No.97192

真・恋姫†無双~天空より降臨せし白雷の守護者~4話

赤眼黒龍さん

今回は真の使う氣の解説&賊討伐前編です。
ついに毒舌猫耳軍師と大食い怪力娘が登場します。
さてさて、どうなる事やら。

※ページ数を少し修正しました。

2009-09-24 23:08:17 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:6830   閲覧ユーザー数:5032

春蘭「御堂の使っていた技。あれは一体何なのだ?」

 

秋蘭「私もそれは聞きたい。姉者に斬りかかったあの時、私の矢は何もない場所で弾かれた。あれも御堂の力なのか?」

 

真「氣だ。天皇国日本では氣を使った武術が非常に発達している。雷皇に入隊するうえでこれに長けていることが重要な要素で俺が雷皇の隊長になれたのも氣を扱う才能が群を抜いていたからだ」

 

 真はスッと立ち上がると右手を出し氣を集める。

 

真「氣はもともと常陸成親が神刀雷皇を授けられた時の副産物として編み出し、代々雷皇の隊員たちが受け継いできたものが一般部隊に広まったものだ。一概に氣と言っても様々でいくつかの種類に分類される」

 

 そういうと真は氣を集めた手を華琳の前に持っていく。

 

華琳「!!」

 

 移動している間は普通の手だったのに、その手が目の前にきた瞬間に威圧感を感じ通常より一回り大きく見えた。

 

真「どうだった?」

 

華琳「これは覇気ね」

 

真「御明察。これは覇気、俺たちは覇王氣と呼ぶが。相手に圧倒的な威圧感と存在感をを与えることで相手に逆らう気をなくさせ敬意の念を抱かせる。先天的にしか身につけることしかできない、まさに王者の氣だ。この5人の中では華琳が最も優れているな」

 

華琳「あら? それは嬉しいわね」

 

 そう言われた華琳は嬉しそうだ。

 

真「次は武に関する氣だ。これは大きく分けて4つあり、そのうちの1つを極めると2つの分類に分かれる。まずは身氣(しんき)。これは身体の能力を底上げする氣。もっとも一般的で多くの武芸者が使っている。具体的には筋力を強化したり、技や移動の速度を向上させたり、視力を強化して遠くのものを見れるようにする。これを極めると剛氣(ごうき)と俊氣(しゅんき)に分かれる。剛氣は力の強化を極めた氣。俊氣は速度を極めた氣。極めようとすればいずれどちらかに分かれる」

 

明雪「真はどっちを極めたの?」

 

真「俺は俊氣だな。2日前に椅子をバラバラにしたろう? あの時使ったのが俊氣だ」

 

 華琳はその時のことを思い出す。あの時真の太刀筋は一切見えず椅子はバラバラに切り裂かれていた。いったいどこまで極めればあんなことができるようになるのか華琳には全く分からなかった。

 

真「次に金剛氣。これは己れの身に氣を纏い、鋼の様に硬くする防御の氣だ。極めれば刃物や矢は一切通らず、火の中すら平然と歩ける様になる」

 

春蘭「・・・・・真はそれもできるのか?」

 

真「一番得意な氣だな。一度この街一つが吹き飛ぶような爆発に巻き込まれたが傷一つなかった」

 

 4人はもう驚くのはやめようと思った。きっとこの程度のことで驚いていてはこの先身が持たないと。

 

真「次は斬氣。読んで字のごとく斬撃の切れ味を向上させる氣だ。極めれば一般兵が持つ普通の剣でも名剣並の切れ味を出すことが可能になる」

 

明雪「それは私にも使える?」

 

 興味深そうに聞く明雪。どうやら本気で覚えたいらしい。

 

真「本人の適性次第だな。あとで見てみるとしよう」

 

明雪「お願いね」

 

真「最後に波動氣。体内の気を手や足に収束し放つ。収束具合によって威力、攻撃範囲、射程距離などが変わってくる。これを使う武人も結構いるな。極めると・・・・・」

 

 右手の手のひらの上で氣を収束していく。すると真の手の上に直径五センチほどの赤い球体が出来上がる。

 

真「ここまでできれば・・・・」

 

明雪「一人前?」

 

真「・・・・・半人前だな」

 

 4人はもう驚かなかった。

 

秋蘭「では私の矢を弾いたのは金剛氣か?」

 

真「いいや。金剛氣はあくまで己の身にまとい攻撃を防ぐもの。あれはそこから俺が独自に生み出した技だ」

 

秋蘭「それはどんな技なのだ?」

 

真「それは言えないな」

 

春蘭「なんだそれは!!」

 

真「自分の技の秘密をそう易々とバラす馬鹿はいないだろう? これは俺にとって切り札だ。そう簡単には教えられん」

 

 話はここまでだと言って立ち上がる真。服を着て刀を腰に戻すと玉座の間から出て行こうとする。

 

春蘭「待て!! まだ話はっ!」

 

真「いずれ時が来たら話すさ」

 

 真はそう言い残して玉座の間を後にした。

 

 翌日、賊の拠点のおおよその位置がわかったとの知らせが入り、朝から出陣の準備で城の中は慌ただしかった。真は慌ただしく走り回る兵たちの様子を城壁の上から見下ろしていた。

 

真「なかなかいい動きをしている」

 

秋蘭「どうした御堂。何か珍しいものでもあったか?」

 

 声のした方を見ると秋蘭と春蘭が城壁を上ってきているところだった。

 

秋蘭「このように多くの兵は珍しいか?」

 

真「そういうわけではないさ。元々俺は部隊を率いていた人間だ。雷皇以外ににも部隊があって実質的にその天皇直属軍2000は俺が率いていたんだ。このくらいで驚きはしないさ」

 

春蘭「ではなにを見ていたんだ?」

 

真「予想以上に兵たちがいい動きをしているんでな」

 

春蘭「当たり前だ!! 我らが鍛えたのだぞ。そこらの雑兵と一緒にするな!!」

 

真「そうだな」

 

 自信満々に言う春蘭を見て相変わらずだなと笑う真。

 

華琳「・・・・何を無駄話をしているの、3人とも」

 

 振り向いてみるとそこには華琳と明雪が立っていた。

 

真「なかなか良く調練された兵だなという話をしていたところだ」

 

明雪「真。糧食の最終点検の帳簿を取りに行くよう頼んでおいたはずよ。まだとってきていないの?」

 

真「行こうとしたときに2人に話しかけられたんでな。行きそびれた。今から行ってこよう」

 

明雪「春蘭もだ。兵と装備の最終確認は済んだの? 報告がまだよ」

 

春蘭「は・・・はいっ。全て滞りなく済んでおります」

 

華琳「そう。ならいいわ。真、帳簿を急いで持ってきて頂戴」

 

真「了解だ。行ってくる」

 

 真はそういうと軽く城壁から飛び降りる。難なく着地すると着地したところにいた兵に驚かせてすまないと軽く謝りそのまま走って行った。

 

華琳「兵たちとも打ち解けたようね」

 

秋蘭「はい。もともとかなり気さくな男ですし部隊を率いていたくらいですから人付き合いは得意でしょう」

 

 春蘭との一件以来、兵たちは真を完全に恐れてしまい距離を置かれていた。しかし真は持ち前の気さくさであっさりと打ち解け、今では恐れられるどころか慕われるようにまでなっていた。

 

華琳「これなら例の件、問題なく任せられそうね」

 

明雪「そうね。真なら大丈夫でしょう」

 

 一方真はそんなことを知る由もなく帳簿を受け取るため糧食保管庫までやってきていた。こちらでも輜重隊の兵たちが慌ただしく準備に追われている。真はそのうちの一人を呼びとめた。

 

真「おい、ちょっといいか」

 

兵「なんだ、忙し・・・い・・・・・・・・・」

 

 振り向いて声の主を確認した瞬間、兵は固まった。彫刻のようになってしまっている。

 

真「お~い、大丈夫か~?」

 

兵「み、みみ、みみみ、み、み、御堂様っ!! い、い、いいいい、い、いかがなさいましたか!?」

 

 直立不動で問う兵。顔面蒼白でガタガタと震えている。今にも気を失いそうだ。

 

真「別に気にしてないから落ち着け」

 

 苦笑しながら肩をたたいてやると兵は安心し少し落ち着いたようだった。

 

真「華琳に頼まれて糧食の最終確認の帳簿をもらいに来たんだが、責任者はどこにいる? ついでにその責任者の特徴を教えてほしいんだが」

 

兵「はっ! おそらく保管庫内におられるかと思います。特徴は猫の耳のような頭巾をかぶっていらっしゃいますのですぐわかるかと」

 

真「・・・・・は?」

 

兵「で、ですから保管庫内に「そこじゃなくその先だ」へ?猫の耳のような頭巾をかぶってらっしゃいます、というとことですか?」

 

真「そうそれだ。・・・・・・ホントに、猫耳なのか?」

 

兵「? はい」

 

真「そ、そうか。わかった、呼び止めて悪かったな」

 

 真は兵に礼を言うと保管庫に向かって歩きはじめた。

 

真(しかし、猫耳とは。いつの時代にも猫耳ってあるんだな)

 

 と考えているうちに保管庫の前までやってきていた。入ってみると・・・・。

 

真「・・・・・・」

 

 テキパキと指示を出す猫耳少女がいた。呆然と真が立ちつくしているとそれに気がついた猫耳少女がつかつかと歩み寄ってきた。

 

猫耳少女「誰よあんた、何か用?」

 

真「華琳の命で糧食の最終確認の帳簿を受け取りにきた。君が責任者でいいのか?」

 

 華琳の名を聞いた瞬間目つきが急に鋭くなる猫耳少女。

 

猫耳少女「なんであんたなんかが曹操様の真名を呼んでんのよ!! あんたいったい何者よ!?」

 

真「俺は御堂。曹孟徳のもとで客将をしている。真名は華琳本人から呼ぶことを許されている

。それよりも帳簿をもらおうか」

 

 悔しそうな顔をしながら帳簿を差し出す。真はそれを受け取り中を確認する。中をすべて読み終えた真は眉をひそめ猫耳少女に確認した。

 

真「貴様は曹孟徳に喧嘩を売るつもりか?」

 

 真の問いに対し少女は何も答えない。

 

真「確認しておく。本当にこれでいいんだな」

 

猫耳少女「はい」

 

 鋭い視線を向けながら確認する真。少女はそれに臆するどころか不敵に笑いながらはっきりと肯定した。

 

真「・・・・名を、聞いておこうか?」

 

「・・・・荀彧」

 

真(なるほど。こいつが王佐の才、か)

 

真「どうせ後で呼び出されることになるだろう。一緒に来い。貴様の手腕、見せてもらう、荀文若」

 

「!! ・・・・・そうか、あんたが天の」

 

真「そうとも呼ばれているな」

 

 真は荀彧を連れて華琳たちのところに戻った。

 行軍する軍の中真は馬の背にゆられながら風景を楽しんでいた。もともとの予定の半分の期間での行軍のため通常より少しぺースは早い。

 

秋蘭「本当に御堂は何でもできるな」

 

 みごとに馬を乗りこなす真に感心する秋蘭。

 

真「秋蘭か。先代の天皇陛下のご趣味でな。よく一緒に走りに行っていた。任務の最中にも臨時の移動手段として現地調達で使ったこともある」

 

秋蘭「なるほどな。活動的な方だったんだな」

 

 すると顔が少し暗くなる真。

 

秋蘭「どうした?」

 

真「陛下は・・・・活動的というより、逃亡癖があったんだ」

 

秋蘭「と、逃亡癖?」

 

真「陛下は前に話した通り一般の民から天皇になった方だ。元々自由奔放な方だったしかたっ苦しいしきたりがとことんお嫌いであられた。そんなとき俺をだしに抜け出しては馬で駆け回っていた」

 

秋蘭「・・・それで政治は大丈夫なのか?」

 

真「そういう点を除けば雷帝の帝の再来といわれるほどの政治手腕と行動力を持った方だったからな。病で早くに亡くなられたがそれでも歴代の天皇が在位期間すべてをかけてできなかったようなことをいくつも成し遂げた」

 

秋蘭「すごい方だったんだな」

 

真「ああ。俺の尊敬する方の1人だ。あの方から政治や馬の乗り方など色々なことを学んだ。だが、そこは問題ない。問題なのはその知能は普段、悪知恵にしか使われないんだ・・・・」

 

 声のトーンが一気に落ちる。

 

真「・・・・あの方はサボりの責任を全て俺に押し付けた。・・・・さらに俺が政治のノウハウを身につけると、職務を俺に押し付けるようになった。俺はそのころ雷皇に入隊していたから天皇の命令は絶対だ。陛下の代わりによく怒られていたよ・・・・・」

 

 真の表情は影を帯び、まるで悪夢を思い出しているようだった。

 

真「・・・・・はぁ。まあそのころの苦労は今役立っているからいいんだけどな」

 

秋蘭「それにしても・・・・」

 

 前方に視線を向ける秋蘭。そこには荀彧こと桂花がいた。報告書を届けた後、案の定華琳は桂花を呼び出した。糧食が予定の半分しかなかったのだから同然だろう。問い詰めたところ自分の能力を示し軍師として登用してほしいと頼み出たのだ。華琳は自分を試した度胸と知謀が気に入ったようで今回の討伐行を成功させることを条件に軍師として迎え入れたのであった。

 

秋蘭「無茶をするものだ」

 

真「確かにな。だが、あの度胸と知略、確かに大したものだ。おそらくかなり前から周到に準備を進めていたのだろう(流石は王佐の才と言ったところか)」

 

秋蘭「うむ・・・・・・」

 

桂花「何を話してんのよ」

 

真「お前が無茶なことをするものだと秋蘭と話していたところだ、桂花」

 

桂花「な・・・っ! アンタ、何でっ!」

 

真「華琳の話を聞いていなかったのか? 俺や秋蘭達はお前のことを真名で呼ぶと」

 

桂花「聞いたけど覚える気にもならなかったわっ!」

 

 何だそれはと肩をすくめる真。隣の秋蘭もあきれた様子だ。

 

桂花「だいたい、なんでアンタなんかに私の神聖な真名を犯されなきゃならないのよっ!!」

 

真「文句があるなら華琳に言ってくれ。俺は華琳に忠誠を誓っているわけではないが客将として配下にいる以上よっぽどのことがない限り命令には従わねばならないんでな」

 

桂花「くっ!」

 

秋蘭「華琳様の命だ。諦めて受け入れるのだな」

 

桂花「・・・・・・ふんっ」

 

 怒って行ってしまう桂花。2人がやれやれと思っていると明雪がやってきた。

 

明雪「さっき桂花とすれ違ったんだけど、だいぶ機嫌が悪かったのよ。何かあったの?」

 

真「真名を呼んだら怒られてな。あまりにうるさいんで文句があるなら華琳に言えっていい返したらどっかに行っちまった」

 

明雪「ウチの正式な軍師になるかもしれないんだから仲良くしてよ」

 

真「善処するさ」

 

明雪「真は桂花のことをどう見る」

 

 真は少し考えてからこう答えた。

 

真「実際能力は高いだろう。今までの行軍歴、討伐能力、兵の練度、率いる将の能力。これらから分析すれば今回の作戦は十分に可能だ。それに糧食もある程度余裕を持たせてあるようだしな。よほどのことが起きない限り今回の討伐は成功するだろう」

 

明雪「以外と認めてるのね、桂花のこと」

 

真「能力のある奴を認めないほど俺は愚かではないさ」

 

秋蘭「それよりも明雪様、何かあったのですか?」

 

明雪「そうだった。どうやらこの先に所属不明の集団がいるらしいわ。華琳が呼んでいるから一緒に来て」

 

 3人は華琳たちのもとに向かった。

 

秋蘭「遅くなりました」

 

華琳「ちょうど偵察が返ってきたところよ。報告を」

 

兵「はっ!」

 

 報告によるとこの先で数十人ほどの集団が確認された。旗がないため所属は不明。しかし全員が武装し、格好はまちまちのため野盗か山賊ではないかとのことだった。状況からして目的の賊の一味である可能性は高かった。

 

華琳「様子を見るべきかしら? どう、桂花」

 

桂花「はっ。もう一度偵察隊を出して様子を見ます。曹仁様、指揮をお願いします。御堂はその補佐を」

 

明雪「わかった」

 

真「承知した。敵がこちらに気がついた場合はどうする?」

 

桂花「極力戦闘は避けて。もしもの時は曹仁様に判断をお任せします」

 

明雪「了解した。じゃあ行くわよ真」

 

 本隊から離れて先行する真と明雪。真は正式な配下を持たないため明雪の直属部隊が一緒に行動していた。

 

真「もうそろそろ報告にあった地点だな」

 

明雪「そうね。全軍警戒を厳に! 真、何か見える?」

 

 真は目に氣を集中させて視力を強化し前方の様子を探っていた。

 

真「いた。行軍しているわけではなさそうだ。一か所に集まっていったい何を・・・・・!! まずいっ!」

 

明雪「どうしたっ!」

 

真「奴ら一人を囲んで襲っているぞ!・・・・何だ?」

 

 真が視線を上に向ける。明雪や兵たちも同じ方を見るとそこには大きな砂袋のようなものが宙を舞っている。よく目を凝らしてみるとその砂袋からは何本か棒のようなものが生えていた。

 

明雪「・・・・・人か、あれは」

 

真「俺以外にもあんなことができる奴がいるんだな」

 

 真が爆弾発言をしていたが明雪はそれを無視して指示を出す。

 

明雪「真、頼める?」

 

真「了解、先行する。わざと何人か見逃すから追跡部隊を編成して追わせてくれ。うまくいけば奴らの本拠地が見つかるかもしれん」

 

明雪「わかったわ。頼むわね」

 

 真は頷くと、馬を下りて足に俊氣をためていく。そして一気にトップスピードまで加速して人間では到底ありえない速度で走って行った。

 

明雪「相変わらずとんでもないな」

 

 化物じみた速さで走っていく真を見送りながら明雪は部下たちに指示を出していくのだった。

 

少女「でえええええいっ!」

 

野盗A「ぐはっ」

 

少女「どおおりゃああっ!」

 

野盗B「がは・・・っ!」

 

 少女は鎖の先に大きなトゲ付きの鉄球のついた武器を豪快に振り回しながら野盗たちを薙ぎ払っていく。しかしあまりに多勢に無勢。少女の顔には疲労の色が見えていた。

 

野盗X「テメェら、たった一人のガキ相手にいったいいつまでやってるつもりだっ! 数を生かして一気に潰しちまえ!!」

 

少女「数が・・・・多すぎるよ・・・・。はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・、もう・・・・限界・・・・」

 

 疲れたすきに攻撃を仕掛ける野盗。少女はもう駄目だと目をつむる。少女はこのまま自分は殺されるんだと思った。だがいつまでたっても何も起こらない。それに少女の後ろで野盗らしき男たちの悲鳴と何かが倒れるようなドサッという音が聞こえてきた。

恐る恐る目をあけると、剣を振り上げた状態で戟を突き付けられ顔が真っ青な野盗が立ちつくしていた。その後ろにいる数名の野盗たちも同じように顔を青くして呆然と立ち尽くす。少女が自分の頭の上にある戟の先を目で追っていくと黒衣を纏い鋭い眼で野盗たちを睨む黒髪の青年が立っていた。しかし少女を包囲していたはずの野盗たちはどうなったのか? 気になって青年の後ろを見ると・・・・。

 

少女「!!」

 

 切り裂かれ地に横たわる数十人の野盗たち。青年の戟に血がついていることから彼がやったのは間違いない。しかし少女には信じられなかった。少女が目をつむる前、彼は確かにいなかった。いつの間にあれほどの人数を倒したのか、それをやってのけたこの青年は何者なのか、少女には皆目見当がつかなかった。

 戟を持った青年こと真は野盗たちを睨みつけながらドスの利いた低い声で言った。

 

真「失せろ。さもなくば・・・・・斬る」

 

 野盗たちは悲鳴を上げながら我先にと逃げて行った。真は戟を振ってこびり付いた血を掃うと少女に手を差し伸べた。

 

真「無事か?」

 

少女「は、はいっ」

 

真「無茶をする。俺が間に合わなければ死んでいたぞ」

 

 真が事情を聞こうとしたところに遅れて明雪が部下たちと追いついてきた。

 

明雪「真、無事か?」

 

真「問題ない。少女も無事だ」

 

明雪「そう。それにしてもすごい切れ味ね、その戟は」

 

 野盗たちの死体を見ながら言う明雪。刀身は晴れ渡る空のような蒼。光をまったく反射しない黒い柄も鉄製で総重量は十貫(約40キロ)とかなり重いこの戟は、真が旅の武器商人が作ったはいいが重すぎて誰も扱えないので困っているというので譲り受けたのだった。

 

真「ああ。思ったよりも使い勝手がいいよ、この蒼天は」

 

 かなりの人数を斬ったにもかかわらず蒼天は刃こぼれ一つなく新品同様に輝いていた。

 

真「追跡部隊は?」

 

明雪「現在追跡中よ。本拠地を見つけ次第連絡してくるわ」

 

真「ならいったん華琳たちの合流しよう」

 

少女「あ、あの・・・・・」

 

 少女が遠慮がちに声をかける。

 

真「どうした少女よ?」

 

少女「ありがとうございます! おかげで助かりました!」

 

真「どうしてこんなところで一人で戦っていたんだ?」

 

少女「それは・・・・っ!」

 

 その時ちょうど華琳率いる本隊が追い付いてきた。たなびく牙門旗を見た瞬間少女の雰囲気が変わる。

 

華琳「真、戦闘があったと報告があったけど謎の集団とやらはどうしたの?」

 

真「どうやら件の賊のようだ。この少女が戦っていたところを加勢した。何人か逃がして追跡させているから本拠地もじきにわかるだろう」

 

華琳「あら。気がきくじゃない」

 

真「実際に指示を出したのは明雪さ。俺は賊を斬っただけだ」

 

少女「兄ちゃん、兄ちゃんはもしかして国の軍隊、なの?」

 

 さっきまでと明らかに苦く声色に不信感を抱きながら真は答える。

 

真「一応な・・・・・・っ!」

 

 少女が豪快に振り回した鉄球が華琳に迫る。真はすぐさまその間に割って入り腕に剛氣をこめて鉄球を受け止める。

 

真「・・・・・どういうつもりだ?」

 

少女「うるさいっ! 税金ばかり取ってボク達を守ってもくれないくせにっ! 信用なんてできるもんかっ!」

 

 再びうなりを上げて飛来する鉄球。真は力をうまく受け流しながら攻撃を防ぐ。

 

真「それが戦っていた理由か」

 

少女「そうだよっ! ボクが村で一番強いから、ボクがみんなを守らなきゃいけないんだっ! 盗人からも、おまえたち・・・役人からもっ!!」

 

 どうやらこの一帯の役人は責務を忘れ私腹を肥やすような輩のようだ。そしてこの少女は華琳をその役人と勘違いしているようだった。

 

真「落ち着け! 剣を引け、君は誤解しているっ!」

 

少女「うるさいっ! 役人は早く出ていけっ!」

 

 聞く耳を持とうとしない少女。真が仕方なく反撃しようとする直前、華琳の覇気に満ちた声が響いた。

 

華琳「双方剣を引けっ!」

 

少女「!!」

 

 驚いて動きを止める少女。真は武器をかまえたまま少女の様子を窺う。

 

華琳「そこの娘も真も! 剣を引きなさい!」

 

少女「は、はいっ!」

 

 少女が武器を下ろすドンという鈍い音が鳴り地面が陥没する。真はそれを確認してゆっくりと構えを解いた。

 

華琳「あなた、名は?」

 

少女「き・・・・・許緒と言います」

 

 許緒と名乗った少女は完全に気圧されながら答えた。この後華琳は思いもよらない行動に出た。

 

華琳「許緒、ごめんなさい」

 

許緒「えっ・・・・あ、あの・・・・」

 

春蘭「何と」

 

桂花「曹操、さま?」

 

 驚く春蘭、桂花、許緒。兵達にも動揺が走る。覇王と言われる自分たちの主がまさか頭を下げるとは思わなかったからだ。真、秋蘭、明雪の3人は静かに華琳を見ている。

 

華琳「名乗るのが遅れたわね。私の名は曹操、山向こうの陳留という街を治めている者よ」

 

許緒「陳、留・・・・・? あ・・・・それじゃあっ! ご、ごめんなさい!」

 

 必死に謝る許緒。やはり勘違いをしていたようだった。華琳は起こった様子もなく、むしろ申し訳なさそうに許緒に言った。

 

華琳「構わないわ。この国がいかに腐敗しているかは、刺史たる私が一番よく知っているもの。あなたが官と聞いて憤るのも無理ないわ」

 

許緒「で、でも・・・・・」

 

華琳「だからあなたのその力、この曹孟徳に貸してはくれないかしら?」

 

許緒「え、ボクの・・・・力を・・・・」

 

華琳「ええ。私はいずれこの大陸を統べる王となる。その悲願を成就するのに今の私の力はあまりに少ない。だから大切なものを守るというあなたの勇気と力。この私に貸して欲しいの」

 

許緒「曹操さまがこの大陸の王に・・・・・」

 

華琳「そうよ」

 

許緒「もし・・・・もし曹操さまが王様になったら、ボクの村を守ってくれますか? 盗賊みたいなのが出ない世の中になりますか?」

 

華琳「当然よ。陳留やあなたの村だけじゃなく、この大陸すべてを平和で民が安心して暮らせるようにするために私は王になるの」

 

許緒「大陸が、平和に・・・・・・」

 

 その時伝令がはしってきて賊の本拠地が発見されたと告げた。

 

華琳「まずは、あなたたちの村を襲う賊を根絶やしにするわ。まずはそこだけでいい、あなたの力を貸してくれる?」

 

許緒「はい! そのくらいならいくらでも!」

 

 ひとまず許緒は春蘭と秋蘭の下に付けられることになった。真が出発しようと馬に乗ろうとすると許緒が駆け寄ってきた。

 

許緒「あの、兄ちゃん・・・・・さっきはごめんなさいっ!」

 

真「気にするな。誰にでも間違いはあるし、こんな時代なら君の怒りも当然だ」

 

許緒「で、でも・・・・」

 

真「華琳、曹操も言っただろう。君は悪くないと。もし本当に申し訳ないと思うなら今回の賊討伐で自分の役割をしっかり果たせ」

 

 そう言って許緒の頭を優しくなでる真。許緒は気持ちよさそうに目を細めた。許緒はまだ真の正体を知らない。

 いかがだったでしょうか?

 

 次回は賊討伐後編と個人ルートを書こうかと思っています。リクエストがありましたらどんどん送ってくださいね。

 次回は本格的な戦闘シーンも書こうと思っています。こちらもどこまで書けるか不安ではありますが頑張りたいと思います。

 

 では次回5話でまたお会い致しましょう。


 
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