No.341879

真説・恋姫†演義 仲帝記 第十四羽「偽りの将は地に沈み、新たな将星見出されんのこと」

狭乃 狼さん

仲帝記、その第十四話目でございます。

荊州での対黄巾戦、その決着の回でございます。

そしてオリキャラが一気に四人登場w

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2011-12-01 11:31:03 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:9554   閲覧ユーザー数:7091

 

 矛盾。

 

 その昔、「どんな盾も突き抜く矛」と「どんな矛も防ぐ盾」を売っていた男が、ある日客の一人から「その矛でその盾を突いたらどうなる」と問われ、その問いに窮したという故事より生まれた、物事の筋道や道理が合わないことを意味する言葉である。

 

 人が生きるこの世には、それを湛える場こそ数あれど、それが最も顕著に現れるのが、戦場というこの世で最も特異な環境であるかもしれない。

 

 生命(いのち)を守るために生命を奪う。

 

 そんな互いに相反する行動を、人は何故行なうのか。

 

 意見の相違。

 

 互いの矜持。

 

 欲するもの。

 

 護るべきもの。

 

 その理由こそ千差万別なれど、時として言葉のみでは抗いきれない事が、その要因となることがほとんどだといえる。

 

 戦争と言う名の人間(ヒト)という種が持つその業は、たとえどれほど時が流れようと、永劫に不変なモノなのなのかも知れない。

 

 だからこそ、敵味方の別なく、出来うる限りに被害を抑え、早期に戦を終らせようともする。

 

 その為に、奪う生命と救う生命、大と小の差こそあれ、それらにあえて線を引き、奪った生命、失われた生命を、犠牲と言う名の正しい理屈に収めようとする。

 

 それもまた矛盾。

 

 生者は尊く、守らねば為らぬもの。

 

 しかし、そしてその為に尊い筈の生命を奪うのは、正しい理屈と言えるのだろうか?

 

 「戦などは、そもそも起きないのが一番の理想である。しかし、起きてしまった以上は早々に収めることを第一義とし、いかに矛盾した行いであっても、最小限の犠牲で事を成すのみに注力するのが、不完全なる人間の身に出来る唯一の上策である」

 

 史書、『三国志・仲書』、その中の『太祖記』より抜粋した、仲王朝初代、袁公路の晩年の言葉である……。

 

 

 第十四羽「偽りの将は地に沈み、新たな将星見出されんのこと」

 

   

 

 戦において先鋒が行なう務めと言うのは、相手の出鼻を挫き、その勢いを止めること。しかし、今現在行なわれているその場において、先鋒を務める四将に与えられた役目は、彼らの背後に位置取る味方の為に、壁となって敵の足を止めることだった。

 

 「陳蘭隊!連弩一斉掃射!!北郷隊正面の敵を牽制!!」

 『はっ!!』

 

 袁術軍側にて先鋒を務めるのは、一刀と陳蘭の隊である。一刀の北郷隊が前曲となり、陳蘭の部隊がその後方にぴったりと付いた形での、所謂衝軛(しょうはん)という陣形を取っている。北郷隊が前面で直接黄巾の兵たちを討ち、陳蘭隊がその後方から連弩によって牽制、相手を怯ませた所に、また北郷隊が攻撃を行なうという、連携に重視をおいた形での用兵手段を彼らは採っていた。

 

 なお、陳蘭隊の兵たちが使っている連弩であるが、最大で三本の矢を同時に放てるだけの、いささか連弩と呼ぶには機能的に今だ不十分な代物ではある。とはいえ、それでも一刀提案の三段陣と併用する事によって、僅か一千程度の数のそれでも、十分以上にその効果を発揮していた。

 

 「くそっ!ほんとに次から次へとわらわら寄って来やがる!!オイ、一刀!一体後どれだけ続ければいいんだよ!?」

 「それこそこっちが聞きたいっての!向こうが動かない以上、まだ暫く続けるしか無いだろ!!クッ!このおっ!!」

 

 何時の間にか己の背後に駆け寄って来ていた陳蘭の、その半ば自棄になりかけのような怒声に対し、一刀もまた似通った感じで声を荒げ、自身に向かって来た黄巾の兵を切り伏せる。

 

 「大体俺は後方支援が本職なんだよ!もっといえば研究が本業なんだよ!戦場(こんな所)の一番前での部隊指揮やら戦闘は美紗か巴の仕事だっての!!」

 「そんな文句は後で七乃さんに言えよ!!というか、最初の軍議で拒否しとけば良かったろ!!」

 「あーくそっ!俺の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ!なんでこんな役を引き受けちまったんだあっ!!……えーい、お前らいい加減うっとうしいんだよ!!みんなまとめて吹っ飛べー!!」

 

 その口からこれでもかという位の文句を叫びつつも、陳蘭は愛用の武器である自身自慢の改造弩、零黒(れいこく)に装填された複数の矢を、次から次へと迫ってくる黄巾兵達に対し、時に連射、時に広く拡散させ、放ち続けるのであった。

 

 烏林の地における、袁・孫両家の軍が、黄巾賊の軍勢と干戈を交え始めてから、既に半刻ほどの時間が経っていた。

 

 まず、戦端を先に開いたのは、黄巾賊達の方であった。袁・孫両軍の自軍に対する接近を知るや否や、黄巾軍の先頭集団に居たおよそ二万ほどの者たちが、本隊から勝手に離れて彼らを迎撃、いや、襲撃して来たのである。

 そんな一部の黄巾兵たちの暴走は、二十万の黄巾を“自分達の思惑通りにどう誘うか”と考えていた、袁・孫の両軍にとってはまさに願ったり適ったりな事態であった。まずは、その暴走した者達をある程度撃退し、それを見かねた黄巾の本隊が一斉に動き出さ無ければ行けない様に仕向けるべく、両軍の先鋒を務める一刀と陳蘭、孫堅と孫策の四つの部隊が、その黄巾たちと刃を交え始めた。

 

 そして現在、両軍の先鋒部隊の奮闘により、暴走して飛び掛ってきた黄巾兵の数はすでに最初の半数近く、一万程度にまで減少させていたのであるが、一向に黄巾の本隊が動きだす気配が見えてこず、死者がまったく出ていない彼ら先鋒部隊にも、疲弊の色が見え始めていた。

 

 

 一刀と陳蘭の部隊が激戦を繰り広げている左翼と同様、右翼側にては孫堅と孫策の親娘もまた、彼らの負けず劣らずな死闘を演じていた。

 

 「そらあっ!!……どうだ雪蓮!連中に動きは?!」

 「まだ無い見たいよっ!!まさか連中、勝手に動いた仲間を見捨てる気じゃあ無いわよね!?」

 「さあね!ヒトであることを半ば放棄しているような連中だ!その通りかも……ねっ!!」

 

 互いにその背を預けながら、一刀たち同様に相手が動きだすその瞬間を今か今かと待ち、どんどん群がってくる敵兵薙ぎ払っていく孫親娘。後方にいる本隊からの援護の矢が、雨の様に敵に向かって降り注ぐその光景を見ながら、この慣れない防衛戦にかなりの苛つきを二人は見せ始めていた。

 

 「ああ、もう!次から次へとうっとおしいっ!!~~~もう、策なんて知った事じゃあないわ!母様!このままもっと前に出て、私達だけででも連中の本隊を叩きましょうよ!!」

 「馬鹿をお言いで無いよ!たとえ正面の連中を抜けたとしても、その先にはまだ十万以上の黄巾どもが居るんだよ!?ちったあ頭冷やせ、この馬鹿娘!!」

 「けど……っ!!」

 「気持ちは分かるが今は我慢だよ!!この連中さえ片しゃあ、本隊の連中もいい加減痺れを切らすさね!!次は我が身だと思ってねえ!!おらおらおらあっ!!」

  

 その外見のみならず、気性の方も良く似通った、孫堅と孫策であるが、二人では決定的に違っている部分がある。それは、己が血の滾りを抑制できているか否か、である。

 彼女らに限らず、どうも孫家の血統というのは、戦に出ると血が思わず滾り、それに酔ってしまう傾向があるらしい。孫権や孫尚香、そして孫皎にはそういった性癖は見えないので、どうやら長子にのみそれは現れやすいようである。

 実際、孫堅の母も、そのまた母も、彼女らの様に戦場ではそういう性癖が出ていたと言う。しかし、それはきちんと己を律してさえ居れば、ある程度は抑えられるものでもあった。孫堅も若い頃には、孫策のように血に酔って歯止めが利かなくなるほど暴走していたらしいが、歳を追うごとにそれを抑える術を身につけ、今ではあまり暴走(それ)が表に出ることはなくなっていた。

 もっともそれも、周りから見れば到底信じがたい程に、戦場における彼女の暴れっぷりが激しいことに違いはないが。

 

 「っ!?母様!!」

 「……やれやれ、やっと動いたかい。にしても、暴走した仲間がほとんど全滅してから動くとはねえ。こっちの疲弊を待っていただけなのか、それとも恐れをなしていただけなのか。さて、どっちなのかね?」

 「どっちでもいいわよ、そんなの。それより」

 「分かってるよ。全軍!予定通り連中の追撃に合わせて、“ゆっくり”、それでも“追いつかれない様に”、後方の州軍本隊目指して撤退だ!!」

 

 暴走して袁孫の両軍に襲い掛かってきた、黄巾の先頭集団二万が逃亡兵も含めて、完全に壊滅したその瞬間、理由の如何はともかく完全に傍観を決め込んでいた黄巾本隊が、漸くその重い腰を上げて進軍を開始した。その動きは全く統率こそ取れていないものの、やたらと高そうな士気に乗ってのその進撃の迫力は、まさしく黄色い大波という表現が的確なほどの、怒涛の勢いであった。

 

 だが、まさにその怒涛の勢いに乗った、彼らの進撃開始こそが、袁術軍と孫堅軍、その双方が待ちに待った瞬間なのであった。

 

 

 

 「一刀!」

 「分かってる!孫堅軍も動き始めた!俺達も彼女らに合わせて後方に後退開始だ!」

 「おう!」

 

 黄巾の本隊がついに動き出し、それを一刀ら同様見て取ったのであろう孫堅軍が、ゆっくり退がり始めたのを確認した一刀と陳蘭もまた、部隊に後退を促す。その動きは自然と袁・孫の、各本隊への合図ともなり、先頭に居た彼らが反転行動に入ったのとほぼ同時に、両軍の本隊もまた一斉に後退を開始した。

 

 袁術軍と孫堅軍が、黄巾軍を背にして後退していくその先には、彼女らからはやや遅れて襄陽を出立していた、蔡瑁率いる五万の襄陽軍が、そんなこととは露とも知らずに陣を展開していた。

 

 「さて、と。今頃連中、躍起になって黄巾どもと数を減らしあっておる頃だな。……ところで()(ちゅう)。……あの“馬鹿姉”はどうしている?」

 

 蔡瑁がその視線だけを送った先には、その見た目まるで鏡写しの様に瓜二つな、二人の“少女”が居た。片方の少女は黒髪を三つ編みのお下げに結った、ピンクのフリル付きワンピース姿。もう一人の方は、その真っ白な髪を角髪(ミズラ)という、古代日本の“とある”姫巫女がしていた“あの”髪型にし、黒い執事服に赤いネクタイを身に着けている。

 

 前者の黒髪お下げが蔡和。後者の男装娘が蔡中といい、蔡瑁の従妹にしてその副官を務めている人物である。

 

 「……(イン)(あね)さまな~ら、お城で大人しくしてますわ~よ」

 「……心配せずとも、ここにいる我等以外、貴様の正体に気付いて居る者など居らぬ。その様なことを気にかけている余裕があるのであれば、その分賊討伐に注力を傾けてはどうだ。え?蔡く…いや、蔡徳珪叔父御?」

 「ふん。貴様らのようなガキに言われるまでも無いわ。黄巾の賊如き、このわしが必ず蹴散らしてくれるて。……そうだとも。わしが、このわしこそが、本当の蔡家当主、蔡徳珪なのだ!……あんな気弱な姉如きでは無く、このわしが、だ!」

 

 その時、そう叫んだ蔡瑁のその瞳に映っていたのは、紛れもなく憎悪、だった。蔡和と蔡中の二人から、その背中に送られている、蔑みと共に哀れみが混じった複雑な視線に気付く事無く、蔡瑁はその瞳を遥か北方、襄陽のある方面へと向け、ひたすらに睨みつけていた。

 

 その時、である。

 

 「申し上げます!!先鋒の袁家軍及び孫堅軍が、こちらへ向かって撤退してきております!!」

 「なんだとおっ!?」

 「そ、それだけではございません!その両軍の跡を追うかのように、黄巾の本隊がこちらに突撃してきております!!」

 「なっ!?」

 

 伝令兵のその報告に対する驚きの余り、蔡瑁はその場で完全に固まって立ち尽くしてしまう。

 

 「……こ~れは、あの二人にやられた~わね」

 「……おそらくそうであろうな。張勲に周公瑾……じゃったか。さしずめ、コヤツに対する意趣返し、といった所か。のう、“貂蝉”?」

 「た~ぶん、“卑弥呼”の言うとおり、でしょうね」

 「……となると、袁家と孫家の軍がこの後取る行動は」

 「……一つしか、無いでしょう、ね。(……これは、私達にとっても好機、かもよ?卑弥呼)」

 「……一つしか、無いじゃろう、な。(……分かって居る。姉様を解放する、その絶好の、な)」

 

 棒立ち状態になって放心してしまっている蔡瑁のその背後で、小声でそんな会話を交わしつつ、蔡和と蔡中はとある計画を起こすための、その絶好の機会が訪れたと踏み、叔父であるその小男を絵に書いたような人物に、その冷徹なまでの視線を向けるのであった。

 

 

 

 「美紗ちゃん!黄巾たちはちゃんと付いて来てますね?!」

 「はい!しっかりこちらの誘導に乗ってくれています!!」

 「では“分かれますよ”!!赤旗挙げ!!」

 「全軍!右に()く転進せよ!!」

 

 袁術軍の最後尾、いや、今は最前列になっている隊を率いていた諸葛玄と雷薄の命を受け、大きな赤い旗が振られたと同時に、袁術軍の全軍が長蛇陣へとその陣形を速やかに変えつつ、一気にその進軍方向を変える。そしてそれと同時に、袁術軍に併走していた孫堅軍もまた長蛇陣へと陣形を変えつつ、袁術軍とは反対の方角へと転進行く。

 

 その袁術軍と孫堅軍を追撃していた黄巾軍は、突然目の前の標的が左右に分かれた事によって、一瞬の戸惑いを見せたのだが、十数万からなるその大群にいきなり制動をかける事など、所詮まともな指揮官も居ない彼らには出来ようはずも無く、そのまま真っ直ぐ、彼らの正面に陣取る別の一団、つまり蔡瑁率いる襄陽軍へと、勢いそのままに突っ込んで行った。

 

 「っ!?な、なんだこれは!?なにが一体どうなったと……!?」

 

 茫然自失状態にあった蔡瑁が、突如として聞こえてきた怒号と剣戟によって我を取り戻したとき、その場は既に取り返しの付かないほどの大混乱状態であった。五万の襄陽軍と十数万の黄巾軍が完全に入り乱れ、まともに敵味方の区別も付けられないほど、そこは泥沼の様相を呈していた。 

 

 「なんでだ?!なんでこうなった!?袁術も孫堅も、一体何をしてくれたのだ!!」

 「た~ぶん、あの娘達は最初っから、こ~れを狙っていたのでしょう~ね」

 「黄巾の本隊を我らの方にまで誘き寄せ、そして、寸手のところで軍を左右に分けることで、引っ張って来た黄巾軍を我らにぶつけた。……利用する腹積もりが逆に利用された、というところだな。ふ、見事な手並みよな」

 

 状況が一切飲み込めず、ひたすら慌てふためくばかりの彼のその背後に、何時の間にか自分たちの馬に跨った状態となっていた蔡和と蔡中が、袁術軍と孫堅軍の見事なまでの連携作戦に感心しつつ、馬上から自分達の叔父であるその男に向かって、冷めた視線と声を送った。

 

 「き、貴様ら!何をそんな暢気に状況を分析している!!往け!貴様らも前に出て戦え!!出なければあの女が、“本物の蔡徳珪”がどうなってもわしは」 

 「残念だ~けど、そ~んなこと、私達がする必要なんて、これっぽっちも、無~いわよ」

 「お主がここで名誉の討ち死にでもしさえすれば、わしらは何の気兼ねもなしに、銀姉上…本物の蔡瑁徳珪を助け出せるでの。……蔡叔父、いやさ蔡勲。ここが、おぬしの年貢の納め時、だな」

 「ま、せ~いぜい、奮闘してみることね。それじゃあ、もし、生き延びれたら、また、お会いしましょ?蔡勲叔父御?」

 「ま、待てお前た……ごっ!?」

  

 蔡瑁、いや、蔡勲のその静止の声には一切耳もくれず、蔡和と蔡中は乱戦の只中にある戦場を一気に突き抜け、傷一つ負う事無く駆けていった。その姪たちを制しようとし、自身もまた馬にまたがろうとした蔡勲であったが、まさにその瞬間、何処からともなく飛んできた流れ矢が彼の肺の腑を貫き、蔡勲はそのまま地に落下。……そしてそのまま、誰にも気付かれる事なく、息絶えたのであった。

 

 

 

 一方その頃、左右に軍を転進させた袁術軍と孫堅軍は、完全に大混乱に陥っている黄巾の先頭集団には一切目もくれず、最後の総仕上げにかかろうとしていた。

 

 「はいはいみなさ~ん。あちらさんは私達の思惑通り、襄陽軍と潰し合ってくれていますから、私達はこの隙に、最後に残ってるご馳走。あのお二人に安心して平らげていただけるよう、壁を作っておきますよ~」

 「……やっぱり、腹黒大将軍だよ、この女は」

 「……まあ、なんだ。……その分、頼もしいって事にしておこう。……では美羽様」

 「うむ。……荊州における黄巾の乱、この戦でもってそれを最後にするのじゃ!千州!合図を頼むのじゃ!!」

 「了解、お嬢。合図矢、放つぜ!!」

 

 袁術の声を受けた陳蘭は、零黒に連絡用の為として色をつけた矢を二本、同時に装填する。そしてそれを中空に向けて構え、同時に打ち上げた。袁術軍と孫堅軍が現在居る場所から、東の長江沿いに陣を張る黄巾軍の最後の戦力、この江南方面の黄巾軍大将がいる本陣へと、あの二人を突撃させるためのものを。

 

 それと同時に、袁術と孫堅の双方の軍は、それを邪魔されないようにするために、襄陽軍と大混戦を繰り広げている黄巾軍のその背後に、鶴翼陣でもって展開。本陣へ取って返そうとする者達を迎撃し、それを阻む事に全力を注ぎ始めた。

 

 「くそおっ!何で二十万からの大部隊である俺たちが、ここまで窮地に立たされなきゃならねえんだよ!?これじゃあ地和ちゃんに顔を合わせられねえよ!!」

 「んなもの俺に聞かれたって知らねえよ!あーくそ!荊州をぶん取って人和ちゃんに献上する目的が、木っ端微塵になっちまったー!!」

 

 黄巾の本陣にて、そんなことを絶望とともに絶叫している二人の男がいた。黄巾軍江南方面部隊の総大将である裴元紹と、その副将の周倉である。

 

 「どうするよ、元紹!?このままじゃあ青州に逃げ帰るどころか、ここで二人揃って仲良く首を晒す事になっちまうぞ?!」

 「どうもこうもねえだろが!何とかしてこの場を脱出」

 「てっ、敵襲ーー!!両翼から赤い軍勢がーーーっ!!」

 『うげっ?!』

 

 裴元紹と周倉の二人が逃げ出すための算段をし始めたその時、彼らの本陣に向かって、左右からまっすぐ突き進んでくる二つの部隊が現れた。この戦の当初、本体とは別行動を取り、黄巾の本陣を挟む形で伏していた、五百騎づつの紀霊と孫皎の部隊だった。

 

 「全騎!雑魚には目もくれるな!狙うは大将首ただ一つ!!紀霊隊、突撃ー!!」

 「孫皎隊も突撃です!袁術軍に遅れを取らぬよう、しかと働いて見せなさい!!」

 『おおーーーーーーーっ!!』

 

 紀霊隊と孫皎隊、その双方を合わせてわずか千の少数部隊が、本陣を守る黄巾軍五千の中へと、その左右から一気に襲い掛かる。騎馬と歩兵という相性の悪さもさることながら、浮き足立ち、慌てふためく元農民の集団では、まともな勝負はおろか必死になって逃げ惑うのが関の山だった。

 

 

 「そこの男!!この軍の大将と見た!!この紀霊の三尖刀、受けられるものなら受けてみよ!!はあーっ!!」

 「くそおっ!このまま何もせずに死んでたまるか!!黄巾南方将が一人、周倉だ!せめて一太刀でも浴びせてやらあっ!!」

 

 本陣のど真ん中において紀霊と周倉が戦いを始めたその一方で、孫皎もまた裴元紹を相手に一騎打ちを行っていた。

 

 「せえっ!!」

 「なんのおっ!!」

 

 孫皎の槍と裴元紹の戟が激しくぶつかり、火花と金属音が撒き散らされる。

  

 「賊将にしてはなかなかやるようです。名は?」

 「黄巾南方方面大将、裴元紹だ!地和ちゃんのためにも、こんなところで俺は死ねんのだよ!!ざああありゃっ!!」

 「くっ!……その意気やよし。ならばこの孫叔朗、全力をもってお相手いたします!!」

 

 れっきとした将である孫皎を相手に、もともとはただの無頼漢に過ぎなかった裴元紹が、意外にも良い勝負をして見せているその他方では。

 

 「……惜しい。これだけの腕があれば、どこぞに武官として仕官しても、十分やっていけるであろうに。なぜ、賊などにその身をやつす、周倉とやら」

 「……俺だって、昔はそう思っていた時期もあった。けどよ!官であれなんであれ、役人どもはほとんど腐っちまってるところばっかりだ!そんな連中なんぞに下げる頭なんぞこの周倉、欠片たりとて持ってねえんだよ!!」

 

 賊将としてはあまりにもったいなさ過ぎる、周倉のその武の腕に感心した紀霊は、彼をこの場で切り伏せることを惜しみ始めていた。それゆえ、何とか言葉で降せないものかと、刃を交えながら周倉を説き始めていた。

 

 そしてそれは孫皎の方も同様だったらしく、裴元紹に対して槍の穂先とともに、言葉もまた一つの武器として向けていた。

 

 「ならば裴元紹!張三姉妹、いや、黄巾はそれに、自身の武と生命をかけるに値する集団だと言うのですか!?力無く、そして罪無き民たちを蹂躙するような輩達が!」

 「う、うるせえっ!今は過渡期ってやつなんだよ!!人和ちゃんたち張三姉妹が大陸に君臨しさえすりゃあ、必ず全ては丸く収まる!!そうだとも!彼女たちの歌にはそれだけの力があるんだ!!」

 

 周倉にせよ裴元紹にせよ、そして他の黄巾党信者たちとて、一部の私欲に走った連中の暴走を快く思っているわけではない。だが、それはあくまで一過性のものに過ぎず、彼らが信奉して止まない張三姉妹が大陸の頂点に立ちさえすれば、もう誰も略奪や暴行を働くなるはずだと、そう信じ込むことによって、彼らは今の己というものを何とか保ち、奮い立たせているのである。

 

 「っ!?……元紹?……よく生きていたな、お前」

 「倉か。へっ、てめえもな」

 

 互いに一騎打ちと会話に神経を集中し過ぎていたためであろうか。いつの間にか互いの背がぶつかるほどの距離まで接近していた裴元紹と周倉。無論、彼らの視線はその戦いの相手である、紀霊と孫皎に向けられたままである。

 

 「よくぞ、と言いいましょう。私達を相手に、一歩も退かぬその意気、まさに見事」

 「故に、もはやこれ以上言葉は送らぬ。後は我らが武によって、お前達の心を叩き伏せるまで」

 「……へ、やれるもんならな」

 「……死ぬ前にもう一辺、地和ちゃんたちの舞台を見たかったぜ……」

 「……縁起でもねえ事言うんじゃねえよ」

  

 笑顔。もはや腕にも足腰にも、ほとんど力が残っていないにも拘らず、どこか爽やかな表情を浮かべている、裴元紹と周倉であった。

 

 「……では、参る」

 「あなた達のその高き矜持、けして忘れません。……心置きなく、逝かれなさい」

 

 

 

 それから半刻ほど後。

 

 戦場全域に、黄巾の南方方面軍大将と、その副将の討ち死にの報が流れた事により、生き残っていた全ての兵がその戦いを停止し、この地における大乱戦は終結を見た。

 

 襄陽軍の大将である蔡瑁までもが討ち死にしていた事だけが、今回の戦策を練った張勲と周瑜にとって唯一の誤算であったが、まさかそれが、思わぬ形でいい方向に働いていようなど彼女達は露とも知らず、戦場での事後処理と負傷兵や敗残兵の取りまとめを行い、それと併せて戦死者達の身元がわかるような遺品を回収して後、遺体を敵味方関係なくその場で荼毘に臥し、鎮魂の祈りを捧げて失われた生命のせめてもの冥福を、袁孫両軍の全員で祈ったのであった。

 

 その後、降伏した黄巾の兵達を引き連れ、両軍は襄陽の城に凱旋した。

 

 諸手をあげ、喝采を送ってくれる者たち。

 

 手渡された遺品を持った両手で、その顔を覆い隠し、泣き崩れる戦死者の家族達。

 

 そういった、それぞれの反応を見せる街の人々を複雑な心境で見つめながら、一行は襄陽の城の正門前に足を運ぶ。

 

 そこで彼ら彼女らを出迎えたのは、荊州軍の軍服を纏った一人の少女と、その脇を固める蔡和、蔡中達であった……。

 

 ~つづく~

 

 

 狼「はいどうも~。あとがきのコーナーでございマース」

 輝「ども。あとがき担当、本編では影の薄い輝里です」

 命「出番あるだけそなたはマシであろうが。影が薄いどころか出番すらない、あとがき担当その二、命じゃ」

 狼「だってしょうがないじゃん。この外史じゃあ輝里は所詮脇なんだし、命に至ってはもう」

 命「すとっぷ、じゃ。・・・自分でこの先のネタばらししてどうするのだ」

 狼「それもそだね。じゃ、本編解説、逝って見よー」

 

 輝「なんていうかさー、七乃って、やっぱ・・・黒いよね」

 命「それを言うのであれば、一緒に策を練った冥琳こと周公瑾もな」

 狼「出番ぜんぜん無かったけどね、冥琳w」

 輝「まあ、戦については本文で書いた以上の事はないんで、それはちょっとおいといて。あの、蔡瑁のことなんだけど」

 命「・・・にせもの・・・だったんじゃな、あやつ」

 狼「ふっふーん。さすがに誰も気づいてなかったろうねー。まあ、前話ではそういう伏線、ちっとも張らなかったし、当然と言えば当然だけど」

 ??「・・・いつもの思いつき、じゃ無いのか?」

 狼「サテ、ナンノコトヤラ。・・・って、千州?珍しいな、楽屋にくるなんて」

 千「とりあえず、作者に一言だけ言いたくてな。なんで俺を前線に出した?俺の本分は研究開発であって、戦場で戦うことじゃあないんだが?」

 狼「んなもの、後々の伏線張りに決まってるだろうが。それとも何か?美紗をお前さんの代わりにあの場に配して、一刀とのフラグが立てた方がよかったのか?」

 千「んぐっ!?・・・けど、伏線って言う割には、それらしい会話が無かったじゃんか」

 狼「一刀とお前さんが一緒に前線にでた。それが十分伏線なの」

 輝「ま、仲良く論議している二人は放っておいて、次に行きましょ」

 

 命「しかしそれにしても、じゃ。・・・あの従姉妹どもって・・・」

 輝「真名の通り・・・なわけ?父さん」

 狼「おう。まあ、筋肉で出すか本来の姿で出すか、どっちにしようか散々悩んだけど、最終的にああなった(笑)。大・小喬も考えたけど、やっぱインパクトの高い方が面白いからね」

 輝「・・・で?管理者としての記憶は?」

 狼「持ってない。完全な転生。なので連中も単なる脇。メインのストーリーにはほとんど絡みません」

 

 命「最後に出てきた裴元紹と周倉じゃが、あの二人・・・仲間フラグかや?」

 狼「片方だけね。どっちかはまた次回でお知らせします」

 千「まだ決まってないだけだったりな」

 狼「そこ、るっさい!」

 

 輝「と言ったところで、今回はここまで」

 命「では次回、真説・恋姫†演義 仲帝記、第十五羽にて、またお目にかかろうぞ?」

 狼「今回も沢山のコメント、ツッコミとともにお待ちしております」

 千「非難、誹謗、中傷はすんなよ?それがマナーって奴なんだからな?」

 

 全員『それでは皆さん、再見~です!!』


 
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