No.1014351

司馬日記56+おまけ

hujisaiさん

お久しぶりで御座います。来年が皆様にとって良い年となりますよう。

2019-12-31 16:53:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3835   閲覧ユーザー数:3215

11月27日

突然詠様に会議室に呼ばれ、昇進を言い渡された。肩書としては総務室長補佐となり、部長級扱いとなるが業務としては何も変更は無いとの事だ。

光栄であり拝命致しますが異動時期でもなくなぜこの様な時期にと伺ったところ、

「昇任の業績基準と合致してなさすぎて人事部で問題になったからさせたのよ、あんたが毎度毎度筆記試験で落ちてるからって言い訳してたんだけどいよいよそうもいかなくなってね。普通ここまで成果出せる奴はあんたみたいに性格が極端じゃないから、普通は昇任試験も受かるからそんな不一致は発生しないんだけどね」

と言われた。業績を褒められたと言うべきか筆記試験が不甲斐ない事を叱られたと言うべきか、なんとも微妙な所に思われたが、同席された月様が

「仲達さんの(メイドとしての)お仕事はとっても良いですから、いつかメイド学校を作ってそこの先生をやって欲しいです」

と微笑まれたが、詠様は

「やめてやめて冗談やめて、そんな事したら月とこいつしか残らなくなるからこのクソ忙しいのに」

と即座に否定され月様は残念そうにされていた。

 

…一刀様にお仕えするメイドの教育。とても重要な業務であり大変興味をそそられ、もし任命されたならば一刀様の為厳しく教育に打ち込んだであろうが。

 

11月29日

呉の甘寧殿から士季づてに、蒋欽殿・周泰殿が新人武官に対して行う『逃走中』研修に覆面にて参加して欲しいとの依頼があった。

曰く、教官側である蒋欽殿・周泰殿に最近油断が見られ、屋内戦に覚えのある私が参加する事で軍紀の引き締めを行いたいとの事だ。

 

呉の大将軍たる甘寧殿から直々の御指名とは光栄であるが、研修が業務時間中である為上司である詠様と公達様に伺った所既に依頼文が来ており承諾されていた。

たまさかに璃々嬢らの指導で体は動かしてはいるが、その道に長けた蒋欽殿・周泰殿の追跡を振り切るには多少なりとも鍛錬や事前の検討をしておかねばならないだろう。

 

 

12月1日

総務室での執務中に、子敬が『逃走中』研修に紛れ込む為の新人武官用の制服を甘寧殿から預かってきたと言うので引き取った。そのやりとりを御覧になっていた一刀様がどうしてまたと御下問されたので経緯を御説明すると、子敬が何か思いついたようでちょっと待っててと言い更衣室へ消えていった。程なくして同様の制服を着こんで戻り、

「じゃーん!どう一刀様、あたしの新人時代の制服えっちくないですか!?今度これで『おふぃすらぶ』とかどうです?」

と言いながらしなをつくると、ピーンと小さな音を立てて腰の金具が飛んだ。

直後から子敬が微動だにしないので訝しんでいたら目を開けて立ったまま気絶していた。

 

その日から三日間子敬は寝込んだ。

 

 

12月7日

髪をまとめて新人武官の制服を着こみ覆面をし、甘寧殿の指示を受けた徐盛殿の手引きで『逃走中』研修に紛れ込んで参加した。

規則で直接的な打撃は禁じられているが罠の設置は認められているので数か所仕掛けた所蒋欽殿が引っ掛かって拘束出来、終盤私が新人武官でない事に気づき本気を出された周泰殿に肉薄されたが罠や障害を盾にどうにか時間内を逃げ切る事に成功した。

研修後甘寧殿が厳しく二方を叱責され、罰として御伽日を呉の調練に協力した私に譲るよう指示されたがそれは辞退させて戴いた。

呉の誇る隠密たる蒋欽殿・周泰殿は呂布殿と並び一刀様の身辺警護という至上の重責を担われており、此度の反省を今後の業務に生かして頂ければと思う。

 

12月9日

帰宅すると姉妹達が妙に豪華な夕食を用意して待っており、何事かと聞くと私の昇進祝いだと言われた。特に業務の変更が殆ど無かった為家族に報告する事をすっかり忘れており、夕食の席で改めて報告すると共に一層一刀様の御為に業務に邁進する事を抱負として述べた。

すると何故か姉妹全員から呆れたような冷めた目つきで見つめられ、何かおかしな事を言っただろうかと問うと伯達姉様が普段と変わらぬ笑顔で

「仲達、『業務に』ですか?」

と逆に問われ、はいと答えると何故か私の海老チリの皿をすっと引かれ、

「今一度問います、『業務に』と言いましたか?」

と再度問われた。何がいけなかったのか分からず、私も再びその通りですと答えると次は汁椀が引かれここに至り漸く私が伯達姉様の求める答えを大きく外しているようだと言う事に気づき背筋に嫌な汗が流れた。

しかし正答が分からず青くなりながら、笑顔のまま次第に怒気を強める伯達姉様と同じやり取りを三度繰り返して遂に私の前に残るものが漬物のみになったところで叔達が『伯達姉様は閨房での抱負を述べなさいと仰っているのですよ』と耳打ちしてくれ、漸く姉様の御意図と部長職になって御伽番の頻度が上がる事の両方に気づかされた。

その後も具体性が足りないなどと伯達姉様に何度も駄目出しを受けながらも、最後になんとか

『来年は鮪女を返上し、はしたない位に性技に長けた女になって一刀様に御満足頂く』

と誓う事で夕食を食べさせてもらえることとなった。

 

…これが逢紀や元直等の言う『公開処刑』というやつなのだろう。

 

12月10日

第四次王都開発計画の変更が策定され決裁が回ってきた。

開発中の商業区画予定地への出店募集に応募が殺到し、まるで足りない見込みとなってしまったためだ。

今次だけでも既に二度目の計画変更であり、以前詠様が仰っていた都市単位での機能分散が必要なのかもしれない。

 

12月11日

昇進祝いにと『衣料九割引券(後宮用)』を伯達姉様から頂いた…と言うか有無を言わさず渡され、必ず今日中に何らかの品を購入してくるようにと命じられ生協のその…閨房用品店舗へ赴いた。

あからさまにそういった事の為の店舗へ入るのは多分に恥ずかしかったが、後宮に属する者が一刀様の心身をお慰めする為に房事の研鑽に努める事は当然の事ですよと正論で諭され、終業後にこそこそと店舗に入ったところ何と店員の服を着た逢紀(杏)と鉢合わせた。

たっぷり一秒は顔を見合わせた後、おずおずと 

「いっ…いらっしゃいませー…?」

と言われ我に返ると羞恥がこみ上げ、こんな処で何をしている、(メイド)業務はどうしたと問うと、文烈(曹休)様の御指示で三国一の店員と合わせて勤務しており兼業許可も取っているという。彼女の後宮入り時に手続きを行ったのは私だったが、民間勤務先がこちらでもあったとは知らなかった。

広くない店内には私と彼女の二人きりで、扇情的な下着を買わねばならぬ身としては物凄く気まずい。店員の習性か私が挙動不審の為か、えっちな下着とかお探しですかと図星を突かれ、自棄でそのようなものだと答えると

「仲達さん肌白いんで黒…はお持ちだったら、この青のとか、こっちの赤いのとか大きいおっぱいが映えるんで、上下組でどうですか」

等と勧められたが、青い方は明らかに下半分しかなく乳首も露出する作りで、赤い方は上も下も完全に透けている。どちらも選べたものではないが自身で瀟洒かつ一刀様の御心を高められるものを選べる自信もまるでなく、困り果てていたところふと運動服の展示が目に付いた。

服の付箋には三国塾風運動着とあり、三国塾制服と並んで学校用品が何故このような店舗に置かれているのかは不思議ではあったがそういえば伯達姉様は必ず『下着と』交換券を交換してこいとの御命ではなかった事を思い出した。一刀様への御奉仕用下着はまたいずれゆっくり自身で選ぶ事とし、多分に屁理屈の感は否めないが当座姉様の御命をやりすごす術としてこの運動着を選ぶ事にした。

勘定場の逢紀(杏)にあの運動着を頂きたいと指さして申し出ると、

「えっ…マジですか?」

「?何か問題があるか」

「いえ…いえ、何も無いですけど」

と言い、

「あの…そういう(コスプレえっち)用なんで、破れやすいのと超伸縮のとありますけどどっちにしますか?」

「?こういう(運動)用途なのだから伸縮する方だ」

「はい、あと(チラ見せ用に)ダボダボ系と(おっぱいお尻を強調する)パツパツ系とありまして、仲達さんの体型ですとパツパツ系がお勧めですけどそちらで宜しいですか?」

「(『だぼだぼ』『ぱつぱつ』の意味が分からぬ…)ではお勧めの『ぱつぱつ系』で頼む」

と何とか注文する事が出来た。

物凄く珍しいものを見たような顔をしていたが、きっとこちら(後宮用品)の店舗でこういった一般商品を購入する者が珍しかったからだろう。

私としても知人の目の前で自身の性癖を晒すような買い物をせずに済んでほっとした。

とは言え学生でない私にはこの運動着は無用の長物であり、いずれ雅達か幼達が体形が合うようになったら譲ってやろう。

 

12月14日

夕食中、早速伯達姉様から「仲達はちゃんと(扇情的な下着を)買えましたか」と聞かれたので、姉様の御意図には添えず申し訳ないと思いながらも

「はい。ぱつぱつ系の体操着を買わせて頂きました」

と答えると、叔達以下の妹達と士季(鍾会)、士載(鄧艾)が一斉に食べていた物を噴き出した。

 

それぞれが慌てて噴き出したものを片付けると、叔達ら上の妹達が口々に

「正気ですか!?いい年こいて!」

「無茶です、うわキツにも程がありますよ!?」

「ずらしハメとかそんな高度な技が自分に出来ると思ってるんですか!?」

「まさか次は制服だとか言い出しませんよね!?」

等と訳の分からぬ事を言い詰め寄って来たが、伯達姉様が無言の早業で叔達、季達、顕達、恵達の眉間に空いた食器を命中させ、

「いいえ、何もおかしくありませんよ。ある程度円熟してからこその味もあるというものです。仲達は今後も励みなさい」

と今一つよくわからない指導を頂いたが、この笑顔の姉様には逆らってはいけないと言う事を長年の経験で知っていたので曖昧に頷いておいた。

 

また士季は一人で何も言わずに気色悪い表情でひっくり返り気絶していた。隣で様子を見ていた士載曰く、声を殺したまま笑い過ぎで気を失ったようだと言っていたが、何がおかしかったのだろうか。

 

 

※「司馬日記外伝 遺失物件第一号」御参照

 

 

12月16日

公達様より三国一の割引券を渡され、

「あんた、「逃走中」研修で蒋欽と周泰とっちめちゃったんだって?向こうの二人に明後日の夜時間取ってもらったから、これで今夜飲みに行ってきなさいよ」

との御指示を受けた。午後は総務室の業務であった為、詠様にその旨御報告したところ目を丸くされ

「あら、公達さん随分気使ってくれるのね。良い事だから、あんたが明後日やるって言ってた調査物のまとめはボクやっといてあげるから、飲んで来なさいよ」

と感心した様子で言われた。またやりとりを見ていた子敬が私をじっと見つめており、何か顔についているだろうかと問うと

「いやあんた分かってないだろうから言っとくとね、普通ああいう(逃走中)事があったら思春の依頼だったとはいえ面子潰しちゃった訳だから正命(蒋欽)、明命とは多少なりとも気まずくなるもんなのよ、全員が仲達みたいに業務だったからって割り切れるわけじゃなくてね。公達さんが飲んで来いってのは、良い機会だから向こうに気まずい思いさせたまんまじゃなくて御機嫌取って仲良くなって来いって意味なのよ。あたしからもちょっと出すから二人に猫の縫いぐるみでも買ってって『先日は業務とはいえ失礼しました』ぐらいの挨拶はするのよ?」

と寸志だと言って金を無理やり渡された。

 

12月17日

子敬らに言われた通りに進物を買い、三国一の席で蒋欽殿らと落ち合い先日はと御挨拶した。

するとお二方とも業務の事ですから、むしろ御迷惑掛けましたと恐縮されたが折角の機会ですので親しくお話させて頂ければと酒を勧めると、高名な仲達さんとは一度お話ししてみたかったと言って頂けた。

互いに比較的しがらみの少ない中位職であったからか、酒が進むと共に非常に話が弾んだ。屋内戦の索敵や罠の敷設方法等の比較的固い話題から始まり、互いの上司の話や服飾、一刀様のお話に及ぶと

「わかりました!分かりましたからちょっと仲達さんそこらへんで止めましょう!」

「これが噂の『ちゅーたつ』って奴だったんですね、すっごい可愛いけどマジで切りが無いんでちょっと止めて下さい!」

と笑いながら途中で遮られてしまった。

周泰殿は亞莎と似て可愛らしく真面目で、蒋欽殿は周泰殿と容姿は似ているが朗らかな方だと思って居たが、周泰殿は上司等に話が及ぶと可憐な容姿に似合わぬ毒を吐かれ少し驚いた。また御自身は十分女性的な造形をされているにも関わらず妙に大きな乳房に敵意を持たれているようで、私の胸を指差し『次は絶対捕まえて見せます、そのおっぱいに誓って!』と店内に響く声で誓われるのには少し困惑してしまった。

二人は私を『今日飲むまでは怖い人だと思っていたけれど、真面目で凄い面白い人だった』と口を揃え、自分では真面目は分からないでも無いが詰まらない人間だと思って居るがどこが面白いのかと問うと、何もかもだ、と再び笑われてしまった。

 

お開きとするところで、先日御伽番の譲渡を辞退した事の礼を改めて言われ、代わりにと言っては何ですがと言って透明な粘液状のものが詰まった中程度の瓶を渡された。何かと聞くと、呉の一刀様専属泡姫秘蔵の『特殊ろーしょん』だと言う。

そういえば彼女らは『ろーしょんぷれい』の高手として後宮では名高い事を思い出し、これは何が特殊なのかと伺うと皮膚から吸収される精力剤入りだという。

これで一刀様とぬるぬるずっぷりヤッて下さいと言われ、房技至らぬ私が頂いても宝の持ち腐れだと固辞したが、それなら尚の事これを用いて奉仕研鑽に励まねば不敬でしょうとやりこめられ受け取らされてしまった。

 

店を出て、大分酒を過ごされ真っ赤な顔で酔歩蹌踉とした周泰殿が

「仲達さんがいい人で今日はとっても楽しかったです、仲達さんだけ特別にそのおっぱいは許します!穏様のは有罪ですけど、見せすぎですからあれ!」

と言われ、蒋欽殿が『じゃ祭様のは?』と聞くと、はっ、と鼻で笑うような表情を浮かべ

「あれは別にいいです。ほぼ終わったおっぱ」

と言い終える直前にどこからともなく飛んできた石弓が彼女の側頭部に直撃し昏倒した。慌てて駆け寄ると笑顔のままの蒋欽殿に制され、

「あ、よくある事なんで大丈夫ですー、この娘ほんと懲りないバカなんでー」

と妙に慣れた様子で肩に担いで連れていかれたが、大丈夫だろうか…

 

12月19日

久々に総務室の夜勤となった。太史慈殿が御伽番で、何かあった際に助けて欲しいので夜勤に入ってくれないかと頼まれた為だ。

 

一刀様のご寝室外の警備は警備部が行っており、二室離れた控室で雑用品を備え待機しているだけで何をする事も無いのだが、書類仕事をしているうちに特に何事も無く朝を迎えた。太史慈殿はおそらく無事に勤めを果たし、一刀様も御慈愛を彼女に賜ったのだろう。

 

 

12月21日

午後の休憩時間に、総務室で月様の下一刀様の身の回りの世話をされている劉璋殿がにこにこされながら私の元へ来られた。

どうされたのかと問うと、声を潜めて「お伺いしましたよ、例の(どすけべむちむち)体育着を買われたんですって!?」と問われた。

一瞬何の事か思い出せなかったが先に購入し箪笥の肥やしにしていたものを思い出してはあ、と答えると更に笑みを深めて

「まあ御立派です!うちの晶(張任)がそういったの(コスプレえっち)に及び腰で、尊敬する仲達さんがお買いになったと聞けばきっと見習わせる事が出来ますわ!」

と嬉しそうに言われたが、意味が分からず一体何を見習われるのでしょうかと聞き返すとぽかんとされた。

劉璋殿は少考されるとひょっとしてですがと前置きされて、当該体操着が夜伽の為の物である事を知らないのかと聞かれ、今度は私がぽかんとさせられたのちに赤面する羽目になった。

慌てて更衣室にしまっていた件の体操着をよくよく見てみると劉璋殿の言われる通りもの凄く生地が薄く、胸元の開きと股の切れ込みが異常に激しい上に布が柔らかすぎ、こんな服で運動をしたら簡単に色々な部分が露出してしまいまるで学校体育で着用出来るようなものではない。

事務室に戻り、劉璋殿にしどろもどろにそのようなつもりでなかったと言い訳をするとそれは良くない、一刀様に夜もお仕えする身として一刀様をお飽きさせない努力は必要であり是非にもそれを着用して可愛がって頂くべき、一刀様にもそのようにお勧めしておきますと言って止めるのも聞かず部屋を出て行ってしまった。

 

12月26日

定例会議後に一刀様に「ちょっといい?」と手招きされ何事かと御側へ伺うと、今宵例の体操着を着て周泰殿らより拝領したろーしょんを持参し伽に来てくれないかと御指示頂き、頭が真っ白になってしまった。

羞恥に頭が爆発しそうになりながらも先の劉璋殿とのやり取りを思い出し、そのような破廉恥な御伽を強請る意図は無く一刀様にお気遣い頂くような事ではありませんと固辞したが、周泰殿らからも一刀様へろーしょんぷれいで御寵愛賜るようお勧めされており、かつ一刀様御自身の意志であると仰られては御言葉に異を唱えられる筈も無い。

 

凡そ御寵愛を賜る際は常に身悶えする程の羞恥に耐えていたが、此度ばかりは穴があったら入りたい、この身を消せるものなら消してしまいたい程のそれであった。しかし同時に、後宮の末席を汚す私の様な浅ましい女にもお授け下さる一刀様の海よりも深い御愛情と、女としての悦びはもはや言葉を以って表すべからざるものである。努々、一刀様の御為にある自分である事を忘れず、日々お尽くしする事を胸に生きねばならぬとあらためて心に誓う。

 

12月27日

一刀様によると、古の孫武の兵法書は遥か永い時を超えて天の国でも国王や重臣、豪商等に優れた戦略書として読まれていると言う。一刀様は詠様にこういう昔の有名な書は読んでるの、と聞かれると

「まあ一通りはね、ボクは涼州に居た頃は特に呉子を読んでたかな。でも最近は世の中の移り変わりが早過ぎて、参考にしてる暇もないって感じかしらね」

と言われた。それを聞いてはたと思いつき、一刀様の御言葉や臣下との御問答を書に編纂すればきっと後世に末永く語り継がれましょうと申し上げたが、詠様からは

「あんたそんなエロ小説もどき誰が読むの?」

と鼻白まれ、一刀様からは

「始終叱られっぱなしの本になって恥ずかしいから遠慮する」

と言われてしまった。

 

…素晴らしい書になると思ったのだが。

 

 

 

 

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「折り入ってお話との事だが、今日はどうされたのか。伯道(郝昭)まで」

平素はどちらかと言うと快活な太史慈殿が平素からも謹厳怜悧な伯道と連れ立って、神妙な顔をして相談があると言われ三国一の個室で向かいに並ばれると多少なりとも彼女らに何か深刻な問題が起きたのかと心配になる。

 

「…おい」

「…お前が言え」

「…まあ、まずは一口飲まれてはどうか。その方が話しやすい事もある」

互いに顔を見合わせ肘で突き合う二人を見て、人情の機微に疎い事には自信のある私も恐らくは話し難い事なのだろうと察して麦酒を注いでみる。

「あ、すみません頂きます」

「すまんな、頂こう。仲達もまぁ飲んでくれ」

伯道(郝昭)から差し返され、角桝に黄金色の酒が注がれる。厳密に同一ではないが『天の国の酒』としてこの酒は最近人気であるらしい。

 

「それで、あー。まぁその、なんだ」

日頃歯切れの良い伯道(郝昭)が言い淀むのを見ながら、角桝に口をつける。

 

 

 

「『ぶるまろーしょんぷれい』の高手たるお前に、やり方を教授願いたい」

「っ!?!?!?」

噎せた。

 

 

 

 

「だ、大丈夫ですか仲達様!?」

「仲達!?」

「ごほっごほっごほっ!」

慌てて口をお絞りで抑える。麦酒は酒精の度は弱いと聞くが、一気に頭にまで廻ったかのように顔が火照っていく。

と言うかなんなのだ、突っ込みどころしかない。

「な、なぜ突然そんな話になる!?」

「え、えっと、お話しすると長いんですが…」

聞けば、ある時二人は一刀様から大浴場の清掃?(と御伽?二人の話が部分的に食い違っており判然としない)を命じられたが浴場で乱闘を起こし、施設を一部損壊してしまったらしい。結果、伯道(郝昭)は楓(曹真)御嬢様から、太史慈殿は孫策様から罰としてそれぞれの次回の御伽番を二人まとめて一回にされ、ろーしょんぷれいで御奉仕するよう命じられたという。

「と言われましてもどうすればいいか分からず、雪蓮は教えてくれませんし」

「楓(曹真)御嬢様も『家庭教師ぷれい』以外は教えられないと仰る」

「だからと言って何故私に聞きに来る!」

後宮の数多の寵姫達に比べ、私は児戯に等しい程に房技に劣る事を自覚しておりそれは周囲にも認識されていた筈だ。

 

「だって、明命たちが言うんですよ」

「周泰殿が?」

「仲達様はろーしょんぷれいの免許皆伝だって」

「そ、そんな筈は無い!」

多少朧げな記憶を辿ってみるが、御厚意で精力剤入りのろーしょんを拝領しただけだ。

「いや、私も一緒に聞いたから間違いないぞ。聞けば周泰殿らのろーしょんぷれいは門外不出の絶妙技、上司の甘寧将軍にさえ洩らさぬ程の秘中の秘だそうじゃないか」

「そうなんです、明命たちが(ろーしょんぷれいのやり方を)誰かに教えたって話は聞いた事無いですし。勿論私にも教えてくれないのですが、仲達様が(私に)教える分には構わないって言うんです」

「そんな馬鹿な…!」

 

いったい如何なっているのか、真顔で語る二人に頭を抱えてしまう。実はあの晩私が酔って覚えていないだけで御教示頂いていたのだろうか?いやそんな事は無い筈…。どちらにしろ、現在の私が彼女らに教授出来るほどの技量を持っていない事実は変わらない。

「どのような誤解があったのかは分からないが、現実として私のその…腕前は話にならぬ。他をあたって頂きたい」

「そこを枉げて頼む!」

「お願いします、仲達様!折角なんとか体操着だって手に入れましたのに!」

「…体操着?」

先日意図せず買ってしまい、一刀様が御気を使って下さって着用したがそれはろーしょんぷれいとは関係ないのではないのか?

 

「ああ。これを着てやるのが『司馬懿流』だと有名じゃないか」

「性協で注文殺到しちゃって私達が買ったのが最後でもう品切れですよ、『【あの】司馬懿が着た!失神するまで終わってくれない、ドスケベ衣装の決定版!』ってでかでかと幟が立ってたじゃないですか」

「何だそれは止めさせろ!」

知らぬところでとんでもない事になっている、最近庁内を歩いていると妙に視線を感じていたのはこれが原因だったのか。

「何しろ、私がそのっ…ような事に優れていると言うのは誤解だ!周泰殿らと話させて貰えれば判る!」

「はあ…仲達様がそう仰るだろうと、実は来てまして」

「…来てまして?」

 

「来てましてー!」

「いぇーい飲んでるぅー!?」

 

必死に説明する私に太史慈殿が困り顔を浮かべながら私の背後をちょんちょんと指をさす。そちらに振り向くと、個室の襖をすぱーんと音を立てて開けながら笑顔で肩を組でいる周泰殿と蒋欽殿がいた。

「お二人は…?」

「まあまあ細かい事はいいじゃないですか、仲達さんもぐぐっといっちゃって下さい!」

「は、はあ…」

二人は両隣に座ると手にした銚子を私に勧めて来たが、二人の吐く息からは強烈に酒精の香りが漂う。恐らくは私達が来店する前から別室でかなり飲まれていたのだろう、陽気な様子で顔も赤い。礼儀として盃に口をつけ、二人の御酌に杯を伸ばした。

「えぇ~?魏の重鎮の、仲達さんに注ぎ足しなんて私できなぁーい、明命どうしよぉーう?」

「困りました、このままでは正命(蒋欽)の手首が御銚子の重みで折れちゃいます!仲達さん、どうかどうか、盃を空けて頂けませんか!?」

「…これは失礼」

妙に劇がかった周泰殿の言葉に盃を一気に空けると、さっすが仲達さん、と言いながら蒋欽殿になみなみと注がれた。…正しくお二人は既にかなり出来上がっているようだ。蒋欽殿らとは今後とも懇意に願いたい事ではあるし別に飲めない方ではないのでこの程度頂く分には何も問題はないが、折角お二人が居るので明らかにしておきたい。

「…いきなりで失礼ですが、この様な所で奇遇にもお会い出来たので一点お願いさせて頂きたいのですが」

「はい、なんでしょう!」

「なんでも仰って下さい!」

笑顔で左右から身を乗り出し、比較的しっかりした二人の受け答えを聞いて少し安心する。未だ前後不覚な程酔われてはいないようだ。

「この二人に」

 

正面で神妙に座っている太史慈殿と伯道(郝昭)をちらりと見る。

「私がその…『ろーしょんぷれい』の免許皆伝等では無いと、御証言願いたいのですが」

自らの至らな過ぎる一刀様への奉仕を半ば自供する事に若干の羞恥を感じながらも、言わねばならぬ事となんとか堪える。

隠密警護の達人にして呉の泡姫とも名高いお二方の名を汚しかねない誤解は今解かねばならぬ。お二人はああ、うん、と互いに目配

せすると、にこやかに言い放った。

 

 

 

 

 

 

「いいえ?仲達さんは免許皆伝です。ねえ?」

「うん」

「な、なぁっ!?」

 

 

想定外の回答に、思わず叫び声を挙げてしまう。頭がくらくらとし、平衡を失い椅子からずりおちそうになるのをなんとか支えた。

 

 

 

 

「やっぱり…」

「やはりか」

「い、いや納得するな!そ、そんなはずは無いでしょう!?」

向かいで深く頷く二人を制し、左右の二人を首振り人形のようにみやると、それぞれ手酌で角桝を呷り、ぷは、と息をつくところだった。

右の蒋欽殿が瞳を閉じ、左の周泰殿が深く息を吸う。その可憐な唇から、何を語るのか。呆然と見ていることしか出来ない。

 

 

「思慮純忠なる魏の司馬懿」

「我等両名、その心根に心打たれ」

「一刀様への奉仕至らぬと」

「悩む乙女に助力せんと」

「『逃走中』でボコられた事も暫し忘れ」

「変態上司にも明かさぬこの奥義」

「「あ、全てをあの夜に授けしやぁー!」」

 

「おおー…」

「…すみませんが、ちょっと待って頂いて宜しいですか。…伯道らもちょっと拍手は止めて頂きたい。あの、」

「かくて、ろーしょんぷれいの神髄を会得した仲達さんは」

…聞いてもらえぬ。

「一刀様への御奉仕に見事成功し」

「性交し」

駄洒落か。

 

「一刀様の特濃ろーしょんを、びゅるんっびゅるんにその身に。違いますか仲達さん?」

「はっ…?」

突然聞かれた。いや違うかと言われると。

 

「いや、その…違わなくは…」

「見て下さい、これが免許皆伝の力です」

「おお…やはり、流石は仲達」

「すげぇ…あ、いえ凄いです…」

「いや待て、ち、違わないがそうじゃない!」

どや顔をしながら私の背をぽんぽんと叩く蒋欽殿に、伯道(郝昭)らが感心したように頷くのを止めさせる。私が言いたいのはそうじゃない、

「いいえ。そのばいんばいん様で!ろーしょんで挟んでしゃぶって飲まなかったとでも!?」

「い、いや…」

「一刀様の御精を頂いた事を!一刀様への真心の御奉仕を偽るのですか!?」

「あ、う…」

「しましたね!?しましたよね!?一刀様の御名にかけて!」

 

一刀様の御名に。その言葉に、茹る頭でも首肯せざるを得なかった。

「聞きましたか。これが免許皆伝一の技、『ぱいずりごっくん』です」

「ほう…」

「成程なぁ…でも、明命の胸じゃこれ出来な痛ってぇ!!!」

「帰りますか駄肉?無駄口叩く暇があれば仲達さんに御酌して下さい駄肉」

「か、角桝投げんなよ…あ、仲達様すみません、どうぞ」

「あ、ああ」

周泰殿が目にもとまらぬ早業で投げつけた角桝は、太史慈殿の眉間でかーんと高い音を立てて割れたが大丈夫だろうか。それと、胸と口とろーしょんを併用した御奉仕は、一刀様に御指示頂いた事であった気がするが。

 

 

「余計な茶々が入りましたが、その後には手で御満足頂きましたね!?さあ一杯!」

「勿体なくて全部飲みましたよね!?さらに一杯!」

「あの」

「全身を使って一刀様の右腕を洗い!もう面倒ですから御銚子から直接どうぞ!」

「更に全身を使って左腕を洗い!純米酒もどうぞ!」

「それは」

「上からしがみついていつの間にか入ってて!麦酒もいきましょう!」

「抜かずの三発!死ぬほど良かったですよね、その時の一刀様とのあっむぁぁぁぁいやりとり思い出しましょう!なんて言われましたか!?なんて褒められましたか!?なでなで何回!?もう全部まぜちゃえ!」

「…ひっく」

「じゃ、免許皆伝様に一刀様との熱い一夜を語って戴きましょう!さあどうぞ!」

一升瓶を己の口に突き立ててひっくり返し、中の液体が出てこなくなるのを確認してから瓶を置いて一つ息を吐く。

 

 

 

 

 

 

「…ろーしょんぷれいを語る前に。まず、『御伽』とは何か」

それが自身の発した一言目だった事は、覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――姉様は、いい加減に禁酒をなさるべきです。

 

今朝起こしてくれた叔達から出勤前浴びせられた冷たい視線と言葉に、流石に反省の念は禁じ得ない。

だが酒席は業務の潤滑油たる側面を持つ為禁酒は流石に現実味がない。又、酒と共に一刀様の素晴らしさに思いを巡らし、語る事は業務の精神的疲労としてこれまた譲り難いものがある。必要なのは酒席における自制心であろう。今後は一刀様にお仕えする者として尚自覚を高く持ち、今回のように酒に飲まれて記憶を失う事等の無いように努めねばならぬ。

そう思いつつ始業時刻ぎりぎりに総務室の扉を開けた所、既に着席していた詠様、元直、子敬らの視線が一斉に私に向いた。

何故か近親上等☆姉妹(劉封・関平)までが居た。

その雰囲気に多少違和感を感じながらお早う御座います、と挨拶をすると、詠様らが皆妙にいい笑顔を見せながら挨拶を返された。

 

「おはよ、司馬懿"ろーしょん"仲達良い朝ね」

「おはよう、パイズリだけで一時間語れる仲達」

「『夜の大司馬』目指す宣言した駄メイドさんおはよう」

「あー!性協のドスケベ幟の人だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうしたの仲達さん、廊下でバケツ持って。首から看板まで掛けて…『私は執務室で短戟を乱射して暴れました』…?なんでまた!?…ほんとに?一体何があったの…はぁ…ま、なんか事情があったんだね。うん、無理に言えとは言わないから。…そう、お昼まで。…いやそんな恥ずかしがらなくてもいいよ、次は気を付けてね」

 


 
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