No.97593

温度差カップル

久しぶりの投稿です。
これからは、もうちょっとこまめに投稿できるように頑張ります。^^;

このお話は倦怠期を迎えた、とあるカップルの話です。
二人はどうやって仲直りするのでしょうか?

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2009-09-27 03:43:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2407   閲覧ユーザー数:2392

 私の名前は冷子(れいこ)、彼の名前は高志(たかし)。

 名は体を表わすとはよく言ったもので、私と彼には温度差がある。

 私は割と大人しい事が好きで、高志はわいわい騒ぐような事が好きだ。

 それでも付き合ってから9ヶ月も経っている。

 ……が、今は倦怠期まっしぐら。

 最近になって、些細な考え方の違いで不快感をよく感じる。

 今もケンカしてから一週間、全く会っていない。

 元々バイトで知り合った間柄、大学が一緒でも学部が違えば会う事はない。

 バイトは辞めているので、そっちでも仲直りの糸口はない。

「ケホッ! ゴホゴホッ!!……うー」

 更には風邪をひくだなんて。

 最悪だ。

 はぁ……。

 私みたいな静かでつまんない女、高志には合ってないのよ。きっと。

 ベッドに横になって鬱々とそんな事を考えていると、携帯が鳴った。

 ピロリロリンロン♪ ピロリロリンロン♪

 高志からの電話だ。

 着信音を変えているから分かる。

 ピロリロリンロン♪ ピロリロリ――ピッ。

 ためらいながらも私は電話に出る事にした。

「……もしもし」

「あ、冷子……まだ、怒ってるのか?」

 そんな気は無かったが不機嫌に聞こえたらしい。

「いや。そんな事はないけど、何か用?」

 風邪のせいで頭痛もする。

 謝ってくれるなら仲直りしたいけど、早めに電話を終わらせて寝たい。

「うん、先週はごめん! 俺、自分の事しか考えてなかった! だから明日デートに行かない? ううん、土曜だし、まだ昼だし、冷子が良ければ今日、今からでも良いよ! 冷子に喜んで貰えるデートコースを考えたんだ!!」

 相変わらずテンションが高い。高すぎる。

 そして頭痛にガンガン響く。

 謝ってるけど、何で私が怒ったのか分かってないみたいだし。

 結局『私のため』と言いながら、自分のやりたい事を押しつけてるだけじゃない。

「ごめん、頭痛いから切るね」

「ちょっ、ちょっと待った!! 頭が痛い!? 声もちょっと鼻声っぽいし! 風邪ひいたんじゃないの!?」

 頭痛いって言ってるんだから、もう少し落ち着いて話してくれればいいのに。

「……かもね」

「熱とかは? 咳とか鼻水とかのどの痛みとかある? あと、ちゃんと食べてる!?」

 いつもそうだ。高志は私がして欲しい事と逆の行動をする。

 早く電話を切って寝たいっていうのに、これだ。

「体温計は持ってない。……あーもう頭痛いから切るね」

「ちょっと待った! それじゃ――」

 ピッ。

 通話終了のボタンを押す。

 そのまま押しっぱなしで電源を落とした。

「はあー」

 寝る。

 

 

 

 ……ん。

 目が覚めた。

 暑い。汗だくだ。

 暑かったためか、布団を抱き枕のようにしていた。

 寝るときはちゃんと仰向きに寝て布団を掛けていたはずなのに、今は横向きの状態だ。

 頭はまだぐわんぐわんしてる。

 寝る前より悪化している気もする……。

 外は暗い。一体何時間くらい寝てたんだろ?

 時間を確認しようと、寝返りをうった。

「!!」

「あ、起きた?」

 高志の顔が目の前に現れた。

「た、高志、どうしたのよ?」

「合い鍵で入らせてもらったよ、一人暮らしって普段は楽だけど、こういう時はキツイからさ。あ、おかゆ食べる?」

 と優しくほほえむ高志。

「あ、うん……」

 私の聞きたかった事とは違ったが、なんだかあっけにとられてしまってしまった。

「それじゃ、作っといたの温め直してくるから、熱測ってて――はい」

 と言って、高志はパッケージに入ったままの体温計を私に差し出した。

 わざわざ買ってきてくれたんだ。

「あ……うん」

 私が体温計を受け取ると、高志は台所へ行った。

 早速開け、スイッチを押して脇に挟む。

 検温中、じっとしていると色んな音が聞こえてきた。

 台所の方からは換気扇の音、鍋におたまがあたる音、棚から食器を取り出している音。

 私のための、音。

 何だか今まで高志に対して思ってた不満が、全部飛んでいくような気分だ。

 頭は痛くて重いけど、これとは違う、もっと深いところの重さが消えていくような気がした。

 バカだ、私はバカだった。

 私のためにと高志がやってくれてた事に、私は勝手に不満を募らせ、後から文句を言ってたんだ。

 ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ。

 検温完了の音が鳴った。

「お、ナイスタイミング!」

 カチャ。

 ドアを開け、台所から高志がおかゆを持って戻ってきた。

 高志はおかゆを机に置くと、ベッドのすぐ横に座り、私の出した体温計をのぞき込んだ。

 36.7℃。

「よかった、熱はないみたいだね」

「……は? 私、平熱35.7℃だから普通にキツイんですけど」

 高志は「ええっ!?」と驚いたかと思うと、私にとって衝撃の事実を口にした。

「俺、平熱36.7℃……」

 なんと私たちは、気持ち面だけではなく、体温も1℃の差がある本当の意味での『温度差カップル』だったのだ。

「……あ、はははケホッ! ゴッホゴッホ!」

「だ、大丈夫か!?」

 心配そうに私の顔をのぞき込む高志。

 ギュッ。

 と、私は思わず高志に抱きついた。

「お、おいっ」

 高志は何で抱きつかれたのか分からないようで、あわてた声を出す。

 今までごめん。

 私のために色々行動してくれてたのに、私は何にも言わないで。

 ケンカしちゃったのも、高志が私を気遣ってくれてないせいだ、って考えちゃってたけど、……違った。

 高志はいつも高志なりに気遣ってくれてたんだ。

 ただそれが少し私に合ってなかっただけ。なのに私はそれを受け止めようとせず、ただ拒否してたんだ。

 ごめん、これからは私も思った事をちゃんと言うよ。

 二人のちょうど良い温度を探そうね。

 思っても、なかなか言葉にはできないもので。

 だから私は、言葉の代わりに高志をぎゅーっと抱きしめた。

 

 ――二人の体温が一致した、この瞬間を大切に感じながら。


 
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