No.133824

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 三の章

Chillyさん

双天第三話です。

今回は山なし落ちなし、状況説明?みたいな回です。

ふぅ……やっと時系列が序の章に追いついてきた。

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2010-04-02 09:54:33 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3496   閲覧ユーザー数:3065

 パッカパッカとお馬に揺られ……てないんだよな、オレ。

 

 あの後、川原で話すのもなんだからと城に行くような話の流れになったのはいい。

 

 なんでオレ、腕を縛られ馬に乗る二人に引っ張られて歩いているのかな?幸いなのはオレの荷物を馬に積んでくれて、運んでくれているってところだけ。

 

「なんで二人は馬に乗っていて、オレは縛られて引っ張られているのかな?まるで大昔の犯罪者ようにさ」

 

 オレが歩いてついていける速度で馬を歩かせてくれているからきつくはないけれど、やっぱり腕を縛られ馬に引かれるという状況を愚痴ってしまう。

 

「越が怒っているからな、あきらめてくれ」

 

 伯珪さんが馬を寄せて愚痴に答えてくれた。自分で言うのもなんなんだけど、不審人物たるオレにまで気を使うなんて良い人なんだろうね。

 

「従姉様、そんな輩と何を話しているのですか。何をされるかわかりませんよ」

 

 越ちゃんがオレと話す白珪さんを注意してから、オレに繋がっている縄を引っ張った。引っ張られれば腕を引かれ前につんのめりそうになる。慌てて足を動かし転ぶのを防ぐが、あれは転んでも止まらずにオレを引き摺ってでも馬を進める気だったな。“チッ”なんていう舌打ちが聞こえてきたよ。

 

「お前が真名を呼んだこと、たとえ訂正したとはいえ越はまだ怒っているんだなぁ」

 

 伯珪さん、きっとそれだけじゃないです。オレが彼女の裸を見てしまったことにあなたに嘘を言ったことをばらしたこと、そして大好きなあなたがオレに気を使っているから怒っているんですよ、きっと。

 

 言いたいけど言ったらまたひどい目にあうな。具体的には馬の速度を上げて俺を引き摺る処刑方法をとるとか……。考えるのはやめよう、今の状況だとその情景がリアルに想像できる。

 

「諏訪……だったな、お前の着ている服は珍しいものだな。陽光を浴びてキラキラと光って見える」

 

 お二人が着ている服のデザインに比べれば、白い色の学ランって事は珍しいかもしれないけれども、至って普通の学生服だと思います。

 

「あ、従姉様。私もそれは思いました。上等な絹でも使っているのでしょうか?」

 

 越ちゃんも会話に参加してきた。少しは怒りも治まってきたのかな。

 

「どこにでも売っている、ごく普通の学生服だと思うけどな。素材だってポリエステルかなんかの化学繊維だし」

 

 改めて着ている学生服をしげしげと眺めてみる。あ、肘の所がけっこうテカってるなぁ、二年も着ていればこうなるかなぁ。

 

「いやいやいや、どこにもそんな服売ってないから!それに“ぽうりぃ”……なんだ、その“かがくせんい”というやつは?」

 

「従姉様……私には“ぽりぃえすぅてる”と聞こえましたが……」

 

 え?ポリエステルを知らない?化学繊維という言葉もわからない?しかもただの学生服が売ってない?本当にここ現代じゃないっぽい?非現実を体験中?それともまだオレは気絶していてそこで見ている夢?

 

 オレの頭はもうパンク寸前だったようだ。

 

 知らない土地に放り出されたかと思ったら、言葉を使って意思疎通はできるけど、微妙に通じていなかったり。

 女の子の裸を見てしまったかと思ったら、蹴られ縛られ殺されそうになったり。

 三国志に出てくる有名武将と同じ名前の女の子がいたり。

 森を抜けてみたら見渡す限りの草原で地平線が確認できたから、日本じゃないこと確信したり。

 

 起きてから起きた出来事を考えてみると現実逃避して引きこもってもいいよね。

 

「おい、どうした?急に。おい、おい」

 

 でもここにいた二人の女の子たちはそれを許してはくれなかったようで、伯珪さんが声をかけながらブツブツと“これは夢だこれは夢だ”と呟くオレの頬を軽く叩いていた。

 

「急に倒れてどうしたのかと思えば、このまま引き摺っていきますか?従姉様」

 

 訂正、越ちゃんはやっぱり怒っている模様……。

 

 現実逃避して気絶したオレは一応引き摺られることはなかった。荷物のように馬の背に乗せられ、落ちないように縄でぐるぐる巻きにして運ばれたらしい。気がついた部屋にいた侍女さんに話を聞きました。

 

 気絶から目が覚めたとき、病院のベッドでいいから夢から覚めてくれると期待した。でも目が覚めてみれば結構豪華な天蓋つきのベッド?それとも寝台と言った方がいいのかな?に横になっていて、映画とかで見る中華風の部屋の中にいた。

 

 この部屋を結構慌てて用意したのか、起きたときに侍女さんが三人いて、二人は掃除一人はオレの世話を焼いていてくれたらしい。侍女を雇えるとは結構お金持ちの家のようだ。

 

 だけど普通、気絶した人間を入れている部屋で看病と同時に部屋の掃除をするか?絶対看病は伯珪さんの計らい、掃除の嫌がらせは越ちゃんだろう。

 

 オレが起きたことで看病にまわっていた侍女さんは報告のために退出するようで、丁寧にお辞儀をして部屋を出て行った。残りの侍女さんたちは黙々と掃除を続行中。話しかけようにも仕事中につき、話しかけるなとその背中が言っているようです。

 

 先ほど出て行った侍女さんが戻ってきたとき、気絶してからの経緯を聞きました。

 

「後ほど主様がこちらにお見えになり、お話をお聞きになるそうです。それまでこの部屋でお休みください。では、失礼いたします」

 

 そう言って三人の侍女さんたちは出て行った。

 

 もう一度、部屋の中を見てみる。

 

 今座っている寝台の他に机と椅子がある。それと鏡台があってその鏡は、うん、現代の鏡のようだ。綺麗に反射して像を写している。やっぱりここはオレの知らない未開拓地域でただ外国に送られただけのようだな。時間遡航してしかも異世界に行っているなんてありっこないしな。

 

 オレの荷物は机の上に鞄、部屋の入り口の方の壁に弓が袋に入ったまま立てかけられていた。

 

「さてと、部屋にいるって事は街の中にいるってことだろ?いくらなんでも携帯電話くらいあるだろうし、GPSも使えるだろ」

 

 意気揚々とポケットに入っている携帯電話を取り出し、パカッと開けてみた。

 

 アンテナ……圏外。

 

 ……えぇと、この携帯電話、海外使用できなかったかぁ……そうそう森を抜けたしGPSは使えるだろ……“衛星が見つかりません。使用できません”って森の中と同じこと言ってるんじゃないよ!ここがどこだかもわからないじゃないか!

 

 使えない携帯電話をほっぽって、オレは鞄を開けて中身が全部あるか確認してみる。よく海外旅行に行くと不心得者が旅行者のバッグを漁って中のものを盗むとか聞くしな。盗まれて困るようなものは入ってはいないが、電子辞書は盗まれると地味に痛い。仕送りだけの苦学生には電子辞書を買い換えるのも結構厳しいのだ。

 

 ここには不心得者が居なかったようで盗まれた物は無かった。ホッと一安心して寝台に横になる。

 

 思い返してみれば不思議な一日だと思う。

 

 朝に約束した歴史資料館見学は学校が終わってからだった。今日は半ドンでお昼には授業が終わり、昼食後部活の時間となったが、オレたちは部活に顔を出して結構すぐに歴史資料館に向かった。だから時間としては一時半から二時くらいだっただろう。

 それから歴史資料館を見学やら何やらであの事件までの時間を過ごした。一時間や二時間は絶対にかかっていたから、あの事件の時刻は午後三時から四時、五時のはず。少し外も赤くなっていたから四時、五時くらいが正確なところだろう。こんなことなら時刻を確認しておくんだったとは思うけど、こういうのが後悔先に立たずって言うんだろうね。

 あの事件で気絶して起きたらあの森の中にいた。上を見たときに抜けるような青空だったし、森を抜けたときに太陽の位置を見たら真上を少し通り過ぎたくらい、すなわち昼過ぎだろうって感じだった。

 

 オレは一晩以上、気絶したまま過ごしたことになる。

 

 寝台に放り投げていた携帯電話を再び取り、開いて液晶に映し出されている時刻を確認する。

 

 誰かが携帯電話の時刻をいじるかなにかしない限り、オレの気絶した時間が数分程度でしかありえないような時刻がそこに表示されていた。

 

「わけがわかりません、ホントに」

 

 森で起きてから、そしてここで起きてから時刻のことを見ない振りをしてきたが、やっぱり無理そうだ。

 

 もし携帯電話の時刻をいじるような人間がいて、その人間がオレをさらった人間だとしたら何故このようなことをしたかわからない。財布も残っているし何か取られた形跡も無い。ただオレという人間をこの地に連れてきただけ。目的は何かが見えてこない。

 

「時刻変更できるから不思議な現象の決定的な証拠ではない。オレが考え付かない目的が犯人にはあるのかもしれないしなぁ」

 

 日が沈んできたんだろう、窓から差し込む光が赤く染まり、部屋がだんだんと薄暗くなってきた。

 

「電気電気っと……スイッチどこだ?」

 

 壁を見渡してみても電灯のスイッチらしきものが見当たらない。なんか皿みたいのが壁についているけどあれはなんだろうか?あそこの中に電球が入っているのかな?天井に電灯見つからないし。

 

 椅子に登って皿の中身を見てみたら、空のお皿でちょこんと芯になりそうな紐があるだけでした……。

 

 しばらく薄暗い中待っていたら、先ほど看病してくれた侍女さんが火種と油を持ってやってきて、部屋に明かりを燈してくれました。

 

 日が沈み、完全に暗くなってから伯珪さんは部屋にやってきた。

 

 もちろん越ちゃんも一緒に来ていて、もう一人新しい女性を連れてきていた。

 

 白い振袖みたいなミニスカ着物でニーソックを合わせた青い髪をショートボブにした女性。胸元がざっくりと開いていて谷間がもろに見えます。ほかの二人もミニスカートだったりしたけど、露出度という点ではそんなにかわりはしないが、その場所がこの女性、結構あざとい!

 

「諏訪、もう大丈夫か?あのときいきなり倒れて驚いたぞ」

 

 部屋に入ってすぐにオレの体調を気遣ってくれる伯珪さん、本当に良い人です。その横で“あのまま起きなくても良かったのに”とか呟いている娘がいるが意図して無視しよう。

 

「心配してくれてありがとう。とりあえず体調は大丈夫だと思う。それに伯珪さんが考える時間をくれたからいろいろまとまったよ」

 

 そう、侍女さんからオレが起きたと報告を受けてから、すぐにここに来ることは可能だったはず。それをあえてこの時間まで来なかったのは、他に忙しいことがあったとしても彼女の気遣いだろう。それに対して礼を言わなければならないとは思う。

 

「そういうのはいいから、やめてくれよ。……で、話を聞いてもいいか?」

 

「かまわないけど、そちらは?」

 

 白い着物の女性を紹介されないまま話が始まりそうだったので聞いてみる。

 

「あぁ、こいつはうちで客将をしてもらっている……」

 

「私の名は趙子龍。諏訪殿の名は伯珪殿から聞いているから名乗りは大丈夫ですぞ」

 

 うわぁ……趙雲も出てきましたよ、またも女性で。驚きで目をまん丸にしていたら不思議そうな顔で小首を傾げていらっしゃる。美人さんがそんなあどけないしぐさをすると結構クルね。

 

「それでも名乗らせてもらいますよ、趙雲さん。オレの名は諏訪晴信、よろしくお願いします」

 

 名乗って頭を下げて、頭を上げたら目の前の三人が三人とも驚いた顔をしていらっしゃる。あれ?オレなんかミスった?

 

「諏訪殿……私はいつ貴方に名を名乗ったかな?」

 

「今名乗ってくれなかった?」

 

 なんか会話がかみ合っていないけどなんだろうか?

 

「諏訪、なぜ子龍の名前、雲を知っていたんだ?」

 

 あぁぁぁ、趙子龍としか名乗られてないよ。それなのに趙雲と言ってしまったからこの驚きか。やっばいなぁ、趙雲さんをはじめ越ちゃんはもちろん、伯珪さんの目つきも鋭くなってしまった。

 

 ここから挽回するのって結構きびしいか?

 

「それを話す前に質問したいことがあるんだけどいいかな?」

 

 慎重に言葉を選ぶ。一手一手が重要なはずだ。越ちゃんは多分最初からオレを疑ってかかってきている。趙雲さんは今の名前当てで警戒を強めたはずだ。そして伯珪さんは……彼女も警戒を強めているか、さっきよりも一歩後ろに下がって、趙雲さんの影にすぐ隠れられる位置にいる。質問の了承の合図かオレに肯いてくれる。

 

「この国は、今、漢という国で治めているのは霊帝……っとこれは死後の呼び名だったか……えぇと、劉……劉宏だったかな?そして宦官が権力を持って政治は荒れ、国が乱れている時代」

 

「確かにこの国は漢だ。そして諏訪の言う通り皇帝の名は劉宏、その後の世が乱れているというのも合っている」

 

 伯珪さんは苦々しいとでも言うようにオレの質問に答えてくれる。オレが苦々しいというより政治を乱している宦官、ひいてはそれを正せない自分自身を苦々しく思っているように感じた。

 

 伯珪さんの答えは決定的な答えだった。

 

 いくら自分を誤魔化そうとこの答えを得てしまったからには認めないといけない。オレは時間遡航をした、そして本来は男であるはずの三国志の武将たちが女性である異世界に来てしまったと。

 

「伯珪さん、答えてくれてありがとう。これでさっきのオレが趙雲さんの名前を知っていたか答えやすくなった。信じるか信じないかはそちらの自由だけどね。もっとも一番信じたくないのはオレだけど」

 

「答えやすくなったとはいかがなことですかな?そして自身が信じたくないことを私たちに信じろというのはいささか人が良すぎませんかな?」

 

 オレの言葉を理解仕切れなかった伯珪さんは不思議そうな顔をしているが、越ちゃん、趙雲さんの視線がさらに鋭くなる。世の中が乱れているなんて話をすれば、二通りの考えが浮かんでいるはずだ。一つ目はオレが調子の良いことを言って伯珪さんを唆し、兵を挙げて朝敵になるよう仕向けること、二つ目はオレが流言飛語を言って金をせびること。これ以外にも考えているだろうけど、危険度として高いのはこの二つだろう。

 

「確かにね、でも信じてもらうしかないし、オレも信じるしかない」

 

「で、いったいどういった理由で趙将軍の名を知っていたのですか?」

 

 硬質な声音で問いただしてくる越ちゃんを見てから自説を唱える。

 

「まず一つ目、オレはこの時代、この世界の人間じゃない」

 

 三人ともまずはオレの与太話を聞いてからと思っているのか、ここで反論は出なかった。

 

「そして趙雲さんの名前を知っていたのは、オレがいた時代に歴史の資料として、物語としてこの時代のことが語り継がれていたから、名前だけは知っていた」

 

 三人の顔にありありと不審の色が見える。オレも似たような話を聞けばまず精神病院への入院を薦める。

 

「そしてオレの時代に伝わっていた趙雲さんは、これは伯珪さん、越ちゃんにも言えることだけど、女性ではなく男性の武将だった」

 

「何を言うのかと思えば、なんだそれは?私たちを馬鹿にしているのか?」

 

 呆れたように言う伯珪さん。確かに伯珪さんの言うとおり馬鹿にしているとしか思えないだろうな。

 

 オレはとりあえず何から見せようか考える。携帯電話、電子辞書、電卓、筆記用具にノートでもいいか、この時代にはない代物ばかりだ。どれでもこの時代の人間ではないことの証明になるだろう。もしくは進んだ技術を持つ国の人間とも思うかもしれない。だけど下手に科学技術の結晶を見せてしまうと妖の物と思われてしまう可能性もある。

「証拠として何を見せればいいかわからないけど、オレが持っているものを見せるよ」

 

 オレは鞄の置いてある机に向かった。まずはノートを見せて製紙技術を確認してもらおう。

 

「ん?そのやわらかい錘が証拠なのか?」

 

 へ?鞄が錘?伯珪さん何言ってるのかな?

 

「えぇと、これ錘じゃなくて鞄なんだけど」

 

 あれ?越ちゃんまで驚いた顔してるよ、何で?趙雲さんはついていけていないようで、驚いている二人を見て不思議そうにしている。

 

「これが鞄で驚くことかな?どこからどう見ても普通の鞄だけど」

 

「だって、その錘……鞄でしたっけ?物を入れる口が無いじゃないですか」

 

 へ?物を入れる口がない?そりゃチャックがしまってるから口は塞がってるけど、あければちゃんと口が開くじゃない。そう思ってチャックをあけると口が開いたことに三人から感嘆のため息が漏れる。特に趙雲さんなんか興味深そうにオレの手元を覗き込んでいる。

 

「ほうほう、その金具を通すことでそれぞれをかみ合わせているのですか。実に興味深いですな」

 

 しかも原理をある程度予測できているみたいだし。

 

「興味を持ってくれてうれしいよ。でだ、数点見て欲しいんだけど……いいかな?」

 

 この言葉に一番目を輝かせたのは趙雲さん。三人の中で一番机に近づいて齧り付きで見ています。もちろん一番、武に自信があるからこそ、そして他の二人も信頼しているからこその行動だと思うけど、あの目を見るとあながち興味だけのような気がする。

 

「ささ、諏訪殿。次は何を見せていただけるのですかな?」

 

 ほら、この言葉と今にも鞄を奪い取りそうなほどオレの手元を覗き込むその態度が、本当に護衛目的で一番前に来たのか疑わせるんだよね。

 

「趙雲さん、落ち着いて。今出しますから」

 

 そういって取り出したのがノートと筆記用具。

 

 あれ?あんまり反応がよろしくないな?

 

「この本はなんと書いてあるのですか?文字らしきものが書いてありますがまったく読めませんし、半分以上白紙なのも奇妙ですね」

 

 越ちゃんがノートをパラパラ捲りながら質問してくる。あれれ?この時代、紙って貴重じゃなかった?おかしいな……。

 

「しかし越将軍よ、この紙はかなり上質なものと見受けますが?」

 

 ノート持って二人で話し始めちゃった。しかしあんまり反応は良くないな、どういうことだろうか。

 

「ノートはあんまり受けが良くなかったけど、これならどうだ!」

 

 オレは筆箱からシャーペンを取り出し掲げてみる。

 

「なんだ?その細っこいのは」

 

 伯珪さん、良くぞ聞いてくれました。

 

「基本的に文字などを書くとき使うのって筆と墨だよな?」

 

「竹簡や木簡、紙に墨を使って筆で書くな」

 

 他の二人がノートの紙質談義に花を咲かせている中、伯珪さんだけがオレの話に付き合ってくれている。ちょっと悲しい。

 

「オレがいたところではこいつを使って、ノートに文字を書く……そしてこの、消しゴムで間違えたら文字を簡単に消すことが出来る」

 

 オレは説明しながらノートにシャーペンで文字を書き、その書いた文字を消しゴムで消して見せた。

 

「ほう、便利なものだな。竹簡などにもそれで書き込めるのか?」

 

「やってみないとわからないけど、多分書けるとは思う。だけどこのノートに書くみたいにはいかないと思う」

 

「微妙につかえないな」

 

 ぐっ、痛いところを突いてくるな、伯珪さん。しかもそんなに驚かないし冷静に見られているような気がする。

 

「しかし、進んだ技術があるところから来たことはわかるな。紙にしても上質なもののようだし、その綴じ方も私たちの知らないやり方だ。その細っこいのにけしごむ?というものもこの紙があれば便利なものだ」

 

 結構認めてくれているようだ。伯珪さんはノート、シャーペン、消しゴムを一個一個確かめながら、そう言ってくれた。

 

「だが、これが諏訪がこの時代の人間、この世界の人間ではない証明にどうやったらなるんだ?百歩譲ってもこの世界の人間ではないという証明にしかならんな……あぁ、その証明だけでも十分なのか」

 

 一瞬ドキっとしたが伯珪さんは自分で勝手に納得してくれたようで、先ほどまでしていた警戒を解いてくれている。しかしこの三人、結構柔軟な思考しているんだなと思う。未来の品を見せたからかも知れないけど、オレが別世界の人間とすんなり信じているような感じだし……。

 

「となると……管輅の占いは諏訪殿の事を指すということですかな?」

 

 考え込んでしまった伯珪さんに趙雲さんが質問している。管輅の占いというのは良くわからないけど、管輅って三国志に出てきた凄腕占い師だったよな?またオレ蚊帳の外になりそうな気がしてきた。

 

「あの占いは兗州に落ちた流星がそれだとなったはずだぞ。天の御遣いを自称する人間が陳留の刺史に仕えたと噂になったしな」

 

 オレが不安そうな表情をしていたのか、不思議そうな表情をしていたのかわからないけど、越ちゃんが趙雲さんと紙質談義に使っていたノートを返してくれるついでに管輅の占いを教えてくれた。いわゆる終末救世主願望の現われのような占いで、世が乱れたら神様みたいな人が皆を導いてくれる人を送り出してくれるらしい。その人物がこの世界の人間じゃないと証明したオレなのでは?と議論が交わされているということみたいだ。

 

「そんな救世主にオレがなれるわけないでしょ。精々出来るのは……なんだろうな?」

 

「何を暢気なことを言っているんですか。……私は貴方を認めたわけではありません。しかし細作や暗殺者の類ではないことは理解しました」

 

 呆れたようなため息と鋭い視線でもってぼやいたオレに言葉をくれた越ちゃん。

 

 多少は一連の事、許してくれたのかなぁ……くれているといいな……

 

 


 
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