No.133463

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 二の章

Chillyさん

双天第二話です。

日本語の同音異義語って会話だと分かり辛いときありますよね。今回はそんなお話です。

2010-03-31 18:51:02 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4042   閲覧ユーザー数:3471

 ここはどこ?わたしはだれ?

 

 まず浮かんだフレーズがこれってのは結構パニクってる証拠なのかな?

 

 歴史資料館で起こったことは記憶にある。そしてそこで気を失ったのも覚えている。だけどなぜ今、ここにいるのかがわからない。

 

 右を見てみる。

 

 ……あ、リスが頬袋をパンパンに膨らませてどんぐりもってらー。

 

 上を見てみる……。

 

 木々の隙間から抜けるような青空が見える。雨の心配は無さそうだね。

 

 ……左を見てみる。

 

 なんか水の流れる音するし、少し歩けば川に着くのかな。これでなんとか水の確保ができたなぁ……。

 

 さて……現実逃避はこれくらいにして、実際ここはどこだろう。

 

 森の中ということはわかるが聖フランチェスカの敷地内及び近郊ということは考えられそうも無い。こんな深い森無かったもんな。そう思ってみてみれば、木々の植生も若干異なって見える。フランチェスカにある森ならかなり人の手が入っているはずだが、ここはほぼ自然のままの状態。リスがいたということは他にも動物がいる可能性が高い。危険な動物に遭ったらと思うと結構やばい。

 

 なんにせよ現状を抜け出すためには、何ができて何ができないか把握しないといけないだろう。

 

 まずは身体。特にどこかが痛いということも無く、しびれていたりもしない。五体満足であるらしい。これで食料調達、水場確保、寝床探し等など“行動をする”ということができるというものだ。怪我でもしていたら、それだけ行動に制限がでるし下手をすれば血の臭いなどで獰猛な動物を呼び込んでしまうかもしれない。

 

 次は所持品の確認。

 

 携帯電話。開いてみれば充電は十分、されど圏外。GPSで現在地を調べようにも表示されるのは“衛星がみつかりません。現在使用できません”だけ……。衛星が見つかりません?そんなことがあるんだろうか?詳しくGPSについてなんでも知っているわけじゃないからなんとも言えないけど、こんなことがあるんだろうか?

 

 ま、知識が無いことをとやかく考えていたところで仕方が無いし、森を抜けたら変わるかも知れないので考えるのはやめておこう。

 

 弓。弦を張っていない袋に入ったままのガーボンファイバー製の弓。矢は無いけど武器になりそうなものがあるってのは多少安心材料になる。袋から出してざっと確かめてみたけれど、ヒビも入っていないし、折れてもいない。弦と矢さえあれば十分使えるだろう。

 

 荷物のいろいろ詰まった大きな鞄。授業に使うものはほとんど机の中に入っているのでそれほど多くはないがノート三冊、筆記用具、電子辞書になぜか入っていた電卓。そして弓の弦が三本。これで矢を作ることができれば弓を使うことができる。ゆがけが無いからしばらく指が痛くなるだろうけど、仕方が無いな。あとは、タオルが2枚と弓道衣が入った袋、くしゃくしゃになった歴史資料館のパンフレットというところか。

 

 それから財布。福沢さん2枚、夏目さんが4枚、後は硬貨がじゃらじゃらと結構な枚数あると……。ここがどこだかわからないけど人里におりれば、バスなりタクシーなりを使って寮にもどれるだろ。

 

 武器がどうの獰猛な動物がどうのと言ったけど、平和な日本、それほど心配はしていない。

 

「とりあえず、水だよなぁ……。人里におりるにしても川に出て、下流に向かえば問題ないだろうしな」

 

 誰ともなしに言ったオレは鞄と弓を持って、水の流れる音のした左手の方へと歩を進めた。

 

 人の手の入っていない森を大きな荷物を持って歩くこと。

 

 これがどれだけ大変か、身を持って味わっています。

 

 弓はいろんな枝に引っかかる。鞄も藪に引っかかる。

 

 ほんの数十メートルがこんなにも遠いものだとは思わなかった。荷物の問題もそうだけど、藪は行く手を遮るわ、木々の根が天然のトラップになってるわ……。歩き難いったらない。

 

 川原にたどり着いたときには汗だくで咽もカラカラ、体力も使い果たし結構辛い。

 

 鞄と弓を放り投げ、一目散に川へと走る。体力は使い果たしていてもこういうときの体力はあるもんだ。

 

 まずは川の水を手ですくってゴクリと一口。飲んでからきれいな水なのかどうか頭を過ぎるが、飲んでしまったものは仕方が無い。開き直って咽の渇きを潤す。

 

 咽の渇きは人心地ついたので、頭を川に突っ込み汗を流した。

 

 犬のように思いっきり頭を振って水を弾く。結構これが気持ちいい。川面を通る風が適度に水を飛ばし、火照った頬を冷ましてくれた。

 

 手で濡れている顔を拭い、目を開く。

 

 開いたところでオレの時間が一瞬止まった。

 

 上げた顔の目の前に、顔を真っ赤に染め上げた裸の少女がそこにいた。

 

 眼福の代償が何であったか話したくない。

 

 とりあえず首を動かすととっても痛い。あとは左の頬が真っ赤に腫れて、額に擦過傷、体中に打撲があるくらいか。

 

 そして眼福の代償かわからないけれど、後ろ手に縛られてついでに足もつながれて身動きができません。

 

 裸の女の子はすでに服を着て、ジッとこちらの動きを注意している。しかもその手にはキラリと光る抜き身の刃。ええとここは法治国家の日本ですか?野外露出の女の子に暴行されて緊縛されて、しかも剣を突きつけられるってどんな事態なんだろう。

 

「最期に言いたいことはありますか?」

 

 女の子が硬い声音で言ってくる。さいごという言葉の字がかなりやばそうなのはその声と状況でとってもよくわかった。

 

 ここで返答を間違ったら……ザックリ剣がオレに突き刺さる。慎重に且つ丁寧に誤解を解かねばなるまい!

 

「ないようですね。ではさようなら」

 

 女の子はさっきの問いから1秒も間を開けずにそう言って、剣を振り上げる。

 

「まったぁぁあああ、まったまったまった!君の裸を見てしまったことは謝る!だけどオレは君がここにいたことを知らなかった!裸を見たのもわざとではなく、偶然だ!ただ川の水を飲みに来ただけだ!」

 

 体中の痛みを無視して必死に女の子に訴えかける。返答を間違ったらとか、この最悪の出会いをどうにかしてとか余計なことなど考えられない。事実だけを言葉にする。

 

「それで?」

 

 女の子の返事はその一言……。

 

 一応腕は止まったけど、冷たい眼差しはそのままです。次の一言で決まる……。

 

「だから……」

 

 たった一言言うだけにかなりの精神力を使う。冷たい眼差しのまま剣を振り上げている女の子のプレッシャーはすさまじい。

 

「オレは無実だっひゃあ!」

 

“ヒュン”と言い終わる前に振り下ろされる剣。なんとか転がって首を落としに来た剣を紙一重で避ける。

 

「危ないじゃないか!そんなことしたら死んじまうだろ!」

 

「殺すつもりでやっています。避けずに死んでください」

 

 オレの抗議もなんのその女の子は剣を突きつけ、ご無体な宣言をしてくれた。おいおい法治国家日本、こんなことが許されていいのか?というかこの子なんで剣なんて持ってるんだ?女の子を上から下まで確かめてみる。

 

 赤毛のショート、ちょっと前髪が長いかな?目が隠れちゃってちょっと勿体無いな。服装はなんと言っていいか……コスプレ?薄い赤を基調にして所々に白を用い、銀糸で刺繍を施した服を着ている。剣は装飾がまったくない実用一点張り、結構ちゃんと手入れしてあるみたいで刀身にひかれた油がキラリと陽光を反射している。

 

「見ないでください。不愉快です」

 

 押し黙って女の子をジッと見つめるオレをやっぱり不気味に思ったのか、顔を顰めてそう言った。

 

「見ないから!頼むから剣をひいて。それとひとつ聞いていいかな?」

 

「駄目です」

 

 オレの譲歩と頼みを一言で断りやがった、このコスプレ女。しかも再び剣を振り上げてるし!

 

「ここ、日本だろ!そんなモン振り回して、オレを傷つけたらそっちが警察に捕まるんじゃないのか!」

 

 縛り上げられ動かしにくい体を必死に動かして、オレの主張を叫ぶ。もう形振り構っている状況じゃない、大声を出して近所にいるだろう人に望みを託す!

 

「その剣も銃刀法違反じゃないのか!ちゃんと許可証持ってるのかよ!こんな風に拉致監禁して犯罪じゃないとでも言うのか!」

 

 最初に裸を見たのはお前だろ!とか、ここがこのコスプレ女の家の私有地で不法侵入したのお前だろ!とか言われたらやばいけど、そんな事を言っていたら本当にコスプレ女に殺されてしまう。

 

「何を訳の分からないことを言っているんです、ここは幽州は啄郡、公孫伯珪が領地。警察とやらは知らないですが、私が捕まる事はありえません」

 

 コスプレ女の言葉に目が点になる。ユウシュウ?タクグン?コウソンハクケイ?どこそこ?っていうか日本じゃないの?頭の中がハテナでいっぱいになる。コスプレ女のほうもオレの言を不審に思ったのか、振り上げた剣を下ろし突きつける形にもっていっている。そして改めてオレのことを観察し始めたようだ。

「なぁ、お互いのために……質問していいか?」

 

「……なんでしょう?」

 

 さっきはとりつく島もなく一言で断られたが、今回は少し考えて了承してくれた。さすがにおかしいと感じてくれているようだ、オレ同様。

 

「質問その一。日本を知ってる?」

 

「どこの州ですか?そこは。聞いたこともありませんが」

 

 はい、質問その一から躓きました。日本を知らないということでここは日本ではないということになるけど、なんで日本語が通じているんだろうか?すんごく矛盾を感じるけどそれは後回しにしておこう。意思疎通ができるってのは良い事だし。

 

「質問その二。コウソンハクケイって?」

 

「ここ幽州啄郡の太守で私の従姉ですが、あなたはそんなことも知らないのですか」

 

 人の名前なのね……雰囲気的に中国とかその辺?って……公孫伯珪?幽州?ま、まさかねぇ。

 

「質問その二補足その一。公孫伯珪さんって姓は公孫、名はサン、字が伯珪で合ってる?」

 

「質問の仕方が訳が分かりませんが、合っていますよ」

 

 うん、まだ別の国に運ばれただけで時代が違うなんてことはないはずだ。だってコスプレ女の服装、絶対一八〇〇年前にあるような服装じゃないし、公孫サンに従姉妹の女性がいたなんて記述は三国志になかったはずだし……従兄弟に公孫越なんてのはいたけどな。気絶したあと荷物もお金も何も取らないで外国に運んだだけなんて信じられないけど、きっと攫われてあそこに捨てられたんだ。そうに違いない。

 

「質問その三。国際電話かけたいんだけど、電話ってどこにあるかな?あと大使館の場所わかる?」

 

「コクサイデンワ?タイシカン?何ですか?それは」

 

 どこの未開拓地域だよ、ここ。今時ジャングルの奥地に伝統を守りつつ生活している人たちだって電話とか大使館なんてことは知っているぞ。それに現代文明の利器を生活に取り入れたりしてるし。

 

「質問その四」

 

「待ってください。そちらばかり質問するのは不公平です。……あなたは何者ですか?」

 

 公孫サンの従妹ちゃんはオレが決定的な質問をするのを遮って質問してきた。しかも抽象的な質問だなぁと思う。

 

「オレは聖フランチェスカ学園二年、諏訪晴信。何者か?と問われたらこういう答えしかないかな」

 

 これでオレがただの学生であることはわかるだろう。今までの会話の流れから若干不安が無きにしもあらずだけど……。

 

「せいふらんちえすかがくえん?それはわかりませんが、あなたの名前は姓が諏、名が訪、字が晴信でいいんですか?」

 

「いやいやいや、姓が諏訪で名が晴信、字ってものはない」

 

「二字姓に二字名とは珍しいですね。しかも字がないとは……」

 

 従妹ちゃん考え込んじゃったよ。しかも学園って言葉もわからないとは一体全体ここはどういったところなんだ?名前も修正したけど変な感じに捉えていたし……。

 

「そちらに名乗らせてこちらが名乗らないのは礼に失しますね。私は……」

 

 従妹ちゃんが今まで突きつけていた剣を鞘に戻し、名前を言ってくれようとしたときに馬蹄の音とともに誰かの呼ぶ声が聞こえてきた。しかもその声と馬蹄の音はどんどんこちらに近づいてくる。

 

「この声は従姉様(ねえさま)?」

 

 従妹ちゃんの言葉に来る人物の推測をしてみようと思うも、公孫サンの従妹の姉?誰よそれ……。もう半ばここの世界が一八〇〇年前の三国志の世界って考え始めてるけど、どうなんだろうね、これ。

 

 などと考えていたら、先ほどの声の主がご到着しました。うん、従妹ちゃんと姉妹ってのがわかるね。従妹ちゃんを少し成長させて髪を伸ばしてポニーテールにするとそっくりだね。服装は従妹ちゃんと対称的に白地に薄い赤をアクセントで金糸で刺繍を施していて、白馬に乗ってる様がきまっていた。

 

「紅蘭、ここにいたか。流星がここら辺に落ちたから心配したぞ」

 

 お姉さんが従妹ちゃん……紅蘭って言うのか……を心配してきたのか、無事でよかったと本当に安堵した表情してる。仲が良いんだろうな、この姉妹。でも流星か……落ちたような後は無かったし、そもそも流星が落ちたならここいら辺一帯はクレーターになっていないとおかしくないか?

 

「流星ですか?少し前にも兗州のほうでもあったそうですが……」

 

「あぁ、なにやら天の御遣いが現れたとかなんとか噂になっているが」

 

 二人してオレを無視して会話を始めてしまいました。縛られ動けないからなんともしようがないけど、結構きついね、これ。天の御遣いとかすごく怪しい宗教のような会話が繰り広げられているけど、そろそろ血の巡りが悪くなっている手首あたりが厳しいのですが。

 

「あのぉ、すみません。オレはどうなるんでしょうか?」

 

 お姉さんは始めて気がついたのか、かなり驚いた様子だな。紅蘭ちゃんは“あぁそういえば”なんてさっきまで殺そうとしていたことなど忘れたように言っているし……。

 

「そうでした、従姉様。不審な男を捕らえたので尋問をしていたところです。しかもこの男、訳が分からないことばかり言うもので、未だどこのものとも……」

 

 ジロリと睨みつけてくる紅蘭ちゃん。尋問ってあなた、そんなことすっ飛ばして殺そうとしてきたでしょ。

 

「ちょっとまて!事情も何も聞かないで殺そうとしただろ、紅蘭ちゃん!」

 

 あ、あれ?名前を呼んだ瞬間、紅蘭ちゃん辺りの空気が固まったように思うんですが、いかが?しかもさっき鞘に納めたはずの剣を再び抜いてるし!お姉さんの方を見るに、あれ?一緒になってちょっと怖い顔になってる?

 

「訂正なさい。……真名を呼んだこと、訂正なさい!」

 

 剣を突きつけて怒声を放つ紅蘭ちゃん。マナ?マナって何だよ。呼ぶだから名前か?名前を呼んじゃいけないのかよ。

 

「わ、わかった、訂正する。訂正しますから剣を収めてくれ!それとマナってなんなんだ?教えて欲しいんだけど」

 

 さすがに剣を突きつけられてまでツッパルなんてできるはずも無く、あっさりと訂正してマナというものを知らないこともアピールする。うん、こんなことで殺されてなるものか。

 

 訂正すると宣言しても剣を突きつけられたままだったけど、真名について説明してもらえた。曰く、親しいもの認めたものにしか呼ばせない神聖な名前だそうで、下手に認められていないものがその名を呼ぼうものなら殺されても文句は言えないらしい。日本にも大昔に忌み名なんて風習があったからそれの変形版なのかな?という感想をオレは抱いた。

 

 それで一応名乗らなければ話がしづらいと名前を聞いたんだけど……。

 

 まずはお姉さん。

 

「私の名は公孫賛、字は伯珪だ」

 

 で、従姉ちゃん。

 

「私は公孫越という」

 

 ……ここはホントにどこなんだろう……。


 
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