No.113839

聖夜と恋姫達 -魏編-

ぴかさん

聖夜と恋姫達第2話
今度は魏編となります。

続きではないですが、前作と同じく現代が舞台のためカタカナの言葉が出てきたり、口調が異なったりと原作と差異があります。
また、華琳の雰囲気がかなり変わっているので、その辺りご了承いただければと思います。

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2009-12-23 12:21:25 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:11144   閲覧ユーザー数:8893

「華琳様ー!!」

 

猫耳の帽子が特徴の女の子が走ってくる。

華琳を崇拝する桂花である。

 

「桂花……、何かしら?」

 

華琳は振り返り、桂花の到着を待つ。

桂花は華琳の前で立ち止まると息を整えて手に持った雑誌を見せた。

 

「華琳様、クリスマスですよ」

「クリスマス…… 、ああイエス・キリストの降誕を祝うとかいう日ね」

「そうなのですが、クリスマスはそれ以上の価値があるようです」

「そうなの?」

「はい、この雑誌によると……」

「ふむふむ……、なるほどね。これは是非とも実行しなくてはならないわね」

「はい!! だから、クリスマスは……、私と……」

「そうね、考えておくわ」

 

華琳のその言葉に桂花は身悶えてしまっていた。

こうなってからの桂花は、なかなか戻ってこない。

そんな桂花に呆れつつ、華琳はその場を離れた。

 

 

華琳は先ほどの雑誌でのある一文に注目していた。

 

恋人達のクリスマス……。

 

そう、クリスマスはキリストの降誕を祝うのではなく、恋人達が一夜を過ごしその愛を育む日である。

その一文によって、そんな解釈が華琳の頭の中で出来上がっていた。

ならば、恋人として誰かと一緒に過ごさなければならないだろう。

その候補の男性は決まっていた。

一刀である。

既に、恋人のような関係ではあるが、そんな二人でもクリスマスは特別だろう。

そんな特別な日を一刀と一緒に過ごさない手はなかった。

 

しかし、それには数々の障害がある。

まずは実子が存在する蓮華を初めとする呉の面々。

次に、あちらの世界で一緒に過ごしていた桃香達蜀の面々。

さらには、この世界でも一刀に好意を持っている女性は何人かいるようだった。

それらを排斥しなければ、クリスマスを一刀と二人で過ごすことなど到底不可能であった。

 

あちらの世界なら、それらを排斥するのに訳はない。

だが、この世界ではあちらの世界の常識は通用しない。

なので、それを華琳一人で成すのは難しいだろう。

そこで、華琳は自分を慕う者達の協力を仰ぐことにした。

 

華琳は早速、その者達のいる場所へと向かった。

 

 

学園の体育館に併設されている弓道場。

期末試験一週間前になると部活動は全て禁止されるため、今が試験前最後の追い込みだろう。

次々と放たれる矢は的確に的を射抜いていく。

静かな中に沸き上がる闘志のようなモノに、華琳も気圧されそうになる。

その中に見慣れた二人の姿があった。

矢を放つ秋蘭とその様子を見守る春蘭。

そう、華琳の事を一番よく知る夏候姉妹であった。

 

「春蘭、秋蘭、ちょっといいかしら?」

 

華琳は、秋蘭が矢を放ち終えるのを待って二人に声をかけた。

 

「か……華琳様!!」

「どうされたのですか、こんな所に?」

 

二人は、華琳の元へと駆け寄った。

 

「秋蘭、相変わらずの弓さばきね」

「ありがとうございます。ですが、まだまだ……」

 

秋蘭が思い浮かぶのは一人の女性。

おそらく彼女にはまだ敵わないだろう。

 

「春蘭は……、何をしているのかしら?」

「秋蘭の応援です!!」

 

自信たっぷりに言う春蘭にただただ呆れるばかりの華琳。

 

「そう……。邪魔をしないようにね」

「はい!!」

「ところで、華琳様は何用で?」

「そうね……。二人とも、クリスマスって知っているかしら?」

 

華琳の言葉に春蘭が慌て始めた。

 

「華琳様!! どこか具合でも悪いのですか!?」

「別にいたって健康だけれど?」

「いや、今くるしみますって……」

 

春蘭の言葉に、華琳と秋蘭はため息をついた。

 

「姉者……、くるしみますじゃなくてクリスマスだ」

「クリスマス? それはどんな栗料理だ?」

 

春蘭の度重なるボケに、華琳はもう相手にするのをやめてしまった。

 

「もういいわ、春蘭は。秋蘭は知っているようね」

「そ……そんなぁ、無視しないで下さいよ~」

 

春蘭は華琳に抱き付きそんな事を言うが、華琳はそれを無視することにした。

 

「知ってはいますが、クリスマスがどうかしたのですか?」

「いえ……その……」

 

何やら顔を赤くしつつ歯切れの悪い華琳に、秋蘭は内容を察した。

 

「分かりました。……姉者、行くぞ」

「行くってどこへだ?」

「雪蓮の元だ。いつぞやの決着を付けるのではないのか?」

「おぉ、そうだったな。……華琳様は?」

「私はいいわ。気を付けて」

「はい!! 行くぞ、秋蘭!!」

「ああ!! では、華琳様また」

 

勢いよく走っていく春蘭を追いかけて、秋蘭も走っていく。

その姿を眺めながら華琳は思った。

 

(部活はいいのかしら……)

 

 

弓道場を離れ、華琳は学校内を適当に歩いていた。

すると、前に見慣れた二人組が現れた。

 

「これはこれは、華琳さま~」

「散歩ですか?」

 

風と稟である。

 

「そうね。二人は何をしているの?」

「稟ちゃんが買い物に行くというので、風はその付き添いです~」

「付き添いなどいらないのだけれど……」

「また鼻血を出して倒れたら大騒ぎですから~」

「相変わらずなのね」

 

二人の相変わらずの様子に、華琳は笑顔になった。

そして、真剣な表情で二人に言った。

 

「ところで、二人はクリスマスって知っているかしら?」

「クリスマスと言えば……」

「若い男女がちちくりあう日だろ!!」

「こらっ、宝譿!! そんな言い方するんじゃありません!!」

「ちちくりって……」

 

あまりにもストレートな言い方に華琳は呆れてしまった。

 

「で、そのクリスマスがどうしたのですか?」

「その……二人に協力してもらいたいことが……」

 

どうにもはっきりとしない華琳の様子に、風は察した。

 

「華琳さま、お兄さんならその日は空いていると言ってましたよ~」

「本当に!! って一刀の事なんか……」

 

このやり取りに稟も察した。

そして、お得意の妄想が始まる。

 

「華琳さまと一刀殿が……。 ぶはっ」

「ほらほら、トントンしますよ~」

 

鼻血を出して倒れる稟を介助する風。

見慣れた光景ではあったが、やはり呆れてしまう。

 

「華琳さますみません~。稟ちゃんがこんな様子なのでお手伝い出来そうにないです~」

「そ……そうね。邪魔したわ」

 

二人を置いて華琳はその場を離れた。

 

 

風と稟に会った場所からほどなくして見慣れた三人にあった。

 

「あー、華琳さまなのー!!」

「おっ、ほんまや」

「こんにちは」

 

凪、真桜、沙和の北郷隊三人娘である。

真桜と沙和は手にスナック菓子を持ち、食べながら歩いている。

凪はそんな二人を止めながらも、真桜に無理矢理お菓子を食べさせられている様子だった。

 

「三人は相変わらずなのね」

「隊長の世界は平和なのー」

「せやせや。食べもんもぎょーさんあるし。大将も食べます?」

「おい、華琳さまに失礼だろ」

 

マイペースな真桜と沙和に恐縮する凪。

そんな三人に華琳は笑顔で言った。

 

「凪、いいわよ。もう主従の関係でもないし」

「ですが……」

「さすが、大将は分かってる!!」

「そうなのー」

 

華琳の言葉に調子に乗った真桜と沙和を凪が睨んだ。

途端に蛇に睨まれた蛙のごとく黙ってしまう真桜と沙和であった。

 

「ところで、華琳さまは何をされているのですか?」

「三人を探していたのよ」

「私達を? 何かご用ですか?」

「実はクリスマスに……」

 

クリスマスというフレーズに反応した沙和が叫んだ。

 

「そうなのー!! クリスマスなのー!!」

「沙和、クリスマスって何や?」

「真桜ちゃん知らないの? クリスマスと言えば恋人達にとって一年でもっとも大事なイベントなのー!!」

「もっとも大事って……。うちらには関係ないやん」

「そんなことないのー!!沙和は一緒に過ごしたい人がいるのー!!」

 

沙和の言葉に少しだけ考えた真桜が答えた。

 

「あー、隊長か……。けど、あの人はウチらの知っている隊長やないで」

「でも、あの人も隊長と同じで沙和達を受け止めてくれたのー」

「確かに……。隊長と一緒に過ごすクリスマスか……」

「隊長とクリスマス……」

 

真桜と沙和の会話に食され凪も一刀と一緒に過ごすクリスマスを想像しだした。

と、ここで華琳が睨んでいる事に気付く。

 

「あっ、華琳さま!!」

「大将の事忘れてたわけやないで!!」

「そうなのー!!」

 

三人の慌てっぷりに笑った後、少し悲しい顔になった。

 

「それで、華琳さま。私達への用事というのは?」

「いいえ、もういいわ」

 

そう言って華琳はその場を離れた。

三人はそんな華琳の様子を不思議に思いながら、一刀と過ごすクリスマスの想像に戻っていった。

 

一方華琳は失敗したと思った。

あの三人の一刀に対する感情は、上司と部下それ以上のものだ。

ここにいる一刀が自分達と一緒に過ごした一刀ではないから大丈夫だろうと思っていたのだが……。

先ほどの会話から察するに、あちらの世界と同じような関係になっているようだった。

 

「さすが、魏の種馬と呼ばれた男ね」

 

華琳はそう一人つぶやくと、また歩き始めた。

 

 

華琳は学園を離れ商店街へと来た。

クリスマスらしい装飾がそこかしこにされており、クリスマスらしさを感じずにはいられなかった。

小腹の空いた華琳は、一軒の中華料理屋に入った。

小腹を満たすには中華はきついが、ここに入ったのには訳があった。

 

「いらっしゃいませ!! あっ、華琳さま!!」

 

出迎えてくれたその店員は、華琳のよく知る人物だった。

季衣である。

夕食にはまだ早い時間にもかかわらず、店内はかなり混み合っていた。

華琳は空いている席に腰掛けると、厨房のある方向を見てみた。

厨房内では、これまた華琳のよく知る人物が一心不乱に料理を作っていた。

流琉である。

次々入る注文を的確にさばいていく。

一切の動きに無駄が無く、料理も遅れることなく提供されていった。

この様子じゃ、自分が来た事など分からないだろう。

華琳はそう思った。

 

「華琳さま!!ご注文は?」

 

水を持って来つつ、季衣が聞いてきた。

 

「そうね……。チャーハンをもらおうかしら」

「チャーハンですね。分かりました!!」

 

注文を書き込み厨房へ向かおうとする季衣を呼び止めた。

 

「季衣、流琉には私が来た事は言わないようにね」

「えー、なんでですか?」

「調理の邪魔をしちゃ悪いもの」

 

華琳が来たと知れば、調理を止めて顔を見せに来るはずだ。

そうなれば、店に影響が出よう。

それだけは避けたかった。

 

「良く分かんないけど……、分かりました!!」

 

こう言って季衣は華琳の注文を流琉に伝えた。

 

ほどなくして、華琳の元にチャーハンが届けられた。

久々に口にする流琉のチャーハンを味わいながら、華琳はこの二人にお願いするのはやめようと思った。

 

チャーハンを完食すると、お代を支払い店を後にした。

 

 

季衣と流琉の店を後にした華琳は商店街を歩いていた。

華琳の気持ちは複雑だった。

一刀と一緒にクリスマスを過ごしたい。

だが、一刀を慕う子は自分を慕う子にもいっぱいいる。

季衣や流琉も話をすればきっとそう思うだろう。

 

自分だけが一刀と過ごす事でその子達に寂しい思いをさせてしまうのではないか。

そんな事を考えていると、街中のイルミネーションもなんだか色褪せて見えてくる。

 

沈んだ顔をしていたのだろう。

声をかけられてしまった。

 

「華琳やーん!! 元気なさそうやけど、どないしたんや?」

「霞……」

 

ジュースを飲みながら満面の笑みを浮かべた霞がそこにいた。

 

「いえ、元気よ」

「嘘や!! 何か悩んでいるように見えたで!!」

「悩んでいた……、そうかもね」

「ウチが力になれるんか分からんけど、話すとスッキリするかもしれんで」

「そうね」

 

二人は近くの公園に来た。

ベンチに腰掛け、華琳が話しだした。

一通り聞くと、霞が言い出した。

 

「そりゃ、華琳の思うとおりにしたらええと思うよ」

「思うとおり……」

「その話を聞いたらウチかて一刀と一緒に過ごしたい思うもん」

「そうよね」

「せやけど、ウチに遠慮したら華琳は一緒に過ごせない。それだけの事やん」

「そうか……、そうよね!!」

 

納得した華琳は立ち上がると走りだした。

霞はそんな華琳の姿に安心したが、同時に驚いていた。

 

「なんや、華琳も乙女チックになってしもうたなぁ。この世界のせいか、それとも……」

 

そう独り言をつぶやくと霞も立ち上がった。

 

「しっかし、クリスマスか……。うん、ウチもいっちょ頑張ってみますか!!」

 

そう言って、華琳とは違う方向へ走り出した。

 

 

霞に諭されるとは、私も変わったな。

華琳は走りながらそう思っていた。

あっちの世界なら、自分が諭す事はあっても諭される事など皆無だった。

 

これが自分らしくという事なのか。

よくは分からないが、少なくとも嫌な気分ではなかった。

走りながらそんな事を考えていると目的地に到着した。

華琳達が住んでいるのとは違う女子寮だった。

ここにはあの三姉妹が住んでいる。

意を決して、華琳は中へと入った。

 

三人はちょうど寮内の待合室のような場所で話し合っていた。

 

「あっ、華琳さん」

「こんにちはー」

「今日はどうされたのですか?」

 

華琳がテーブルを見てみるとスケジュールの書かれたノートが広げられていた。

そこの24日、25日の所には大きい文字でクリスマスコンサートと書かれていた。

 

そう、張三姉妹は一刀に会うため芸能界を電撃引退していたのだが、最近復帰していた。

数え役満姉妹の名は全国へと知れ渡り、街中でその歌声を聞く事も少なくない。

 

「三人は、クリスマスは仕事みたいね」

「そうなんですよ~!! せっかく一刀とデートしようと思っていたのにー!!」

「天和姉さん、一刀とデートするのはちぃだよ!!」

「二人とも、一刀さんとデートなんて出来ないって……」

 

思った通りだった。

仕事でなければ、一番のライバルだったかもしれない。

華琳は心の中で安堵の息をついた。

 

「残念ね。一刀とデートをするのは私だから」

「えー!!」

「華琳さまずるい!!」

「……」

 

久々に意地悪な事を言ってみた。

思った通りの反応になんだか楽しくなる。

しかし、三人の予定を確認できればここに用事はもう無かった。

ならば、次の行動に移らないといけない。

 

「残念だけど、三人はコンサート頑張ってね」

 

そう言うと華琳はその場を離れた。

 

「もぉ、嫌み言いに来たんですか!!」

「ホントよ!!」

「……」

 

文句を言う天和と地和であったが、人和のみ頭を下げて華琳を見送った。

 

 

当初とは目的が変わってしまったが、一通り会ってきた。

あとは、本人に話すだけだ。

 

華琳はそう思いながら、一刀が居そうな場所を回った。

だが、男子寮はもちろん、女子寮にも剣道場にも一刀の姿はなかった。

会う人にも聞いてみたが、見かけていないという。

 

「一体、どこに行ったのよ!!」

 

周りはすっかり暗くなり、冷え込んできた。

華琳は冷たい手をこすりながら、それでも一刀の姿を探し歩き回った。

 

そして、理事長の家から出てくる一刀を見付ける事が出来た。

 

だが、いざ声をかけようとすると体が止まってしまった。

 

(どうしたのよ!! 私らしくもない)

 

声をかける。

普段からやっている事が、目的が違うだけで困難になる。

やはり、私は変わってしまったのか……。

 

そんな時、霞の言葉を思い出した。

 

(私の思うとおり……)

 

華琳は勇気を出して一刀に話しかけた。

 

「ねえ、一刀」

 

と。

 

 

あとがき

 

華琳が別人だー!!

そう思う人も多いと思います。

 

今回、他のと区別を付けるため、あえて華琳に乙女らしさ的なものを入れてみました。

どうでしょうか?

改悪だと思われる人もいるかもしれませんね。

 

最後が中途半端かと思われますが、一応続きを後でアップする予定です。

まだ書いてはいませんが、頭の中では色々出来上がったりしています。

 

次は呉編の予定です。

今回もご覧いただきありがとうございました。


 
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