No.969262

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝第12話

小次郎さん

滅びの時が訪れる。
救済は、無い。

2018-10-04 16:12:52 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:6157   閲覧ユーザー数:4749

(長坂)

防戦一方で倒されるのは我等蜀の者ばかり、戦と呼ぶには不適当であろうな。

少しでも多くの兵を逃がす為に私と鈴々で殿を受けおったが、如何に指示しようが兵が死力を振り絞ろうが、稲を刈るかの如く魏は蜀の兵士を討ち取っていく。

一対一など有り得ず、矢は雨の様に降り注ぎ、隙間なく並べられた槍と盾の壁に前進は阻まれ、個人の武など意味無き戦場。

膨大な兵力が合理的に行使されれば、寡兵で付け入る隙等は一切無い。

「星、逃げるのだ。此処はもう駄目なのだ」

「・・そうだな」

本当に僅かな時間を稼げただけ、無駄死にだ。

魏の包囲は完全ではない、各自の判断で逃げる方が生き延びれる確率は上がろう。

「鈴々、私が敵を引き付ける。その間にお主は囲みを突破しろ」

「星、鈴々が敵を引き付けておくのだ。その間に囲みを抜けるのだ」

・・・・・。

フッ、考える事は同じか。

絶体絶命の状況だが、私達は笑みを浮かべる。

「それじゃ仕方がないのだ、二人で暴れて兵に逃げて貰うのだ」

「異論は無い、が、良いのか?」

「当然なのだ、愛紗が桃香お姉ちゃんのところに着けば鈴々の勝ちなのだ」

迷いなく断言する最高の戦友に胸が熱くなる。

「・・そうか、そうだな」

為すべき事を為す、それだけの事。

では魏よ、この趙子龍の最後の舞、存分に見惚れるが良いぞ!

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝 第12話

 

 

(建業)

「蓮華様、湯浴みの御用意が出来ております。御身をお整え下さい~」

建業より意気揚々と出陣した時とは対称的な無惨な姿での帰国、穏の第一声に何も返せず言われるままに浴場に向かった。

侍女に全てを任せ、湯に浸かって漸く心が動き始める。

・・

・・・惨敗だった。

十五万の兵の七割以上を失い、雪蓮お姉さま、冥琳、思春、亞莎が死んだ。

・・

・・・

・・・・う・うう・・うわあああああああああああああああああああ!!!

私の、私の決断がお姉さま達を死なせた!

ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!

ああああああああ!ああああああああ!

声に成らない悲鳴を上げ続け、涙が何時まで経っても止まらなかった。

 

どれだけの時が経ったのか、湯が冷めている事に気付いて湯船から出る。

おそらく気を遣ってくれたのだろう、侍女の姿は無く着替えだけが置いてあった。

寝衣ではなく軍服だった事に、私の心が引き締まる。

そうだ、今は悲しんでいる場合では無い。

侵攻してくるであろう魏を何としても撃退しなければ。

急ぎ袖を通し玉座の間に行くと穏は居たが、他の者の姿は無かった。

「穏、待たせてしまったかしら?疲れてるでしょうけど今から軍議を開くから皆を集めて頂戴」

日も暮れ掛けで申し訳ないとは思うけど、今は一刻の時も惜しい。

だが穏は答えず呼び鈴を鳴らし、訝かしんでいたら侍女が入ってきて杯を乗せた盆を穏が受け取る。

侍女が退出して、・・穏の態度に杯、私は意味を悟るも説明を求める。

「事情を話して」

「・・・今の呉国の状況を御説明します」

既に敗戦の事実は呉領全土に伝わっている事。

将兵を多く失い、同盟している蜀も被害が甚大で、そして魏の大軍が攻め込んでくると。

呉は恐怖に包まれ、城に勤めていた豪族たちは己が領地に逃げ帰り、建業の行政は麻痺していて防衛の準備どころではなかったと。

・・でもそれだけだったら何とか出来た、問題は民に伝播していた噂だった。

「魏国の容赦無き殺戮は孫家や豪族の所為で、民は巻き込まれただけと」

「何ですって!」

そんな訳がないわ!以前の戦いでの怒りを誰もが持ち合わせていた。

でも私の憤りにも動揺せずに穏が説明を続ける。

確認したところ魏国の行った流言飛語だった、だが追い詰められている民は噂を事実にして豪族である領主を差し出し身の安全を図ろうとした。

既に各地で烽火が熾り、信も義も無い地獄絵図に化していると。

ここ建業でも事が起ころうとしていたが孫家に対する想いも有り、せめて静かな最期をと交渉の末に成り立ったという。

「・・・・そう、分かったわ」

もう、何も言える事は無かった。

シャオは最悪の状況を考えていた亞莎が明命と共に逃亡させている。

私は穏に近づき杯を手に取り、注がれている物を一気に喉に流し込む。

 

 

私は蓮華様の御身体を正し、御口許の血を拭き取ります。

お飲みになられた猛毒は苦しみを一瞬にすると言われてますが、一体何の慰めになるんでしょうか。

今後の事も予想する必要を感じません、呉国と孫家の名が地上から抹消され魏国に支配されます。

戦争に最後まで反対し、蓮華様の首を差し出した私は、元呉領の統治に協力させられる事になるでしょう。

そして私は粛々と行います。

いつか小蓮様が立ち上がる時の為に?いいえ、違います。

元呉国の民が魏国に踏み躙られない様に?それも違います。

・・私は既に生ける屍ですから目的などありませんし、主君を殺めた私に許すも許されるも無いんですよ~。

既に虚無しかない私の心、他者に何と言われようと響く事は無いでしょうね。

・・ああ、でも一つだけ強烈に誘惑されますね~。

杯に残された毒薬、どれほど甘美な物でしょうか。

手に取る資格が私には天地が引っ繰り返りましてもありませんが。

 

 

 

「生き残る?そんなの許す訳無いの」

 

 

 

誰も聞いてくれない、どれだけ叫んでも一顧だにされない。

「小蓮様、どうかお逃げください!」

蓮華お姉ちゃんと別れて明命と一緒に逃亡生活を過ごしていたけど、十日と持たずに魏に見つかっちゃった。

山に逃げ込んだけど追い付かれて、シャオの足に矢が刺さったの。

明命が倒れこんだシャオの盾となって戦ってくれる。

でもシャオもだけど明命は素早く動いて戦うのが基本で、足を止めての戦いなんて全然ダメ。

体のあちこちから血を流す明命に涙が止まらない。

だからシャオは投降するって何度も言ってるのに、魏の兵は攻撃を止めない。

傷だらけになった明命が遂に倒れる。

「・・小・蓮・・さ・ま・・・・・・・・」

そして倒れた明命を跨いで、魏兵がシャオに近寄ってくる。

・・ああ、そうなんだ。

戦に負けるって、こうゆう事なんだ。

孫家の娘であろうが将軍であろうが、勝者にとっては発する言葉に何の価値も無いんだ。

だから、本来なら前の戦で負けてたシャオ達はとっくに無価値だったんだ。

魏が情けを掛けてくれたから生き残れたんだって事から、全力で目を逸らしていただけなんだ。

刃が向けられたけど、当然の報いだよね。

明命、ごめんね。

・・お姉ちゃん、死にたく、ないよ。

 


 
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