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SAO~黒を冠する戦士たち~番外編 黒白の双璧と黒の剣士達 中編

本郷 刃さん

前回の番外編の続きになります。
遅くなってしまった上に後編にするはずが中編になってしまいました。
注意事項をお読みの上で読んでください、どうぞ・・・。


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2015-11-07 14:34:26 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:9377   閲覧ユーザー数:8559

SAO~黒を冠する戦士たち~番外編 黒白の双璧と黒の剣士達 中編

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ませばALOの見慣れた天井だったが、

隣でアスナが眠っていて使っているベッドがダブルサイズじゃないことで現状を改めて理解し直す。

俺達の居たところは異なる世界、俗に言う並行世界に来てしまったんだよなぁ。

とはいえ、以前の『銀の鴉』との一件とは違い完全な移動、にも関わらず何故だか俺の勘がハッキリと帰れると告げている。

不安を露わにしていたアスナには悪いが、貴重な体験なので味わわせてもらおうと思っている俺がいたりする。

その時、俺の腕の中で眠っていたアスナが身動ぎし、目を覚ました。

 

「悪いなんて思わないでいいよ。実はわたしも、結構楽しみに感じてきたの」

「あぁ、伝わったのか。そうだな、一緒に楽しめばいいさ。アスナが居ればなんでも出来そうだからな」

「うん、キリトくんが一緒ならなんでもできるよ」

 

いつの間にか《同調》していた俺達だったがいつものことなので特に気にせず話す。

まだ他の面子は帰って来ていないようだが、おそらくキリトは残っているままだ。

礼を言っておかないといけないな。俺はアスナと共に借りている部屋を出てリビングへ向かった。

 

 

 

 

リビングには姿が無かったが窓の外からロッキングチェアに座るキリトを見つけた。

 

「キリト」

「お、話しは終わったのか?」

「あぁ。ゆっくり話せたし、休ませてもらった。他のみんなは?」

「アスナ達はクエスト、俺は自主的に留守番」

「再度礼を言わせてもらう、ありがとう。気も遣わせてしまったようだな」

「いいって。あ、中で話そうぜ」

 

外に出て話していたがキリトがロッキングチェアから立ち上がり、家の中に入っておく。

いまの俺はSAOデータの引き継ぎアバターだが、キリトの姿はALOからの俺のアバターとまったく同じだ。

自分で自分を見るというのは本当に不思議だが、面白くも思う。

 

「えっとセイ、でよかったんだよな。セイのアバターは、もしかしてSAOからの引き継ぎなのか?」

「そうだ。ALOからのアバターもあるんだが、そっちはお前とまったく同じ姿だぞ」

「そうなのか。そういう意味では別の姿だから助かったけど」

 

なるほど、俺の姿がSAO時の自身と同じだったから気になったわけか。

ま、確かにこれで俺もALOからのアバターだったらアスナと同様にややこしくなっただろうな。

 

「あ、なにか飲むか? アスナみたいに紅茶は淹れられないからジュースとかくらいだけど」

「それじゃあ頼むよ」

 

キリトが冷蔵用ボックスからジュースを選んできてくれたので有り難く頂く。

ファンもいまは落ち着いたから自然な様子だし、キリトもそれを察してか安心したようだ。

 

そこからは雑談をすることになった。

キリトにとってのこれからのことは話せない分、ここまでの時間軸において話せるALOでのことなどを話した。

それぞれの世界のクエストやイベント、装備やアイテムなどの有り無しに気付き、

まだ行ったことのない場所の食事処を教え合うなど、中々有意義だった。

ファンの方も彼から食材についてなど教えてもらい、詳しくはアスナから教えてもらおうと決めていた。

 

そして、しばし話し合っていたらアスナ達が帰宅し、

さらには俺達のことを聞きつけたギルド『スリーピング・ナイツ』やアルゴ、サクヤとアリシャ・ルー、

ユージーンもやってきてちょっとした宴会騒ぎになったのは言うまでもない。

異文化交流ならぬ異世界?交流ということで話せないことを除いて色々と話した。

宴もたけなわ、ここらでお開きということになった。

 

 

 

 

借りた部屋で寝間着に着替え、再びリラックスムードになる。

 

「アスナはもう大丈夫そうだな」

「うん、心配かけてごめんね。それと改めてありがとう」

「どういたしまして。なにかあったら甘えるから、アスナも甘えてくれていいぞ」

「えへへ、そうさせてもらいます。えいっ」

「おっと」

 

可愛らしいベビードールに身を包んだアスナが胸に飛び込んできたからしっかりと抱きとめる。

うん、寝起きの時と同じで本当に大丈夫そうだ、安心してよさそうだな。

 

「戻れるまで一緒に頑張ろうな」

「ええ、キリトくんとならどこまでも頑張れます」

 

布団に潜り込み、明日からの並行世界での生活に少しだけ思いを馳せた。

 

「ところでキリトくん」

「なんだ?」

「その、お昼寝して眠れなさそうなんだけど……運動しない///?」

「いいぜ。ぐっすり眠れるようにしてやるよ」

 

アスナからの魅力的なお誘いを受け、当然ながらその誘惑に抗うわけもなく彼女との行為に及んだのは言うまでもない。

 

 

並行世界移動・2日目

 

前日の昼寝から目覚めた時と似たような感じで起きたが、元の世界に戻っていないことに僅かな落胆とやはり楽しみだとも感じた。

現実世界での起床時間に起きればアスナも目が覚めたようで、ALOの肉体には関係無いが習慣であるし、

型を取ることには意義があるからやっておいて損は無い。寝間着から部屋着に着替え、部屋を後にする。

 

 

 

 

 

「おはよう、アスナ」

「おはよう」

「おはよう。セイ君、ファン。2人とも早いね」

 

現在の時刻は午前5時50分と随分早い時間なのだがアスナが既にキッチンで料理を始めていた。

聞くに寝落ちしたのではなく、キリトと共にダイブしたままだったようだ。

彼女達は学校があるので俺達にと朝食を用意してくれているのだ。

ファンは料理の手伝いを申し出、俺は外で刀を出して型稽古を行った。

すると、しばらく型を取っていると気配を感じ、キリトが来たことに気付く。

 

「ホントに武術をやっているんだな…」

「まぁな。他にも大きな違いはあるだろう……よかったらだが、今日話せるか?」

「俺はいいぞ。学校が終わったらダイブするよ」

「アスナとはいいのか?」

「今日もユウキ達と行動するらしいから問題無いさ」

「……そうか、それならその時に」

 

基本は同じにしてもどうにも色々と俺とは考えが異なることが察せられる。

どのみち、ここまでのことで俺達の世界とこの世界との違い、そして俺とキリトの違いも知りたいから丁度良い。

それからすぐにファンとアスナが呼びに来たので俺達は室内に戻った。

 

キリトとアスナはログアウトし、俺とファンは朝食を頂いた。

朝食後はストレージ内のアイテムやステータスなどの再確認、行える動作やスキルなどの確認、そういったことを行う。

幸いにも食材は好きに使っていいと言われているのでレアじゃないものを主に使い、

ファンの料理スキルで美味しく調理してもらい昼食を食べた。

他にはこの世界のユイが現実世界を行き来してキリトとアスナに連絡を繋いでくれた。

 

 

 

そして、学校が終わったのか夕方になりキリトとアスナがダイブしてきた。

俺は予めファンにアスナ達のクエストなどに同行してくれないかと頼んだ。

離れなければならないことで少ししょんぼりしていたが、

そのぶん昼にはたくさん甘えてもらった……何度キスしたか俺が思い出せないくらいには…。

 

ファンはウィッグアイテムで髪を三つ編みスタイルにし、眼鏡や帽子系のアイテム、

そして黒を基調として白のラインの入った服と防具に身を包み、

愛剣である細剣の『クロッシングライト』を腰に据えてアスナとユウキ達と共に出掛けていった。

 

「さて、なにから話そうか」

「取り敢えず、SAOが始まるまでの経緯にしようぜ。現実世界での人生、だな」

 

互いに話したデスゲーム『ソードアート・オンライン』が始まるまでの人生。

 

6歳の頃に余剰パーツでPCを組み立てたところまでは同じだったが、剣道をやめた辺りから違いが出てきた。

俺が新たな力を求めたのに対し、キリトは苦しみから逃れた。

ただ、その時にあの人(・・・)と出会っていたのは同じであることからそこが決定的な違いだった。

だが、やはり家族との溝はお互いに同じであり、俺はスグに恐れられ、

キリトは趣味に没頭した結果のすれ違い、両親との距離感は俺も彼も同じだったが。

俺は力と友を得た代わりに“孤高”になり、キリトは趣味と年相応の距離感故に“孤独”になった。

SAO開始時点に至るまでならば、概ね俺の方がマシな人生と言えるようだ。

 

「誰かを守れる力があって同年代の男友達も居るのか、なんか羨ましいな」

「話し相手が自分自身だから素直に言える願望か?」

「まぁな。勿論クラインやエギルにも感謝しているし、

 なんだかんだクラスの奴らとかメカトロニクスの奴らもよくしてくれているし。でも親友とかそうゆうのはなぁ…」

「それはお前次第だ。いま挙げた奴らがそうなるかもしれないし、まだ見ぬ誰かがそうなるかもしれないさ」

「確かに、その通りだな」

 

俺だって本当の意味でアイツらを親友と感じられるようになったのはデスゲームが開始してからだったと思う。

その時からおかしくなり始めた俺の心が人間として保てたのは間違いなく仲間達が居てくれたからだ。

彼らがいなければ今頃俺はただの人殺しだった可能性もある。

ただ、どちらの方が幸せかは自身で決めることなので何も言わない。

 

「次はSAO開始時からでいいか。まぁ、こっちに関してはお互い良くないだろうが…」

「同感だな」

 

全ての始まりであるデスゲーム『ソードアート・オンライン』からの俺達の話。

 

開始直後は仲間と行動していた俺に対し、キリトは単独行動の後になんとアスナと行動していたそうだ。

しかも25層で彼女がヒースクリフに勧誘されて『血盟騎士団(KoB)』に加入するまでの間ずっとコンビを組んでいたそうで、少し羨ましいと思った。

俺に至ってはKoBの戦力が整って彼女が台頭してくるまでは知らなかったからな。

 

しかし、転機が訪れたのもまた同じ頃だった。

 

「なぁ、セイは『月夜の黒猫団』と会ったか?」

「ああ。いまでもそれなりの付き合いだが……まさかっ…」

「お前の考えている通り、俺は『月夜の黒猫団』を、サチを、守れなかった。それどころか、俺が殺したようなものだ」

 

隠し部屋の宝箱を明け、罠が作動して大量のモンスターに襲われたという。

キリトとその時は現場に居なかったケイタを除いて全滅した黒猫団。

ケイタはキリトに恨みの言を吐きながら、彼の目前で外周部から飛び降り、自殺した。

その後は荒れに荒れて戦い続ける毎日を送り、クリスマスボスの《背教者ニコラス》のドロップアイテムである『還魂の聖晶石』を手に入れ、

しかし効果によってサチを生き返らせることが出来ないことを知った。

だが、彼女が遺したメッセージと『赤鼻のトナカイ』の歌により、再び前を向いた、か…。

 

「その事、アスナは知っているのか?」

「話したよ。このあとにも、渋々ながら一時的にギルド入りさせられたからその時に…。

 でも、セイの方のみんなが生きているって聞いて、俺のことじゃないのにホッとした」

「俺としてはお前に責任は無いと思うけどな。

 なんでって顔しているが、そもそもデスゲームのダンジョン内において無警戒で隠し部屋の宝箱を開ける方が悪い。

 確かに一番強いのはお前だっただろうが、止めようとした上にお前は巻き込まれただけだ。かなり辛辣だと思うが、自業自得だ」

「それ、は…」

 

二の句が継げない様子のキリト。

俺の言っていることは正しくはないが間違いでもないだろう。

確かにキリトにとって多少は下層で油断していたということもあるだろうが、

結局のところそのケイタの言ったことは八つ当たりでしかない。

彼のデスゲームは、現実世界以上に自己責任が問われ、1人の失敗が周囲に飛び火するのは何度もあることだ。

そのことはキリトも解っているらしく、だから反論しないんだろう。

それでも俺以上に優しい奴だ、自分を責めることはやめないだろう。

 

「アスナに明かしてなお、お前は引き摺っている。それなら、アイツらのことをずっと覚えていてやれ。

 それが手向けの1つにでもなるだろう」

「うん、ごめん……ありがとう…」

 

俺達がこの世界に来た時から、俺達の方の黒猫団のことが気になっていたんだろう。

少しは重荷が軽くなればいいと思うが、そこはコイツとアスナがなんとかしないとな。

 

キリトが落ち着いたところで今度は俺の話になったのだが、今度は逆に俺の方が心配される形になった。

とある階層で出会ったギルドと共にフィールドの探索をしていた『黒衣衆』、

しかしオレンジとレッドプレイヤーの襲撃により共に在ったギルドプレイヤーは全滅。

俺は仲間達の命と心を守る為、なにより怒りのままに1人で敵を殺しまくった。

筆頭のPoHに逃げられ、汚れた俺の手、以降は男性陣のみでPKKを行い、非公式ギルド『嘆きの狩人』が生まれた。

シャインとティアさんの2人は行動を共にし、それ以外は全員がバラバラになり、会う機会が減った。

俺もそれなりに荒れた……これが互いに約50層までのことだ。

 

「本当にどっちもどっちなんだな。どっちがマシかなんて思っちゃいけないんだ」

「俺もお前も起こったことを受け止めないといけない、ということだ。

 記憶から消さず、心に刻んでおかないといけない。奪った命、守れなかった命のためにも。

 そもそも、多寡が17歳の高校生がそんな壁を乗り越えることなんてできるわけがないからな。

 いや、人間だったら生きている限り乗り越えられない奴の方が多い」

「忘れるな、か……あぁ、良く覚えておく。もう、無くしたくないから」

 

大分湿っぽい話になったが、50層以降は概ね似たような展開だった。

ただキリトとは違い、俺は自分のファンへの想いに気付いてアプローチし、77層でヒースクリフと決着がついたところだろう。

ああ、あとはリズ達にも恋人がいて、イチャつき度が違うことも。

そこら辺は何故か感心され、リズ達に恋人がいる方では驚愕していたが…。

 

 

 

 

そして、ALO事件になると既に大きな違いがある。

下種郷の下種っぷりは同じだったが、捕えられたのが俺ではなくアスナだった。

やはり、あの時俺が捕まっていなかったらファンが囚われて酷い目にあっていたのか…。

しかも、あの下種野郎この世界のアスナをALO内でだが、素肌や胸を触り、舐めまわしたらしい、加えてまだ生きているとのこと…。

 

「ふむ。よろしい、ならば戦争だ」

「おい待て。なに物騒なことを「すまん、間違えた」、そうか…」

「私刑の死刑だ。奴に関しては俺が法だ、故に聞かぬ、黙して従え」

「本当に落ち着いてくれ。並行世界の俺が予想以上に物騒過ぎて怖い件について…」

 

別世界とはいえアスナだぞ、この世界の俺の女だぞ、愛し合う男女を引き裂こうとしたんだぞ、

女の子の心に傷を与えたんだぞ、情状酌量の余地無し。

ちっ、この世界のリアルに行けたら『神霆流』の技のオンパレードで地獄の一丁目体験をさせてやったものを…!

忌々しい、ああ忌々しい。

 

という風にかなり混乱して物騒なことを言い、考えたことを反省しなければ。

色々あったがその後も話しは続き、GGOで『死銃事件』を解決したところなどもハジメの存在がない以外はほぼ同じと言えよう。

むしろキリトがハジメの役割をこなしていたらしい。

『聖剣エクスキャリバー』の一件に関しても流れそのものは同じだ。

 

「女子達全員に彼氏が居るっていうのは、俺からすればやっぱり驚きでしかないな……クラインもだけど」

「別に人間なんだからおかしいことじゃないだろう。クラインに関しては最初の印象が原因だが」

「あ、クラインはあの時のせいか……いや、こっちでは変わってないけど」

 

クライン、強く生きてくれ(笑)

しかし、俺としてはいくつかある問題を突きつけておかないと、心配でしかない。

だからここからは色々と言わせてもらおう。

 

「お前、リズ達から好意寄せられていることに気付いているか?」

リズ達(・・・)? リズだけ、じゃなくて…?」

「ああ。シリカもリーファもシノンも、だ……特にリーファは洒落にならないぞ」

 

あ、頭抱えだした。やっぱりコイツ自覚なかったのか。

 

「アスナに言葉とかちゃんと伝えているか? 甘えるだけじゃなくて、彼女にも甘えさせることは大切だぞ。

 恥ずかしさもあると思うが、周囲への意思表示とかもしておかないと勘違いされることもあるし、余計な虫が付くかもしれない」

「うっ、そうか…」

「優しくするなとは言わないが恋人を最優先にしろよ。

 それくらいで崩れる友情なら所詮はその程度ということにして切り捨てた方がマシだからな」

「なんか凄い言い方というか、割り切っているんだな…」

「恋人が最優先なだけだ。それに俺とファンは共依存だからな、かなり重いぞ。

 まぁ同じようにしろってことじゃない、本当に好きなんだから大切にしろってことだ」

「……解った。もっと、伝えるようにするし、ちゃんと周りにも示しは付ける。

 でも、いまはユウキのこともあるから「はい、それも俺が言いたいことだな」え…?」

 

この世界に来てまだ2日目だが感じていたこと、それはユウキに対してキリトが遠慮している節があることだ。

彼女の事情を理解してアスナと過ごさせるのは解るが、それとこれとは話が別だ。

 

「残り僅かな時間のユウキの為にアスナとの時間を優先させるのは解る。

 俺も少しはそうしたが基本的には同行した、ユウキにも恋人が居たから余計だったがな」

「ユウキにも、恋人が…」

「だけどな、キリト。お前、明日自分が絶対に生きていると思っていないか?

 その考えは間違いとは言わないが、事故や事件、病気に災害というのは俺達の意思を無視して訪れるぞ。

 原因は様々でも、死は平等に訪れる……さっきの話に反して、SAOを忘れていないか?」

「!?」

「俺もお前もSAOで何度も死にかけている。周りや運に助けられているが、次も必ず生きているとは限らないぞ」

 

威圧を込めながら伝えると表情を暗くして顔を俯かせ、僅かに身体を震わせるキリト。

緩んでいる、俺のキリトに対する評価はこれだ。ただ、やはりコイツの優しさに周りが甘えている結果ともいえるだろう。

あれでクラインとエギルは考えているから、問題は女性陣かな……ま、そっちはファンに任せよう。

 

「お前がアスナに甘えていたんじゃなくて、アスナがお前に甘えていたんだな」

「それは、そんなことは………でも俺は、どうすればいいんだ…?」

「キリト。結局のところ自分の身を守れるのは自分自身か信頼できる人の助けだけだ。

 ならお前の錆びついた刃を研げばいい……錆びを落として、鍛え直してやろうか?

 元が同じだからな、ユウキに勝てるようには出来るぞ」

「俺、は…」

 

悩んでいるのは、かつて手にしていた大きな力のせいだろう。

過ぎたる力は災いを招く、だがそれさえも強い意志さえあれば力でどうとでも出来る。

後一押しは男の意地をつつく。

 

「女の子に負けたままでいいのか? VR世界の申し子とか理由付けして諦めているんじゃないのか?

 悔しくないのか、女子に負けた男の子君?」

 

ぶんっ!という音と共に拳が俺の顔に真正面から振るわれたが、普通に片手で受け止める。

拳を振るったキリトの目に先程までの揺るぎはなく、確固たる意思の炎が宿っている。

体の震えも止まっている。

 

「やれば出来るじゃないか」

「っ、くそ………頼む、俺は、強くなりたい!」

「OK。どれくらいの時間ここに居られるか分からないが、強くしてやる」

「ああ!」

 

さて、面白くなってきた。コイツには戦い方(・・・)も教えておかないといけないな。

武器や魔法、スキルだけの綺麗な戦いじゃない。本当の戦い方を、な…。

 

そのあとも話を続けて、お互いに話す事ができることまで話したら早速特訓を開始した。

それはファン達が帰ってくるまで続き、しかし僅かな間でキリトはSAOでの感覚をほぼ取り戻したと思う。

これは本当に楽しみだ…。

 

 

 

 

並行世界移動・3日目 アスナ(ファン)Side

 

わたしとセイくんがこっちの世界に飛ばされてから今日で3日目。

自分で自分の名前を言うのも変な感じがするけど、昨日アスナ達と一緒にクエストに出掛けた。

帰ってからセイくんと話しをすると、キリト君に自分の世界のことを話せるところまで話したみたい。

話しをした結果、この世界のキリト君はセイくんよりも色々と危ういみたいだから鍛えてあげることにしたのよね。

 

それはわたしも同じで、キリト君だけでなくアスナも危ういと思った。

愛は人それぞれ、わたしとセイくんの重さや深さが異常なことはわたし達自身が理解している。

けれど、それでも少しばかり夢を見過ぎているような気もする。

錆びた剣と足りない力、それだけでこの先に訪れるかもしれない災いに立ち向かうつもりなのか、そう思う。

 

だから、わたしも話すべきだと思った……未来は無理でも、過去を話せば少しは悲しみを減らすことが出来るかもしれないから。

 

 

 

「じゃあ、早速別世界のアスナとキリトについて聞かせてもらおうかしら」

「あたしも気になります!」

「お兄ちゃん達も出掛けていますし、丁度いいですね」

「さ、キリキリ吐いてもらうわよ」

「デザートもあるからゆっくり楽しもう!」

「うん、私も気になるかな」

 

リズ、シリカちゃん、リーファちゃん、シノのん、ユウキ、そしてアスナの6名に囲まれているわたし。

真面目な話をしようと思っていたのだけど、まぁいいかな。

どのみち良い話ばかりじゃないから……ちなみにユイちゃんはセイくんとキリト君と一緒です。

 

「そうね、わたしだって気になるもの。女子会と言えるかは分からないけどね…」

 

そうして、わたしとアスナはお互いのことを話し出す。

 

話してみれば、わたしとアスナの人生はデスゲームが始まった時点まではまったく同じ流れだった。

だけど、アスナは開始後にキリト君と出会い、第25層まで彼とコンビを組んでいたみたい……羨ましいと思っちゃった。

25層以降はヒースクリフさんこと茅場さんに誘われてKoBに入団、キリト君とのコンビを解消したとのこと。

時には彼と共に戦い、時には衝突し、だけど心惹かれて恋をして、障害を乗り越えて結ばれた。

愛娘であるユイちゃんとの出会いと別れを経て、第75層にて茅場さんをキリト君が倒してデスゲームは終わりを告げた。

彼女が茅場さんにやられたところは驚きだったけど。

 

わたしの方はというと、デスゲーム開始後に女性や子供のプレイヤーを中心とした集まりにいた。

βテスターの人がSAO内での情報や安全な行動の方法を教えてくれて、絶対に3,4人以上で行動するようにとも言われた。

その時にわたしはわたし達の世界のリズと出会い、親友同士になった。

慎重なレベリングを重ねて十分なスキルや技術を得たわたしは少しずつ前線の階層を慣らしていき、

最前線に挑み始めた頃に団長に勧誘されてKoBに入団した。

そして、サブダンジョンのボスを1人で蹂躙するセイくんを、キリトくんを見た。

 

それ以降はアスナと似た流れだけど、やっぱり『黒衣衆』のみんなの存在があったから違うところも多くて、

特にわたし達の方のリズとシリカちゃん、クラインさんにも恋人が出来たことを話したら凄く驚いていて面白い。

それに『月夜の黒猫団』の生死の違いはショックだった、その時のキリト君の荒れ様は相当だったと思う。

第77層まで戦い抜き、セイくんが茅場さんと相討ち、わたし達のデスゲームは終わりを告げた。

 

「羨ましいわ。最初の方からキリト君と知り合えたとか羨ましいわ…」

「そ、そうかな? でも途中でコンビを解消したのはいま思うと失敗だったかなと思うわ」

 

改めて思うけどホントに羨ましい、というか少し妬ましい…。

けどコンビ解消が痛手になったのは間違いないわね。

その結果がリズとシリカちゃんがキリト君を好きになって、黒猫団の時にキリト君を1人にしてしまった…。

 

「あ、あたし達に彼氏、しかもキリトの親友…///」

「ちょっと、じゃなくてかなり気になりますね…///」

「少しどころか全然違うところの方が多いですよね」

「そうね。でも、どっちも最後でキリトを犠牲にしている…」

「うん。一番頑張っていたのはブラッキーだったんだね…。

 (僕、何も知らなかったんだ。いつも考えてくれてるアスナや彼女を支えるキリトが、どんな辛い思いをしてきたのか…)」

 

みんなが思うところを口々にする中、アスナが「そういえば」と何かを思い出したみたい。

 

「私、みんなにもあまり話したことってなかったんだよね…。丁度良い機会だったのかな」

 

頷くみんなを見て本当に話したことは少ないんだと悟った。

まぁ、良い思いでばかりじゃないのはわたしも知っているし、嫌なこともたくさんあったから仕方がないよね。

 

そして今度は『SAO事件』が終わってから、『ALO事件』の話になった。

ここはもう最初から違っていた。ALOに囚われたのはアスナで、キリト君とユイちゃんが助けに来たとのこと。

彼の道中にはリーファちゃんが同行して、その時はお互いに正体を知らなかったらしい。

シルフ領の危機を救った後、ヨツンヘイムを経由して央都アルンに到着、サクヤさんとシルフの人達、

アリシャさんとケットシーの人達の協力であの偽りのグランド・クエストを突破したキリト君が助けに来た。

それまでアスナは監禁されてはいたものの丁重に扱われていたけど、

キリト君が来た時にオベイロンの姿で須郷が来て、猥褻な行為をされたみたい。

 

ある程度は知っていたリズとリーファちゃんはそれでも悲痛そうに表情を歪めて、

シノのんは表情を隠そうとしているけどそこには怒りが篭っていて、シリカちゃんとユウキに至っては泣きそうな顔をしている。

 

それにしても、なるほどね……それで昨日の夜のセイくんの様子が少し変だったのね…。

わたしに刻み込むように激しくて…///

コホン、とにかくいまのアスナを見てみた限りだと少し引き摺っている様子も見られるから、

キリト君に伝えた方がいいかもしれないわね。

 

「それじゃあわたしの方を聞けば、少しはスカッとするかもね」

 

笑みを浮かべてからわたしは自分が経験したことを話す。

 

囚われたのはわたしではなくセイくん(キリトくん)

SAOのクリアから目覚めたわたしが暴走した後で自殺を図ったこと、彼の生存を知り生きることを決めて両親と和解したこと、

エギルさんからの情報と須郷の言葉でALOに彼が居て救出に向かったこと、

仲間達も合流してシルフとケットシーとサラマンダーの同盟を得たこと、ヨツンヘイムを経由して央都アルンに辿り着いたこと、

彼との《接続》の後で再び暴走してしまいグランド・クエストで敗北したこと、

SAOの生還者達がネットの呼びかけで合流してみんなでグランド・クエストに挑んでこと、

彼の許へ辿り着いたけど須郷による妨害があって、だけど彼がそれを打ち破ったこと、

ALOプレイヤーVS須郷ということになって倒したこと、そして現実世界でわたしと彼が再会したことを話した。

 

「なんていうか、メチャクチャね…」

「いやでも、確かにスカッとしたわよ」

「はい。特に最後のプレイヤーみんなでってところは!」

「そうね。是非とも見てみたかったわ」

「そういうのなら僕も参加したかったなぁ!」

 

アスナは呆然としているけど、リズとシリカちゃんはホントにスッキリしたみたいだし、

シノのんもニヤッっと笑っていて、ユウキは剣士の感性が疼いちゃったらしい。

そこでリーファちゃんが頬を紅くしていることに気付いた。

 

「そっちのあたしにも、恋人が居るんですね…///」

「ふふ、そうだよ」

 

やっぱりそこが気になるよね。まぁセイくん含めてみんなカッコイイからねぇ。

 

「ねぇ、1つ聞いてもいい?」

「どうしたの?」

「私はキリト君が助けに来てくれるまでは少なくとも丁重に扱われていたけど、彼はどうだったの?」

 

アスナの真面目な問いかけ、わたしがはぐらかしたところを的確に突いてきた。

みんなもそういえばと思ったのか、静かなまま問いかけてくる感じ。はぁ、聞かない方がいいはずなんだけどね…。

 

「酷かったよ。鎖で雁字搦めにされたまま吊し上げられていて、

 さらにペインアブソーバーが最大の状態で全身を20は超える剣と槍で串刺しにされていたのよ。

 ちなみにペインアブソーバーっていうのはそのVR世界における痛覚とかの設定値なんだけど、

 レベル10が通常の設定値で違和感程度のもの。

 それに対してレベル0、最大値は現実世界と同等の痛みが与えられるの……それだけ聞けば、どういう状態か分かるよね?」

 

ペインアブソーバーのことを知っていたアスナは最初の方だけですぐに青褪めて、

みんなも説明を終えた途端に顔を青褪めさせながら絶句した。

特にユウキは酷い、それは当然だと思う。彼女は現実世界で痛みのジャンルは違うけどそういった苦痛を経験したから。

 

「そんな痛みでも彼は強靭な精神力で耐え抜いたの……さ、ALO事件のことはここまでね」

 

いまの雰囲気を切り替える為にALO事件の話題を終わらせた。

 

 

 

 

そこからは平穏な学園生活の話しがほとんどだったけど、『神霆流』のメンバーの存在は大きな差異を生み出していた。

 

そのあとの『死銃事件』に至っては、アスナはGGOに行ってなくてキリト君のみでシノのんと一緒に解決に当たったみたい。

『聖剣エクスキャリバー』の入手に関しては大きな差は無かったけど、

そのあとのユウキとの関わり方はやっぱり違うことが分かった。

アスナの家族関係、友人達のキリト君への感情、キリト君の力の変化、そして日常についての考え方が大きな違いかな。

 

「大きな違いがあったからなのかな、物語を聞いていたみたい」

「それはあたしもよ。誰かが居るか居ないかでこんなに違うなんてね」

「はふぅ。なんだか疲れちゃいました…」

「あたしも…。ビックリし過ぎちゃったよ」

「幼馴染の恋人、ね……それも良いかも…///」

「居るんだ、僕でも好きになってくれる人が…///」

 

アスナとリズは別世界だからこそありえた出来事と可能性の話に思うことがたくさんあるみたい。

シリカちゃんとリーファちゃんは驚きで一杯一杯だし、

シノのんとユウキも前のみんなと同じように恋人の存在に思いを馳せている。

特にユウキは大変だから余計かもね。

 

「わたしが話せる向こうの世界の前の話はこんなところかな。

 これからの時間の出来事はそもそも起こるかも分からないし、余計な混乱にもなりかねないから話せないけど」

「ううん、十分だよ。色々話してくれてありがとう」

「こちらこそ、ありがとう」

 

わたしとしても違う世界の自分の話を聞けて良かったと思う。

これが今後のわたしの在り方や人生の糧になるかもしれない、この経験も含めてね。

 

随分な時間を掛けたことでわたし達の話は終わって解散ということになった。

というのもわたしがアスナに話したいことがあったから、2人でもう一度話したいとみんなにお願いして2人だけにしてもらった。

 

「話しっていうのはね、最近の貴女とキリト君のことを聞きたいと思ったの。2人の時間、ちゃんと作ってる?」

「えっと、最近はその、ユウキとの時間が多いです…」

 

自分でも解るくらいに真剣に聞いたからなのか、少し押され気味にアスナは答えたけど、

セイくんから聞いていた予想通りの回答だった。

 

「あのね、セイくんもキリト君も、彼らがSAOで繋げてしまった因縁っていうのは凄く深いものなの。

 『死銃事件』で捕まったザザは勿論、逃亡中のジョニー・ブラック、こっちでは姿を一切現していないPoH、

 他のレッドやオレンジ、それ以外のプレイヤーにだって恨みや妬みを抱かれているわ。そのことはアスナも知っているでしょ?」

「うん、それは解るよ」

「『死銃事件』では間接的にとはいえキリト君は殺されそうになった、運が悪かったら本当に死んでいたのかもしれないのよ?

 ザザ以外の奴らに、何処で襲われるかも分からないわよ……現実世界での彼は、少し剣道が得意な程度でしょう?」

「っ、襲われたら、殺されるかもしれない…?」

「その通りよ。それだけじゃない、もしかしたら事件や事故に巻き込まれるかもしれないし、災害が起きるかもしれない。

 天文学的な確率だとしても、それに当たってしまうかもしれない」

 

わたしの言いたいことを理解してくれたのか考え込むアスナだけど、それでもその可能性を考えたくないようにしたいのが解る。

わたしだって最悪な可能性は考えたくないけど、考えないといけない時だってあるから。

 

「本当は貴女にも言おうか迷ったけど、言っておくべきだと思ったの。わたし達の世界の須郷は死んでいるわ」

「え……ど、どうして…?」

「現実世界で護送中に襲われたのよ、傍には須郷の血で『It’s show time!』って書かれていたの。

 犯人は間違いなくPoHだとセイくん達は判断したけど、未だに行方は掴めていないまま。

 ここまで言えば解るよね? セイくんとわたし達の奴らとの因縁は終わっていない。

 アレは間違いなくセイくんへのメッセージだからね」

 

実際、UWの事件の時にもPoHは関わっていて、結局は逃げられてしまったままだ。

日常なんてものは簡単に崩れ去ることだってあるから。

 

「命に係わることじゃなくても、貴女がキリト君から離れている内に彼が他の女性に取られちゃうこともありえなくはないんだよ?」

「そ、そんなこと…!」

「“絶対はない”よ、勿論“絶対が無いことも絶対じゃない”けどね。だけど貴女の友達はどう?

 彼に惹かれているでしょう? それに彼は人を惹きつける力もある。

 わたしなんかが言えた義理じゃないけど、彼に甘えてばかりじゃ駄目だよ。

 彼の手が離れてしまう可能性はあるんだから…」

 

わたしの言葉にアスナは顔色を青褪めさせ、体は少し震えて、涙も浮かべている。

かなり言い過ぎたと思うけど、彼の傍に立つということはそういうことだから。

だから、彼女の覚悟というか、想いは大切だと思うから。

 

「ねぇ、アスナ。キリト君のこと、好き?」

「う、ん……好き、大好き…」

「ユイちゃんのことも、ユウキのことも、みんなのことも、好きなんだよね?」

「んっ、みんな好きで、大切よ…」

「でもキリト君は恋人で、異性としての好き……彼のこと、愛してる?」

「うん、愛してる……失くしたくないよ…!」

「そこまで言えるなら大丈夫ね。ユウキとの時間を大切にするのも解るけど、みんなやキリト君との時間だって無限じゃないの。

 当たり前の日常がいきなり無くなるのは、アスナだってよく知っているでしょ」

「私、忘れて、ううん……思い出さないようにしてた、SAOで簡単に平穏が無くなったのに…」

「でも思い出した。間に合ったのなら、十分よ」

 

ブレが生じていたアスナだけど、いまなら大丈夫だと思う。揺らがない想いがあれば、彼を支えていけるはず。

 

「ありがとう、(ファン)

「どういたしまして、わたし(アスナ)

 

きっと、いまの彼女ならキリト君を守れる。わたしの中に、何処かセイくんと同じような直感が過ぎったから。

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

前回は前後編で終わらせると言いましたが書いていて話が長くなったので中編を挟みました、読み難かったかもしれませんね。

 

内容は見てご理解いただけたと思いますが黒戦のキリアスが原作のキリアスにテコ入れをしました。

 

黒戦はだいぶ過激な為にキリト達の考えが原作組とかけ離れていることに危機感を感じたという感じです。

 

説教くさいと思う人が多いと思いますがこういうのは結構大事だと自分は思っているので変えません。

 

次回でちょっとだけ黒戦キリトと原作女性陣を話させて、黒戦キリアスVS原作組をする予定です。

 

勿論、強化された原作キリトの活躍も……どんな風になるかはお楽しみに。

 

それではまた!

 

 

 

 


 
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