No.378795

少年兵

健忘真実さん

テロ組織に拉致され兵士として教育された少年の物語。

2012-02-16 11:53:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:908   閲覧ユーザー数:908

【まえがき】

『ヒトは人と交わることによって人間になる』

 

国によって受ける教育の内容は大きく異なります。

その普通の教育すら受けられない子供たちは数多くいます。

そしてそのまま大人になり読み書きができず、正しい情報を知らない人たちも。

ゆがんだ教えを信じ込んだ子どもの将来は、どうなるのでしょうか。

(本文は面白くないかもしれませんが、あとがきも読んでくださいね)

 

【少年兵】

 ウガンダやシエラレオネ、イラン・イラクなど中東の紛争地域には、少年兵が多数存

在する。

 ユニセフが推定するところおよそ25万人。あるいは35万人ともいわれている。

 そんなひとり、アザムに焦点を当ててみた。アザムは架空の村、架空の組織に属する

架空の人物であるが、この物語は決して架空ではない、と思う。

 

 

 パキスタン北西部は、アフガニスタンと連なる山岳地帯である。さらに北へ行くと、

K2など8000メートル級のカラコルム山脈が立ちはだかっている。

 雪を頂くそういった山を遠くに見て、カジャールという小さな山村があった。住民は

30人程度、自給自足の生活をしている。社会の情報はまったく知らない。

 

 銃を携えた集団が突然やってきた。

 大きなテロ組織の本拠が空爆を受けて、散り散りになって逃げてきた5人組だった。

生き延びるために、立ち寄った村々から食料やめぼしい物を奪ってきた。組織の再起を

誓って。彼らはテロ集団としての生き方しか知らないのである。

 

 カジャール村の人々は武器を持って抵抗した。食べ物を奪われると、どちらにしても

生きていけない。

 

 アザムとクレシが山菜の入った籠を持って帰って来た時には、父も母も、村人全員が

射殺されていた。

 アザムは10歳、クレシは7歳である。

 集団のリーダーのムハンマドはふたりを伴って、グジュン山を目指した。解放自由軍

という組織の新しい基地である。

 そこには、誘拐、拉致された10歳前後の少年少女たちがいた。

 少年は兵士に、少女は日常の手伝いや少年たちの性の処理が仕事である。

 兄弟はそこで、AK-47(旧ソ連製、1947年式カラシニコフ自動小銃)を与え

られ、射撃訓練を受けた。AK-47は軽量で、子供でも取り扱いやすい銃である。ま

たイスラームの、都合よく解釈を変えた教義を教わった。

 

 

 ある日、アジアハイウェイのカイバー峠で、物資を運ぶトラックを急襲した。

 銃撃戦となった。クレシは恐怖で動けない。アザムは弟を助けて逃げた。

そのことを仲間から咎められた。

「クレシは邪魔なんだよ」

「動けないし、銃も満足に撃てない」

「へたすりゃ俺たち死んでたかもな」

 ムハンマドは結論を下した。

「アザム、クレシを撃て」

 

 アザムは震えた。しかしリーダーの命令は絶対服従である。仲間たちの視線を受けて、

アザムは銃を構えた。

 クレシは涙を浮かべ、それでも必死に歯を食いしばって兄を見つめている。

 

 わぁぁ――ダダダダダ ダダダダダ――ぁァ

 

 叫びながら無我夢中で連射した。早く死んでくれ、と。

 

 その日からアザムは変わった。

 ためらいなく人を殺せる。襲撃前には麻薬を服用して気分を高め、自分が死ぬことに

も無頓着になる。麻薬を飲むようになってからは殺人が楽しかった。仲間と競い合うほ

どである。

 正義のためだ、という名目で手柄をいくつもたて、13歳にして少年グループのリー

ダーとなった。

 

 

 テロ組織集団にも敵対関係がある。イスラーム正統派軍の情報を得、物資を奪うべく

その基地を襲った。狙う建物の裏は崖である。正面で銃撃戦が展開している間に、山育

ちのアザムは銃を肩がけにし、崖を慎重に降りた。

 大量の銃弾と金と、持てるだけの食料を奪って森に向かって駆けた。

 

「止まれ!」

 背後に声を聞いた、と同時にダダダダダ ダダダダダ

 手に持っていた袋を取り落とした。足を撃たれ、手を打ち砕かれた感触があったが、

そのまま森に入り逃げた。

 

「撃つな! 弾を無駄に使うな、奴はほっといても死ぬさ」

 

 

 腕の肉はとびちり骨が見えている。血は止めようがなかった。足からも血が流れ続け

ているが動けた。しかし、麻薬の効力が消えてくると、耐え難い痛みが襲ってきた。

 が、意識が朦朧としてくるとその痛みは遠のいた。

 ドサーッ、と地面に倒れた。

 

   かあちゃん・・・笑顔が悲しげな顔に変わった

   とうちゃん、ぼく・・・

   クレシ・・・目に涙を湛えて見つめている

 

 アザムが瞼を開くことはもうない。目尻には涙の跡が残っていた。

 

 

【あとがき】

私事ですが、ユニセフのマンスリーサポーターになって8年になります。

途上国や紛争地、時には大規模自然災害地などで、衛生(井戸・トイレの設置、ワクチ

ン接種、栄養補給など)、教育などの向上の為の資金になっています。

少年兵として教育され、麻薬に侵された子供たちを収容し矯正する施設にも力を注いで

います。

すべての人が正しい教育を受け、正しい目と正しい心で正しく判断する力を持てば、世

界の争いごともなくなると思います。そう信じています。

 

小学低学年の頃の給食には不味さで有名な脱脂粉乳が出ていました。その脱脂粉乳はユ

ニセフ(世界からの支援)によるものだということを知って、サポーターになった次第

です。

東日本大震災で47年ぶりに、ユニセフは衛生具や教育道具などを支援したのですね。

まさか日本に支援! とびっくりしましたが、それほどの緊急を要する大災害だったの

だと改めて思い知らされたわけです。


 
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