No.188308

真・恋姫†無双 外伝:みんな大好き不動先輩

一郎太さん

外伝


『不動先輩シリーズ』から全話リストアップされます。

2010-12-06 18:27:50 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:18180   閲覧ユーザー数:12450

 

外伝

 

 

 

とある近代的なコンクリートの建物がいくつか並ぶ場所の一角に、それはあった。

3階ないし4階建ての周囲の建物もそれほど高いとは言えないが、それはさらに低く、そして木造建ての80畳くらいだろうか、小さいながらも一際存在感を示していた。

それもそのはずである。なぜなら――――――

 

 

 

「きゃぁぁぁ、北郷せんぱーい!」

「一刀君、頑張ってー!」

「かずピー、わいと結婚してー!」

 

 

 

――――――その建物の入り口には二十人は超えるであろう少女たちが、それぞれ同じ制服をきて、黄色い声をあげていたからだ。

 

 

 

「あの…不動先輩、なぜに皆さんは竹刀を構えて俺を睨んでるですか?」

「自分の胸に手を当ててよく考えてみろ、北郷一刀」

 

 

 

男女入り混じって十数人の剣道着を着た部員たちが円を描くように、竹刀を構えている。

その中に不動と呼ばれた女生徒と北郷と呼ばれた男子生徒が立っている。

二人は周囲と同じく剣道着を着ているが、面や小手、胴といった防具はつけていない。

 

 

 

「わかりません」

「お前は阿呆か?あぁ、阿呆だね」

「ヒドっ」

 

 

 

どうも、この不動という女子は部活のリーダー的立場であるらしい。

周囲も何か言いたいことがあるようだが、黙って竹刀を構えて立っている。

 

 

 

「黙りなさい。いい加減部活に彼女を連れてくるのは辞めてもらえないか?

 だいたい、彼女が何十人もいるってどういうことだ?見せつけてんのか?あ?

 モテ自慢してんのか、コラ?」

「いやいやいや、彼女じゃないし。ていうか俺が言っても聞いてくれないんですよ」

「お前のことだから、どうせ優しく対応してるのであろう?で、余計にファンが増える、と」

 

 

 

どうも入り口の女生徒たちは一刀のファンであるらしい。

そして彼の周囲にいる男子部員の目は嫉妬に燃え、女子部員の目はただ北郷と何か共にできる今を楽しんでいるようであった。

 

 

 

「まぁ、ウチの男子部員で彼女がいるのはお前だけだしな?」

「彼女じゃな―」

「黙れ。とりあえずこやつらの鬱憤晴らしに付き合ってあげてくれ」

「え、この人数相手にするんですか!?というか男子はまだわかるとして、なんで女子も混ざってんの!!?」

「あぁ、私が許可したのだよ。『北郷をぶちのめした奴と北郷を付き合わせる』ってな」

「ちょ、なに勝手に決めてんの!?」

「なぁに、嫌なら勝てばいいわけだ。なぁ―――」

 

 

 

と、ここで不動が言葉を切り、一刀の頬に顔を寄せて囁いた。

 

 

 

「―――『北郷流次期当主』様?」

 

 

 

二人の顔が急接近したことにより、周囲から黄色い声や、嫉妬の叫びが響き渡る。

 

 

 

「………どうやら本気で相手して欲しいようですね、不動先輩」

 

 

 

 

 

 

気がつけば道場内で立っているのは二人のみとなった。

 

 

 

「相変わらず優しいな、北郷は」

「………何のことですか?」

 

 

 

不動は周囲を見渡して答える。

 

 

 

「男どもは別だが、女子に関しては全員気を失うだけで、腕にも脚にも痣が残るような攻撃はしていない。だから優しいと言ったのだよ」

 

 

 

だからモテるんだろうな、という呟きは一刀には届かなかった。

一刀の気にあてられたか、入り口にいた女生徒たちも固唾を飲んで勝負の行方を見ている。

 

 

 

「偶然ですよ。それより、あの賭けはなしですね」

「賭けとは?」

「俺に勝ったら俺と付き合える、ってやつです。もう皆夢の中ですよ」

 

 

 

一刀は竹刀で肩を軽く叩きながら答える。

確かに、部員はみな気を失っているが―――

 

 

 

「何を言っている?まだ私がいるではないか」

「不動先輩は色恋沙汰には興味がない、って以前聞きましたよ?」

「あんなもの言い寄ってくる男どもへの牽制に過ぎぬ。言っておくが、私はお前が好きだぞ、北郷一刀?」

「………は?」

「私より強い、というか剣道は小中高とずっとオール一本の全国一位。成績は常に上位。さらに気立てもよく、人助けをしてもそれを鼻にかけることはしない。あと、実家が大地主。ほら、惚れる要素なんていくらでもある」

「最後の以外は、まぁわからないでもないですけど………」

「なぁ、北郷…」

 

 

 

そう小声で呟いたかと思うと、不動はなんの構えをとることもなく、一刀へと近づいた。

一刀も攻撃する気がないことを本能的に理解しており、後ろにさがったり、竹刀を振るったりはしない。

 

そうして、不動と一刀の距離が15cmほどになる。

 

身長差があるから、当然、不動が一刀を見上げる形になる。

そして…爆弾が投下された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は……私のこと、嫌いか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予期せず、一刀の胸が高鳴る。

 

 

 

「(確かに不動先輩は美女といえる部類に入る。剣道部の部長もしており、彼女目当てで入部した男子部員も少なくない。実際、部員からもそれ以外からも告白を何度も受けていると聞いているし。でもみんなフラれたって。そんな先輩が俺のことを?いやいやいや!でも…可愛いなぁ。じゃなくて………)」

 

 

 

と、かつてない体験に一刀の脳がオーバーヒートしそうになっているところで、それに気がついたのは、まさに本能にまで刷り込まれた修行の賜物だろう。

北郷はその正体を確認する前に竹刀を振り上げた。

 

 

 

 

 

ガガッ!

 

 

 

 

二人の竹刀が交差する。

 

 

 

「………何してるんですか、先輩?」

「いやなに、お前が隙だらけだったからな。それに今は勝負の最中だし。私の実力ではどう足掻いてもお前には勝てないから、ちょっと搦め手……を………」

 

 

 

それっきり不動は口を動かせなかった。

怖い。

顔の前に竹刀があるから、顔が半分に割れて見えて余計に怖い。

 

 

 

「嘘…だったんですね。いやぁ、告白なんて初めてされたからどう対処していいかわかんなかったけど、嬉しかったのになぁ………でも、嘘、だったんですよね?ははっ、あはははは―――」

 

 

 

無機質な笑い声が道場に木霊する。不動はいまだ動けずにいる。

 

 

 

 

 

「さて、先輩。覚悟はいいですか…?」

 

 

 

そういうと一刀は倒れている部員たちを次々と道場の入り口まで引きずっていくと、外へ放り出した。不動はいまだに、瞬き一つ出来ないでいる。

最後の部員を外に出したあと、女生徒たちに向かって「ごめんね」と謝りながら、道場の扉を閉めた。扉に施錠すると、格子のついた窓も、雨戸を閉める。

そうして道場に残ったのは、畳の香りとこもった水蒸気、そして一人の男と一人の女。

 

 

 

 

 

「お仕置きの…時間ですよ」

 

 

 

 

 

 

一刀は一瞬で不動との距離を詰めると、不動の両腕をその手に持った竹刀で弾き上げた。

 

 

 

「いつぅっ!?」

 

 

 

不動が痛みに顔をしかめ、そして再び目を開くと、そこに一刀の姿はなかった。

 

 

 

一刀は不動の腕をかち上げた瞬間右に跳び、不動の死角に入り込む。両腕が肩より上にあがり、そして落ちてきたその一瞬―――

 

 

 

「はぁっ!!」

 

 

 

 

 

ザッ!!

 

 

 

 

 

――――不動を突き刺した。

 

 

 

 

 

 

薄暗い道場に沈黙が木霊する。

不動は動けない。そして一刀もまた動かない。

そうして数十秒ののち、不動が口を開いた。

 

 

 

「あの…北郷、さん?私はこれじゃぁ動けないんだが………?」

「………………」

 

 

 

いま、不動の背中には竹刀が刺さっている。…正確には、不動の左袖から背中を通して右袖まで、一刀の竹刀で一直線にされているのだ。竹刀があるせいで腕を上げることも下げることも出来ずにいる。

 

 

 

「いやぁ、なかなかいい格好ですね、先輩?まるで十字架に磔にされたイエスみたいですよ?なんていい姿だ…くっくっくっ…………」

「いや…こっちに来ないでくれ………」

 

 

 

一刀は笑いながら不動に近づく。不動は不気味な笑みを浮かべる一刀から逃げようと後ろに下がるが、すぐに壁にぶつかってしまった。

 

 

 

「あれ?いつもいつも人をからかって苛めてるくせに、自分がやられるのは嫌なんですか?………仕方がないですね。俺が、再教育してあげますよ」

 

 

 

一刀は両手を不動の脇の下に差し込むと不動を持ち上げ、壁に設置されている竹刀掛けの一番上に竹刀の両端をひっかけた。

 

 

 

「あの…北郷さん?これだと、もう完全に動けないのですが」

 

 

 

一刀はそんな言葉などお構いなしに、道場内にある、備品箱をガサゴソと掘り起こす。

 

 

 

「あ、あったあった。いやぁ、うちの道場でも新年にはやるからあるかなぁ、って思ったけど、どこも同じような感じなんですかね」

「なんだ、それは………まさか」

 

 

 

不動の質問には答えず、逆に一刀は振り返りながら問い返した。

 

 

 

 

 

「先輩?拷問、って言ったら、先輩だと何を思い浮かべます?………水攻めだったり火あぶりだったり、あるいは串刺しとかだったり………でもね、痛みを伴わない拷問もあるんですよ?」

 

 

 

 

 

 

一刀は磔にされた不動の首筋に『それ』をそっとあてた。

 

 

 

「っ」

「あれ?まだ何もしてないですよ?それとも先輩………」

「…それとも、なんだ?」

「いやいや、まさかあのクールな不動先輩がこれだけで反応するわけないですよねぇ?」

 

 

 

一刀はその人柄からは珍しく、暗い笑みを浮かべて手をそっと動かす。

 

 

 

「っひゃぁ!?」

「ほら、まだ始まったばかりですよ?音を上げるのはまだ早くないですか?」

「ちょっ…そんなこと言っても、きゃっ」

「あらあら、可愛い悲鳴をあげちゃって…ここがダメなんですか?」

「ゃっ…そ、そこはダメ、なんだ………」

「へぇ?ここが弱点なんですか?」

「ちがっ!ひゃん!?」

 

 

 

一刀の言葉と『それ』による責めは続いていく。

 

 

 

「さて、この辺にしておきますか…」

「お…終わりか………?」

「まさか。次は…こっちですよ?」

「いや…それだけは………お願いだから……………ゃ、ぃゃ、っ――――」

 

 

 

 

 

一刀は不動の請い願う姿勢にニヤリと口角を上げながら、そして責め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――っははははははは!いやっ!ダメ!やっ、やめてえぇぇっははははは!!」

「ほらほら、どうですか?ここが弱点なんですか?先輩も足の裏は苦手なんですか?」

 

 

 

 

 

一刀の手には書道用の筆。

 

 

 

 

 

「いやっ!あっははははは!!無理無理無理無理!ダメぇぇえええっ!」

「『くすぐり』も立派な拷問なんですよ?人を散々からかった挙句、少年の純情を弄んだ罰です。さて、少なくともあと15分は続けますから」

「そっ、そんなにっははは、ダメダメ!もう許してぇぇええっははははは!!!」

「くっくっく…なかなかいい眺めですね。なんだか目覚めてしまいそうですよ」

「お、お願い…っははははは!いやああぁあぁぁぁっ!!」

 

 

 

こうして一刀のお仕置きはまだまだ続くのであった。

 

 

 

 

 

 

30分後―――

 

 

「ぜぇ…ぜぇ………じ、15分と…い、言った、じゃないか…」

「いえいえ。『少なくとも』とは言いましたがね。…まぁ、これに懲りたら人をからかい過ぎないように、今後は気をつけることですよ。それじゃぁ俺は稽古がありますので、これで失礼します」

 

 

 

一刀はそう言って不動を解放すると、道場の扉へと向かった。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

扉を開けるとそこには一刀のファンの女子生徒たちが相変わらず立っていたが、皆一様に顔を赤らめて目を逸らす。

 

 

 

「…?まぁいっか。じゃぁみんな、俺はもう帰るけど、遅くならないうちに帰るんだよ?じゃぁね」

 

 

 

一刀はそう告げると歩き出す。よほどスッキリしたのか、鼻歌を口ずさみながら………」

 

 

 

 

 

取り残された少女たちは口を開かない。道場の中には、いまだ不動が倒れている。身体は汗ばみ、垂れた髪の間から紅潮した肌が見え隠れしているその姿からは、どこか妖艶な雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

「おう、お疲れぃ」

 

 

 

一刀は日課である、祖父の修行を終えていた。通常なら、稽古の後は夕食まで祖父と話に花を咲かせるのだが、この日は少し違っていた。

 

 

 

「あぁ、もう終わっていたんですね。ちょうどよかった」

「どうした、婆さん。もう飯か?」

「違いますよ。いや、ご飯もあるんですが、お爺さんにお電話ですよ」

「ほぅ?珍しいな」

「それも、若い女の子ですよ?今度は誰を助けたんだか…」

 

 

 

そう言って祖母は軽く笑う。昔からよく人助け(主に女性)をしては、フラグを立てまくった祖父をゲットしただけある。この程度では揺らがないようだ。

 

 

 

「いや、最近は特にそんなこともなかったんじゃがのぅ」

「お爺さんがそう思わないだけですよ。ホラ、お待ちなんですから早く出てください」

 

 

 

どうも一刀のフラグ性質と人のいい性格は祖父譲りらしい。

祖父は「わかったわかった」と返事をしながら出て行った。祖母とすれ違う時に軽く頭を撫でていくあたり、祖父はやはり祖母が好きなのだろうと、一刀は少し嬉しく思う。

 

 

 

「ん?どうしたの、婆ちゃん?」

「ふふ、なんでもないよ、一刀ちゃん。それより、夕食はもう出来てるから、片付けてきなさい」

「へーい」

 

 

 

用事を伝えた祖母がじっと見ているので問いかけた一刀だったが、軽くはぐらかされてしまう。気にしても仕方がないと、一刀は木刀を棚にかけて軽く汗を拭うと、居住スペースの居間へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし、変わったぞぃ?」

「―――」

「ほう、一刀の…して、なぜ儂に電話なんかしてきたんじゃ?」

「―――」

「はっはっはっ!なるほどのぅ…そうじゃな、ここ数年は一刀だけじゃったからのぅ………」

「―――?」

「ふむ。かまわんぞ?お主の話はよく一刀から聞いておるし、儂も会ってみたかったからな。それじゃぁ早速明日から始めてみるか?」

「―――!」

「気にするな。それにお主、一刀に―――のじゃろう?」

「―――!!?」

「なに、口調でそれぐらいのこと簡単に読めるわぃ。安心しろ、一刀には言わんでおくからな。それじゃぁ、儂は愛する婆さんの飯が待っておるからの。まぁ、どれだけ続くかはわからんが、やる気があるなら手加減などせんから、それだけは心しておくがいい」

「―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一刀、婆さん!酒じゃ!今日は酒を飲むぞ!?」

「はぁ?いつ週末しか飲まないじゃないか。どうしたんだ?」

「そう言うと思って、準備してありますよ」

「はやっ!?」

 

 

 

そう言うや否や、お盆に徳利を載せた祖母が台所か現れた。

 

 

 

「かっかっか!さすがは儂の婆さんじゃ!ホレ、今日はお前らも飲め!」

「え、俺も!?」

「そう言うと思って、お猪口も3人分用意してありますよ」

「マジで!?」

 

 

 

祖母はさらにお盆からお猪口を3つ置くと、それぞれに温めた日本酒を注ぐ。

 

 

 

「さすがは儂の婆さんじゃ!一刀よ、明日はちょいと面白いことがあるから、その景気づけじゃ!お前も楽しみにしておるがいい」

「はぁ…よくわからんがとりあえずわかったよ………」

 

 

 

祖父の性格は知っている。ここまで機嫌がいい時の祖父に、何を言っても無駄なのだ。

その日一刀は、酔い潰れて眠るまで、ひたすら酒を飲まされていた。

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

一刀はいつものように部活を終えると、部室で着替えていた。

 

 

 

「それにしても不動先輩。あそこまでやれば流石に嫌われるかと思ったが、普通に接してくれてたな…」

 

 

 

前日の拷問紛いのお仕置きが気にかかり、一刀から特に話しかけることはしていなかったが、意外なことに、不動からはそのことに触れず、普通に一刀に話しかけていた。

着替えを終えた一刀が部室を出ると、そこには予想外の人物がいた。

 

 

 

「あれ、不動先輩………?」

「やぁ。お疲れ、北郷」

「あの…寮には戻らないんですか?(まさか、昨日のことで…?)」

「いや、今日はちょっと用事があってね。目的地の方向が君の帰る道と一緒だから、よかったらご一緒させてもらえないか?」

「いや、それはいいんですが…えっと………怒ってないんですか?」

 

 

 

一刀は堪らず問いかけた。

 

 

 

「いや、昨日はあたしも悪かったからね…まぁ、これまで通り接してくれると、こちらとしては嬉しいかな」

「はぁ…」

 

 

 

よほど変な顔をしていたのだろう。そう返す一刀の顔を見て、不動は笑い出す。

 

 

 

「くくく…なんだその顔は。それより、稽古があるんだろう?早く行こうじゃないか」

 

 

 

そう言って歩き出す不動の後ろを、一刀は困惑と安心の入り混じったような表情で追いかけるのであった。

 

 

 

 

 

「それで先輩。用事ってどこであるんですか?」

「ん?君は女性の隠し事に首を突っ込む性質なのか?」

「え、いや、誘ったの先輩じゃないですか」

「まぁ…いずれわかる」

 

 

 

不動はそれきり口を噤む。

一刀も聞いてはいけないのかと疑問に思いながらも、それ以上は話しかけなかった。

そうして一刀の家に着く頃。

 

 

 

「あの、俺、もう着いたんで、ここで………」

「ふむ。そうだな」

「あの…先輩?」

「なんだ?」

「いや。ここでお別れですね…って」

「………」

 

 

 

しかし言葉を返さない不動。一刀も不動が動かないことには家に入ることができないでいる。

すると、そこに後ろから声がかかった。

 

 

 

「あら、一刀ちゃん。お帰りなさい」

「ただいま、婆ちゃん。さすがに知り合いの前では『ちゃん』付けはやめてよ」

 

 

 

と、迎えた祖母に苦笑する一刀だったが。祖母の次の言葉で、その表情を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、貴女が不動さんね。一刀ちゃんがお世話になってます。あと、お待ちしてましたよ。どうぞお入りなさい」

「いえ、こちらこそお世話になっております。今日からよろしくお願いいたします」

「………………………………………………………………………………え?」

 

 

 

 

 

そして驚愕に動けないでいる一刀に、不動はトドメを刺した。

 

 

 

 

 

「と、いうわけで、今日から北郷流で稽古をつけてもらうことになったから、よろしくな………先輩?」

 

 

 

 

 

いたずらが成功した子どものように笑う不動は、これまでで一刀が見たことのないほど、無邪気な顔だった。

 

 

 

 


 
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