No.327280

真説・恋姫†演義 仲帝記 第一羽 「始まりは絶望より」

狭乃 狼さん

どーもー。
似非駄文作家もどきこと、狭乃狼でございます。

それではこれより、新たなる恋姫演義、『仲帝記』の開幕でございます!

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2011-10-31 19:09:23 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:23323   閲覧ユーザー数:15037

 

 

 

 天使を見た―。

 

 

 

 

 

 彼が目を覚ましたとき、その視界に移ったものは、満面の笑顔を浮かべた一人の少女だった。……陽光を背に、自身の顔を興味津々に覗き込むその金髪の少女が、自分が目を覚ましたその事を素直に喜び、幼さの残るそのあどけない笑顔を見せた時。これは天使の笑顔だと、彼は純粋にそう思った。

 

 「……一目惚れなんてもの、漫画とかドラマの中だけのことかと思っていたけど、現実に起こりうるものなんだなあ……。しかもそれが初恋だってんだからなあ……」

 

 こういうのを、事実は小説より奇なりって言うんだっけ、と。彼は心の中でそう思った。

 

 そう。彼はその少女に、恋をしたのだ。頬が一瞬で火のように熱くなり、心臓はこれでもかというぐらいに大きく脈打ち、思考の全てが停止したのではないかと言うぐらいに、頭の中は一瞬で真っ白になった。そんな状態の頭で、彼が考えていた事はというと。

 

 (彼女の力になりたい。そして彼女が本当にあの人物なら、この先に待ち受ける運命から救いたい)

 

 ただそれだけであった。

 

 それまで自身の心を覆っていたその闇を、一瞬にして掃ってくれたその少女の微笑みに、彼はついに光を見出したのだから。

 

 

 

 彼の名は、北郷一刀。

 

 

 

 後に『白衣将軍(びゃくえしょうぐん)』と呼ばれることとなる彼の、その全ての始まりの時は、この出会いの時より、およそ一月ほど前に遡る……。

 

 

 

 

 

 

 

  第一羽「始まりは絶望より」

 

 

 

 

 

 「……どこだ、ここ?」

 

 彼の視界に映るものは、見渡す限りの大平原と、何処までも続く蒼い空だった。

 

 「……え……っと。確かついさっきまで、学校からの帰り道を歩いていたよ……な?……で確かそれから……そうだ!その途中で、この世の物とは思えない異様な姿をしたパンツ一丁の筋肉だるまに会ったような……!!……はて?たしかソイツと何か会話したような気がするけど……ん~、思い出せない……」

 

 腕を組み、その時の事を必死で思い出そうとする、白い服を着たその青年。名前は北郷一刀。日本の某都市にある聖フランチェスカという学園の、【大学部】に通う、当年とって十九歳。ちなみに専攻は政治経済である。

 

 「……って、ちょっと待て。何で俺、高校時代の制服なんか着てるんだ?!そうだ、荷物は……?!」

 

 どういう訳かは知らないが、自身が同学園の高等部に通っていた頃、毎日のように袖を通していたポリエステル製の制服を何時の間にか着ていたことに驚きつつも、彼は自分のすぐ周囲を見回す。そしてそこに、一つの鞄が落ちていたのを発見した。

 

 「……おいおい、一体どうなってんだよ。これも俺が高等部時代に使っていた奴じゃないか。……も、訳分からん。えっと、中身は……ふむ。ノートが五冊とボールペンが五本、か。後は……え?これってもしかして……?何でこんなものが入ってんだよ?……っ!?誰だ!?」

 

 うーむ、と。その鞄があった事自体もそうだったが、その中身に一刀がさらに頭を悩ませて居るところに、不意にその背後によからぬ気配を察した彼は、反射的にその身を翻していた。そうして体を反転させた彼の視界に入ったのは、いかにもガラの悪そうな雰囲気を漂わせた三人の男達。

 

 「おい兄ちゃん。あんた珍しい服着てるな?」

 「こりゃ結構高く売れそうですぜ、アニキ」

 「……い、命が惜しければ、み、身包み置いて行くんだな」

 「……」

 

 ドラマや漫画で、大昔の強盗がよく言ってるよなあ、と。そんな考えが彼の頭を一瞬よぎる。……どうかこれが、夢か、もしくは何かの冗談であって欲しいと、心底からそう願いつつ、一刀は恐る恐る、その三人に問いかけていた。

 

 「……え……っと。あの、それって何かの撮影……ですか?その格好もコスプレ……だったりとか?」

 

 「ああ?さつえい?……何言ってんだ、てめえ」

 「こ、こすぷれ?何わけの分からねえ事言ってんだ?ああ?!」

 「お、オデたちを馬鹿にし、してんだな?」

 「……まじですか?」

 

 

 三人からの返事を聞いたその瞬間、一刀の中で最後の頼みとでも言うべき糸が、ぷつりと切れた。他の状況はともかく、今自分は、現実に追いはぎに遭っているのだと言うことを、その時点で完全に認識した一刀。……三人の男達のうち、中肉中背の男の背後に立つ巨漢の男が、彼らのものと思しき三頭の馬を抑えている。馬という足を持っている者達に対し、逃げるという選択肢が現実的ではない以上、一刀には二通りの選択肢しか残されては居なかった。

 

 大人しく、言うことを聞いて身包み渡すか。それとも、実力の分からない相手三人に、正面切って喧嘩を売るか。

 

 前者を選べば、少なくとも命が助かる可能性が、この場限りにおいては多少生まれるかもしれない。しかし、何処とも分からないところで全てを投げ出せば、その後に待つのは自滅のみ。

 

 では、後者を選んだ場合はどうなるか?……その選択をした場合、相手取らねばならないその三人を、一刀はその瞳だけを動かし、じっくりと観察をし始めた。

 

 (……少なくとも、こいつらからは不動(ふゆるぎ)さんみたいな威圧感は感じない。その動作、一挙手一頭足からも、とても達人には見えない。……このぐらいの相手なら、せめて木刀か何かでもあれば……って待てよ?確か鞄の中に……!!)

 

 自分でも勝てない相手ではない、と。その三人を見て判断した一刀は、三人には気取られぬよう、背後に回した鞄に手を入れて中をまさぐる。そしてその中に入っていた棒状のモノをしっかりと掴み、手持ち部分についている“突起”を確認する。

 

 「おい、兄ちゃん。さっきから何ごそごそやってんだ、ああん?いいからとっととその服脱ぎな。でもってさっさとその荷物を置いて消えちまえよ」

 

 ずい、と。三人の内の一人、中肉中背の、アニキと他の二人から呼ばれていた男が、腰に挿していた剣を抜き放ちながら、鞄を後ろ手に立つ一刀へと、その距離を詰めていく。

 

 「……えっと。も一つ聞きたいんですけど、その剣って本物……?」

 「はあ?んなもの当たり前だろうが!いいからとっとと荷を寄越しやがれ!」

 

 ぶんっ!と。男が何時までも煮え切らない態度の一刀にとうとう切れ、その剣を思い切り上段から振り下ろした。

 

 「……っ!このっ!!」

  

 がぎいっ!!……鈍い金属音を響かせ、一刀は鞄から“それ”を取り出しつつ、手元の突起を押して一瞬で伸ばした金属製の棒―警棒でもって、男の剣をしっかりと受け止めた。

 

 「な、なんだと?!」

 「……隙ありっ!!」

 「おうわあっ!?」

 

 自分が思い切り振り下ろした剣を、突然取り出した棒のような物で、一刀が軽々と受け止めた事に驚いた男が見せた一瞬の隙。そこを付いて男の手首をがっしりと掴み、その腰紐に手をかけ、一刀は背負い投げで男を思い切り投げ飛ばした。……受身などというものを知らない男は、地面に思い切り叩きつけられた。……そして運が悪かったのだろう。彼は地面にあった少々大きめの石に、その頭を思い切り打ちつけ……即死した。

 

 「……え?ちょ、し、死ん、だ……?うそ。……殺し、た?俺が?人、を……?」

 「あ、アニキ!てめえ!よくもアニキを殺しやがったな!」

 「お、お前も殺してやるんだな!!」

 「……あ、あ、あ、あ、あ……!!ああああああああああああああああっっっっっっっっっっ!!」

 

 

 

 ……そこから先の事は、彼自身あまり覚えていない。気がつけば、最初の男と同様、残る二人も血反吐を吐き、その場に物言わぬムクロと化して転がっていた。……それから一体、どれほどの時が経ったかだろうか。

 

 気がつけば、先ほどまで雲一つ無かった筈の蒼空は、真っ黒な雨雲によってその姿を完全に隠し、その黒雲からまるで滝のような激しい雨が降りしきり始め、地に両膝を着いて脱力し、呆然としている彼の体を容赦なく叩きだしていた。

 

 「……なにやってんだろ、おれ……」

 

 何処とも知れない場所に一人放り出され、その挙句、人を三人もその手にかけた。……たとえ、そうしなければ、今頃そこに転がっていたのが彼らではなく、自分自身だったかもしれなくとも。

 

 「……カルネアデスの船板でもあるまいし。……ああ、確か日本の法律にも、そんなのがあったっけか、な……?は、はは、ははは……ハハハハハハハハハハハッッッッ!!」

 

 その笑いは、一体何の笑いだったのか。人殺しと言う、逃れようの無い事をしでかした事実から、自身が知識として知っている弁護手段を思い出し、逃避しようとしているそんな自分の滑稽さに対する嘲りなのか。

 

 「……は、はは。……誰か……助けて……くれ、よ……」

 

 空しい願いと分かりつつも、彼はそう呟かずには居られなかった。……そうして、ひとしきり、もはや枯れ果てたのではないかと思うほどに涙を流した後、彼はその手に鞄を握り、逃げるかのようにしてその場からふらふらと歩き始めた。

 

 「……」 

 

 ……何時の間にか、先ほどまでの豪雨がはすっかり止み、再びその姿を現したその蒼空の下に広がる大地のその何処かに、こんな自分を救ってくれる、もしくは“楽にしてくれる”所を、ただ捜し求めて……。

 

 

 

 それとほぼ時同じ頃。

 

 「七乃~!今向こうの方に流れ星が見えたぞ!」

 

 高く蒼い空を指し示し、その少女は自身の瞳に捉えたそれを、驚きと興奮が入り混じった顔で見つめつつ、同じその部屋にいた女性に教えて聞かせた。

 

 「……こんな時刻に流星ですか、お嬢様?」

 「間違いないのじゃ!……もしや例の噂の奴じゃったりしないかのう?」

 「……だとしても関係ないですよ~。だってうちはこんなに平和なんですもの~。ね~、お嬢様?」

 「ま、それもそうじゃな♪あ、それよりも七乃!次の蜂蜜水を持ってくるのじゃ!」

 「はいは~い♪すぐにお持ちしますね~」

 

 上機嫌で笑うその金髪の少女に言われるがまま、青い髪の女性は足早にその部屋から出て行く。その女性を笑顔で見送った後、少女は再びその視線を蒼い空へと移す。

 

 「……『蒼空を裂いて地に降りる流星。そは天よりの御遣いを乗せる。その者、始め闇に落ちるもやがて光を見出し、大陸を平穏へと導くその片羽とならん』……じゃったかな?ま、菅輅とかいう似非占い師のいい加減な噂じゃし。妾には関係の無い話じゃの♪……おっと。そんなことより今は蜂蜜じゃ!七乃~!蜂蜜水はまだかや~?!」

 

 先ほどまでの憂いを帯びた表情は何処へやら。すぐさま普段どおりの、無邪気で天真爛漫な少女に戻り、彼女は自分の大好物である蜂蜜水を取りに行った先ほどの女性を急かすため、ぱたぱたと軽い足取りで部屋を出た。

 

 大陸中部、荊州は南陽の地にて、その太守の地位にあるその少女。

 

 姓を袁、(いみな)を術、字を公路という。

 

 今からおよそ三年前。彼女の母であり、前南陽太守であった袁逢が逝去し、当時十三才になったばかりの彼女がその跡を継ぐこととなった。だが、その歳の若さを主な理由とした彼女の一族たちにより、袁術は政から一切遠ざけられ、その側近兼教育係である先ほどの女性、張勲のその手により、教育という名の甘やかしを受けて、その姿同様、心幼い童のままに日々を送り始めた。

 

 そしてそれから三年間。彼女は城から一切出ることは無く、例え日の下に出ることはあっても、せいぜい城中の中庭までしかその目にすることは無くなった。……その間に、彼女に代わって街を運営している一族たちの手により、南陽の街がどんどん寂れて行き、その事によって募って行く人々の不満と怨嗟の声が、すべて自分自身に向けられていることなど、露とも知らずに。

 

 

 

 そして、そんな南陽の街に、件の彼、北郷一刀が流れ着いていた。

 

 「……酷い所だな、此処。……ま、俺にはどうでもいいことだけど……(ぐぅ~)……腹減った、な……もうこれで、何日食べていないんだっけ……」

 

 例の追いはぎ三人を“殺して”しまったあの日から、一週間という日が過ぎていた。この間、彼がその口にしたのは幾ばくかの野草のみ。それも、火を通さずに川の水で洗ったと言うだけの、決して衛生的ではないものばかり。水分は川の水や雨露で補給こそできたものの、彼の体力はもはやほとんど限界に来ていた。

 

 「……やべ。目の前が霞んで来た……はは、まさか行き倒れた末に、餓死することになるなんて、な……貴重な、体験を、したもん……だ……」

 

 どさ、と。なんとか振り絞っていた気力もついに切れ、とある建物の壁にもたれかかるようにして崩れ落ちる一刀。……もはや生き倒れなどは珍しくもなんとも無くなったこの街の人々は、そんな一刀をその視界に捉えても、誰一人その手を差し伸べる事をしなかった。……自分達自身が、その日その日を生きていくのに必死な状況で、他人を助ける余裕など、その気持ちとは裏腹に、何処にもありはしないのだから。

 

 「……このまま俺が死んだら、服も荷物も、全部持って行かれるんだろう、な……。でもまあ、それで誰かが、得をするって言うんなら、それだけでも、俺がここに来た、その意味があるかも、な」

 

 己の命が危機に晒されていると言うのに、一刀は薄れ行く意識の中、そんなことを呟いていた。人を殺した自分の罪が、それで少しでも償えるのなら、誰かの力に、少しでもなれたのなら、それはそれで本望かもな、と。

 

 「……なんだか、とっても眠たい、な……じいちゃん、ばあちゃん、とうさん、かあさん、……、おやす、み……」

 

 瞼の重さに耐えられなくなり、一刀はゆっくりと目を閉じた。……その意識が、深い眠りの淵へと落ちる寸前、一刀の耳はその声を捉えていた。

 

 「……生き倒れか。ふむ、いまさら珍しいわけじゃあないけど、人の家の前で出られると、流石に無視できないんだよねえ。それにこの服装……結構変わった格好だし、意外と面白い拾い物になるかもね」

 

 声の主はそれだけ言うと、眠りについた一刀を抱えあげ、自分の家の中へと運び込んだ。……この人物に、運よく拾われた事。それが後に、一刀が生涯その愛を誓う事となる人物との、その出会いへと繋がる事となるが、無論今の彼にそれを知る術などあるはずも無く、今はただ夢の中、その温かで懐かしい安らぎに身を委ねるのであった。

 

 

 

 「ったく。こちとら研究で忙しいってのに、急に呼び出したりしてさ。これでつまんない用事だったら、新しい研究の実験につき合わせてやる」

 

 ぶかぶかのニット帽とゴーグルを被り、長いコートの様なものを着て、街中をぶつぶつ言いながら歩くその人物。棒付き飴を咥えたままのその口から紡がれた声から察するに、どうやらいまだ年若い青年のようである。そんな彼が歩くその通りは、いつも通りの閑散具合で、行き交う人の姿もまばらである。

 

 「……暫く研究所に篭っているうちに、また荒れ具合が進んだかな……?ま、仕方ないといえば仕方ないか。あの年寄りどもがここの実権を握ってる内は、なんともなりやしないし、しようもないんだからね」

 

 現状、この南陽郡の中心都市である宛県を牛耳り、好きなように動かしているのは、この郡の太守である袁術の一族達である。そしてその一族の者達は、いまだ幼い袁術の名前だけを表に出し、自分達の懐を温めるその為だけに、好き勝手に郡を動かしている。

 

 「……公路のお嬢ちゃんはともかくとしても、あの腹黒大将軍だったらあんなジジイどもぐらい、その気になればすぐにでも排除できるだろうに。そうすればこの郡だって少しは……って。何考えてんだ俺は。……俺には関係ない。そう。関係ないんだ。……好きなだけ研究が出来て、美紗(みしゃ)さえここに居るんなら、後はどうでも良いんだ……っと。いけないけない。行き過ぎるところだった」

 

 そんな思考と独り言を続けているうち、思わず目的地であるその一軒の家を通り過ぎようとしていたことに、彼は慌てて気付いてその足を止める。

 

 「秋水(しゅうすい)さんー?居ますかー?俺ですー、千州(せんじゅ)ですー。呼ばれたとおりに来ましたよー?」

 「ああ、来ましたか。ちょっと今手が放せないんで、入って来て下さい」

 「はーい。じゃ、お邪魔しますよー」

 

 家の主のその声を聞き、扉に手をかけて中へと入っていく青年。そこで彼の視界に捉えられたのは、どこか和服に似た雰囲気を持った着物を着、白い帯をその腰に縛った壮年の男性と。その彼に介抱を受けている、寝台に寝そべった一人の人物の姿だった。   

 

 

 「……秋水さん貴方……何時から男色趣味に目覚めたんですか?」

 「いきなり人聞きの悪い事を言わないでくださいよ、千州君。……ただの行き倒れ君ですよ。昨日、僕の家の前に倒れて居たんで拾ったんです。そのまま見過ごすのも気分が悪かったものでね」

 「……で、ほんとの所は?」

 「いやあ。彼の着ている衣装が珍しかったもので。面白い拾い物になりそうかと」

 

 白い歯を見せてそう笑って(うそぶ)くその男性に、やれやれまたですか、と。呆れて嘆息を吐く千州と呼ばれた青年。

 

 「……で?行き倒れ君の容態はどうなんです?」

 「ああ。一応昨日の夜中に目を覚ましましてね。その時出した粥をぺろりと平らげたと思ったら、またそのまま眠っちゃいましたよ。……よほど疲れていたんでしょうねえ」

 

 見た目どこかあどけなさの残る、寝台で静かな寝息を立てているその人物をちらりと見やる、青年から老師と呼ばれたその男性。

  

 「……これからどうするんです?」

 「そうだねえ。一応目が覚めるのを待って、身分を問いただしてから、その扱いを決めますよ」

 「……どこかの間諜かもと?」

 「それは無いでしょう。……南陽(うち)の粗なんて、わざわざ間諜を使わなくても、それこそそこら中に転がってますしね」

 

 そもそも、他人(ひと)の領地に間諜を送り込んでくる様な暇人自体、居るかどうかも疑わしいですが、と。そう付け加えて、少々皮肉っぽい笑いをその顔に浮かべる男性。  

 

 「う……ここ、は……」

 「お。どうやら起きたようですね。……どうです?頭のほうはハッキリしていますか?自分の名前、言えます?」

 「……俺は……北郷、一刀……」

 「性が北で名が郷、字が一刀……かな?随分変わった姓名だな」

 「いや、姓が北郷で、名が一刀です……って。あの、ここは一体……?それに貴方たちは……?」

 

 きょろきょろと。目を覚まし、寝台の上でその上体を起こしたものの、自身がどういう状況に置かれているのか、いまだ把握の出来ていない様子の一刀に対し、室内に置いてあった水差しから、椀に白湯(さゆ)らしきものを注いだ壮年の男性が、それを笑顔で差し出す。

 

 「ここは荊州南陽郡の宛県の街。その中にある僕の家ですよ。君は昨日、僕の家の前で衰弱して倒れていたんです。……覚えていますか?」

 「……そう、ですか。それは、その、大変ご迷惑をおかけしまして。……有難う御座いました……えっと」

 「あ、そうですね。僕らの方はまだ名乗っていませんでしたね。いや、これは失敬。……僕は姓を諸葛、名を玄、字を一真(いっしん)、と言います。……千州君。ほら、君も」

 「……まあ、先に名乗らせちゃったんだし、こっちが名乗らないのは礼に失するか。……俺は姓を陳、名を蘭。字は白洞だ」

 

 

 ~to be continued……

 

 

 

 狼「はい。というわけで始まりました、新作の袁術ルート、その第一羽で御座います。作者こと、似非物書きの狭乃狼です」

 輝「御無沙汰してまーす。徐庶元直こと、輝里でーす」

 命「皆、久しぶりじゃ。劉弁こと、李儒こと、命じゃ」

 狼「さてさて。ついに始まった袁術ルートですが、いきなり初っ端からオリキャラ登場です」

 輝「諸葛玄さんと陳蘭さんですね。どっちも正史で袁術さんの所の配下だった人たちです」

 命「そういえば二人とも、確かよそ様から提供してもらったキャラクターではなかったか?」

 狼「です。諸葛玄は『南華老仙』さんから。陳蘭は『戦国』さんから。それぞれにキャラをご提供いただきました。この場を借りて、お二人には篤く御礼申し上げます」

 

 命「ところで、先の二人の真名についてじゃが」

 狼「一応、お二人それぞれから真名も貰いはしました。諸葛玄の方は、字の一真が本来真名として貰ったものだったんですが、なんとなく字の方にイメージが合ったんで、結局そっちに使いました。ちなみに、陳蘭も同様です」

 輝「諸葛玄さんの方の秋水って真名、あれって父さんのオリジナル?」

 狼「うんにゃ。老仙さんからもらった諸葛玄のキャライメージってのが、某ぶ○ーちに出てくるキャラそのものだったんで、その名前の一字である『春』を『秋』に変えて使いました。ぶっちゃけこの方が語呂と発音が良かったんで」

 輝「陳蘭さんの方は、キャラ提供者である戦国さんのユーザー名をもじって作ったわけよね?」

 命「『戦国』→『千国』→『千州』って感じだったか?」

 狼「そそ。州って字は『くに』とも読むからね。かといってそのままセンクニ、とかセンシュウって読むのもいまいち語呂が悪いんで、センジュ、と読むことにしました」

 

 命「さて。まずは諸葛玄と陳蘭という二人に拾われた一刀じゃが、袁術との出会いはもう少し先かの?」

 狼「そだね。まあ、少なくとも三話目か四話目位には初対面を果たす・・・って感じかな」

 輝「黄巾の乱って、まだ始まってないのよね?」

 狼「ん。そのおよそ一年前ってところ。乱が本格的に勃発するまでに、一刀と美羽が出会って、で、美羽の性格をうははから矯正していきます」

 命「・・・となると。やはり問題は張勲こと七乃・・・かの?」

 狼「そういうことやね。彼女をいかに、美羽至上主義のまま、美羽に対する考え方と接し方を矯正するか・・・だな」

 輝「・・・そっちのほうがかなり苦労しそうね・・・」

 

 命「ところで親父殿?この外史には、妾達の出番はあるのかや?」

 狼「・・・・・・すまんが、この外史に出番があるのは、ぶっちゃけ輝里だけだ」

 輝「あ、私出番あるんだ」

 命「むう。輝里だけとは・・・贔屓ではないのか?」

 狼「んなこと無いって。輝里だけはどうしても、外せないもんでね。・・・ライバルさんが出る以上は」

 輝「ライバルって・・・まさか、ひsむぐっ!」

 狼「はいはい、そこまで。ネタばれも過ぎると面白くないからね」

 命「・・・今ので十分、ネタばれじゃと思うがの」

 

 狼「それでは今回はここまで」

 輝「諸葛玄、陳蘭の二人に拾われた一刀さんが、袁術さんとの邂逅までどのような日々を送るのか?」

 命「そして、次なるオリキャラがさらに登場・・・の、予定だそうじゃ」

 狼「次回、真説・恋姫†演技 仲帝記、その第二羽」

 輝「「闇にあがく青年」にて、お会いいたしましょう」

 命「では皆の衆、次回までゆっくり待っててくれな?」

 

 三人『再見~!!』

 


 
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