No.113432

恋姫と無双 ~恋する少女と天の楯~ 其の六

柳眉さん

この作品は真・恋姫†無双の二次創作です。
そして、真恋姫:恋姫無印:妄想=3:1:6の、真恋姫の魏を基に自分設定を加えたものになります。

ご都合主義や非現実的な部分、原作との違いなど、我慢できない部分は「やんわりと」ご指摘ください。

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2009-12-21 02:05:06 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:7192   閲覧ユーザー数:5633

恋姫と無双 ~恋する少女と天の楯~ 其の六

 『傷跡』

 

<side一刀 始>

 

戦は終わった……

 

 

 

 

 

 

 

俺も文若も無事だったけど、邑も賊も多くの人が死んだ。

 

 

 

心を病んでしまった者、治らない傷を負った者、支えを無くした者、大事な人を亡くした者―――

 

生きるために戦って勝ち取ったものは確かにある……けど、

 

なくしてしまったモノ、失ってしまったモノ……邑には大きな傷痕が遺ってしまった。

 

 

それでも、邑は生き残ったことを喜んでは笑い、死んでしまった者を悼んでは泣いている。

 

声を上げて天高く届くように、涙を流して地の底深く染み渡るように……広く広く伝わるように。

 

戦を終えて力を使い切り疲労困憊であるのにもかかわらず、その笑い声と泣き声には胸を打つ力強さがあった。

 

 

 

胸に響き空気を震わして、生を祝い、死者に祈る。

 

 

―――それは、昨日と別れ、今日と出会い、未来を迎える神聖な儀式のように見えた。

 

 

 

 

「なにをボケッとしているのよっ!忙しいんだから、あんたもちゃんと働きなさいよっ!!」

 

文若は何枚もの布を両手で持って危なっかしい足取りなのに、俺が止まっていたのを目ざとく見つけていた。そして文若は言いたいことだけ言って、足早にどこかへ行ってしまった。

 

「……これは流石にきついって」

 

溜息をついて、足元を見ながらつぶやく。そこには運んでいる途中の大きな水瓶が2つあった。

 

 

 

 

戦が終わってから、邑の中で擦り傷や軽い打身程度の軽傷で済んだ俺と文若は、他の邑人と同様に邑の為に奔走することにした。人手が足りない所を廻って、生きている人の為に死んだ人の為に少しでも力になるために……

 

 

そうして今は、当面必要な布と水を邑中から集めて運んでいると、つまりはそういうことである。

布と水は治療や予防衛生に必要不可欠のもので、切らさないようにしなければならないとのこと。だから、もう何往復、何週目か分からないほど行ったり来たりを繰り返した。大分、足も腕もパンパンになってきて辛いけど、直接誰かの為になることだし、忙し過ぎて考え事をする時間がないのがありがたい。戦前に見た季衣も俺より大きな水瓶を持って走っている。

 

「とにかく……うごかなくっちゃな」

 

それからは、目の前のことだけ見て一心不乱に動いた。

 

 

 

 

 

日は真上に届いて影は短くなり、気がつけばもう昼になっていた。

朝食を食べてから動き通しで、ぐぅと鳴った腹の虫で昼を迎えたことを知る。

 

「あぁ、意識し始めたら急に腹減ってきた……」

 

一度鳴った腹の虫は、ぐぅぐぅと鳴り続ける。

周りを見ると何かを食べている者がチラホラいて、余計に腹が減ってきた。

 

「腹減った~……って、そういえばどうしたら飯食えるんだろう?」

 

……そうだった、俺ここのお金持ってないし、どこで食べ物をもらえるかとかわからない。

 

「昨日はどうしてたんだっけか?」

 

昨日の夕食は部屋に戻ったらあったし、今日の朝食は起きたら準備されてあった。

 

――――俺は食べてただけだった。

 

 

 

つまり、手配全部を文若がやってくれて俺はそのやり方を知らない。

 

「俺、すごいだめなやつじゃん……」

 

今の今までこのことに気づかなかったなんて……なんというか自分が情けない。

腹が減っていることも拍車をかけて、どんどん気分が沈んでいく。

 

「ねぇ、あんた……ってなにその顔!?」

 

声をした方を見ると、昨日から迷惑を掛けっぱなしになっている文若が、

なんだか申し訳ない気持ちがふつふつとこみ上げてきて

 

「ごめん……」

「はぁ?なによ急に」

「腹が減って気づいたんだけど、昨日から食事とか文若に迷惑かけたのに、賊が来ることだけ考えててそれに気付けなかった……だからごめん」

「そう、べつに気にすることないわ。あんたには陳留まで護衛に就いてもらうことになっているんだし……」

 

……あれ?そんな話だったけ?

「私が聞きたいのは、なんで泣いているのかってこと」

「泣いてる……?俺が?」

「頬に手を当ててみればわかるでしょ?」

 

言われて手を当てると涙の筋があって、そこではじめて自分が泣いているんだと気がついた。

 

「なん……で」

 

拭えど拭えど、涙は止まることなく溢れてきて頬を伝って大地に落ちる。

あったかいような、それでいてツメタイような涙は静かに大地に染みる。

 

「どう……して」

「魂が傷ついてるからでしょうよ――あんたは言った。私の知があんたの武を活かし、あんたの武が私の知を支えるって」

「……あぁ」

「だからよ……結果からみればそれは叶った。だからこそあんたの魂は傷付いたまま」

「そっか……」

「莫迦なのよ……あんたは」

「そう……かな」

「そうよ」

「……そっか」

「強くないくせに……かっこつけて」

「そこは男の意地といいますか……」

「だったら最後まで意地張って見せなさいよ」

「あぁ。……でも、今は無理……みたい」

 

ホントにカッコつかないよな……涙が止まらない。

文若はツカツカと近づいてきて、おもむろに右手を伸ばした。その右手は顔の近くまで伸びてきて、俺は目を瞑る。

 

「情けない奴……みっともないから泣き顔を見せるな」

 

その遠慮のない一言。言い返す言葉もないし、俺自身だってそう思ってる。

だからこれ以上醜態を曝すのがいやで後ろを向こうとして、

 

「弱いんだから、寄り掛かりなさいよ。支えてって言いなさいよ」

 

ガクっと、不意に引っ張られて前につんのめる。ちょうど文若の胸らへん頭がいった。

 

えっと……なんだこの展開!!こいつは男嫌いだろ!?朝だって……

文若に抱きついていた感触は覚えていないけど、それ以上に頬を叩かれた記憶が過ぎる。冷たい汗が止まらない。

文若の手が俺の頭に置かれた。

 

「あんたは弱いんだから、私が支えてあげる。あんたがあたしを支えたように……」

 

文若の声は優しさに満ちていた。その言葉は胸にすとんと落ちる。

 

何かしなくちゃいけないって思ってた……

これからどうするか考えないといけないって思ってた……

全てが初対面の人で、全てが初めての場所で緊張していた……

初めての戦、死が溢れるそこは極限の状態にさせ何もかもを忘れさせた……

 

―――――休むことのなかった心は限界だった。

気付かないまま傷を負った心は、時間ができてようやく涙という血を流した。

 

 

文若はあったかかった。実際に聞こえはしないけど鼓動を感じる近さ、その息遣い、優しく撫でる手は、幼き日の慰めてくれた母を思い出す。

今はもう泣き方を忘れてしまったから子供のように泣けないけど、この時だけは、気持ちに任せてたどたどしく小さな声を出して泣いた。堰を切ったように流れる涙と声はしばらく止まりそうになかった。……たぶん、それだけ安心できたからなんだと思う。

 

 

どのくらいの時間をそうしていたかわからないけど、文若は何も言わず静かに――頼りなくはあったけど――頭を撫でてくれていた。

 

 

―――――ただ、それがありがたかった。

 

 

 

ようやく落ち着いて、顔を上げようとしたとき俺は文若から押されて尻餅をついた。

いきなりの事に顔を上げて文若を見るけど、逆光で表情はわからない。

 

「……これで貸し借りなしだから」

「ん?」

「だからっ!これで貸し借りはなしっ!!……わかった!?」

 

何かと思えば……

 

「ぷっ……あっはっはっは」

「ちょっとっ!何笑って―――」

 

こいつは……文若は律儀というか融通が利かないというか。

きっと、戦の最後のことを言っているんだろう……確かに行動は同じだ。

男嫌いなのに無理させちゃったかな?

ちょっと残念に感じるけど、そんなところもなんだか文若らしいと思う。

 

「くっ……はっはっは」

「――っ、なんなのよっ!もうっ!!」

 

 

 

 

―――この世界に来て初めて笑った気がした。

 

そんな俺を見て、言っても無駄と思ったのか、文若は怒ったような呆れたような顔をして溜息をついた。

 

 

 

 

 

戦が終わった―――――

 

俺の殺した『北郷一刀』は俺の涙で弔われ、俺は今ここに生を祝う。

 

文若の後ろに見える空は寂しくて、射し込む光はあったかかった。

 

<side一刀 終>

 

 

その後、一刀と桂花は共に食事を済ました。

 

そこには温かい雰囲気も冷たい雰囲気もなく、言葉の掛け合いが自然だった。

 

特別なものはない、ただ自然な空気が流れているだけ―――

 

 

それまで通り桂花は怒った顔、しかめた顔、呆れた顔を見せ、

 

一刀は笑った顔、困った顔、苦笑した顔を見せる。

 

 

―――変わらない距離。けれど、二人の距離は近づいていたように見えた。

 

<side桂花 始>

 

戦が終わった。

 

私の策で邑も賊も多くの人が死んだ。

 

 

私が殺した――

 

 

 

 

 

邑の中にいたから人が死んだところを見たのは一度で済んだけど、できれば二度と見たくない。

これまで人を見る機会は何度もあった。悪人も、善人も、罪人も、商人も、高官も、文官も、武官も、庶人も多く見てきた。

でも人を殺すときの目を見たのは初めてだった。

 

血走った目、私を殺す為の凶刃―――武官ではない私はそれを回避する術はない。

護衛を振り切られて、賊が目の前に来たとき避けられない死を感じた。賊の振り上げられた剣が下ろされたとき死ぬんだとわかった。

そして剣は振り下ろされ、あまりの怖さと死ぬという現実を認めたくなくて目を閉じていた。

 

……そんなに怖い思いをしたのに私が思い出すのは、あいつのことだった。

 

走ってきたあいつの鼓動の音、頭を撫でるあいつの手、そして笑っている私――

 

思い出すと不思議と顔が熱くなるけど、それは死を感じた緊張からだと思う。それだけの目にあったのだから……

「撫でろ」なんてことを口走ったから顔を合わせるのに抵抗がある。

だから邑のために動くことはちょうどよかった。

 

 

私は布を、あいつは水を集めて持っていくことになった。

どちらも傷は軽微だったから容赦なくこき使われた。あまり重いものなんて持てないのに、力のある奴がもっと重いものを運んでいるから、私に布運びが回ってきた。

多くは持てないから何度も何度も往復しないといけなくて大変だったけど、今はあいつと顔を合わせづらいから忙しいことはありがたかった。

 

往復しているとき何度も見かけるあいつ。不思議とあいつが目に付く。

あいつはボーっとどこかを見ていることが多かった。それは人だったり、場所だったり、物だったりで特に何かを見ているというわけではないみたい。

 

「こっちは何度も何度も往復しているってのに……」

 

だから、ちょっと顔を合わせ辛くはあったけど

 

「なにをボケッとしているのよっ!忙しいんだから、あんたもちゃんと働きなさいよっ!!」

 

なんて言葉を投げた。そして振り向いたあいつの顔はなんだか泣きそうな顔だった。

そんな顔を見ていられなくなって、足を踏み出していた自分に驚く。

訳がわからなくなって、あわててその場を去った。

 

 

昼になる頃、ようやく落ち着いてきた。

どうせあいつは食事をとってないだろうし、しょうがないから面倒見てやるかと邑を歩いた。

 

 

「ねぇ、あんた……ってなにその顔!?」

 

そして見つけたあいつは、今にも泣き出しそうな子供のようだった。

 

 

――――――あぁ、こいつは……

 

こいつは強くもないのに、私との誓いを守るために自らを縛って無理して戦ったんだ。

そしてわたしは、弱いこいつに強いこいつを演じさせて、弱いこいつを殺させてしまった。

 

それをこいつは気付く時間がなかったから、今になって泣きそうなんだ……しょうがない、わよね?

 

……うぅぅうぅ、でもこんな時どうしたらいいのよ?こいつが私にしたように…?

無理!絶対無理っ!!

 

 

 

「情けない奴……みっともないから泣き顔を見せるな」

 

こいつは背を向けて顔を隠そうとした。その時のこいつはなんだか消えそうな火のように弱弱しく小さく見えた。だから――

 

「弱いんだから、寄り掛かりなさいよ。支えてって言いなさいよ」

 

なんて思わず手繰り寄せてしまった。――――あまりにも見ていられなかったから。

こいつは一瞬ビクッと体を強張らせた。

無理することはない、休めていいんだと伝えるように

 

「あんたは弱いんだから、私が支えてあげる。あんたがあたしを支えたように……」

 

頭を撫でる。今まで頭を撫でるなんてことはなかったから、これでいいかわかんないけど……

そしたらこいつは堰を切ったように泣き始めた。不思議なことに、気持ち悪いとか惨めとか情けないとか思えなくて、その姿を見て優しくなれた。

 

 

しばらくそうしていたら、泣き声は消えてこいつは立ち上がろうとした。

なんだか、今顔を見られるのが嫌でこいつを突き飛ばした。

 

―――男は莫迦だから、勘違いしないように言ってやろう!

 

「……これで貸し借りなしだから」

「ん?」

「だからっ!これで貸し借りはなしっ!!……わかった!?」

 

そしたら、こともあろうにこいつは笑い出した。……なんか釈然としない。

でも、吹っ切れたように笑っているその姿を見たら、腹を立ているのが莫迦らしくなって、まぁ…いいかと思ってしまった。

 

 

 

戦が終わった――――

私が多くの者を殺した事実は消えない。

だからこそ、その罪を背負って生きている者死んでしまった者の為に、この知を使わなければならない。

でも…今だけは、背中に受ける陽のあたたかさにまどろんでいたい……なんて、柄にもなくそう思った。

 

通り過ぎていく風は冷たくて、背のあたたかさが際立って感じられた。

 

<side桂花 終>

 

そうしてそれぞれが復旧や治療に勤め、落ち着きを見せた頃、見張りをしていた者が慌てて駆け込んできた。

 

――――砂煙を上げて近づいてくるモノがあると。

 

邑に緊張が走る。現在戦えるものは少なく、戦力になるものは、

 

季衣と一刀、その他に数名といった者しかいない。

 

季衣は立て直しているのに攻め入る者がいることが認められず、またそれがまかり通る世の中が許せなかった。

 

だから誰からの制止も聞かず、怒りに任せ単身でその中に向かう。―――邑を護るために。

邑から出た季衣の見たものは、青藍色の甲冑を身に纏い完璧に統制された兵と同色の旗に翻る『曹』の文字だった。

 

そこから3つの影が出る。

 

他とは一線を画する存在感―その強大なる存在感は、弱き者にしてみれば威圧感ともとれるほどの威光―を放つ少女。

その者に付き従い、受ける印象は異なるが瞳の強さを同じくする者が2つ。片方は長い黒髪と大剣をもつ女性、もう片方は短い空色の髪と弓をもつ女性。それぞれがその容姿とは不釣合いな物々しい得物を身に着けていた。自然に周囲の様子に気を配り、少女に危険が迫ることのないようにしている。その様子を見るに、少女は黒髪の女性と空色の女性の主であろうと予測できる。

空色の髪の女性がやや前に出て季衣に問おうとしたが、口に出したのは季衣のほうが先だった。

普段の季衣を知っている者が聞いたら驚くような、感情を押し殺したような声は怒りの激しさを物語る。

 

「お姉さん達、もしかして国の軍隊……なの?」

「あぁ、そう―――――ぐっっ!!」

 

黒髪の女性が肯定の言葉を出すのと同時に、季衣の得物である鉄球は振り下ろされた。

その一撃を自身の大剣で受け止め一撃の重さに体勢を崩すも、黒髪の女性は主と思われる少女と季衣の間に立ちはだかる。空色の髪の女性も同じように、主と思われる少女の前に陣取り、矢を番えて威嚇する。ただ主の少女だけは、季衣の攻撃をどこか呆然としていた様子で見ていた。

 

「貴様、何をっ!!」

 

黒髪の女性は季衣の攻撃に戸惑い、修練の結果によって反射的に防ぎはしたものの反撃するべきかを迷っている。そして、矢を番えた空色の髪の女性は、主の少女が手で制したことで矢を下ろし、季衣の一挙手一投足に注意を向けている。

 

「国の軍隊なんて信用できるもんかっ!!お金だけもっていってボク達を守ってくれない!!……そのせいで、そのせいでっ!!」

「「「っ!!」」」

 

声が、涙が、その一撃が季衣の行き所のない憤りを表していた。

相貌を崩し、思いのたけの詰まった慟哭に3人は息を呑む。

悔しさと怒りで、主の少女は唇を噛み、空色の髪の女性は顔を伏せ、黒髪の女性は大剣を持つ手が戦慄いた。

 

「季衣!!!」

 

大声を上げて走ってきたのは北郷一刀。その手には黒刃はなく、白刃のみを持っていた。

第三者の急な登場に少女と2人の女性の緊張感は増したが、一見武器を鞘に収めているただの青年。3人は一刀を一瞥する程度にとどめ、目下の怒気をありありと巻き散らかしている季衣を見る。

 

季衣の攻撃は、これまでの不満と戦で亡くした者を想う感情の表れ。

 

 

―――だから、力ずくで抑えたのでは解決にはならない。

 

分かっている、分かっているからこそ、3人は現状に歯噛みをする。

3人にとっては季衣もまた守るべき庶人の一人なのだから、その純粋な思いも守りたい。

 

 

季衣は怒りに任せて攻撃を放ち、黒髪の女性はそれをただ護る。

でも、このままではどちらにしても良い方向には進まない。

なにをするにも、季衣が落ち着いて話を出来るようにならないと現状の改善は難しい。

直接武器を交えている黒髪の女性は、落ち着かせる方法について考えあぐねていた。

 

「どうすれば……こちらから?……いやっ、しかしっ!!!」

「姉者っ!!」

「っ!――ぐぅっっ!!」

 

迷いが判断を鈍らせる。このときほど、この言葉が当てはまるものはないだろう。

黒髪の女性は直撃こそ避けたものの、勢いを殺すことが出来ず吹き飛ばされた。黒髪の女性が飛ばされたことで一瞬、ほんのわずかな一瞬空色の髪の女性の注意が逸れてしまった。その間に季衣は距離を詰め必中の間合いに入り、鉄球は主の少女に向って放たれた―――――

 

 

空色の髪の女性が季衣を射ろうが、その攻撃を止める事は出来ない。どんなに正確に射ようと放たれた鉄球は矢では止める術はなかった。

 

 

 

主の少女は諦めた顔もせず、迫る鉄球を見つめる。逃げようと思えば逃げる事は出来ただろうし、避けようと思うなら避けることが出来る武をこの主の少女はもっていたはずである。それなのに、避けることも、守ることも、逃げることもしなかった。

 

季衣も自身が投げた得物にその少女が反応しなかったことで、急に冷静になった。

きっと、季衣の頭には慌てふためくなど何かしらの反応があると思ったから、その少女が何もしないことで今の自分に気付いてしまった。無抵抗の人に一方的に攻撃をするのでは賊と何も変わらないと……

 

 

はっと気付いた季衣は投げた鉄球を戻そうと力を加える。

しかし、鉄球は季衣の意思で向きを変えようとしても少女に当たってしまう所にすでにあった。

 

 

金属のぶつかる音を引き連れて白い影が通った。

<side一刀 始>

 

駆け出していった季衣の後を追うと、1人の女の子と2人の女の人が季衣と向かい合っていた。

季衣の言葉に黒髪の人が答えると、その瞬間には季衣の鉄球が飛んでいた。

黒髪の人は自分の大剣でそれを難なく受け止める。

黒髪の人の目の色が変わっていた。おそらく、黒髪の人も武将なんだろう。

 

死人がでなかったことに安堵しながら、普段と様子の違う季衣が気にかかる。

 

それも季衣の言葉で納得した。

 

――――国の軍隊なんて信用できるもんかっ!!お金だけもっていってボク達を守ってくれない!!……そのせいで、そのせいでっ!!

 

季衣が向かい合っているのは、国の軍隊みたいだからこれまで溜まっていた気持ちが溢れたんだろう。

共感はできる……けど、そのとき浮かんだのは、死んだ邑の人の言葉だった。

 

―あんなに殺気立っていたらどっちが賊かわかんねぇよ―

 

季衣の怒りに任せて攻撃している様が悲しくて、気付けば駆け出してた。

すごい音を鳴らして飛んでいる鉄球が怖いと感じるよりも、泣いている季衣が見てられなかった。

 

「季衣!!!」

 

必死で声をあげた。

それでも、国の軍の3人は気がついたけど、肝心の季衣が気付いていない。

気を取られた黒髪の人が季衣の一撃を受けて宙を舞ったけど、武器で受けて特にダメージは負ってないみたい。

 

「姉者っ!!」

 

空色の髪の人も黒髪の人が宙を舞ったのを見て、一瞬気を取られる。その隙に、季衣は少女に向かって鉄球を投げていた。

鉄球が迫っても動かない少女。この少女のことは知らないけど、死ぬところは見たくなかった。

 

 

 

 

――人を殺してしまったが故に、守れる人がいるなら守りたいと

 

――何も出来ずに殺される人がいるなら護りたいと

 

 

さっきの戦が終わって、漠然とだけど思ったことだった。

幸か不幸か、俺には戦う力がある。死んだ人のために、殺した人のために自分が何ができるかを考えたら、戦うことしか浮かばなかった。戦うことは嫌だけど人を殺した以上、生きている人のために何かをしたい。戦うことしかできない俺は人を護ることで生きる人のためになりたい。世の中すべての人を護ることはできないけど、人が殺されるのを見たくないから、せめて目の前にいる人は死なせたくない。

 

だから今筋肉が悲鳴を上げているけど、なんとか間に合わせて少女の前に立つ。

 

「ぐっ!!」

「兄ちゃん!!!」

 

今まで経験したことのない衝撃が来た。

この世界にきてから、刀を持つと力が上がった気になったからイケる……と思ったんだけどなぁ。

 

 

折れないのは流石というべきかな?陽光壁で受けたけど、だめだぁ。

 

 

 

体が浮いて……

 

 

 

意識が持って行かれる……

 

 

 

 

季衣、泣く……なよ。俺、は……季衣…の泣……き―――――

 

最後に見た季衣の顔は攻撃していたときの雰囲気はなくて、年相応の女の子が泣いている顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、よかった――――

 

 

 

 

 

 

「兄ちゃーーーーーーんっっ!!」

 

 

 

 

あとがき

 

はじめましての方も、6度目になる方も

 

おはようございます。こんにちは。こんばんは。 柳眉です。

 

 

 

どうでしたか、都合6話になる今回は?

 

全然進んでません。そろそろ進めたい、思っているのですがどうにも……

 

それと、本格的に桂花が桂花じゃなくなりました。

 

原作をプレイしたら、あぁ~こんなにも逸脱してるよと嘆いてしまったほどです。

 

 

 

もし、お読みいただいた方の中で評価していただけるのなら・・・

 

アドバイスをいただけるのなら、嬉しいです

 

 

 

最後になりましたが、ここまで目を通して頂きありがとうございました。

次にまみえるご縁があることを……


 
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