No.188498

真・恋姫†無双~恋と共に~ #11

一郎太さん

#11

2010-12-07 21:52:47 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:21029   閲覧ユーザー数:13514

#11

 

 

 

その日俺は、華雄と共に近隣の邑に現れたという賊の討伐に向かっていた。賊の規模は1000人程で、俺たちはその倍の2000の兵を率いて行軍している。最近では、霞の訓練のおかげで、馬にも十分乗りこなせるようになっていた。もう少しで邑が見えてくるだろう。

賊討伐の指示を詠から受けた際に、軍師である詠は行かないのかと、尋ねたところ、「アンタだって勉強してたんだから、一人で十分よ」とありがたいお言葉を頂いた。

 

 

 

「そういえば北郷、董卓様から聞いたのだが、前の邑では賊の討伐をしていたらしいな」

「していた、といっても一度切りだよ。俺が邑でお世話になる前は恋が一人で闘っていたらしい」

「なに、一人だと?…まぁ、呂布の武があれば、何百人いようと問題はあるまい」

「実際にそうだったみたいだ。俺が手伝った時は、2000人はいたかな………」

「そうか」

 

 

 

俺たちがそんな話をしていると、偵察に向かわせた兵が戻ってきた。彼の調べによると、邑人の死傷者は十数人。賊は金品や食料を奪っていくと、また来ると残して邑を去ったそうだ。

 

 

 

「下衆共が………」

 

 

 

華雄が怒りに言葉を漏らす。さらに兵が邑人に尋ねたところ、賊は邑を出て西にむかったらしい。どうやら賊の隠れ家はその方向にあるみたいだな。

 

 

 

「どうする北郷?」

「そうだな…20人ほど別働隊を作って、邑の援助に向かわせる。怪我人もいるだろうし、どこかしら壊されたところもあるだろうからな。本隊はこのまま賊の西へ進路を変えて、賊の隠れ家に向かう。正確な距離を知りたいから、もう一度別の偵察を送るかな」

 

 

 

俺は華雄の質問にしばし考えたあと、これからの方針を華雄と小隊長に説明し、先ほどとは別の兵を偵察に向かわせた。気がつけば、華雄がこちらを見つめている。

 

 

 

「どうした?」

「いや、流石だと思ってな。邑人への援助もそうだし、細かい情報の収集もそうだし、流石賈駆の一番弟子なだけある」

「ありがと。でもそれは先生がいいからね」

 

 

 

俺がそう返すと、華雄は溜息を吐く。

 

 

 

「はぁ…お前も大概に自己評価の低い奴だな………。お前は武で私や張遼を圧倒し、智に関しても、誰も思いつかないような政策を出してくる。もっと自信を持たないと、唯の嫌味なやつになるぞ?」

「むむ…覚えておくよ」

 

 

 

俺たちは再び、馬を進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

俺たちの部隊は今、とある山の麓にいた。この先に旧い砦があり、そこを拠点に賊は活動を行なっているようだと、偵察兵は言っていた。

ここから見ても、この山自体が人が住んでいた痕跡はほとんど消えていて、山の中腹にあるであろう城もかなり昔のものであることがうかがわれる。漢のいつ頃か、はたまたそれより前の時代か………。

 

 

 

「兵どもが夢の跡…か」

「なんだ、それは?」

「俺の国の詩だよ。どんなに栄華を極めた者も、いつかは必ず朽ちていく、っていう、それだけの話さ」

「ふむ…そんな当たり前のことを詩にされてもな」

「まぁ、そうなんだけどね………と、こんな話をしている場合じゃなかった。さて、どう攻めるかだが………華雄、何か策はあるか?」

「もちろんt―――」

「『勿論突撃』は無しな?」

「ぐ…」

「さて、俺の策だが、このまま山を登り、賊を強襲する」

 

 

 

俺の策に、華雄が思わずツッコんだ。

 

 

 

「突撃じゃないか!」

「何言ってるんだ。華雄は何も考えずに突撃とか言うから諫めただけだ。偵察によると、奴らは邑から奪った酒で宴を開いているらしい。見張りもいないとのことだ。酔っ払いなんて、俺たちの相手じゃないよ」

「むむむ……わかった」

「よろしい。じゃぁ、華雄、兵たちに檄を飛ばしてくれ。あ、一つだけ出して欲しい命令があるかな」

 

 

 

「皆、聞けぃ!我々はこれからこの山を登り、賊共を強襲する。何、敵は酔いどれのクズ共だ。我が地獄の鍛錬を経験してきたお前たちの敵ではない!よって、今回は、全員無傷で街に帰還することを最大の目的とする!!かすり傷一つでも負おうものなら―――」

 

 

 

 

 

華雄は言葉を切り、ニヤリと笑うと、兵たちに告げた。

 

 

 

 

 

「―――私が個人的に稽古をつけてやるからな」

 

 

 

 

 

その言葉に、兵士たちに緊張が走る。中には華雄の稽古を想像してか、震えだす者もいるくらいだ。…どんだけ恐れられてるんだよ。

 

 

 

 

 

 

「スゥゥゥ……ハァァァァ………」

 

 

 

俺は目を閉じて深く呼吸をすると、覚悟を決めた。

 

 

 

「(よし…いけるな)」

 

 

 

そして俺たちは、賊の掃討を開始した。

 

俺と華雄を筆頭に砦に雪崩れ込んだ部隊は、瞬く間に賊を蹂躙する。俺は最初に目に入った賊を一太刀のもとに斬り伏せる。人の肉を斬る感触が手に残るが………問題は、ない。俺と華雄は競うように敵を斬りつけ、時に突き刺し、あるいは体術で打ち倒していく。

 

こうして俺と華雄の賊討伐は終わりを迎えた。

華雄がよほど恐れられているのか、兵士たちは皆訓練以上の動きをし、少し強そうな敵がいたら、2人あるいは3人がかりと、連携もしっかりと取れていた。

…流石華雄の部隊だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは街へ帰る前に被害に遭った邑を訪れ、住民と話し、そして別れを告げた。

 

 

 

 

 

そろそろ潮時か………。アレが始まってしまうとゆっくり旅も出来なくなってしまうだろうからな。

俺は天水への道中、ひとつの決意をした。

 

 

 

 

 

 

城に帰ると、一度部屋に着替えに戻り、俺と華雄は報告のために、月の執務室を訪れた。部屋の中は珍しく、月と詠だけしかいなかった。…ちょうどいいな。

 

 

 

「お疲れ様。戦果を報告してちょうだい」

 

 

 

詠の言葉に、俺は賊を殲滅した旨と、簡単な被害状況を報告した。

そして話が終わったあと、華雄を先に返し、俺は話があるからと、部屋に残る。

 

 

 

「それで、話ってなんですか?」

「それなんだがな、月。………そろそろこの街を出ようかと思うんだ」

「っ!?」

「はぁ?どうしたのよ、いきなり!なんか不満でもあるの!?」

「そんな訳ないだろ。月たちにも、それに街の人たちにも十分よくしてもらってるよ」

「では…どうして?」

 

 

 

月が素直に質問してくる。…そんな悲しそうな顔をしないでくれ。

 

 

 

「あぁ、その前に詠。今の漢王室をどう思う?」

「へ?ど、どうしたのよ、いきなり!?」

「正直に答えてくれ。何、この近くには間諜がいる気配もあるでなし。思ったままを言ってくれればいい」

「そうね………腐ってるわね。天水では絶対にそんなことはさせないけど、役人の間では賄賂が横行し、民も疲弊している。賊も増えてるしね………。で、それがどうかしたの?」

「あぁ。それでな…これは絶対に口外して欲しくはないんだが………漢王朝はそう遠くない未来に、滅びる」

「………………」

「ちょ、馬鹿なこと言うんじゃないわよ!どこに耳があるかわからないのに!!」

「大丈夫だ。言っただろ?近くに人の気配はないって」

「でも!…まぁ、アンタが言うならそうなんでしょ。それで?」

「あぁ。その国の一大事の前に二つの大きな事件が起きる。この二つが原因で、漢の崩壊に繋がるんだがな………。まず一つは、とある賊の蔓延だ。現在みたいに小規模の賊がバラバラに発生するんじゃない。もっと大きな、それこそ数万から十数万規模の賊が、大陸全体に現れる」

「まぁ…それも可能性としては、ないとは言えないわね。で、二つ目ってのは?」

 

 

 

 

 

もう少し驚くかと思ったんだがな………さすが軍師だ。俺は内心の驚きを隠しながら、続けた。

 

 

 

 

 

「そして二つ目が………霊帝の崩御だ」

「「っ!!?」」

 

 

 

 

 

今度こそ詠も言葉を失う。やはり、腐っても帝だな。本能的な部分にまでその威光を届かせているのは、400年の歴史の賜物か…。

 

 

 

 

 

 

「とまぁ、ここまでは大した問題じゃない。一番言いたいのは―――」

「大したことないですって!?それこそ国の一大事じゃない!いや、待って!仮に帝が崩御したとしても、まだ二人の皇太子がいるのよ!?そのまま後を継げば、問題ないじゃない!!」

 

 

 

思わず詠が激昂した。月は相変わらず、黙ったまま俺に先を促す。

 

 

 

「いや、そこでまた別の事件が起きるんだよ。あまり詳しくいうことはできないが、俺が一番言いたいのは………月たちがその事件に巻き込まれるということだ」

「私たちが…ですか?」

 

 

 

 

ここで月が初めて口を開く。突然自分の名前が出てきたことで、つい口を出てしまったのだろう。

 

 

 

 

「あぁ。今の地位を捨てない限りは、絶対に巻き込まれる。何しろ、朝廷からとある命令が下るからな」

「………」

「だが、まだ時間はある。月や詠は、今できることをすればいい。街をもっと豊かにし、軍を増強する。そして街を強くすることに専念すればいい。どうせ巻き込まれてしまうし、それを防ぐには、今すぐ漢王朝を滅ぼす以外に手はない。だったら今できることをした方がいいだろ?」

「………よくわからないけど、わかったわ。でも、なんでアンタにそんなことが分かるのよ?」

「ふむ、やはり………そろそろ頃合いかな」

「何がですか?」

「いや、二人はおかしいと思わなかったか?いくら漢とは別の国から来たからと言って、俺がこれまで誰も思いつかないような政策を思いついたことを。

詠は可笑しいと思わなかったか?俺の国ほど発展した国が、なぜこの大陸にその噂すらないのかを。

そしておかしいとは思わないか?なぜ俺が今後起こることを、実際に見てきたかのように話すのかを」

「そういえば…そうよね。ただ漢の人間じゃない、ってだけでアンタの話を聞いていたけど、アンタの話が本当なら、そういう疑問が浮かばなかった自分が不思議だわ。

それに今の話だって、ぶっ飛んだ話が多すぎてツッコむ暇もなかったわ…」

 

 

 

俺は詠の言葉を聞き、一つ息を吐くと、俺のこれからの運命を変えるであろう言葉を口にした。

 

 

 

 

 

「実は一つだけ、俺が隠していたことがあってな………。二人は天の御遣いの噂は知っているか?」

 

 

 

 

 

 

「えと、たしかどこかの占い師さんが言っていたのでしたっけ?『白き流星に乗って―――』とか………」

「あぁ、そうだ。そしてその御遣いとは―――」

 

 

 

 

 

俺は部屋で着替えたときに羽織ったマントを、脱ぎ捨てた。

 

 

 

 

 

「―――俺のことだ」

 

 

 

 

 

今日、何度目の沈黙だろうか。

初めて見るような、蝋燭の炎に照らされてきらきらと輝く俺の服を見て、二人は目を見開いた。

 

 

 

「そんな………」

「本当に、いたのね…」

「今まで隠していて悪かったな。でも、仕方がなかったんだ」

「仕方がない、って何よ…。今更正体を明かすなら、別に最初からでもよかったじゃない」

「じゃぁ聞くが………もし俺が最初から自分は『天の御遣い』だ、って言ったら、詠はどうした?最初は信じなかったとしても、あの政策のように、他の人間が思いもよらないものを出したらどう思った?俺を御遣いとして祀り上げようとはしなかったか?絶対にそんなことはないと言えるか?」

 

 

 

俺の言葉に、詠はばつの悪そうな顔をする。

 

 

 

「ぅ…確かに………まったく考えない、とは言い切れないわね………」

「キツク言い過ぎたな、悪い。それじゃぁ駄目なんだよ…」

「何が…駄目なんですか?」

「俺はここに来る前、恋の邑で、最初に俺を助けてくれた人を亡くした。………俺の未熟さのせいでな。

その時に決めたんだ。俺が御遣いとしてこの大陸に降り立ったのなら、俺には役目がある。どんな役目かはわからない。しかし、占いの通りだとするならば、俺はこの大陸に平和をもたらすために動かなければならない。

………だけど、月のところにずっといたのでは、どうやっても必ず行き詰ってしまうんだ、二人には申し訳ないとは思うけど。

………だから俺は、この大陸を見て、俺にできることを探し………そして、泰平の世にする。そのために一度ここを離れる必要があるんだ」

「「………」」

 

 

 

二人は黙って俺の告白を聞いてくれる。

 

 

 

「勝手な言い分だとはわかっている。みんなを見捨てるようなものだからな。

でも…これだけは約束する。みんながさっき教えたようなことになったら、俺は必ず助けに行く。何があっても、どんな状態であっても、必ずだ」

 

 

 

数秒の沈黙ののち、口を開いたのは、意外にも、月だった。

 

 

 

「そう……ですか。わかりました。一刀さん、これまでありがとうございました」

「ちょっと月!そんな簡単に許可しちゃっていいの?」

「うん。元々一刀さんは客将の立場だし、本人が決めたんだから、私たちには止めることはできないよ」

「そうだけどさぁ…」

「それにね…一刀さんが、なんでこれから起こるかもしれないことを話してくれたんだと思う?いま一刀さんが言ってくれたように、私たちがどうしようもなくなった時に、助けてくれるために教えてくれたんだよ?」

「月ぇ…」

 

 

 

月の説得に、詠も渋々ながら納得してくれたようだ。

俺はもう一度謝罪と礼を伝えると、三日後にここを発つと言い、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

一刀さんが出て行った部屋に私たちは残された。詠ちゃんはなんとも言えないような顔をしていたけど、私はそうじゃなかった。

 

 

 

「どうしたの、詠ちゃん?」

「いや、ね?まさか、アイツが『天の御遣い』だったなんて………ね」

「ふふ…私はそうかもなぁ、って思ってたよ?」

「えっ?なんで!?」

「だって…一刀さんには私たちや、街の人とは違う雰囲気があったし、それに、侍女の人から聞いたんだけど、一度一刀さんの部屋を掃除している時に荷物を落としちゃったことがあって、それを元に戻そうとしたら、すごく綺麗な服があった、って。たぶん、今着てたあの服だと思うよ。…だからもしかしたら、って」

「ひどいよ月ぇ。ボクにも教えてくれたってよかったじゃない」

「へぅ…ごめんね。でも、一刀さんはそんなこと言い出す雰囲気はなかったし、本人が隠したいなら言うことじゃないな、って思って」

「…そうよね。でも、たとえアイツが『天の御遣い』だったとしても………」

 

 

 

そう詠ちゃんが呟いたかと思うと、急に顔を赤らめて、ぶんぶんと振った。

ふふ…詠ちゃんの言いたいことはわかるよ。たとえ一刀さん『天の御遣い』だったとしても―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――私たちは、『家族』だもんね。

 

 

 

 

 

俺が月と詠に自分が『天の御遣い』であることを告白してからは慌しかった。翌日はそうでもなかったが、翌々日、どこから話を聞きつけたのか、俺が街を出て行くことは周知の事実となっていた。

 

 

 

「北郷さん!街を出るって本当ですか?」

「なんで出て行っちゃうんですか!?」

「北郷様!結婚してください!!」

 

 

 

なんか途中変な声も聞こえてきた気がするが、たぶん気のせいだろう。

俺はそんな風に別れを惜しんでくれる人たち一人ひとりに挨拶をしながら、街を歩く。

恋と共に、政策に協力してくれている商人の家を訪れ、南東地区に行き、そして軍の調練に参加する。

いずれの場所でも、俺だけでなく恋のことも寂しがってくれたのは、正直に嬉しかった。

恋にそのことを言うと、

 

 

 

「ん…みんな、恋の家族………」

 

 

 

と、恋らしいことを言ってくれる。『家族』…か。そうだな。俺たちはみんな家族みたいなものだ。

そうして日も暮れる頃、城に戻った俺たちを迎えてくれたのは霞と華雄だった。

 

 

 

「一刀ぉぉぉおお!!」 「北郷ぉぉぉっ!!」

「どわぁぁぁあああ!!?」

 

 

 

門に入ったとたんに猛ダッシュで俺にタックルをかましてきた二人を避けることができずに、俺は抱きつかれ、担ぎ上げられ、そして運ばれていった。

運ばれた先は大広間で、そこには所狭しと卓が並び、その上にはものすごい量の料理がギュウギュウに詰めれている。

 

 

 

「おかえりなさい。一刀さん、恋さん」

「やっと帰ってきたわね!待ちくたびれちゃったわよ!」

「ん…ただいま」

「えと、ただいま?これって………なに?」

 

 

 

状況を理解できない俺に、唯さんが口ぞえしてくれる。

 

 

 

「お帰りなさいませ、一刀さま。もちろん、お二人の送別会ですよ?」

「え、本当に!?…いいのか、月?」

「もちろんですよ。私たちにだって、別れを惜しむ権利くらいありますよね?」

 

 

 

そう言って微笑む月。ふと横を見ると、

 

 

 

 

 

「………(だらだらだら―)」

 

 

 

 

 

恋はすでに臨戦態勢のようだ。

 

 

 

「ほら、月!恋が待ちきれん、言うとんで!?はよ、乾杯しようや!」

「待ちきれんのはお前の方だろう。そんなに酒が飲みたいか」

「当たり前や!大事な仲間の門出や!飲まんとやっとれんわ」

 

 

 

本能に忠実な霞とそれを諌める華雄。うん、いつも通りの光景だな。…ん?気がつくと、つい先ほどまで、涎を垂らしていた恋が霞に近づいた。

 

 

 

「どしたん?」

「霞…違う」

「何が違うん?」

「仲間じゃ、ない………」

「はぁ!?何言うと―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仲間じゃない………家族」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋の言葉に呆気にとられていたが、霞はすぐに満面の笑みを浮かべ、笑い出した。

 

 

 

「なっはっはっは!そうやで!華雄!!ウチらは『仲間』やのうて『家族』や!!そこを間違えたらあかんで!?」

「な、何を言っている!お前が言ったのだろう!?」

「はいはい!そこ、黙りなさい!!いつまで経っても始められないわよ!?」

 

 

 

ギャーギャー騒ぐ二人に痺れを切らした詠が、手をぱんぱんと叩きながら、二人を諌める。

 

 

 

「アンタ達!早く盃を持ちなさい!………ほら、月。乾杯の音頭をお願いね」

「うん。………皆さんも既にご存知の通り。一刀さんと恋さんは明日、天水を発ちます。お二人がいなくなることで大変になるとは思いますが、頑張っていきましょう。それが、私たちに出来る、お二人のための餞です。

…一刀さん、恋さん。お二人とも、これまでありがとうございました。貴方たちが残してくれたものを、もっともっとよくしていきますので、旅先でその噂が聞こえたら、どうか私たちのことを思い出してください」

「ウチのことはいつでも想っとうてくれやぁ」

「うるさい!」

「アイダッ!?」

 

 

 

茶々を入れる霞の頭に拳骨が落ちる。月はそれを笑顔で見やりながら、言葉を続けた。

 

 

 

「さきほど恋さんが言ってくれたように、私たちは家族です。その家族の門出を祝って、旅の安全を祈って、そしてまたいつか再会できることを願って―――乾杯!」

「「「「「「「乾杯っ!!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

大広間は多くの人間で賑わっていた。いつものメンバーに文官、そして董卓軍の小隊長以上の者。みなそれぞれ酒を酌み交わし、料理に舌鼓を打つ。

先に武官・文官の人たちと挨拶を交わした俺は、適当に卓の間をぶらついていた。すると見知った顔が。

 

 

 

「よっ。月、詠、飲んでるか?」

「はい、一刀さん。楽しんでいただけていますか?」

「あぁ、まさかこんなに盛大な会を開いて貰えるとは思ってなかったよ。ありがとな」

「ふんっ、精々月に感謝しなさいよ」

 

 

 

詠は既に酔っているのか、顔は真っ赤である。

 

 

 

「ふふ、詠ちゃんったら、一刀さんがいなくなるので寂しいんですよ?」

「ちょ、月っ!」

「そうか、ありがとな」

 

 

 

俺はそう言って二人の頭を撫でてやる。二人とも気持ちよさそうに目を細めてくれている。

 

 

 

「うぅ…」

「へぅ…やっぱりいいですねぇ。もっと撫でてくださいよぅ…」

「はいはい………うん?」

「どしたんれすかぁ、かじゅとさん…もっと撫で撫でしてよぉ」

 

 

 

 

 

あれ、なんか、月の口調が………。

 

 

 

 

 

「もっともっとれすぅ~。ほら、詠ちゃんもおねだりしようょぅ」

「もぉ~月がいうならしょうがないじゃらい。ほら、一刀さん、ボクももっと撫でてよぉ~」

「あの…お二人さん?」

「なんれすかぁ!?もっとなれなれしてくらはいよぉ」

「そうよ、かじゅと!早く撫でらさいよ!」

 

 

 

 

 

断っておくが、今の台詞は前者が詠で、後者が月だ。…なにかおかしくない?

うん、あれだ。完全に酔っ払ってるな。

俺は一頻り二人の頭を撫でると、脱兎の如く逃げ出した。

 

 

 

 

 

「ちょっとかじゅとぉ!ろこに行くろよ~」

「そうですよぉ!ボクを置いていかないれくらはいよぉ」

 

 

 

 

 

アーアー聞こえない聞こえない。

 

 

 

 

 

俺は二人の声を、意識的に排除した。

 

 

 

 

 

 

さて、あそこには当分近づかない方がいいな。さて今度は…

 

 

 

「おぉ一刀、こっち来ぃ!」

「北郷!お前もこっちに来て飲め!」

 

 

 

早速嫌な予感がした………。

 

 

 

「こっちはこっちで酔っ払ってるみたいだな」

「何言うとんのや!これぽっちの酒でウチが酔うかぃ!」

「そうだぞ、北郷。酒は飲んでも飲まれるな。酒なんぞいくら飲んでも私たちには問題ない」

 

 

 

そういう二人の足元には大徳利がすでに数本空になって転がっている。

 

 

 

「酔っ払いはみんなそう言うんだよ。俺もお邪魔していいかな?」

「ええで。ほら、こっち座りぃ!」

 

 

 

俺は霞に誘われるままに、二人の間に座った。

 

 

 

「ほれ、北郷。まずは一献」

「あぁ、ありがと」

 

 

 

俺は華雄の注いでくれた酒を一息に飲み干した。

こっちの酒はたまに飲むが、相変わらずキツイな。爺ちゃんによく飲まされた日本酒とはまた違った味わいが舌に絡む。

 

 

 

「そういや一刀、聞いたでぇ?自分、『天の御遣い』らしいやん?なんで言うてくれんかったん?」

「そういえば詠が言っていたな」

「んー…ちょっと思うところがあってね。でもこれからはあんまり隠さないで行くつもりだけどね」

「そうなん?まぁ、ウチにとって、一刀は一刀や。『天の御遣い』だろうがなんだろうが、それだけは変わらへん」

「そうだな…お前は私の家族であり、友であり、目指すべき目標だ」

「うん、ありがとう」

 

 

 

俺たちは、(予想外も甚だしく)和やかに飲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた時期が俺にもありました、ええ。

 

 

 

 

 

「ほんでなぁ、一刀ぉ。華雄はウチに負け越しとるくせに、自分の方が強い言うてんねんで?ホンマ阿呆やと思わん?」

「なぁに言ってるんだ、お前は。私の方が勝ち越してるだろうに…ック」

「二人とも…酔っ払ってるんじゃない?」

「んなことあらへんわぁ~。てか一刀が3人おるけど、今誰が言うたん?」

「はっはっは!張遼よ、酔っているようだな。そんなんでは将として失格だぞ?

………今のは一番右の北郷が言っただろうに…ヒック」

「はぁ………」

 

 

 

俺は脚に力をこめると、一息で二人の間を飛び抜けた。

 

 

 

「こんなことで技使いたくないよ…」

 

 

 

 

 

 

さて次は………あそこだな。

 

 

 

「(パクパクモキュモキュ…)…?」

 

 

 

俺は背を向けて料理をひたすら詰め込む恋の頭を撫でてやると、恋の隣に座った。

 

 

 

「よっ、恋。美味いか?」

「…ん。おいしい」

「そっか…よかったな」

「あら、一刀様。こちらに逃げてきたのですか?」

 

 

 

と、恋を挟んで反対側にいる唯さんが話しかけてきた。円卓のその隣には、他の女性の文官も座っている。みな一様に恋の食べる姿に見惚れているようだ。

 

 

 

「人聞きの悪いこと言わないでくれよ。酔っ払いの相手は、素面の俺には荷が重過ぎるだけだよ」

 

 

 

俺は冗談ぽく返し、唯さんの盃に酒を注いだ。

 

 

 

「ありがとうございます。一刀様もどうぞ」

「ありがとう」

「それにしても………やはり寂しいものです。どうしても出ていかれるのですか?」

「あぁ。俺にはやらなくちゃいけないことがあるからね」

「そうですか…。でも、一刀様には本当にお世話になりました。あの政策にしても、それ以外のお話にしても、私は大変有意義なお時間を頂ました」

「いや、こちらこそだよ。唯さんが手伝ってくれたから、資料やその他のことが万事恙無くいったんだ」

「それはそれは、オッケーでしたね」

「ちょっと使い方がおかしいけど…オッケーだよ」

 

 

 

そう言って俺たちは笑いあう。

 

 

 

 

 

「ところで、ずっと気になっていたのですが………一刀様と恋様は恋仲どうしなのですか?」

「ぶはっ!?ごほっ、ごほっ!…いきなり何言い出すんですか!?」

「いえ、男女二人で旅をして、毎日ご一緒に寝られて、そう思わない方がおかしいですよ?」

「いや、俺と恋は………」

 

 

 

ふと周りを見渡せば、同じ卓の文官どころか、周囲の卓の人たちもこちらを見ている。

 

 

 

「どうなんですか?」

「………………」

 

 

 

この沈黙は俺のではない。気がつけば、あの恋が食事を中断してこちらをじっと見ている。

 

 

 

「いや、なんていうか…俺と恋はずっと同じ家に暮らしていて、そして同じ楽しみや………悲しみを共有して。なんていうか、好きとかそういうのを超えた絆みたいなのは感じるかな」

「………?」

 

 

 

俺の言葉の意味があまり理解できていないのか、恋が首を傾げる。

そんな恋の頭を撫でてやりながら―――

 

 

 

 

 

「俺は恋とずっと仲良しだ、ってことだよ」

 

 

 

 

 

―――そう、笑いかけた。

 

 

 

 

 

「ん…恋も一刀と、ずっと仲良し………」

 

 

 

俺の答えに満足してくれたのか、恋は再び目の前の料理の山へと没頭した。

 

 

 

そして再び、爆弾が投げかけられた。

 

 

 

 

 

 

「それでは…私が恋人に立候補してもかまわないのですね」

「「「「「きゃぁぁあぁああああ!!!」」」」」

「ぶはっ!」

 

 

 

何を言っているんですか、唯さん!?というかそこ!騒いでんじゃない!!

 

 

 

「家族以上の絆があるのはお二人を見ていてもわかります。でもお二人が男女の仲でないのなら、私にもそうなれる可能性があるわけですよね?」

「いや…その………」

「なんやぁ!何が起きたんや!?」

「ちょっと、一刀さん!どうしたんですか?」

 

 

 

 

 

うわぁ…最悪だ………。

 

 

 

 

 

先ほどの悲鳴を聞きつけて、月と詠、それに霞と華雄がこちらへ向かってきた。あぁ、やめて…そこのお姉さん、そんな楽しそうに状況説明しないで………。

 

 

 

「へぅ…一刀さん………私も立候補していいですか?」

「ゆ、月!?」

「ほなウチも立候補するで」

「張遼!?」

「だってウチも一刀好きやもん。惚れた男と一緒におりたい思うのは女の性やろ?な、月っち?」

「へぅ………詠ちゃんも華雄さんも正直になろうよ…」

「うっ!………じゃ、じゃぁボクも立候補してあげるわよ!勘違いしないでよね!?月一人だと何されるか心配だからなんだからね!!」

「ふむ…私は武人としてお前に惹かれていると思っていたんだが…」

「どしたん?」

「どうやら女としても惚れているらしいな」

「さっすが華雄や~ん!………で、一刀?誰とんの?」

「へ?」

 

 

 

 

 

今まである意味蚊帳の外だった俺に、いきなりお鉢が回ってきた。

 

 

 

 

 

「へ?やあらへん!一刀は誰が好きなん、言うとるんや!」

「え、あの…ちょっと………」

「私、ですよね…へぅ」

「ボクよね?」

「私だろう?」

「一刀様…」

「いや、その………」

 

 

 

俺はかつてないほどのピンチに陥っていた。どうする?どう答えたら正解なんだ!?

 

 

 

 

 

………そうだ!恋!!

 

 

 

 

 

「………zzz」

 

 

 

 

 

おやすみなさい!

 

 

 

 

 

俺が答えあぐねていると、霞がついにキレた。

 

 

 

「あぁもう、まどろっこしい!こうなったら酒や!一刀酔わせて本音を吐かせるで!!」

「いや、待って…」

「張遼隊!囲め!」

「華雄隊!張遼隊に送れをとるな!!」

「ちょ、なんで部隊使ってんの?てか既に恋がいるから俺動けないよ!?」

「かぁ~っ!また恋かいな!恋とは別に男女の仲やないんやろ!?だったらさっさと決めんかい!」

「ちょ…」

「董卓様!賈駆!今だ!」

「はい!」 「任せなさい!」

「え!?ゴボゴボゴボ………」

 

 

 

 

 

これ以降の記憶は、俺にはない。

ただ、夜明け前にふと目を覚ますと、俺は自分の部屋の寝台の上にいた。

身体にかかる重みに目を下をむけば、俺の見知った人たちの寝顔がそこにあった。

 

俺の胸に月と詠、左右の腕に恋と唯さん、さらにその外側に霞と華雄がそれぞれいた。

 

 

 

「なんだかなぁ………」

 

 

 

 

 

―――願わくば…再びこの幸せそうな寝顔を拝まんこと。

 

 

 

 


 
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