No.388345

【3Z】かなわない恋【銀妙】

ともちさん

昔の作品5。連続投稿恐れ入りますすいません。
オリジナルの男子視点から見た銀妙です。

2012-03-07 22:01:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4451   閲覧ユーザー数:4448

 

 僕には好きな人がいる。学年が一つ上の志村妙さんだ。生徒会長をしていて、僕はその補佐。つまりは副会長をしている。

 彼女には好きな人がいる。その人の名は坂田銀八さん。彼女の担任であり教師だ。それはいけない事なのに、誰も口に出してはいわない。

わかっているからだ。叶わない、と。思春期特有の一時的な想いだから。あえてそれを遮ることをいわない。

 彼女は叶わない恋をしている。それは叶ってはいけない恋。彼女もきっとわかっている。わかっていて、それでも想いを止められないでいる。

 

『かなわない恋』

 

「ごめんね。こんな時間まで」

「いえ、元はといえば僕のミスのせいですから」

 窓を見ると、外はもう日が暮れ始めようとしていた。生徒会室のぼんやりとした光が僕たち二人を包んでいた。

 僕は、目の前の書類を、一枚一枚目で追うふりをする。

 ぼぉっとした目で書類をなぞる。書類には小さい文字がいっぱい書いてあった。会計の書類だった。これは手を動かさなければ。と僕は電卓を叩き出した。

 目に入ってくる文字をひたすらに打ち込み続けた。あっているかどうかなんて興味はない。

「会長」

「何?」僕の呼びかけに、一泊置いて応える。

「もうすぐ……、卒業ですね」

「すぐって、まだ五ヵ月もあるのよ」

「すぐ、ですよ」

「そうね。じゃぁ、貴方への引継ぎの準備をしなくちゃいけないわね」

「そうですね」と僕は頷く。頷いてからまた書類に目を移した。

 僕は偶にミスをする。何時もは有能に見られたくて、与えられた仕事は完璧にこなす。彼女に指示を出される前に行動を起こす。

 だから「頼りになる人」っと周りからも、彼女からの信頼も厚い。僕も普段はその期待に応えられるよう日々頑張っている。

そう普段は。

 だけどこの日はワザとミスをした。彼女と一緒にいる時間を増やしたかったからだ。この時間が許されるのは後数か月。でもそれは彼女も同じ。彼女も、後数か月したらこの学校にいられない。

 僕はわざと窓の外を覗いた。みると、剣道部が列をなして帰っていく。

 暑そうにワイシャツをはためかせていた。近藤先輩、鴨先輩。知っている顔ぶれを何人か確認した。

「剣道部。終わったみたいですよ」と僕はわざと声にだした。

「そう」と彼女は淡白に頷く。

「そろそろ終わりにしましょうか。もういい時間です」

「そうね、いい時間かも知れない」

「残ったのは家でやってきます」

「別に明日でいいわよ。急いでないから」

「いいんです。僕のミスですから」

「気にし過ぎよ。もうちょっと気楽にやっていいんだよ」

ふっと口元を緩める。そして口調を和らげた。私なんて最近ミスしてばっかりよ。と彼女は笑った。

 僕は笑わず、彼女をじっと見た。

「会長。明日は、ミスしませんから」

 そうと言うと「なら、私も気をつけるわ」と彼女は静かにいった。

「おーい。生徒会、もうお終ぇだぞ」

 間抜けな間延びした声と共に、ドアが開いた。僕は片付ける手を止めた。銀色の髪。白い白衣が、そこに立っていた。

 最初にあった時の印象は、白い人。間抜け面。何度か会う内に思ったのは生徒思いの人。何時でもどっしりと構えていて頼りになる人。それが彼女のお気に入りだと知ってからは、彼は僕にとっても特別な人となった。

 のそっと、坂田先生が生徒会室の扉をくぐる。

 彼女は数秒、彼の動きを眺めていた。そしてはっとしたように再び手を動かす。

「ちょっと待っていて下さい。今片付けているところなんで」

「早くしろよ。もう門閉じちまうぞ」

「あら、先生はまだ残るんでしょう?」二泊はど置いて、彼女が訊ねる。

「まぁな、俺はここのG子ちゃんと、夜を過ごす事になってるからな」

「まぁ素敵。私たちも混ぜてほしいわ」

「全然素敵じゃねーよ」

 ちなみにG子ちゃんとはこの学校に住みつくゴキブリの事だ。

 学校に泊まるものは毎回このG子ちゃんたちの悪夢の洗礼を受ける事になっている。僕も剣道部の合宿をした時痛い目にあった。

「たっく、放課後はなにかと手のかかる剣道部。その後は授業の準備って、死んじゃうよ俺ぇ」

「大丈夫ですよ。先生はまだ若いんですから」

「まぁ今日のところは我慢するとして、明日は剣道部休みですよね?余計な仕事回される前にとっとと帰った方がいいですよ」

「あー。言われなくてもそうすりゃー」

 坂田先生はタンスにもたれかかる。とりあえず早く手を動かせっと指示を出す。

 僕たちは忘れていたと言わんばかりに手を動かしあう。

「そういや、志村はもうすぐ卒業だな」

「ふふ。まだまだ先の事ですよ」

「そーいうがなこっからは、あっちゅー間だぞ。入試とかもろもろ忙しなくなるからな」

「でも、私は推薦ですから。もう受かったようなものです」

「そんな事……まぁ、あるか」

 教師としてあまりどうどうと言っていい事ではないので、先生は言葉を濁した。

 実際推薦入試とは合格率ほぼ百パーセント。名前を書けば受かる学校と同じく、面接に行けば学校に受かる。

 まぁ時たま学校先でやんちゃなんかしたりして、落ちる人もいるらしいが、彼女なら大丈夫だろう。

「卒業が楽しみです。そしたら私、大学生になるんですよ」

「んーそういやそうだな」

「そうなんです」っと彼の言葉を強く肯定した。

「嬉しそうだな」

「はい。嬉しいですよ。念願の大学生ですから」

「ふーん」

 

 そのまま坂田先生に挨拶をして、僕たちは帰った。夜道は危ないと、僕が送るっと提案するが、やんわりと断られた。

 長い坂道を下り、真っ直ぐな道路を歩き、コンビニの横を通り過ぎる。別れ道の電信柱の前で、僕らは立ち止った。切れかけた蛍光灯がジジジっと怪しげな音をたてる。

「会長」

「何?」

 僕の呼びかけに、一泊置いて応える。

 それは計ったかのように一泊。動揺している時彼女は反応が遅くなるのだ。

「先輩……叶わない恋って、意味があるんですか?」

 彼女は僕の問いかけに答えず、薄く笑う。

「私ね……往生際が悪いの」

「そうなんですか?」

「そう。だからいってるじゃない。私、後六ヵ月で大学生になるの」

「そうですね」

 生徒と先生は、恋に落ちてはいけない。それは叶わない恋。叶ってはいけない恋だから。だけど彼女はいう、もうすぐ大学生になると――。

「先輩は……馬鹿ですか」

 ため息はでない。逆に関心するほどだった。

 彼女はくすくす笑う。

「そうね。馬鹿なんだと思うわ」

 電球が最後の命を絞り出していた。もうほとんど消えかけている。

 でも最後はきっと、激しく燃えるのだ。その光で、火傷する人がいたって可笑しくはない。なんせ僕も、その光にあてられて一人だ。

「会長。僕は、先生と一緒にいる会長の笑顔が好きです…だから、応援してます」

「ありがとう」

 僕はにっこりと、彼女に微笑んだ。

「本当は卒業しちゃうの、寂しくもあるの。だけど、そうしないと意味がないから」

「ですね」

「私ももうミスしないように気をつけるわ。……だからもうミスしちゃ駄目よ」

「はい」

 彼女は手を振りながら、闇夜に消えていく。僕は彼女を思って夜空のライトを眺めた。胸の奥がまだジリジリと、火傷したようにいたかった。

 

 


 
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