No.608777

リリカル龍騎 -深淵と紅狼-

竜神丸さん

第4話:崩れ出す日常

2013-08-15 00:51:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1912   閲覧ユーザー数:1822

二宮がバニングス家に滞在する事が決定し、一日が経った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ふぁ」

 

屋敷の一室にて、目覚めた二宮は大きく欠伸をする。その後、未だ眠たそうな目で部屋中をキョロキョロ見渡す。

 

「…あぁ、違う世界だっけ」

 

昨日の件を思い出したようだが、その言動があまりに軽過ぎるのは他の人から見れば大きな突っ込み所であろう。二宮はベッドから立ち上がり、ハンガーにかけていたジャケットを着る。

 

「さて…」

 

身嗜みを整えた二宮が、部屋のドアを開けたその瞬間―――

 

 

 

 

 

「バゥッ!!」

 

「ッ!?」

 

二宮に向かって、一匹の大型犬が飛び掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あちゃあ」

 

二宮を起こすべく、部屋の前まで来ていたアリサの前には…

 

「ヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘッ」

 

「…ぐふ」

 

大型犬にのしかかられたまま、気絶してる二宮の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴメンゴメン、うちの可愛いペット達が迷惑かけたわね」

 

「迷惑極まり無かったぞ、本当に」

 

車道を走る一台のリムジン。運転席には鮫島、後ろの席ではアリサと二宮が座っていた。

 

ちなみにアリサの聞いた話によれば、バニングス家の屋敷には10匹もの大型犬を飼っているとの事。そのうちの一匹に二宮が飛び掛かられた際にまた後頭部を打ったらしく、現在も二宮は後頭部を痛そうに抑えている。

 

「全く……で、今から何処に行くんだ? まだ何も教えて貰ってないんだが」

 

あれから既に朝食を済ませたものの、その後アリサ達からは何も教えられないまま、気付けばリムジンに乗せられているのである。

 

「私の友達に、すずかって子がいるのを昨日説明したでしょ? 今からその子がいる屋敷まで向かってるのよ」

 

「…あぁ、倒れてた俺を見つけてくれたんだったな」

 

「そうよ。もう連絡はしてるけど、一応アンタとすずかを会わせとこうと思って……まぁ、最初は全く違う予定だったんだけど」

 

「?」

 

「私の知り合いに、管理局で働いていた人がいるの。名前はエイミィ・ハラオウン」

 

アリサは携帯を取り出し、茶髪の女性と二人の子供が写った写真を二宮に見せる。

 

「今は子供の育児に集中する為に休職してて、海鳴市で暮らしてはいるの。それで違う世界の事とかについて、聞きに行くつもりでいたんだけど…」

 

「けど何だ」

 

「…実は今、海鳴市にはいないのよねぇ」

 

「おいおい」

 

話によると、現在エイミィ・ハラオウンは子供達を連れて、旅行に行ってしまっているらしい。あまりのタイミングの悪さに、流石の二宮も思わず溜め息をついてしまう。

 

「という訳で、アンタの世界については一旦保留になったわ。とにかく今、アンタには私の知り合い達に挨拶させて回るつもりだからそのつもりでいなさい」

 

「はいはい、了解ですよっと」

 

(あぁ面倒臭い…)

 

取り敢えず了承した二宮だったが、やはり内心では面倒臭そうに考えているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リムジンが走り去っていく中、近くの店のショーウィンドウ…

 

-キィィィン…キィィィン…-

 

『キシャァァァァ…』

 

一体の巨大蜘蛛が、リムジンを追いかけるかのようにミラーワールドを移動し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、はい到着!」

 

「いや、どういう訳だ」

 

月村家の屋敷にまで到着し、アリサと二宮がリムジンから降りる。鮫島は後でまた迎えに来るという事で、そのままリムジンで戻って行った。

 

アリサが屋敷の門を通り、二宮もそれに続く。

 

(バニングスの屋敷も相当だが、やっぱ無駄に豪華だな……ま、俺が言えた口ではないだろうが)

 

二宮は目の前にある大きな屋敷を見ながら、内心でそう考える。

 

「あ、そうそう。先に忠告しとくわ」

 

「ん?」

 

「ここはすずかの屋敷だけど、ここには―――」

 

アリサが忠告しようとしたその時…

 

「「「「「ニャァァァァァァッ!!!」」」」」

 

「何、ちょ…のぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「―――猫がいっぱい飼われてるって、言おうと思ったけどもう遅いっぽいわね。てか、やけに動物に懐かれるわね」

 

突如複数の子猫達が一斉に飛び掛かり、二宮がそれに巻き込まれてしまった。アリサはそんな光景を見て呆れ果てる。

 

「あ、アリサちゃん」

 

そんな時、屋敷の中庭の方から月村すずかがやって来た。

 

「あ、おはようすずか。昨日ぶりね」

 

「うん、本当にね。それで、昨日の人は…」

 

「そこにいるわよ」

 

アリサの指差した方向に…

 

「お、重い…!!」

 

「「「「「ニャアニャアニャアニャアニャアニャアニャアニャア」」」」」

 

子猫達に乗られてしまい、起き上がろうにも起き上がれないでいる二宮の姿があった。

 

「…あ」

 

「大丈夫よ。今朝だって、私が飼ってるペットに襲撃されたばっかりだから」

 

「だ、大丈夫なのかなそれって…」

 

アリサの適当な一言に、すずかも苦笑せざるを得ない。

 

「「「「「ニャア~♪」」」」」

 

「…もう嫌だ、面倒臭い」

 

 

 

しばらくして、二宮はすずかの介入で猫達の襲撃から助け出されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい。うちの猫ちゃん達、かなり活発で」

 

「たく、何で俺がこんな目に…」

 

「たまたま懐かれてるだけよ、諦めなさい」

 

あれから彼女達は、テーブルと椅子のある中庭へと移動した。ちなみに椅子に座っている間も、二宮の足下や膝の上にはさっきの猫達が集まっている。

 

「ところで……えっと」

 

「あ、月村すずかです。よろしくね」

 

「そうか、俺は二宮鋭介だ。確か、俺が倒れてるところを君が見つけてくれたんだったな。礼を言わせて貰う」

 

「あ、いえ。私があなたを見つけたのも偶然なので」

 

「それでも、そのおかげで俺が助かったのも事実だ。ありがとな」

 

「いえ、そんな。私はただ…」

 

(…何でかしら、会話に入り込めないわね)

 

二宮とすずかが楽しそうに話しているのを見て、会話に入れないでいるアリサは何となく気に入らなさそうな顔をする。

 

「それで、二宮さんは何故倒れて…?」

 

「あぁ、その事なんだが……まぁ、見せた方が早いか」

 

「? それってどういう…ッ!」

 

すずかの疑問に答えるべく、二宮はジャケットのポケットからカードデッキを取り出してからテーブルに置き。その時すずかは、カードデッキを見て驚く表情を見せる。

 

「あの、これって…!」

 

「?」

 

「どうしたの、すずか?」

 

「…実は」

 

すずかも同じように服のポケットからある物を取り出し、テーブルに置いて見せる。

 

「「!?」」

 

それは、エンブレムの刻まれていないカードデッキだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部屋に置いてあった、ねぇ」

 

二宮はティーカップの紅茶を飲みながら、手に持ったカードデッキを眺める。

 

「はい。昨日はこんな物は無かったんですけど……今朝起きてみたら、ベッドの枕元にこれが…」

 

「全く意味不明ね。何でこれがすずかの手元に…?」

 

「あ、おい」

 

アリサは二宮の手からカードデッキを奪い取り、カードデッキからカードを抜き取ってみたりとやりたい放題である。

 

「それにしても驚きました。二宮さんが違う世界の人間で、怪物と戦っていたなんて」

 

すずかがカードデッキの事を話した際、二宮もすずかに対して自分が仮面ライダーである事、ミラーモンスターの事、そしてミラーワールドの存在について説明はしている。

 

「ま、普通なら信じられないだろうな。鏡の世界があって、そこに怪物が巣食っている事なんて」

 

「いえ、信じます。そうでなきゃ話にも辻褄が合いませんし……でも、それならどうしてその怪物達もこの世界に…?」

 

「…それに関しては、俺も分からないんだよな」

 

何故、自分だけでなくモンスターまでこの世界に来ているのか。何故、すずかの手元にまで未契約のカードデッキがあるのか。理解の出来ないような事が、この世界に来てから連続で起こっている。

 

(ここが本当に違う世界なら、神崎だってこの世界にはいない筈……くそ、本当に訳が分からなくなってきたな…)

 

(…どうしよう、会話に入り込める空気じゃないわ)

 

二宮が考え事をし始める中、気付いたら会話から外れてしまっていたアリサ。彼女は諦めて、適当にカードデッキから抜き取ったカードを眺める事にした。

 

(にしても……何なのかしら、このカード)

 

テーブルに置かれた二枚のカード。それぞれ『CONTRACT』、『SEAL』と書かれていた。

 

「契約に、封印…?」

 

アリサが何のこっちゃ、と考えていた時だ。

 

 

 

 

 

-キィィィン…キィィィン…-

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

三人の脳内に、例の耳鳴りが響いてきた。

 

「お嬢様~、クッキーをお持ちしました~」

 

月村家に仕えるメイドであるファリン・K・エーアリヒカイトが、クッキーを乗せた皿を持ってやって来る。

 

そんな彼女の後ろにある、屋敷の窓から…

 

『キシャァァァ…!!』

 

巨大蜘蛛―――ディスパイダーが狙いを定めていた。

 

「危ない!!」

 

「ひゃあっ!?」

 

ディスパイダーが狙っているのを見てヤバいと判断したアリサが、咄嗟にファリンを庇う。その直後に窓からディスパイダーが糸を吐き、それがアリサの右手に絡みつく。

 

「な…キャァァァァァァッ!?」

 

そしてディスパイダーの糸に引っ張られ、アリサはそのまま窓からミラーワールドへ引きずり込まれて消えてしまった。

 

「アリサちゃん!?」

 

「チッ、面倒臭ぇな…!!」

 

二宮は膝に乗せていた子猫を下ろしてからアリサが引き摺り込まれた窓の前へと立ち、カードデッキを突き出してベルトを出現させる。

 

「月村はここで待ってろ、バニングスは俺が連れ戻す……変身!!」

 

二宮はすかさずアビスに変身し、窓からミラーワールドへと突入していった。

 

「二宮さん…!!」

 

「ふぇ!? え!? な、何がどうなってるんですか~!?」

 

すずかが不安そうに窓を見つめる中、事情を知らないファリンは何が起こったのか分からずパニックに陥るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実世界とミラーワールドの間にある、境界線のような場所…

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

その中を、アリサは落下し続けていた。

 

「どうなってるのよこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

突然引っ張られたかと思ったら、気付けばこうやって落ち続けていたのだ。常人なら、訳も分からないままただ叫び続ける事しか出来ないのも無理はないだろう。

 

「もう嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

彼女が手に持っていた、カードデッキが光り出したのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の日常も、この日を境に崩れ出そうとしていた。

 


 
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