No.106647

~薫る空~40話(洛陽編)

カヲルソラも40話まできました。
今回は、主に洛陽側、董卓軍サイドがメインです。

2009-11-12 18:19:29 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4188   閲覧ユーザー数:3317

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――虎牢関・城内。

 

 華琳達が行軍を開始しようとしている頃。

 

【張遼】「――っ!――っ!」

 

 不機嫌極まりないといった様子でがす、がすと廊下を突き進む姿があった。濡れていないのに足跡でものこんるんじゃないかというほど強い歩調で、彼女は突き飛ばすように、広間の扉をこじ開けた。

 

 

【張遼】「どういうことや!!!」

 

【賈駆】「はぁ……」

 

 

 大きな音ともに吼える張遼を見て、思わずため息が出る。それもそのはずでこの手の不満が既に二人目だからであった。

 

 

【華雄】「………。」

 

 

 その一人目は既に説き伏せられ、広間の奥でおとなしくなっている。

 

【張遼】「なんであそこまで行って撤退やねん!」

 

【賈駆】「霞…あんたならわかるでしょ?」

 

 その目は責めるようなものではなくて、純粋に答えを求めていた。華雄とは違い、張遼ならあの状況を理解しているはず。その確信を賈駆は持っていたから。その確信はやはり事実で、そう言われると、張遼は怒りからばつの悪い表情へと変わる。

 

 

【張遼】「う………」

 

 

 あのままあそこにいては、後から来る連合の援軍に包囲されてしまっていた。元々一点突破からの奇襲作戦。時間をかけていては成功するはずがない。大将を討つ事は出来なかったが、結果的に敵本陣に打撃を与える事はできた。だけど、それは結果論であって、やはり作戦は失敗なのだ。

 

 だが、それでも張遼や華雄は武人であって、戦において引くという行為になんの嫌悪感も持たないはずもなかった。賈駆とて、それを理解している故に頭を悩ませている。軍師としてもそう敗北を重ねるわけには行かない。まして、彼女には守るものがあるのだから。

 

 常に何かに狙われた兎のようなあの君主様を守るためなら、彼女はどんな事も厭わない。この戦だけは負けるわけにはいかなかった。

 

 今、この漢と言う国のあちこちで董卓は帝を持ち上げ、政権を握り、国を私欲の下に動かしているというが、実際は違う。

 

 彼女こそが持ち上げられ、操られる人形。洛陽において、上層に位置する文官達。彼らとのやり取りを思いだすだけで、賈駆は気分が悪くなる。

 

 

 

 

 董卓。洛陽の太守にして、現在の帝、霊帝を推挙した人物。そう言われてもう幾年が経つ。元々そこらの街娘と大して変わらなかった彼女は、当時太守を勤めていた父が亡くなり、その父の遺言として、後を継いだ。

 

 父の守ってきたこの街、この国を守る。そう決意して、少女はこの国の最も暗い場所に足を踏み入れた。そして、そこで待っていたのは、妬みと謀略の渦。前太守の娘といえど、幼い少女が頂点に立つには、この国は優しくなかった。

 

 

【賈駆】「さて、それじゃ、軍議を始めるわよ」

 

 

 賈駆の声に、その場に居た者は立ち上がり、広間の中央へと集まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――曹操軍・行軍中。

 

 

 黒い雲が覆う空。曇天と呼ばれる天候の中、連合軍は進んでいた。

 

 季節と天気があいまって、風は痛いといえるほど冷たい。それでも足を止めるわけにも行かず。

 

【一刀】「うぅ……寒……カイロとかないよな…」

 

 振り向いて、誰かにそんな状態を訴えるが。

 

【華琳】「そんなもの、この国に在るはずがないでしょう。あなたの国とは違うのよ。……それにあるなら私だって欲しいくらいだわ」

 

 後半は声がものすごく小さくてうまく聞き取れなかったが、カイロはないようだ。

 

 当然といえば当然なんだが。カイロくらい真桜に頼めば作ってもらえそうな気もするが、残念ながら今、真桜は許都でお留守番だ。

 

 カイロについては、こうして歩いていても暇なときが多いわけで、そんな時間を使って説明してみたが。

 

 

【春蘭】『馬鹿をいうな。そんな便利なものがあるはずないだろう』

 

【桂花】『ふん。寝言を言っている暇あるならさっさと死になさい』

 

 

 なんて反応だった。思えば教えた人物が悪かった気もする。

 

【琥珀】「……寒いのか?」

 

【一刀】「え?…あ、あぁ、琥珀か。うん、寒いよ。めちゃくちゃ寒い。死んでしまうかも」

 

 すこし大げさに言ってツッコミ待ちをしていると、琥珀はそんなことをまったく気にせず、近くに居た兵に何か話しかけている。

 

 兵が何かおどおどしている。何を言っているんだか……

 

 そう思いながら、そっちを見ていると、琥珀が振り向いて目が合った。

 

【一刀】「あ」

 

 思わず声をあげてしまったが、琥珀は何も気にせず、その馬から飛んだ。

 

 

【一刀】「―――え。飛んだ!???」

 

【琥珀】「よっ…。」

 

【一刀】「うぉっと…!」

 

 

 目が一瞬点になった後、目の前に現れた琥珀を受け止めるのに我に返った。

 

 

【華琳】「な―――!」

 

【琥珀】「ふぅ…」

 

【一刀】「あの…琥珀さん?」

 

 息を吐いたかと思ったら、二人乗りになった状態で、俺に背中越しにもたれてくる。琥珀の乗っていた馬はというと、さきほど話しかけていた兵が苦労してなだめているようだ。

 

 俺はジェスチャーでその兵に謝っておくと、いえいえと首を振っている。

 

 たまに琥珀の行動が読めないときがあるが、今回もその意図は良く分からなかった。

 

【一刀】「はぁ……」

 

 もたれかかる琥珀とは対照的に背後から風よりも冷たい視線を感じる。

 

【華琳】「………」

 

 ジィーなんて擬音語が物体化しそうだ。

 

【琥珀】「ふふん♪」

 

【一刀】「おいおい………ん?」

 

 

【薫】「………。」

 

 華琳以外からも視線を感じたと思ってそっちをみると薫だったようで、俺と目があうと慌ててそっぽを向いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――孫策軍・行軍中

 

 

【雪蓮】「ふふ」

 

【冥琳】「雪蓮?」

 

 同じくして、馬上にて足を進める雪蓮達だが、不意に笑い出す雪蓮に冥琳は怪訝な顔をした。

 

【雪蓮】「いえ、曹操軍は楽しそうだな~と思って」

 

 後ろを見ながらそういう雪蓮を見て、冥琳も納得がいったように微笑んでいた。

 

【冥琳】「あぁ、あれか」

 

 素っ気無く言ってはいるが、冥琳もその光景を眺めながら、実に楽しそうだった。

 

 敵軍…今は友軍だが、他国の軍に知り合いがいると言うのは実に不思議な光景だった。あれをみていると、やはり薫や一刀をこちらに引き込みたいなんて気持ちがまた浮かんでくる。

 

【冥琳】「雪蓮」

 

【雪蓮】「わかってるわよ~」

 

 冥琳も同じなのか、そんな気持ちを見透かすように、雪蓮を呼びとめていた。

 

【孫権】「姉さま。」

 

【雪蓮】「あら、蓮華」

 

 前のほうを進んでいたと思っていた妹が、近くに来ていた事に少し驚い他が、すぐに表情を元に戻す。

 

【蓮華】「あれが、姉さまの言っていた司馬懿ですか?」

 

【雪蓮】「そうそう。かわいいでしょう?」

 

【蓮華】「………」

 

 あきれたようにジト目になる蓮華。

 

【蓮華】「はぁ……あのような者がいなくとも、呉には冥琳や穏もいるじゃありませんか。」

 

【雪蓮】「それとこれとは別なの~」

 

【冥琳】「蓮華様、こうなったらしばらく放置するしかありません」

 

【蓮華】「………。冥琳がそういうなら…」

 

【雪蓮】「ふふーん♪」

 

【蓮華】「勝ち誇ったような顔をしないでください!!」

 

【雪蓮】「あう」

 

【冥琳】「ふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――洛陽。

 

 さらさらと、筆の走る音が部屋に響く。それほど静かな場所で、少女は一人、政務にかかっていた。窓から覗く外

 

は大きな雲が続いて、どんよりとした空気に満たされている。そのせいか、普段以上に寒さを感じる。息を吐けば白くなりそうなほど。

 

 信を置くもの達は皆、戦へと出てしまっている。太守である自分が出るわけには行かない。そう言い聞かせて、今彼女はここにいる。本当なら一緒に行きたい。そんな気持ちを抑えて、この街を支えることに没頭する。

 

 おそらくは自分の持っている集中力をすべて注いで、目の前の草案に目を通している。

 

 ――董卓様。

 

 不意にそんな声が聞こえた。扉越しのために少し篭っていたが、男の声だった。

 

【董卓】「どうぞ」

 

 筆を止めて、扉の向こうに声をかける。短い返事が返ってきた後、その男は扉をあけ、部屋へと入ってきた。

 

 男が入ってくると、扉を閉める音だけが響いた。男の姿が近づいてくるにも関わらず、まったく足音がしない。その事が男の存在を不気味にさせる。まるで幽霊とでも対峙しているかのようだった。

 

 服装はかなり高位の文官だった。それでなくとも、男の声は一般的なそれと比べて少し高く、理知的ななにかを思わせた。

 

【???】「執務中失礼致しました」

 

 男は少し微笑むようにそういった。ただ、それが董卓を安心させることにはつながるはずもなかった。

 

【董卓】「はい…」

 

 二人の身長差がすごいためか、董卓は上を向いているにもかかわらず、上目遣いになってしまう。

 

【???】「では…こちらの承認をお願いします」

 

 男が差し出してきたのは、この時代ではまだ貴重とも言われる紙に書かれた何か。目を下ろせば、それは税に関する案のようだった。

 

【董卓】「こ、これって……」

 

【???】「お願いします」

 

 文面をみて、慌てて問いただそうとするが、男の顔を見た瞬間。声が、喉が凍りついたように、何も話せなかった。

 

 ――男は笑っていた。先ほどまでの微笑みなどではなく。口元を歪ませて。

 

【董卓】「………っは……はぃ…」

 

 声が震える。とめなければいけないのに。案件は税の率をあげるものだった。今ですら暴政といわれるようなものだというのに、まだ税を引き上げるというのだ。

 

 だけど、抗えなかった。

 

 男の言いなりに、董卓はその紙に名を記し、許可を表す印を押す。筆を握るとき、印を押すとき。手が震えて止まらない。とめたいのに。拒否したいのに。

 

 瞳に溜まった涙で視界が歪む。

 

 窓の外の景色は曇っているが、いつかは晴れる。けれど、その下に広がるこの街には、もう何年も晴れは訪れない

 

。それどころか、少女を頂点とするこの街の政治は、黒い雨となって、街に降り注ぐ。無力さに頭が変になりそうな経験をもう何度もした。そのたびに思い浮かぶのが、今目の前にいる男の顔だ。

 

 

【???】「ありがとうございます。では」

 

 印が押されたことを確認して、男はその紙を取り上げ、部屋を出るため、入り口へと向かう。

 

 踵を返したことがわかって、董卓は椅子に腰を下ろした。

 

 息をつこうとした瞬間。

 

【???】「董卓様」

 

 再びかけられた声に、少女の体が震え上がった。

 

【???】「少しお疲れのようです。ぜひお休みになってください。政務のほうは我にお任せを」

 

 振り向きざまに、男は言葉を続ける。余計な事はするなといわれているようで、董卓は何も答えることはできなかった。口の端が一層つりあがり、男は、最後に名乗る。

 

【李儒】「この李儒に」

 

 

 そして、ようやくその男は部屋を出た。

 

 

 

【董卓】「ごめんなさい……詠ちゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――虎牢関。

 

 

 

【賈駆】「………月?」

 

 部屋の窓から覗く空を見上げて、賈駆は残してきた友の真名を呟いた。

 

 急に声をかけられたような気がして、振り向いてしまったが、よく考えなくてもそんな事があるはずもなく、気のせいだと首を振った。

 

 気を取り直して、目の前に広げた地図を眺める。

 

 平野へとつながる汜水関のときとは違い、虎牢関は完全な自然の要塞。周囲を山で覆われたそこは行軍するだけでも困難とされ、大軍での戦など、考えることすらありえない場所だった。

 

【賈駆】「地の利はこちらが圧倒的に有利。兵力はほぼ互角……」

 

 人の和にしても、無効は烏合とされる連合軍。連携はそれほどとれるはずがない。汜水関での陣形を思い出して、敵軍の配置を予測する。

 

 状況は、劉備軍がかなりの打撃を受けているはず。呂布一人に足止めされていた孫策軍もそれに近いもの。馬騰の軍は機動力は怖いけど、兵の数自体はそれほど怖くは無い。張遼の軍で十分に対応できる。であれば、注意するべきは、まったくの無傷に近い曹操軍と袁術軍。袁術は何を思ったかかなり後方に位置しているために、手は出しにくい。

 

ならば、最初に手を出すべきは曹操ということ…。

 

【賈駆】「いや、だめ。それじゃ結局残りの三つに包囲されてしまう。」

 

 曹操の位置は敵の中腹。直接仕掛けるには横撃するか、正面の劉備・孫策・馬騰のうちどれかを先に潰さなければならない。動きの読みにくい馬騰。将の揃っている劉備、孫策。どれもその後無傷の曹操を相手にすることを考えると、頭が痛い。かといって、横撃できるような地形でもない。

 

【賈駆】「やっぱり篭城戦しか……いや、うちの顔ぶれでそれは不可能だと先日思い知ったばかりじゃないの」

 

 武力に特化した将が多く、歯止め役がいない軍の痛いところだった。唯一軍師である陳宮も呂布に関わるとまるっきりアテにならない。

 

 先鋒三つの軍を抑えながら、曹操を落として、尚且つ本陣にトドメを刺すような策…。

 

 

【賈駆】「……………。――くっ」

 

 

 しばらく、考えて、突然賈駆は地図の乗った机を叩いた。

 

【賈駆】「正攻法で当たったとして、どうする。恋の武力ならある程度の軍相手は一人でも務まるから…」

 

【張遼】「入るで」

 

【賈駆】「し、霞…」

 

 考え込んでいるところに、張遼が突然扉をあけ、部屋の中へと入ってきた。

 

【張遼】「えらい、行き詰ってるみたいやなぁ」

 

 張遼は少しよれた地図と立ち上がっている賈駆を見て、大体の状況は把握しているようだった。

 

【賈駆】「えぇ、この地形だもの。変な奇策をつかえば逆にこちらが不利になる。かといって」

 

【張遼】「正攻法でやっても被害を抑えることは難しい。か」

 

【賈駆】「えぇ」

 

 話し相手が出来たことで、賈駆の表情が少し和らいだように、張遼は感じた。張り詰めた中では、いい案が出ない

 

こともある。その逆もあるが、今は前者のようだった。

 

【張遼】「なんやったら、うちが特攻かけてもええよ」

 

【賈駆】「はぁっ!?あんた、何言っているのよ」

 

【張遼】「華雄と恋やったら前の三つこじ開けることくらいできるやろ。開いたところから突撃かけて、うちが曹操

 

を叩く」

 

【賈駆】「簡単にいうけどね…」

 

【張遼】「難しいか簡単かはカクっち次第やろ?」

 

【賈駆】「………はぁ…」

 

 ため息をついて、賈駆は呆れたように張遼を見据えた。さっきまで悩みに悩んでいた自分が馬鹿らしく思う。

 

【賈駆】「わかったわ。だったら、あんたには前回より難しいことをしてもらうわよ」

 

【張遼】「ふふん。ええよ、その分うちの手柄が増えるだけや」

 

 屈託の無い笑顔。恋のそれとは性質が異なるが、見ていて悪い気はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

こんばんわ。

えと、本編再スタートということで40話でした。

主に月サイドをメインに進めてみましたが……何気に敵にまたオリジナルキャラでちゃいました(´・ω・`)

しかも、月の設定が若干どころかかなりオリジナル設定はいってますw

色々スミマセン(、、

 

恋姫じゃねーと思われた方。

残念ながら「仕様です。」

 

 

さて、40話とかいよいよ長編っぽくなってきましたが、まだまだ全構成の五分の一くらいなわけで…

先が長いです。今年中に終る気がまったくしません。それでも一応ゴール目指して歩いておりますので(ぁ

これからもヨロシクお願いしますm(__)m


 
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