No.193318

はつもうで

さむさん

神のみぞ知るセカイ・エルシィメインSSです。

どんだけ需要があるかはわかりませんが、楽しんでいただければ幸いです。

2011-01-02 01:24:20 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1822   閲覧ユーザー数:1759

神のみぞ知るセカイSS

 

はつもうで

 

 

 

「にーさま。初もうでに行きましょうよ、初もうで」

 

 エルシィが桂馬を誘ったのは正月二日の朝だった。

 

「おいおい、悪魔が神社にお参りするのかよ」

 

 対する桂馬は徹夜明けで目をショボつかせながらパックの豆乳をジュルジュルやっている。

 正月だろうとなんだろうとライフスタイルを変える気は全く無いようだ。

 

「別にいいじゃないですか、悪魔だって願いごとくらいあります」

「だいたいなんでボクなんだよ。初詣なら歩美やちひろと行けばいいだろ」

「歩美さん達となら昨日行きましたよ」

 

 このあたりで一番大きいだけあって混み合っていた舞島神社の様子を思い出しながらエルシィが答える。

 地獄には当然ながら神社などないし、昨日が(悪魔だけど)人生初の初詣ということになる。

 着飾った姿の女性たちが印象的だった。

 

「だったらもう行く必要ないだろうが!」

「それはちがいますよ。初詣には何回行ったっていいんです」

 

 珍しく桂馬の誤解を指摘できた彼女はちょっぴり胸を張るようにした。

 

「どうせなら家族の人とも行きたいじゃないですか」

 

 こういう時には晴れ着を着るものだと昨日教わった彼女は自分も着てみたかったのだ。

 それに、

 

(冬休みに入ってからずっと、神様はゲームばっかりです――――それは今までもやってましたけど。でもでも、こんな何日も徹夜してっていうのはなかったです……せっかく女の子と親しくなれたのに向こうはそのことを覚えてないっていうのはやっぱり辛いですよね。だからってこのままじゃ体を壊しちゃいます)

 

 こんな思惑もあった。

 エルシィと桂馬にとって駆け魂狩りとは即ち心に隙間を抱えた女の子を恋に落とすことだ。恋愛感情で隙間が埋まれば駆け魂はその娘に潜めなくなる。その後、駆け魂が抜けた女の子の記憶が消される。

 

(でも、いくら女の子を助けるためだからって、それでにーさまの心に隙間ができちゃったら意味ないですよね)

 

 彼女がそう仕向けたのではないにしろ、責任を感じてしまうのはある意味当然と言える。

 

「高校生にもなって家族で初詣なんて普通、しないだろ。それに家族ならもう一人いるじゃないか」

「だってお母様は新年のあいさつ回りとかで忙しいって……ねー、にーさまぁ」

「ボクはゲームするんで忙しいんだ。諦めろ」

 

 桂馬にすげなく断られたエルシィは、うーうーとしばらく唸っていたが

 

「もう、こうなったら実力行使です。とりゃー」

 

 気の抜ける掛け声と共に身にまとった羽衣を操ると、桂馬の身体をがんじがらめに縛りつけてしまった。

 

「なにすんだ、このバカ!」

「じゃあ、私は着替えてきますから~」

 

 彼女は身動きできない桂馬を置き去りに、スキップしそうなくらい機嫌よく自分の部屋に入って行くのだった。

 

 

 しばらくして――――羽衣を変化させて着物を出したはいいものの、上手く着付けができず、結局見た目だけそれっぽくしたエルシィが出てくるのに小一時間ほどかかった――――エルシィと桂馬の二人は近所の小さな神社に来ていた。

 より正確に描写するなら、エルシィが桂馬をずるずると引きずって来た。

 小さいせいか参拝客も少なく、つい昨日、舞島神社に行ってきたばかりのエルシィは寒々しく感じてられてしまう。

 もっとも、二人の奇行を見咎められる可能性も減るので、一概にどちらがいいというものではないだろう。

 この神社の人にしてみれば、かき入れ時に人がいない現状は死活問題ではあるが、それは二人には関係ないことだ。

 

「さあ、お参りしましょー」

 

 人影もまばらな境内を彼女一人でカバーするかのような元気なエルシィの声が響く。

 

「……まったく。さっさと済ませて帰るぞ」

 

 それに応える桂馬は投げやりもいいところだった。

 二人はお社の前に並んでお参りをする。

 賽銭箱に硬貨を投げ入れ、鈴を鳴らし、ぺちぺちとちょっと情けない音を立てて拍手を打つエルシィ。

 目を閉じて祈る姿は真剣そのものだった。

 願いごとをした彼女がやがて顔を上げ、隣りを見ると――――桂馬はいつの間にか、取り出したPFPの液晶画面を見ていた。

 

「ちゃんとお参りしましょうよー。怒られちゃいますよ」

 

 視線が下がっているため、遠目には畏まっているように見えないこともないのだが、神社の関係者が目にすれば激怒するのは間違いない。

 もっとも、当の桂馬に言わせれば

 

「神であるこのボクが現実の神に頼みごとなんてするわけがないだろう」

 

 ということで、せっかくの注意を歯牙にもかけてもらえず、真顔でそう言い切られたエルシィは思わずため息を吐いてしまうのだった。

 お参りを終えた――――のはエルシィだけで、実際のところ桂馬はゲームをやってただけ――――二人は他に良い考えもすることもなく、家に帰ることにした。

 桂馬はゲームばっかりで、これでは家にいるのと変わらず外出の意味がない。

 そう思ったエルシィは

 

「にーさまはほんとに願いごととか、叶って欲しいことってないんですか?」

 

 もし自分にできることだったら叶えてあげようかな、くらいの心算で問いかけた。それで桂馬が元気になってくれれば、駆け魂狩りでも助かることだし。

 だが、エルシィが心のなかでどう思っていようとも桂馬のお願いなんて決まりきっている。

 

「特にないな……ああ、そうだ、今年も良いゲームが沢山出て欲しいぞ」

 

 視線はゲーム画面に向けられたまま、心底どうでも良さそうに桂馬が答えた。

 

(せっかく私が叶えてあげる気になったのに神さまは、も~)

 

 内心の厚意を台無しにされたエルシィがむくれたのは言うまでもない。

 だからといって、それを素直に桂馬にぶつけることも出来なかった。

 

「神社までお参りしに来たんですから、それをお願いすればよかったじゃないですか」

「神頼みでいいゲームが作れるんならクソゲーなんて出来るわけないだろ。だけど、現実に世の中は沢山のクソゲーで溢れてる。つまり、神頼みに意味なんてない……ゲームを作るのは人間だよ。それがどんな神ゲーでも、クソゲーでもな」

「にーさまはなんでも難しく考えすぎですよ~。私はいっぱいお願いしましたよ。えーっと、まずは今年もいろんな消防車がたくさん見れますように」

「消防車が来るのは火事の時ぐらいだろ。火事が起きないよう願をかける奴は多いけど、火事になるようにってのはお前くらいだろうな」

「うー、にーさまいじわるです」

「で、他のはどうなんだ?」

「あれ、気になるんですか?」

 

 桂馬の言葉に頬が緩んでしまうエルシィだったが

 

「そんなわけあるか。正直どうでもいいけど、聞かないとうるさいからな」

 

 続けられた台詞を聞いてすぐにそこを膨らませることになる。

 

「もう、ちゃんと話きいてくださいよ……あとはですね、今年はにーさまにポンコツって言われないようになりたいなってお願いしました」

「ま、願うだけなら誰でもできるしな」

「絶対叶えてみせるんですから。そんなこと言ってて、あとでびっくりしても知りませんよ!」

「そりゃすごい。頑張ってボクを驚かせてくれ」

 

 すげない言動を立て続けに浴びせられて、さすがにエルシィもだんだん腹が立ってきたが

 

(がまん、がまんです。にーさまは傷ついてるんですから、ちょっぴり誰かに当たりたくなっちゃうことだってあります)

 

 そう思って堪えた。

 

「あとはお料理とお掃除がもっと上手くなりますように、とか、ちひろさんや歩美さんともっと仲よくなれますように、とか……」

「おい、さっきからずっと駆け魂狩りのことが全然出てこないぞ。お前はそのためにこっちに来たんだろうが」

「それは、にーさまが…………にーさまは駆け魂狩りなんてイヤじゃないんですか?」

「嫌に決まってるだろ。なんでボクが現実に関わらなくちゃならんのだ。でも、放っておいたらボクの首がもげるなんて言われたらやるしかない」

 

 桂馬はきっぱりと言い切った――――視線は相変わらずPFPにロックオンされたままだったが。

 

「あれ?なんかやる気ですね、にーさま」

「別に、さっさと終わらせてゲームに専念したいだけだ」

 

 その時、桂馬の足がたまたま落ちていたチラシを踏みつけた。

 

「これは…………おい、エルシィ。帰る前に行くところができたぞ」

 

 拾い上げたチラシを突きつけながら桂馬が言う。さっきまでが嘘のように生き生きと瞳を輝かせていた。

 

「『ゲームショップ・ビット初売りセール・激レアソフト多数取り揃えてます』…………ゲーマーとしては見逃せん」

「この上、さらにゲームを買うんですか~…………それより、にーさまは攻略した女の子の記憶が失くなっちゃって寂しかったんじゃないんですか?」

「なんのことだ?」

「じゃあ、ずっと徹夜でゲームしてたのはどうしてなんでしょう?」

「年末は新作が大量に発売されるからな。積みゲーを作るのはボクの主義に反する」

 

 エルシィはそれを聞いてしばらくの間固まってしまった。

 

(…………それじゃあ全部私の勘違いで…………にーさまは全然なんともないってことで…………)

 

 やがて、思考停止から復帰した頭が事態を理解していくと共に、猛烈な怒りと少しの安堵が込み上げてくる。

 

「ずっと心配してたのに…………うーーーーー、にーさまのばかぁ」

 

 そのまま感情に任せて桂馬を頭といわず体といわず、めちゃくちゃに叩きまくる。

 

(でも、なんともなくてよかった~)

 

 小さな拳を振り回すエルシィの顔に浮かぶのは、怒り笑いといった感じの微妙な表情だった。

<あとがき>

 

 新年あけましておめでとうございます。

 

 今年もよろしくお願いします。

 

 

 

 年が改まっても相変わらずの駄文ですが皆さま、いかがだったでしょうか?

 

 今回は趣向を変えて「神のみ」のエルシィに登場してもらいました。

 

 本当は年明けに間に合わせたかったんですが、結局、セルフ締切りは守れず…………大晦日に駅で神のみの特大広告を見かけたときはかなり凹みました。自業自得ですけどね。

 

 

 

 正月休みが終わると仕事の方が忙しくなって、元々遅い筆がさらに遅くなるかと思います。

 

 待ってる方がいる前提で書くなんて自分でもおこがましい限りですけど、そのままフェードアウト、というのだけは避けるつもりですのでどうか気長にお待ちくださいませ。

 

 


 
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