No.872471

真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side呂布軍)~ 第九十四回 第五章B:御遣い奪還編⑩・程仲徳の十八番ですな・・・!

stsさん

みなさんどうもお久しぶりです!初めましてな方はどうも初めまして!

今回は、キレた高順と張郃の戦い、そして霞たちが曹操軍とぶつかります。

果たして、風の十八番とは、、、

続きを表示

2016-10-02 00:01:41 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3071   閲覧ユーザー数:2791

 

 

 

??「さてさてー、これで自動で動く道は理論的に実現可能と分かったわけだけど、あとは動力の確保なんだねー?」

 

 

 

時は少しさかのぼり、ちょうど呂布たちが函谷関を突破したという報が入っていた頃、ここは許城の中にあるというとある研究室。

 

その中で、一人の女性が小さなベルトコンベヤーの取っ手をつかんで手動でクルクルと回しながら、

 

独り言というには大きすぎる声量で、間延びした緩い声色でしゃべっていた。

 

 

 

??「さてさてー、人力ではそう長く持たないだろうから、予算もたんまりあることだし、もう一度真桜様にお願いして、螺旋槍と同じ

 

動力源を手に入れてもらうのが一番なんだねー?」

 

 

 

黒のベリーショートで前髪は眉上できれいに切りそろえられ、長身の背丈は2メートルに迫ろうかというほどのものだが、

 

白を基調にした軍師装束はダボダボで、上着のように羽織っていた。

 

 

 

??「さてさてー、想像しただけで昇天しちゃいそうなんだねー!?歩かなくても移動可能―!?逆に、敵の足場を奪う罠にもなりそう

 

なんだねー!?さてさてー、やりたいことがありすぎて時間が全然足り―――!?」

 

 

 

グルグルの真ん丸眼鏡にネコ科の様に見事な3の形をした口をもにゅもにゅさせた、どこか研究者のような外見の長身女性は、

 

顔を紅潮させ、恍惚の表情を浮かべながら興奮した様子で色々と想像を膨らませ、

 

さらにそれを大きすぎる独り言という形で吐露し、ベルトコンベアを回す手の動きを速めていたが、しかしその時

 

 

 

ドカーーーーーン!!!!!

 

 

 

物凄い轟音と共に爆発が起き、研究室の扉が吹き飛ばされた。

 

そして、爆発によって立ち込める煙の中を、一人の人物がゆっくりと歩いて来る。

 

 

 

郭嘉「はぁ、満寵、本当に扉を吹き飛ばさないと気づかないなんて、修理代はあなたの給与から引いてもらうよう―――な、なんですか

 

それは?」

 

 

 

煙の中から姿を現した郭嘉は、ずれた眼鏡を押し上げ、大きなため息をつきながら、

 

爆破された扉等の修理代は満寵の給与から天引きする旨を伝えようとするが、

 

立ち込める煙の中確認できた満寵の姿を見た郭嘉は一度言葉が途切れてしまい、

 

再度眼鏡に手をかけながら目を細め、得体のしれないものを見るような目で満寵を凝視しながら尋ねた。

 

郭嘉の視線の先には、満寵の頭から二本の黒く細長い耳の様な物が生えていた。

 

 

 

満寵「さてさてー、ウサギの耳なんだねー?」

 

 

 

満寵は爆発に対しては何ら言及することなく、ベルトコンベヤーを回す手を止めると、

 

耳の様な物体を両手でわしゃわしゃとつかみながら、何ら不思議なそぶりも見せず、平然とウサギの耳であると答える。

 

 

 

郭嘉「いや、それは誰が見ても分かります。そうではなくて、なぜそのようなものが頭から生えているのかと聞いているのです」

 

 

満寵「さてさてー、ここの研究室は合肥のお城と違ってあたくしの要望した通り完全防音にしてもらえなかったんだねー?だから、この

 

ウサミミで耳栓をしてるんだねー?で、この大きなウサミミでちゃんと聞いていますよーって感じなんだねー?」

 

 

 

郭嘉の非常に残念なものを見る視線などものともせず、満寵がウサミミを引っ張るとポンッと頭から外れ、

 

髪と同色のヘッドホンにウサミミが取り付けてあるような代物を見せつけながら、

 

ヘッドホンで雑音を防ぎつつ、でも大きなウサミミでちゃんと聞いていますよアピールもできるすぐれものであると、

 

猫口をムフフとより一層丸めながらグルグル眼鏡を煌めかせ、ドヤ顔で説明した。

 

 

 

郭嘉「まったく、完全防音でないのは、今のような火急の時に呼んで聞こえるようにするためなのですよ?」

 

 

 

そのような満寵のハンテンションな説明に郭嘉は肩を落とすも、これが通常運転であると諦め、本題に入る。

 

 

 

満寵「さてさてー、“今のような火急の時”って言ったんだねー?ということはー?」

 

 

 

そして、満寵もまた、郭嘉の言葉から話の流れが変わったと、グルグル眼鏡の奥に映る瞳を鋭くさせる。

 

 

 

郭嘉「はい、賊軍が間もなく許まで攻め込んできます。ようやくあなたの兵器を試すときが来たのですよ」

 

 

 

 

 

 

【豫洲、許城北側】

 

 

陳宮「あぁ・・・」

 

張遼「ぁ、やば・・・」

 

 

 

両目を真っ赤に充血させ、普段では考えられないような声の荒げ方をしている高順の変化に覚えがあるのか、

 

陳宮と張遼は顔を真っ青にしながら言葉を失っていた。

 

 

 

公孫賛「あの時と同じだ!」

 

 

 

そして公孫賛もまた、以前に偽の御遣いが処刑された際に高順が見せた変化と同様であることに気が付く。

 

 

 

高順「何度私たちの前に立ちはだかれば気が済むんだ!」

 

張郃「きゃははは、不死身ノ張郃、倒れる有り得ないネ!」

 

 

 

そして、高順は荒い口調で叫びながら張郃に向かって駆けだした。

 

勿論、張郃の狙いは高順のようで、耳をふさぎたくなるような甲高い嗤い声を上げながら向かってくる。

 

二人の三度目になる因縁の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

最初に仕掛けたのは高順であった。

 

高順は走りつつ、無駄に長い袂の中から数十本ものクナイやら矢やら鍼やら、

 

小型の刃物類を手から零れ落ちるほどぞんざいに取り出すと、張郃目掛けてその全てを正確に投げつけた。

 

 

 

張郃「きゃははは!」

 

 

 

しかし、張郃の体を貫かんと真っ直ぐ飛んでいった数十本もの刃物類を、張郃は立ち止まることなく、

 

走ったまま手に装着した鉤付で、目にもとまらぬ速さで全て叩き落としてしまった。

 

叩き落とされた無数の刃物類が、張郃の周囲の地面へ次々に突き刺さっていく。

 

 

 

張郃「きゃははは、前ミタイニ数打てバ当たる思タネ!?」

 

 

 

しかし、張郃に攻撃をすべて弾き飛ばされたにもかかわらず、高順は一切焦った様子を見せず、

 

張郃の挑発を無視すると、真っ赤に血走った眼窩を張郃に向けたまま走る足を止めることはなかった。

 

そして、そのまま接近戦に持ち込むかに思え、張郃は構えるが、しかし、

 

一瞬張郃の視界から高順が消えたかと思うと、次の瞬間には張郃の背後を走り抜けていた。

 

 

 

張郃「・・・きゃははは、アタシ怖くテ逃げるネ!?拍子抜けモいいところヨ!!」

 

 

 

高順に容易く背後を取られたことに一瞬言葉を失うも、そこから攻撃を仕掛けるでもなく、

 

自分から離れていくものだから、張郃は嘲笑し、あきれながらも、獲物をしとめんと回れ右をし高順を追いかけた。

 

 

 

高順「もう勝負はついている。そんなに戦いが好きならあの世で永遠に戦っていろ!」

 

張郃「きゃははは、言ってル意味分からない―――ゥ・・・!?」

 

 

 

高順に勝負はすでについていると言われるが、しかしどう考えても追われるものと追いかけるもの。

 

勝負がつくとは負けを認めることなのか、などと深読みすることもなく、意味不明と嗤い飛ばそうとしたその時、

 

張郃は突然何の前触れもなく背中から腹にかけて違和感を覚え、低いうめき声を思わず上げていた。

 

 

 

張郃(きゃははは、何ネこノ背中カラ腹ヲ突き抜けルようナこそばゆサハ―――)

 

 

 

そして、張郃が高順に意識を向けながらも覚える違和感に疑問を投げかけた次の瞬間、

 

カタカタカタという音が張郃の背後から聞こえ、張郃が思わず振り返ると、先ほど自身が叩き落とした刃物類が震えており、

 

そして、そのことを認識したその刹那、それら無数の刃物類が突然張郃の背中目掛けて跳んでくるではないか。

 

 

 

張郃「・・・きゃははは、死ノ淵カラ蘇テ妖術デモ身ニ付けタネ!?」

 

 

 

とはいえ、そのような超常的なことが起きようとも張郃が驚いたのも一瞬の事。

 

張郃は弓張月のような口元を一層ゆがめさせながら嘲笑うと、華麗に跳躍してそれら刃物類の軌道から外れた。

 

 

 

張郃「きゃははは、不意ヲ突く無駄ネ!アタシニそんナ遅い攻撃当たらな―――ゴフッ!?」

 

 

 

しかし、完全に攻撃を避けたと思われたその時、真っ直ぐ飛んできた刃物類が、全て張郃が跳躍した軌道を追いかけるように、

 

物理法則を無視して張郃に追従し、そのまま張郃の背中にそれら無数の刃物類が吸い寄せられ、その全てがトストスと突き刺さった。

 

 

 

張郃「ゴブゥパ・・・きゃは・・・な、なにガ・・・これハ・・・・・・・・・糸・・・?」

 

 

 

今起きた出来事が全く理解できず、背中から全身に伝わる激痛に顔をゆがめ、急激に体温が落ちていくのを感じる中、

 

口元から大量の赤黒い血液を吐き出す張郃であったが、底なし沼のようにドロドロに濁った視界が、

 

かすかに自身の腹から高順に向かって何か光る線のようなものが通っているのをその時になって確認した。

 

さらに、理解できないことは続く。

 

張郃の背中に刺さった刃物類がまだカタカタと音を立てて動いているのである。

 

少し、また少しと徐々に深く深く張郃の背中に刃物類が呑み込まれていく。

 

 

 

張郃「きゃははは・・・オイオイまさか―――」

 

 

 

そして、張郃の脳裏に嫌な想像がよぎった次の瞬間、ブチブチブチと刃物が肉を抉る嫌の音が戦場に響き渡り、

 

ついに張郃の背中を襲った刃物類は張郃を貫き、腹から突き抜け、無数の風穴を作った。

 

 

 

張郃「ぐぱァ・・・ゲふぉァ・・・か・・・きゃは・・・は・・・」

 

 

 

空いた風穴からは勿論、口からもおびただしい量の血液が噴き出し、張郃はその場でバタリと正面に崩れ落ち、動かなくなった。

 

そして、張郃に風穴を開けた刃物類は、そのまま高順の袂の中へと次々に収まっていき、その全てが姿を消した。

 

その光景を目の当たりにした曹操軍は勿論の事、味方の張遼たちも言葉を失っていた。

 

その場の時間が止まる。

 

しかし・・・

 

 

 

高順「・・・ふふふ、まだだ不死身の張郃!どうせこの程度で貴様は死なないだろう!なら、二度と立ち上がれないように貴様の肢体を

 

バラしてやる!」

 

 

 

高順はすぐさま回れ右をし、崩れ落ち動かなくなった張郃目掛けて駆けだした。

 

それはもはや不要の破壊行動。

 

普段の冷静な高順はここにはいなかった。

 

 

 

高順「・・・そうだ、貴様のバラした肉塊を一つ一つ投石機で城内に投げ込んでやろう・・・ふふふ、そうすれば―――――!」

 

 

 

しかし、高順が張郃の元にたどり着く前に、ボフンッ、と何かに激突した。

 

それは、黒と白の布に包まれた、マシュマロのように柔らかく、そしてすべてを包み込んでくれるような温もりを持った大きな山が二つ。

 

 

 

呂布「・・・なな、もういい・・・早く一刀を助ける・・・」

 

 

 

高順の目の前に現れたのは、普段通りの落ち着いた呂布であった。

 

呂布は静かに高順をその豊かな胸に抱きよせると、静かに、そして優しく高順に語り掛けた。

 

 

 

高順「ぁ・・・・・・・・・」

 

 

 

その刹那、高順の全身から迸っていた負のオーラが徐々に引いてゆき、

 

見る見るうちに充血しきった鋭い瞳も、元の綺麗な碧色を取り戻していく。

 

 

 

高順「恋様・・・私はまた・・・すいません・・・」

 

 

 

そこにいたのは、冷静で落ち着いたいつもの高順であった。

 

高順は呂布の胸に顔をうずめたまま、消え入りそうな声で謝罪した。

 

 

 

呂布「・・・もう、大丈夫?」

 

高順「はい、もう脱線はしません。急ぎましょう」

 

呂布「・・・(コクッ)」

 

 

 

そして、気落ちするのも一瞬の事、高順はすぐさま平静を取り戻し、前を見据えた。

 

 

 

高順「敵将張儁乂討ち取ったり!」

 

北郷兵「おぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

高順が張郃を討ち取ったと叫ぶと、北郷軍から鬨の声が上がる。

 

それら一連の出来事は、曹操軍をざわつかせるには十分すぎた。

 

 

 

張遼「よっしゃ、ウチらもこの流れに乗って突っ込むで!」

 

公孫賛「応!皆行くぞ!」

 

公孫兵「ウィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!」

 

 

 

そして、張郃撃破により揺らいだ曹操軍の隙を突くべく、張遼と公孫賛は突撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

【豫洲、許城】

 

 

曹操兵「申し上げます!張郃将軍、敵将に討ち取られました!」

 

徐晃「ううう~~~~~~、だから絶対安静と言ったのに~~~~~~、すいません華琳様、本当にすいません!」

 

 

 

張郃敗北の報を聞き、徐晃は蚊の鳴くようなか細い声で、言うことを聞かなかった張郃に対して珍しくいらだちの様子を見せながら、

 

曹操に張郃を任されておきながらのこの体たらくをこの場にいない曹操に謝罪した。

 

 

 

郭嘉「まぁ、チョコのことですから死ぬということはあり得ないでしょう」

 

 

 

しかし一方で、郭嘉は特段驚いた様子もなければ心配した様子もなく、顎に手を当て、何かを思案していた。

 

 

 

徐晃「すいません、これはチョコさんを止められなかった私のせいです。恐らく味方の士気は下がっているはず・・・ここは私が―――!」

 

 

郭嘉「落ち着いてください公明。今は誰のせいだなどと責任の話をしている場合ではありません。責任の話をすれば、そもそも北郷軍の

 

あまりにも早く冷静な対応を読み切れず、御遣い拉致を提案した私にあるのですから」

 

 

 

徐晃の鼻先で切りそろえられた長い前髪は乱れ、その隙間から見えた瞳には激しい闘争心の炎が燃えており、

 

すぐさま得物である二対の巨大なラブリュスを手にし、城外へ出ようとするが、郭嘉に落ち着くよう諭され、止められてしまう。

 

 

 

徐晃「そ、それは・・・」

 

郭嘉「ですが、ここで慌てていては本当にただの能無しに成り下がってしまいます。私達がすべきことは、自暴自棄になって滅茶苦茶に

 

敵軍に突っ込むのではなく、城への被害を最小限に抑え、敵軍の猛攻を防ぎきることでしょう」

 

 

 

郭嘉はずれた眼鏡を押し上げ、鋭い眼光で言葉を紡ぐ。

 

曹操軍の主軍のほとんどがいない中、北郷軍と涼州軍に攻められ、敵はすでに数ある関所を突破し、ついに城下まで攻め込まれている。

 

明らかに曹操軍始まって以来指折りの非常事態であるが、しかし、郭嘉は冷静であった。

 

 

 

徐晃「・・・仰る通りです、少し熱くなってしまいました、すいません」

 

 

 

郭嘉の冷静な言葉に、珍しく興奮していた徐晃は、すぐさま冷静さを取り戻し、

 

長い前髪の隙間から見えていた瞳の中の闘争心も静かに燃える炎に戻り、再び前髪に隠される。

 

 

 

郭嘉「いえ、分かっていただけたのなら。それに、実はチョコが討たれることは計算の内なのですよ」

 

徐晃「え?」

 

 

 

張郃が討ち取られるのが計算の内。

 

そのような郭嘉の思いがけない言葉に、徐晃はポカンと口を開けて思わず聞き返していた。

 

 

 

郭嘉「さて、公明、今からあなたにも動いていただきますよ」

 

徐晃「すいません、ですが、先ほど稟さんは私に出るなと・・・」

 

郭嘉「誰も出るなとは一言も言っていません。落ち着けと言ったのです。それに向かう先はチョコのいる方ではありません」

 

徐晃「??」

 

 

 

さらに、郭嘉の口から次々に出てくる言葉に、徐晃は思考が追いつかず、また、

 

郭嘉の思惑の内を測り切れず、ついには頭の中がハテナマークで埋め尽くされてしまう。

 

 

 

郭嘉「(さてさて、城下の東側は満寵が部屋を出てからずっと住み着いてしまっているので問題はないでしょうが、あとは北側と、他にも

 

――――――まったく、こうも敵に囲まれてしまうとは不甲斐ないですね。ですが、これ以上賊の好きにさせてしまっては全てが水泡に

 

帰してしまう。ここからが勝負所です。風、あなたの十八番も使わせてもらいますよ・・・)」

 

 

 

理解の追い付かない徐晃を置いてきぼりにし、さらなる思考を続ける郭嘉。

 

逆境を覆してこその軍師。

 

失策を成功に転換させてこその軍師。

 

郭嘉はブツブツと独り言をつぶやき、策を練り上げ、そして、一定考えがまとまったところで、

 

不気味に光る眼鏡を押し上げ、ニヤリと不敵に嗤うのであった。

 

 

 

 

 

 

【豫洲、許城北側】

 

 

張郃が討ち取られ、勢いづいた北郷軍は、構える曹操軍に向けて突撃し、双方激しくぶつかっていた。

 

 

 

公孫賛「あの張郃ってやつ、不死身とかいう異名を持ってるみたいだけど、さすがに大丈夫だよな?」

 

張遼「腹に穴が空いとるんやで?それにあの出血の量や。もしあれで生きとったら、もう不死身っちゅーか呪われとるとしか思えへんわ」

 

 

 

公孫賛は飛んできた矢を弾き落とし、動かなくなった張郃の方をチラリと見ながら、また動き出すのではと不安の声を漏らすが、

 

張遼は曹操兵が突き出した長槍を避けてつかみ、投げ飛ばしながら有り得ないだろうときっぱり言い切る。

 

 

 

公孫賛「それにしてもさっきのななの豹変ぶり、本当に別人みたいだな。偽の御遣いが処刑された時もそうだったけど、あれはいつもの

 

事なのか?」

 

 

張遼「いやいや、あんな訳の分からんもん毎度毎度やられてたら味方かてたまったもんやないっちゅーねん。ウチかて目の前で見るんは

 

2回目やわ。ホンマ、ななはキレたらえげつないわ」

 

 

公孫賛「確かに、あの攻撃もクナイとかが宙を舞って、もしかしてキレたら内なる力が解放されて妖術の類が―――」

 

張遼「んなアホな!変な本読み過ぎちゃうか?どんなんやねん!ちゃうちゃう、あれは種も仕掛けもあるで?」

 

 

 

公孫賛が顔を青ざめさせながら頓狂なことを言い出すものだから、張遼は思わず力んでしまい、切り伏せるつもりだった曹操兵を、

 

馬防柵に向けてホームランしてしまいながらも、滑らかな掌の返しでツッコミを入れ、説明を始めた。

 

 

 

張遼「最初にななが張郃目掛けて投げたぎょーさんの刃物、そもそもあれは叩き落とされるん前提で投げとんねん。あれに実は目に見え

 

へんくらい細っい鉄糸がくっついとってな、そんで、それらの糸を一個に集めた、これまたごっつ細っい針みたいなんをななが袂の中に

 

忍ばしとるんや。たぶん、さっき張郃の背後抜いたときに腹にぶっ刺しとったんやろ。攻撃を受けた張郃自身が気づかへんくらいやから

 

どないなっとんねんっちゅー話やけど、まぁ、あとは糸を巻き取るだけで、地面にぶっ刺さっとった刃物が引っ張られてななの袂の中に

 

戻っていくっちゅーことや。張郃の腹を経由してな」

 

 

公孫賛「・・・・・・・・・とにかくななは怒らせるなってことだな」

 

 

 

張遼の長々とした説明を聞き、すんなり頭の中に情報が入ってこずポカンとなっていた公孫賛は、

 

張遼こそ変な本でも読み過ぎなのではと反論したくなるのをぐっとこらえ、

 

結局高順は怒らせてはいけないという結論でシメ、戦いに集中することに決めるのであった。

 

 

 

張遼「ほな解説はここまでや!恋とななも上手いこと気づかれんと先行けたみたいやし、今度はウチらが暴れる番や!」

 

 

 

張遼もその説明で満足いったのか、手にした飛龍偃月刀を握る力を強め、頭上でクルクル振り回しながら前へ進んだ。

 

 

 

張遼「オラオラオラァーーーッッッ!!!神速の張遼のお出ましやァ!!遼来来やでぇ!!」

 

 

公孫賛「よし、私たちも張遼に後れを取るな!たとえ白馬に乗っていなくても、私たちは幽州が誇る白馬義従だということを、曹操軍に

 

知らしめてやれ!」

 

 

公孫兵「ウィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!」

 

 

 

張遼が敵兵の長槍を弾き飛ばしながら敵中に突っ込む姿を目にし、

 

公孫賛も改めて気合を入れ直すと白馬義従に号令をかけ、同じように敵中に突っ込んでいく。

 

 

 

曹操兵1「クソ、何なんだコイツら・・・!」

 

曹操兵2「夏候惇将軍たち主軍が留守だってのに、俺たちだけで防ぎきれるのか・・・!」

 

 

 

自軍の主力たる張郃の敗北に加え、そのような張遼たちの勢いに、曹操軍は次第に弱気になっていた。

 

 

 

張遼「オラオラァ!どないした曹操軍!!そんなもんかい拍子抜けやでぇ!!」

 

公孫賛「馬防柵、長槍、弓兵、確かに並みの騎馬兵なら止められただろうが、並程度の騎馬対策で私達白馬義従を止められると思ったか!」

 

曹操兵3「クソ、このままじゃ壊滅だ!退け!退けぇ!!」

 

曹操兵4「うわぁああああああ!!」

 

 

 

放たれる矢は次々に叩き落とされ、長槍兵も槍をつかまれては投げ飛ばされ、偃月刀や剣で切り伏せられ、

 

馬防柵は倒され、曹操軍の講じた騎馬対策を悉く撃ち破っていく張遼たちの破竹の勢いに、ついに曹操軍は後退を始めた。

 

 

 

張遼「よっしゃ!敵さん退きよったで!!このまま一気に制圧や!!」

 

 

 

曹操軍の後退を確認すると、張遼は飛龍偃月刀を高々と掲げ、拠点を制圧すべく追撃を開始する。

 

 

 

公孫賛「何だ何だ、ここは曹操軍の本拠じゃなかったのか?いくら主軍がいないからって、このまま城も落とせるんじゃないのか?」

 

 

陳宮「それはしない約束ですぞ白蓮殿。許城の攻略は避けるべきなのです。あくまで我らがするのは、ななたちが一刀殿を奪取しやすい

 

よう派手に暴れ陽動することなのです」

 

 

公孫賛「ああ、分かっている。ちょっと言ってみただけさ。函谷関の時よりも攻撃が緩かったからな」

 

 

 

敵兵の後退を確認し、前に出てきた陳宮は、公孫賛の発言に、出陣時に確認したように、北郷救出を第一に考えるよう諌めた。

 

下手に攻略に出て南征から引き返してきた曹操軍本隊にぶつかるわけにはいかないし、一見攻略できそうに見えてもここは曹操軍の本拠。

 

北郷救出自体ただでさえ危険すぎる行動なのに、それ以上の危険は起こすべきでないという陳宮の考えは、

 

公孫賛も理解しているようで、勢いに任せた発言であると弁解した。

 

 

 

張遼「まぁえーわ。とにかくウチらは北門で派手に暴れとったらえーっちゅーことやろ?ほんなら、ここを攻撃拠点に、北門を攻めるで!」

 

公孫賛「応っ!」

 

 

 

そして、張遼と公孫賛を先頭に、後退する曹操軍を追撃しながら、攻撃拠点の確保へと動いた。

 

 

 

陳宮「(しかし、怖いほど事が順調に進んでいますな・・・ここも今回の強行の重要な場面のはずなのですが・・・やはり主軍がおらず、

 

今の許城はもぬけの殻も同然ということなのでしょうか・・・或は別の理由が―――?)」

 

 

 

しかし、曹操軍があっさり後退してしまったことに陳宮は疑問に思っていた。

 

いくら曹操軍の主軍が不在とはいえ、ここは曹操軍の本拠。

 

もっと死に物狂いで守ろうとしてもおかしくないのに、曹操軍は張遼たちの勢いに負けて後退してしまった。

 

もちろん、不死身の名を冠する張郃があっさり敗れたこと自体が曹操軍にとってイレギュラーなことなのかもしれないが、

 

陳宮は事が順調に行き過ぎていることに一抹の不安を抱いていた。

 

その次の瞬間・・・

 

 

 

曹操伏兵1「今だ、かかれ!!!」

 

 

 

拠点の物陰から曹操軍の伏兵が現れ、張遼たちの横から攻撃を仕掛けてきた。

 

 

 

 

 

張遼「な!?伏兵かいな!」

 

 

 

やや油断していた張遼は突然横やりを入れられ、なんとか躱し、カウンターで偃月刀を叩き込む。

 

 

 

公孫賛「後退は敵の策か!一度体勢を整えるぞ!」

 

 

 

しかし、伏兵に隊の横を突かれ、混乱しかけた部隊を落ち着かせるため、公孫賛は伏兵から距離を取ろうと回れ右するが、

 

 

 

曹操伏兵2「どこで体勢を整えるんだ!?」

 

 

 

公孫賛の向かった先から新たな伏兵が現れ、襲い掛かって来た。

 

 

 

公孫賛「何!?こっちにも伏兵か!」

 

曹操伏兵3「弓隊放てぇ!!」

 

 

 

さらに、追い打ちをかけるように別方向からも伏兵が現れ、一斉に弓を射かけてくる。

 

 

 

公孫兵「姐さん!こっちにも伏兵が!」

 

張遼「こらアカン、嫌な予感しかしーひん!いったん拠点から離れるで!!」

 

 

 

次々に現れる伏兵に兵たちが徐々に浮足立っていくのを感じ、また、張遼は伏兵に現れ方に嫌な予感を覚え、

 

張遼は伏兵と対峙するのを諦め、この場を離れることに全力を注ごうとした。

 

 

 

曹操伏兵4「逃がすか馬鹿野郎!!」

 

張遼「チッ、こっちもかいな!!」

 

曹操伏兵5「調子に乗りすぎたな北郷軍!!」

 

曹操伏兵6「主軍が不在だからと容易く城に近づけると思うなよ!!」

 

 

 

しかし、この場を離れようとすればするほど、次々に新たな方向から伏兵が現れ、張遼たちの退路を断っていく。

 

 

 

公孫賛「おい張遼、これはマズいぞ・・・!」

 

張遼「この伏兵の出方は、確か潼関の時の・・・!」

 

 

 

終わりの見えない伏兵の出現に、公孫賛は全身から嫌な汗が噴き出ていた。

 

張遼も、伏兵の出方に思い当たる節があるようで、歯を強く噛みしめている。

 

 

 

曹操伏兵7「こっちもだ!針の筵にしてやるぜ!」

 

曹操伏兵8「死ねぇ北郷軍!!」

 

 

 

さらに伏兵の出現はとどまることを知らず、刀で斬りかかり、槍で突き、斧でたたき割り、弓弩で射殺そうと次々に攻撃を仕掛けていく。

 

次第に張遼たち約1万5千の兵の周りは曹操軍の伏兵で埋め尽くされていた。

 

 

 

陳宮「・・・隊を十に分けて伏せ、先鋒を囮に後退させ、おびき寄せた敵兵に十組の伏兵を次々ぶつけて逃げ道をなくし挟撃し殲滅する

 

『十面埋伏の計』。あの袁紹軍にとどめを刺したという、程仲徳の十八番ですな・・・!」

 

 

 

そして、陳宮は悔しそうに歯噛みしながらこの策の全容を説明した。

 

陽動からの伏兵による挟撃、そして殲滅。

 

至ってシンプルな策ではあるが、こうも綺麗にはまってしまうと、軍師としては非常に悔しいところである。

 

 

 

曹操伏兵9「弩兵隊、斉射開始!!」

 

張遼「ちょい待ち、誰や許城は手薄やなんて言-た奴は・・・!」

 

 

公孫賛「この数、2万はいるんじゃないのか・・・軍のほとんどが出払っているのに、これが地力の差っていうやつなのか・・・いったい

 

どこにこれだけの兵を潜めていたんだ・・・!」

 

 

 

こちらはやっとかき集めての総勢3万を北と東に割っている状況。

 

一方、曹操軍は主軍が南征で出払っているにもかかわらず、北門の外の一拠点の守りだけで2万の兵である。

 

しかも、百歩譲って曹操軍との地力の差であると納得しても、それらが伏兵として潜んでいるとなると全然話が違ってくる。

 

物理的にそれだけの規模の兵を隠すことが果たして可能なのだろうか。

 

 

 

陳宮「・・・地下、でしょうな・・・不覚です、このような安易な策も見抜けぬとは・・・」

 

 

 

公孫賛の疑問にすぐさま答えたのは陳宮であった。

 

しかし、それ以上の言及はすることなく、陳宮はそれよりも敵軍の策を見抜けなかったのがよほど堪えているのか、

 

眉間にしわを作り、握り拳を堅く結び、出血しそうなほど強く下唇を噛んでいた。

 

 

 

張遼「そんなん言っとる場合かいな!けど何や、陽動としての役目は十分果たせそうやな!っちゅーか、地下ってまさかこないな城から

 

離れた拠点にも兵を隠すために穴掘っとったっちゅーことかいな!」

 

 

曹操伏兵10「終わりだ北郷軍!」

 

 

 

悔しがる陳宮に張遼は喝を入れるも依然状況は芳しくなく、伏兵に囲まれた張遼たちは

 

陽動としては十分に役目を果たせているものの、窮地に立たされてしまったのであった。

 

 

 

【第九十四回 第五章B:御遣い奪還編⑩・程仲徳の十八番ですな・・・! 終】

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

第九十四回終了しましたがいかがだったでしょうか?

 

さて、三度の邂逅となってしまったななとチョコ。

 

なながブチ切れてからのチョコの腹に風穴のくだりまではちょっとやりたい放題が過ぎたかなと思いつつも自重せず。

 

螺旋槍よりはマシかと、、、汗

 

果たしてこれで退場なのか、それともやはり不死身なのか・・・

 

一方、霞たちの押せ押せムードが一変、稟の策にかかり窮地に立たされてしまいました。

 

拠点の地下部屋については、今回の騒動に合わせて稟が作らせたわけではなく、元々防御の要として、

 

拠点の地下に兵を伏す場所がこしらえていたということです。

 

2万人も収容できる地下室?については、まぁ三国志でよくある誇張表現と思っていただければ、、、汗

 

 

それでは、また次回お会いしましょう!

 

 

 

満寵ちゃんは長身ウサミミ白衣グルグル眼鏡っ娘のマッドな変態発明家に決定。これまた盛り過ぎ 笑

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
9
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択