No.805064

SAO~黒を冠する戦士たち~番外編 黒白の双璧と黒の剣士達 前編

本郷 刃さん

番外編になります。
今回は以前にも話していた本作のキリトとアスナが原作に限りなく近い世界のキリト達に会う話、世界移動ものです。
そういったのはあまり好まないという方は回れ右をしてくださいね。
キリト視点のみで話しが進み、日本における起承転結の“起”と“承”の部分に当たると思います。

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2015-09-29 11:30:30 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:11164   閲覧ユーザー数:10130

SAO~黒を冠する戦士たち~番外編 黒白の双璧と黒の剣士達 前編

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、手伝ってもらっちゃって悪いッスね、キリト君」

「気にしないでいい。これもバイトの内だし、なにより俺もSTLの調子は気になっていたからな。

 俺としては明日奈もやるということに驚いたが…」

「わたしだって和人くんの力になりたいもん。それにSTLの調整は2台でしょ?

 和人くんと一緒ならわたしはなんだって大丈夫だもの」

「それじゃあ有り難く手伝ってもらうッスよ」

 

夏休みもあと少しで終わりだという今日、俺と明日奈はバイトの為にオーシャン・タートルへ訪れている。

あの事件から一ヶ月が経つか経たないかという時だが施設の修復は粗方終わっているようだ。

まぁ、さすがに銃撃戦が行われたこともあって完璧ではないが、施設自体はいつも通りに稼動している。

ヘリを降りた後でタケルと合流した俺達は彼の案内を受け、事件の際に奴らに使用されたSTLの1号機と2号機の下へ向かう。

 

俺と明日奈はその2機の再稼働実験のバイトを引き受けたわけだ。

勿論、事前にスタッフが再稼働実験を済ませており、俺達が行うのはALOなどのゲームへのログインを担当するだけである。

ともあれ、俺も明日奈もSTLや『アンダー・ワールド(UW)』のことが心配ということもあるが。

談笑を混ぜながら施設を移動していき、俺達はSTLの1号機と2号機のある部屋へ着いた。

 

そこには凜子さんと安岐さんの2人が迎えてくれた。

 

「キリト君、アスナさん、こんにちは」

「やっほぅ、2人共。1ヶ月ぶりくらいだね、元気にしてた?」

「こんにちは、凜子さん、安岐さん」

「色々大変でしたけど、わたしも和人くんも元気ですよ」

 

軽く挨拶を交わす。凜子さんとはALOの『神々の黄昏(ラグナロク)』の際に会ったが、安岐さんとは本当に事件以来だな。

 

「キリト君には何度も説明したけど、アスナさんは初めてだから説明しておくわね。

 今回のテスト内容は『STLによるVRゲーム稼働試験』よ。

 先にこっちの人員でも正常稼働試験やVRゲームの起動試験は行ったけれど、

 VRゲームプレイヤーである2人の感想を聞かせてもらいたいの」

「キリト君の設定は僕が、アスナ君の設定は先輩が担当するッス。

 勿論、安全を保障するつもりッスけど、絶対安全なんてことはないから僕達が常にここでバックアップします」

「2人の体調の安全面も考慮して、今回も私が付かせてもらうわね」

「解った」「解りました」

 

改めての説明を受けてから俺達は準備を進める。

水分補給や用足しを済ませ、2機のSTLの間に敷居用の簡易カーテンを出して服を脱ぐ。

体に電極を張って、もしもの時のためにリアルタイムで観察することになる、頭部に関してはSTLで十分だけど。

準備を整えたところで左右から声が聞こえてきた。

 

『こちら、モニタールームの菊岡です。キリト君、アスナ君、今日はよろしく頼むよ』

 

こっちからの声は届かないが心の中で答えておく。傍に明日奈を感じられないのは仕方が無いか…。

 

「それでは、これよりSTLによるVRゲーム稼働試験を開始する。

 システム起動、VRゲーム『アルヴヘイム・オンライン』起動、ログインスタート!」

「「リンク、スタート」」

 

俺と明日奈の音声認証により、ログインが行われて試験が始まった。

 

 

 

アミュスフィアと同じゲームへのダイブ過程が行われていき、パスワードの入力を経てフルダイブしていく。

ここまではいつも通り、あとはALOに到着して完全に問題が無いか動作を確認するだけだ。

そして、光に包まれていき、ここもいつも通りに目を開くだけでALOに居るはず………だった。

 

「ここ、は……あれ、アスナ」

「キリトくん、わたし達ログインしたよね…?」

「そのはず、だけどな…」

 

眼を開けばそこは暗い空間であり、俺とアスナはALOのアバターにはなっているものの、

俺に関してはALOで作ったアカウントではなく、SAOのデータ引き継ぎの姿だ。

直後、俺はふと覚えた感覚に正面を警戒するが、そこに雷が奔った。

 

「くっ…!?」

「きゃあっ!? こ、これ、前にキリトくんを助けにALOにダイブした時の…!」

「これが?」

 

どうやらアスナは見覚えがあって、以前に聞いた回線混流の影響らしいがなぜオーシャン・タートルでこんなことが。

身構えるようにアスナを抱き締めるが、次の瞬間に雷が俺達を包み込むように奔った。

 

「ぐぅっ、アスナ…!」

「キリトくん…!」

 

徐々に意識が失われていき、力が抜ける。くそ、このままじゃ、アスナと離れてしまう。

 

「ア、スナ…」「キリ、ト、くん…」

 

そして、一際大きく雷光が俺達を包み込んだ。

 

 

 

 

「………君、…リト君、キリト君!」

「んっ、アス、ナ…?」

「よかった、目が覚めたんだね?」

 

聞き慣れた女性の声により、俺の意識は表層へと引き戻された。

瞼を開くとそこには見慣れたウンディーネの姿のアスナが居て、俺のことを心配そうに見ていた。

ALOの何処かの森で、どうやら俺は気を失っていたようだな……って、おかしくないか?

眠っていたのならともかく、ゲーム内での意識消失は危険状態と判断されて強制的にログアウトされるはず。

なのに、俺はゲーム内にダイブしたまま? それに、愛しい存在であるはずの彼女に対して深い想いを感じ取れないのは何故だ?

まさか、誰かの幻影魔法か……いや、俺の感覚が本物だと訴えている。そこへ、さらに聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「あ、キリトさん目が覚めたんですね」

「お兄ちゃん大丈夫?」

「まったく、心配かけさせるんじゃないわよ~」

「ま、無事だったんだからいいんじゃない?」

「シリカ、リーファ、リズ、シノン…」

 

見知ったはずの4人、けれどどうしても不自然に、いやこの状況に困惑してしまう。

今日の彼女達の予定は現実世界でそれぞれ烈弥、刻、志郎、景一という、彼氏と共に行動すると聞いていた。

なのに、彼女達はゲーム(ALO)の姿でここに居る、何故だ?

そこに気配を感じて視線をずらせば、居るはずのないありえない人物の姿に呆然とする。

な、ぜ…何故、お前が、死んだ(・・・)はずのお前がここにいる…。

 

「アスナ~! ブラッキー起きた~?」

「ユウ、キ…」

 

4ヶ月ほど前に死んだはずの友人の姿に、呆然とするしかない。

 

「キリト君、どうかしたの? やっぱり、体調が良くない?」

「大丈夫……少し混乱しているだけだ、すぐに落ち着く…」

 

心配してくれているアスナ達(・・・・)、には悪いが全てに警戒したまま意識をフル回転させて状況を確認する。

意識消失を起こしていたにも関わらず、ALOにダイブしたままの俺。

彼氏と現実世界で行動しているはずのシリカ、リーファ、リズ、シノンがALOに来ている。

死んだはずのユウキが生きてALOに居る、少なくとも偽物ではないのは彼女達を見れば感覚で解る。

1つだけ可能性がある事象がある……だが、情報が足りない。それならば、彼女達に聞くしかないか…。

 

「確認の為に色々と聞きたいんだが、いいか?」

「う、うん、いいけど…」

 

俺の様子に戸惑うアスナとみんなだが、それは俺もなので許してほしい。

 

「1つ目、今日の俺の予定は?」

「クラインさんとエギルさん、それにユイちゃんとクエストに出掛ける、だったはずよ」

「2つ目、リズ達の今日の予定は?」

「アスナと一緒にクエストに出掛ける、よ……昨日あたし達がアンタに言ったでしょ」

「3つ目、【絶剣】今日の年月日と曜日は?」

「今日は2025年2月○×日の日曜日だよ」

「4つ目、アスナと俺の関係は?」

「こ、恋人同士…///」

「最後の確認。アスナ、いま俺が考えていることが分かるか?」

「え? えっと~………うっ、分からないわ…」

「ありがとう、助かったよ」

 

なるほど、いまの状況は大体理解できた…。

というよりもこれしかないだろう、普通はありえないが、そのありえないが起こってしまったということだと思う。

 

「あのね~、幾らアンタ達がそりゃもうあたし達が知るくらい仲が良くて、

 大体のことは解り合っていても、細かいことなんて解るわけがないじゃない」

 

リズが意味不明だと言わんばかりに言い放つが、言葉の端々に棘が含まれているのが解る。

まさか、リズは……いや、ユウキを除く全員から僅かに感じる、おいおい…。

 

「解るぞ、少なくとも俺と俺のアスナの関係(・・・・・・・・・・)ならな」

「えっと、どういう意味?」

「……貴方、誰…?」

 

彼女達の心情に心内で溜め息を吐きながらも返答すれば、ユウキが首を傾げた。

しかし、アスナは完全に気付いてくれたか。

 

「なに言ってるのよ、アスナ。キリトじゃない」

「違うの、違うのよリズ……いつものキリト君じゃない、私の知っているキリト君じゃ…。

 それに、いままでは彼が倒れていて気にしなかったけど、彼の姿も装備も違う…」

「「「「「っ!?」」」」」

 

アスナの指摘で全員が驚き、警戒心を露わにし出した。これなら話を進められそうだな。

 

「気付いてくれたと思うが、俺はキミ達の知っているキリトじゃない。

 けれど、勘違いしないでくれ、俺は桐ヶ谷和人でありキリトでもある。

 ただ、強いていうのならキミ達と共に在る桐ヶ谷和人(キリト)ではないというだ」

「どういう、意味…?」

 

腰元の細剣の柄に手を添えて警戒しながら問うてくるアスナ。

ユウキは片手剣、リーファは長刀の柄にそれぞれ手を添え、

シノンはいつでも弓を構えられるようにし、リズはシリカを庇うようにしている。

うん、素人にしては良い警戒だ。だがやはり甘く、俺の知る彼女達とは雲泥の差と言える。

 

しかし、これ以上この状態で居るのは、俺はともかく彼女達にはよろしくない。

一刻も早く状況を解決したいし、無駄な話は省こう。

 

「いま現在、俺の身にはありえない現象が起きているが、信用の有無はともかく単刀直入にハッキリさせよう。

 俺の名は桐ヶ谷和人、プレイヤーネームはキリト、古流武術『神霆流』の師範代、『SAO生還者』を集めた学校の高等部2学年、

 今は17歳だが今年で18歳になる、こことは異なる別の世界から来た存在だ」

「「「「「「……………え?」」」」」」

「もっと簡単に言えば、並行世界から来た桐ヶ谷和人だな」

「「「「「「……………えぇ~~~~~!?」」」」」」

 

おぉ、辺り一帯に響き渡ったな、モンスターに見つかるぞ。

 

「そんなこと、信じられるわけ…」

「しかし、俺が知っている現状とキミ達の現状はかけ離れている。

 それに俺の容姿がキミ達の知る桐ヶ谷和人と違うことが目に見える証拠だ。

 他に俺の手札を出さずに示すことができるとすれば、キリトにメッセージを送ればいい」

「確かに、アンタに届かなければアンタは少なくとも私達の知るキリトじゃないわね」

 

リズに割り込んで話せばシノンが即座に理解してくれたか、アスナもそれを察してかすぐにメッセージを送っている。

彼女達に見られている中、俺にメッセージは届くことなく、直後にアスナへメッセージが届く音が鳴った。

 

「キリト君からの、メッセージ…」

「なんて書いてあるの?」

「『アスナと会っていたら、アスナからメールが来て驚いた』って…」

 

訊ねるユウキにアスナが応えるとみんなが驚いた表情を浮かべた、俺だけでなくもう1人アスナが居るからな。

ただ、俺のアスナも無事だということだ、少しホッとした。

 

「そういうことだ。申し訳ないが彼にすぐ合流するように促してもらえないだろうか?

 場所はなるべく他のプレイヤーが来ないところが好ましいな」

「それが一番みたいね、解ったわ」

 

そうして、再び彼にメッセージを送り、俺達は場所を移すことになった。

勿論、アインクラッドの第22層にある、キリトとアスナの家だ。

 

 

 

 

到着したのは俺達が先のようだ……その時、俺はいつものように彼女の存在を捉えた。

 

「キリトくんっ!」

「アスナ!」

 

こちらに向かってかなりの速度で飛んでくるアスナを、俺も飛翔してから突っ込んでくる彼女を抱き締め、

その勢いを利用して体を回転させながら徐々に勢いを殺す。

 

「アスナ、大事は無いか?」

「うん、平気だよ。キリトくんも大丈夫?」

「見ての通りさ。まぁ、さすがにいまの状況には驚いたけどな」

 

喜びと共にお互いに確認し合う俺達はゆっくりと家の前に降りていく。

 

「うわぁ、なにあれ…」

「こっちのキリトさんとアスナさんよりラブラブじゃないですか…?」

「お兄ちゃん、なんだよね…」

「誰ってレベルの話ね、キリトもアスナも…」

「アスナとブラッキーじゃないみたい…」

「くぅ、何処でもイチャつきやがって…!」

「へぇ、こっちの2人よりかは素直そうじゃないか」

「パパとママはどこでも仲良しです!」

 

リズ、シリカ、リーファ、シノン、ユウキ、クライン、エギル、ユイの弁であるが、エギル以外の7人は恋人無しみたいだな。

まぁユイは当然として、やっぱり前の4人は彼に気がありそうだな。

 

「自分と同じ姿の人が居るなんて、不思議だね」

「そうだな……はぁ…」

「どうかしたの?」

「いや、キミが俺と恋人のアスナなんだって、安心したんだ。

 さっき、その、あのアスナに距離を置かれた時はキミに嫌われたかと、思って……でも、安心できてよかった」

「わ、私も、あのキリト君がキミじゃないって解った時は、私の恋人のキミは何処かに行っちゃったのかと思ったけど、良かったよ///」

 

あの2人も十分にイチャついていると思うが、確かに俺とアスナに比べたら少しはマシかもしれないな。

そこで俺の腕の中に居るアスナがある一点を見て硬直している、当然ユウキを見てだ。

 

「アスナ、平気か?」

「う、うん、少し、驚いているだけだから…」

 

俺達の世界のユウキが死んでまだ4ヶ月と少しだ。その間に色々あったとはいえ、割り切れるものじゃないだろう。

しかし、いつまでもここにいるわけにもいかない。

 

「すまないが、お邪魔させてもらってもいいか?」

「ああ、そうだな。入ってくれ、みんなも」

 

俺が聞けば彼が扉を開けて入るように促してくれたので、みんなと共に入った。

 

 

 

「改めて名乗っておくが、この世界とは異なる世界の桐ヶ谷和人、キリトだ。よろしく」

「同じく結城明日奈、アスナです。よろしくね」

 

幸いにも俺とアスナもウインドウを開くことが出来たので装備をALOでの普段着に変えてこの世界の2人を見分けが付くようにした。

 

「パパは見分けがつきますが、ママは服を変えていないと見分けがつきませんね」

「ウィッグアイテムで髪型は変えられるし、防具ももうワンセットあるから見分けがつくようにできると思うわ。

 問題は名前だよね、ややこしくなりそう」

「俺がセイ、アスナはファンでいいだろう」

「理由は?」

「『狩人の剣士(セイバー)』と『狩人の光影(ファントム)』」

「了解です。そういうわけだから彼のことはセイ、わたしのことはファンって呼んで」

 

俺達の方が異邦人というか異世界人だからな、彼らに不都合がない方が良い。

 

「2人はこの世界に意図してきたわけじゃないんだよな? なにがあったのか、聞いてもいいか?」

「ああ、実は……」

 

俺はこれからキリトが似た道筋を通る可能性を考慮してSTLの存在を隠し、

ファンと共にフルダイブしたところで今回の事態に巻き込まれたという風に話した。

リズとリーファが詳しく聞こうとしたが、詳しく話した影響でこの世界の今後に大きな影響が出る可能性があると話せば大人しくなった。

どんなことが起こるか分からない以上、深く話せないというのも厄介なものだ。

 

「戻れる方法は、分からないよなぁ…」

「さすがにな。二度目だから今回もなにかをやり遂げるか時間が経てば戻れると思うが…」

「ん、二度目?」

「そうだ。ファンは初めてだが、俺は似たような経験を前に一度したことがある」

 

そう、前に似たようなことがあったのはSTLのテストを何度か行った時のことだったな。

あの『銀の鴉』はどうしているだろうか?また戦ってみたいけどな…。

 

「原因とかはどうだ? 何か思い当たることとか…」

「色々と思い当たることはあるが、直接な要因はなさそうだ。

 だがこの世界、というかこのALOは俺達の世界と同じでSAOのデータ、

 カーディナル・システムを基に造られている、そうじゃないか?」

「その通りだよ」

「加えて、『ザ・シード連結体(ネクサス)』により無数のVR世界が生み出されている。

 両者の世界の『ザ・シード』によって構成されたVR世界が時空を超えて繋がったとしたら、という考えなら出来るけどな」

「『ザ・シード』によって生まれたVR世界同士が、多元的並行宇宙の境目を破った……っていうのか?」

「世の中に絶対なんてのは数える程しかないさ。絶対というものはない。同時に“絶対”が絶対にないなんてこともない。

 現状に直面している俺達にも確認なんて出来やしないからな」

「なるほど。それもそうかって、うぉ…」

 

キリトが驚いているが、うわぁ……全員ガン見しているな…。

確かに専門用語も出たがそんなに驚くことか?

だが、ファンだけは違う、様子がおかしい。傍目から見れば大した変化はないが、俺から見ればそれは明らかだ。

何かを気にしている、そうか彼女のことか……ゆっくり話した後、一度休ませた方がよさそうだ。

 

「小難しいことはここまでにしておこう。取り敢えず、これからのことを相談したい」

「そうだね、なるべく騒ぎになることは避けたいし」

「解った。といっても、なにを決めたらいいか…」

 

俺とファンの言葉にキリトが頷いて応える、基が同じ存在だからか厄介事は避けたいようだ。

ああ、解るとも。俺も避けたいがトラブルの方からやってくるからどうしようもない。

 

「まずは寝床の確保だな……部屋、余ってないか?」

「同じ家だろ? 余っているから、アスナいいよな?」

「うん、大歓迎だよ」

 

俺達の家は余っている部屋があるがここはどうかと思ったが、同じく空いているようだ。

ベッドも2つあるから寝床と拠点は確保できた、有り難いな。

 

「外に出る時には俺はキリトと、ファンはアスナと、それにもう1人以上は常に共に行動したほうがいいな。

 俺とキリトは見分けがつくが、念のために俺の装備は変えておく。

 ファンはウィッグアイテムで髪型を、装備類も変えて出ることにしよう」

「それじゃあ髪型は三つ編みタイプにするね。装備は外出時にでも変えるよ」

「そっか、俺同士とアスナ同士が一緒に居ればアバターのそっくりさんで話しも通るな」

「私も少し楽しみになってきたかな」

 

俺の提案を即座に理解するファン。キリトとアスナも理解の早いことで。

その他にも誰に話してよいかということになり、アルゴやサクヤ、アリシャ・ルーにユージーン、

スリーピング・ナイツの面々などはここを訪れることが多いので訪問してきたら話すことになるということにした。

他にも細々としたことを話し、一区切りがついた。

 

「じゃあ、一応ここまでにしておこう。すまないな、折角の休日に騒ぎを起こしてしまって」

「気にしないでくれよ。困った時はお互い様だ」

「そう言ってくれると助かる。みんなもありがとう」

 

世界は違っても基が同じ人間の仲間だから少しでも気が休まる。

 

「俺とファンは少し休ませてもらうから、俺達のことは気にしないでくれ。部屋、案内してもらえるか?」

「ああ、こっちだ」

 

ファンを連れ添ってキリトの案内を受け、空いている部屋で休むことにした。

先にファンが入ったあと、キリトが去り際に俺に言葉を掛けた。

 

「誰も行かないようにするから、彼女のことしっかりな?」

「気を遣わせたな。重ね重ね礼を言う、ありがとう」

「おう。じゃあなにかあったら言ってくれ」

 

キリトはリビングに戻り、俺も部屋に入った。

 

 

 

 

「アスナ、みんなと出掛けてきていいぞ。ユイもな」

「え、でもキリト君は…」

「俺は家でゆっくりしておくよ、それにあの2人が居る間は誰か居た方がいいし。

 エギル、クライン。2人もよかったらアスナ達と行けばいいし、他にしたいことがあるならそっちに行ってくれてもいいから」

「そりゃあいいけどよぉ……いや、解った」

「俺達も付いていくから、みんなのことは任せな」

「ありがとな。ほら、アスナ。時間があるうちに行ってこいよ」

「う、うん。それじゃあ、お言葉に甘えるね。みんな、行こうか」

「はいはい。んじゃあキリト、留守番頑張りなさいよ」

「キリトさん、行ってきますね」

「行ってくるね、お兄ちゃん」

「ま、お土産くらいは用意してあげるわ」

「ブラッキーもくればいいのに…」

「パパ。わたしがみなさんをしっかりナビしてきます!」

「気を付けてな~………行ったか。さて、俺も外の揺り椅子で休むかな」

 

 

 

家の中から気配が消えた、キリトが気を遣ってみんなに出掛けるように促したか。

やはり中々鋭いな、ファンの…いや、アスナの変化にも少しだが気付いたようだし。

さて、それじゃあお言葉に甘えておくとするか。ベッドに座り込んでいるアスナの隣に座り、彼女の肩に手をおいて抱き寄せる。

 

「聞かないの?」

「なにを?って言ったら意地が悪いよな。俺が聞けばアスナは答えるだろうけど無理矢理聞くべきじゃないと思うからさ。

 でも、俺がアスナに甘えたい時の為にも、アスナにも俺に甘えて欲しいんだ」

「もぅ、本当にずるいよね、キリトくんは…」

 

ようやく、取り繕っていた仮面を崩して弱弱しい表情を見せてくれる。

その分、無理な笑顔ではなく、儚げな微笑が自然に浮かんでいるからマシな方だろう。

 

「その分、俺のキミへの愛は狂っているけどな」

「それはお互い様だよ。わたしだって、十分に狂っているもの」

 

そう、俺達の互いへの愛情は狂っている。

ユイにスグと両親に向ける家族愛、仲間や友人達に向ける親愛、それらとは違う狂気にも愛情だ。

どちらかが欠ければ、残ったどちらか崩壊しかねない依存の愛。

だがそれがどうした、それが俺達の愛だ、何者にも邪魔はさせない、文句も言わせない、俺達が納得しているのだからそれでいい。

 

「聞いてくれる…?」

「勿論、長くてもどんなことでも聞くよ」

 

抱え込むよりも甘えて話してほしい、俺にとって彼女が甘えてくれることはなによりも嬉しいことだからな。

そして、アスナはポツポツと話しだした。

 

「ここに来て目が覚めたらキリトくんが居なくて、不安だった。

 SAOの時は1人なんていつものことだから全然大丈夫だったのに、キリトくん達と出会って1人は駄目になっちゃった。

 1人は怖いの…」

「大丈夫、ちゃんとここに居るから」

「キミじゃないと駄目なの。同じ姿じゃ駄目、わたしの愛する人は貴方だけなの…」

「うん、ありがとう。俺が愛しているのもキミというアスナだけだ」

「ねぇ、ユウキが居るの。死んじゃったのに、ユウキが居るの。夢じゃないよね? あの娘はちゃんと生きているよね?」

「あぁ、生きている。だけどな、アスナ。あの娘は俺達の知るユウキじゃない、別のユウキだ。

 それだけははき違えちゃいけない、それにあの娘もきっと長くはない。

 そのことを知っているから、この世界のアスナはあの娘との時間を大切にしている」

「わたし、またユウキが居なくなるところを見ないといけないの? そんなの、嫌…」

「それを決めるのはその時がきたらでいいさ。

 辛ければ見なければいい、辛くても向き合う覚悟があるのなら、立ち合えばいい」

「ログアウトも、できないよ……ちゃんと、わたし達の世界に、帰れるよね…?」

「根拠は無いが帰れるよ。俺の勘がそういっている、それじゃあ不安か?」

「キリトくんの勘なら、安心…」

 

全てじゃないがそれでも不安を吐き出したからか落ち着いた様子のアスナ。

話していた時は涙も流していたが、いまはそれも止まって優しい笑みが浮かんでいる。

ただ、安心したからなのか少し眠たそうだ。昼食後にダイブをしてこの事態になり、現在までそれなりの時間が経ったのだ。

 

「アスナ、少し眠ろう。昼寝には持ってこいの時間だしな」

「ふふ、キリトくんはいつも通りだね」

「俺だって不安さ。でも、アスナがいるし、俺は自分の勘を信じるさ。ユイやみんなの元に帰れるってな」

「うん。そうだよね」

 

1つのベッドに2人で横になり、俺がアスナに腕枕をして彼女は抱きついてくる。

この温かさのお陰で俺達はすぐに眠気に誘われ、微睡に落ちていった。

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

この並行世界移動もの、予想外に長くなって前後編にわけることにしました。

 

しかも前編はシリアス展開という、まぁ自分としてはこうなるんじゃないかなと思いましてね。

 

魔法ものとか異世界移動可能ものとは違いどうなるかもわからない世界移動となれば不安になるのは当たり前かと思います。

 

特にキリトとアスナはSAOでログアウト不可能になったり、UWを経験したりしています。

 

それもあってアスナの不安が大きくなるのは強ち間違いじゃないと思っているのです。

 

アスナの変化だからこそ原作キリトもなんとなく気が付いて、原作アスナもそれとなく感じてはいますよ。

 

それとウチのキリトと原作キリトの見分けは喋り方や雰囲気である程度は判断できると思いますが、

アスナは解り難いと思うので簡単に説明しますとウチのアスナの一人称は「わたし」、原作が「私」、

そしてウチのアスナは原作アスナよりもかなり素直で甘え癖も出ますので幼げな感じがあります。

 

そしてこの世界は「原作に限りなく近く黒戦にも遠からずな世界」になりますので、

一部は黒戦設定を適用されていますのでそこのところご理解ください…。

 

以上を参考にして読んでいただければ判別がつくと思います。

 

続きは完成次第投稿します、明るい部分も組み込みたいですができるかな~と不安です(苦笑)

 

ただウチのキリトと原作キリト、ウチのアスナと原作女性陣の会話、それに覇王様と覇王妃様による原作陣とのバトル、

などなどを組み込んでいこうと思っていますがコメディ感とか明るめも出したいですね。

 

それでは続きはまた今度・・・。

 

 

 

 


 
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