No.967685

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝第11話

小次郎さん

逃走する蜀軍。
悲劇は止まらない。

2018-09-19 15:36:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3418   閲覧ユーザー数:2230

(梓潼)

「焔耶ちゃん!貴女は何をしたのか分かってるの!」

紫苑さんが怒り心頭で焔耶の胸倉を掴み上げてる、紫苑さんを知っている人なら目を疑う光景だ。

でもあの馬鹿は、その異常な行為の理由を全く分かってない。

「な、何を怒られているのですか?私は謀叛者を討っただけではないですか」

倒れているのは梓潼太守の呉懿将軍。

惨敗して逃げてきた蒲公英たちを迎え入れて治療の手配をしてくれた人。

斥候によると魏軍は南下してきてるけど非常に遅い進軍らしくて、それならと休息を取って落ち着いてから今後の事を話し合う事になったんだよ。

目覚めて軍議を始めたけど、呉懿将軍は戦を避ける方向に持っていきたいようで和睦交渉を提案してきた。

気持ちは分かるし、降服でなくて和睦を挙げている所も理性的な考えだ、桃香さんを裏切ろうとするなら降服の選択を取る筈だし。

正直、たんぽぽも戦おうとする気力はもうないから。

・・魏に対する恨み言より、翠お姉さまに馬鹿って言ってやりたかった。

どうして一言辛いって言ってくれなかったのって、どうして一人で悩んでいたのって、どうして相談してくれなかったのって。

そして何より自分に馬鹿って言いたい、どうして気付いてあげれなかったのって!

たんぽぽだけ生き残って、これからの事なんて何も考えられないよ。

だから心が一歩下がった所で軍議に参加していたのに、無理矢理に引き戻らされて心が何処までも冷えていった。

「此の者は戦わずに逆賊と通じようとしたのですよ。桃香様への明確な叛意であり、討ち取るのは当然です!」

「貴女は何処まで盲目なの!味方を殺める者に誰が付いていくと言うの!」

「強き者に兵が従うは道理です!お疑いなら示しましょう」

紫苑さんの手を振り解いて、周りの兵に向き直って大喝一声。

 

「私に勝てる奴はいるか!!!」

 

「ここにいるよ!!!」

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝 第11話

 

 

(長坂)

戦場を離れて昼夜休まず進んでたけど、遂に魏兵の姿を確認したと兵から報告が来たのだ。

「こんなに早く追いつかれるなんて、呉は一体何やってんのよ!」

呉だけじゃないのだ、恋とねねも合流していないのだ。

「わ、私達蜀軍は江陵に向かってますが、呉軍は江夏に退却されたのでしょう。お、おそらくは殿を用いて本軍を離脱させたのかと」

「・・詠、呉が我等蜀の為に血を流す理由は一つもない」

それはそうなのだ、卑怯なのは騙した鈴々たちなのだ。

でも鈴々たちにとって大事なのはお姉ちゃんで、何を言われても雛里の策に乗る選択しかなかったのだ。

「別に呉を責めてる訳じゃ無いわよ。ねねに関しても華雄と同じで自業自得だしね、せめて巻き込まれた恋だけでも逃げててくれたらいいけど。・・でも分かってるでしょ、此の窮地を脱するには呉と同じで誰かが殿を努めるしかないわ」

詠の言葉に愛紗が何か言おうとしたけど、今はそんな場合じゃないのだ。

「それは鈴々がするのだ、前にも此の先に在る橋で魏を足止めした事があるし、その間に愛紗たちは先へ行くのだ」

あの時みたいに橋を背にすれば時間が稼げるのだ。

「・・鈴々、済まぬが頼む。だが決して無理はするなよ、己の身を最優先にしてくれ」

大丈夫なのだ、燕人張飛に任せておけなのだ。

以前と同じで橋を渡り始めたのか並びが詰まってきたのだ、それじゃ鈴々は後方に向かうのだ。

「・・ねえ、何かおかしくない?進みが遅すぎる気がするんだけど」

ん?・・そういえばそうなのだ、今回は民がいなくて兵だけだから速く動ける筈なのに。

変に思っていたら軍を先導していた星が走ってきたのだ。

「駄目だ、この先の橋が落とされている、江陵へ向かえない!」

星が言った事が信じられなくて急ぎ見に行ったら本当に橋が無くて、対岸に目を向けたら少ないけど魏の兵が出て来た。

 

 

 

「二度も同じ手が通じる訳無いじゃんか、今度は逃がさないよ」

 

 

 

(江夏)

ようやく此処まで来れたか、・・味方は半数程となったが。

亞莎を始め幾人もの将兵が死地に残り、魏の追撃を食い止めてくれた。

「蓮華様、間も無く到着します。小蓮様と共に速やかに国にお戻りください」

「駄目よ、私は残るわ。まだ亞莎たちが戻っていないのだから」

「蓮華様」

「・・お願いよ、思春。せめて、せめて魏が現れるまでは・・・」

「・・御意」

御心は察して余りある、ならば私は私の最善を尽くそう。

津に到着し兵に乗船の指示を出す、侵攻時には二回に分けて渡航したが今の兵数なら一度でいける。

どうにか最悪の事態は免れた、そう思った、だが、

 

江陵への道が閉ざされた以上、益州に戻る為の船を確保するには江夏に向かうしかない。

鈴々と星が殿を請け負ってくれて、蜀軍大将である愛紗に軍師の雛里と一緒に撤退している。

砂上の楼閣と化した魏への反抗、急いで戻って月を連れて逃げないと。

もう漢も蜀も呉も滅びるだけ、一先ず南蛮にでも逃れて身を隠そう。

見えたわ、江夏の津。

・・そして、呉軍。

当たり前よ、江夏は呉軍の退却路。

だから、僕は兵に命令する。

「船を奪うのよ!僕達が益州に戻る為に!」

 

 

(梓潼)

既に逃げ場はなく、あったとしても逃げ出す気力が最早私には無かった。

・・蒲公英ちゃんの一撃は焔耶ちゃんの命を奪ったわ。

おそらく全く予想をしていなかったんでしょうね、疑問を口にし驚きの表情を残したままに事切れて。

そして蒲公英ちゃんは無言で城から出て行って、私も誰も声を掛けられなかった。

呉懿将軍に代わって私が太守代行に就き、皆と相談した上で魏軍との交渉に望んだけど、和睦にも降服にも応じられず攻め込まれ数刻で城は陥ちたわ。

兵数も士気も虎と蟻のようなものだから必然の結果。

只、どうして此処まで魏軍が強行してくるのだけが疑問だったわ。

近隣の村や関や砦では無条件降伏なら手を出さずに受け入れられていると聞いていたのに。

そして理由を知った時、私の心は折れてしまった。

・・全て、私が原因だったのよ。

私が定軍山の戦に参戦していたから、太守を代行していた梓潼は降服を受け入れられなかったのよ。

一度でも剣を手にした者は許さない、それが魏国の絶対条件だった。

・・ごめんね、璃々。

・・貴女の為に私が出来る事は、唯一つだけ。

・・もう一度、もう一度だけ、貴女を抱き締めたかった・・・。

 

 

(江夏)

早々に離岸していく一隻の船、おそらく呉国の王である孫権さんが乗船されているのでしょう。

そして残りの船を確保する為に、蜀軍呉軍は熾烈な争いを繰り広げています。

先日まで共に戦おうと手を組んでいましたのに、今は憎悪の対象として眼に映っているのです。

「詠、貴様は何をしたのか分かっているのか!」

「分かってるわよ!でも他にどんな方法があるって言うのよ、裏切ったけど困ってるから船を分けてとでも言う訳?」

「だからと言って問答無用で襲うなど!」

「や、止めてください!愛紗さんも詠さんも!す、全ては私の策の結果で、す、全て私の責任なんです」

もう挽回の余地は全て消え去りました。

「お、お願いです、今は船を確保する事が最優先です。ど、どうか、私に協力してください」

 

 

・・お許しください、蓮華様。

臣下の身でありながら主君に当て身など、この身の全てを以て償わせて頂きます。

「殺せ!卑劣かつ姑息な蜀の者共を全て殺せ!」

兵の心が一つの炎と化し身は羅刹と化す。

何故江陵に逃げた蜀が江夏に現れたか、見当は付くが知った事ではない。

蜀の動きは迷いがあるのか此方に比べ鈍い、目の前に立つ者を悉く斬り捨てていたら関羽の姿があった。

斬る!

全速で懐に飛び込むが、流石に関羽、防がれる。

「・・甘寧殿、弁解出来る事は一つもない。だが、私は斬られる訳にはいかないのだ」

その後、数十合と交わすも互いに致命傷は与えられず、兵が割り込んで来て一騎討ちは終わる。

津に目を向けると、次々に船が離岸している。

・・やられた、私が足止めされている間に船が奪われていた。

呉の兵は殺す事に集中し過ぎて、その間隙を突かれたのだろう。

最期の一隻に関羽が向かっている、・・最早追い付けまい。

・・・そして本命が現れる。

 

 

 

「兄様の思いを裏切ったんです、私は許せません!」

 

 

 

船が無くなり残されたは呉と蜀の兵、現れたのは何倍もの魏軍。

大量の矢が降り注ぐ、逃げる事しか出来ないが背には長江、逃げ場は無い。

もう抗う者は一人とおらず、皆、一縷の望みにかけて長江に飛び込んでいく。

矢は止まらず降り注ぎ、長江の水面は赤く染まっていく。

私は鈴音をしまい、魏軍に背を向け長江にゆるりと進む。

岸に着いた時には体に何本か矢が刺さっていたようだが、特に気にはならなかった。

更に矢でも刺さったのか、体に力が入らなくなり長江に身を預ける。

・蓮華様。

・お許しください、私は長江へ還ります。

・・私が生まれ育ち、貴女様と出会え、共に戦えた長江へ。

・・・不思議だが、心が安らぐ温かなものに包まれているようだった。

 


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