No.982182

太陽と月の花とモザイクフレンズ

今生康宏さん

きららファンタジアにきらら以外の作品を登場させちゃう系のやつです
実際は絶対にありえないことなので、公式さんに変な要望を送ったりしないように気をつけよう、ね!

裏話も読めるファンクラブはこちら
https://fantia.jp/fanclubs/425

続きを表示

2019-01-30 20:28:40 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:953   閲覧ユーザー数:953

太陽と月の花とモザイクフレンズ

 

 

 

プロローグ となりのぎんぱつさん

 

 

 

「クレア、ランプ。聖典にない人が召喚されちゃったって、本当?」

 里の中を何の気なしに歩いていたきららは、飛んできたマッチに呼ばれてすぐにクレアの店に駆けつけた。

 そこにいたのは、マッチにきららを呼びに行かせたランプ、主たるクレア。それから……。

「ここはどこだ……というお約束の反応をしてみたところだが、本当にここはどこなんだ?」

「なんだかちょっと見慣れないところだねー。ソフィーちゃんが一緒なのはよかったけど!それにそれ、魔女の服だよねー!ぐへへぇっ……私がハロウィンに作ったのとはまた違うけど、よく似合ってるよぉっ……!」

「やめろ、全く知らない人の前で涎を垂らすな!せめて初対面の時ぐらいは猫をかぶるのを覚えてくれ……!」

 銀髪の幼い少女と、黒髪の少女。たくさんのクリエメイトを見てきたきららからすれば、その衣服の感じからクリエメイトだということはわかる。だが、今まで見たことがない二人だったし、きららが感じられるパスも……なんだか普通とは違っていた。

「きららさん。信じられないことですが、私はこのお二人のことを知りません」

「えっ……!?誰よりも聖典を読み込んでいるランプが知らないクリエメイト……?」

「はい。それなのに、こうしてゲートがつながってやってきてしまった……ソラ様が見ることのできない異世界から召喚されてしまった人なんだと思います」

「クレア、そんなことがあるの?」

「理論上はあると思いますけど……本当、どうしてこうなってしまったのかわからなくて」

 完全に予測外の事態に、クレアとランプは困惑している。きららもまた、穏やかではない状況に戸惑い、ただ新たに召喚された二人のクリエメイトの方を伺うことしかできなかった。

「どうやら、私たちがここに来てしまったのは異常事態のようだな。……いや、人間が召喚されるなんてことが日常的に行われている時点で、この世界を我々の常識で語ることもできないだろうが。とにかく、私たちがイレギュラーらしいことはわかる」

「どうしてそんなことになっちゃったんだろうねー?あっ、とりあえず自己紹介とかしておくべきだよね!私は天野灯だよ!」

「私はソフィー・トワイライト。吸血鬼だ」

「……吸血鬼?」

 銀髪の少女の言葉に、再び三人は困惑した。

 

 

 

「なるほど、『聖典』と『クリエメイト』、それから『コール』というものについてはわかった。つまり、我々は君たちが決して観測できない異世界から、なぜか召喚されてしまった……ということだな?」

「はい、そういうことになります。ソフィー様」

「様って、もう少し呼び方をどうにかできんのか……?」

「あっ、いえ、私は基本的にクリエメイトの方々はこうお呼びしていて……聖典にないソフィー様と灯様のことは知りませんが、それでもクリエメイトのお一人ではあるので、こうしてお呼びしようかと」

「どうにも慣れないが……それが君にとっての普通なのだな?」

「はい、ソフィー様」

「ううむ……やはり慣れん」

 きららたちは、ひとまずソフィーと灯の二人に、彼女がここに呼び出された理由について話した。もっとも、聖典にない人物が呼び出されるのは全くの予想外のため、通常のクリエメイトの場合のことを話しただけだが。

「この里には、他にもいっぱい、そのクリエメイトさんがいるんだねー!お人形みたいな女の子っているかな?」

「お人形……?人形を使う人は知っているけど……」

 ノノのことだった。

「つまり、私と同じ人形好き!?ソフィーちゃん、同志が見つかったよ!!」

「いや、まだ会ってもない人を同志と決めつけるな。……それに、いくら人形好きでも君ほど重度の者はそういないだろう」

「じゃあ、布教しないとだね!」

「異世界に来ていきなりすることがそれなのか……?」

 聖典の外の世界の住人。その響きに最初、きららはいくらかの不安を覚えていたが、悪いクリエメイトはいない。それは事故的に召喚されてしまった彼女たちも変わらないようで、多くの世界を同じくするクリエメイト同士と同じように、異世界への不安もそっちのけで楽しげな会話を繰り広げていた。……それに安心できてしまう。

「とにかく、こっちに呼ばれたからといって、元の我々に不利益はないのだな。それなら、安心して暮らせるが……自由にしていいんだな?」

「はい。一応、クリエメイトの方々はきららさんの力になって戦ってもらったりもしているのですが、ソフィーさんたちは特別なので、そういったことは……」

「ううん、なんだか私、すごい力があり余ってる感じだし、今ならソフィーちゃんにも負けなさそう!せっかくだから、きららちゃんのお手伝いをするよ」

「同じく。タダで置いてもらうというのも居心地が悪い。できることは協力させてくれ。……夜限定だが」

 灯はせんし、ソフィーはまほうつかいの衣装に身を包んでいる。きちんと戦う能力は持っているようだった。

「でも、今の里には空き家がないので、お二人のお家が必要ですよね……頼めばカンナさんに作ってもらえるとは思いますが、それまでは誰かのお宅に住んでいただくことになります」

「家か……特に私にとっては重要になるな。棺桶さえあれば眠れるが、道端に棺桶で寝ていて死体と勘違いされて埋葬されては敵わん……元から生きてはいないが」

「普通、道端に死体は落ちていないと思うよ……?」

「何!?こういったファンタジー世界では、戦闘不能になったら棺桶に入れられて引きずられるものではないのか!?」

「ソフィーさんの異世界のイメージって、どういうものなんだろう……」

 大真面目な顔で言っているので、ソフィーの中ではそれが一般的な異世界観なのだろう。

「でも、誰のお家にお邪魔したらいいんだろうねー。やっぱり私は、そのお人形好きの子がいいかなー!」

「えっと、ノノだったら今の時間は……」

「クレアちゃーん、いますかー?」

 きららがなんとか思い出そうとしていると、新たにやってくるクリエメイトの姿があった。

「あれ、今日はすごい人だねー。シノ、邪魔になったらいけないから今はやめておいた方が……」

 忍とアリスだ。仲良しな二人はいつも一緒に行動している。天然な忍を、しっかり者のアリスがサポートしている名コンビだ。ただ、金髪と見るやいなや過剰反応をする忍に、少し嫉妬深いアリスは呆れていることも多いようだが。

「アリス、すごく可愛い外国人の子がいますよ!?髪は銀髪ですが、銀髪もいいですよね!」

 ――金髪ではなかったが、ソフィーにはばっちり反応したらしい。

「彼女たちがクリエメイトか……なるほど、確かに個性が強そうでアニメキャラみたいだな」

「見て、ソフィーちゃん!あっちの金髪のちっちゃい子、お人形さんみたい!」

「……灯はこっちに来ても同じ調子か」

「(あれ……?もしかしてこのコンビ、よく似ている……?)」

 忍とアリス。ソフィーと灯。どことなく重なるところの多い二組はこうして出会った。

1話 ぎんいろの時間

 

 

 

「悪いな、忍にアリス。君たちの家に居候させてもらって」

「ううん、気にしないでソフィー。困った時はお互い様、情は人のためならず、だよ!」

「ふむ。アリスはイギリス人と言うが、ずいぶんと日本のことわざにも詳しいな。私も日本に来た当初は、ことわざや日本人特有の表現には苦戦したものだったが……」

 ソフィーたちは、忍たちに出会った縁で「きんいろ大使館」で過ごすことになっていた。

 もちろん、そのことをごり押したのは忍で、アリスは最初こそ嫉妬していたが、今ではソフィーと打ち解けている。

「忍ちゃんは金髪が大好きなんだねー!私はねー、お人形さんが大好きなんだよー!」

「お人形さん、いいですね!私も高価なアンティーク人形に憧れていたのですが、お小遣いが足りず……代わりにアリスに可愛い衣装を着せてケースに飾ろうとしたこともあるんです!」

「いいねぇ、それ。うへへーっ、ソフィーちゃんをケースに入れてぇ……その隣にアリスちゃんも……ぐへへ」

「さすがですね、灯ちゃん!まさかここまで意気投合できるクリエメイトさんに出会えるとは思いませんでした!」

「私もだよー!最初に出会えたのが忍ちゃんでよかったー」

 日本人組は、それはそれで打ち解けるどころの話ではなくなっていた。

「寒気がするのだが……おかしいな、体温がないはずなのに……」

「ソフィーもああいう感じの扱いなんだね……」

「アリスもか……最近の女子高生の恐ろしさはなんなんだろうな」

 なお、忍たちにも、ソフィーたちが例外的なクリエメイトだという話は伝わっている。だが正直な話、エトワリア側の人間はともかく、クリエメイト側にとっては自分たちのことが聖典として伝わっていようがいなかろうが、そこまで大きな問題ではない。

 エトワリア人にとって伝説の人のような扱いでも、本人たちの多くは普通の女子高生として過ごしているだけなのだから。

「ソフィー、灯。カンナさんに話は付けてきたよ」

「きらら、すまないな。私が行ければよかったのだが、思ったよりも移動距離が長かったからな……」

 吸血鬼であるソフィーは太陽の光に弱い。それはここエトワリアでも同じで、灯に忍、アリスの力を借りて、ようやく無事にここまで辿り着けたのだ。

「ううん、私が話した方がやりやすかったと思うし。でも、今は家を建てるのに足りるぐらいの木材がないらしくて、発注しないといけないらしいの。でも、今の時期にまとまった数の木材を手に入れるとなると、コルクを通して遠くの街との交易で手に入れるしかないらしくて……」

「すぐには建てることができない、という訳か。何か私に手伝えることはないか?」

「うん、それでね。ある貴重なアイテムとなら、十分な数の木材と交換することができるから、それをソフィーたちが手に入れてくれたら、工事自体はタダで受けていいって」

「……カンナって割りとタダで工事を引き受けてくれるよね。大丈夫なのかな」

 とは、アリス。確かに彼女は何かとクリエメイト絡みの依頼を無償か、それに近い条件で引き受けてくれることが多い。彼女もクリエメイトに対して何か思うところはあるのかもしれない。

「じゃあ、そのアイテムを探しに冒険の旅に出発だね!うーん、異世界っぽくなってきたね、ソフィーちゃん!」

「ああ。ちょっと楽しいな、こういうの」

 灯が楽しそうに立ち上がると、ソフィーも微笑みを見せた。

2話/noon 灯探検隊、出発

 

 

 

「えへへー、里の外に出ると、異世界感がぐっと増すねー!」

「そういや灯は初めてなんだなー」

「色々とあって、里の中でいっぱいいっぱいだったからね!でも、ソフィーちゃんとのお家を手に入れるため、がんばるよ!」

 準備を整えて翌日。灯は陽子、綾と共にアイテム集めのために里の外の草原を進んでいた。

「いくら戦う力があるからって、無茶しちゃダメよ。ちゃんと自分にできることとできないことを見極めてね」

「えーっ、でも綾ちゃん、今の私ならなんだってできそうな気がするよ!」

「だからその油断がダメなの!ほら、陽子からも何か言ってあげてよ」

「んー?私には灯って、少なくとも綾よりは無茶しないように見えるけどなー」

「なっ!?ど、どういうことよ!」

「だって綾の方こそ、こっちに来たての頃はなんか気張っててさー」

「そ、そんなことないわ!陽子の方が変にテンション高かったじゃない!」

 灯のことを心配しているはずが、いつの間にかに二人の喧嘩のようになってしまっていた。

「綾ちゃん、陽子ちゃん。私のために争わないでー!!」

「べ、別に争っている訳じゃ……」

「綾が騒いでただけだしなー」

「陽子の方こそ……」

 気まずそうに視線を反らす綾と、特に気にしている様子ではない陽子を、灯は見比べるように交互に見ていた。

「うーん、やっぱりちょっと似てる……」

「えっ?もしかして、灯の世界の友達に私らみたいな子がいるのか?」

「うん、ひなたちゃんって言うんだけどね。見た目の雰囲気は陽子ちゃんに似ててー、私と話す時の感じは綾ちゃんに似てる感じ!私自身はよくわかんないけど、私も忍ちゃんと似てるんでしょ?私と陽子ちゃんたちの世界って、よく似てるのかなー、なんて思ったんだ」

「まあ、確かに灯がソフィーと話してる時の感じと、シノがアリスと話している時の感じは似ているのよね……不思議なことに」

「それだけ仲がいいってことなんだろうな!まっ、私と綾もだけど」

「ちょっ、ちょっと、陽子……!」

「えーっ、その通りだろー?」

「そうだけど……もうっ!」

「本当、綾ちゃんと陽子ちゃんは仲良しさんだねー」

「灯まで……!」

 綾はすっかり赤面してしまい、一人でずんずん先に進んでいく。

「綾ー、そんな先行くなってー。それで灯、目的のアイテムってなんだっけ?」

「えっとね。太陽が一番高い時にしか咲かないお花で、名前は太陽の花なんだって!」

「どこに生えているかはわかるの?」

「その名も太陽の丘!このままずーっと東に行ったところみたいだよ」

「わかりやすいなー。それで、昼間限定だからソフィーは来れないのか」

「うん。でも、もう一つ必要なお花はあって。そっちが深夜にしか咲かない、月光の花!西にある月光の丘に生えてるみたい」

「もしかして、シノとアリスが昼寝をするって言ってたのは、ソフィーと一緒にそっちの花を探しに行くため?」

「そうそう。ソフィーちゃんは一人で大丈夫って言ってたけど、一人で迷っちゃったら危ないからね。忍ちゃんとアリスちゃんがついていってくれるって」

「……あの二人、そんなに夜強い印象ないけどなー。シノはよっぽどソフィーが気に入ったのか……」

「アリスは監視役かしらね」

「そ、そうなの……?」

「だろうなぁ……」

2話/night ソフィーと夜の散歩

 

 

 

「本当についてくる必要はなかったのだが……いくら昼寝をしていたからといって、君たちは眠いだろう?」

「いえいえ、ソフィーちゃんともっとお話ししたかったですし、ちょうどよかったのですよ」

「私も。ソフィーと話したかったの。……シノとソフィーを二人きりにすると、心配だし」

「そうか?まあ、私としても散歩コースは開拓しておきたかったんだ。そのついでに人の役に立てるのは悪い話じゃなかったが」

 同じ日の夜。ソフィーは陽が完全に沈みきってから、月光の花を探すために里の西へと出かけていた。忍とアリスも一緒で、賑やかに進んでいく。

「そういえばソフィーちゃんは夕食は食べましたか?私たちは里で食べてきましたが」

「ああ。食べてきたぞ。……まあ、吸血鬼は血しか飲まない訳だが」

「えっ……?も、もしかして、里の誰かの血を吸ったの!?」

 アリスが顔を真っ青にする。

「いや。私は人から血を吸ったりはしない。現代を生きる吸血鬼として当然のことだ」

「では、どうしたのでしょう?」

「それなのだがな……実は私たちが召喚された時、オーダー?とやらと同じように、少しだけ里に変化が生じたんだ。まあ、今は落ち着いたんだが、里に見たこともない植物が生えてきていてな。赤いトマトのような果実を実らせる植物なのだが、その実の味が血液そっくりなんだ。しかも、A型B型O型にAB型……全ての血液型の味が揃っている。同じ血液型でも微妙に味の異なるものもあって、もしかすると本物の血液よりも美味しいぐらいでな……」

「血の味の果物……?あんまり美味しそうに感じないけど……」

「まあ、君ら人間にとってはそうだろう。とはいえ、味だけ血でも我々は人の血から生命力のようなものを得ている。ただの植物からそれは得られないと思ったのだが、やはり人の血よりも生命力を補給できてな。その植物の実を食べれば人から血を吸わずとも生きていけるという訳だ。……こっちでは血液の通販もできないから、食料は一番の問題だったのだが、解決できてよかった」

「それはよかったねー……なんか都合良すぎる気がするけど」

「思うに、私というイレギュラーが召喚された結果、こちらの世界も私が住みやすいように少しだけ書き換えられてしまったのだろう。まあ、里に起きた変化は数株、その植物が生えたぐらいだ。他に影響は出ていないはずだから、安心してくれ」

「でも、ソフィーちゃんの食べてる果物、ちょっと食べてみたいですね」

「いや、人間にとってはただただ、鉄臭いだけだと思うぞ?数は豊富にあるし、結構な速度で実は付くようだから、分けてあげてもいいが……」

「シノ、やめておこうよ!いくらいっぱいあるからってソフィーに悪いし、ちょっと不気味だし……」

「そうですか?意外と美味しいかなー、なんて思うのですが」

「シノは吸血鬼じゃないでしょ!?」

 アリスは忍にすがりつくように抱きつき、必死に説得する。

「忍とアリスは本当に仲がいいな。そんな友達の存在は貴重だ。大切にしなさい」

「ソフィーは吸血鬼の友達っていないの?」

「……いるにはいるが。いや、あれはただの知人だ……100年も勝手に眠りこける相手を友達と呼べないだろう?」

「100年ですか?吸血鬼は寝坊のスケールも違うんですね」

「灯も似たようなことを言っていたよ……。しかし、ここエトワリアにはたくさんの世界からクリエメイトが呼ばれて来ているのだろう?その中に吸血鬼か、それに近い人外はいないのか?こんなになんでもありなファンタジー世界なのに、ただの人間ばかりというのは逆に不自然なのだが」

「うーん……私が知る限り、そんな人はいない、かな」

「メリーちゃんはそうじゃないですか?確か夢魔、って言うんでしたっけ」

 忍が指を立てて言うと、ソフィーは少し顔を輝かせる。

「ほう、夢魔か……!知人と少し名前が似ていて驚いたが、興味があるな。彼女も数百年ぐらい生きていたりするのか?」

「彼女“も”……?ソフィーって、実は……」

「あっ、い、いや……私はほんの200年ほど生きているだけだ。彼女も人外ならそうなのではないか、と思ってな」

 なぜか盛大に鯖を読むソフィー。

「メリーちゃんがどうかはわかりませんが、あまりそういう人はいないと思います。普通に高校生ぐらいの年頃の子が多いですねぇ」

「そうなのか……いくらか社会人らしい人も里で見たが、それでも二十代ぐらいが主のようだな。そうか、そうすると私が一番年上になってしまうか」

「ソフィーは自分の年齢のこと、気にしてるの?」

「いや。高校生ばかりの中にいると、私は浮いてしまうだろう?現代の知識も積極的に仕入れるようにはしているが、やはり灯たちと話していても、まだまだ現代社会に疎いところがあると感じていたからな。こちらでは話の合う相手もいるんじゃないかと思っていたんだ」

「ソフィーちゃん。確かに吸血鬼と人間では寿命が違うし、常識も違うかもしれません。でも、それは私たち日本人と、アリスたちイギリス人だって同じです。そして、違うからこそ、相手のことを知る楽しみがあるんですよ!」

「シノ……!!そうだよ、ソフィー。だから私たちにもソフィーのこと、教えて?私はシノとの思い出を話すからね!」

「……ああ。ありがとう。忍、アリス。そうか。君たちは今でこそ仲のいい友達だが、全く違う文化に生きていたんだな」

 ソフィーは少しだけ微笑みを見せ、夜の森へと入っていった。

3話/noon 太陽の丘へ

 

 

 

「この森を抜ければ、太陽の丘だよ!」

「結構歩いたなー。綾、疲れてないか?」

「まだ大丈夫よ。けど、陽子はともかく灯もがんばるわね。全然、息が上がってない感じだけど」

「うん!こっちの世界でもソフィーちゃんと一緒に暮らせると思うと、疲れもなんのその、だよ!」

「灯、ソフィーと一緒に暮らしてたの?」

 灯の言葉に、綾が反応する。

「そうだよー。ソフィーちゃん、すっごくでっかいお屋敷に一人で住んでてねー。最初は私、遊びに行くだけだったんだけど、ソフィーちゃんに許してもらって一緒に暮らすようになったの!学校も近くなって、すごく便利になったんだけどね」

「友達の家で暮らしてんのかー。私も綾の家で暮らすようになったら、楽なんだけどな」

「なぁっ!?な、何言ってんのよ陽子!そんなのダメに決まってるじゃない!!」

「い、いや、別にそうしたいって言ってる訳じゃないし、ただのたとえ話だよ、たとえ話」

「そ、そうっ……けど陽子、冗談でもそんなこと言っちゃダメよ。弟さんも妹さんもいるのに」

「まあなー。けど、たまにはお姉ちゃんやらなくて済むように、綾の家に帰るのもありかなーって」

「そ、そんなのっ……もうっ!」

 顔を真っ赤にして恥ずかしがる綾を見て、灯もぐへへ、と顔を蕩けさせる。

「な、何見て笑ってるの!?」

「ううん、綾ちゃんと陽子ちゃんって仲いいなー、って。私の友達にも、すっごく仲のいい二人がいてねー。ちょっと思い出しちゃった」

「灯とソフィーもそうだと思うけど、周りに仲のいい友達がいっぱいいるのね。それはいいことだわ」

「だねー。すっごく殺伐としちゃってるより、すっごくいいよー」

「灯は殺伐とした場面を知っているのか……?」

 陽子が心配そうな顔でツッコミを入れる。

「お家ができたら、二人で暮らせるのはいいけど、また結構、お部屋が余っちゃうかもね。私の友達もこっちに来てくれたらいいんだけど」

「灯たちの召喚は結構特殊だから、また灯たちの世界とゲートがつながるかわからない、って言ってたわね」

「うん、ひなたちゃんやエリーちゃんがしょっちゅう遊びに来てくれてたから、広いお屋敷でも持て余してる感じはしてなかったんだけど、それがないとちょっと寂しいかなー……なんて」

「じゃあ、二人の家ができたら私たちが遊びに行くよ。どうせ、ソフィーと会うなら夕方からじゃないといけないんだろ?だったら、ついでにそのまま泊まればいいじゃん」

「陽子ちゃん、いいの?」

「ええ、その時は私も付き合うわよ」

「綾ちゃんも……ありがとう!えへへー、こっちの世界でも優しい友達がいっぱいだね!」

「私らだけじゃなくて、他のみんなも誘ってさ。みんな灯たちのこと気になってるだろうし、すぐに友達になれるって」

「そうね。……私としては、陽子とだけじゃないのはちょっと、だけど」

「そっかぁ。里には色んな人がいるもんね。……ぐへへ、その中にはお人形さんみたいな子も……アリスちゃんの幼馴染っていうカレンちゃんともまだ会えてないし、どんな子なのかなぁ」

「カレンは色んなところを飛び回ってるからなー」

「いないと思ったらいるし、いると思ったらいなくなってるものね。それで、知らない内に友達をたくさん作ってくるの」

「私らも最初の頃は、なんとなく同じ世界のクリエメイト同士で固まってたけど、カレンのお陰でみんなと関われたところあるもんな」

「すごく積極的な子なんだね!私も可愛い子には積極的だよー」

「…………やっぱりシノと似てるわよね、灯」

「というか、偶然の一致か……?別世界のシノ本人なんじゃ……」

「えーっ、そんなに忍ちゃんと似てるかな?黒髪なところぐらいじゃない?」

「やっぱり自覚はないんだな……」

 しかし、そういうところもまた忍にそっくりだ。と陽子は苦笑いしながら先へと進む。

 森の中を歩いていた一行だったが、まもなくそれも抜け、視界が開けた。そこに広がるのはなだらかな丘陵地帯だった。

「あそこ、あの一番小高い丘が太陽の丘みたい!」

「なんだ、案外簡単に来れたなー」

「もしかすると、冒険に慣れていない灯やソフィーでも安心だからこそ、この話を持ちかけたのかもしれないわね。最初のクエストとしてちょうどいいわ」

「そうなのかな?でも、何はともあれとうちゃーく!ええっと、太陽の花っていうのは……」

「あれじゃないか?」

 陽子の指差す先には、ヒマワリによく似た。しかし、花びらが鮮やかすぎるほどに鮮やかなオレンジ色の花が咲いていた。

「多分あれだよー!燃える太陽みたいなお花、ってことらしいから」

「太陽って黄色で描かれたり、赤で描かれたりするけど、その中間色ね。ある意味、誰もが思い浮かべる太陽のイメージってことかしら」

「普通にオレンジで描かれることもあるしなー。ほら灯、自分で摘みなよ」

「うんっ……!」

 灯は嬉しそうに腰を屈め、太陽の花を摘み取った。一本だけではなく、最低でも五本は欲しいということだったので、あるだけ摘んでいく。

「ところで、このお花って何に使うの?見た目にも華やかだから、単純な観賞用でもよさそうだけど、それなりに価値はあるのよね」

「よくわからないけど、薬になるんだって。すごく苦いけど、万病に効くとか」

「正に良薬口に苦し、ってことね。――確かに周りを見ても、どこにも同じ花は見当たらないわね。本当にこの丘にだけ生えているみたい」

「不思議だよねー。しかも、全部摘んじゃっても、なぜか同じ場所にまた生えてくるんだって。なら、種で増えてる訳じゃないのかな?」

「根っこまでは全部引き抜かれないだろうから、そこから生えているんじゃないかしら?ものすごい生命力なのは間違いないけど」

「不思議だねー」

「不思議ねぇ。未だにこの世界にはよくわからないことだらけだわ」

「お、おーい……そろそろ私が置いてけぼりになってるんだけどー……」

「陽子も混ざればいいじゃない。陽子も不思議に思うでしょ?」

「それはそうだけど、あんまり難しい話には関わりたくないからさー」

「探究心がないのねぇ」

「もっと美味しいものの話題とかなら飛びつくよ」

「美味しいものっていうと、小腹が空いたよね!里に帰ってお茶にしよっか!」

「大賛成ー!!」

 目的を達成し、一行が踵を返した、その時。

 突然、何か大きなものが地中から盛り上がってくるような、そんな振動が伝わってきた。

「わぁっ!?これってもしかして、いわゆるお約束の……」

「大体、こういう感じなんだよなぁ、ここって。綾、後ろに下がってて!」

「ええ、陽子も気を付けて!」

「灯も、せんしなら一緒に前で戦えるよな!」

「うん!がんばるね!」

 地中から現れたのは、巨大な――三メートルほどはある、灯の世界では実在するとは思えない雑草のような生物。魔物だった。

「花の番人、っていうところかしら。もしくはこの魔物がいるから、太陽の花が生息してるのかも」

「何にせよ、やっつけないとダメっぽいな……!」

 魔物は葉ともツルとも判別できない、腕のような部位を伸ばしてくる。その狙いは一番防御が甘いように見える綾だったが、その前には陽子が立ち塞がった。

「よしっ、と。あんまり力は強くないかな。魔法系か?」

 難なく一撃を盾で防ぎ、即座に槍で腕を薙ぎ払う。見た目の印象通りに腕は簡単に切れてしまったが、あまり魔物へのダメージにはなっていないようだ。

「よーし、私もいくよー!!」

 攻撃を防がれ、隙の生まれた魔物に対し、一気に灯が距離を詰める。そして――

「でゃあああああっ!!!!!」

 大きく飛び上がり、深く切り下ろす。初戦とは思えないほど軽やかで手慣れた動きに、思わず綾たちも戦う手を止めて見入ってしまっていた。

「灯、すごいわね!元の世界で何か運動していたの?」

「ううん、そういう訳じゃないけど、ソフィーちゃんのことを思うと、体の奥から力が湧いてくるんだ!それから、みんなとお屋敷で楽しくおしゃべりしたりすることも考えると……!」

 言いながら、切り下ろした剣を返し、更に魔物に攻撃を与える。

 だが、逆上した魔物は攻撃を終えた無防備な灯へと腕を振り下ろす――が、その攻撃が当たることはなかった。

「でも灯、あなたたちの力になりたいのは私たちも同じよ!仲間がいるってこと、忘れないで!」

 綾が放った風の魔法が魔物の巨躯を吹き飛ばし、魔物は攻撃を中断せざるを得なくなる。

「そうそう、特に私は頼られるナイトだからな……っと!!」

 距離の離れた相手に、盾を構えながら突撃した陽子が、炎をまとった槍で切り付け、大きな隙を作る。

「今よ、灯!」

「うんっ……!!これで、終わりっ……!!!」

 陽子の後ろから飛び出すようにして灯が魔物に切りかかる。まるで灯自身が太陽になったかのように、強い光を放つ斬撃を受けた魔物は、ちょうど植物がしおれるようにして地面に倒れ伏した。

「やった!私たちの勝利だね!!」

「ああ、やったな、灯!」

「初めてなのに、大活躍だったわね!」

「えへへー、二人が助けてくれたお陰だよー」

 灯はにへら顔になって、二人を抱き寄せる。

「もうっ……オンオフが激しいんだから」

「ずっと堅いよりはいいだろー?」

「だ、誰のことよ!」

「誰のことだろうなー」

3話/night 月光の丘で

 

 

 

「ソフィーはお散歩が好きなの?」

「ああ。健康のためにいいらしいからな。近所の森さんも夜にジョギングしていたりするんだ」

「ソフィーちゃんはすっごく健康志向なんですね」

「長生きするに越したことはないからな。現に今まで生きていたからこそ、異世界を冒険するなんて経験もできた。私が吸血鬼にならず、寿命を全うしていればクリエメイトになることもなかっただろう。どうやら、クリエメイトはみんな普通の人間じゃないみたいだからな」

「えぇー、私は普通ですよー。ねぇ、アリス?」

「そんなことないよ!シノは女子高生の姿をした神みたいに素敵な人だよ!ねっ、ソフィー?」

「むっ……あ、ああ。忍は確か裁縫が得意だったんだな。それから、通訳者を目指している……文武両道、とはまた違うが、勉強ができて家庭的な面もあるというのは、ただの女子高生の枠には留まらない才能だろう」

「ねーっ!ソフィーならそう言ってくれると思ったよー」

 なお、ソフィーはまだ忍の実際の学力を知らない。

「この森はなかなか散歩コースによさそうだ。魔物はそこそこ厄介だが、空を飛んでいれば問題ないだろうか」

「ソフィーって空飛べるの!?まほうつかいでも、ちょっと浮かぶのが限度みたいだけど……」

「うむ。私はそもそも吸血鬼としての能力で空を飛べるからな。それにまほうつかいになっているとはいえ、重い物も――」

「ソフィーちゃん、あれが月光の花じゃないですか!?」

 話の途中だったが、忍が木々の向こうにある、月明かりの差し込んだ小高い丘を指差す。青白い月光の下に、やはり青白い花びらを持つスズランに似た花が揺れていた。

「おお、そうらしいな。ちょうど散歩も乗ってきたところだったのに見つかってしまうとは」

「では、もう少し寄り道をしてから行きますか?」

「いや。私個人としてはそれでもいいが、忍たちの体によくない。それに、もしも君たちが寝てしまえば、明日の朝に月光の花をカンナやコルクに届けてはもらえない、そうすると我々の家の完成が遅れてしまうからな。今夜のところはさっさと切り上げるとしよう」

「ソフィーがそう言うならいいけど……ソフィーって本当、人間に優しい吸血鬼だね」

「……君たちは吸血鬼にどういうイメージを持っていたんだ?いや、私の世界にもあった吸血鬼を扱った創作物から、なんとなく察することはできるが」

 少しだけソフィーは心外そうにしながら、背中から羽を生やして“月光の丘”へと向かった。

「本当に飛んで行っちゃったよ……」

「ソフィーちゃんにお願いしたら、外国までタダで行けますかね?」

「シノ!?飛行機でも何時間もかかるのに、ソフィーにそこまで運ばせるつもりなの!?」

「もー、冗談ですよー」

「シノ、真顔で冗談言うからわからないよ……」

 二人も走ってソフィーが飛んでいった方へと向かう。

「なるほど、異世界っぽい花だ。スズランは毒性があるが、この花は薬草なんだったな」

「ソフィー、摘み取れた?」

「ああ、アリス。この通り。それにここは気持ちがいいな……」

 ソフィーは月光の丘から月を見上げた。青白い月明かりがソフィーの銀髪を照らし、それがキラキラと輝く。

「銀髪!素敵な銀髪です!!」

「シノ!?」

「ソフィーちゃん、ちょっとだけ。ちょっとだけでいいですから、髪を分けてくれませんか!?」

「えっ……?確かに、明日の夜になればいくら髪を切っても元に戻りはするが……」

「では、スポーツ刈りにしてもいいですか!?」

「絶対にイヤだ」

「そんなぁ…………」

「シノ!?たとえソフィーが許しても、私が許さないよ!!」

「私も許さんが。そもそも私の髪を集めてどうするつもりだ。君にカツラは必要あるまい」

「それはもう、色々な使い道が……!!」

「シノ!!私の髪なら、ちょっといいから……!」

「アリスの髪はもう集めてますよー」

「それはそれで危ない気がするよ!?」

「(灯とどっちが危ないのだろう……)」

 ソフィーはそんなことを思いながら、微笑ましく二人のかけ合いを見つめる。

 しかし、周囲の空気が一変すると、その笑みを消した。

「忍、アリス。どうやら魔物らしいぞ」

「えっ!?」

 ガサリ、と茂みが動いたかと思うと、そこから狼のような魔物が飛び出した。

「狼のような見た目だな……私は元の世界でも犬に嫌われていたが、そのせいで襲われたのか……?」

「そんなことないと思うけど……と、とにかく、気を付けてね!シノ、回復はお願いね!」

「もちろんです!」

 アリスはフラスコを、忍は杖を構える。

「思えば前衛不在の構成だったのか……よくあるRPGだと壊滅は必死といったところだが――」

 冷静にそんなことを呟きながら、ソフィーが手に持ったクリスタルを魔物に向けると、そこから闇色の光が放たれる。

「この世界のまほうつかいは、詠唱だとか面倒なプロセスが必要なくていいな。それに威力も十分だ」

 たった一撃で魔物は倒れてしまう。……が、すぐにまた茂みから新手が現れた。しかも三体が徒党を組んで襲いかかってくる。

「ソフィー、危ないっ!」

「うおっ!?」

 飛びかかってきた一匹に対して、アリスがフラスコを投擲する。フラスコが命中して割れた瞬間、光の奔流が夜の闇を一瞬だけ照らした。

 見事に魔物は倒せたが、ソフィーは思わず顔を手で覆う。

「は、灰にはなっていないな……?陽属性というのは別に太陽光を放つ訳ではないのか、そうか……」

「あっ……ご、ごめん、ソフィー!吸血鬼って光に弱かったんだよね!」

「うむ。だが気にするな。体が灰になっていないのなら問題ない。だから――うおっ!?」

「ソフィーちゃん、大丈夫ですか!?」

 話し込んでいる内に、魔物の一体が飛びかかってくる。だがその瞬間、忍が作り出した土の壁が魔物を押し返した。

「ふーっ、防御スキルを持っていてよかったです」

「ありがとう、忍。――さて、ではそろそろ消えてもらおうか」

 再びソフィーがクリスタルを掲げると、月の魔法が残る二体の魔物を吹き飛ばし、消滅させた。

「まほうつかいは全体を攻撃できて便利だな。これは素材周回に役立ちそうだ」

「……ソフィー、すごく落ち着いてたね。私、初めて戦った時はすごくアワアワしてたのに……」

「君の戦い方はそうだろう。しっかりとフラスコを相手に当てなければならないからな。その点、私は自動追尾で攻撃してくれた。まほうつかい……ボロいな」

「ソフィーちゃんのお洋服、オンボロではありませんよ?」

「あっ、いや、そういう意味じゃなく」

「でも、ソフィーが無事でよかったよ。月光の花も無事だよね?」

「ああ、この通り」

 持ってきていたバッグの中で潰れず、可愛らしい花の形を保っている花を見せるソフィー。しかし、そうしている間に「ミシシッ」という音がどこからか響いた。

「むっ……?なんの音だ」

「さあ?アリスのお腹の音ですか?」

「違うよ!?」

 いつものやりとりが繰り広げられたかと思うと、突然、すぐ近くにあった大木がソフィーたちの方に向かって倒れてくる。先の戦闘で忍が作り出した土の壁がせり上がり過ぎて、木を傷つけてしまっていたのだ。

「わぁっ!?み、みんな逃げてっ……!」

「無理です、間に合いませんっ……!!」

 異世界に来ても運動神経に劣るアリスと忍は、咄嗟に逃げ出すこともできず、ただ痛みに備えて目をぎゅぅっと瞑ることしかできなかった。

 ――だが、いつまで経っても木が倒れ込んでくる様子はない。

「えっ……?」

「さっき言い損ねていたが……まほうつかいとはいえ、元々の力が強いからな。その気になれば肉弾戦もできそうだ」

「ソフィーちゃん!?」

 倒れてきた木を、ソフィーが片手で押し返して、誰もいない方に倒してしまっていた。

「まほうつかいにATKなんてあっても無駄だと思っていたが、そうでもなかったようだ。無事か?二人とも」

「ソフィー、ありがとう……!ソフィーは命の恩人だよー!!」

「ありがとうございます!もっと銀髪のことが好きになってしまいました!」

「えぇっ!?」

 二人に抱きつかれたソフィーは、やれやれと溜め息をつきながらも口元を緩ませていた。

「やれやれ……ここでは灯と一緒じゃなくても退屈しなさそうだ」

4話/noon 人形の噂

 

 

 

「きららさん、知っていますか?」

「何?ランプ」

 ソフィーと灯がエトワリアに召喚されて数週間。きららがランプと里を歩いていると、ランプが少しだけ声音を低くして言う。

「最近、里に不思議な人形の噂があるらしいんです」

「人形?マツコさんじゃなくて?」

「もっと大きな、等身大の人形だそうです!夜な夜な、その人形が空を飛ぶだとか!!」

「それ、本当……?寝ぼけた人の見間違いとかじゃ……」

「たくさんの人が同じ証言をしているんですよ!?」

「う、うーん……もしかして、魔物の仕業とか?」

「どうでしょう……今夜辺り、調べてみますか?」

「うん、そうするべきかも。えっと、その人形ってどの辺りで目撃されてるの?」

「確か、この通りを真っ直ぐ行った先の……そう!ソフィー様、灯様のお家の辺りです!!」

「……ねぇ、ランプ。それって…………」

「とりあえず、灯様に聞いてみましょうか?」

「いや、それってソフィ」

「あっ、ちょうど灯様が!灯様ー!!最近、身の回りで不思議なことが起こっていませんか?」

「えっ、不思議なこと?お人形さんの髪が伸びたりするのはいつものことだけど――」

 家を作ってもらった後、灯はコルクに依頼して遠方の人形を仕入れてもらったりしているらしい。

「そ、そういうガチめのホラーじゃなくて、空を飛ぶ人形を見ただとか――」

「ええっ、それこそホラーじゃない!?でも、空を飛ぶお人形さんかー。興味あるよー。その子に掴まって一緒に空を飛んだり……ぐへへー」

「危険な人形なら、呪われてしまいますよ!?」

「可愛いお人形なら呪われてもいいかもー」

「…………言わない方がいいのかな。空を飛ぶ等身大の人形って、ソフィーさんじゃないか、って」

4話/night 浮遊する人形

 

 

 

「それでさー、最近里では、空を飛ぶ人形の噂が流れてるんだよ」

「マジか!?……まさか、我々が来た影響が残っているんじゃないだろうな……」

「そういえば、ソフィーが来てから、血の味の果物が生るようになったのよね」

「うむ。そのお陰で食べ物には不自由していないんだ」

 その日の夜。ソフィーと灯の家には、陽子と綾。それから穂乃花とカレンがやってきていた。灯もがんばって起きている。

「空飛ぶお人形、私も見たいデース!面白そー」

「いや、ホラーだろ!?呪われるかもしれんぞ!?」

「カレンちゃん、やめようよ……」

「月夜の鬼コーチ侍カレンが、その人形の魔を払ってしんぜよー!」

「だから、危ないよ!?」

「……でも確か、その人形って金髪か銀髪って噂もあるんだよな……」

「金髪!?」

 穂乃花の目の色が変わる。

「行く気になったデス?」

「わ、割りと……」

「なら一緒に行きマショー!」

「わぁっ、カレンちゃん!?」

 カレンは穂乃花の手を引き、出ていってしまった。

「待って、カレンちゃん、穂乃花ちゃん!私も行くー!」

「こら、灯まで……!わ、私を一人にしないでくれ!!」

 灯まで一緒に飛び出ていってしまうと、追いつくためにソフィーはバルコニーから羽を広げて飛んでいってしまった。

「……なぁ、綾。空を飛ぶ銀髪の人形って」

「……そういうことかしら、ね」

 

 それから少しずつ、浮遊する人形の噂は収束していったという。

エピローグ いつもとなりに

 

 

 

「ソフィー様、灯様がこっちに来られて、すっかり落ち着きましたね」

「そうだね、ランプ。でも、聖典にない世界とゲートがつながるなんて、なんだったんだろう……クレアも詳しいことはわからないみたいだし」

 ランプときららの二人は、なんとなくクレアの店へと足を向けていた。すると。

「き、きららさん!!また知らない世界とつながってしまったようで……!」

「ええっ!?」

 そこに新たに現れたのは、ソフィーと同じぐらいの年頃に見える金髪の幼い少女と、彼女とは対照的に高めの身長の茶髪の少女だったという。

ソフィー・トワイライト ☆4 月 まほうつかい

 

「まほうつかいになったソフィー・トワイライトだ」

「吸血鬼で魔女……ちょっと属性過多じゃないか?」

「まあいい、何かあれば言いなさい。力になろう。……夜か屋内の仕事限定だが」

 

 

天野灯 ☆4 陽 せんし

 

「天野灯、せんしとしてエトワリアに登場だよ!」

「この世界なら、私がソフィーちゃんを守ってあげられるかも!?」

「ソフィーちゃん、お礼はソフィーちゃん自身でいいからね!」

 

 

ソフィー・トワイライト ☆5 風 まほうつかい

 

「いい夜だな。異世界でも夜の心地よさは変わらない、か」

「君が起きていられるというのなら、一緒に散歩に行かないか?」

「何、帰りは私が空を飛んで帰してあげるから安心しなさい」


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択