No.607397

リリカル龍騎 -深淵と紅狼-

竜神丸さん

第3話:これから

2013-08-10 13:30:48 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1912   閲覧ユーザー数:1843

「さぁ、説明して貰うわよ」

 

「…はいはい」

 

現在、二宮は強制的に椅子に座らされていた。彼の前ではベッドに座ったアリサ、その傍には鮫島。アリサがかなりの剣幕で睨みつけてくる為、二宮は事情説明に若干の面倒臭さを感じていた。

 

(自分から話すとは言ったものの、何から話すべきか…)

 

髪をポリポリ掻きつつ、二宮はボソリと呟く。

 

「…仮面ライダー」

 

「「は?」」

 

二宮はカードデッキを見せながら言ってのける。

 

「さっき、俺が変身していた姿の事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮面ライダーにミラーワールド…」

 

「おまけにモンスター、ねぇ…」

 

二宮から聞かされた内容。

 

自分が変身している、仮面ライダーという戦士の事。鏡の中に存在する世界、ミラーワールドの事。そのミラーワールドに巣食う人食いの怪物、ミラーモンスターの事。自分はそのミラーモンスターを退治するべく、仮面ライダーとなって戦っているという事。

 

「まず簡潔に説明した。理解はしたか?」

 

「いや、あのねぇ…」

 

アリサが困ったように頭を掻く。

 

「いきなりそんな非現実な話をされて、こっちがそんなアッサリ信用なんて出来ると思う?」

 

「先に非現実な話をして来たのはお前だろうに」

 

「う…」

 

二宮にそう言い返され、アリサは言葉に詰まる。確かにアリサも次元世界や魔法の件について説明している為、人の事を言えた話ではないだろう。

 

「そしてあなたは自身が眠りについている中、気付けばこの世界に来てしまっていたと…」

 

「まぁ、そんなところだ」

 

鮫島の問いに二宮がそう答える。

 

「鏡の世界とやらに住む怪物を、仮面ライダーとか言う姿になって退治って……まるで子供が見るヒーロー番組みたいね」

 

「誰でも一度はそう思うだろうな。だが、さっき俺がライダーに変身する所をお前も見ただろ?」

 

「まぁ、確かに目の前で見せられたから、信じざるを得ないわ」

 

「…と言っても、俺は英雄なんて器じゃないけどな」

 

「え?」

 

「何でもない」

 

二宮はボソリと呟くが、すぐに何でもない素振りを見せる。

 

「それにしても、いくら何でも説明がアバウト過ぎない? もうちょっと詳しく説明しなさいよ。その仮面ライダーの事とか、モンスターとやらの事とか」

 

「んん~……正直、説明するのが面倒臭い」

 

「んな事で面倒臭がるなぁっ!!」

 

アリサの突っ込みが二宮の頭に炸裂する。

 

「アンタねぇ、自分が今どういう状況なのか分かってんの!? 何でそんな呑気でいられんのよ!!」

 

「あのな~こっちだって色々起こり過ぎて、もはや考えるのも面倒臭くなってきてんだよ。いっそ何も考えない方が楽に思えるぐらいに」

 

「何処まで面倒臭がれば気が済むのよアンタはっ!!」

 

「まぁ、追々説明はしていくさ……適当にだけど」

 

「適当な説明で済ませようとするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

アリサが二宮の胸倉を掴んで揺らしまくり、その度に二宮の頭もガクガクと上下に揺れまくる。

 

「お嬢様、そんなに揺らし続けると流石に彼もキツいかと…」

 

「…フンッ!!」

 

「のごぁ!?」

 

鮫島に言われたアリサは仕方なく乱暴に突き離し、二宮は椅子の背凭れに後頭部を打つ。

 

「ぐぅ…地味に痛いなオイ…」

 

「たく、ここまで危機感の無い奴は初めて見たわ。元の世界に戻れなくなっても良いとでも言うつもりなの?」

 

「元の世界ねぇ……うん、どっちでも良いな」

 

「「…はっ?」」

 

二宮によるまさかの「どっちでも良い」発言に、アリサだけでなく鮫島も驚く。

 

「確かに自分の世界じゃない事には驚いたさ。と言っても、意地でも元の世界に戻りたいって思えるような感じでもない」

 

「しかし、それではあなたのご家族が心配なされるのでは…?」

 

「そ、そうよ!! アンタこのままだと一生家族に会えなくなるわよ、それでも良「あぁ、家族ならもういないぞ」いの……え?」

 

 

 

「事故で死んだよ、俺が餓鬼の頃にな」

 

 

 

何処か冷めたような目で、二宮がそう告げる。

 

「あ……ごめん」

 

「申し訳ありません、失言でした」

 

「いや、良い。気にするな」

 

アリサと鮫島が謝罪するが、二宮も特に気にはしていなかった。

 

「…それで、明日からどうする気なの?」

 

聞いてはいけない事を聞いて流石に悪いと思ったのか、アリサは先程みたいに怒鳴ったりせず恐る恐る二宮に問いかける。

 

「…さぁな」

 

二宮が椅子の背凭れに寄り掛かりつつ天井を見上げる。

 

「よく考えてみれば、この世界じゃ俺は無一文だったな。さて、どうしたもんか…」

 

 

 

「なら、ここに住んでみない?」

 

 

 

「はっ?」

 

突然のアリサの提案に、二宮は目を見開いた状態で即座にアリサの方に向く。

 

「ここに…何だって?」

 

「住まないかって言ったの。私の親が大企業を経営してて、おかげで私も生活は裕福なの。ここに住めばアンタも不自由なく暮らせるわよ。鮫島だって文句は無いでしょ?」

 

「えぇ、私は特に何の文句もありません」

 

「だそうよ。どうする?」

 

アリサだけでなく鮫島も、二宮が住む事については特に文句は無いらしい。

 

しかし…

 

「…そんな風に言って貰えるのはありがたいが、何故そこまで親切になるのかが分からんな。アンタ等から見たら、俺は全く関係の無い赤の他人だぞ?」

 

何故わざわざ、自分に対してこんなに親切にしてくれるのか?

 

二宮はそんな疑問が尽きないでいた。

 

「さっきも言ったけど……アンタ、後先の事なんか本当に何も考えてないわよね」

 

「む……悪かったな、何も考えてなくて」

 

「見てられないのよ、こんな状況にも関わらず呑気でいられるアンタがね。それに…………まぁ、ほんのちょっぴりカッコ良かったし…」

 

アリサは先程モンスターの攻撃から二宮に助けられたのを思い出し、台詞の最後辺りを二宮に聞こえないくらいの小さい声で呟く。

 

「それに……何だって?」

 

「な、何でもないわよ!! とにかく!!」

 

アリサは顔を赤くしながら誤魔化し、二宮に向かってビシッと指差す。

 

「アンタは今日からここに住みなさい!! これは決定事項よ!! 逆らったりしたら、この私が絶対に許さないんだから!!!」

 

(おいおい、本当にハッキリ言うなコイツ…)

 

(アリサお嬢様の少々強引な所、私も久しぶりに見ましたな…)

 

アリサの命令口調な提案に、二宮は思わず口をヒクヒクさせ、鮫島は何故か感慨深そうにしていた。

 

「…まぁでも、他に行く当てが無いのも確かだしな」

 

「む、では…」

 

「あぁ」

 

二宮が椅子から立ち上がる。

 

「せっかくだ、お言葉に甘えさせて貰おう」

 

せっかく住む場所を提供してくれるのだ。二宮からすれば、断る理由など何もありはしなかった。

 

「…決まりね」

 

アリサもベッドから立ち上がる。

 

「なら自己紹介もしておきましょう。私はアリサ・バニングス。これからよろしくね」

 

「アリサお嬢様に仕えております、鮫島と申します。以後、お見知り置きを」

 

「俺は二宮鋭介だ……まぁ、今後ともよろしく」

 

アリサと二宮は右手を差し出し、互いに握手を交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、アリサがいるのとは違う別の屋敷にて…

 

「んん~…」

 

アリサの友人である月村すずかは、既に自分の部屋のベッドで就寝中だった。

 

そんな時だ。

 

 

 

-キィィィン…キィィィン…-

 

 

 

『…なるほど、彼女がそうか』

 

部屋の窓を通じて、ミラーワールドから彼女の様子を窺う金色の幻影。幻影は自身が手に持っていた物を見つめる。

 

 

『彼女なら、きっと…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは何のエンブレムも刻まれていない、未契約状態のカードデッキだった。

 


 
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