No.786372

真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第七十六話


 お待たせしました!

 今回で一応最後の拠点です。

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2015-06-28 17:51:41 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:5042   閲覧ユーザー数:3731

「そやつらは斬首じゃな」

 

「斬首ですね」

 

「それでは早速にその者達への捕縛並びに刑の執行を執り行う為に兵を派遣しましょう。千人

 

 もいれば十分でしょうか?」

 

「千では手ぬるい、八千じゃな」

 

「さすがに八千は多いかもしれませんが五千は必要でしょう。刑の執行を滞りなく行うのに二

 

 千、それを邪魔されない為の人員として三千という所でしょう」

 

「ならばそれで…『やめーーーーーーいっ!』…何じゃ、一刀?何か文句でもあるのか?これ

 

 はお主の為でもあるのじゃぞ?」

 

「たとえそうでもいきなり処刑だの斬首だのって物騒過ぎるだろうが!」

 

 ちなみに此処にいる俺以外の面々は命・夢・月の三人であり、台詞の順番は命→夢→月→命→

 

 夢→命→俺なのだが…何故このような物騒な話になっているのかというと、話はちょっと前

 

 に遡る。

 

 ・・・・・・・

 

「天の御遣いじゃと?」

 

「はい、最近徐州にそのようなに名乗る者が現れてそれを支持する者達が徐々に増えていると

 

 いう話です」

 

「その話については昨日俺も及川から聞いた。何でも『手にのせた卵をそっと握っただけで雛

 

 が孵った』とか『海の上を歩いた』とか…」

 

「天の国では皆そんな事が出来るのですか?」

 

「まさか。そういう風に見せかける手品なら見た事はあるけど」

 

 

 

「何じゃ、手品師か。ならば別に放っておいても…『そういうわけにもいかないんです』…他

 

 にまだ何かあるのか?」

 

「どうやらその者は『自分こそが本当の天の御遣いであり、洛陽にいる御遣いと名乗る者は偽

 

 物である』と吹聴しているらしいのです」

 

 その報告を聞いた瞬間、命達の顔色が一変する。

 

「ほぅ…そやつは随分と自分の命が惜しくないと見えるな」

 

「まったくです。今まで何もしなかったくせにこれまで漢の為に努力してくれた一刀の事を偽

 

 物呼ばわりとは…」

 

「この際そういう者に対して温情だの慈悲だのと言っている場合では無いと相国として具申い

 

 たします」

 

 その結果、冒頭の斬首発言に繋がるわけなのだが…。

 

 ・・・・・・・

 

「一刀、これはもはやあなたがどう思うとかいう話では済まされないのです。確かに私達はあ

 

 なたが『天の御遣い』であり、漢はその加護を受けているのだという噂を利用した部分はあ

 

 ります。しかし、あなたはその名前だけに頼る事無く自分の力でこれだけの結果を残してき

 

 た事を洛陽だけでなく多くの諸侯や民が知っています。それを偽物だとか言い出す愚か者に

 

 対して穏便に済ますなど、漢の政を司る者の一人として容認出来る物ではありません」

 

「一刀さん、それについては私も夢様と同意見です。全てを恐怖と力で粛正するつもりもあり

 

 ませんが、これをこのまま放っておいては政への綻びになる可能性も否定出来ませんので」

 

 夢と月のその言葉に命も頷いていた。

 

 

 

「しかし即処刑というのは…」

 

「こういうのは『悪・即・斬』なのでは無いのか?天の国ではそういう裁きがあると及川が言

 

 っておったぞ?」

 

「なるほど…及川殿もたまには良い事を教えてくれますね」

 

「ならば今こそ『悪・即・斬』ですね」

 

 及川…だからそういう事を教えるなって言ったのに。眼の前にいる三人はもう完全にそうす

 

 る気満々じゃねぇか。そもそも法で統治しようっていう国にとってそれはまさに御法度な話

 

 だと思うのは俺の気のせいだろうか?

 

「ならば一刀はこれをどうしておくのじゃ?まさか放っておけば自然にいなくなるとか思って

 

 おるわけではあるまい?」

 

「まさかそこまでは…でも、まずはもう少し状況をしっかり調べて本当に国に害を成す可能性

 

 があるかを確認してから対処を考えるべきじゃないかと…」

 

「正直言って、かなりまだるっこしいやり方だとは思いますが…法治国家を目指すならばそう

 

 いう事も必要かもしれませんね」

 

「ならば及川さんにもう少し詳しい事を調べてもらう事にしましょう」

 

 ・・・・・・・

 

 そして三日後。

 

「大分やばい状況になってるで」

 

 及川からの報告はその一言から始まったのであった。

 

「やばい状況って?」

 

「その偽の御遣いを支持する奴らの数が思った以上に増えてきている。詳しい所は向こうに潜

 

 入してたもんがもうすぐ戻って来るからそこで聞くとして…ワイが最初に聞いた所で既に数

 

 千人規模になってるらしいで」

 

 

 

「数千じゃと!?しかもその口ぶりではもっと増えるという事なのか!?」

 

 及川の報告に命が驚きの声をあげる。

 

「何でもそいつの予言みたいな言葉が次々と的中しているいう話で、その噂を聞いた連中が次

 

 々にそこに集まっているいう事らしいですわ」

 

 予言ねぇ…本当にそうなら凄いけど、当たり障りの無いような事を言っておいて後で起きた

 

 出来事をあたかもそれだったような言い回しでもしているんじゃなかろうか?

 

 その時、及川の言っていた奴らに潜入していたという部下が戻って来たらしく及川が迎えに

 

 行く。

 

「一刀、お主は今の話どう思う?」

 

「少々不確定要素が多いので断言は出来ないな…今戻って来たっていう及川の部下の報告を聞

 

 いてからで良いんじゃないかな」

 

 ・・・・・・・

 

「それは真の話か!?」

 

「はっ…その御遣いを名乗る者の周りにはかの白装束の集団らしき者達が囲んでおり、その中

 

 で何やら怪しげな術を使うが如き声が聞こえておりました。中まで確認する事は出来ません

 

 でしたが、おそらくあれは何時ぞやの者達の可能性があるのではないかと」

 

 及川の部下は命の問いかけにそう答える(ちなみに及川率いる諜報部隊の面々が報告を行う

 

 際には命への直言が認められている)。

 

 しかし、白装束の集団とは…という事はその御遣いを名乗る者の正体はあの于吉だという事

 

 になる。先の益州での折のダメージから復活したという事なのか?

 

 

 

「一刀、その者が鈴音に危害を及ぼした術者と同じというのならば由々しき事態。すぐにでも

 

 排除…いえ、討伐隊を差し向けなければなりません」

 

 確かに于吉達ならばこのまま静観しているなどという選択肢は無しだな。

 

「分かった。だが此処は俺が行かせてもらう。向こうも天の御遣いを名乗り俺の事を偽物だと

 

 言うのであれば俺がこの眼で確かめる」

 

「…仕方ない。じゃが念の為に兵は五千は連れて行け。これは命令じゃぞ」

 

 こうして俺はその御遣いとやらがいるという徐州へ向かったのであった。

 

 ・・・・・・・

 

 そして数日後。俺は徐州の州都である彭城に入ったのであるが…。

 

「何なのです、この有様は?まるで全てが何かの宗教の為の飾り付けのようになってしまって

 

 いるではないですか!」

 

 輝里が言った通り、街中は完全に何かの神様を祀るかのような飾り付け一色に染まっていた

 

 のであった。

 

「これは予想以上ですねー。少なくとも街全体をこうする事は法で禁止されている以上、この

 

 ままというわけにもいきませんねー」

 

 表面上こそ普通通りではあるが、風の顔にも驚きの色が浮かんでいたりする。

 

「一体此処の州牧は何をしているんだろうね?たんぽぽだったらさすがに此処までなる前に取

 

 り締まるけど…」

 

「まずは城へ向かおう。州牧の陶謙殿に会えば何かしら分かるだろうし」

 

 戸惑いながらも俺達は城へ向かったのだが…。

 

 

 

「どういう事です!衛将軍である北郷様が来られているのです、如何に州牧様とはいえそれを

 

 門前払いなどしたら漢に対する反逆行為以外の何物でもありませんよ!!そもそも、北郷様

 

 が此処に来る事は既に先触れで伝えているはずなのに誰一人出迎えも無いとはどういう事な

 

 のですか!!」

 

「しかし州牧様は今は御遣い様との大事な儀式の最中、終わるまでにはまだ二日はかかるとの

 

 事にて…」

 

 俺達が到着し、州牧の陶謙殿に会おうと取り次ぎを頼むと出て来た役人が御遣いとやらとの

 

 儀式があって会う事が出来ないなどと言いたてるので怒り心頭の沙矢がその役人に詰め寄る

 

 も、役人は同じ台詞を繰り返すばかりで一向に埒が開かない状態になっていたのであった。

 

 しかし一体此処はどうなっているんだろう…一応先触れはしたとはいえ、六千(命は最低で

 

 も五千と言っていたが、輝里が念を入れてさらに一千増やしている)もの軍勢が来たという

 

 のに、街の人も兵達も何の反応も見せないのは不思議どころか怪し過ぎる話だ。普通であれ

 

 ば歓迎するかどうかはともかくも臨検的な事をするはずなのだが、此処に来るまでそういう

 

 事にまったく遭遇していなかったりする。幾ら最近は山賊や盗賊の数が減ったとはいえ、ま

 

 ったくいなくなったわけでは無い以上警備行動は必要なのだが…此処で本当に賊とかが現れ

 

 たらどうするつもりなのだろうか?

 

「ご主人様、どうします?このままではまったく何の進展もありませんし…いっその事」

 

「そう言うって事は、紫苑もやはり何かおかしいと思うか?」

 

「ええ、沙矢さんと相対しているあの役人の眼は到底まともな人の物とは思えません」

 

 確かに紫苑の言う通りあの役人の眼は普通じゃない…どう見ても何かしらの薬でもやってい

 

 るか怪しげな術に操られているか洗脳でもされているかのようにしか見えない…ならば。

 

 

 

「俺が責任を取る!全軍此処を突破せよ!!」

 

 俺のその命令に一瞬皆が驚きの表情を見せるものの、すぐさま戦闘態勢を整えると一気に城

 

 内になだれこむ。応対していた役人は止めようとしたが、沙矢が槍の柄で殴るとそのまま昏

 

 倒していた。

 

 俺達の突然の行動に城内の兵士や役人達も戸惑いながらも道を塞ごうとするが、俺達はそれ

 

 を一気に制圧して城内の一番奥にある陶謙殿の部屋へとなだれこむ。

 

「うっ、何ですか、この臭いは…」

 

 一番最初に部屋に入った沙矢はその中に漂う異様な臭いに顔をしかめる。そしてその中に眼

 

 を向けると、怪しげな白装束を着た人間の中に囲まれた中にいる一人黒いローブの様な物を

 

 纏った男が中央に横たわる人の頭を何やらペシペシと叩いている光景があったでのある。

 

「何事だ!今は御遣い様が陶謙様へ天の神の御加護を授ける大事な儀式の最中であるぞ!早急

 

 に立ち去らねば天罰が下るぞ!!」

 

 そして白装束の中の一人が俺達の姿を見て詰め寄ってくる…あれ?普通に人だよな、これ。

 

「俺の名は北郷一刀、皇帝陛下の命により陶謙殿へ問い質す儀これ有り!そっちこそそこを開

 

 けてもらおう!!」

 

 俺がそう言った途端に白装束の集団の全てに動揺が走る…やはり人間だ。本当にあの于吉の

 

 傀儡ならばそんな反応はしない。

 

 ならばと俺は一気に中を制圧しようとしたその時、外の方から何やら喧噪のような音が聞こ

 

 えてくる。

 

「申し上げます!御遣いの支持者と思われる一団が攻撃を仕掛けて来ております!!」

 

 ほぅ…俺達が城に入るまでまったく何も無かったので何処へ行っていたかと思ったが、此処

 

 に来て集結してきたか。だが、それは既に想定済だ…輝里がだけど。

 

 

 

 その頃、城の外にて。

 

「御遣い様を守れ!!」

 

「洛陽から来た偽物を駆逐しろ!!」

 

 御遣いの支持者らしき一団がそう叫びながら一刀達が占拠する城内になだれこもうとしてい

 

 た。その数は二千近くにまで達しており、先頭では一刀側の兵ともみ合いにまでなっている。

 

 その数の多さに後方の指揮を担当している蒲公英と風も困惑を隠せない。

 

「どうする、風?…向こうの武装は精々棒とか包丁位だし追い払えるとは思うけど」

 

「しかしそうすると間違いなく向こうに死人が出るでしょうし、それではお兄さんの意に反す

 

 る事になりかねません」

 

「そうだよね~、お兄様ったら『基本的に民達には手を出すな。おそらくほとんどはそういう

 

 方向に操られているだけのはずだから』とか言うし…面倒だけど仕方ないか。皆、陣形を崩

 

 さないで!!あの人達を中に入れないようにだけして!!」

 

 蒲公英達の指揮の下、兵ががっちりスクラムを組んで群衆を中に入れさせないようにする。

 

「しかしこれだけでは時間稼ぎにしかなりません。何かしらの手を考えておかないと…おや?」

 

 その時、風は遠くからやってくる軍勢らしき物を眼にする。

 

「あれは…『孫』!あの旗は蓮華さんのですねー。成程、既に援軍は要請済だったという事で

 

 すねー」

 

 ・・・・・・・

 

「蓮華様!」

 

「私にも見えたわ。あれが輝里の言っていた連中ね…思春、明命!二人はあの群衆を扇動して

 

 いると思われる者を黙らせて!」

 

「お任せを」

 

「御意!」

 

「亞莎は他の民衆が騒ぎ出さないように兵を展開させて鎮撫に努めて!」

 

「はい!」

 

 蓮華の命を受けた思春と明命が指揮系統から扇動していると思われる者達を正確に昏倒させ、

 

 亞莎の指揮により展開した兵達によって他の民衆の鎮撫も行われた結果、外側の騒ぎは程無

 

 くして収まったのであった。

 

 

 

「一刀さん、外の方はもう大丈夫のようです」

 

「ありがとう。さすがは我が軍師だね」

 

「き、恐縮です」

 

「さて…とりあえず大人しくしてもらって良いかな?このまま抵抗していても無駄だという事

 

 位分かっているよね?」

 

 俺がそう問いかけると中にいる御遣いの支持者達は一斉に押し黙る。しかし…。

 

「黙れ、偽物の分際でこの正統なる天の御遣いたるこの曹豹に指図する事こそ傲岸不遜な振舞

 

 いであるぞ!!」

 

「そうだ、御遣い様の言う通りだ!」

 

「偽物のお前こそ此処から出て行け!」

 

 さっきまで一生懸命中で横たわる人の頭を叩いていた御遣いの人が出て来てそうふんぞり返

 

 りながらそう言うと周りの支持者達も一斉に騒ぎ出す。やれやれ…こいつらだけは武力で排

 

 除するしか無いのか?そう思っていたその時…。

 

「北郷様に申し上げます!ただ今劉協殿下がご到着されました!!」

 

「えっ…夢が?」

 

 ・・・・・・・

 

 俺が城門の所まで来ると恋とねねと真桜を従えて夢が皇族専用の輿に乗ってやってくる所で

 

 あった。

 

「夢、どうして君が?」

 

「念の為です。しかしどうやらそれが正解だったようですね」

 

 そう言っている夢の眼は遥か後方でその姿を見つめる曹豹の姿を捉えていた。

 

 夢の登場で曹豹達も戦意を失い、拘束されたのであった。

 

 

 

「お前が御遣いを名乗る者ですね?何故そのような暴挙をしたのです?」

 

 夢が曹豹にそう問いかけるが曹豹はまったく返答をしない。

 

「どうしました?私は答えなさいと言っているのです」

 

 夢がさらにそう問いかけるがまったく返答をしないままで平伏している…もしかして?

 

「曹豹、殿下は直言を許すとの仰せです」

 

「はっ、ならば…私は正統なる天の御遣いとして『おかしい話ですね』…はっ?」

 

「お前は今一刀が『直言を許す』と言った一言で私に対しての言葉を発していましたが、本当

 

 に天の御遣いならば皇族たるこの身に対して話しかける事など躊躇する必要も無いはずです。

 

 何故ならば天の国からの御遣いとなればそれは皇帝や皇族とも同等もしくはそれ以上の権威

 

 を持つ者であるからです。それがまるで普通の者と同じような手順を以て言葉を発するなど

 

 自ら御遣いなどでは無いと言っているような物ではないのですか?少なくともこの北郷一刀

 

 は私が皇族であろうとも関係なく普通に話しをしてきていますよ」

 

 いや、俺の場合は最初の内は夢が皇族だって知らなかっただけなんだけど…とか言える雰囲

 

 気ではないな、これは。

 

 曹豹の方へ眼をやると夢の言葉に完全に反論する機会を失ったまま顔を青ざめさせている。

 

 そしてそれは後ろで見ていた曹豹の取り巻き達も同じであった。やはりこの国の人間にとっ

 

 て皇帝とか皇族とかいうのはまさに神ともいうべき立場にいるという事のようだ。

 

「さて、これ以上何も出ないようであるならばこの度の一件はこれで終わりという事でよろし

 

 いですね?」

 

 夢のその一言は今回の騒ぎを収束させる一言にもなったのであった。 

 

 

 

 そして二日後。

 

 彭城の街はあんな事があった事が嘘のように元通りに戻っていた。やはり曹豹の予言とやら

 

 が嘘で固められた物であった事が発覚した事が大きかったようだ。

 

 民達も曹豹の正体が分かるや憑き物が落ちたかのように普通の生活に戻っていったのであっ

 

 たが…さすがに偽物の御遣いの言葉を信じて俺の事を偽物呼ばわりしてしまった事に一様に

 

 罪の意識を感じているようで、民の代表を名乗る人物が俺の所に来て『どうか私の首一つで

 

 皆の罪を許してください』とか『これで何卒お許しを』と多額で金銀財宝を持ってきたりと

 

 かいう事が連続してさすがに対応に疲れたのであった。ちなみに民達の罪については『今回

 

 に限り不問、但し二度とあのような輩に騙される事の無きように』という夢からのお達しに

 

 よって一応解決していたりする。それでも同じような人達がやってくるので断るのに苦労し

 

 たのであったが。

 

 しかしそれだけでは終わらない話も存在はしているのである。

 

 ・・・・・・・

 

「では、あの部屋に横たわっていたのはやはり陶謙だったのですね?」

 

「はい、ですが既にお亡くなりになって久しく…華佗殿が見た所、おそらく死亡から一月以上

 

 は経っているとの事でした」

 

 夢は輝里からの報告を聞いていた。

 

 それから推測するに、どうやら陶謙殿が病で倒れたのが原因で混乱が起きてそこを曹豹に付

 

 け込まれたという所なのだろう。

 

「だったら曹豹は何故陶謙殿の遺体の頭をただひたすらに叩いていたのです?」

 

「それは私にもさっぱり…『そうすれば陶謙はんの病が回復するって触れ込みで曹豹は潜り込

 

 んで来たらしいです』…そうなのですか、及川殿?」

 

 

 

「はい、何でも天の国にはそういう治療方法があると…これを行えば特に脳の病気に効くいう

 

 話で。逃亡していた曹豹の支持者の一人を捕まえたらそないな事を言ってましたわ」

 

「何とも珍妙な話ですね、それ」

 

「ついでに曹豹の事も分かりましたで。どうやらそもそも十年以上は前に陶謙はんに武将とし

 

 て仕えてはったらしいですわ。でもまったく何の役にも立たんかったらしくて解雇されてた

 

 いう話で…今回潜り込めたのも陶謙はんが病で人事不省状態に陥っていたからみたいです」

 

 それはそれは…そういえば曹豹って三国志でも一応陶謙の配下だったよな。確かコー○ーの

 

 ゲームじゃ大分不遇なキャラだったはず…此処でも大した奴じゃなかったという事か。

 

「ありがとう及川、何時もながらさすがの手際だな」

 

「ふふん、褒めても何も出ぇへんで…それはそうとどうやら他にも何や怪しい奴らの目撃情報

 

 があったらしいんで、ワイはちょっとそっちを調べてみるわ」

 

「よろしく頼む…無理はするなよ、やばいと思ったらすぐに逃げるんだぞ」

 

「分かっとるって、ワイはかずピーと違って腕の覚えなんかほとんどあらへんしな」

 

 及川はそう言って手をひらひらさせながら出て行った。

 

「さて…これでとりあえずは一件落着ですね。とりあえずは姉様に事の顛末を伝えて陶謙の後

 

 任が決まるまでの代理の執政官を派遣してもらわなければなりません。曹豹とその正体を知

 

 りながら偽の御遣いとして祭り上げた支持者の主だった者達の処刑も速やかに行わなければ

 

 なりませんし…しばらくはこっちにいる事になりそうですね」

 

 やれやれ…どうやら洛陽に戻るのはもうしばらく先の話か。

 

 そして後日命より正式な通達があり、徐州は夢に与えられる事となり王允さんがその補佐を

 

 務める事となったのであった。

 

 これで全て一件落着…皆がそう思っていたのであったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…後何人残ってる?」

 

「私も含めて八人です」

 

「それじゃ奴らにやられたんが二十二人って事かいな…まさかワイらが此処までしくじるなん

 

 て計算外や。こないな事になるんやったらもっと連れてくるんやった」

 

 そう言って歯噛みしていたのは及川である。及川は怪しい人物の目撃情報が寄せられた場所

 

 の調査に入っていたのだが、そこに突如現れた白装束によって散り散りにさせられ、もしも

 

 の時の集合場所にしていた所に戻って来たのがそれだけの人数だったのであった。

 

「ほぅ、于吉が言っていた場所に来てみれば…確かお前は北郷一刀の仲間だったな。丁度良い、

 

 お前らには俺達の新たなる行動の為の生贄になってもらうぞ!」

 

 そこに現れた男…左慈はそう言って唇の端を上げていたのであった。

 

 

                                        続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回は一応最後の拠点という事で…御遣いの偽物退治の話でした。

 

 本当はもうちょっと違う話にするはずだったのですが…何か相手が

 

 最初に思っていた以上に小物になってしまいました。

 

 色々とおかしい部分もあるでしょうが、此処はご容赦の程を。

 

 そして…最後には次に繋がる話として左慈の再登場です。

 

 果たして左慈達の新たなる行動とは?及川達は無事に切り抜ける事

 

 が出来るのか?とりあえずは次回以降にてお送りします。

 

 

 それでは次回、第七十七話にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 一応、曹豹と左慈達は無関係です。もしかしたら于吉辺りが

 

    多少は利用した可能性は否定出来ませんが。ちなみに曹豹は

 

    二日後に処刑されてますので。

 

 

 

 


 
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