電車に乗っていた。理由は覚えてない。多分私の事だ、おおかたやる事がなさすぎて、気まぐれにどこかまで行った、その帰りの事だろう、と思う。あるいは仕事の話だったか。まあ、どうでもいいや。
さすがに12駅。所要時間はおよそ1時間。ずっと立ってなんていられるはずもない。いくら真夏のクソ暑い外と比べれば、天国のように快適な車内であっても、だ。時間帯的には15時半ば。そろそろ帰宅ラッシュに突っ込むか、といったところ。席は歯抜けで、私はその歯抜けの一つに腰掛けた。
うつらうつらとしていると、私の左肩に、何か温かいものが乗っかったような感触があった。何だろうと思って、右目だけ――どうしてわざわざ逆側の目を開くのかといえば、単純に左目が使えないだけというお話だ――うっすらと開けて見る。
それは電車で居眠りをする女子高生の頭だった。白い夏服セーラーが、窓から差し込む光でまぶしい。
まあ、こういう電車に乗る以上、当然起こりうる事だ。仕方ない。でもクソ暑いのに寄りかかられるのも嫌だ。とはいえ、その反対側にもお客さんは座っている。心持ち、私は彼女の身体をとん、と押し、ニュートラルな位置へと戻した。べったりとくっついている状況は解消された。これでいいや、と、私は再び、両目を閉じてうつらうつら、とし始めた。
それから、三分も立たないくらいだろう。再び、今度は私の太ももの辺りに、何か生暖かい感触が触れた。人が寝てると勘違いして痴漢か、しかもこの空いてる車内で堂々と、と思いながら、イラッとしつつ薄目をする。
さっきとん、と突き飛ばした女子高生だ。女子高生の頭が思いっきり太ももの上に乗ってる。すごい姿勢。起きたら絶対腰痛くなるぞ、これ。
要するに、思いっきり前に倒れてるような状態で、ちょうど私が列車の進行方向の反対側に座っているのが悪いんだろうけど、何回かの停車と加速の振動で、どんどんと私の方に来ていたというわけだ。そしてこの、前屈しながら膝枕、という、見るからに痛そうな姿勢になっている、と。
暑苦しい。すっごいべったりくっつかれて暑苦しい。私が男なら、うっひょーってなったのかもしれないけど、あいにく同性にはそこまで興味はない。可愛ければ別だけど、と思って、ちらっと顔をのぞき込んだ。
……うーん。悪くはない、か。私の好みってタイプではないけど、おとなしめな感じで、何だろう、ずっと教室の隅っこで小説とか読んでて、馬鹿騒ぎとかあっても気にせずに本を読んでそう、みたいな。
んで、表情をよく見るとなんか悲しそうっていうか、疲れてそうっていうか。まあ無理もないか。見た目通り高校生だとすれば、おっさんだのおばさんだのの汗臭い中をおしくらして学校に通ってるんだろう。それに、学校でもきっと人間関係の類で苦労してそう。勝手な予想でしかないけどさ。
……まあ、暇だ。それに、何か可哀想な気もしてきた。私は思いっきり、豪快に寝たふりを始める事にした。
それから、私が本来降りる駅を三つほど超した辺りで彼女は目覚め、ここはどこだと焦り、ついでに、私の股を思いっきり枕にしてた事に気付いて赤面し、慌てて荷物を持って駅へ降りて、ちょうど来ていた対向電車にかけ乗った、辺りまでは薄目でちらっと確認している。
が、困った事に。実は私も、うつらうつらしてた辺り、相当眠かったんだろう。車掌さんに肩を揺すられ、お客さん終点ですよ、の声で起こされた。何か顔から火が出るほど熱かったのと、それから時間を見て軽く絶望したような気がする。
それから、若干の苦労をして、いつもより一時間余計に掛かって帰宅したのは、また別のお話。
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ぱっと思い浮かんだ光景をぱっと書いてみた、簡単な短編です。特にひねりも何もなし。