「ぐぎゃあっ!」
霊波刀に切り裂かれた野盗の体から吹き出す鮮血を浴びる横島。
「光の剣…。やっぱり横島様が…、天の御遣い様?」
「マ、マジかいな」
「しかし、あの光の剣はまさに占い通りの」
「驚いたの~」
「はぁ、はぁ、はぁ…うぷっ!」
息を整えようとする横島。
だが、返り血で赤く染まった自身の体と目の前に横たわる”自分が切り捨てたばかりの”野盗の死体を見た途端、耐え様も無い嘔吐感が襲って来る。
「ぐべはぁっ!」
「おにいちゃん!」
耐え切れずに吐き戻してしまう横島、そしてそんな彼を心配して駆け寄る鞘花。
「げほっ、げぼっ」
「おにいちゃんっ、だいじょうぶ?おにいちゃん」
(何よ、御使いだの何だのいっても結局ただの役立たずじゃない)
腹の中を空にする勢いで吐き続ける横島を失望の目で睨みつけた荀彧は別の場所へと駆けて行く。
第七節「決意と覚悟、そして…」
「あちゃ~、期待させといてソレはないで~」
「ガッカリなの~」
「う、うむ」
楽進達もまた失望の眼を向けるが…
「ちょっと待ってよ皆。あれを見て」
ようやく吐き切り、顔を上げた横島のその目はまったく曇ってはいなかった。
「劉備ちゃん!」
「は、はいっ!」
「鞘花ちゃん達を…頼んだ!」
鋭い目をした横島は鞘花達を劉備に託して再び戦いの中へ走って行く。
「な、なんや、やるやないか横島はん」
「我等も横島殿に続くぞ!」
「はいな!」
「分かったの~!桃香様はさやちゃん達をお願いなの~」
「うん、皆も頑張って!」
「「「御意っ(なの~)!」」」
彼女達の様に戦えない自分に少し苛立つも、今自分に出来る事をしようと安全そうな場所へと避難しようとする劉備に鞘花は不安な顔をして彼女の服を掴む。
「ねえ、とうかさま。おにいちゃん、だいじょうぶかなぁ?」
「大丈夫、きっと大丈夫だよ」
「ほんとう?」
「うん、だって……」
劉備は頬を赤らめて断言する。
「だって、横島様は御使い様だから!」
ー◇◆◇ー
「荀彧様ぁ」
「情けない声を上げるな!今、皆が誰の為に戦っていると思ってるのよ!そのあんた達が諦めてんじゃないわよっ!」
「は、はい…」
避難所に集まって来る邑人達、その誰もが泣きながら諦めの表情を浮かべ、荀彧はそんな邑人達にきつめの言葉を放つ。
(まったく、一番泣きたいのは私よ)
状況は正直絶望的である。
直ぐにでも逃げ出したい気持ちを必死で抑え、何とか戦況を引っくり返す策を見付け様とする。
(でもこんな状況じゃ…。何か、何か皆の戦意を限界以上に引き上げる何かがあれば)
「へへへ、見ぃ~つけた」
「ひっ!」
そして遂に野盗に見つかり、その男は薄笑いを浮かべつつ剣を振り上げる。
(そ、そんな。こんな所で?こんな所で私の夢は終わるの?い、嫌)
「嫌だぁーーーーっ!」
その時…
「その娘に近づくな!」
「きゃあっ!」
その声が聞こえた瞬間、荀彧は突然抱き抱えられる。
「邪魔すんじゃねぇ、死ね!」
「死ぬのは…お前だ!」
何度目になるのか分からない光の刃を振るい、横島は眼前の敵を切り裂く。
そして荀彧は誰に抱き抱えられたのかと顔を上げれば其処にあったのは横島の顔であった。
「な、何をするのよ!もしかしてこんな時に私を襲うつも「此処からどうすれば良いっ!」…え?」
「此処から俺は、俺達はどうすれば良い?どうすればこの邑を守れる!?」
横島に抱き付かれたと憤る荀彧だが、その真剣な目を見ると沸き立っていた嫌悪感はすっと消え去った。
そして荀彧は『奪え、殺せ』と喚く大柄の男を指差して指示を出す。
「そ、そうね。先ずはあの頭目を何とかするのが先決よ。この手の輩は自分達を統率していた頭が消えれば容易く総崩れになるわ」
「分かった!何とかやってみる!」
そう言うと横島は口の周りに付いたままの吐瀉物を拭い去ると頭目に向かって駆け出す。
「な、何よアイツ…、そうだ!これなら」
荀彧は見つけた、この状況を覆す唯一の方法を。
「ちょっとアンタ、皆に触れ回って!」
「は、はい」
近くに居た義勇兵に彼女は告げさせる、《天の御使い、降臨せり》と。
ー◇◆◇ー
「はぁ、はぁ、はぁ」
漸く邑に乗り込んで来た賊達が駆逐され、横島は膝から崩れ落ち、両手をつきながら肩で息をしていた。
「おにいちゃん、だいじょうぶ?」
そんな彼に鞘花が駆け寄り心配そうに声をかける。
「え、ああ、だいじょう…ぶだが……俺の事、怖く…ないのか?」
「なんで?」
鞘花は横島の問い掛けに首を傾げながら答える。
「だって俺は…大勢の人間を殺したんだぞ。今だってこんなに……血まみれになって…」
そう言って横島は返り血で真っ赤に染まった自分の手を見下ろすが、鞘花はそんな彼を恐れるどころか笑顔でその顔を見返す。
「でもおにいちゃんはさやとかかさま、そしてむらのみんなをまもってくれたんだよ。こわくなんかぜんぜんないよ。だっておにいちゃんはおにいちゃんだもん」
「!!……俺は…俺?」
「そうだよ、おにいちゃんはおにいちゃん!さやのだぁーーいすきなおにいちゃんだよ」
鞘花の何気ない、素直な心からの一言。
それは横島の心を硬く凍りつかせていた氷を砕き、そして柔らかに溶かしていった。
――たとえ今は辛くても何時かきっと笑える時が来るから
――何時までも私の好きなお前のままで居て
――ヨコシマはヨコシマなんだから
(そうか…、俺は”俺”でいいんだ。俺は俺のままで)
「おにいちゃん?」
虚ろなままだったが徐々に光を取り戻していく瞳から零れて来る涙。
当然泣き出した横島を心配したのか鞘花の顔を掴んで覗き込む。
「だいじょうぶ?おにいちゃん」
「ああ、だいじょう…ぶだか…ら、だいじょう…ううう」
「おにいちゃ、わぁっ!」
俯いた横島を再度覗き込もうとした鞘花だったが、彼はその小さな体を抱きしめる。
「ありがと、ありがと……、ありがとう!」
「あぅ…、えへへ、どういたしまして」
何故、お礼を言われるのか分からない鞘花だが、泣きじゃくる横島のその頭を抱きしめて髪を撫でる。
そんな二人を微笑ましく見つめる劉備達、そして少し離れた場所で見ている荀彧。
(…きっとさっきまでの私ならあの姿を見て、見下してあざ笑い罵倒していたでしょうね。でも…)
賊の一人を切り捨てただけで戸惑い、嘔吐する。
(天の御使い、きっと天の国は争いなんか無い、平和な国なのかもしれない)
乱世の中で生きている荀彧からすれば何とも平和ボケした頼りない御使いだろう。
今もその眼前で小さな女の子にしがみ付いて泣き続けている。
(でも、それでも逃げなかった。苦しみながらも、泣きながらも戦って守り抜いた)
抱き抱えられた時に服に付いた吐瀉物のツンとした臭いが鼻をつくが不思議と嫌悪感は感じなかった。
(ああ、そうか……、そうなんだ!)
横島を見つめる瞳は潤み、頬は赤らみ、胸の鼓動はトクン、トクンと高鳴る。
(居た、此処に居た、主は、私が仕えるべき主君は)
両手を胸の前で握り締め、満面の笑みを浮かべる荀彧。
(今、私の目の前に居るっ!)
《続く》
(`・ω・)遂にデレたっ!(計画通り)
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とうとう……