No.107702

~薫る空~41話(洛陽編)

カヲルソラ41話。虎牢関戦開幕です。
恋のチートぶりがすさまじいです。

2009-11-18 19:01:21 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:4020   閲覧ユーザー数:3259

 

 汜水関での戦いを終えた連合軍は、少しの休息の後、次の目標である虎牢関へと歩を進めていた。徐々に狭まっていく視界に、確かな手ごたえを覚えつつ、軍は進む。華琳達はそんな軍の中腹ほどに位置し、前後全てを把握できる場にあった。汜水関では様子見に終った華琳達だったが、次の虎牢関はそうは行かない。この戦の先に待つ乱世を誰よりも早く駆け抜けるために、次の戦は、負けられない。

 

 馬の足音が響く中、空はいつもよりもさらに曇が厚くなり、昼間だというのにずいぶん暗かった。

 

【一刀】「しかし、地図だとそれほどでもないと思ったけど、意外と遠いな…」

 

【琥珀】「知らないのか、一刀。地図はちっさく書かれてるんだぞ」

 

【一刀】「知ってるから…。自慢げにいうなよ」

 

 相変わらず、琥珀は一刀の前に座っていて、前から反り返るように見上げてくる姿は本当に子供のそれだった。迷惑がりながらも、それも少し悪くないと思い始めてきた頃。そんな意思はとなりに並ぶ御方のおかげであっさりと崩れ去る。

 

【華琳】「………。」

 

 明らかに不機嫌。

 

 口元を歪ませて、眉の端がひくひくと震えている。しかもその影響で――

 

【春蘭】「………~!」

 

【桂花】「………ブツブツブツ……」

 

 後ろにいる二人が明らかに敵意むき出しになっていた。助けを求めて秋蘭のほうを振り返ると

 

【秋蘭】「………」

 

 苦笑いで首を横に振られてしまった。「諦めろ」ということらしい。

 

【一刀】「はぁ……」

 

【季衣】「兄ちゃんも大変だねぇ~」

 

 前方を歩いている季衣が、振り返ってそんな事を言ってきた。どうやら一部始終見ていたようだ。

 

【一刀】「子供に心配される俺って…」

 

【季衣】「ボクは子供じゃないよ~」

 

 不意に呟いた言葉で、季衣の顔が膨れ上がった。

 

【一刀】「あはは…。そうだったなぁ――って、うわっちょ、琥珀!」

 

【琥珀】「へへ」

 

 季衣と話していて、油断していたか、琥珀が思いきり背中に体重をかけてきた。思わずのけぞって、馬から落ちそうになる。

 

【一刀】「へへじゃない!」

 

【琥珀】「いて」

 

 お返しとして、頭に一発いれていおいた。

 

 

 

 

 

【華琳】「――。」

 

【一刀】「か、華琳?」

 

 殴ってから、華琳の視線がさらに強くなっていることに気づいた。

 

【華琳】「――本当に不思議ね」

 

【一刀】「え?」

 

 かなりまずい雰囲気だと思って、華琳に話しかけてみたら、思いがけず、話題を振ってきたのは向こうからだった。きょとんとした、ずいぶん気の抜けた表情で聞いてくるものだから、一刀も思わず変な声がでた。そんな華琳はというと、視線を琥珀のほうへ向けて、言葉を続けている。

 

 

【華琳】「琥珀がそこまで男に懐くなんて」

 

【琥珀】「―――!」

 

 抜けた顔は一瞬でにやにやした嫌な笑いに変化していた。そんな視線を向けられている琥珀は目に見えてどんどん顔を赤くしていく。

 

 

【華琳】「あら…?琥珀あなたって」

 

 

 華琳の顔はいつもの倍速くらいの勢いで変化していく。にやついていた顔から、今度は怪訝な表情で、琥珀を眺めている。

 

 

【琥珀】「………別に、懐いてなんか」

 

【華琳】「意外と、いいわね」

 

【一刀】「………。」

 

 

 真っ赤になっていく琥珀を見て、華琳が呟き、”何が”かはあえて聞かないでおく一刀だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~side薫~

 

 

 慣れない馬に揺られながら、皆の後ろをついていく。前を行く皆は、呆れるほど元気で、とても戦前とは思えない。そんな彼女達を眺めながら。

 

 いや、そんな彼女達の中心にいる彼を見つめながら、薫は考えていた。

 

 若い頃には、自分で自分が分からないということが、たまにあるらしい。なにかの本で読んだことがある。主に十代半ばで、そういうものは訪れると書いてあった。もしかしたら、自分もそんな時期なのかと考えるが、それは否定する。

 

 年頃なのはそうかもしれないが、これはあの本に書いてあったようなものとは違う。それははっきりと分かっている。そんな微笑ましいものではない。

 

 最初の異変は、一刀と出会うほんの少し前。

 

 田舎にいた薫は、いつもそうしていたように、私塾の授業をサボっては、外の草の上で寝転がっていた。日差しが暖かくて、気持ちよかったのを覚えている。

 

 だけど、不意に意識がそこで落ちた。

 

 それは眠くなってきたから、眠ったとかそういったものではなくて、本当に急に。

 

 だから、薫自身の記憶は、草原で目を閉じた後、気づけば地面は砂ばかりの荒野へと変わっていた。

 

 思えば、あの時自分以上に混乱していた一刀がいなければ、どうなっていただろう。

 

 異変は、それからしばらくして、また起きた。あれは、黄巾の制圧を終えて、薫が雪蓮の元から帰還した後。

 

 夜になるたびに、一定の時間記憶がとんだ。その間、何をしているのかまったく覚えてなくて、目が覚めたら、一刀の隣で眠っていた。

 

 そのことについては、桂花に散々言われてしまったが、結局、自分自身分かっていないのだから、どうしようもない。それからは毎日、そんな事が続いて、ある日。今度はその一定の時間のほかにも、意識が飛ぶようになった。

 

 夕方。昼間。夜中。時間を問わず、いつ意識がなくなるかわからないようになっていた。

 

 そして、今度はそのたびに、夢を見るようになった。夜の川原で、何かを話す男女。同じシーンを何十回と見てきた。そして、そのたびに男は消え去って、女は泣き崩れて。

 

 ―――何故か、あたしまで泣いていて。

 

 

 

 

 

 

 

【桂花】「薫?」

 

【薫】「――へ?あ、あぁ、桂花…」

 

【桂花】「どうしたのよ、涙なんか流して。急に怖くなったのかしら?」

 

 

 桂花はおそらく冗談めいて話してきた。けれど、ソレを言われて、自分の頬をなでで、ようやくまた自分が泣いていることに気づいた。

 

【薫】「うわ、なにこれ」

 

【桂花】「自分の涙でしょうが……」

 

 袖で顔を拭く。

 

【薫】「はぁぁ~~~……」

 

 馬の首にもたれかかるように、あからさまに薫はだらけた。うっとおしそうな馬の鳴き声を無視して、薫はぼーっとしている。

 

【桂花】「ずいぶん、情緒不安定ね…」

 

【薫】「そうなんだよ~。桂花なんとかしてくんない?」

 

【桂花】「む、無茶いわないで」

 

【薫】「ふわぁ~……ねむぃ…」

 

【桂花】「あなたね…」

 

 桂花の顔がどんどん歪んでいく。そんな表情の変化が薫にはすごく楽しいものに見えていた。

 

【桂花】「あなたはあの馬鹿のところにはいかないの?」

 

 突然聞いてきた質問はずいぶん桂花らしくなかった。普段アレだけ罵倒して、喧嘩している一刀の事を話すなんて、少なくとも、薫が見てきた桂花ではありえなかったから。

 

【薫】「…馬鹿って?」

 

 ソレが気になったからか、分かっていて、とぼけてみる。

 

【桂花】「…もういいわ」

 

 そんな事も見抜かれているようで、桂花はすぐに会話を切り上げた。やっぱり話題に出すのが嫌なのは変わらないみたいだ。けど、変態から馬鹿になっただけ、一刀にとっては進歩なんだろうか。

 

【薫】「――どっちもかわんないか…。はは」

 

【桂花】「何を笑っているのよ」

 

【薫】「今度は桂花が不機嫌だね」

 

【桂花】「誰と話してそうなったと思ってるのよ!!」

 

【薫】「あたしだね~。あはは」

 

 薫は相変わらず、馬の首にもたれたままで、馬の鳴き声と共に、二人の会話は終った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――洛陽。

 

 静か過ぎる廊下を、男が一人歩いていた。寒い、暗い、その中を男の足音が小気味よく響いている。男が手に持っているのは、先ほど印を押されたばかりの書簡。これを部下の文官に渡せば、早速その書簡にかかれた内容の政策に取り掛かる事だろう。

 

 ――くく。

 

 男は静かに笑っていた。董卓がこの洛陽の太守となって早数年。既にこの街は復興の兆しすら見えないほどに堕落している。それも全て、董卓の悪政によるものだと、漢という国そのものが思いこんでいた。

 

 そうだ、私は数年かけて、この国全てに幻を見せた。前太守の時より見ていた未来。それの実現のために。

 

 男は改めて、自分の手に持った書簡を眺める。その足は歩を止め、笑いはよりゆがんだものへと変わる。

 

 確かに随分と苦労した。

 

 あの少女はあの年齢で、太守という任を予想以上に全うしている。あの賈駆という者の力も在るのだろうが、随分と扱いづらい人間だった。

 

 だが、事態は予想もしていない方向へと進んだ。まさか袁紹が自ら動いてくれるとはおもっても見なかった。以前、一度だけ彼女を見た事が在るが、とても今軍を動かすような胆力の持ち主とはおもえなかった。おそらくは誰かに煽られたのだろう。

 

 ―――そして、私は、その誰かに非常に感謝している。

 

 董卓と賈駆を分断どころか、その回りの武官連中すら、連合のほうへと気が向いているのだから。こうして、動きやすくなったのもその者のおかげといえる。

 

 

【李儒】「だが……」

 

 ひとつ気になった事が在る。その者は何故袁紹を煽った。たしかに現在点在している群雄達の中では比較的強い勢力と言える。軍事力、資金力、影響力。どれを取っても袁家の人間ならば絶大なものになるだろう。

 

 だが、それならば袁術でもいいはずだ。いや、袁紹への感情と、個人の能力を考えれば、袁術を煽ったほうが後に滅ぼすも、手中に治めるも容易いはず。

 

 合点がいかない。こちらの都合のいいように進むには問題ないが、仮に現状が、その者の思惑通りに進んでいるとすれば、私はただ、乗せられているという事だろうか…。

 

【李儒】「―――ありえない。向こうがこちらの存在を知る術はない。」

 

 首を振り、その考えを振り払う。

 

 少なくとも、利用されていると言う線は考えられない。

 

【李儒】「くく。面白い。何が狙いかは知らぬが、貴様の狙い。我が悲願のために利用させてもらうぞ。」

 

 誰とも知らないその者に対して、李儒は呟いていた。

 

 

 そして、同刻。

 

 道すがら、同じくしてその者も呟いていた。

 

 

【薫】「ふふ…いいよ。あんたは”私”にとっても必要だから」

 

 

 外史において、起きた過去全てを把握する力。それはたとえ一秒でも過去ならば、その対象になりえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空は晴れ。汜水関から発って数日。ようやく空はその雲の合間から、蒼色を見せた。

 

 そして、それと同時。見えたのは青だけではなかった。

 

【一刀】「あれが、虎牢関…か」

 

 およそ千八百年前。反董卓連合軍と董卓軍が激突した砦。そして、今俺はその場にいる。武将全てが女性という信じられない状況でも、それには変わりない。難攻不落を体現したような要塞。それをこれから陥落させなければならない。

 

【華琳】「えぇ。ここを越えた先に、ようやく始まりが在るのよ、一刀」

 

【一刀】「やっと、始まりか…」

 

 思わず、腰に下げている剣を握る。

 

 目の前の異様な風景。堅牢な砦の前に数十万とも言える兵士達が並ぶ。その足音だけで、大気は揺れ、大地が震える。それに答えるように、俺の左手が震えていた。それはまるで初めて出陣したあのときのようだった。

 

 いつの間にかなれたと思っていた戦場。それはやはりなれるものではなかった。

 

【桂花】「―――!………華琳さま。あれを」

 

 華琳の隣に並ぶ桂花が、そんな大軍の向かう先を指差している。

 

 そして、その先に見えるのはたった一つの小さな影。見覚えの在る、真紅の髪だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【呂布】「………」

 

 

 無言。何処を見つめるでもなく、ただ目の前に広がる大軍を見つめている。

 

 劉備軍、馬騰軍、孫策軍。その後ろに曹操軍、公孫賛軍、袁術軍、袁紹軍。

 

 七つもの軍隊。数十万の兵士。

 

 それらは全て敵。

 

 ―――月の…敵。

 

【呂布】「………!!」

 

 呂布の足元から、砂塵があがる。そして、一歩。彼女は足を前と出した。

 

 

 

 

 

 ―――――。

 

 刹那。そんな言葉が浮かぶ一瞬の間。世界は、無音となり、たった一人の少女の気配の前にひれ伏した。

 

【呂布】「――――――――――――」

 

 音のない叫び。

 

【春蘭】「くっ」

 

【秋蘭】「なんだこれは――!」

 

 声は風となり、連合を駆け抜ける。圧倒的な圧力となって、その場にいる全ての人間達を支配する。それは、王ですら、抗いようのない人を超えた力。

 

 爆発とも思わせるほどの一瞬の静寂と突風。

 

【関羽】「く…」

 

【張飛】「目を開けていられないのだ…!」

 

 

 

【祭】「なんという氣じゃ…」

 

【雪蓮】「あの時は…抑えていたということでしょうね…」

 

【甘寧】「化け物め…」

 

【周泰】「きゃっ」

 

 

 

 

【馬超】「すげぇ……蒲公英の奴来なくてよかったかも」

 

【馬騰】「面白いな……」

 

 

 

【琥珀】「……っ!」

 

【華琳】「さすがね…」

 

【一刀】「呂布…」

 

 

 

 普通の者なら、直視する事さえ出来ないであろうほどの圧倒的な氣。彼女が一歩前へと出るたびに、あふれるようにそれは吹きすさぶ。

 

 

 

 

 

 

【張遼】「恋、今日はえらいノッてんな」

 

【賈駆】「ようやく自覚したのでしょうね。彼女らが自分達の生活を脅かす敵だと。」

 

【陳宮】「本気になった恋殿にかなう者などいないのです。この戦、もう勝ったも同然です」

 

 

 三人は城壁の上から、呂布の行動を眺めている。彼女が味方でよかったと心から思う瞬間だった。

 

 

 

 

【関羽】「待て、呂布よ。ここより先にお前を行かせるわけにはいかん」

 

 前へと歩く呂布の前に、関羽が立ちふさがる。この支配下の中で、動ける彼女もまた、後に武神とまで言われる存在。もはや常人の立ちいる世界ではなかった。

 

【呂布】「邪魔」

 

 言葉にすら、気がこもっているのではと思うほどのプレッシャー。

 

【関羽】「ならば、私を倒してみるのだな」

 

 戦いの開始は、突然のものだった。近づく連合をたった一人ですくませ、その意を汲み、抗えるものが前にでる。

 

【呂布】「………」

 

 

 呂布の手が、方天戟に食い込むかというほど、強くそれを握り締める。ガチャリと重い音と共に、呂布はその手を持ち上げる。

 

【呂布】「弱い奴は、邪魔するな」

 

【関羽】「――っ!貴様、私が弱いだと!!」

 

【呂布】「恋より弱い…そこをどけ」

 

【関羽】「弱いかどうか……確かめてみたらどうだ!」

 

 それは、いつかシ水関でもあったやりとり。ただし、今度は役者がまったく違っていた。さらに、言う側だったものが、今度は言われる側となっている。

 

 

 

 

 

 関羽の偃月刀が、横から薙ぎ払われる。

 

 がきん、と鈍い音を立てて、ふたつの武器がぶつかる。

 

【関羽】「はああああ!!!」

 

 薙ぎ、落とし、切り上げる。しかし、どれも手ごたえは鈍い。全てが手前でふせがれている。

 

【呂布】「………弱い」

 

【関羽】「くっ……ならば、これなら……どうだあああ!!!}

 

 間合いを開け、両手で偃月刀を握りなおす。持てる力の全てを込めて、切りかかる。かけられる体重は全て、込められる力を全て、かけられる勢いは全て。

 

 渾身の一撃。

 

【呂布】「―――!……まだ、普通…」

 

【関羽】「な……」

 

 手ごたえはある。だが、結果として、呂布は無傷のまま。方天戟ではない。

 

 止められていたのは、右手。敵を切り裂くはずの刃はその意味をなくし、呂布の手の中に治まっていた。

 

【張飛】「あいしゃーーーーーーーーーー!!!!」

 

【呂布】「――!!」

 

 突然の上空の声に、呂布がその手を離し、間を空ける。

 

【関羽】「鈴々!」

 

 砂塵と共に、張飛が着地する。

 

【張飛】「今度は鈴々の番なのだ!」

 

【関羽】「な、お前何を言って――」

 

【張飛】「華雄の時は譲ったのだ!」

 

【関羽】「そんな事を……」

 

【呂布】「うるさい…邪魔するなら…倒す」

 

【関羽】「くっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然始まった戦い。そのあまりの唐突さに、連合軍は浮き足立っている。何しろ相手が姿を見せているのは、まだたった一人だからだ。

 

 

【賈駆】「面食らっているわね。」

 

【張遼】「そらそうやろ~…。こんな事されたら、うちかて戸惑うわ。」

 

 

 策はあまりに無謀。もはや策とも呼べないかもしれない。

 

 ただし、この地形を使って、出来る最大の効果を発揮する策。

 

 敵の前方を崩す。中腹に打撃を与える。敵本陣に止めをさす。全てを可能にする唯一と言っていいものだろう。

 

【張遼】「華雄はもう動いてんの?」

 

【賈駆】「そのはずよ。あなたも早く行きなさい」

 

【張遼】「あいあい」

 

 その場から張遼が立ち去り、賈駆と陳宮の二人になった。

 

【陳宮】「……月殿のところにいなくていいのですか」

 

【賈駆】「…………」

 

【陳宮】「ここに居たら、その間に李儒が何をするか――」

 

【賈駆】「まずは、こちらをどうにかしないといけないのよ。月の夢は、あの洛陽を以前のように栄えさせることなんだから」

 

【陳宮】「父上の遺志で……なのです」

 

【賈駆】「…………」

 

 そこには月の意思はない。そう言わんとするかのように、陳宮は話している。

 

【賈駆】「………余計な遺言を残してくれたものよね」

 

【陳宮】「まったくです。おかげで恋殿が余計な苦労をしなければならないのです。」

 

【賈駆】「余計……か」

 

【陳宮】「でも、必要だから、するのです」

 

【賈駆】「えぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【呂布】「っ!!」

 

【張飛】「ぐっ――!」

 

【関羽】「鈴々!!」

 

 呂布の一撃をまともに受け、張飛の体が吹き飛ぶ。数回転した後、なんとか体勢を立て直すが、立ち上がろうとする事で精一杯だった。

 

 

【関羽】「呂布!!!」

 

 関羽が地をけり、飛び出す。

 

【呂布】「はっ!!」

 

【関羽】「はあああああああ!!!」

 

 数合、数十合。何度もぶつかる。だが、そのたびに、関羽の刃が削れ、体が浮き、きしむ。

 

【関羽】「がはっ…」

 

【呂布】「………」

 

 華雄を一蹴した関羽。だが、その関羽に張飛と同時に攻められて尚、呂布は息すら切らすことがなかった。

 

 戟を回し、ほこりを払う。もう終わった。そう告げるように、呂布は前へと進む。

 

 ――だが。

 

【呂布】「――!!」

 

 突然前方から飛来する何かに反応し、戟で防御する。軽い音と共にはじいたそれは、見た事のない形状の剣。少しの反りを持った、片刃。それが、三本同時に飛んできた。

 

【琥珀】「―――っ!!!」

 

【呂布】「ちっ!」

 

 はじいたと思った瞬間、さらに高速で、飛来する何か。それは人の影。

 

 はじいたそれとまったく同じ形状の剣を持った少女。

 

 戟を振り回し、、その少女を振り払う。

 

【関羽】「…こ、琥珀…」

 

【琥珀】「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを遠くで見ている者達。

 

 ――曹操軍・陣営

 

 

 

【一刀】「琥珀…」

 

 関羽がやられると思った瞬間、後ろから琥珀が飛び出して行った。やはり二人には何か在るんだろうか。一刀は確信に近い疑問を持っていた。

 

 

 

【桂花】「華琳さま、よろしいんですか?」

 

【華琳】「………許していい事ではない…。けれど…」

 

 唯一、琥珀の事を理解している華琳。それが、彼女の判断を鈍らせる。

 

【華琳】「……いいわ、今は琥珀が抜けた穴を埋めるほうが最優先。張遼の一件もあるから、後ろだからと言って油断していられない…。――私達も前へでるわよ!!」

 

【春蘭】「――っ!!はい!!」

 

 華琳の指示に最もよく反応する春蘭。前回お預け食らった分、その反動もあるのだろう。

 

 曹操軍が移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――孫策軍・陣営

 

【雪蓮】「そう…。曹操が動いたのね」

 

 伝令の兵を持ち場にもどし、雪蓮は前方を眺めながら考えていた。

 

 敵は今呂布一人。なのに何故どこも動かない。いくら万夫不当と言われた呂布でも、これだけの軍勢を一度に抑えるのは不可能なはず。にもかかわらず、戦っているのは劉備軍の関羽、張飛。それと今突っ込んで行ったあの子はたしか、曹操軍の子だったはず。

 

 およそその三人だけ。

 

 何故。

 

【冥琳】「おそらくは前回の張遼の奇襲を恐れているのだろう。呂布一人で守るなど、罠が待っているといっているようなものだ。」

 

 心を読んだように、雪蓮の疑問に答える冥琳。

 

 常識として、一人が軍勢に立ち向かうなどありえない。ただの足止めと言う意味でなら、あるいは、きいた事のある話かもしれないが、それでも話しの中だけの空想。

 

 その上、董卓軍は逃げればいいと言うものではない。彼女達は勝たなければならない。

 

 それが分かっていないほど、敵の軍師は阿呆ではないはず。ならば、それが分かった上で、この作戦を立てているという事だ。

 

 呂布一人の守り。その向こうに在るものは、虎牢関突破なんて名誉ではない。

 

【冥琳】「だが、そう思わせておいて、時間を稼ぐと言う策も考えられないこともない。だが」

 

【孫策】「自分達で、それを確めようとは思わないって事ね…」

 

【冥琳】「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――曹操軍・陣営

 

 

【薫】「…………」

 

 

 最後列で、全てを見据えるように、彼女は黙っていた。

 

 ―呂布が前にいる。賈駆が思い描く策は、おそらくは呂布を撒き餌として、ひきつけている間に、張遼と華雄をこちらに仕向けると言うものだろう。だが、それには当然ながら危険が伴う。呂布の兵を最後の保険として残してはいるんだろうが、最悪呂布が負けるようなことがあれば、数十万もの軍に対して、真正面ががら空きという状態を創り出してしまう。

 

 さらに、先鋒を無視して突撃してくる張遼や華雄とも分断され、ほぼ確実に敗北は確定する。

 

 そしてそのとき、おそらく最前線にいるのは……。

 

【薫】「以前の通りに運ぶには…まずは霞か…」

 

 彼女を捕らえる。既に以前とは違う流れになっている以上、霞の存在が確実に必要となっている。これ以上前回と違う流れにはできない。出なければ予測不能な未来へと変わってしまう。

 

 薫は既に、あの光景を数百回と見てきた。在るときは夢、ある時は幻。

 

 だが、そのどれもが実際に起きた別れ。

 

 薫の望む外史。もう一度、あの世界へもどるために。今度は自分として、あの人たちに会いたい。その願いをかなえるために。

 

 もう一度、同じ歴史を繰り返す。変えるのは、最後だけ。

 

 あの別れをなくさなければならない。

 

 そのためには。

 

 歴史を変えるのは、御使いであってはいけない。御使いが歴史を変えてはいけない。彼を干渉させない事。それが絶対条件。

 

 その上で、以前と同じ事を繰り返すのだから、それは容易ではない。

 

 わざわざ袁紹を動かしてまで起こした、この戦。ミスはできない。

 

 

【薫】「ねえ、ちょっといいかな」

 

 

 近くの兵に声をかける。

 

 そして、自分の思い描いた構図の一部を彼に伝え、兵を動かす。

 

 

【薫】「っ!………すぐに戻るから、ちょっとおとなしくしてて…!」

 

 

 ズキリと響いた頭痛に話しかけるように、薫は呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 さて、洛陽編・虎牢関戦、第一部でした。

 最初っからラスボスです(’’。

 基本的に薫と李儒のオリキャラ同士のやり取りを裏に、虎牢関での戦いは呂布vs色々と言う感じですねぇ。そのために呂布の武力のインフレがすごいですが(ぁ

 

 ではでは、次回虎牢関戦、第二部で(`・ω・´)ノ

 あ、次くらいから一刀君頑張りますw

 

 

 

 


 
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