No.1078016

雨やどり 第4話 コノック・サンダーブレークという男 中編

神様ってのも、楽な仕事じゃ無い。ましてやグローバル化の時代。神界にも、グローバル化やサブカルチャーは着々とその手を広げていて…

2021-11-25 11:07:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:225   閲覧ユーザー数:225

 天照大神様から話題を回された、女神アマンダという女性。オレから見て、1番左に座っている、困り眉の目が細いお姉さんだ。

 

「只今ご紹介に預かりました、女神アマンダと申します。よろしくお願いしますね?」

 

ちょこん、と一礼してくれたアマンダ様は、いわゆる修道女の様な格好で、長い金髪のキラキラとした、いわゆる豊麗なお姉様であった。どちらの神話ご出身か判然としないので、取り敢えず一礼を持って返した。土下座は止められると、流石に学んだのだ。

 

「私は、現在神界円卓会議にて、『異世界創造の可能性を追求し、その作成・運営を管轄する神界円卓会議下部組織』、通称『異世界浪漫追求部』にて、新たに創造され、様々な実験を通して、安定して存在を維持できる様になった異世界、「ターリア」の主神として『創造』された女神です。ちょうど、人間界でもゲームの神の需要が高まっていたので、ゲームの神も管轄していますね。」

 

 情報量の多さに目が回った。なんだ、『異世界浪漫追求部』って?アレか?今流行りの異世界転生とか異世界転移のラノベやアニメにハマった神様達の悪ノリで作られた組織とか?ハハッ!そんな、わ…け……?なんで女神様達全員、目を逸らすの?え?図星?神々の間にも、サブカルチャーが猛威を振るってんの⁇

 

「…昨今、神界の円卓会議会場たる日の本の文化に、一部神々が熱烈にハマってしまい…その……気付いたらそんな組織が正式に発足して、異世界を創造、挙句の果てには神々が自分達で『神』まで作ってしまって……」

「それが私、アマンダです。」

 

 フンスッ!とまでは言わないが、謎に胸を張るアマンダ様。きっと、熱き男神達の議論の末に誕生したんだろうなぁ、この女神様と異世界…うん、まぁ、いいや!置いとかないとハナシ進まないヤツだ、これ!

 

「…よく分からないですが、何となく分かりました…何というか…やはり神様って、自由奔放な方々なのですね…ご苦労、なんとなくお察しいたします…。」

「…ありがとう…」

 

 オレは心から天照大神に同情の念を抱いた。一度ヒッキーになったお方だ、きっと苦労性なトコロがある事が偲ばれる…

 

「という訳で、貴方のボロボロになった魂でも、この創造された異世界にならば、生まれについてある程度の自由と、今までの記憶、それと、そこの"ぽんこつ"二柱のお詫びの特典として、何かしらの特殊な能力を授ける事と、「神々の祝福」として、女神アマンダが常に目配りをして、降りかかる不運を事前カットする事をお約束致します!」

 

 ここぞとばかりに、天照大神様はメリットを前面に押し出して、ズズイッ!とばかりに前のめりな説得を開始された。オレはちょっと仰け反りながらも、心の内は既に9割方このハナシに乗るべし!との思いであったが、まぁ、多分何かデメリットもあるはずと思い、正直に聞いてみる事にした。

 

「…大変ありがたいお話で、ほとんどこのお話はお受けしようかと内心思ってます。しかし、良いお話ばかりお聴きしている気がして…何かしらのデメリットなどは、あるのでしょうか?」

 

 天照大神様は、真面目な顔をより引き締めて、正直にデメリットも語ってくれた。

 

「…正直に申し上げれば、この『ターリア』という異世界は、まだ生まれて間もない世界に、妾達神々がある程度、人間の想像する『異世界』を模して手を加えた、いわゆる箱庭の様にして創造した世界です。短い間に、あらゆる手を尽くして環境を整えましたが、その世界の中でも『暴力』は無くすことが出来なかったのです。よって、貴方が理不尽な暴力で命を脅かされる危険があります。更に、女神アマンダは、ゲームの神でもあり、こちらの人間界でeスポーツの大会などがあると、どうしてもターリアから目を離さなければならない瞬間があるのです。時間の流れが違うので、その間にターリアでは数年の時が流れて、女神の加護がその間に薄まってしまい…最悪の場合、魑魅魍魎が跋扈する事もあり得るのです…」

 

 天照大神様とアマンダ様が、少しショボンとした雰囲気を醸し出しながら、肩を落とす。しかし、こればかりは仕方がない話だと思う。

 

「…更に、また妾達神々の都合で申し訳ないのですが、稀に、コチラの神々が『ターリア』へ、干渉、と言うか遊びに行く事があるのです。大体の神々は、先の世界大戦で毒気を抜かれて善なる存在なので、ターリアの困っている民を助け導いて満足するのですが…たまに、イタズラ好きな者が、とんでもない"仕掛け"を施していって、ちょっと人々を困らせる、と言う事もあるのです…」

 

 どうやらアクセス権限の管理、という概念は無いらしく、管理簿に名前と目的を書いて、アマンダ様が許可すれば、降臨できるらしい。イタズラ好きな神や、異世界浪漫を求める神が降臨するのだとか…流石に、根本的なシステムに攻撃を仕掛けたり、その世界の生命の命を奪う様な行動を取ろうとしたり考えたりした時点で、弾き出される安全装置はあるらしい。まぁ、それなら安心…だと思う。

 

 それに、異世界転生。しかもチート付きで、別に魔王とかを倒す使命が発生したりする事もなく生きられると言うのだ!天国みたいなものじゃあないか!自分の中の脳内会議(死んでるから魂内会議?)は、満場一致で異世界転生を受け入れる事に決した。

 

「…わかりました。是非、『ターリア』への異世界転生、よろしくお願いいたします!」

 

 オレは地獄には行きたくないし、ミミズに生まれ変わるのも御免だ。そして、無限の可能性が開いている『異世界転生』の片道切符を掴み損ねるほど、くどくど考えられる性質でもなかった。

 

「ありがとう!これで色々と話を進められるわ!」

 

 ニッコリと微笑む天照大神様はやっぱり眩しく、流石は太陽の化身だなと思った。

 

「…ついては、転生先の情報なのだけど、これはアマンダがもう既に目星を付けていたから、説明役はアマンダに引き継いで、妾は書類関係を整えて来ます。それでは、アマンダ、あとはよろしくね?」

 

 天照大神様が席を立ち、離れていくと、幾分か目の前の光景から明るさが減った気がするのが不思議だ。さて、と、説明を引き継いだアマンダ様に向き直る。

 

 驚いた事にアマンダ様は、何処からともなくホワイトボードを取り出して説明を始めた。

「…今、アマテラス議長の言った通り、これから貴方に、『ターリア』の基礎説明をするわね。」

 

 ホワイトボードから、映像が浮かんで来た。ホログラムというヤツか?あ、これホワイトボードじゃねぇのか。ビックリしたわ…

 

 浮かんで来た映像は球体で、ゆっくりと自転している。その横には、地球と比較したデータが日本語で示されている。

 

「『ターリア』の世界は、地球とと同じく球体の惑星で、6つの大陸と幾つかの群島から成り立っているわ。6つの大陸はそれぞれ、6つの種族の生まれた地となっていて、この6つの種族が『ターリア』の歴史を日々刻んでいるの。5年の歳月と、神々の叡智が結集したプロジェクトの成果で、奇跡的なバランスを保っているわ。」

 

 クルクルと回るホログラムは、なるほど地球の様な惑星に見えるが、その陸地の配置などは全く異なる様だ。さらに、横に示された大気組成の様な表をしげしげと眺める。見る限り、大まかには変わらないみたいだが、「魔素」という見慣れないモノが、大気組成の4.649%を占めているという記載がある。

 

「ああ、この魔素が気になるのね?大気組成についても、実に細やかな調整の末、魔法という浪漫を求めた神々が、ゲームのMPからヒントを得て無理っくり…いえ、偉大な御業で作り出したものよ?この魔素を媒体に、イメージする事で魔法が使える様になるのだけれど…恐らく、これは使ってみないと感覚が分からないものね…」

 

 なるほど、ファンタジー世界の醍醐味、魔法を使う為の媒体が魔素という設定なのか!早く慣れてみたいものだ!

 

「ここまでの説明は大丈夫かしら?何か質問とかは大丈夫?」

「大丈夫です!引き続きよろしくお願いします!」

 

 現実感が無いのはもう慣れた。今は未知なる異世界の情報が少しでも欲しいところだ。

 

「それでは、この6つの大陸、種族とその関係、歴史についての説明に移るわね?『ターリア』では、各大陸に対して、まだ固有名詞は付けられていなくて、単純にその地理的な位置で呼ばれているわ。『北大陸』『中央大陸』『西大陸』『東大陸』『南西大陸』『南大陸』と言った具合ね。各大陸は、6種族それぞれの故郷で、それぞれに王を戴いて統一された王国が存在しているわ。」

 

 続いてホログラムは、6つの大陸とその種族の一般的な姿を映し出す。

 

「はじめに、『北大陸』出身の龍族。個体の筋力や魔力などの能力は文字通り最強で、一体でも本気を出せば半日で『ターリア統一』を成し遂げることが可能なほどのポテンシャルを秘めているのだけど……ひたすらぐーたら引き篭もりたいという、とてもとても怠惰な生き物なの…稀に、何かに導かれる様に大陸を飛び出す子が居て、そんな子に選ばれて「つがい」になったヒトやエルフ、ドワーフが、『龍騎士』として伝説になる事もあるのよ?ほら、こうやって相手に合わせて変身できるのね。」

 

 ホログラムが「つがい」の記録映像らしきものを映し出す。おお、スゴいな!デカいドラゴンがあっという間に華奢な女の子に…‼︎…イチャイチャしよるなぁ…これが「つがい」か…ええなぁ…ちょっとイラっと来た…

 

「最強の個体が『王』になるために、昔は闘技会の優勝者が王になるという掟があったのだけど、みんな面倒臭がりなものだから、今では『1番真面目なヤツが引き受ける貧乏くじ』みたいになってしまって…今は生真面目な少女が一切の政務を取り仕切っているわね…エルフのお婿さんを連れ帰って。ちょうど今映っていた『つがい』がそうね…」

「………」

 

そのイチャイチャには、そんな理由が…お見それした、と、とりあえず苦労性であろう若夫婦の映像に、黙礼した。

 

 ホログラムが、今度はむさ苦しい筋骨隆々なヒゲ男と、活発でクリッとした目の美少女ロリッ娘を映し出す。

 

「続いて、『東大陸』のドワーフね。『東大陸』は、鉱物を無尽蔵に埋蔵した山脈に覆われた大陸よ。貴方のイメージ通り、頑固一徹、職人気質の超一流鍛治職人で、お酒に目がない種族ね。彼らの作る武器や宝飾品は、地球では再現できないほどの技術よ…そして、鍛治のためにドンドン森林を木炭に変えて行くので、森林に住むエルフとは、ちょっとギクシャクしているわね…」

 

 ホログラムに映るむさ苦しい男と美少女ロリッ娘が一般夫婦と紹介されて、更に耳を疑ってしまった。何とも男女差が激しい種族だろう…

 

「ドワーフ族も、国のトップに『王』を戴く、専制君主国家の形式ね。明確に貴族と平民が分かれていて、地位は血筋で継承されるものだけれど、それ以上にモノを言うのが『鍛治の腕』ね。例え国王でも、最高の鍛治職人には敬意を持って接するし、その腕次第で絶大な富を築く事も可能よ。寿命も平均1,200年ほどだし、名工の晩年の作品はもう、スゴいものよ。」

 

 専制君主制と実力主義が並び立っているのか…不思議なバランス感覚だなぁ…

 

 切り替わったホログラムには、掛け値無しの金髪碧眼薄い顔の美男美女が映る。これがエルフ世間一般で言うフツメン…もしもエルフ世界に前世の顔で生まれたら、差別とかされそう…

 

「ドワーフとギクシャクしている、『西大陸』のエルフよ。特にアルテミス様が造形や特性に口を挟ん…いえ、積極的に関わった種族ね。飛び抜けた弓の腕と、永い寿命で道を極めた、魔法使いや芸術家が多い、感受性豊かなのも特徴ね。あと、彼らの故郷である『西大陸』は、魔素の濃度がいつの間にか誰かの手によって、6%まで上げられていたりするので、よく魔素の結晶、『魔石』が取れるので、木工品と魔石が主な産品ね。」

 

 なんだか「誰か」のところでアルテミス様をチラ見したアマンダ様が、少しだけ不機嫌になったのが伝わった。それにしても…エルフはふつくしいなぁ…叶うならエルフに生まれたい…

 

「エルフも国王を戴いているけれども、それよりも12に分かれた氏族の調整役的な側面の方が強いわね。寿命が長くてのんびりした種族だから、ドワーフとの諍いや何か戦争でも起こらない限り、国として一丸となる事はあまり無いわね。でも、彼らが組織した軍隊は正確無比な超長距離長弓一斉射と、魔力量を背景にした広域戦略魔法で地形をも変えてしまうから、龍族の次にキレさせてはいけない種族ね…」

 

 ふつくしいものにはトゲがあるようだ…気を付けよう…

 

 ホログラムが移り変わる。次に映ったのは…なんだこの、可愛いを凝縮したケモ耳のモフモフっ娘は⁉︎男・女と、どちらも変わらないモフッとした可愛さしか無い⁉︎しかも、アマンダ様もフニャりと可愛いモノをモフるモノの目になっている!

 

「『ターリア』でも最強に可愛い種族、魔族よ‼︎まさしく神々が『モフモフ』と『可愛さ』について、叡智と情熱を結集した結晶よ!『ターリア』の中でも、彼らの故郷・『南西大陸』は、全種族不可侵条約が結ばれた、唯一の大陸になっていて、まさにこの世界の平和の象徴ね!」

 

 アマンダ様の説明の、熱の入れようが違った。この可愛さは、確かに世界に平和を齎す可愛さだろう…絶対に向こうに行ったら、友達になろうと決心した。

 

「彼らにも女王が君臨しているのだけれど…ただ平和に、のびのびと生きているから、ほとんど『ごっこ遊び』にしか見えないのよね…あぁ…可愛いわ…」

 

 映像は王宮っぽいものを映す。やたら元気なモフッ娘が王冠をかぶって踏ん反り返って高笑いしているが咽せた。可愛い。癒された。多分この国は、マイナスイオンしか発生させていないのだろう…

 

 10分ほどアマンダ様とモフッ娘に見とれていたが、続いて、普通の中世の欧米人、みたいなイメージの映像が映し出された。男女共に、人の良さそうな顔つきをしている以外は、現代人と大きな違いは見受けられない。

 

「『ターリア』の中でも、最も人口が多い種族がヒトです。一般的な現代人から、邪な心を濾し取った様に善良な人間が圧倒的に多いのが特徴的でしょうか?能力も寿命も、現代人と何ら変わらないですが、魔法は使う事が出来ます。彼らも『中央大陸』に専制君主国を作っていて、キッチリと公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士爵と、身分が分かれています。それぞれの種族が入り混じる『中央大陸』は、バランスが崩れると一気に戦場になる可能性が高いので、私も1番注意深く目を凝らしています。なにせ、『ターリア』で1番豊かな水源と肥沃な大地に恵まれた、食糧の一大供給地ですので、エルフもドワーフも、その輸入に頼っているところがありますから。それに、各大陸の交易の中心地ですので、王都には世界中の名産や珍品がズラリと並ぶ、巨大な市場がありますね。」

 

 なるほど、確かに何かあれば各大陸から一斉に軍を派遣して、戦場になってしまうワケか…中々この国の舵取りは難しそうだな…

 

「…このヒト族の国の王族なのですが、少し混み入った事情があって…実は、密かにギリシャ神話の主神・ゼウス様が降臨して、ナンパした女性に産ませた子供の子孫が、この国の王族なのです…」

「「………」」

 

 アマンダ様・アルテミス様・アテナ様がそれぞれスッと目を逸らす。コレは触れない方がいい話題に違いない。多分、『ヘラ』と言った瞬間に大変な事になるに違いない。オレも黙った。

 

「神とヒト族のハーフという事で、ヒト族の王族も300年近い寿命を持つものが一般的ですね。幾度か王族内でクーデターが起こりましたが、その度に私自らが降臨して、収めています。この国がガタついてしまったら、あっという間に大混乱が広がってしまいますので、そこには介入しています。」

 

 困り眉の穏やかなお姉さんといった風体から、出来る女オーラまで漂わせているアマンダ様は、やはり優秀な女神様らしい。

 

 ホログラムは最後の種族を映す。おどろおどろしいガイコツやゾンビ、巨大なイノシシ、ヒトダマの様なものまで、多種多様なモノが映り、最後にツノを生やした眠たそうな爺さんが映る。

 

「『南大陸』の魔獣は、実はこの世界の5種族の共通敵として創造された、完全にコントロールされた『悪役』なのです。彼らは定期的にあらゆる大陸を襲いますが、建物を壊したり、食糧を略奪したりして、時に命を奪います。100年ごとに、『中央大陸』の南岸に大侵攻をかけますが、5種族がしっかりと連携すれば、撃退できる様になっています。一種の試練、でしょうか?あと、魔王役はコチラの神々によるくじ引きで決まるのですが、現在は北欧神話の主神オーディン様が引き受けておいでですね。」

 

 世界の維持のためには、やはり共通敵まで作らなければ、難しいのか…ううむ…歴史は奥深いな…

 

 ホログラムが消えて、アマンダ様の説明に戻る。

 

「この『ターリア』に6種族が登場してから、『ターリア』内部では既に1万年が経過して、現在の状況に落ち着きました。現在のところ、たまに山賊や海賊に身をやつした者や、魔獣の襲撃が直接的な命の危険となりうるものですが、それらを簡単に跳ね除けられる能力をお約束いたしますので、どうぞご安心を。」

 

 アマンダ様は一旦言葉を切る。飲み物で喉を潤し、ここからの話が切り替わることを暗に示す。

 

「さて、これまでの貴方の人生と、この先続いたであろう貴方の物語、それに適性やその他諸々、あらゆる可能性を考慮した結果、私の独断と偏見で、貴方の転生先について、一つの結論に達しました。」

「え?独断と偏見との事ですがそれはー」

「では発表します!まず、貴方の転生種族は…ッ‼︎ハーフエルフ、ハーフエルフです‼︎」

 

 急にアマンダ様のノリがバラエティー番組の司会者になってもうた。しかし、ハーフエルフ…中々いい響きだな。

 

「ドワーフの王国から、伝説の鍛冶職人とその絶世の美女な娘を攫ってヒト族の王国に駆け落ちした、エルフの王国の王太子が父親で、ドワーフの絶世の美女が母親ですね!」

「おい国際問題しかないってその夫婦‼︎しかも1番争いの火種持ち込んじゃならねえ『中央大陸』にデカい火種ぶち込んじゃってるよ‼︎」

 

 オレは元来、ボケ担当として生きて来たので、ツッコミが追いつかねぇ!大問題じゃん!国王より敬われる伝説の鍛治職人とその娘を?エルフの王太子が誘拐?そんで、『ターリアの火薬庫』こと『中央大陸』に愛の逃避行(義父付き)?そこに?生誕するの?え?オレが?

 

 自分の死を告げられた時の1,000倍は混乱している…

 

「まぁ、お聞きなさい。その事件も、私が降臨するまでもなく、既にエルフとドワーフの二国間で話し合いが済んで、平和に解決しました。彼らはそれぞれの国から赦されて、追われることもなく、ヒト族のとある街で鍛冶屋を構えて暮らしているのです。ここら辺の細かなお話は、いずれその当事者たる新しいご家族にお聞きなさい。」

 

 アマンダ様の顔にも疲れが出て来ているのを見取り、解決しているならまぁ良いか…と、オレは気にしない事にした。オレは空気の読める紳士なのだ。

 

「あまり事前に知りすぎるのも、楽しみが減りますから、貴方の新しいご家族については、産まれてからのお楽しみにしておきましょう。」

 

 オレもアマンダ様の意見に同意なので、頷く。

 

「それでは、貴方に授けられる加護と、能力の話に移りましょう。アルテミス様、アテナ様、出番ですよ?」

 

 長い話の間、ずっと付き合ってくれていた二柱の女神様が起立して、オレの席まで来てくれたので、慌ててオレも起立する。

 

「この度の不始末、改めてこのアテナ、深く謝罪する。これから『ターリア』で生きて行くそなたには、我が加護として、悪意を持った攻撃や、命に関わる攻撃を受けても、決して傷付けられぬ、『イージスの盾』の加護を授けよう。」

「私、アルテミスも、同じく深く謝罪致します。貴方には、一度放った矢は決して外れず、正確にその対象の急所を撃ち抜く、『神弓の加護』を授けます。」

「伏して御二柱の御加護、受け取らせていただきます。」

 

 自然とオレも深々と礼をしていた。やはり"ぽんこつ"と天照大神様が罵ろうとも、御二柱は神様なのだと実感する。

 

 御二柱が離れていき、そのまま退室なさったので、アマンダ様と2人きりとなる。

 

「天照大神様からも、一つ加護をお預かりしております。姿や本性を偽る者が居ても、その真の姿が自然と見える、『見透しの加護』ですね。」

「なんと勿体なきお気遣い…感謝をお伝え下さい。」

 

 実は1番嬉しい加護かもしれない!これで、オカマに一世一代の告白をする悲劇は避けられる!やった‼︎

 

「貴方の身体能力ですが、限りなく無尽蔵な魔力と、豊富なスタミナ、優秀な頭脳、私の加護による幸運…正に、勇者と言っても差し支えないレベルです。悪用すれば、たちまちに世界を混沌へと誘う事が出来るでしょうが、この短い間の会話で、貴方がそんなことをする方ではない事、確信しました。しかし、その力を狙って近づいて来る者には、くれぐれも気を付けて…」

 

 アマンダ様は、困り眉を更に困らせた心配顔で、オレのことをじっと見つめた。

 

「ここまで、皆様のご厚意を頂いたのです。それに、私はノンビリと平和に生きたいと思っています。そんなヨコシマな輩が近づいて来ても、天照大神様の加護で騙されない様に、気をつけます。どうか、ご安心下さい。」

「……わかりました。しかし心配なのは事実なので、たまにコチラへ召喚して、私の話し相手にする事にしましょう。ぶっちゃけ、普段は事件も起こらないのでヒマなのです。」

 

 恐らく女神特有の神界ジョークか何かだと思い、オレは曖昧に笑った。

 

「…さて、長い話もこれでお終い、あとは、貴方の最終的な答えのみです。本当に、異世界転生を望みますか?」

「ハイ‼︎よろしくお願いします‼︎」

「よろしい、よい返事でした。それでは、隣室に転生装置がございますので、そちらに移動しましょう。」

 

 オレはアマンダ様に促されて移動しながら、いよいよ始まる異世界ライフにこころ踊らせた。

 

 隣室には、いやに機械的な、小型のワープ装置的なものが、ヴォンヴォンと唸りを上げていた。和室の作りに、えらくミスマッチだな…なにやらアマンダ様がタッチパネルに入力している間に、天照大神様が入室して来た。

 

「いよいよ、行くのですね?…日の本の民たる貴方は、妾の子も同然です。見送りに参りました。」

「これは畏れ多い!ありがとうございます…」

 

 まるで子を見送る母そのものの、物悲し気な雰囲気を纏って、天照大神様が近づき、そっと、抱きしめてくれた。魂の底から、母性を感じた。涙が、自然と流れた。

「…貴方の運命の相手は、あちらの世界で待っている………」

 

 やがて別れの時が来た。オレは柔らかく天照大神様の腕を解いて微笑んで、転生装置へ向かう。転生装置に入り、アマンダ様へ頷いた。

 

 瞬間。バシッ‼︎と大きな音がしたのを聞いたのが、オレが転生前に聞いた、最後の音だった。

 

……

………

…………

……………

………………

 …永く、夢か現か分からない、白い世界を漂っているみたいだ。ゆらゆら、ゆらゆら、ゆらゆらと、心地よく、眠りの世界なのか、起きているのか、上か、下か…暖かく、ゆったりとした心音が安心感をくれる。いつまでも、漂っていたい…

 

 しかし、世界は急変する。荒れてゆく心音のリズム、なにかに急かされ、この空間を押し出されようとしている。苦し気な心や声が聞こえる。それと、力強く応援する二つの温かい存在。やがて少し遠のいたが、すぐ近くにいるのを感じる。嗚呼、空間が震える。あたらしい世界へ、飛び出す刻が来たのだ。さぁ、行こう!

 

 ーそしてその日の朝8時ちょうど、コノック・サンダーブレークは、アマルダの街の市民病院で、大きな産声を上げた。その瞬間、空には三重の虹が走り、1,000年に一度しか咲かない「永遠のバラ」が一斉に開花して咲き乱れ、人々は女神アマンダの降臨を見たのであった。それを見た各国の王は、この慶事を喜び、1年間の庶民の税を免除すると発表。コノックの誕生日は何故か、「世界免税デー」と呼ばれる様になり、「免税を呼んだ男」として、思わぬ方向で有名になっていくのはまた別の話。


 
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