No.147776

『舞い踊る季節の中で』 第54話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

袁術の所に忍び込んだ一刀、一刀は其処で何を思ったのか・・・・・、
翡翠と一刀から報告を聞く雪蓮、その最後に雪蓮は、一刀からとても承諾する事の出来ない提案を聞かされる。

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2010-06-04 21:56:39 投稿 / 全28ページ    総閲覧数:19042   閲覧ユーザー数:13740

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -寿春城編-

   第54話 ~ 舞い散る雪に耐える蓮は、想いゆえにその重さに耐える ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

        神の手のマッサージ(若い女性には危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術

 

  最近の悩み:某日、川岸にて

        連れた魚に眩しい笑顔で俺に報告してくる彼女、その真っ直ぐさは、俺にはとても眩し

        った。 そして、僅かに俺より多く釣った事を喜んでいる姿は、本当に微笑ましかった。

        まぁ実際には、あまり多く釣っても仕方ないので、餌の気配を消しているだけなんだけ

        どね。 それは言わぬが花だし、こうしてそんな彼女を眺めているだけでも、十分俺は

        楽しめているから、問題は無かった。 そんな時、事件が起こった。 遊びに来ていた

        らしい明命の顔見知りの猫達が、川に落ち流され、そんな猫達を助けるために、俺の静

        止を聞かずに明命は冬の川に飛び込んでいった。 そして、無事戻って来たは良いけど、

        全身が濡れた為、服は身体に張り付き、その女性らしい体形を露わにし、濡れた黒髪は

        身体に張り付き、妖しさを醸し出している上、猫を助けれた事で、優しい微笑みを浮か

        べる彼女は、なんと言うか、凄く危険な香りを出していた。 と、とにかく、このまま

        では風邪もひくし何とかしなければ・・・・・・・・・、

        

  (今後順序公開)

一刀視点:

 

 

すぅーーー

 

一つの影が、音も立てずに、狭い天井裏を俺の近くまで進み寄ってくる。

其の事に、さして驚く事は無はせずに、ありのままを受け入れる。

顔見知りと言う訳ではない。

其の影は、男は、恐らく袁家の老人達の手の者、

だとは言え、忍び込んできた俺を捕らえるとか、始末しに来た訳ではない。

 

そもそも前提が間違えている。

彼は、二メートルにも満たない距離にいるが、今だ俺の存在に気がついていない。

ただ、己の任務を遂行するために、其処に留まり、部屋の下の様子を伺っているに過ぎない。

そして、其の男の登場と共に、眼下の部屋の二人は、左手を話の弾みをつけるように、空を指差しながら、先程までと違った話をしだす。

 

俺が此処に潜り込んでから二人目、そして、その二度とも同じ反応、

やはり、この人は人の気配を読む事に掛けて、かなり高い能力を有している。

そしてそれは、眼下の二人にとって、袁家の老人達は味方では無いと言う事を示していた。

 

 

 

 

最初に感じたのは違和感、

反董卓連合で軍議の時、袁術の無邪気な我が儘振りにだった。

あの時俺を見た時の目と、一瞬だけ寂げな瞳を見せた事からだった。

会議後、その違和感の正体を確かめるため、動こうと思ったけど、

孫策に桃香の所に連れて行かれて以降、とてもそれ処ではなくなってしまった。

 

それが南陽の街に戻ってからも、気になってはいたが。

孫策が久しぶりに、俺の前に顔を見せた事と、

俺の周りの細作の増加を理由に、袁術を探る機会を得る事が出来た。

 

当日は、孫策達の顔を潰す訳には行かないし、疑われる訳には行かないので、

朝からかなり気合を入れて、普段はまずやらないような手法を多く取り入れて、料理を作った甲斐が在って、

袁術達は舌鼓を打っていた。

まぁ、ここに何故か曹操が居たのには驚いたけど、今は構っている時では無い。

少なくとも、こちらが手を出さない限り、態々他人の城で問題を起こすような事は、・・・・・・・多分しないはず。

 

 

 

 

そして、袁術との会話と、思いもかけない三人での共演、

その事で、俺が知りたいと思っていた以上の事が分かった。

袁術の無邪気さと、我が儘は仮面だと言う事、

そして、小喬の作り話からしても、人の痛みの分からない子ではないと言う事、

三人の共演を、芝居ではなく、無邪気に心から喜んだ事。

 

二人が、孫策や翡翠達から聞いていた、人物像と違う事が分かった。

別に孫策達が嘘を教えたとは思っていない。

あれはあれで、彼女達にとっての真実なのだろうから。

 

問題は、何故、二人がそう見せているのかと言う事だ。

袁術が、袁家の老人と称される、袁家の実権を握っている人達の傀儡である事は、翡翠から聞いてはいたし、

此処に来て、この目で確認も出来た。

あの醜悪な目をした人達は、少なくとも自分達以外の者を、同じ人間とは見ていない。

それは傀儡とは言え、自分達の君主である袁術に対しても同じだった。

 

そして、あまつさえ、翡翠に対しても下種な目を向け、いやらしく背中や御尻を触ろうとしていた。

・・・・・・・・顔は覚えたから、その時には、手の関節でも外しておくか、・・・・・・肩から先を全部、

 

話が反れた、

とにかく、例え傀儡とは言え、袁術と張勲の行動には違和感を感じる。

例え傀儡とは言え、あそこまで仮面を被る必要は無いし、

どちらかと言えば、袁家の老人達に対して被っているように感じられたからだ。

それに、あんな小さな娘が、あそこまで仮面を被れるものなのか・・・・・・?

 

 

 

 

「これで、・・・・方達が集めた分も含めて、十五万の兵が、・・・・・・・・・・」

「うむ心強いのじゃ」

「そのうえ、勇猛な張遼さんが鍛えて・・・・ますから・・・・・・・」

「うむ、孫策も妾に恭順を示して・・・・・・、これ・・・・家も安泰なのじゃ」

「・・・・・・・・・・例え孫策さんが反旗を翻しても、けちょんけちょん に出来ちゃいますよ~

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな心配は無い・・・・・・・・すけどねぇ。」

 

所々掠れてはいるが、確かにはっきりと聞こえる声、

だけど、それは・・・・・・・・・・・・、

そんな二人の会話に、満足がしたのだろうか、目の前の男は冷笑し、

結局最後まで、俺の存在に気がつく事無く、この場を立ち去っていく。

 

そしてそれから暫らくして、張勲は前の時のように手を下ろし、

 

「美羽様、お疲れさまです。 今日は、もうお休みになられては如何ですか?」

 

と、今までの何処か堅かった声とは違い、声を向けられた者を、本当に安心させる優しい声で、袁術に話しかけていく。

眼下で繰り広げられる会話と風景は、先程まで雰囲気とは違い、

本当に穏やかな、仲の良い姉妹の様に感じられた。

 

・・・・・・・・、しかしおねしょか、・・・・・・まぁ、あれくらいの年の娘なら、ありえるかもしれないな、

 

 

 

すっ

 

俺は、二人が寝静まるのを確認してから、部屋に降り立つ。

部屋は改めてみると、とても君主の部屋とは思えない広さと、質素な部屋だった。

少なくとも、これなら、客将である孫策の部屋の方が、広いだろう(見た事は無いけど)

とりあえず、二人が寝ている事を、視覚や気配に頼らず、その場にあるモノから読み取る。

 

うん、確かに二人とも寝ているな。

 

袁術はともかく、張勲の気配を読む能力には、明命や思春の時以上に、気をつけておいた方が良いだろうな。

俺はとりあえず、薄っすらと見える部屋の中から、書棚から袁術の日記らしきものを取り出し、指先でその内容を読み取っていく。

内容としては、先程、二人が話して見せた事と、そう対して変わり無い様な内容の出来事が書かれていた。

中には、

 

『 孫策が、独立に手を貸す約束の事を持ち出してきたが、惚けてやったのじゃ、

  悔しそうに妾をこっそり睨むが、その悔しがる姿が実に愉快じゃ、どうせ妾達を出し抜く、

  なんて事は出来るはずもないのじゃ。 この調子で、妾にために扱き使ってやるのじゃ  』

 

と言うような事も書いてあった。

そんな内容を、適当に飛ばしてながら読んだ後、

今度は、張勲が袁術が直接書いた方を収めた棚に足を運ぶ。

だけど、其処には、硯とかが収めてあるだけで、目的の物が見当たらない。

だけど、此処にある事を知っている事と、部屋の中が暗いおかげで、棚の奥の壁の陰影から、違和感を感じる事が出来た。

こう言うのは、じっちゃんの所に在った組細工の箱で慣れているんだよな。

俺は壁の一部を、指先の感触を頼りに操作し、やがて奥の壁そのものを横にずらすと、

其処には、目的の物がある事を確認できた。

 

 

 

 

(ごめん)

 

俺は心の中で、他人の、しかも女の子の日記を読む事を謝ってから、

最初に、まだ、わずかに墨の水気を感じる文字を、

今日の出来事を、指先で読み取っていく、

 

『 曹操が、張遼を引き取りたいと取引を持ち掛けてきた。 代価は、アレ等の言うとおり値上げをして

  やったが、想像以上じゃった。 七乃の用意してくれた言葉のうちから、なんとか計画に支障が出な

  い様に、取引の内容を変える事が出来たのじゃが、それでも多すぎる代価が、どう影響するのか心配

  じゃ                                            』

 

成程、曹操が居たのはそう言う訳か、

 

『 ・・・・・・は本当に楽しかったのじゃ、母様達が生きていた頃以来じゃ、

  孫策が、妾達を油断させるために送ってきた者達だけど、大喬には感謝せねばならぬな。

  ・・・・・・孫策達の蜂起のための準備は、順調に進んでおるようじゃが、今回の出来事で、どうなるか不

  安なのじゃ、 もう妾達に残された時間は少ない。 婚儀が来てしまえば、今以上に動けなくなると

  思うのじゃ、なんとしても妾達の願いを、叶えねばならないのじゃ                』

 

・・・・孫策の行動が、見抜かれている!

それに・・・・・・・・・・願い?

俺はその内容に驚くも、早足に日付を遡って行く。

 

孫策が袁術の元に転がり込んできた頃、

 

その前の二人の苦悩、

 

そして、二人が決意した理由、

 

・・・・・・・・・・成程、

これなら、今まで感じた違和感にも説明がつく、

だけど、これだけを信じる訳には行かないし、これに書かれた事だけでは意味が無い。

俺は、袁術の日記を全て戻し、二人の部屋を後にする。

 

 

 

 

冬の朝、白靄の中を、俺は城を抜け出し、

そこで、初めて、周りの世界に同化させていた気配を戻す。

結局あの後、袁術の日記に書かれていた事の裏を取るため、

幾つかの書庫に潜り込み、袁術達の政策、主に張勲の印が押されたものを探し出し、

読み明かして居た為に、こんな時間になってしまった。

 

しかし、翡翠には書き置き一つで出てきてしまったけど、心配は・・・・・・・・・・しているよな、きっと。

前回こってり絞られてから、一月も経っていないのに、翡翠に黙って動いたんだもんなぁ。

言えば絶対反対するに決まっているし、下手に強行しようものなら、兵を付けられかねない。

でも、そのおかげで、色々分かったんだから、少しのお説教で済む・・・・・・・・かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時俺は、そう楽観視していたが、

それが、とんでもない間違いであった事は、この後身をもって知ることになった。

 

 

 

 

 

 

「ひぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーっ」

 

 

 

 

 

雪蓮視点:

 

 

「袁家の老人達は、我々を疑ってはいないようです」

 

翡翠の報告を聞き、私は、ひとまずは安心する。

私の執務室には、他に冥琳と、なぜか一緒に報告に来た一刀がいるだけで、今は細作の心配も無い。

 

「ですが、その場に、曹操が来訪されていまして」

「曹操が? そう言えば汜水関でもそうだったけど、あの娘変な所に、顔を出す趣味でもあるのかしら」

「それが、・・・・・曹操が言うには、袁術に張遼を兵二万と糧食三ヵ月分を取引したそうです」

「ちょっ、それ本当っ!?」

 

翡翠の驚く報告に、私はつい声を上げてしまう。

隣では冥琳も、目を見開いているのだから、冥琳にから見ても、これは一大事なのでしょうね。

 

「曹操がこのような事で、嘘を述べるとは考えにくいです。

 それと取引の内容で、張遼は三ヶ月は袁術の配下のままだそうです」

「ちっ、それは厄介ね」

 

優秀な将は、兵の数千にも数万にも匹敵する事もあるけど、

それは、その将の働き次第で、その下にいる兵士がそれだけの働きをすると言う事。

ましてや、張遼本人の武も優れているが、その真価は兵の運用にある。

事実、その実力は汜水関、虎牢関で証明済みで、袁紹、袁術に呂布と協力して大打撃を与えている。

まぁ、中には呂布なんて言う、単騎で本当に数万を相手に出来る化物もいるけど、あれは例外中の例外。

 

「ああ、その上自分達でも兵を集めていた事もあって、合わせると袁術の所の兵は十五万に達する」

 

今度は一刀が、そう翡翠の報告に補足してくる。

十五万か・・・・・・・・・・想定していたより四万も多い。

 

「どうする雪蓮?、我等は五万、二倍強なら袁術軍相手なら、策次第で何とかならなくはないが、

 三倍ともなると話は別だ。 ・・・・・・・・くやしいが、確実にするためにも、計画を半年遅らせるか?」

 

友人の冷静な判断を、聞きながら私は考える。

大義名分があるとは言え、それは私達にとっての話、傍から見たら反乱でしかない以上、短期決戦が必須条件、時間を掛ければ掛けるだけ、反乱側である私達には状況が悪くなる。

しかも、張遼がその兵を率いるとなれば、それは難しいと言わざる得ないでしょうね。

細作の報告では、張遼は『主殺しの張遼』として、腫れ物扱いでされているらしい。

でも、奴等だって馬鹿ではない。 張遼の腕は認めているはずだし、使える者を使わない奴等ではない。

きっと私達同様扱き使われているはず。

 

とにかく、冥琳の言う事は正しい。

三万の差と、更に増えるであろう、兵の差を埋めるには時間が要る。

少なくても、張遼の居なくなるまでの三ヶ月は、動かない方が得策でしょうね。

 

 

 

 

でも、

 

「駄目よ、それでは逆に勝機を失うわ。 やるならすぐに動くべきよ」

 

わたしは、勘に任せて結論を出した。

無論、漠然とだけど理由はある、けど勘が、それで間違いないって言っている。

 

「本気か雪蓮っ、我等には失敗は許されないのだぞ」

「そうね、上手く言えないけど、逆に一気に増えた今が、好機だと思うの」

「今回は、勘なんて言葉だけでは動けんぞ」

 

相変わらず堅いわね、上手く説明できないから、勘って言っているんでしょう。

相棒なら、それで分かりなさいよ。

まぁ、多くの一族の命を預かる事を考えれば冥琳の言う事も分かるわ。

うーん、どう言ったら、

 

「俺も孫策の意見に賛成だな」

「ほう北郷、では雪蓮の変わりに、その理由と言うものを聞かせてもらおうか」

 

うんうん、こういう時頭の固い人間を、説得できる人間が居ると助かるわね。

今回は、元々一刀の我が儘を聞いてあげた事から始まったんだから、その借りを今此処で返しなさい。

 

「孫策が言いたいのは、急に増えた兵に在るんだ。

 曹操にしたって、自分の所の兵を本当に二万も譲渡するとは考えられない」

「成程、兵の質と言うわけか」

「ああ、恐らくかき集めた人間ばかりだと思う、下手すると扱いに困る罪人も混ざっている可能性もある。

 とにかく、そんな寄せ集めの兵が、まともに戦える訳が無い」

「時間を置けば置くだけ、戦えないものが戦える様になると言う訳か」

 

そうそう、私が言いたかったのもそれ、でも、まだ足りない。

冥琳もそれは分かっているのか、まだ納得していない様子、

 

「だが、分かりやすい兵力とは、単純な数だ。

 例え、ろくに調練をしていないと言っても、その数は脅威だぞ」

「ああ、だけどろくに調練していない今なら、その数を逆に利用してやれる事も出来る」

「成程、北郷が言いたい事は分かった。

 だが、それが上手く行くとは限らないし、それだけでは決め手になるとは思えないな」

「そうだね、それだけなら俺も言い出しはしない。

 でも、それを後押しする物があれば、話は別だよ。

 例えば農民達が、一斉に一揆を起こすとかね」

 

 

 

一刀の言葉に、部屋の空気が緊迫したものに変わり、

冥琳が、眦を吊り上げて翡翠を睨みつけ、何かを言おうとするのを

 

「冥琳落ち着きなさい。 翡翠達が、私達に黙って一刀に話す訳無いでしょ。

 一刀、なんでそう思ったか、聞かせてくれるかしら」

 

一刀が言った事、それは私達が極秘裏に進めていた作戦の一つで、まだ限られた人間しか知らないはず。

無論、何処で秘密が漏れるか分からないため、一刀にはまだ知らせていない事。

だけど、一刀はそれを言い当てた。

 

「その様子だと、陽動や兵を動かす口実ぐらいに思っていたみたいだね。

 でも、それは協力してくれる人達や偽兵だろ?

 だけど、そこに本物の一揆が混ざったらどうなる。

 そして、其処に息の掛かった人達が、孫呉を求めるように扇動したらどうなる」

 

一刀の言っている事は分かる。

一揆の農民達に戦わせる、なんて事はさせれないけど、その数や勢いを利用する事は出来る。

おまけに、その後の統治もしやすくなる。

確かにそれなら、冥琳も乗ると思うわ。

だけど・・・・・・・・、

 

「一刀、話をはぐらさないで、 一刀は一言も質問に答えていないわ。

 なんで一揆が起こると思うの?」

 

私の問い詰めるような言葉に、一刀は目を一度閉じ、

やがて悲しそうな目で、私を見ると、

 

 

 

 

 

 

 

 

「 袁術と張勲がそう仕組んでいるからだよ。

 

  俺達は、あの二人の掌で踊らされているんだ。 」

 

 

 

 

 

 

じじっ

 

一刀の話を聞き終えた私達のいる部屋の中を、

行灯の時折出す音だけが、静かに響き渡っている。

私も冥琳も椅子に深く腰掛け、目を瞑り、心の中で落ち着いて状況を整理する。

 

一刀の話した内容は、正直信じられない話、

そして、信じたくない話、

でも言われれば、思い当たる節がある。

 

母さんが死んだ後、離反や裏切りを続ける豪族達から身を守るため、

仕方無しに袁術の客将になったと言うのに、私達に対する処遇が甘いと言わざる得なかった。

いくら私達を扱き使うためとは言え、妹達や旧臣達とは、散り散りにされただけだった。

連絡も取りづらく、離反した者達もいるけど、致命的と言う訳でもなかった。

小蓮辺りを直接人質にとる事も出来たのに、妹達は軽い軟禁程度しかなかった。

 

そして、黄巾党や反董卓軍連合の時なんて、絶好の機会が在ったとは言え、

袁術は、あまりにも簡単に、旧臣達を呼び寄せる許可を与えてくれた。

経った数年で、此処まで来れた。

 

そして、一刀達には言っていないけど、元々度重なる重税で、民の不満が鬱積していたため、農民達の一揆に見せかけた挙兵を行うつもりだったのだけど・・・・・・・・・・、

今日の昼間、近くの農村の代表のおじいちゃんが、泣きついてきた。

税を上げる御触れが出たと、このままでは、少しでも実りが悪ければ、餓死するしかないと泣き付いて来た。

その事も、一刀の言っている事を証明をしていた。

 

なら、認めるしかないわね。

 

袁術に張勲、貴女達が私達を利用しているように、私も貴女達を利用させてもらうわ。

そして、この私を踊らせてくれた報いは、受けさせてあげる。

 

 

 

 

「冥琳、聞いての通りよ。

 いつ袁家の老人達に、此方の動きを知られるか分からないわ

 なら動くのは早い方が良い、一刀の策も組み入れて動くわよ。

 農民の扇動と偽兵は、この間言ってた娘と、尚香にでもやらせて見なさい」

「了解した。 だが、幾ら急いでも連携を取る事を考えたら、半月近くは準備に掛かる」

「出来るだけ急いで頂戴」

 

私の言葉に、冥琳は頭の中で、そのための最良の手順を、思考し始めているのが分かる。

その間に、

 

「翡翠、一刀、今回はお疲れさま、翡翠には明日から頑張って貰わなければいけないから、

 もう帰って休んでも良いわよ」

 

二人に笑顔を向け、労いの言葉を掛けたのだけど、

翡翠は悲しげに横を向き、一刀は力強い光を灯した瞳を私に向け、

 

「孫策、頼みがある」

「なによ、あらたまっちゃって、・・・・・・なんか嫌な予感がするんだけど」

「二人を、袁術と張勲を見逃してあげる事はできないか」

 

・・・・はっ?

 

「・・・・・・・・一刀、もう一度言ってくれないかな、どうやら聞き間違えたみたいだから」

 

自分でも、こめかみが引き攣るのを感じながら、念のために、一刀に聞きなおす

 

「二人を助けたいって言ったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけないでっ!!」

 

 

 

 

 

 

私の怒声が、部屋中に響き渡る。

きっと外まで聞こえているかも知れないけど、今はそんな事どうでもいいわ。

 

「一刀、貴方自分が何を言っているか分かってるのっ!」

「分かっているつもりだよ。 だから、頼んでるんだ」

「だったら、私がそんな事、了承する訳無いって事ぐらい分かりなさいよっ!」

 

バシッ

 

私が勢いで投げた近くにあった竹簡が、一刀の額に直撃する。

一刀なら、平気で避ける事も、受け止める事も出来るはずなのに、一刀はわざと避けなかった。

それが、私を余計に苛立たせる。

 

「無理を承知で頼んでいるのは、分かっている。

 それに孫策達の本当の敵は、袁家の老人達で二人ではないはず。

 なら、二人ぐらい見逃してやってくれ」

 

だけど、それでも真剣な顔で言ってくる一刀に、私は一度大きく息を吐き、

少しでも落ち着こうとしたけど、あまり意味は無かった。

それでも、馬鹿な事を言い出した一刀に、分からせてあげるために、

何度か深く呼吸をして、無理やり吹き上がる怒気を静める。

 

(そう、一刀は、まだ此方の世界の常識が、分かっていないだけよ)

 

そう、自分に言い聞かせてから、

 

「一刀、董卓の時とは状況が違い過ぎるの。

 二人の境遇や目的とは別に、私達は二人を見逃す訳には行かない理由があるわ。

 一つ目は、袁術が傀儡であっても、袁術がこの国を動かしている事になっているわ。

 そして私達に協力してくれる人他達は、そんな袁術を倒して、私達に上に立って欲しいから、手を貸して

 くれているの」

 

私の言葉に、一刀は頷く、

 

「二つ目は、例え二人を見逃した所で、二人を恨む人間は多いし、二人を利用しようとする人間もいる。

 例え匿った所で、二人は董卓と違って、顔と名前は有名よ。 とても隠し通せないわ。 そしたら、今度

 はそれを理由に、豪族達に何を要求されるか分かったものじゃないわ」

 

一刀、分かって頂戴。

 

「三つ目は、前の二つに関係するけど、私達に二人を助けるだけの利が無いわ」

 

周りを納得させる事が出来なければ、そんな事は出来やしないの

 

 

 

 

だけど一刀は、そんな私の事など関係ないとばかりに、

 

「利ならあるさ」

 

そう反論してきた。

 

「意見を変える気は無いけど、一応聞かせてもらうわ」

 

そうしなければ、一刀が大人しく引っ込む訳無いもの、下手すれば洛陽の二の舞よ。

いいえ、それ以上に一刀の立場が悪くなるわ。

それが分かっているから、翡翠は私に説得させようと、一刀を此処へ連れて来たのでしょうね。

 

「一つは風評、

 裏にどんな事情があろうと、何も知らない人が見れば、袁術は孫家の窮地を救った事になっている。

 事実、袁家はそんな約束を守る気が無いとは言え、時期が来たら独立を手伝う約束をしている。 そこに、

 反旗を翻して袁術を討ったとなれば、孫呉は恩を仇で返す奴と言い出す奴もいるだろうし、そんな孫呉を

 危険視する連中だって出てくるはずだ。

 だけど、袁術を傀儡にしている連中を討ち、袁術から治める権利を譲り受ける形になれば、その後の地盤

 固めの役に立つはずだよ」

「甘いと舐められる可能性だってあるのよ」

「そんな人間は遅かれ早かれ、尻尾を出すさ、なら早い方が良いに決まっているし、

 そんな隙を見せなければ良いだけだろ、そして、孫策達はそれが出来るだけの能力と結束力がある」

 

そうね一刀の言う事は、ある意味正しいわ。

 

「一つは袁家の支配権

 どんな政策であっても、袁家に協力したがっている連中はいる。

 そして袁術達が直接支配していた土地を、完全に支配下に置くには、どうしたって時間が掛かる。

 だけど、其処に袁術の名と、正当な継承であれば、比較的短期間で支配下におけるはずだよ。

 今後の事を考えるなら、領土を増やす事も大切だけど、支配を磐石にするのは、もっと大切なはず。

 背中に気をつけて戦うのだって、限界があるからね」

 

一刀は、そう話を終える。

 

 

 

 

「一刀、言いたい事はそれだけのようね。 なら、私の答えは変わらないわ。

 風評なんて私は気にしないし、言わせたい奴には言わせておけば良いわ。

 そんなものは、実力で分からせてあげれば良いだけ、

 取り戻した土地を、完全に支配下に置くのだって、逆を言えば、時間さえ掛ければそれも可能って事よ。

 貴方の能力は認めるけど、あまり私達の力を過小評価してもらいたくないものだわ」

 

私の冷たく言う言葉に、一刀は驚きながら、次の手を打とうとするけど、

もう、そんな事をさせてあげる気は無いわ。

 

「それにね。 私自身が二人を助ける気なんて無いからよ。

 たとえ、あの二人がそうせざる得なかったとしても、あの二人に罪が無い訳ではないわ、

 そして、私達が受けた屈辱は、とても許せるようなものではないっ。

 ぽっとでの一刀に、軽々しく二人を許せなんて言って欲しく無いわね」

「孫策、だけ・」

「話は終わりよ一刀。

 それから、一刀には蟄居を命ずるわ。 私の許しあるまで外に出ない事、良いわね。

 翡翠、一刀を連れて帰りなさい。 貴女からも、もう一度一刀に言い聞かせておいて頂戴」

 

私の一方的な言葉に、一刀は悔しげに下を向く、

自分の力の無さと、見込みの甘さを歯噛みしている。

二人を助けられない事に、まるで自分の事の様に悔やんでいる。

それでも、何か手が無いかを、必死に考えている。

垢の他人だと言うのに、この子は・・・・・・、

 

そしてそんな一刀を、翡翠は手を取って、部屋から連れ出して行くのを見届けてから、

私はもう一度、椅子に深く腰を下ろし、

息と共に、怒りも、悲しみも、遣る瀬無さも、多くの気持ちと共に、ゆっくりと吐き出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

分かって一刀、

 

そんな事、許されやしないのよ。

 

だから、せめて私を恨みなさい。

 

それが、一番分かり易いのだから・・・・・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

こくっこくっ

 

冬の外気でよく冷えたお酒が、私の喉を通り過ぎていく。

 

「ぷは~っ」

 

ちょろちょろちょろ

 

もう何度目だろうか、私は一息に飲んだ白酒を、空になった盃に白酒を満たしていく。

 

「・・・・・・不味い」

 

決して安くない酒なのに、欠片も美味しいとは感じられなかった。

でも、それでも飲まずにはいられなかった。

 

「・・・・・・最低・・・・・・・・よね」

 

こくっこくっ

 

そんな呟きと共に、盃を一気に空ける。

 

こつっ

 

「やはり飲んでたか」

 

足音と共に、そんな事を言いながら入ってきたのは、確認するまでも無く、親友の冥琳。

 

「飲んでるわよ~♪、独立に向けて、いよいよ最終段階に入ったんですもの、軽く前祝い位するわよ♪」

「ふぅ~、・・・・・・・・付き合おう・・・」

 

溜息を吐きながら、呆れたように言う親友に、

 

「あたりまえよ。

 前祝いだって言うのに、一人で飲んでたって面白く無いわ」

 

なんて、空元気を出してみる。

 

 

 

 

「あの時の母さんったら、無かったわよね。

 私も散々無茶だ無謀だと言われているけど、母さんに比べたら、私なんて可愛いものよ」

「自覚しているなら、少しは控えて欲しいものだな」

「や~よっ、だって、私は無茶だなんて思って無いもの」

「はぁ~・・・・」

 

あれから冥琳と昔話を肴に、無理やり盛り上がってみせる。

そんな私に、親友は知っていながら付き合ってくれている。

でも、それは多分・・・・・・、

 

「・・・・・・雪蓮、少しは気が晴れたか?」

 

・・・・・・やっぱりね。

この厳格で頭の固い親友が、あんな事の後で、ただで甘やかせてくれる訳が無いと思ったわ。

 

「ふぅ~・・・・・・冥琳の方は済んだの?」

「明命と思春にすでに動いてもらっている。

 穏にも話しておいたから、明日には幾つか建策を練って来るであろう」

「そう・・・・・・」

「・・・・・・雪蓮、言いたくは無いが、何時まで北郷を甘やかしておくつもりだ」

 

ぴくっ

 

「別に甘やかしてやいないわ。

 現にさっきだって、一刀を怒鳴りつけたじゃない」

「そうだな。 一見そう見えるだろうな」

「あら、人聞き悪いわね。

 私は本当の事を言ったつもりよ。

 袁術を見逃す気は無いし、そんな事は許されないってね」

「ああ、だが全部ではあるまい」

 

そう、冷たく鋭い目で、そして何処か温かみのある目で私を見つめてくる。

誤魔化すなと、前に進まなければいけないと、その目は私にそう言っている。

・・・・・・参ったなぁ~、冥琳にそんな目をされたら、弱音なんて見せられないじゃない。

 

「そうね、一刀は人の恨みを、甘く見ているわ。

 実際はどうであれ、袁術達を恨んでいる人間は多く、その恨みは深いわ。

 そんな人間に理屈なんて通用しないし、そんな人間全てを敵に回す訳には行かないわ。

 それに、幾ら私達が扇動するとは言え、一揆まで起こさせる程、民を追い込んでいるのですもの、

 二人を見逃しても結果は一緒よ。 それにそんな事は、二人だって覚悟の上で歩いて来ているはずよ」

 

こくっこくっ

 

そう一息に言ってから、再び盃を空にする。

・・・・・・本当、今日は酒が不味いわね。

 

 

 

「お前まで、恨みで目を曇らせている訳では無いだろう」

「当たり前でしょっ、王たる私が、恨みで目を曇らせる訳には行かないわ」

 

言い返した言葉に、親友は『安心した』と、わざとらしく零して来る。

・・・・・・まったく人をなんだと思っているのよ、猪か何かだとでも思っているのかしら。

 

「北郷の出した策はどう思う」

「何を今更穿り返して来るのよ。 さっきも言ったけど駄目ね。

 策そのものは悪くないけど、とても豪族達や民を納得させれるものでは無いわっ。

 只でさえ、微妙な立場に立たされていると言うのに、下手をすれば、言い出した一刀が、命を狙われかね

 ないわ。 そんな事冥琳だって分かっているはずよ」

 

そう、一刀は今、微妙な所に立たされている。

確かに氏族や豪族達は、建業で試している一刀の政策案や、医術書、そして賀斉の働きかけもあって、天の御遣いとして、認めつつあるわ。 そして、連合での一刀の出した策が、それを後押ししている。

でも、逆に兵や将達からは、一刀に対して否定的な意見が多い。

 

連合の時、一刀が遣り過ぎたからだ。

いくら力を隠すため、そして一刀なりの策が在ったとは言え、

事情を知らない兵達から見れば、一騎射ちを申し込んだ結果、

一方的に負け、その上人質として捕られた訳だから、将や兵達の気持ちも分からない事は無い。

しかも普段は茶館の主で、私達に一目置かれていては、余計面白くは無いはずよね。

 

『お気に入りなだけで取り立てられた』

 

なんて陰口が叩かれていても、可笑しくは無いわ。

そして、そんな意見が広がっていけば、まだはっきりと皆に力を示していない以上、氏族や豪族達の長達も考えを改めかねない。

そんな時に、一刀の二人を助けたいと言う言葉は、致命的になりかねない。

私が一刀に蟄居を命じたのは、一刀に考え直させる事もあるけど、そんな考えのまま、外に出して下手に動かれて、噂が豪族達の耳にでも入ろうものなら、 幾ら私でも何らかの処罰を与えざる得なくなる。

 

孫呉の王と言っても、まだ私達には其処までの力は無い。

嫌な言い方をすれば、江東の地の、数ある豪族達の代表者でしかなく、逆を言えば彼等の信頼と力が無ければ、しょせん江東で力を持っている一族の一つでしかない・・・・・・、

もっとも、袁術から土地を取り戻せば、それなりの力を取り戻せる事にはなるけど・・・・・・、一刀の言うとおり、すぐに完全に支配下における訳では無い。

袁術を利用すれば、それも可能かもしれないけど、そんな事は力を貸してくれた豪族達が黙ってはいない。

 

「・・・・・・・・・・八方塞りなのよ」

 

なら、袁術達に恨みがある以上、全て私のせいにした方が、一刀も諦めやすいはずよ。

 

 

 

 

だけど、そんな私の想いを、

 

「八方塞りか・・・・・・、それが甘やかしていると言うのだ、雪蓮」

 

親友は打ち崩しに来る。

 

「先程の北郷の案そのものは、私は面白いと思う。 我等には無い発想だ」

「なによじゃあ、冥琳は、一刀の妄言に賛成だと言うの?」

「私は雪蓮と同意見だよ。 怨敵、袁家は討つ」

 

親友は、厳しい顔で、冷静なくせに、静かな怒りの炎を瞳の奥に揺らしながら、私に同意してくれる。

でも・・・・・・・・、

 

「だが、それは心情的なものだ。

 我等が本当に求めるのは、怨敵を討つ事ではなく、太平の世を作り、それを後世に伝えて行く事。

 北郷の案は、その地盤を固めるためには、合理的な案である事には違いない」

 

そう、それが孫呉の宿願、

そして私の願い、

 

「ならば、そのためには、毒を飲む事も必要と考えている」

「冥琳は、一刀の妄言を飲もうと言うの?

 なによ、人に一刀に甘いと言っておいて、冥琳の方が甘いんじゃない」

「北郷の頑張りを見れば、甘く見てはやりたい・・・・・・・」

 

私の呆れたようにいって見せた言葉に、冥琳は苦笑じみた笑みを浮かべ、

そして、すぐに頼れる相棒の顔に戻り

 

「が、軍師の性でな、何事も冷静に判断してしまう。

 確かに今の状況で、袁術と言う毒を飲めば、我等は倒れかねないだろう。

 だが我等には、今の状況を打破し、毒を飲もうと跳ね返すべき力がある」

 

・・・・・・・・っ!!

 

まさか、冥琳っ

私の頭に浮かんだ事を、親友は冷静に、そして冷たく言ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪蓮、なぜ北郷に武将として、戦場に立てと言わない」

 

 

 

 

 

 

親友は、冥琳はそう言ってしまった。

そして、その言葉に、私は頷かざる得なくなると、私の勘が告げている。

 

「・・・・・・・・冥琳、それは本気で言っているの? 一刀が持つわけ無いじゃない」

「無論本気だ」

「冥琳っ!」

 

私の怒る声に、冥琳は軍師の顔のままで

 

「言ったろう。 何時まで北郷を甘やかしておくつもりだと、

 襲ってきた賊を皆殺しにした時は、北郷が自分を取り戻しきるのに数ヶ月、・・・・・・賊討伐の時は二月弱、

 ・・・・・・・そして、前回は一月も掛からなかった。

 あやつは、お前や明命達が思う以上に、強くなっている」

 

それは私も感じてきている事。

 

「だからって、いきなり将として戦場に立たせるなんて、

 もっと戦に、いいえ、此方の世界の現実を知ってからでも遅くは無いわ」

「そうだな、私もそうは思う。 だがそれは、許されるのならばの話だ。

 だが分かっているはずだぞ、寄せ集めとは言え、予想以上に増えた敵兵力、それに対抗するためには、一人

 でも多くの有能な将が必要だと言う事はな」

 

そうね、その通りよ

だから、今度は翡翠にも出てもらうつもり。

総力戦ですもの。

 

「もう最終段階に移った以上、袁術に隠しておく必要も無くなった。

 戦場で北郷の実力を見せれば、兵達の不満も無くなり、 天の御遣いとしての威光を高める事が出来る。

 文字通り、全ての問題を解決できるくらいにはな」

 

それくらいは可能かもしれない。

でも、

 

「一刀が、それを了承すると思うの?」

「戦において、人を助けると言う事は、誰かを殺す事だ。

 断るならば、それだけの想いでしかなかったと言う事。 今後あのような事も言い出さなくなるさ」

「私に『袁術と張勲を助けたいなら、将として敵兵を殺し、名を上げろ』と一刀に言えと?」

「それがお前の役割であろう。 だが、言いにくいのならば、私から伝えても良いぞ」

 

 

 

 

ぎりっ

 

奥歯を強く噛む音が、私の中に響き渡る。

冥琳の言うそれは、一刀を地獄に叩き落す事。

でも、本当に、歯噛みする理由は、

 

私が、それを必要と認めてしまった事・・・・・・・・・・、

 

個人の感情を無視したならば、

一刀を地獄に叩き落す事で、全てが上手く行くならば、

支配する者が変わる事で起きる混乱を、より早く収める事が出来るならば、

独立後の目標である、江東の地を平定する事を考えるならば、

 

・・・・・・・・・・・・王として、それをやらない手は無い。

 

「明日、一刀を呼び出しておいて、 それとこれは私の仕事、他の人間には譲れないわ」

「・・・・・・そうか」

 

冥琳は、それで話は終わりとばかりに、盃に酒を満たし、一気に呷る。

その顔は、さっきの私と同じ、・・・・・・・・美味しそうには、とても見えなかった。

そうね、冥琳は一刀と真名を呼び合っているのですもの、・・・・・・また嫌な想いさせちゃったわね。

この親友には、何時も嫌な役回りばかり、させてしまっている。

 

「悪かったわね」

 

そう冥琳の盃に、酒を満たしながら、親友に感謝の言葉を言うと、

自嘲気味に、でも、とても柔らかな微笑みを浮かべながら、

 

「これが私の役割さ、自分から望んでやっている事。

 お前が、そう言った者達の想いを忘れないでいる事を、役割と想っているようにな」

 

そう優しく言ってくれた。

・・・・まぁ、最後のは少し余分だけど、冥琳らしいといえば冥琳らしい。

そんな冥琳に、少しだけ心から笑みが浮かび上がり、

 

「早く美味しいお酒が飲みたいわね」

「・・・・・・そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

こんにちは、うたまるです。

 第54話 ~ 舞い散る雪に耐える蓮は、想いゆえにその重さに耐える ~ を此処にお送りしました。

 

今回は、色々悩みました。 所謂問題作ですね。

どうやったら、雪蓮や冥琳の悩みを上手く表現できるのか、自分の執筆力の無さを痛感しました。

幾つか書きたい事も、話の展開上書けませんでしたが、それでも何とか、納得行く形になりましたので、これで行く事にした所存です。 この後の展開で、その辺りをフォロー入れる意味も含めて話を作らねば(汗

本当は、二話分あるのですが、結局何処で区切ったら良いか分からず、切るとしたら、雪蓮の自棄酒シーンなのでしょうが、話の雰囲気を途切れさせたくなかったので、結局一話に纏めてしまいました。

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。

 

 

PS:宿に戻った一刀がどんな体験をしたかは、また後日ちょろっと書けたらなぁ、と思います。

 

 


 
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