No.975031

紫閃の軌跡

kelvinさん

第155話 身内の尻拭いという気苦労

2018-11-28 15:38:43 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1212   閲覧ユーザー数:1115

~リベール王国センティラール自治州 ケルディック~

 

 センティラール自治州南に位置する交易の町ケルディック。その一角にある遊撃士協会支部には特徴的な大剣を持つ赤毛の男性が受付の人と話していた。

 

「しかし、この時期に来てくれるとは助かります」

「なに、本来なら動きたいであろうアスベル達が別件で動けねえからな。その穴埋めとして派遣されたが、正直キナ臭い雰囲気がしてやがる……」

「……それは、アガットさんの経験からくるものですか?」

「ま、そんなところだ。そういやエステル達もそうだが、クロスベル支部から助っ人も来てるんだろ?」

 

 赤毛の男性―――A級正遊撃士<紅蓮の重剣>アガット・クロスナーはケルディックに何やら不穏な空気を感じていることを吐露すると、受付であるマイルズは彼の問いかけに答えた。

 

「ええ。クロスベル皇帝府“特務支援課”の方々ですね。その面々は2年前にリベールを訪れていたらしいです」

「となると、顔見知りもいそうだな……」

「―――ただいま戻りました」

「お、噂をすればですね」

 

 すると、そこに戻ってきたのはロイド達5人であった。彼等もアガットの姿を見て驚きを隠せなかった。無論アガットのほうも驚いてはいたが。

 

「貴方は確か、アガットさん!?」

「って、お前達か。ハハッ、バニングスとプラトー、それにランディは“影の国”以来になるか」

「お前さんまでケルディックに来たのか。これは心強いな」

「アガットさんも久しぶりです。その、エステルさん達と同じく助っ人で?」

「ああ、リベールの状況がかなり落ち着いたんでな。マクダエルのお嬢さんは一月振りか」

「はい。その節は御祖父様共々お世話になりました」

「気にするな。元はといえばオッサンがクロスベルに行く交換条件で護衛をしただけだからな」

 

 アガットはクロスベルを脱出するエリィとマクダエル議長の護衛をしていた。それはクロスベル解放作戦に参加するカシウス中将の代わりという形で引き受ける羽目になっただけだと彼はつぶやいた。ランディだけ名前呼びなのはレイアのことがあるからでもあった。

 

「で、更にロックスミスのお嬢さんとはな。あの<痩せ狼>が気にするだけあって、かなり気を練り上げてるみてえだな」

「ほほう? やっぱり嫌な予感がするのは気のせいではないですね、ジョージ君」

「あのなぁ……まあいい。ランディ、あの二人に否応なく叩き込まれたお前なら、何か思うところがあるんじゃないのか? 例えば、猟兵としての勘ってやつで」

「ハハッ……確かに、嫌な予感はしてる。こういう時の空気は嫌でも思い出しちまうからな」

 

 この面子の中ではアガット、ランディ、そしてルヴィアゼリッタの三人が嫌な予感を覚えていた。その一方でロイドも磨かれた捜査官としての直感からケルディックに何かしらの危機が来るのではと思っていた。

 

「確か、隣国の南にはクロイツェン州―――アルバレア公爵家があったよな?」

「ええ、その通りよ。アルバレア公の指示でユミルが襲われ、シュバルツァー侯爵閣下が一時命の危機に瀕したことは驚きだったけど……また何かあると?」

「ああ。それまでの経緯をアスベルからの手紙で知ったんだが……結果的に襲撃は失敗した」

「レグラム方面はリベール本国の軍も警戒を強めているのは確かです。そうなれば、まだ警戒の薄いケルディックに見せしめや逆襲という可能性もあります」

「あるいはマリクルシス皇帝陛下への当て付けの可能性も否定できなくなる。陛下は断ったらしいが……」

 

 だが、この状況で下手なことをすればリベールのエレボニアに対する感情は最悪の一途を辿ることになる。理知的ならばまだいいが……どうにも不安が拭いきれないとロイドは呟く。講和条約によって国境を接する形となったクロスベル帝国とエレボニア帝国のクロイツェン州……現アルバレア公爵がその弟であるマリクルシス皇帝を内戦に引きずり込もうと画策している可能性もある。

 

「実は、その件も含めて一個艦隊がケルディックの警戒に入ってくれる手筈ですが、他のスケジュールもあって3日後になる予定と聞き及んでいます」

「そうなると、仕掛けてくるとなればそこまでがタイムリミットか……マイルズ、エステル達を呼び戻せるか? もしもの時の対応を検討しておきたい。あの勘のいい猫娘も何か気になることを掴んでそうだからな」

「タイミングのいいことに、今日の業務を終えて戻ってくる途中だそうです。それと、クロスベル方面から『カレイジャス』も立ち寄る予定ですので、彼等にも助力を願いましょう」

 

―――1204年12月10日、17:00。

 

 『カレイジャス』は補給も兼ねてケルディック空港の発着場に到着。その会議室にて特務部隊の総大将であるアスベルとエルウィン皇女とリーゼロッテ、特務支援課を代表してロイドとエリィが、遊撃士協会からはエステルとヨシュア、そしてレンが一堂に会して会議の場を持った。遊撃士協会ケルディック支部からの相談という形だが、アルバレア公爵の暴発の懸念ということからユーシスにもその会議に加わって貰った。

 

「―――成程。アルバレア公がケルディックを襲う可能性、か。一度ユミルを襲撃している以上、躊躇う理由は恐らくないな……そうだろう? ユーシス」

「恐らくはな。父からすればもう躊躇うことも抑える人間も居なくなってしまった以上、カイエン公を出し抜こうと動く可能性が極めて高くなる……非常に愚かなことでもあるが」

「そのお兄さんの懸念通りね。こっちで色々調べてみたけど、どうやら大規模に軍を動かすつもりみたいよ? 加えて、第四機甲師団を動かせないように帝都から“人質”まで動かしたみたいだし」

 

 ユーシスの言葉を裏付ける形でレンはハッキングによって情報を引き出していたらしく、次々と出てくる情報に周囲の人間は冷や汗を流した。エステルとヨシュアも苦笑せざるを得なかった。

 

「レン、いつの間に……」

「はぁ、まあいつものことだから聞かなかったことにするけど……あたし達は遊撃士としてケルディックの市民の避難が最優先になるわ」

「俺達も特務支援課として遊撃士協会の支援要請に入ってるから、その手伝いをする」

「なので、クロイツェン領邦軍などの本格的な対処はお任せすることになってしまいますが……」

 

 エステル達とロイド達の動きについては問題ない。そうなると、残る面子となるユウナ達三人の扱いについて、アスベルが提案をする。

 

「想定通りだな。それなら、ユウナ・クロフォード、クルト・ヴァンダール、それにアルティナ・オライオンの3名は特務部隊預かりとする。リーゼ、ここから先の計画案は?」

「うん、既にラグナ教官やリノアさんとも話し合って決定してる。人質を取る可能性も考慮した上で、アルバレア公の身柄拘束を見据えた作戦を立案済みだよ」

「エレボニア皇族ならばユミルの一件も含めて<四大名門>当主としての責任も問えるでしょう。どうか『カレイジャス』を活用してください」

 

 残るは彼らが用いる可能性のある機甲兵だが……これについてはアテがある、とアスベルが述べた。

 

「レン、それにリーゼ。連中が動くとしたら“明後日”か?」

「ええ、レンもその考えよ。明後日に日付が変わる前後……その辺りかしらね」

「うん。トリスタ東にいる部隊や<北の猟兵>も動かすみたいだから、それらの噛み合わせを考えるとそのあたりになるかな」

 

 レンとリーゼロッテもそうだが、クロイツェン領邦軍や猟兵らが動くXデーの予想で合致したことに周囲の人間は驚きを隠せなかった。“三人寄れば文殊の知恵”という諺はこの世界でも東方の古い書物に載っているが、知恵どころか既に対抗策まで組み上げていること自体が驚きだったらしい。

 

「全く、末恐ろしく感じるよ……遊撃士として賛成はできないけど、どうか気を付けて。アスベル」

「ああ、多分そっちの方が大変なことになると思うからな……抑えとして何人かを置く。彼らがいれば何とかなるだろう。連中が予定よりも早く動く可能性も鑑みれば、それがいいと考えている」

 

 抑えという形で客将であるヴィクターとカシウス中将をケルディックの留守に置く。親がいるという状況はエステル達からすればどうにも落ち着かないであろうが。なお、オリヴァルト皇子、ミュラー少佐、トヴァル、シャロン、クレア大尉は帝国西部に向かっていった。第七機甲師団や他の正規軍と協力して対抗する段取りであると話す。

 

 

 そして二日後―――12月12日、0:00。

 

 南ケルディック要塞から領邦軍と<北の猟兵>が出撃。だが、その行く手を阻む形で第四機甲師団が展開していた。

 

「馬鹿な!? 貴様達、人質の命が惜しくないのか!?」

「……(ぎりっ)―――甘く見ないでもらおう、クロイツェン領邦軍! あやつらとて軍人の妻と娘! 己の義に準ずる覚悟はできておろう!!」

「そうか、ならば―――っ!? おい、どうした!? 通信が使えないだと!?」

 

 軍人たる者、弱みを見せれば軍全体の士気に関わる。だからこそ、クレイグ中将が悔しさを噛み締めながらも全軍に檄を飛ばす。それを聞いた兵士達もその意に応えて攻撃を開始した。こうなればと領邦軍の部隊長が通信を試みるが、突然ノイズが通信機から聞こえ、全く通信が取れない状況に陥っていた。

 

 彼らと別行動を取っていた<北の猟兵>はケルディックの東口に辿り着いた。だが、その前に陣取っていた二人の人陰に警戒をする。そしてその人影が月の光に照らされると、彼らは驚くこととなる。

 

「なっ、貴様らは……!?」

「<剣聖>に<光の剣匠>だとっ!?」

「―――これは最後の警告だ。命惜しくば何もせずに国へ帰るがいい。さもなくば、この手を血に染めてでも貴殿らを斬り捨てる」

「貴殿らの事情は聞き及んでいる。だが、己の利の為に罪なき人を貶めることは言語道断。人としての理性が残っているのならば、大人しく立ち去るがよい」

 

 東口に陣取っているのはカシウス中将とヴィクター侯爵。双方とも達人クラスの人間をこの場所に配置した意味。<北の猟兵>たちは彼我の実力差を理解しているが、それでも退く気はないと銃を構えた。

 

「西口からも我らの同胞が襲う手筈。例え捨て石になったとて、悔いはない!!」

「―――本当に、成功すると思っているのか?」

「何?」

 

 そう、西口には彼らにとってもっと最悪の結果を齎しかねない人物が陣取っていた。その面子というのはアッシュブロンドの髪を持つ青年―――レオンハルト少佐と黒髪の女性―――カリン・アストレイ・ブライト、更にはクルーディル第二皇妃の三人である。その眼前には兵士や猟兵の死体、更には機甲兵の残骸が既に転がっていた。それを見た領邦軍の部隊長は完全に震え上がっていた。最早斬り捨てるに値しないとレオンハルト少佐は剣を仕舞った上でこう言い放った。

 

「とっとと生き残りを連れてトリスタに帰るがいい。これはお前たちの主が己の欲に目がくらんだ結果の“欺瞞”だとな。命が惜しいのなら引き籠もっているがいい」

「!? て、撤退だ!! すぐに撤退しろ!!」

 

 辛うじてという感じでトリスタに引き上げていく領邦軍の光景を見て、思わず息を吐くレオンハルト少佐。踵を返すとクルーディル皇妃に向き直った。

 

「現状追加の援軍は認められないが、暫くは警戒をしよう。カリンも異存はないか?」

「ええ。しかし、アルバレア公でしたか……罪もなき人間に何故……」

「王国に降った“裏切り者”という見方かもね。結局はただの馬鹿だけれど」

「だろうな……こちらレオンハルト。ええ、ええ……解りました。東口の猟兵も殲滅したそうだ。あとは、彼らの役目だ」

 

 そうしてひとまずの危機は去ったが、警戒を強めることとなる。街中には彼らの目を盗む形で潜入を試みた連中もいたが、それらについてはエステル達やロイド達の活躍もあって無事取り押さえられ、建物に若干の被害はあったものの民間人への被害は避難の際の怪我程度で済んだ。

 

「ふぅ……あ、アガット。そっちは大丈夫?」

「ああ。鉄道路線や駅方面は王国軍が厳重に警戒してたから問題はねえが、そっちは?」

「大方の目論見通り、北側から入ろうとしていた連中はお兄さん達が拘束したわ。装備品からして、領邦軍じゃなく<北の猟兵>だったのは間違いないわね」

「民間人は全員教会に避難完了しましたが……まさか、彼らを東西の要に置くとは」

 

 レオンハルト少佐、カリン、クルーディル皇妃、カシウス中将、ヴィクター侯爵という単独でも戦闘力の高い連中を要に置いた。万が一の時のバックアップとしてエステルやロイド達がいるのであり、その役目も無事に果たせていた。

 加えてレンは第四機甲師団に情報を流すのではなく、彼らが通信傍受によって貴族連合関連の情報を得られるように仕向けた。

 

「そういや、ロイド達は?」

「彼らでしたら、鉄道路線方面の警戒に当たっています」

「そうか。空き家となってる場所から火をかける危険性もある。俺らはしばらく広場を中心に巡回するぞ」

「わかったわ、アガット」

 

 そして『カレイジャス』は電撃作戦の第一陣としてルドガー、リーゼロッテ、ステラ、アーシア、ガイウス、エリオットの6人が南ケルディック要塞に侵入。要塞の司令官を背後から蹴り飛ばしたルドガーに同行したメンバーは冷や汗を流した。

 

「あはは……姿は見えるのに気が付かないって、ルドガーも凄いよね」

「まあ、それはいいとして……二人とも、大丈夫ですか?」

「ええ、怪我などもありません。にしても……エリオット、無事でよかったわ」

「ちょ、ちょっと母さんってば!?」

 

 クレイグ中将の妻にしてエリオットの母であるマリア、そしてエリオットの姉であるフィオナも無事であったようで、感激のあまりエリオットが抱きしめられるというハプニングもあったが、その数十分後に第四機甲師団が占領した。

 なお、その際にクレイグ中将がエリオットを抱きしめようとしてブレーンバスターを食らう一面があったのはここだけの話である。それを食らってもピンピンしている中将の頑丈さに最早笑うしかなかったことと、少しは学んでほしいと頭を抱えるナイトハルト少佐の姿があったことも付け加えておく。

 

 そして、アルバレア公のいるオーロックス砦に突撃するという作戦だが、以前この砦に侵入した経験のあるミリアムの発案が採用された。その方法というのは―――壁を破壊して最上階に直接侵入という掟破りの方法だが、逃げ道を塞ぐ意味と電撃作戦ならではの素早さの両方を鑑みた結果、最上階にあたる壁をアスベルの斬撃とミリアムのアガートラムによる攻撃で強制突入に成功する。

 そこでアスベル達が見たものは、完全に面食らったアルバレア公爵だった。周囲には結社の連中もいないことを見ると、どうやら完全に切り捨てられたようだ。

 

「ええい、この私がいるオーロックス砦に侵入するとは如何なる不届き者だ!!」

「どうも、不届き者その1です」

「ニシシ、不届き者その2でーっす!!」

「ミリアム、というかアスベル……もう少し真面目にやってくれ」

 

 アルバレア公の問いかけに冗談めいた言葉で答えたアスベルとミリアムにユーシスが珍しくツッコミを入れる羽目となったことに、後から入ってきたリィン達は引き攣った表情を浮かべていた。

 

「とまあ、そんな冗談は置いといてだ……ヘルムート・アルバレア公爵、何故この期に及んでケルディックを放火しようとなさったのですか?」

「ケルディックは既にリベール王国の自治州。ユミルの件といい、そこに襲撃を掛けることが如何なる結果を引き起こすか、父上ならご存知なはずです!!」

「黙れ! 栄えあるアルバレア公爵家を裏切った輩など最早人にはあらず! 今頃南ケルディック要塞から出動した部隊と猟兵が―――」

「―――残念ながら、連中は既に失敗したどころか壊滅したぞ。人質も無事解放された。砦の通信網も掌握させてもらった」

 

 アスベル、そしてユーシスの言葉に対して自分の利しか考えていないアルバレア公の言葉を遮る形で放たれた芯のある低い声。一同がそちらに視線を向けると、猟兵時代に着ていた軽装で下の階から上がってきたであろうマリクルシス皇帝の姿であった。これには同行しているラグナやリノアも苦笑を浮かべていた。

 

「陛下、態々こちらに?」

「ああ。ケルディックへの危険性は感じていたが、やってはいけないことを“二度”もしでかしたからな……久しぶりだな、我が愚兄。二度と顔を合わすまいと思っていたが、アルバレアの血は見逃してくれなかったようだ」

「き、貴様! こちらが態々気遣ってやったと思えば、兄に対して何たる振る舞いか! よいか、お前は弟としてクロスベルの力をアルバレア家再興に―――」

 

 ヘルムートの言葉を言い切る前にマリクルシス皇帝は強く握りしめた拳でアルバレア公爵を殴りつけた。その反動で床に倒れこむ公爵を持ち上げるように裾を強く掴んだ。

 

「ふざけるなよ。クロスベルの力を使ってアルバレアの再興だ? ケルディックの民に散々嫌がらせして挙句の果てには放火までやろうとした。ユミルを襲ってシュバルツァー侯爵を命の危険に晒し、民を脅かした。それまでの特別実習における仕打ちの件も全部聞き及んだ。俺との約束を破ったお前に待っているのは極刑の執行だけだ」

「なっ!?……わ、私は……!!」

「俺はクロスベル帝国皇帝マリクルシス・フィラ・クロスディールだ。アルバレアの血は残るから、安心して逝くといい……だが、その前に……これが、お前という愚かな人間を見逃した、俺の怒りだ!!」

「ぐほおっ!?……(ピクピク)」

 

 それこそ殴ったという事実が見えないほどの速度で繰り出された拳で気絶したアルバレア公。マリクルシス皇帝が手を放すと、アルバレア公はそのまま床に落ちた。皇帝は掌から何かを払い落とす様な感じで身だしなみを整えると、気絶したアルバレア公を担いだ。

 

「さて、行こうか」

「えっと、行くってどこに―――」

「バリアハートのアルバレア家城館だ。既にクロスベル帝国軍も来る手筈となっている……事情はそちらで説明しよう」

 

 その後、電撃的に占領されたバリアハート以南のクロイツェン州とオーロックス砦はクロスベル帝国軍の管轄下に置かれ、クロイツェンの貴族たちについては現状据え置きという形で市内に留め置かれる形となった。『カレイジャス』を含めた特務部隊については直前に連絡を入れ、攻撃しなければ反撃はせず拘束もしない、という宣言を守る意味でバリアハート空港への入港を許可した。南ケルディック要塞については第四機甲師団の預かりとなり、結果的にバリアハート方面のクロスベル帝国軍と睨みあうことになる。

 事態の打開のため、エルウィン皇女の仲介という形で機甲師団代表としてオーラフ・クレイグ中将とナイトハルト少佐がアルバレア公爵家城館に招かれ、そこでマリクルシス皇帝と会談をすることとなった。

 占領理由として、マリクルシス皇帝は『アルバレア公爵がクロスベル帝国の力を後ろ盾にして貴族連合の主宰に躍り出ようとし、血縁者がいるという理由だけでクロスベル帝国をエレボニアの内戦に巻き込ませようとするアルバレア公爵家を完全に沈黙させるため、止む無くクロイツェン州の占領に至った』と語った。

 

「―――以上がクロイツェン州の州都であるバリアハートおよびオーロックス砦以南の地帯を我がクロスベル帝国の占領下に置いた経緯だ。既に双龍橋の手前まで軍は動かしたが、そこで停止命令を出している」

「アルバレア公が最早そこまでのことを……」

「確かに、我が機甲師団ですら追いつかぬほどの電撃的占領。しかも、其方が現アルバレア公の実弟とはな……貴族たちが暴発していないのも納得できる話よ」

「そのことは公爵当人からも証言が取れました……条約通り、既にリベール王国への移送をしております」

 

 マリクルシス皇帝がオーロックス砦の下の階から上がってこれたのは、彼らの中に知己がまだいたからこそ話を簡単に通すことができただけ。貴族たちに対しては内密に大人しくすればアルバレア公のような極刑にはしないと確約までさせていたようで、家を出た身分とはいえ先代アルバレア公の次男という肩書の強さは未だ根強い、とクレイグ中将も舌を巻くほどだった。

 

「しかし、宣戦布告もなしにこのようなことは―――」

「そのことだが、一応宣戦布告はさせて頂いた。リベール王国にある我が大使館からエレボニア帝国大使館に通知する形でな」

「なっ!?」

「確かに、それならば我々が知らぬのも道理というわけだ……殿下、如何されます?」

「マリクルシス陛下。クロスベル帝国軍としてはクロイツェン州の占領に止め、トリスタや帝都方面への侵攻はしない……その解釈でよろしいでしょうか?」

「ああ。その証左という形でバリアハートにおける正規軍の補給を認めよう。それと、オーロックス砦にある兵器を全て第四機甲師団に譲ることも約束する。必要ならばその人員も手配しよう」

「そ、そこまで……」

 

 マリクルシス皇帝の判断は別に狂ったものではない。クロスベル帝国においてラインフォルト製の兵器が使用されていないわけではないが、現状のクロスベル帝国で主流として使われているのは独自の規格品であり、現在ヴェルヌ社においてその量産ラインが急ピッチで組まれている最中。

 その意味で『アハツェン』などの戦車・装甲車・機甲兵などのRFグループが手掛けた兵器を正規軍に無償で譲り渡すのは既定路線であろう。事情はどうあれ内戦による消耗で正規軍の装備は足りていないのが実情であり、無償提供するというのなら引き受けない理由などない。

 

「成程。帝国(エレボニア)のことは帝国の人間で解決しろ……そう仰りたいと言うことか」

「ええ、オーラフ・クレイグ中将殿。無論、向こうも領邦軍の精鋭を送り込んでくることも考えられるが、エレボニア最強の打撃力と謳われた腕前、しかと見させていただく。特務部隊には我が国の人間がいるので、いざとなれば彼らから聞くことにしようかと」

「……―――その差配に感謝はしよう。双龍橋と南ケルディック要塞も近日中に明け渡す。ただこの先、必要以上の助太刀は無用と思っていただこう。帝国軍人としての意地を確と見てもらう為にもな」

「ええ。その言葉に偽りなきことを、女神にでもお祈りしておきましょう」

 

 結果、南ケルディック要塞は第四機甲師団一時預かりとなり、クロイツェン領邦軍はオーロックス砦に謹慎する形となった。クロイツェン州の占領区域に関しては、内戦終結後にリベール王国が仲裁という形でエレボニア帝国との会談を持つ形となり、それまでは暫定的にクロスベル帝国領として接収されることが決定した。

 

 アルバレア公爵は講和条約通りリベール王国に引き渡され、本国で軍事裁判を経た後処刑される予定となる。そして公爵の直系の子ということでユーシスが暫定的にアルバレア家当主代行を拝命した。

 その後の家督継承については、アルバレア公とマリクルシス皇帝の弟に子どもがおり、“アルバレア侯爵家”としてその人物に当主を継がせることで合意。その父親についてはルーファス・アルバレアの一件の責任を負う形となり、国から給金を貰うだけの隠居生活を強いられる形となった。

 

 

前作を書いていたときは、ここまでの展開に持ち込むつもりもなかったのはここだけの話。

 


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