No.817064

SAO~黒を冠する戦士たち~番外編 黒白の双璧と黒の剣士達 後編

本郷 刃さん

前回の番外編の続きで完結になります。
ようやく書き終わってみればいつもより長いという…。
ともあれ、どうぞ・・・。


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2015-12-04 17:06:53 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:8500   閲覧ユーザー数:7691

SAO~黒を冠する戦士たち~番外編 黒白の双璧と黒の剣士達 後編

 

 

 

 

 

 

 

並行世界移動・4日目 キリト(セイ)Side

 

「はぁ、はぁ……だらぁっ!」

「ハッ! いいぞ、その調子で来い!」

 

俺とファンが世界移動をしてしまって4日目が経った。

今日も学校から帰宅してダイブしてきたキリトの特訓を行っている。

それにしても、本当に感心させられる。

 

「たった3日でここまでとは、恐れ入るよ」

「そんなこと言って、まったく疲れも見せずに、余裕さえある奴に言われたくないな…!」

「基本的にはVRMMOで体力が減ることはないからな、精神力で幾らでも補えるさ。ほらほら、口を動かすよりも体を動かせ!」

「こ、この鬼野郎っ!」

 

はっはっはっ、鬼で結構、人外扱いは慣れているさ。コイツには本当に驚かせられる。

 

そう、まだ3日目にも関わらずキリトの実力は間違いなく大幅に上がっている。

最初の1日でSAO時の感覚を取戻し、2日目で剣の戦い方を身に付け、

3日目の現在は簡単な体術を教えているが中々どうして、随分と様になっているし上手く扱えている。

時折、俺の虚を突くような一撃を交えてくる辺りは特に驚いた。

まぁそれでも一撃をいれられるか聞かれたら俺は防ぎきるのだが、一方で柔軟性に関しては俺よりも上だと思う。

『神霆流』は元々、変幻自在、あるいは千変万化とも言うべきで動きや型の変化が顕著なものだ。

一定の構えを取ってから行使する技はあくまでも“倒す”か“殺す”に狙いを定めたものである。

故に俺達は最初から自分でも相手でも動きの変化に慣れているが、キリトの場合は元々柔軟性が高い方みたいだ。

真っ向からの斬り合いや得物のぶつけ合いだったキリトの戦い方だが、

いまでは俺が指南した通りにフェイントや空いている拳や足技も仕掛けてくる。

得物をぶつけ合うだけの綺麗な決闘戦法ではなく、俺が教えた通りの真正の戦い方を確かに学んでいる。

 

「さて、この辺で休憩にするぞ」

「あ、あぁ……つ、疲れた…」

 

途端に草の上に大の字になってぶっ倒れたキリト。こればっかりは仕方が無いな。

そんなキリトも最初に試しに戦った時、かなりの力を見せてくれた。

限界近くまで追い詰めた時には今のファンにまで匹敵するだろう片鱗を見せてくれたものだ。

今のキリトが本気でファンと戦えば良い勝負になるだろうし、お互いに勝率は五分になるとも思う。

 

だからこそ疑問に思うんだ、何故キリトはユウキに負けたのか。

本人は全力の結果だと言っていたが、どうも違うのではないかと俺は感じている。

今のファンはユウキよりも強い、いくらVRの申し子といえどもそのファンに匹敵できたであろうキリトがそう簡単に敗北するか、否だ。

それに負けるまでは良い勝負をしていたが最後は呆気なくというのも納得がいかない。

そこら辺に関しては直接聞くとしても、ユウキや見学していたリズ達にも聞いておくか。

 

 

 

休憩の後、再び特訓を行いそれも終わってから俺達はキリトの家に帰宅した。

キリトはふらふらとしながら自室へと消えていき、しかしその後をアスナがすぐに追いかけて彼女も自室へ行ってしまった。

その様子に驚いたというか、呆気に取られていたのが女性陣とクラインであり、俺とファンは苦笑するしかない。

 

「お互いにようやく自分の気持ちと想いに素直になれたみたいだな」

「わたし達とは当然だけど違う人生だから、それが難しかったのも解るんだけどね」

 

何かが違えばそのぶん体格と性格、人脈に人生、環境や経験など何もかもが変わってくる。

最初から素直でいられた俺達と違い、キリトとアスナは素直でいることに中々踏み出せずいたこともあっただろう。

いつ崩れるか分からない日常を大切にするのもいいことだ。

 

「アンタ達、あの2人に何か言ったんじゃないの?」

「さすがはシノンだな。少しばかりテコ入れをさせてもらったんだ」

「会って少ししか経ってないけど、なんだかもどかしかったの」

「ふぅん…ま、解らなくはないわね。私もまだ客観的に見られる方だし」

 

キリトとアスナの行動の要因が俺とファンだと睨んだシノン、こういうところは世界が違えども同じというところか。

加えて、この時期のシノンと言えばALOを始めてしばらく経ち、

仲間の輪にも慣れてきた頃で主観的にも客観的にも物事が見えやすい時だからな。

俺達の話を聞いたリズとリーファがハッとした後に難しそうな表情をし、

対してシリカとユウキは解っていない感じで、ユイはホッとした様子でクラインも納得しているようだ。

 

「やっば、あたし全然気が付かなかったわ…」

「あたしもです……うぅ、一番気に掛けべきだったのに…」

「仕方が無いわよ。リズもリーファちゃんもあの2人に近い立ち位置にいるし、それに2人自身も日常を楽しむことは大切だもの」

 

ファンの言う通りでリズとリーファはそれぞれキリトとアスナに近しい立場にある。

アスナの親友であるリズはキリトに好意を持ち、キリトの義妹であるリーファはアスナを姉のように慕いつつもキリトへの好意がある。

2人のそういった感情や立場が今回のことを察せられなかった原因でもあるだろう。

 

「あの、すみません。あたしよく解らないんですけど…」

「えっと、僕もちょっと…」

「ん~、直接言うのは気が引けるが、再発防止もあるし2人の成長も考えて…」

 

俺は状況を理解しきれていないシリカとユウキに簡単な説明をした。

キリトとアスナがお互いを気遣い過ぎて自分達の時間を作れていなかったと、明確に全てを話してはいないが。

シリカは単純に受け入れ、それでも自分が2人の時間を作ってあげられなかったことを気にしており、

一方でユウキはだいぶ気にした表情である。

ユウキは聡い娘だからな、濁して話したがそれでも自分がアスナと一緒に居過ぎたことを理解したらしく気にしている。

だが、そういったことにも自分達で気付いていかないといけないのも確かだ。

勿論、気にしないということも出来ないだろうから心に留めておけばいいとは伝えた。

 

「ユイは元々の技能を考えれば、なんとなく察せられたのか?」

「はい。特にその、パパの傍に居た時に感じ取れた感情は、SAOの時に観測できたものに近かったです…」

「それは、またなんとも…」

 

やはり俺と基本を同じくしているらしいと思えばいいのか、1人で溜め込む辺りは本当に俺と同じだな。

最終的にそれを解決できていないのは良くない、俺はなんだかんだ解決できたり、アスナやみんなに相談したけどな。

どうにもそこの加減が上手くできなかったのか。

 

「そういえば、クラインも気付いていたみたいだな」

「まぁな。オレはよ、キリトのこともアスナちゃんのこともSAOから見てたんだ。

 キリトは1人でなんでもかんでも背負っちまって、アスナちゃんはKoBの副団長でみんなを引っ張っていた。

 キリトなんか特に妬みや恨みを買ってたし、普通の奴らよりもヒデェものを体験させられた。

 そんなアイツを見てきたんだ、アレでかなり繊細な奴だからよぉ、最近は特にSAOの時のアイツと重なりもしてよ…」

「そうか、お前がそう言うのならそうなんだろうな…」

 

クラインらしいな、こういうところは俺達の世界のクラインと同じだ。

年長者として、仲間としてもキリトやアスナを見てきたってことだな。

ここに居なくてもおそらくエギルも同じ考えだと思える、アイツもそういう奴だし。

 

「俺はキリトに、ファンはアスナに言ったんだが日常っていうのは簡単に崩れ去るものだ。

 クラインが言ったようにキリトは俺と同じでレッドやオレンジから恨みを買っている。

 いつも通りの日常がSAOのデスゲーム化で崩れ、ALOやGGOまでも事件が起きた。

 敢えて言うぞ、人間っていうのは簡単に死ぬし、いつか必ず死ぬ」

 

苦虫を噛み潰した表情を浮かべるみんなだが、実際人間は簡単に死んでしまう。

HPが0になっただけで電磁パルスにより脳が焼かれて死に、たった一発の弾丸が脳天をぶち抜けば死に、

過剰量の薬品を打たれて死に、強力なウイルスで死ぬ。

そんな特殊な条件じゃなくても、滑って転び打ち所が悪ければ死ぬし、健康だった次の瞬間に乗り物によって死ぬこともあるし、

自然災害に巻き込まれるか、いきなり誰かに殺されるか、隕石でも落ちてみんな纏めて死ぬかもしれない。

 

必ず死ぬことを忘れるな、死生観の1つ『メメント・モリ』である。

 

「だからこそ、いまこの瞬間を楽しまないと損だろ?キリトにもアスナにも、大切な一時を過ごしてほしい。

 ま、基が同じだから贔屓したくなったっていうのも本音だが」

 

今この瞬間を楽しめ、今という時を大切に使え、そう意味を死生観『カルペ・ディエム』。

 

俺はこの2つの死生観は的を射ていると思う。

しかし、そう簡単に死んでやらない為に力も知識も技術も身に付けているんだけどな、勿論健康も。

 

「まぁ今は2人きりにしてあげてくれ。クラインも言ったが、2人とも繊細だからな」

 

みんなも頷いてくれたので、この話はここまでだ。

正直、キリトは俺と同じで図太いとこがあるが、俺と違って繊細だからな……虚しくなんてないからな…。

 

なお、この日はこのまま解散することになったのはそれぞれ思うところがあったからだろう。

反面、俺は言い過ぎたかなと気にしてしまったが、後の祭り状態なので仕方が無い。ファンが優しく慰めてくれたのは役得か…。

 

 

 

 

並行世界移動・5日目

 

今日はキリトに頼まれて特訓の時間を夜に行うことになった。

というのもキリトとアスナは今日の放課後から夜9時頃までデートだからだ。

早速テコ入れの効果も出たようで、俺としてもそろそろアイツらに息抜きが必要だろうと思っていたので丁度良い。

別に特訓自体が休みというわけでもないからな。

そういうわけで今回、俺は珍しくこっちの世界の女性陣と話しをしている……どうしてこうなった?

 

「ファンから聞いたんだけどそっちの世界のあたし達にはその、恋人がいるのよ、ね///?」

「気になったからどんな人かファンに聞こうとしたんだけど、

 『わたしが話していいことじゃないからセイくんに直接聞いた方がいいよ』って言われたわけ」

「なるほど、そういうこと」

 

リズとシノンに言われて理解した、ファンもさすがの的確な答えだ。

アイツらのことはファンよりも知っているし、彼女としても俺の親友であるアイツらのことを勝手に話すのは憚られたってことか。

 

「そういうことならお安い御用だ。

 だが最初に言っておくがアイツらがこの世界に居るかは俺も知らないし、居たとしても俺達同様に別人だと考えて聞くように。

 それじゃ、みんなと付き合い始めた順に話していこうか」

 

俺の親友達、『神霆流』の同門である彼らのことを話した。

勿論、中には話すべきではない過去や事柄もあるのでそういった部分は省きつつ、

どういった人物なのかを話して交際の経緯なども話せる部分を話した。

別世界とはいえまるで自分のことを話されているように感じるのか、

赤裸々な話もあってか順番に顔をテーブルに沈めていく女性陣、面白い(笑)

 

「ちなみに夜の営みについては「「「「「やめて/////////!」」」」」知らないから安心しろ。

 その代わり俺とファンの夜の営みを「「「「「それもやめてぇっ/////////!?」」」」」なら仕方が無い」

 

初々しく良い反応をしてくれる、からかい甲斐があって楽しいものだ。

最近では向こうのみんなはこういうからかいに耐性が付いてきたせいか反応が薄くてなぁ。

いや、シリカとヴァル、リーファとルナリオは耐性が付いてもからかい甲斐があるんだけど。

 

「冗談だ、つい楽しくてな、つい」

「ついでこんな冗談…」

「あたしの知ってるお兄ちゃんじゃない…」

 

笑って言えば疲れ切ったように言葉を漏らすシリカとリーファ。こういう性だからな。

 

「なんていうのかな、腹黒?」

「よく言われるな俺の腹。

 腹黒い、真っ黒、暗黒、暗闇、真っ黒黒すけ、ブラックホールなどなど、内外揃って真っ黒だとも言われる褒め言葉」

「褒め、言葉?」

「俺にとってはな」

 

ユウキの問いかけにニヤッと笑い返せば全員引き攣った表情になったのは言うまでもない。

この話はここまでにしよう、からかうのは楽しいが話が進まないし。

 

「俺も聞きたいことがあるんだが、いいか?」

 

一度首を傾げてから頷いたリズ達の反応を見てどうしても気になっていたことを聞く。

 

「何故キリトはユウキとの決闘(デュエル)でワザと負けたんだ?」

「え、それ、どういうこと!?」

「あくまでも予想だし、別にそうと決まったわけじゃないんだけどな。

 ただ、その時の様子と俺がキリトと初めて戦った時のアイツの本気を比べるとどうもおかしいと思って」

「だけどアイツは強い人を相手に手を抜くような奴じゃないわよ」

 

問いつめるようなユウキに返答すれば、シノンも真っ向から戦ったことがあるからなのか俺の言葉に怪訝に思っているらしい。

 

「俺もキリトがそういう奴じゃないのは解っているさ。

 だからこそ、アイツが全力で戦ったにも関わらず最後はあっさりと負けたのかが解らないんだ。

 シノンやクラインなら知っているだろう? キリトの強さを」

「……そういえば、そうね。GGOでキリトが『死銃(デス・ガン)』、

 ステルベンと戦った時にスコープ越しに見て感じたけど、押されてからもかなり粘っていたわ。

 あんな表情、普通は見られるものじゃないはずよね」

「だよな。SAOでヒースクリフとの最後の戦いの時、奴に対抗してたキリトはスゲェとしか思えなかったぜ。

 いや、こういうのは悪ぃとは思うけどよ、ヒースクリフの奴とやり合えるのは本気のキリトだけだ。

 いくらユウキでもアイツには勝てねぇよ」

 

シノンもクラインも思い返したのか疑問に感じ、改めてキリトの強さを思い出している。

そう、キリトにも聞いたがその時の彼は相当に追い詰められた状況で命懸け、そして強い思いを乗せていた状態だった。

思い、ああ、そういうことか。

 

「うん、いまので大体察した。キリトはワザと負けたわけじゃないが、単純に勝利に執着が無かった、いや薄れたという方が正しいか」

「勝利に執着が薄れたって、どういう意味?」

 

リズが疑問に思うのも仕方が無いだろう、シリカも似たような感じだし。

一方でリーファがなんとなく察することが出来ているのは競技として剣道を続けているからだな。

 

「剣道の大会に出ているリーファや強くなるために戦ってきたシノンなら一番理解できると思うが、

 戦いっていうのは主に実力・才能・経験・体調・精神・意志・運などで決まる。

 どれかが欠けることで負けることもあれば、どれかが欠けていても勝つこともあるし、

 その内の1つだけで成し遂げてしまうこともある」

 

実力はその時のステータスそのもの、才能っていうのは努力の有無関係ない個人の根底のステータス。

経験は言葉通りそれまでの体験してきたこと、体調と精神はそれぞれ肉体状態と心理状態、最後に意志はその戦いなどに掛ける思い。

運に関してはどう左右するかはその時にならないと解らないが、

言った通り1つがそれ以外の全てを凌駕してしまうことも時にはあるくらいだ。

特に運は洒落にならないこともある。

 

「だが、やはり一番主になるのは精神と意志の2つ、つまりはメンタルが重要になることが多い。

 なら、その時のメンタルが強くない状態、またはそれほどその戦いを重要視していなかったとしたら?」

「「「「「「っ!?」」」」」」

 

これを言えばもう全員完全に理解できたようでキリトの敗北要因をなんとなく察した様子。

特にユウキはショックを受けており、まさか全力で倒したと思っていた相手が実は全力じゃなかったとは思いたくないだろう。

しかも相手は途中からやる気を無くしたみたいとなれば、

加えてその当時の様子を考えればキリトの執着が消えたのはユウキとの話しにもあったとなれば落ち込みたくもなるだろうな。

 

「そんなユウキにも朗報だ、『統一デュエルトーナメント』は楽しみにしておくといい。

 その場でお前は錆びた刃から最高の状態に研ぎ澄まされた刃と戦うことになる」

「それって、もしかして…!」

「そういうことだ。俺はアイツを最高の状態に仕立てる、随分と面白いから。とにかく後のお楽しみということだ」

 

この言葉に一転してとは言えないがユウキのそれなりに明るいものになったし良かった。

さすがにさっきの様子を見たら罪悪感がな、うん…。

 

そのあと、雰囲気を払拭するように話せる限りの向こうの世界の俺やみんな話をした。

女性陣もクラインもそこら辺に食い付いてくれたので一応先程までの空気は払拭できたな。

そんな折、ドタバタとした足音が聞こえて扉が勢いよく開いた。

 

「酷いよキリトくん! 夜優しくしてあげたのにあんな激し、く……あれ…?」

 

入ってきたのはアスナに見えて実はファン、起き抜けだからそのまま服だけ装備してそのまま来ちゃったのか。

まさかキリトとアスナとユイ以外が揃っているとは思っていなかったのだろう、首を可愛く傾げている。

 

「ねぇ、キリ、じゃなくてセイくん……わたし、もしかして自爆した…?」

「盛大な爆発をありがとう、ファン(黒笑)」

「い、いやぁぁぁ~~~/////////!?」

 

いやぁ、疲れ切って眠りっぱなしだったから放っておいたけど、まさか夜のことを自爆してしまうとは、反省。

リズとシノンは笑みが引き攣っていて、シリカとリーファとユウキは顔が真っ赤、クラインは……血涙?

 

「とりあえず、声掛けてくる。今度はちゃんと」

 

微妙な空気になってしまい後ろ髪を引かれながらも俺はリビングを後にしてアスナの居る部屋に向かった。

ちなみにちゃんと謝って、機嫌を直してもらうのに頑張ったぞ。

最終的に部屋に篭っていたファンを連れ出して、また談笑に花を咲かせることになった。

 

その後、夜にキリトとアスナがダイブし、俺はキリトにクラインを交えて特訓し、ファンは女性陣とクエストに出た。

 

 

 

 

並行世界移動・6日目 アスナ(ファン)Side

 

6日目を迎えることになった世界移動。この日もセイくんはキリト君の特訓をしてあげて、

さらには昨日同様にクラインさんも途中から参加しているみたい。

キリト君が強くなっていくことを知ったアスナとユウキだけど、

セイくんにその様子は秘密にされているので女性陣はどんなのか知りません。

とはいえ、セイくんから聞けばいまのわたしの本気に匹敵するとなれば、

ユウキでも相手取るのは厳しいと思う……なので、提案した。

 

「ねぇ、ユウキ。もし良かったらだけど、わたしと決闘(デュエル)してみない?」

「ホント! いいの!?」

「勿論。そうだ、アスナとも勝負したいんだけど、どう?」

「うん、受けて立つよ」

「じゃあ、ついでだからリーファちゃんとシノのん、リズとシリカちゃんの4人のチーム戦もしようか」

「「「「えっ?」」」」

 

特訓というわけじゃないけど、折角だから彼女達の実力を見ておきたい。

ユウキとアスナは一対一、残りの4人とは一対多がいいね。

4人がなんだか待ってとか言ってるけど大丈夫、加減はできるからと言えばむっとしてやる気になってくれました。

最初は4人との一対多戦、決闘の設定も一対多用にして戦闘開始。

 

 

「やぁっ!」「当たってぇっ!」「は、速いぃっ!?」「え、えぃっ!」

 

リーファちゃんが前衛攻撃を担当、シノのんが後衛攻撃、

リズは前衛防御、シリカちゃんが多分遊撃で前衛攻撃と後衛防御を可能な限りで行ってる。

 

「ふふ、中々いいよ。このメンバーだと安定したチームスタイルだね」

 

リーファちゃんの長刀を捌き、シノのんが弓で放った矢を斬り落として、

2人の攻撃の隙を突いて細剣で攻撃すればリズがギリギリで防いで、シリカちゃんは状況に応じてわたしへの攻撃と3人の防御を行う。

確かにバランスよく、それぞれの武器や戦い方を考えての構成というのも解る。

 

「だけど、まだまだだね!」

 

わたし達の世界の女性陣(みんな)は個人技能は勿論、男性陣同様に連携も鍛えられている。

ギルド『アウトロード』では個人は当然だけど複数人での依頼も来るし、戦う状況が必ずしも個人戦とは限らないからね。

そんなわたしからすれば、言っては悪いかもしれないけど洗練されていない連携は甘すぎる!

 

ギアを上げて動いてみせれば、長刀を振り下ろしたリーファちゃんの攻撃を潜り抜けて鋭い突きを放ち、

彼女は突きの勢いのままに吹き飛んだ。

一瞬の出来事、それに驚いた虚を突き、リズを三連撃で沈める。

シノのんが矢を放つけど最小限の動きで回避して、

彼女の傍にいたシリカちゃんを二連撃で斬り伏せてそのままシノのんを一閃の下に切り倒した。

 

みんなのHPがオレンジまで減少したことでわたしの勝利宣言が流れた。

 

「うん、いきなりの割には良い動きだったよ。でも、やっぱりチームで行動するなら連携も覚えておいた方がいいかな」

「「「「は、はい…」」」」

「ねぇアスナ。アスナならあの4人を相手にあそこまで戦える?」

「無傷は無理だね。それに大分HPを削られちゃうかもしれない」

 

アドバイスをしておいたけど、4人共敬語で疲れ切った状態での返答。やりすぎたかな?

ユウキとアスナがいまの勝負について話しているけど、アスナなら出来るんじゃないかな。

わたしはノーダメージで勝ったし、特に休憩をとることもせずにアスナとの決闘に移る。

 

 

開始早々にわたしの『クロッシングライト』とアスナの細剣がぶつかり合った。

斬って、突きを放って、スキルを発動して、それらを組み合わせた高速の戦いになる。

自画自賛というわけじゃないけど、さすがはこの世界のトップクラスプレイヤーだね。

元々油断をするつもりもないけどそれでも気が抜けないほどだし、わたし達の世界でも充分にトップクラスだといえる。

でも、それはあくまでもこの世界と向こうの世界でアウトロードを除いた場合のトップクラスであって、

わたし達を含めた場合だと否かな。

 

「ふっ、しっ!」「くっ!?」

 

細剣による剣撃と剣閃の応酬、だけどわたしの方が手数も威力も上でアスナは徐々に防御を優先していく。

それでも偶に行ってくる反撃は精確なものだから厄介だよね。

だから、さらにギアを上げてアスナ以上の高速域に入る。

 

「ハァッ!」「こ、こんなに、はや…!?」

 

斬る攻撃を最小限にして突きの攻撃を最大限にする、わたしの細剣の戦いにおける全開。

間を置かないように連撃を繋げていき、アスナの身体の隅々に直撃してダメージを与えていく。

その時、アスナが反撃にとわたし同様の5連撃OSS《スターリィ・ティアー》を放ってきた。

一矢報いるとでもいうかの如く繰り出されたOSSに虚を突かれて、3撃の攻撃を受けてしまう。

 

「うん、やるね。いけないなぁ、侮っちゃいけないって(セイくん)に言われていたのに。

 でもそう思っていた部分があるね、いけない、ホントに駄目ね。だから、倒す」

 

スイッチが入っちゃって、その瞬間にわたしも《スターリィ・ティアー》を行使し、彼女に5連撃を放った。

全てがクリーンヒットして、アスナはその場に倒れた。HPはレッドゾーンまで減少、わたしの勝利宣言がなされた。

 

「嘘でしょ…」

「あのアスナさんが…」

「あそこまで一方的だなんて…」

「私達の時と全然違ったわね…」

「……全力でいかないとだね…」

 

リズ達は信じられないという表情を浮かべて、ユウキは次のわたしとの勝負を考えて真剣な顔になっているみたい。

わたしとしては反省しないといけない。セイくんを支える存在である以上、もう侮りも油断も絶対にしない……全力よ…。

 

 

「さて、この世界最強のプレイヤーの力、わたしに見せてよね」

「あはは、最強なんかじゃないよ。『統一デュエルトーナメント』で優勝してこそ、だよ」

 

なるほど、確かにALOで最強を名乗るにはあの大会に優勝してこそだね。

なんにしても、こっちのユウキがどれほどなのか、セイくんより先に味わわせてもらおうかな。

勿論最初から、トップギアで!

 

カウントが0になった瞬間、わたしは持てる最速の移動で距離を一瞬で詰め、突きを放つ。

 

「くぅっ!? やぁっ!」

 

やるね、さすがはユウキ。いまの一撃は初見の人や慣れてない人ならまず受けるだろう攻撃だったのに。

それを彼女は見事に受け流して反撃で斬りつけまで行ってきた。

 

「(全然見えなかった…! 勘で気付いたようなものだし、ほとんど反射行動だったよ…!)」

「やっぱりユウキは凄いね。それじゃあ、もっと攻めさせてもらうよ!」

「な、ん…さっきの速さで、連撃っ!?」

 

別に速度を落とさないで連撃は可能だからね、STLのお陰でもあるんだけど。

間を置くことのない連撃、ソードスキルはアレで隙が大きいから致命的になりやすいからPvPではあまり使わない。

そのこともあって攻撃に隙を生まないでユウキにダメージを与えていく。

 

「ふっ、ハァァァッ!」「ぐっ、うぅっ、うわっ!?」

 

ユウキもさすがの技術で、クリティカルダメージになりそうな箇所の攻撃はなんとか凌ぎ切っている。

それでも節々への攻撃が彼女にダメージを与えていき、かといって反撃できないようにしているからね。

あと僅かで勝敗が決するまでHPが削られたからか、ユウキの瞳に力強い意思が見えた。

なにか、仕掛けてくる!

 

「それなら、これでぇっ!」

 

わたしの剣突を致命的箇所だけ回避しながら突っ込んできたユウキはそのままスキル発動のモーションに入った、これは!

 

「いっけぇぇぇっ!」

 

彼女の必殺にして最強の切り札であるOSS《マザーズ・ロザリオ》。

起死回生の一手にこれほど相応しいものはないね……だけど、これじゃあ駄目よ!

 

「甘いっ!」

 

放たれるユウキの《マザーズ・ロザリオ》に合わせて、わたしは鏡合わせのように細剣を振るう。

彼女がわたしの左肩から右斜め下へ向けての5連続突き、次いで左下腹部から右斜め上へ向けての5連続突きを放ったのに対し、

わたしはその全ての連続突きに合わせて突きを放ち相殺した。

各5連突きが交錯した箇所に向けての最後の強烈な突きに対しても、同じく速度でもって底上げした突きで対抗、その結果…。

 

「う、そ…」

「忘れちゃあ駄目だよ。わたしの傍にも、ユウキは居るんだから」

 

ユウキの《マザーズ・ロザリオ》を再現という形でわたしも行い、それを完全に相殺した。

あまりの状況にユウキは呆然として、わたしは彼女の喉元に細剣を突きつけた。これでわたしの勝ちだね。

勝利を告げられ一息吐いて周りを見渡せば、アスナ達が絶句している……やりすぎちゃった(テヘペロッ)

 

 

「まぁこんな感じだね。セイくんが言うにはキリト君もこれほどじゃないけど、相当強くなっているみたいだから。

 トーナメントまであと少しだけど、ユウキはわたしが見るね」

「いいの? 僕、まだ強くなれる?」

「勿論。ビックリというか、怖がらせちゃったお詫びだよ」

 

思うところがあったみたいで表情を引き締めたユウキ、心が強いところはどこでも一緒だなぁ。

そう思っていたらアスナとリーファちゃんも口を開いた。

 

「私も少しだけお願いしてもいい? 貴女も私なら、解るよね?」

「言うと思った。大丈夫だよ」

「あたしもお願いします!今度のトーナメント、元々出るつもりですから!」

「うん、ビシビシ鍛えてあげるよ」

 

やる気十分な3人、リズとシリカちゃんとシノのんも3人の特訓に付き合うことになった。

セイくんには悪いけど、わたしも手を加えさせてもらうね。

 

 

 

 

並行世界移動・7日目 キリト(セイ)Side

 

「……と、いうことになっているだろうな。ファンの考えなら」

「お前、ホントに大概おかしいよ…」

「並行世界のキリトがおかし過ぎる件について…」

「そのネタはもう俺がやったぞ、クライン」

「パパとママのラブラブ度が上がるとこうなるんですね」

「よく解ったな、ユイ。さすがは何処でも俺達(キリト達)の娘」

 

世界移動を果たして7日目、つまりは土曜日。

昨日のファンの行動を俺の推測で話したらキリトとクラインに引かれた、解せぬ。

彼女ならこうするだろうというのが大体だが予想できるだけなのだし、彼女も俺が察していることを解っていると思う。

 

「それはさておき、最後の仕上げといこうか。明日の大舞台が本番だからな」

「ああ、頼む。ところで仕上げって言ってもどうするんだ?」

「簡単だ……こうするんだよ」

 

答えた直後、俺は『セイクリッドゲイン』を抜き放って斬り掛かった。

しかし、キリトはそれに見事反応してみせ、剣を抜かずに受け流すことで凌いだ。

 

「本気の戦いか…」

「座学も実技も済んだからな。最後の仕上げは実戦、経験は何事にも勝るものさ」

 

キリトはそれを聞いて剣を抜いて構え、俺もまた構える。

ユイとクラインが固唾を飲んで見守る中、決闘開始の合図と共に俺達は戦い始める。

 

キリト(セイ)Side Out

 

 

 

No Side

 

彼の世界で聖剣と名高い『セイクリッドゲイン』を振るうセイ、その彼に真っ向から対抗して斬り合っているキリト。

ステータス、装備、実力、才覚、経験、それらにおいて圧倒的有利を誇るセイに対し、キリトは戦えていた。

勿論、キリトは最初から本気であり、セイに関しては本気ではあるものの未だに全力ではないが。

しかし、セイを相手に真っ向から戦えることは十分に凄まじいことでもある。

 

セイが最初にキリトに行ったことはとにかくPvPを行うことで戦いの感覚を取り戻させることだった。

基本を同じくする2人だからこそ、セイとの勝負でキリトは戦いの感覚を吸収、あるいは過去を思い出してそれを取り戻した。

SAO時代、または彼自身が本気で戦っていた時の感性を引き出すことに成功し、キリトはセイの攻撃に反応できるようになり、

それを重ねていくことで出来なかった対処を行えるようにもなっていった。

 

「おぉっ!」「ちっ!」

 

各々の得物を用いて斬り、突き、薙いで攻撃を行い、防いでは受け流してそれを凌ぐ。

だが、それだけならば通常のPvPとなんら変わりはない、けれど彼らは違う。

 

互いに右手に得物の片手剣を持つが、空いている左手で拳を作ってはそれを正面で戦う相手に叩き込もうとする。

拳であるが故にそのほとんどは上体に限られるが、腕や腹部、胸部に首、頭へと向けていく。

また、拳でなくとも至近距離にまで迫れば肘打ちやショルダータックルでさえ行う始末。

加えて、空いているのは腕だけではなく脚でもあり、単純な蹴りから回し蹴り、膝蹴りや踵落としなども行う。

 

「「ご、らぁっ!」」

 

そして互いに頭突きまで行ってしまう。これが成果の1つ、セイがキリトに学ばせたのは“戦い方”であった。

 

しかしそれは単純なゲームとしての決闘(デュエル)に勝つ為の戦い方ではなく、戦いそのものに勝つ為のものである。

SAOやALO、その他のVRMMOでもだが武器があればその武器、それに魔法で戦って勝つことが常識、あるいは王道だ。

けれど、セイは勝つ為に現実世界の技術である古流武術を行うし、単純な体技も活用する。

肉体全てが武器、セイや彼の『神霆流』の同門達はそれを駆使することでSAOで生き抜き、ALOでも勝ち続けている。

 

「ふぅっ、だぁっ!」「むっ、ふっ!」

 

キリトが苛烈な攻撃を仕掛けるも、セイはそれに感心しながら危うい事無く捌ききる。

そこから繰り返されていく両者の攻撃だったが、今度は剣が的中するというところで軌道を変え、別の箇所に攻撃をする。

剣だけでなく、拳でも脚でも、とにかく攻撃の軌道修正や後退が行われては再び振るわれる。

中には突如として剣速が増すか落ちる時もある。

 

「「……っ!」」

 

それはフェイントであり、攻撃そのものの変化である。フェイントや隙を作る行為、攻撃や防御に変化やメリハリを付けること。

これこそキリトが次にセイから教わったこと、“戦いの駆け引き”である。

 

力のぶつけ合いだけが戦いではない、知識という策を混ぜ、技術で力を跳ね返す。

戦いの中で行う駆け引きは勝利を手繰り寄せることが多い。

 

「っ! おらぁっ!」「お、よっと!」

 

行われた駆け引きの中でついに鍔迫り合いとなった時、キリトは地面を蹴り上げてセイの頭上を取るとそのまま体を捻って蹴りを放つ。

剣で抑えられていたセイだが空いている腕で防ぎ、キリトから距離を取った。

現実世界では出来ない動きでも、VR世界であれば可能な動きを行わないのは勿体無い。

セイはそのことをキリトに伝え、あらゆる角度からの攻撃さえ可能にするトリッキーさを身に付けさせた。

これらがセイによって行われたキリトの特訓であり、現在のキリトの強さを表すものである。

 

とはいえ、いままでの戦いはキリトの成長を見る為のものであり、ここでようやくセイはその身に纏う空気を本来のものに変えた。

彼の雰囲気と漂い始めた空気の変化にクラインもユイも気付いて身を引き締める。

対し、キリトもまた瞳を閉じ、僅かに瞑想して再び瞳を開くと、彼の空気も一変した。

その様子に満足気な表情をセイは浮かべる。

 

「ようこそキリト、俺達の立つ領域へ。さぁ、今度こそやり合おうか…!」

 

そう告げたセイは『セイクリッドゲイン』に加えて『ダークネスペイン』を出現させて《二刀流》となる。

相対するキリトもさらに剣を出現させ、《二刀流》になる。

直後、衝撃が発生して2人がぶつかり合った。

 

No Side Out

 

 

 

キリト(セイ)Side

 

「……………」

「返事が無い、ただの屍のようだ」

「生きてるぞ~…精神的には死ぬかと思ったけど」

 

ぶっ倒れているキリトだがその表情は清々しい限りだ、コイツはもう大丈夫だろう。

 

「パパもセイさんも凄かったです~!」

「くぅっ、キリの字! テメェ強くなったじゃねぇかぁっ!」

「盛大に負けたけどな……でも、ありがとな」

 

ユイとクラインの言葉に礼を返すキリト。起き上がると今度は俺の方を向いた。

 

「ありがとう、(セイ)

「どういたしまして、(キリト)

 

その言葉を交わす。あとはキリト次第、その成果は明日試されることになる。

 

 

 

 

並行世界移動・8日目

 

世界移動から丸一週間が経過した日曜日、今日は『統一デュエルトーナメント』が開催される日である。

俺とファンは見学しか出来ない為、装備類でなるべく目立たないようにしようとフード付きのコート系装備で顔を隠している。

 

「なんだか懐かしいや。SAOの時、KoBに入団するまでの間、わたしこんな感じの赤いフードを被ってたの」

「そういえば前に言っていたっけ?」

「うん。こういう風に隠れて行動するのって、他にも色々と思い出せて懐かしいなぁって。貴方との、思い出も」

「俺もだよ。元の世界に戻って一緒に暮らせるように頑張ろうな」

 

フードで隠れているので俺にしか見えないが可愛らしい笑顔を浮かべてくれた。

うん、俺の嫁が天使でマジ幸せだ。

周囲の観客がコーヒーのような飲み物を注文し、「口から砂糖ががががが」などと言っているがどうしたのだろうか?

 

「そういえば、ファンの方はどうだったんだ? ユウキ達を鍛えたみたいだが」

「やっぱりバレバレなんだね。彼と違って急ごしらえだから満足できるほどじゃないけど、

 それでも彼女達に馴染むようには出来たかな。彼の方はどうなの? 良い出来?」

「ん~、正直ユウキ達には悪いと思うくらいやり過ぎた」

「あの、やり過ぎたって、どれくらい…」

「『領域』に足を踏み入れた。深度はファンよりか浅いけどな」

「なっ、そんなに…!? わ、わたしの予想よりも強くなっているなんて…」

「ま、見てみればわかるよ」

 

俺達が話している間に開始が宣言されたトーナメント。そして戦いが始まった。

 

 

 

キリト、アスナ、ユウキは予選を見事に勝ち抜き本選へ出場することになった。

キリトのいるブロックにはユージーンとアスナとクラインが、ユウキのブロックにはリーファとサクヤがいる。

 

それぞれが順調に勝ち進み最初にリーファとサクヤが戦うことになったが、なんとギリギリのところでリーファが勝ち遂せた。

この世界のシルフでトップクラスのリーファだが正しくトップであるサクヤを相手に勝てたのは凄いな。

僅かな時間とはいえファンの指導があってのものかもしれない。

 

キリトはユージーンと戦うことになったがどちらも伝説級武器(レジェンダリーウェポン)を装備していないことは注目されているようだ。

キリトは昨日俺に使わないことを言ってきたが、まさかユージーンもだとは。

どうやらユージーンもキリトと同じく勝ったのが伝説級武器のお陰とは言われたくないだろう。

己の実力で挑むのが一番、か……その2人の戦いだが、それでも圧倒的ではないものの大差でユージーンが敗北した。

その結果に会場は静まり返るもそれにキリトは一切の反応も見せず、しかしユージーンに手を伸ばして礼を言い、

彼もそれに応えたことで会場は沸き上がった。

 

その後、ユウキとアスナも勝ち残り、リーファはユウキと戦うも敗れてしまい、クラインはアスナに負けた。

そして本選は順調に進んでいき、準決勝でキリトとアスナが戦うことになった。

夫婦対決という対戦カードに観客達は色めき立っているが、中にはキリトに対しての揶揄が込められているものがある。

ファンが不快そうにしているが俺達よりも不快そうにしているのもいる。

 

「んだよ、アイツら。キリトの苦労も知らねぇでよ」

「そうですよ。予選に出場もしていないのに」

「妬みもいいところですね」

 

SAO時代からのキリトを知っているクライン、先程までクラインと共に本選に出場していたリーファ、

慕っているキリトへの感情から不機嫌になるシリカ。

気持ちは解るが俺はあまり気にするタイプじゃないからな、真正面から迎え撃つし。

 

「ああいうのは何処にでもいるから気にしない方がいいわよ」

「そうね。それに陰口しか叩けないのならその程度なのよ」

「アスナはともかく本人はまったく耳にしていないから問題無いさ」

 

アスナとキリトの友人という立場だからこそのリズ、こういうことに慣れているシノン、

最も大人な対応ができ冷静にことを見られるエギル。

3人の言う通りだし、なによりこれからの光景を見れば何も言えなくなるさ。

 

直後、キリトとアスナの勝負が始まったが、一撃でアスナが吹き飛ばされた。

再び訪れる静寂、それは側に居る2人の友人達も含めてだ。

決着はついておらず、すぐにアスナは体勢を立て直す…が、当然ながらキリトは攻撃を続行していく。

しかしアスナも負けないつもりと言わんばかりに攻撃、両者は剣を交えていく。

それでもすぐに綻びが起き、アスナの手から細剣が弾かれ、キリトはそのまま勝利に必要な分のHPを削り勝利した。

 

対戦中は歓声が上がっていたが、容赦の無い勝利の仕方にみな引いたようだな。

だが、そんな中でも俺は拍手をし、続けてファンが、リズ達が行い、周囲も行い大歓声も上がる。

 

「アナタ、一体アイツに何をしたの?」

「別に。ただ、戦うということを思い出させ、教えただけだ。なぁ、クライン?」

「そうだなぁ。むしろキリトとお前さんが基本が同じ存在っていうのに納得がいったぜ」

 

シノンの問いかけに簡単に答え、同意を求めるとクラインも頷いて応えた。

 

次いでユウキも準決勝を制し、ついに決勝戦でキリトとユウキが戦うことになった。舞台中央で相対する2人。

ユウキが武器を構え、キリトは瞼を閉じて僅かな瞑想を行う。

瞼が開かれた瞬間に彼の空気が一変し、もう1本の剣を出現させて《二刀流》となる。

 

「ホントに『覇気』を……それに、見た感覚でも《二刀流》をモノにしているね」

「良い出来だろう? アイツ、もっと強くなるぜ」

 

驚きと共に楽しそうな表情になるファン。

リズとシリカとエギルはキリトが《二刀流》を使うことに驚いており、周囲もざわめいている。

一方で生還者(サバイバー)なのか歓声を挙げている者達もいて、みな一様に「『黒の剣士』だ!」やら「『解放の英雄』!」、

「《二刀流》のキリト!」と歓喜している。その様子が影響してなのか次第に他の観客からも期待の声が上がっていった。

 

キリトは笑みを浮かべ、ユウキも楽しげな表情になり、カウントダウンの後、2人は己の全力を本気で駆使して戦い始めた。

 

 

 

白熱した『統一デュエルトーナメント』が終了し、会場周辺はお祭り騒ぎのままだ。

その中で俺とファンは決勝戦の舞台を誰も居なくなった観客席から眺めていた。

 

「凄い戦いだったね。まぁ、キミからしたらまだまだだったのかもしれないけど」

「そうでもないさ。強さよりもそこに乗せている思いの方が重要だし、それが戦いをより輝かせる。

 アイツらの戦いの輝きは一際大きいものだったから、十分満足したよ」

「ふふ、なら良かった。枷が本当に戻った証拠ね」

 

いやまぁ、戦ってみたいなぁとは思ったけど、キリトとは昨日戦ったしそれで満足できたからな。

枷に関しては改めて確認が取れて安心できたのならなによりだ。

 

「お、ユイの言った通りここに居たんだな」

「2人共、お祭りの方はいいの?」

「屋台もたくさんあって楽しいですよ」

 

そこにキリトとアスナとユイのファミリーがやってきた、どうやら俺とファンを探していたようだ。

 

「一家揃って見送りに来てくれたのか?」

「「見送り?」」

「おう。みんなにも2人にも悪いが俺達だけでな」

「ありがとう」

 

俺の言葉にアスナとユイは首を傾げ、キリトは普通に答えてファンが礼を言った。

ということはアスナとユイは知らされていないのか。

 

「え、見送りって、帰れるの!?」

「ああ、そう感じがするからな」

「感じ、ですか?」

「俺も2人が帰る感じがしてな」

 

驚くアスナに答えるとユイが疑問を抱くがそれをキリトがさらにそれを助長する。俺達は同時に笑みを浮かべてこういう。

 

「「勘だ」」

「勘って、あのね…」

「彼らはそういうものだから、仕方が無いよ」

 

呆れるアスナだがファンは楽しそうであるのはもう俺で慣れているからだ。

直後、俺達の言葉を体現するかのように頭上で雷が奔った。

徐々に数は増え、俺とファンの周りを囲んでいこうとしている。

 

「俺とファンはこれに呑まれてこっちの世界に来た」

「俺がALOに初めてダイブした時と同じような感じだな」

「『ザ・シード』というネットワークが繋いでいるからだろうと俺は考えているよ」

 

こんな時でも俺とキリトはVR談義を行うのでファンとアスナとユイは苦笑している。

ま、この方が俺達らしいだろう。

 

「中々楽しませてもらった」

「こっちこそ。得難いものを得られたよ、それに強くしてもらえた。本当にありがとな」

「俺こそ貴重な体験をさせてもらえた。根幹を同じくする存在を鍛えられたからな」

「はは、確かに。俺はもっと強くなる、自分の身も、アスナもユイも、みんなも守れるように」

「おう。そうなれるように在れ、お前は俺なんだからな」

 

晴れ晴れとした表情のキリトに自信を込めて言い放つ、俺達の別れの言葉はこれでいい。

 

「ファンから教えてもらったこと、色々参考にさせてもらうわね」

「頑張って。貴女が得たものは間違いなく貴女自身の糧になるから」

「勿論、そうなるように努力するわ。でも、なにより私らしく素直に行こうと思うの」

「それが一番だからね。アスナが支えてあげるんだよ」

「ええ、必ず。だって、私はキリト君の奥さんだもの」

「その意気だよ。わたしも貴女も大好きな人は同じだから」

 

ファンとアスナの別れの言葉は激励を込めたものだが、それぞれ俺とキリトに抱きつく辺りは同じか。

まぁキリトも照れてはいるが受け入れているのだし、もう大丈夫だな。

 

「ユイ。俺達には俺達の(ユイ)が居るように、キミも間違いなく2人の娘だ」

「ユイちゃんは2人の絆でもあることを覚えておいてね」

「はい! わたしはパパとママの娘です!」

 

違う世界の娘にも言葉を掛けるのは忘れない、これ当然。さて、雷も激しくなってきたしそろそろ時間かな。

 

「この先に訪れる試練もお前達なら必ず乗り越えられる! じゃあな!」

「大切な人達が傍に居ることを忘れなければ大丈夫から、頑張ってね!」

「ああ、絶対に乗り越えてみせる!」

「短い間だったけど、本当にありがとう!」

「セイさんとファンさんもお元気で!」

 

最後の言葉を交えた瞬間、俺とファンを光が包み込んだ。

 

キリト(セイ)Side Out

 

 

 

和人Side

 

ふと暗闇から光が差し込むような感覚を覚えたが、自分の瞼が開いたのだと実感した。

頭を覆う機器がSTLであることはすぐに理解でき、自分の身体を預けているのがベッドであることも解る。

ベッドの方が動き、部屋の光が差し込んできた。

 

「お疲れ様キリト君。大分長いログインだったけど、何処か体調に変化はないかな? 気分が悪いとかそういうのは?」

 

声の主は眼鏡を掛けた見知った男、菊岡であった。しかしこの反応はどういうことだ?

 

「俺、どれくらいログインしていたんだっけ?」

「時計は見ていなかったのかい? 大体1時間と少しというところだよ」

 

俺の疑問に答えてくれたのだが、その回答にさすがの俺も驚くというか、疲れも含めて溜め息が出た。

 

つまりこういうことだ、俺と明日奈がフルダイブのテストを行い向こうの世界に行った期間が約8日だが、

こっちでは大体向こうの1日が10分程度で時間が進んでいたようだ。

夢だった、というにはあまりにもハッキリ覚えており、隣のSTLから身を起こしている明日奈も俺と同じような考えだろう。

それに俺の勘が告げている、アレは現実だったと。

 

「2人とも大丈夫そうだね。ん、どうしたんだい?」

「「菊岡(さん)、1つだけ言わせてもらう(もらいます)…」」

 

首を傾げる菊岡に俺と明日奈は声を揃えて言うしかない。

 

「「一時の間STLは勘弁してください」」

 

この一言に尽きる。なお、この場に居たスタッフ全員が目を丸くしたのは当然だろう。

 

 

 

今回の一件、俺と明日奈は当たり前だが菊岡達に話さず、申し訳ないが仲間達にも話していない。

ただユイにだけは伝え、土産話にはしておいた。

いつか、また会うこともあるかもしれないし、ないかもしれない。

だが、本当に貴重で面白い体験だった。

 

和人Side Out

 

 

END

 

 

 

 

 

あとがき

 

ようやく完成できたので投稿しました、大筋は出来ていても細かいところは書くのがやはり大変です。

 

さて、原作キリトがユウキとの決闘の際にワザと負けた、というかやはりあっさりと負けたのは考察と独自解釈を重ねた結果です。

 

ヒースクリフを倒し、GGOでステルベンとも苛烈な闘いを行い、

この時間軸はまだですがアドミニストレータにでさえ勝った彼があっさり負けるのはどうかと思いました。

特に漫画のマザロザを読めばなんかそんな感じがしましたね、反応できなかったというのも言い訳っぽいですし。

加えて彼は原作でもなにかと勘や反射で対応、あるいは反応はするはずなのでそこも含めて、ですね。

 

まぁ黒戦キリト(セイ)のテコ入れの結果、『覇気』に目覚めるというトンデモ展開にはなりましたがw

 

決勝のキリトVSユウキを書かなかったのはワザとですよ、というかそこだけはご想像にお任せします。

覇気を使ったキリトが勝ったもよし、なんだかんだでユウキが勝ったもよし、まさかの引き分けじゃあ、でもよしですw

この戦いについては自分では表現しきれない感じもありましてね、早い話が軽度のスランプ。

完成しただけでもある種の奇跡状態。

 

時間経過に関しても相変わらずのご都合主義なズレです、まぁ世界移動物ではよくあることなのですが。

意図したものでもなければ、菊岡や凜子さんから見てもダイブしていたので、2人とも脱力という感じです。

STLは一時の間は懲り懲りなキリトとアスナでしたw

 

そしてここで2つほど報告させていただきますが、残る番外編のバーサスは年内中に投稿します。

しかし、新編の方は来年1月~4月初頭の何処かでの投稿になりそうです。

上記にもある通り軽度のスランプ気味で書き溜めが思うように進みませんでした。

投稿が不定期になるのであれば1月からでも可能ですが、確実に投稿するならば3月~4月にかけてですね。

そこについては番外編バーサスの投稿時に再度報告します。

 

もう1つの報告ですが新編はアリシゼーションの戦争編に決定いたしました。

最初は原作アリシゼが完結してからでもいいかと考えていましたが、どのみち結果はWebで知っていますし、

覇王キリトさん達が大暴れして内容も変わるのならばWeb版の結果にオリジナルも加えればいいだろうと判断しました。

よって、新編はアリシゼ戦争編となります、これが最後の読者参加型になりますので乞うご期待を。

 

それでは次の番外編にて・・・。

 

 

 

 

以下、『アクセル・ワールド』と『ソードアート・オンライン』のネタバレにつき注意。

あくまでも個人的な推測などがありますが、事実も記載しており。

知りたくない人、看過できない人は飛ばすを推奨します。

 

 

 

 

 

『アクセル・ワールド』の世界観が『ソードアート・オンライン』の別未来らしいことが判明。

最新19巻(だったかな?)にてキーキャラクターがアンダーワールドらしきVR世界のことを話し、

そこでキリトとアリスとガブリエル・ミラーらしき三名の姿と状況が話されましてね。

どうやらアクセルの世界はSAOのアリシゼでキリト達がアリスの救出に失敗した後だと推測されています。

違う結果の未来、というのがどうやらアクセルの世界っぽいです。

本当にあくまでも個人的見解、そして読んだ上での愚考なのでどう判断するかはお任せします。

 

では、改めてバイ!

 

 

 

 


 
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