付かれたでしょうね」

 

諸葛瞻「そうでしゅね。『孫行者』とは、『三国志演義』と同じ中国四大奇書のひとつ『西遊記』で有名な『孫悟空』のことでしゅ。“行者”は孫悟空の字なんでしゅって」

 

周循「恋姫の名乗りっぽく言えば……『姓は孫、名は悟空、字は行者。真名は、野●雅●!』……みたいな?」

 

曹丕「危ないネタは止めなさい!(ゴンッ!)」

 

周循「へぐっ!? す、すいません……」

 

諸葛瞻「しゃて、問題は時代考証でしゅ。実は『西遊記』の原型となったとしゃれる説話が出来たのは元王朝時代……三国志の時代から千年も先なんでしゅよ。しょもしょもの『三蔵法師』のモデルである玄奘三蔵の取経の旅でしゅら、西暦629年……400年近く先でしゅねぇ」

 

周循「あいたた……。と、という訳で、本作の“外史”では、『西遊記の説話はないが、道教の神・化生としての逸話が存在する』、ということになりました。姓が同じ“孫”ですし、元ネタである『桃●郎侍』の“~から生まれた”の口上にもぴったりということで、時代考証をガン無視しました」

 

曹丕「雪蓮様がお父様から貰った剣に『天河鎮定』と銘をつけたのは、孫悟空の武器として有名な『如意金箍棒』の正式名……というか、元々の名前である『天河鎮定神珍鐵』から取った、ということね」

 

 

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○議題:モブキャラについて

 

諸葛瞻「本作では、名前もあるし、喋ったりもしゅるのに、オリジナルキャラクター(以下、オリキャラ)として紹介しゃれていない人物を概して『モブキャラ』と称しゅることと致しましゅ」

 

曹丕「映画や漫画などの“群集”を現す言葉ね。所謂『その他大勢』のことよ。原作・ゲーム本編で言えば、目の描かれてない兵士たちや、アニキ・チビ・デブの三悪党、名前しか出てこないキャラが相当するわね」

 

周循「帝国成立後から、段々とモブキャラが増えてきました。これは周囲の人物が“帝国”に集まる為です。本作では、以前より宣言している通り、オリキャラは三名の予定です」

 

曹丕「現在二名まで登場しているわね。一人目が『大陸一の占い師』管輅。二人目が今回大活躍だった『先帝にして北郷一刀の義弟』劉協こと睡蓮。どちらも原作ではモブキャラだったのね。……なお、敬称略よ」

 

諸葛瞻「最後のオリジナルキャラクターも、原作ではモブ……というか名前すら出なかった方だしょうでしゅけど。モブキャラとオリキャラの違いは、単純に主役・準主役級=オリキャラ、その他大勢=モブキャラ、と分類しておりましゅ」

 

周循「特に今回は6人ものモブキャラが出演しました。恐らく、今後本編に出ることはないと思いますので、筆者のプロットから設定を引っ張ってみたいと思います」

 

 

【曹仁】

一人称:拙者。武士っぽく。曹純を字(子和)で呼ぶ。華琳ら、魏将の真名は全て預かり済み。後ろに「殿」を付けて呼ぶ。

 

【曹純】

一人称:私。智将っぽく。曹仁を「兄さん」と呼ぶ。華琳ら、魏将の真名は全て預かり済み。後ろに「さん」を付けて呼ぶ。

 

【曹憲】

史実で劉協に嫁いだ曹操の娘を曹仁の妹に設定。ロングヘアで巨乳なドS長女。家族愛は強い。睡蓮よりちょっと年上。事件後、睡蓮に嫁ぐ。

 

【曹節】

史実で劉協に嫁いだ曹操の娘を曹仁の妹に設定。ツインテールで並乳なツンデレ次女。情が深く同時に嫉妬深い。歳は睡蓮と同じくらい。事件後、睡蓮に嫁ぐ。

 

【曹華】

史実で劉協に嫁いだ曹操の娘を曹仁の妹に設定。ショートで無乳な被支配願望系ドM末妹。睡蓮よりちょっと年下。事件後、睡蓮に嫁ぐ。

 

【何咸(かかん)】

今回の悪役。後漢王朝末期の大将軍、何進の息子。歳は一刀や華琳らと同じくらい。一人称:オレ。ナルシスト。好色漢。“怨嗟”に呑まれ、権力に取り憑かれた小悪党。時代劇の悪代官っぽく。最期は雪蓮に斬り殺される。

 

 

諸葛瞻「以上でしゅね。全く使ってない設定もあるんでしゅねえ。もしかしたら子供編で出す、ということもあるかも知れましぇん」

 

周循「モブキャラには真名を設定してません。また、曹仁・曹純が旧魏将の真名を預かり済みである理由ですが、“曹操の血縁であること”、“どちらも曹操に愛された魏に名高い将軍であること”です。因みにこの二人は史実通り、華琳様と血は繋がっていません。華琳様はお父上が宦官の養子なのです。よって、本作の曹三姉妹も華琳様と血は繋がっていません」

 

曹丕「……設定を見る限り、睡蓮様の結婚生活ってかなり波乱なんじゃないの、これ……」

 

周循「妄想膨らみますね~(笑) 何咸についての詳細は、次の議題にて」

 

 

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○議題:何咸(かかん)について

 

曹丕「さて、今回の悪役だった何咸ね。作中では何進の息子とされているけれど、実は史実だと何進の息子の諱は不明なのよ」

 

諸葛瞻「ウィキ先生の「何晏(かまん)」の項目に、その父、つまり何進の息子の名が「何咸」である可能性が示唆しゃれていましゅ。本作ではしょれを採用しました」

 

周循「何進の孫にあたる何晏は相応に有名なようです。本作では何咸に“史実の何晏”の性格などを持たせています。以下に挙げます」

 

・生母の尹氏が曹操の妾となり、その関係で曹操の下で育った。

・才気煥発であり、曹操にはその才能を認められ、娘を妻に娶るなど厚遇された。

・相当なナルシストであったとされる。

・相当な好色漢であったとされる。

・魏で実権を握ると、我儘勝手な政治を行った。

・司馬懿がクーデターを成功させた際、何晏に曹一族の裁判を担当させた。何晏は自分が助かりたい一心で曹一族の裁判を厳しく行ったが、結局罪人の中に何晏の名も加えるよう司馬懿が指示し、死罪になったと思われる。

 

曹丕「以上のような説を一部採用あるいは改変し、何咸を、司法を司る九卿として、かつ悪党役として描写することにしたそうよ」

 

周循「今回は議題が多かったので、改ページしてのゲストコーナーです! 自己紹介をお願いしまーす☆」

 

 

孫登「みにゃしゃ……」

 

四人「「「「いきなり噛んだ!?」」」」

 

孫登「噛んでません!# み・な・さ・ん、初めまして。孫権こと蓮華の娘にして北郷一刀の第11子、孫登(とう)です。諱は早世してしまう孫権の実子でも屈指の才子であった長男から。いい人って早く死ぬ運命なんでしょうか……?」

 

四人「「「「……(イイ事言ってる積もりっぽいけど、噛みのインパクトが大き過ぎ……)」」」」

 

孫登「はいはい、いきなり噛んですいませんでしたーー!# 次、次よ甘述(じゅつ)!」

 

甘述「……はっ。甘寧こと思春の娘にして北郷一刀の第27子、甘述です。諱は史実通り、甘寧の実子からです」

 

 

諸葛瞻「え~、えっと。孫登しゃまはそうっぺと同じ年長下級(小5クラス)、甘述ちゃんはしょかっちょ、しゅうっちと同じ年少上級(小4クラス)でしゅね」

 

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○質問:特技・特徴は何ですか?

 

孫登「…………(頬を膨らませている)」

 

甘述「孫登様。そろそろご機嫌をお直し下さい。話が進みません」

 

孫登「もー、勝手に進めておいて下さい!#」

 

甘述「はぁ。では、僭越ながら側近である述から、孫登様をご紹介致します。まず、いきなり初っ端から飛ばしてますが。『よく噛む』ことが挙げられます」

 

孫登「ちょっ!? 紹介って、そういうことなの!?」

 

甘述「基本、キャパが小さいと申しますか、テレ屋でらっしゃるというか。非常に打たれ弱く、テンパりやすい方であり、そうなると尚更“噛み噛み”になる傾向が見られ、泣きが入ることもしばしばです」

 

諸葛瞻「仲間でしゅね♪」

 

孫登「……そうですねー、仲間ですねー(棒読み)」

 

甘述「基本的に我儘で自己中と申しましょうか。自身が話の中心にいないと不機嫌になられます。但し、誰かをからかう場合はこれに当て嵌まりません。周囲からはよく陸延おねえちゃん【穏】やそうっぺと同様、『ドS』と評されることが多いです」

 

孫登「異議ありー! 私は誰かを苛めて悦んだり、苛められて悦んだりしません! ですからSでもMでもないんです! どうして誰も信じてくれないの!?」

 

甘述「まあMでないのは確かですね。正しく評するなら『お姫様気質』であるかと。ただ、丁寧語の割に無意識的に“上から目線”だったり、誰かをからかったりツッコミを入れるときは非常に輝いておられることから、軽度のS気質であるのは確定だと思われます。また、今も述が孫登様を紹介しているように、『面倒事が嫌いですぐ他人に押し付ける』ことが間々あります」

 

孫登「…………」

 

甘述「辛いものは一切口に出来ません。辛いものを好む方は後宮にも幾人かいらっしゃいますが、全員纏めて“変態”扱いです。また、後宮では猫好きな方が多いのですが、『猫より犬派』という、意外にも後宮内ではマイノリティ側です」

 

諸葛瞻・曹丕・周循「…………」

 

甘述「最後に、ある意味最大の特徴ですが。守銭奴というと誇張でしょうが、『お金大好きー♪』が口癖であられます。まあ高価なモノでもいいようですが。なんにしても“資産を貯めこむこと”がお好きなのです。これが原因でよくトラブルを起こされるので、皇女内の隠れトラブルメーカーでらっしゃいます。なにせ見目麗しい方ですので、熱狂的なファンも多く、貢物をすぐ受け取ってしまうのです。側近の述も苦労しています」

 

孫登「……甘述って、私のこと嫌いなの?」

 

甘述「そのようなこと、天地が逆転しようとありえません。うぉーーー! 風……」

 

孫登「あ゛ぁ゛!? 今、何を口走ったぁ!?」

 

甘述「……失礼しました。こほん、改めて……うぉーーーー! 孫登様ーーーー! サイコーーーでーす!」

 

曹丕「本当、あなたたちは良い主従ね(くすくす)」

 

孫登「そうっぺ、本気で言ってますか?」

 

曹丕「ふふふっ。さあ、甘述。今度は孫登の長所を述べなさい」

 

甘述「……はっ! 孫登様は礼儀正しく、友誼に篤く、義理堅いことから、自然と周囲には常に人が集まる『カリスマ系』の皇女であられます。反面、身分に囚われることがなく、庶人にも親しく接する為、老若男女の区別無く、洛陽でも屈指の人気を誇ります。また、常に周囲に気を配ることを忘れない、所謂“気配り屋”でもらっしゃいます。同輩以上の方には基本丁寧語で会話されるのが特徴ですが、年下にも非常に優しく接する面倒見の良い方です」

 

孫登「もういい! もういいから! そこまで!////」

 

周循「ほぉ~、ほんとにテレ屋でらっしゃるのですねぇ」

 

曹丕「劉禅様【桃香】と並んで、お父様の“血”を濃く継いだ、とも言えるわね。まあ劉禅様【桃香】と比べれば余程“皇女らしい”けれどね。……そう言えば、孫登も『隠れファザコン疑惑』の容疑者の一人だったわね。そこのところ、どうなの?」

 

孫登「飽く迄も家族愛です! 私はお金持ちの方が好きですから!」

 

諸葛瞻「……皇帝なのに、娘からも金持ち扱いされないお父しゃまって……」

 

甘述「……その割に、高価な貢物をされても、受け取るだけで全く相手にしませんね。ある意味、劉禅様【桃香】よりも選り取り見取りの位置にいると思うのですが」

 

孫登「劉禅様【桃香】は別格よ! わ、私はもういいでしょう? 次は甘述の番よ」

 

甘述「はぁ。と言っても、述は孫登様のように尖った特徴はありませんが。第一に、ひとつ歳下のクラスですが、孫登様の側近として扱われています。これは母上の意向でもありますが、勿論、述自身の希望でもあります。あとは身長、ですか。皇女でも二番目に高いです。そのせいか、孫登様より年上に見られるのが、微妙にコンプレックスです……」

 

周循「因みに一番高いのは楽鎮姉さん【凪】です。年上に見られるなんて、羨ましくもあるが……。まぁ、これは個人の感想だしな」

 

甘述「武官となるべく修行中の身です。母と同じく柳葉刀の刀剣術も嗜みますが、最も得意なのは弓です」

 

曹丕「そうね。黄蓋こと祭様直伝の弓術は“師にも劣らじ”、と謂われる武の天才児の一人よ」

 

甘述「あと側近としては便利ということで、明命様に隠密術なども習っています。このくらいですよ」

 

諸葛瞻「武の天才児というだけでも凄い特徴だと思いましゅが……孫登様が濃しゅぎましたね(苦笑)」

 

 

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○質問:特に仲の良い姉妹は?

 

曹丕「孫登は数多そうねぇ。というか、殆どの皇女と仲いいじゃない。挙げるとキリがなさそうだわ」

 

孫登「はーいはいはい! 何と言っても最も尊敬する姉は、陸延おねえちゃん【穏】です!!」

 

周循「そ、そんな強調しなくても……」

 

甘述「……個人的な感想を述べさせて戴くならば、孫登様の陸延おねえちゃん【穏】への態度は“尊敬”というよりも、“畏怖”の方が近いと思います」

 

諸葛瞻・曹丕・周循「…………」

 

孫登「そんなことは断じてないです! 尊敬してますからねー! 陸延おねえちゃん【穏】!」

 

曹丕「あんまり強調し過ぎると、却って裏がありそうよ、孫登……」

 

孫登「ホントなんですーー!」

 

諸葛瞻「ま、まあまあ。特に親交の深い方を挙げると如何でしょう?」

 

孫登「はぁはぁ……。そ、そうね、“一番”と言われたら“心友”楽鎮【凪】ね。勿論、甘述とはいつも一緒よ。次にお茶会メンバーの夏侯充【春蘭】と荀惲【桂花】かしら。それから馬秋【翠】とも気が合うわね。馬承【蒲公英】も苛め……もとい、からかうと楽しいし。張苞姉様【鈴々】も仲いいし……。あ、最近は……」

 

周循「本当にキリがないほどですね。それだけ信頼される人望をお持ちである、ということでしょう」

 

曹丕「甘述はどう?」

 

甘述「真っ先に挙がるのは当然孫登様です。側近であり、何より尊敬する姉ですから。意外でしょうが、陳律【音々音】とは良く遊んでいます。あとは手が掛かるという意味が大きいですが、周邵【明命】でしょうか……」

 

諸葛瞻「甘述ちゃんは、旧呉勢のお母しゃまの娘たちの“お目付け役”的ポジション、というイメージがありましゅね」

 

甘述「ああ、それは正しい認識かもしれん。皇女は皆、おかしな連中が多いが、旧呉勢の皇女らは特に顕著だからな」

 

周循「……しゅうっちもなのか?」

 

甘述「お前は、ボケるためなら身体を張るからな。時折危なっかしいのだ。只でさえ孫紹様【雪蓮】の側近扱いで、危険が多いというのに……」

 

周循「あー……。いつもすまないねぇ……」

 

甘述「…………。その程度のボケならいいのだがな」

 

周循「スルーは止めてくれ……(がっくり)」

 

 

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○アンケート:次回、読んでみたい姉妹は?

 

周循「恒例ゲストのリクエスト募集です! 以下の二つからお好きな方をお答え下さい。コメントの端に追記戴ければ幸いです。リクエストのみでも全然OK☆ 皆様のご回答をお待ちしております(ぺこり)」

 

A:美羽・七乃の娘達(義理の娘である袁燿含め3人)

B:雛里・麗羽の娘達

 

 

 

周循「今回は日常……拠点的なお話でしたが、裏の主題は『これからも宜しく』でした。本文中でも、父さんが何度も言ってますね」

 

諸葛瞻「こほん。また、今回は“権力争い”の縮図的描写が後編で描写されました。やはり権力というのは、人間を堕落させる魔力があるのでしょうか。しかし、それによって自身の信念・軸をぶらされることがないからこそ、北郷一刀という主人公は輝くのだ、と筆者は信じているそうです」

 

曹丕「そうね、それこそお父様のお父様たる所以かもね。……それではまた次回お会いしましょう。せーのっ」

 

 

五人「「「「「バイバイ真(ま)~~~☆彡」」」」」

 


 
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