No.772448

『舞い踊る季節の中で』 第169話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 未だ数の上では圧倒的に差があるも、既に勝敗は決した事を見抜いた郭嘉は、敵軍の将に問う。主なき今、それでも数を頼りに戦い続けるのかを。

拙い文ですが、面白いと思ってくれた方、一言でもコメントをいただけたら僥倖です。

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2015-04-20 19:47:07 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:4171   閲覧ユーザー数:3496

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-

   第百陸拾玖(169)話 ~ 金木犀が舞いし宴に華は咲き乱れん ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊、セリフ間違い、設定の違い、誤字脱字があると思いますが温かい目で読んで下さると助かります。

 この話の一刀はチート性能です。オリキャラがあります。どうぞよろしくお願いします。

 

 

【北郷一刀】

  姓:北郷

  名:一刀

  字:なし

 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

 

 武器:鉄扇("虚空"、"無風"と文字が描かれている) & 普通の扇

   :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(現在予備の糸を僅かに残して破損)

 

 習 :家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、

   :意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

 得 :気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

   :食医、初級医術

 技 :神の手のマッサージ(若い女性は危険)

   :メイクアップアーティスト並みの化粧技術

 術 :(今後順次公開)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳(曹操)視点:

 

 

 

「それはいったい、なんのつもりかしら?」

 

 

 

 数ヶ月ぶりの帰ってきた玉座の間に、私の冷たい声が静かに染み渡って行くのが分かる。

 衣擦れの音さえ立てぬように息さえも殺しているのは、おそらく私の怒りの矛先が向かないようにしているのでしょうね。

 冷たい大理石が敷かれた玉座の間、その中央で私の問いに答える事もせず、跪き、ひたすら私の言葉を待っている人物に私はもう一度問いかける。

 

「答えなさい荀文若。

 それは、いったいなんのつもり?」

 

 厚い布で目を覆い隠し。

 両手を後ろ手で縛り上げ。

 両足さえも短い鎖で繋がせ。

 罪人の如く両膝を地面に付け。

 頸を前へと差し出している荀彧に対して。

 

「………」

 

 それでも帰ってきたのは沈黙の答え。

 普段の桂花ならば考えられない態度。

 ……でも仕方ないわね。

 

「幻滅したわ」

 

 貴女に対して。

 なにより私に対して。

 

「それが貴女の責任の取り方という訳ならば、貴女にもう用はないわ。

 何処となりと行くといい。そのような者など処断する価値さえもないわ」

「っ!」

 

 私の言葉に彼女は身体を大きく震わせ、黙って、自分の望む(・・・・)ような言葉を待っていた桂花は、この場で始めて首を上げて厚い目隠し越しに私の顔を見る。その顔に驚きと恐怖が浮かんでいるのは、顔が半分以上目隠しで覆われていようとも私には読み取れることが出来るわ。

 貴女にとって、私に無価値と判断される。それが最大の恐怖でしょうからね。

 ……でも、やっとこれで話が出来るわ。

 

「荀文若。 此度の戦で、予想を大きく上回る多くの将兵が傷つき、そして死んでいった。

 その全ての責が貴女にあると思っているのならば、それはとんだ考え違いよ。

 全ての責任は、王である私のもの。貴女程度の命で容易く取れるものではないわ」

「ですが」

「お黙りなさい!」

 

 やっと言葉を発しようとした桂花を今度は私が黙らせる。

 まったく、話しなさいと言ったり黙れと言ったり、私はいったい何をしたいのかしらね。

 それもこれも、全て私に責任があるわ。

 いい加減こんな茶番を終わらせてしまいましょう。

 

「春蘭、秋蘭」

「「はっ」」

 

 言葉を投げかけると共に、二人の姉妹は即座に私の意図通りに動く。

 ほんの数歩の距離とはいえ、姉である春蘭は一瞬にして彼女の元へと詰め寄り。

 妹である秋蘭は一歩も動くことなく、春蘭が桂花に詰め寄った時には既に矢を番い終え…。

 まるで最初からそう示し合わせていたかのように、二人の剣と矢は彼女へと襲いかかる。

 

ふつっ!

ぎんっ!

「…ぁ」

 

 

 春蘭の分厚い盾と鎧ごと敵を両断する剛剣が、後ろ手に縛っていた紐と両足の鎖を…。

 どんなに人の壁や盾と鎧に身を守られていようと、風を切り裂きながらその命を射貫く秋蘭の矢が、目を覆い隠していた布の結び目を…。

 薄皮一枚、髪の毛一本。彼女の美しさを汚すことなく、その身から払い落としてみせる。

 ……さすがね。私も腕を上げた自信はあるけど、私ではこうはいかないわ。

 

「やっと、顔が見れたわね桂花。

 一応忠告しておいてあげるけど、王を前に覚悟を決めていたつもりなら、斬られると思った瞬間に目を瞑るものではないわ。

 死を持って何かを伝えようと…、恨みを持って死に逝こうと…、その意志を伝えるべき目を瞑っては、伝えるべきものも伝えれなくなる。

 貴女も私、曹孟徳の配下である誇りを持つならば、最期の時までその目を見開いていなさい。

 それがどんな意志であれ、私は己が力にしてみせる」

 

 語りかけるべきは桂花だけではなく、この場にいる全ての臣下に対して。

 どんな形であろうとも、私は受け入れてみせると、臣下に示してみせる。

 目をきつく瞑っていた桂花は、私の言葉にやっと自分の置かれた状況に気がつく。

 

「それと、貴女が今そうして私の顔を拝んでいられること、それが私の答えよ。

 二人に桂花に責任があると思っていたのなら、貴女は私の顔を拝むことなく命を絶たれていたはず。

 まだ不満だというのならば、もう一度先程の言葉を言うだけの事よ」

 

 此処までしてあげて分からないのならば本当に用はないわ。残念だけど見限るだけのこと。

 ……もっとも、そうはならない自信があるからこそ、此処までしたのだけどね。

 桂花が求めていたのは、それ相応の処罰。全ては自分に責があると周りに思わせるために。

 むろん、その処罰には桂花が身体で示して見せたように、その命でもって購う覚悟もしていたでしょう。

 それほど、今度の戦は多くの将兵を失い。膨大な戦費に国を疲弊させ、民に負担を強いることになり、桂花をも追い込んだと言えるわ。

 だからこそ、私は王としてその責を桂花に果たさねばいけない。

 

「荀文若、此の地で私の代役を務め、更には敵軍の動向を把握して見せたこと大義であった。

 それと圧倒的な兵力を誇る袁紹軍に対して苦戦し、後退を強いられ続ける我が軍に対しての、激励の文(・・・・)、感謝する」

 

 最初に見た時は目を疑ったわ。

 私を試すことはあっても、一度たりともあんな言葉を私に発したことの無かった桂花が、あんな内容の手紙を送り返してきたことに。

 でもすぐに気がついた。貴女の想い、そして貴女が私に見ている王の姿をね。

 まったく、臣下にそんなことを言わせるだなんて、まだまだ王として失格ね。

 

「……でも、私の気分を害した処罰は必要ね。

 荀文若、明日より半月の間、登城を禁じる。

 この際に、身体をしっかりと休めなさい」

 

 帰りの道中、諸葛誕……琴里からの報告の文を見るまでもなく、桂花の顔にはまだ疲労の影が残っているわ。

 例え厚い化粧で誤魔化そうと誤魔化し切れていないし、厚化粧すること自体が不自然よ。

 今回のことと言い、そんな手段しか思い浮かばない状態では、安心して政務を任せられないわ。

 むろん、疲労というのならば、私や他の将達も負けてはいないけど、今の桂花の状態よりはマシだと言える。

 

「それと、その半月の間にしっかりと覚悟を決めておきなさい。

 この私、曹孟徳が大陸の(あるじ)となる瞬間を、私の横で見ることのね」

「…ぁ。……か、華琳様」

 

 桂花の見せる顔に、やっと許昌の街に戻ってきた実感が湧く。

 その整った顔を流す涙でぐしゃぐしゃに崩しながら、それでも喜びの笑みを浮かべる姿に。

 ふふっ、桂花、やっぱり貴女はそうやって泣いている姿が一番可愛いわね。ぞくぞくするわ。

 本当は、今夜にでも寝台の上で、その可愛い顔を涙と歓喜で崩してあげたい。

 許しを乞い、指一つ動かせなくなるくらいクタクタになるまでにね。

 でも、それもこれも元気な身体でいてこそよ。

 それに、あまりその可愛い姿を、みんなに見せたくはないわ。

 流石にこれは、一人や二人に敢えて見せることで桂花の恥ずかしがる姿を見るのとは違うもの。

 

「誰か桂花を下がらせなさい」

 

 張っていた気が抜けたのか、安心したのか、ふらつく桂花の身体を女官が支えながら退室させて行く。

 

「風、琴里、疲れているところ悪いけど、まだまだ頑張って貰うわよ」

「はいはいなのですよ」

「人使いが荒いだなんて、すこしも思ってないぜ」

「もっちろん。ボクはまだまだいけるもの」

 

 

 二人の快諾の言葉に、私は心地よく小さく頷く。 二人には桂花はおろか、稟が抜けた穴を埋めて貰わねばならないもの。

 河北の収めていた麗羽の領地……、いいえ袁家のくだらない老人達を抑え掌握するために、稟や華憐達は未だに北進し続けている。

 稟は自分の言葉の責任は結果でもって返すと言っていたけど、私としては少しも気にしていない。

むしろ、私が見初めただけのことはある娘だと、稟の成長を心の中で喜んだぐらいよ。

 

「皆、ご苦労だったわ。

 今日は身体を休め、明日以降に向けて鋭気を養えて頂戴」

 

 ……でも、喜んでばかりもいられない。

 通常の政務に加えて、戦中に滞っていた政務に戦後の処理。

 稟達を助けるため、河北へ送る文官や部隊の選定。

 やるべきことは、いくらでもあるわ。

 なにより……。

 

「次は西よ。

 それで大陸の半分は我が手中に入るわ」

 

 歓声が聞こえる。

 辛い戦を終え、心身ともに疲労が溜まっているというのに……。

 心の奥底から湧きあがる衝動を抑えられないと言わんばかりに……。

 

 

 

 

 

 

 ふふっ、馬騰。 待っていて頂戴。

 大陸中に知らぬ者はないと言われた貴女の勇猛さ。

 必ず手に入れてみせるわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋蘭(夏侯淵)視点

 

 

「……ふぅ」

 

 我等の街に戻ってきて数日、思わず漏れ出た吐息に我ながら疲れが溜まっていることを自覚する。

 戦の最中や行軍の間は気を張っているため、さして気にもしなかったが、こうして束の間の平和を手に入れ、政務の合間に外の空気を吸いに来ると、その事を意識せざる得ない。……が。

 

「らっしゃい、らっしゃい」

()かしたての(ちまき)だよ」

 

 民の喧噪が……。 今を一生懸命生きている表情が……。 なにより、よりよい明日があると信じて生きている姿が……。 そんなことを忘れさせてくれる。

 まだまだ不作に税に野党の三重苦に泣いている大人や、飢えと病気に打ち捨てられて行く子供の亡骸が多いのも事実だが、それでも一時に比べればその数は減っていると感じる事が出来る。

 敵だけではなく多くの仲間の血と魂で汚れたこの手だが、それが無駄ではなく彼等の今と明日を担っているのだと信じさせてくれる。

 

「其処は考え違いよ。

 いい、確かに自分達の生活のためには、利を追求する事は必要なことよ。でもね、世の中は一方へと流れているわけではなく循環。巡り巡って自分に返ってくるの。良い行いも、悪い行いもね。例えば……」

 

 そこに何処かで聞き覚えのある良く通る声が、私の耳が捉える。

 騒がしい子供達の声が混じる中、丁寧に言い聞かせるように話して聞かせる声の主に向けて足を向けてゆくと。

 

「と言うわけで、良い行いは自分にも、そして我等が王である曹孟徳様のためにもなるのよ」

 

 開け放たれた窓から覗く彼女らしい言葉に、思わず苦笑が零れる。

 おそらく借家か、誰かの物を好意で間借りているのだろう、決して大きいとは言えない部屋に子供達を集めて何をしているかと思えば、街の子供達を相手に私塾を開いているようだ。

 そんな私に気がついたのだろう。桂花は照れくさいところを見られたのか、顔を紅くしてばつが悪そうに此方を睨み付けてくる。

 

「確か、今は華琳様に静養を命じられていたはずだが」

「登城と政務を禁じられただけよ。

 だいたい病気でもないのに一日中寝ていたりしていたら本当に病気になるわ。

 だからこうして身体と頭が鈍らないようにしているだけの事」

 

 よっぽど自ら子供達の相手をしている所を私に見られたのが恥ずかしいのか、桂花は仕方ないからしているだけと言ってはいるが、子供達の顔を見れば、それが本当なのか嘘なのかはすぐに分かる。 少なくとも慕われていない人間に対して、こうして私と話している間にも、質問をしたくて仕方ないといった顔をしたりはしないものだ。

 

「確かに、私が口出すべき事ではないようだな」

 

 事実、桂花が登城を禁じられてから八日。桂花の顔色はあの時より大分良くなっている。

 桂花の欠点というか弱点は、大陸中をその足で見て廻った稟や風に比べて体力がないこと。

 無論、並の文官より体力はあるし、軍師として行軍にも参加する以上、人並みにはあるようにも見えるだろうが、それは気力で補っているだけに過ぎない。今回も琴里の機転がなければどうなっていたことか。

 なんにしろ休める時には休んでおくべきだが、桂花の言うとおり静養は身体を休ませればよいと言うものでもないのだろう。

 あまり邪魔をしては子供達に悪いと言う事もあり、桂花にほどほどにしておくよう軽い忠告を残して、その場を離れる。

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ」

「ん?」

 

 雑踏を抜け、大通りに出たところで見知った顔と目が合う。

 茶店の軒先に広げられた椅子に腰掛けて休んでいたのは……。

 

「あ、夏侯淵さん」

「秋蘭で構わぬと言ったはずだが」

「……」

 

 長い黒髪の娘の方が高覧と、反対に透けるような銀髪を持つのは張郃。

 相反する容姿を持つこの二人は、ともに先の袁紹との戦にて、我等に降った敵将。

 袁紹とその側近である文醜と顔良が何処へと姿を眩ました事で、袁紹軍において実権を握る二人だったわけだが、稟の機転のおかげで、我等も…、そして彼女等も無駄に消耗することなく戦を終えることが出来た。

 どうやら、私に対してどういう態度を取って良いか分からずに一生懸命愛想笑いをしている高覧に対して、私と視線を合わせようとしない張郃は憮然とした表情で黙って茶に口を付けている態度から、おそらく話すことはないから、自分達に構わず去ってくれと言いたいのだろう。

 まぁ、そうしても良いのだが、私としては、せっかく仲間となった以上それ相応の親交は取りたいと思いもする。無論、する価値がなければ、しはしないがな。

 

「どうだ、この店の茶の味は?

 華琳様が荊州の南陽から態々呼び寄せ、この許都に店を出させた程だ」

「ええ、とても美味しいです。それに出される茶菓子も変わっていて面白いです」

「ほう…、今日は薄く焼いた衣で餡と茘枝の実を刳るんだものか。茶菓子としての寿命は焼いた衣が茘枝の水気でふやけるまでの僅かな間だが、それ故に惹かれる物があるな」

 

 机の上に置かれた食べかけの茶菓子の断面を見て判断し、店員に私の分をもと頼む。

 そのまま席に座ろうとする私に三代は何か言いたげだが、敢えて無視し言葉を続ける。

 

「さっきも言ったが、此処の店主はもともと刑州の南陽の街にあった茶店で店員として働いていたのだが、華琳様が茶と菓子の味にそれなりに満足されたのでな、この街に店を出さないかと持ちかけたわけだ」

 

 本当は、ある人物の情報を少しでも得るために呼びつけた事までは、流石に口にはしない。

 結局、有益な情報はあまり聞けなかったが、華琳様としてはそれ相応の話が聞けたと言う事と、その人物の淹れる茶にはほど遠い物ではあっても、この許都に店を出させるだけの価値があると判断された。

 茶と菓子の腕でもそうだが、それ以上に店を持つ者としての在り方と精神が、この許都に新しい風を吹き込むだろうと。

 

「それと同じだ。華琳様は才ある者、そして努力を弛まぬ者を愛される。その前に敵味方など華琳様にとって小さき事。

 華琳様が認めし者が必要とするのならば、華琳様はその者のために力を貸す事を惜しまぬ。

 経緯はどうあれ、華琳様の下に来た以上、古株であろうと降将であろうと関係がない。そして周りの者も華琳様のそのお考えを理解し、成さんとしている」

 

 後はお前達しだいだと私は彼女達に告げる。

 今は分かるぬ事かもしれぬが、何れ分かる時が来るだろう。姉上がその実力を認め、そして凛もその価値があると判断し、華琳様が二人の言葉と想いを汲んだ以上、それはそう遠い日ではないはず。

 

「別にそんな事、最初から気にしていないわよ。

 降った以上、私も高覧も将としての誇りがあるわ。

 そしてその誇りを自ら汚す事は、今までに私を生かしてきてくれた者達に対する裏切りでしかないもの。

 曹孟徳がどういう王であれ、約束を守ってくれるなら、それ以上に尽くしてみせるから安心して頂戴」

 

 彼女…張郃の言葉に、私の心配は杞憂でしかなかったのだと知る。

 むしろ彼女達の将としての誇りに傷をつけたとさえ言えるかもしれん。

 だから彼女は、私の言葉に対してそう返したのだろう。

 簡単に裏切ったりはしないから安心しなさいと。 

 彼女達の誇りを傷つけたのと同程度の傷を、彼女もまた返して見せた。

 私がそれを察する事が出来、尚且つその意味する事が分かる相手だと見抜いて。

 ふふっ、面白い。私は来たばかりのお茶と共に、彼女の思いを飲み込む。

 苦くもあり、甘くも感じるこの茶のように、そして飲み込んだ後に残る心地良さは共に同じ。

 

「そうか、なら私もその約束に対して、尽力を尽くす事を私の真名に誓って約束しよう」

 

 少し惜しいと思いつつも、出来立て茶菓子を一息に口に放り込み彼女達の席から立つ。

 まだ私も、そして彼女達も、この距離で話すにはまだ時間がいる事を理解しているからな。

 張郃…彼女が、我等が軍門に降るに辺り、一つだけ条件をつけてきた。

 彼女のその条件に加勢するように、高覧もまた同じ条件を出した。

 降伏する事とは別に、彼女達が華琳様の将となるための条件。

 華琳様にとって、それはむしろ望む事。 事の大小など関係ない。

 我等は、王に何かを託す事でその力と魂を捧げる。

 それは守りたい者のためだったり、名誉や誇りだったり、人それぞれの戦いであり、生きる理由。

 彼女達にとって、出した条件がそれとは思わないが、関係ないとも言えないのだろう。

 少なくとも他人でしかない私には、その価値を決める権利はない。

 彼女達が重いと言えば重いのだし、軽いと言えば軽い気持ちだと受け取るしかない。

 ……ただ、無碍に出来ない条件だと。

 将としてではなく、一人の人間として力になりたいと思えるもの。

 彼女達が出した条件、それは……。

 

 

『治したい者がいるわ。

 その子を直してくれるのなら、この命が潰えるその日まで、曹孟徳に仕えることを約束しても構わない』

 

 

 ああ、誰かのために心の底からそう願える者。

 誰かを慈しみ、そのためにその生涯をかけれる者。

 ましてや、それが華琳様のためになるのなら。

 私が真名を預ける理由としては、それで十分だ。

 ある意味、私もまた同じ心を持つ者だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、書いた馬鹿こと、うたまるです。

 第169話 ~ 金木犀が舞いし宴に華は咲き乱れん ~〜を此処にお送りしました。

 

 本編の影に隠れて書き続けてきた、官途の戦いがやっと終演の時を迎える事が出来ました。

 読んでくださったように、基本的には原作通り麗羽が部隊から立ち去る事ととなりましたが、この戦は魏の将達にとって大きな成長の場になったと思います。 と言うか、パワーバランス考えたら、魏を補強しないと話がつながらないというのが本音だったりして(マテw

 それはともかく官途の戦いのこの話、書き始めが112話からですから……ちょっと引っ張りすぎたかな?

 原作があんまりにもアッサリ終えたのでその反動かもしれませんね。

 さて、この後は少し各国のドタバタを描きたいと思います。

 

 

 では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。

 


 
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