No.979370

紫閃の軌跡

kelvinさん

第157話 各々の道、止まらずに…(閃Ⅱ編END)

2019-01-04 11:50:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2283   閲覧ユーザー数:1961

~リベール王国センティラール自治州 ルーレ市~

 

 ルーレ市のRFグループにある飛行艦専用の整備ドック。カレイジャスを万全な状態に整えておく意味でエルウィン皇女がアスベルに提案したところ、シュトレオン王太子の許可を得る形で実現し、士官学院も含めたトリスタの守りは第四機甲師団と鉄道憲兵隊に任せた上でリィン達も同行する運びとなった。

 降り立ったリィン達を待っていたのは長い銀髪の髪を持つ少女で、その人物に目を見開いたのは他でもないアリサであった。

 

「ティ、ティナ!? どうして貴方が……」

「それは後で話すよ。はじめまして、ティナ・エルヴァールといいます。以後お見知りおきをお願いしますね、トールズ士官学院の皆様」

 

 アリサにとっては従妹であるティナがまさかルーレに戻ってきているとは思いもしなかった。すると、そこに姿を見せたのはイリーナの夫にしてアリサの父親、RFグループの副会長であるフランツ・ラインフォルトであった。

 

「君達も無事で何よりだった。アリサやアスベル君もね……アスベル君、二人きりで話したいことがあるんだが、いいかな?」

「……ええ、構いません」

 

 何か大事なことを話しておきたい……そういう意思を感じ取ったので、アスベルは素直に頷いて彼と一緒についていく。そうして行き着いた先は副会長室で、シャロンが前もってスタンバイしていたかのように紅茶と菓子を準備しており、それを置いて気配を消すように部屋を後にすると、フランツは話し始めた。

 

「君に話しておきたいのは僕と僕の双子の兄―――バッツ・ルーグマンのことだ。君は当然知っているだろうが、僕と兄は揃ってRFグループに身を置きつつ十三工房に所属していた。それぞれ得意分野は異なっていたが、二人でノバルティス博士への“卒業論文”として提出するつもりだった……それが“機甲兵(パンツァーゾルダ)”になる」

「ええ、そのことは承知しています」

 

 だが、その直後あたりにとある少女の襲撃が起きた。偶然席を外していたフランツは偶然会っていたアスベルによって回避できたが、バッツは亡くなり……部屋で倒れていた少女はラインフォルト家のメイドとして引き取られた。その後、その論文は自身の危険を回避する意味で未完成ながらシュミット博士に渡した。2年前、急に連絡を寄越した博士はこう提案したという。

 

『―――お前の気持ちも理解はしてやる。だが、あやつの遺したものをせめて日の目を見させてやりたい。それはお前も同じではないのか? もう一人の“一番弟子”よ』

 

 そもそも、イリーナの立場は革新派と貴族派の双方から支持を受けて前会長であったグエンを追い出した。だからこそイリーナの立場が揺らぐようなことなどあってはならない。フランツは苦渋の決断でシュミット博士の提案を受け入れ、機甲兵の開発がスタートした。

 

「それで、何故この状況でその話を?」

「罪滅ぼし、とまではいかないが……それでも君には知っておいてほしかった。表だけでなく裏の存在にも精通している君なら真っ当な判断ができるだろうと思った……それだけだ」

「そうですか……アリサには決して伝えません。こればかりは親子間の問題でしょうから」

「これは手厳しいが、確かにその通りだね」

 

 フランツはご尤もと言いたげにアスベルの提案を受け入れた。そうして話を終えてアスベルがカレイジャスの格納庫にやってくると、ヴァリマールの足元で倒れているリィンとそれに覆いかぶさっているティナの姿を見てしまった。そして、ビンタを食らって左頬に紅葉の痕が形成されている……どうしてこうなったのか近くにいたアリサに尋ねた。

 

「どうしてこうなったんだ?」

「あ、アスベル。実はね……」

 

 ヴァリマールをよく見たいということでリィンの立会いの下、ティナがあれこれ見終わったところで足元に落ちていたスパナに引っ掛かり、リィンを巻き込む形で倒れこんだという。それでいて後頭部への衝撃を避けたリィンだったのだが、余計にティナの胸に顔を押し付ける形となった。結果としてティナからのビンタを甘んじて受け取る形となったそうだ。

 

「……どうかしたの?」

「いや、血は争えないんだなと思ってさ」

「??」

 

 どのような形であれ、歴史は繰り返す……本来であれば、リィンと関係を持つ人間とつながりを持ち、その血縁者がリィンと繋がりを持つ……不思議な縁だと思う。

 

 RFグループがフュリッセラ技術工房傘下の直営企業となったことに加え、ラインフォルト家はその関係上レミフェリア公国の人間として戸籍を移すことになる。そしてフュリッセラ技術工房に務めているティナがその出向要員としてルーレに戻ってきた形である。加えて前会長であるグエン・ラインフォルトも大幅な役員追放に伴い、対外折衝顧問という形で戻ってくる形となった。

 その現会長であるイリーナからの呼び出しを受ける形でアスベルは23Fの会長執務室に通された。その隣にはアリサの姿もある。本音を言えば自分の母が何を吹き込むか分かったものではないという警戒からなのだが。それを察してか、イリーナは静かに笑みを零した。

 

「アスベル君には感謝してるわ。レミフェリアだけでなくリベールとクロスベルからも早速注文を取り付けるだなんて……エレボニアだけ相手をするより遥かな増収も十分見込めるだけにね」

「特別なことはしていませんよ。あくまで妻となる彼女の家族や故郷を困窮させるのは嫌という我侭にしか過ぎませんので」

「あ、アスベル……」

「ふふ、その我侭に助けられたことを感謝しておくべきね」

 

 その後、リィンとティナが仲直りして良い関係を築いている……その絡みで他の女子たちからジト目で見つめられる羽目となったことは言うまでもない。

 

 リィンの場合、まずシュバルツァー家の人間として序列の一位と二位はエリゼとソフィアになることは確定している。姉妹が同じ人間に嫁ぐという考え方はどうなのかと思われるだろうが、リベールにおけるシュバルツァー家の立ち位置を考えるなら分家筋を複数立てて安定化させるという考え方は決して間違っていない。シュトレオン王太子はシュバルツァー家をエレボニア帝国におけるヴァンダール家のような“王族守護の要”の立場を考えており、そのことは他の自治州を治めているアルトハイム家やアルゼイド家にも賛同を得ている。

 <百日戦役>の後、リベール王国は自治州法制定と同時に貴族法を復活させた。王族に貴族という根拠が残っている以上、それを法として理を示すべきだと考えた結果である。とはいえ、平民が貴族になるのは極めて高いハードルが定められており、現王族に連なる血族あるいは王国にとって著しい功績を挙げた者という制約が課せられている。アルゼイド侯爵とアルトハイム侯爵、そしてシュバルツァー侯爵については国替えによる混乱を収めた功労者という形で叙爵された。アスベルに関しては今までの功績と彼の出自の双方から妥当だと叙爵されている。

 

 話が逸れた。

 リィンのその後の序列だが、現状では第三位にラウラ、第四位にステラ、第五位にフィー、第六位がエマ、第七位がエルウィン皇女、第八位にアーシアがいるという状態。これは大丈夫なのかという序列なのだが、これにも理由がある。

 ラウラはアルゼイド侯爵家令嬢にして母親が現エレボニア皇帝の実妹。ステラはエレボニア第一皇子の実妹であり、その身分を隠す意味合いでマクダエル家の養女として嫁ぐ。フィーはクロスベル帝国軍最高司令官の養女であるため、この序列になる。エマは自身の身内がヴァンダール家夫人ということからその家の養女となることが決まっている。エルウィン皇女は政略結婚の関係上、そしてアーシアは現カイエン公の実子であるためにこの序列となる。

 なお、ここにアリーシャが入るとなると彼女の序列は“第四位”扱いとなる。これは彼女の生家であるシルフィル家がリベールのブライト家と縁があるためだ。こうして並べるとリィンの妻が最低でも9人という有様に世の中の男性から恨みを買いそうなモテぶりである。肝心の当人は朴念仁という困った感性持ちだが。

 まあ、ここにティナが入ってくると色々大変なことになるのは言うまでもないが……

 

 

―――1204年12月17日。

 

 ルーレの元ログナー侯爵家城館、リベールの北方統括府として使われている執務室はZCFやラインフォルト社製の機器が置かれており、一気に近代化した印象がある。それはさておき、その部屋にはリィン達が集められており、統括府の椅子に座るのは初代北方総督として赴任したマクシミリアン・シード中佐その人であった。そして部屋に新設されたモニターにはオーラフ・クレイグ中将、ゼクス・ヴァンダール中将、クレア・リーヴェルト憲兵大尉……そして、帝国軍情報局特務大尉であり『鉄血の子供達』の一人であるレクター・アランドールの顔が映し出されていた。

 

「―――で、俺達に皇族救出を頼むと?」

『ああ。本来ならエレボニア(うち)で解決しなければならん事実なのは確かだ』

「そうできない理由……やはり貴族連合に動きが?」

『ご明察だ。<黄金の羅刹>オーレリア・ルグィン、<黒旋風>ウォレス・バルディアス……その両名が帝都に入った。恐らくは第三と第四の帝都入りを阻止するためにカイエン公が動かしたんだろう。奴さんがここで乾坤一擲の手を打つ以上、激しい戦闘になるだろう』

 

 彼らの戦闘の後ろ盾である皇族を救出することで、貴族連合の正当性を完全に失わせる。その意味で電撃戦を敢行できるカレイジャスに動いてもらうほかないだろうというのがレクターの出した結論。それに、特務部隊の総主宰であるエルウィン皇女にとっての身内を救うので、そこまで外れた行動ではないだろうと付け加えた。

 

『気になるのはそこまで大規模に軍を動かしたわけではないという情報です。そうなればカイエン公が最後の悪足掻きを行う可能性もあります』

『だが、ここで手を拱いていれば内乱は年を越えてしまう。どうにかして大晦日までに事を片付けたい』

『クロスベル帝国との交渉のこともある。それが下手に長引けばエレボニアとしての矜持に関わりかねぬ』

 

 1か月少々で事を解決してしまったクロスベル帝国は既に強靭な国家体制を築いている。その交渉準備が長引いた場合、下手をすればクロスベル帝国が軍を動かす可能性だってゼロではない。できる限りのスピード解決をするため、リィン達に協力を要請した。

 

 

 結果としてリィン達はカレル離宮に潜入し、ユーゲント皇帝をはじめとした皇族の殆どやレーグニッツ帝都知事の救出に成功。だが、そこにはセドリック・ライゼ・アルノール皇太子の姿がなかったことを尋ねようとした瞬間、強大な力の波動を感じた。外に出たリィン達が見たもの―――それは紅い光が立ち上る変質化したバルフレイム宮であり、その頂上には炎のような紅い光の翼を携えた強大な力の存在が確かに顕現していた。

 

 本来は“碧の大樹”で生じた力を依代にして発現する筈だった“煌魔城”。カイエン公は協力者であるヴィータ・クロチルダの諌言を無視してセドリック・ライゼ・アルノール皇太子を依代に“緋の騎神”テスタ=ロッサを起動させ、“紅き終焉の魔王(エンド・オブ・ヴァーミリオン)”の力を使って“煌魔城”を顕現させた。

 想定された手順以外の方法で顕現させた想定外の存在。これによる影響を一番強く受けたのは、一番近くにいた起動者であるクロウ・アームブラストであった。“紅き終焉の魔王(エンド・オブ・ヴァーミリオン)”はその力を補完するためにクロウの精気だけでなく命まで奪った。辛くもその影響を逃れたヴィータの願いを聞き、リィンは<灰の騎神>ヴァリマールで彼の操る<蒼の騎神>オルディーネを撃破。先頭不能となったオルディーネから光となって出てきたクロウは既に物言わぬ亡骸となってしまっていた。

 

 その怒りも悲しみも今は堪えつつ、リィン達は並み居る“裏”の協力者たちと戦い、勝利を収めた。彼らが精気を吸い取る影響を受けなかったのはカイエン公の思考をある程度読み取った影響なのだろうとヴィータは述べた。そして特務部隊が総力を持って“紅き終焉の魔王(エンド・オブ・ヴァーミリオン)”を撃破することに成功。その力を失ったテスタ=ロッサからコクピット部分を無理やり引きずり出し、セドリック皇太子の救出に間一髪で成功。“煌魔城”も変質する前のバルフレイム宮へと戻った。

 

 

「馬鹿な!? 有り得ん!? これは何かの間違いだ!!」

 

 特務部隊がセドリック皇太子の救出に動いていた隙を付いてカイエン公は走っていた。彼が揚陸艇の下に辿り着いて安堵したのも束の間……彼の心臓には一つの刃が突き立てられていた。明らかに背後からの一撃にカイエン公は驚き、口から血を吐き出しつつ彼は振り向く。すると、そこには心臓を撃ち抜かれたはずの人物であり、カイエン公にとっては最も憎むべき人物―――ギリアス・オズボーンその人がそこにいた。

 

「き、がっ、きさ、ま……なぜ……」

「皇族を犠牲にされようとした罪は我が帝国において“不敬”。然るに死罪は免れまい。安心するがいい、クロワール・ド・カイエン。そなたの所業と夢は私が叶えてやろう。そなたの協力者が進めていた『幻焔計画』とやらもな」

 

 そう言いながら刃を引き抜くように突き飛ばすと、カイエン公は目を見開いたまま床に倒れこんだ。彼の傷口からは大量の血が流れ出ていた。そんな様子に感慨を覚えるような仕草も見せず、自らの得物から血を掃う様に振るうと、その得物を手にしたままオズボーン宰相は口元に笑みを零していた。

 

 

―――1204年12月18日。

 

 貴族連合の総主宰であるクロワール・ド・カイエンは『何者かの襲撃によって死亡』の情報が発表され、エレボニア皇帝ユーゲント・ライゼ・アルノールⅢ世は双方の戦闘停止を勧告。電撃的復活を遂げたギリアス・オズボーン宰相はそのインパクトを以て正規軍を建て直し、正規軍に完全優位を齎した。その一方でリベール王国およびクロスベル帝国にノルティア州を含めた元帝国領の返還を厚かましく要求したため、ユーゲント皇帝の眼前にてアスベル・フォストレイト中将がギリアス・オズボーン宰相を組み伏せるという一幕があった。

 

『―――求めるのは結構ですが、特使としてこの場に来ている私に殺気を向けた以上、それは宣戦布告と受け取ってよろしいのですか?』

 

 その場において最も強いアスベルが全力を出せば、バルフレイム宮が文字通り『吹き飛ぶ』ことを懸念してユーゲント皇帝自ら謝罪する事態となった。これはアスベルが特務部隊の総大将であることを裏付ける証拠でもある。またリベール王国と戦争になれば先に結ばれた講和条約全ての項目で“反故”と見做され、膨大な賠償を支払う羽目となることも謝罪に至った理由であった。

 その謝罪を以てアスベルも刃を収めた。下手な殺傷事など面倒にしかならない。この影響でオズボーン宰相に警戒されることとなるが、それも遅かれ早かれであったから今更、という風にしか感じていなかったアスベルであった。

 

 

 その後、リベール王国・エレボニア帝国・クロスベル帝国にて三国による会談が設けられ、リベール王国のアルトハイム自治州およびセンティラール自治州の一部をエレボニア帝国に返還、ルナリア自然公園を含むケルディック一帯をクロスベル帝国に配置換えなどで合意。ザクセン鉄鉱山の採掘権は返還しないが、その代わりに産出する鉄鉱石については一定の量まで関税を設けず、それを超えての輸出は高関税を掛けることで合意を取り決めた。

 とはいえ、エレボニアでは主要であるRFグループを失った痛手は大きく、軍の再配備については数年単位での遅れが生じることとなる。

 

 クロウ・アームブラストの葬儀は身辺のみで執り行われ、<蒼の騎神>オルディーネについてはエレボニア帝国軍で引き取る条件を呑む形とし、それを引き換えとしてリィン・シュバルツァーの身辺の安全や<灰の騎神>ヴァリマールをリベール王国預かりとした。

 

 

 そして、時間は過ぎていき……七耀暦1205年3月を迎えた。

 

 

~エレボニア帝国 近郊都市トリスタ~

 

 トールズ士官学院のⅦ組、その面々は一名の欠員を除いて全員が出席していた。その授業スピードはまるで今までの2ヶ月を取り戻すどころかそれ以上の速度……それは、このクラスに所属する全員がそれぞれの道に進むことを意味している。

 一日の授業も終わり、放課後を迎えて一同が輪になって会話をする。

 

「しかし、君があそこであのような行動をとるとはな……正直肝が冷えたぞ」

「まあ、陛下が取り成してくれることは想定してたからな。でなければ最悪諸共吹き飛ばしていたが」

「あはは……あの後、オジサンも『すごく興味が湧いた。諸般の事情さえなければ誘いたかった』とか言ってたよ」

「それを光栄に思えないのは何故だろうな」

「まあ、アスベルは外国人の立場だからね。そういう私も人のことは言えないけれど」

「アリサさん……」

 

 気が付けばⅦ組の構成自体がエレボニア、リベール、クロスベル、そしてレミフェリアの4か国の出身によって構成される形となっていた。

 アスベル・フォストレイトは卒業後、遊撃士として復帰することが決まっている。あくまでもリベール王国軍籍は身分保証という側面が強いからだ。これまでの功績を鑑みてユーゲント皇帝からは帝国における最高勲章の『獅子心功章』を贈られた。これはエレボニア帝国史において外国人では初めての名誉であり、リィンの『灰色の騎士』に並ぶ『紫炎の騎士』という二つ名まで贈られた。

 

「騎神を持っていない人間に過度な期待は野暮なんだけどな。それに、エレボニアに対してただ働きするつもりもない。あの不良中年の気持ちがこの歳で解るというのは正直複雑だが」

「まぁ、言わんとしてることは理解するが……俺も似たようなものだな」

 

 ルドガー・ローゼスレイヴは卒業後クロスベル帝国へ移ることとなる。その一方でそろそろ決着を付けるべきということで結社方面でも動くことになる。当然、その場合はアスベルをはじめとした面々も協力することとなる。表の就職先としてクロスベル帝国軍に行くことが内定しており、その書状は先日交換屋を営むミヒュト経由で届いたばかりだ。

 リーゼロッテ・ハーティリーはその付き添いという形でクロスベル帝国軍に所属し、旧カルバード情報省(CID)の後継機関となるクロスベル情報省、こちらも通称はCIDにはなるが、その部署に配属が決まっている。

 

「にしても、セリカも思い切ったわね」

「うむ。剣の道を究めるためにアスベルと同行するとは。父上からもお誘いは来ていたのであろう?」

「とはいっても半年ぐらいですけど。その期間を置いて見極める……どうやら、父は次のステップである“皆伝”への道筋を立てたのだろうかと思いまして」

 

 セリカ・ヴァンダールは当初実家であるヘイムダルに戻る予定だったのだが、先日その父であるリューノレンス・ヴァンダールよりヴァンダール流剛剣術の見極めを半年後に行うと手紙にあり、その間実家への立ち寄りは禁ずると記されていた。ならば剣術の高みに至っているアスベルの許に身を寄せ、剣術を磨くこととした。

 ラウラ・S・アルゼイドは父であるヴィクター・S・アルゼイドと暫く旅に出るという。アルゼイド流における奥義伝承。それを成すためにだと。既に兄のスコール・S・アルゼイドは“奧伝”の目録を受け取っており、“皆伝”もそう遠くはないとヴィクター侯爵は笑みを零していた。

 

「そういや、スコール教官は既にアルゼイド流の“師範代”だったっけ?」

「父上には珍しくも押し切った形だな。サラ教官とのことを公表した時はヴァンダイク学院長やベアトリクス教官ですら面を食らっていたからな」

「そりゃあそうだろう。あの教官が既に既婚者だなんて……リィンは知っていたようだが」

「すまない。教官たちから口止めされていたんだ」

「まあ、想像はできる。国を替えたとはいえスコール教官はあの<光の剣匠>の息子であり、ユーゲント陛下の甥にあたる人物。要らぬ諍いを持ち込む輩を警戒してのことだろう」

 

 マキアス・レーグニッツは帝都の政治学院に無事合格し、トールズ卒業後はそちらの道に進む。清廉潔白な帝都知事の息子というネームバリューは大きく、既に先方では話題で持ち切りだという。当の本人は編入する前から疲れ切っている様子であったが。

 

 ユーシス・アルバレアは卒業後、当初はクロスベル帝国領となったクロイツェン州の取りまとめをする予定だったが、ここにマリクルシス皇帝がとある人物と引き合わせた。既に亡くなっていたと思っていたユーシスの実母、現在は現皇帝の第一皇妃となったセルリア・フィラ・クロスディールとの邂逅。半年以上前から影武者を使って偽装した手の込み様にユーシスは納得せざるを得なかった。

 表向きは身寄りのいないユーシスにクロスベル帝国東クロイツェン州の当主代行という形。ほとぼりが冷めれば、皇妃の嫡子という形で公表される……つまり次期クロスベル皇帝、皇太子という立場へとなる。皇帝自身とは同じアルバレア公爵家の血縁であり、現皇妃の血脈を継いでいる以上反論は出にくいだろう。当のユーシスはというと、たかが庶子だった自分が皇帝家の子息という立場になるなど夢にも思っていなかったのだろう。

 

「そういえば、縮小したクロイツェン州には誰が?」

「先代公爵の三男―――叔父には隠し子がいてな。能力的にも性格的にもあの叔父から生まれたとはとても思えん人物だ。彼が後を継ぐことに決まった……ハイアームズ候が後見し、隠居したログナー侯爵が面倒を見るというから安心はできるだろう」

「ユーシスがそう言うなら、きっと大丈夫そうだね。ガイウスは故郷に戻るんだっけ?」

「ああ。だが、その前に大陸各地を旅しようと思っている。以前お世話になった巡回神父が提案してくれてな」

 

 エリオット・クレイグは音楽院への編入が内定している。というか、その試験すら必要ないと音楽院の学長が判断した。実はケルディックの慰問コンサートという形で演奏したことがあり、その学長もその音楽に魅了された。それと現講師であるエリオットの母親の存在もあった。一応体裁という形で試験は行ったらしいが、その試験でやった演奏で困ったことになったとエリオットは呟いたのを忘れない。

 ガイウス・ウォーゼルは故郷のノルド高原に戻る前に帝国以外の様々な場所を巡りたいという気持ちがあり、それを聞いた巡回神父がその旅に付き添うとのこと。その巡回神父とはアスベルも内密に連絡を交わしており、どうやら資質があると見込んでいるらしい。

 

「そっか。エマも故郷に戻るの?」

「はい。お婆ちゃんが一度戻るようにと手紙に書いてあったので。フィーちゃんも大変そうですけど」

「ん。でも、色んな道は示してくれたから。どんな道でも応援してくれるって」

 

 エマ・ミルスティンは故郷に戻り、長たる人物から魔術の手解きを受けるとのこと。リィンの反転昇華させた“鬼の力”は実質未知数だが、それでも暴走の危険は極めて低い。なれど万が一の保険は必要であると考えた結果である。リィンの導き手としての使命を全うするという目的もあるが、それ以上にリィンのことが気にかかるのだろう。

 フィー・クラウゼルはクロスベル帝国に一度戻るとのこと。本人としては三年前の<百日事変>での経験を活かし、遊撃士を目指そうとしているとのこと。正直スタートが激務で知られるクロスベル支部というのはハードルの高さを感じると呟いた。

 

「アーシアとステラは……やはり、国を離れるのか」

「はい。次期カイエン公の問題はありますが、兄が暫く当主代行を務めるとのことで……叔父であるバラッド候の問題はありますが」

「私も似たようなものです。公になっていない以上、私を利用する人間も少なからずいますし……兄はそれで構わないと言ってくれましたが」

 

 アーシアレイン・ド・カイエンは殺された現カイエン公の長女という立場を鑑み、カイエン公爵家からの絶縁という形で平民に落とされる形となった。そしてその後はというと、センティラール州―――シュバルツァー家に世話になることが決まっていて、表向きは嫁ぐことが決まっているエルウィン皇女の侍女という立場になる。

 ステラ・レンハイムもといセティアレイン・ライゼ・アルノールもシュバルツァー家に使用人として雇われる。実際には対外的に動くことが多くなるリィンやエリゼの留守を任される立場であり、エルウィン皇女の世話役も担うという重責を負うことになる。

 

「というか、あの子もシュバルツァー家で引き取ることになるとはな……その気でもあるのか?」

「いや、ないから。そもそも、その提案はエルウィン皇女とソフィアの提案だから」

 

 その過程でアルティナ・オライオンもシュバルツァー家の家事手伝いという形でシュバルツァー家に引き取られることとなった。春にはシュバルツァーの家名を彼女に与えるとともに、これから忙しくなるリィンの準サポート役として人間らしさを学んでいかせたい……これはエルウィン皇女とソフィアの気持ちからくるものだった。

 

「どうかしらね……まあ、私は実家のことでこれから忙しくなりそうだけれど」

「ティナには散々リィンのことを聞かれてるらしいが?」

「まあね。てか、あの子ったらいつの間にかエルウィン殿下やエリゼさんとも仲良くなってるみたいだし……人のことは言えないけど」

 

 アリサ・ラインフォルトは実家であるRFグループの立て直しということでルーレに戻ることとなる。建て直しというよりはこれからの新事業などの立ち上げでいち技術者として奔走するとぼやいていたのをアスベルは既に聞き及んでいた。

 ミリアム・オライオンはエレボニア帝国軍情報局に戻ることになる。その辺りについては申し訳ないような気持ちもあるとミリアム自身が述べたことに周囲の人間が目を見開く一面もあった。

 

「でも、リィンが一番大変だよね。卒業したら実家に帰らないで本国行きだなんて」

「はは……正直、『灰色の騎士』という肩書きは困ったけれど、シュトレオン陛下が取り成してくれたからな。それに、“要請(オーダー)”もアスベル達がサポートしてくれてるから、そこまで大変ではないさ」

 

 リィン・シュバルツァーは『灰色の騎士』という肩書きの“栄誉”をエレボニア帝国から受け取ったが、これを逆に利用したのはリベール王国国家元首に即位したシュトレオン・フォン・アウスレーゼ国王であった。

 騎神という固有戦力を持つ彼にしか出来ない“要請(オーダー)”をリベール王国とクロスベル帝国の両政府が出す代わり、シュバルツァー侯爵家に対する後ろ盾をアウスレーゼ王家とクロスディール皇家が全面的に負うことを確約したもの。その際に必要な応援要員としてアリーシャ・シルフィルが付くだけでなく、アスベルやルドガーといった一線級のサポートを付ける高待遇振りである。

 彼に『英雄的行為』を負わせる以上、その対価は確と払う……どこかの御仁のように英雄として使い潰そうとする意図などないことをハッキリと示す意味合いもある。そのほとぼりが冷めると、今度は貴族当主としてリィンはその勉強をすることになる。

 

「(まあ、アスベルは特殊な事情があるから領地を持つことはできないと言ってたからな……)そしたら、帰るか」

「だな」

 

 エレボニアの内戦は終結した。だが、それはあくまでも始まりに過ぎないとⅦ組の面々は感じていた。だからこそ、一つの誓いを立てた。

 

 それはいつの話になるかわからない。だが、近い将来であることは間違いない。一年後、各々の再会を誓ってトールズ士官学院特科クラス“Ⅶ組”はそれぞれの道を進む。そして、それはこの世界に渡ってきた者たちにとって、本当の意味での正念場になることを意味していた。

 


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