TINAMIX REVIEW
TINAMIX
東浩紀インタビュー TINAMI(X)との対話 オタク的図像と検索型世界像
東:東浩紀 ま:まさしろ 相:相沢恵

4.正しい誤配を求めて

東:
いまなにが最先端か、どこでおもしろいことをやっているのかと訊かれても、はっきり言って誰もわからない。誰も全体を知っている人がいないというなかで、局所的に情報を集める――ただそのときの局所というのは、いろんなパラメータを入れることで、パラメータごとに違った局所が出てくるような、つまり、いろんなローカリティが出てくるタイプのユニバーサリティというか、そんなものですね。

写真4

実際、僕は、オタクに限らず、文化消費は一般にこの方向にいかざるをえないと思う。たとえばタワーレコードの渋谷店に行ったとして、三階に行くやつは四階に行かないし、四階に行くやつは五階に行かない。これはまさに、目的のディレクトリを辿って、戻ってくるだけだから、実は横の交流が全然起きないということですね。ディレクトリ構造で商品を分類していると、どうしてもこういう弊害が出てくる。でも、データベースというシステムになると違う。

ま:
そういうデータベースのおもしろさというのはすごく認識していて、たとえば「おかっぱ」好きの相沢さんというモデルがある。ただ「おかっぱの女の子」というディレクトリ構造から探していると、ギャルゲーとかに出てくる女の子の図像ばかりを探す。しかし『ヒカルの碁』の塔矢アキラもいけるのだ、という話になれば、「おかっぱ」「女の子」という検索をかければ塔矢アキラも出てくるかもしれない。そうなると、女の子という方向でしか考えられなかった相沢さんが、塔矢アキラという新しい発見をする可能性もあるのではないか。

相:
まさしく誤配が生じた、ということですね。

東:
実際、前の本で「誤配」とか「郵便的」といってきたのも、データベース・モデルのなかで考えると結構具体的になるんだな、と最近思ってきた。誤配といっても単に間違うのでは仕方ないわけで(笑)、そこにある種の生産性を加えるシステムを考えなければいけないのだけど、データベースと検索はそれを可能にしてくれるのかな、と。近代的なユニヴァーサリティはないけれど、ある種のローカリティがあることで、生産性が高い誤配が生じるとでもいうか……。実際、ある時期まではデータベースだってツリーで検索するしかなかったわけで、もうみんな、ディレクトリ構造で情報を手に入れることばかり考えていたわけじゃない。

ま:
正直いうと、いまもそれはあると思います。

東:
でもウェブが出てきて、検索エンジンが普及したことによって、ちょっと変わってきた感じはするんですね。

相:
検索で誤配を起こすといったときに、それはこちらが求めている曖昧さ、計算不能なものを引きだすモデルを考えているのかなと思うんです。たとえば絵柄の好き/嫌いといったような。

東:
データ空間には次元がたくさんある。だから、ある基準から離れているように見えるものが、別の基準から見れば近い、ということがいくらでもありうる。そして、データ空間の次元をどんどん増やしていけば、そのぶん、離れたものが近いように見える誤配の視点もいっぱい用意できる、それが検索エンジンですよね。

ま:
いまいった話のなかで、今後の検索の可能性というものを考えた場合に、たとえばディレクトリ的な検索というのは当然ひとつあるのだけれども、さっき言ったような「誤配」は起こしにくい。それからいま、いろんなものを徹底して数値化しているのだけれども、数値化することに自覚化できる反面、検索する人間がものを考えるときに、それほど自覚的に数値でものをあらわせないのではないか。

そう考えたときに東さんのモデルがすごく刺激的だと思ったのは、こういうことなんです。まず見えない深層のデータベースというものがある。次にそのデータベースを模して、数値化したデータベースを深層の見えないものだと仮定して位置づける。そうすると、数値が見えないかたちでの検索システムができないだろうか。

東:
具体的には、どういうシステムを考えているんですか。

ま:
ベクトル空間を利用して、その空間距離が近いものを選びだすとか。簡単に言えば、こちらでいくつかの図像を用意して、その中から気に入った絵を選ばせる。選んだものを元に、その人の好きそうなサイトが検索結果としてずらっと出て来るような――まだまだ技術的な問題はありますけど――そういうような数値の見えない検索を考えているんです。深層にあるデータベースは徹底して利用しつつ、しかし表には数値のあらわれないかたちで結果が出る、というようなモデルをつくって、それで自分のヒットする絵に辿りつくことができるとしたら、ひとつそれはモデルの証明にもなるんじゃないかな、と思うんです。

東:
そうですね。オタク的なフェティッシュは、さっきも言ったように、どんどん発見されていくフェティッシュでもある。だから、相沢さんが言ったように、自分はショタコンじゃなかったのに「おかっぱ」で考えていったら、ショタコンも入ってきた――そういう驚きが自分のなかにいくらでも発見できる。そういう点も含めて、オタク的フェティッシュの全体が、ここで話題としているベクトルモデルに親和的な構造をしていると思う。だから、少なくともオタク的デザインに関しては、データベースと検索のモデルはかなり有効に使えるのではないか、そう考えています。

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