No.971379

紫閃の軌跡

kelvinさん

外伝~クロスベル電撃解放作戦~

2018-10-24 00:39:46 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2175   閲覧ユーザー数:2022

~クロスベル自治州南西部 星見の塔~

 

 星見の塔の頂上。そこにいるのは結社最強と謳われる第七柱<鋼の聖女>アリアンロード。何かを思いつめたかのように佇む彼女だが、気配を感じて振り向く。そして、身に着けていた兜を外して対面するのは、一人の青年であった。

 

「まさか、お一人で来るとは思ってもいませんでした。<守護騎士>第三位“京紫の瞬光”アスベル・フォストレイト。彼女らはどうしました?」

 

「ロイド達特務支援課の面々が引き付けてくれた。個人的にリベンジも入っているのだと思うが……ルドガーじゃなくて済まなかったな」

 

「いえ、寧ろ安心しました。下手に手心を加えられると武人として恥ずかしいもので……対面するのは『影の国』以来でしょうね」

 

 その言葉にアスベルも視線を鋭くする。少なかれ『影の国』の記憶が残っていることはカシウスから聞き及んでいたが、彼女もその記憶を持っていたことに驚きであった。

 

「あの時は完全な解放とは呼べるべくもないもの。ですが、これもまた試練なのでしょう。此度は全力でお相手いたします」

 

 アリアンロードはそう呟いて自らの得物である突撃槍を構える。それを見たアスベルもまた太刀を抜いて構えた。

 

「―――先ほど言ったことは否定しませんが、私も貴方が相手でよかったと思っています」

 

「ほう?」

 

 このまま燻ってなどいられない。更なる高みを目指すため、自らを律した『枷』を取り外す。そのために、結社最強格の彼女との戦いをアスベルは選んだ。

 

「今持てるものを束ねて先へ往く。そのために、今ここで貴女を超えます。八葉一刀流筆頭継承者、アスベル・フォストレイト。いざ、参ります」

 

「宜しい。使徒第七柱<鋼>アリアンロード。全力でお相手いたしましょう!」

 

 双方共に膨れ上がる莫大な闘気。アスベルは躊躇うことなく『神衣無縫』を発動させる。その闘気の波動は入り口前で戦っているロイド達にもハッキリと感じ取れた。

 

「っ!? これは……」

 

「マスターの闘気……それに匹敵している……」

 

「オイオイ、マジかよ。アスベルの奴、とうに親父や叔父貴すら相手にならねえぞ、これだと」

 

「寧ろ、この場にいる私たちが合従しても厳しいかと」

 

 そして、その闘気が消えたと同時に凄まじい突風が吹き荒れる。

 

「のうっ!? ……うぐぅ、ますたぁ……」

 

 その影響で飛んできた岩がデュバリィに直撃して、気絶した。これにはロイド達だけでなく、残ったアイネスやエンネアも困ってしまった。何せ、それを皮切りに次々と岩や木々が飛んできたのだ。屋上にいる彼らは本気で戦っているだけなのだが、そのせいで自然災害に見舞われていた。

 

「ちょっと、これは不味くない!?」

 

「そうだな……一時休戦としよう。というか、マスターを止めなければ我々も危険だ」

 

「ロイド、どうするの?」

 

「……休戦にしましょう。というか、貴方たちの協力がないと中に入れなさそうですから」

 

 ある意味なす術もない状況に陥っている中、アスベルとアリアンロードの戦いは序盤から熾烈を極めていた。

 

「アルティウム、セイバー!!」

 

「六の型“蛟竜”参式―――<九頭竜>!」

 

 リーチでは完全にアリアンロードに分がある。だが、技の威力はほぼ互角。これが本気のアリアンロードとなると、このままでは完全にジリ貧だと内心舌打ちした。

 二人は互いに距離を取る。そして、アリアンロードは笑みを零した。

 

「<剣帝>は守るべきものを得て、更なる高みへと昇っている。<絶槍>やルドガーも然り。貴方もその一人なのでしょう。実に嬉しいことです。ですが、悠長に構えてはいられません」

 

 彼女は闘気を高めて二人の周囲に竜巻を発生させる。もはや鐘のことをあまり考えていないような有様にアスベルの視線はアリアンロードを捉え続けていた。

 

「我が全力の神技、貴方に止められますか?」

 

 この状況を打破するには、彼女の最強の技『神技グランドクロス』を真正面から打ち破るしかない。だが、太刀と槍ではリーチ差が生じる……そこへ来て、アスベルは握った右拳を自らの額に強く打ち付けた。

 

(自分で自分を殴った……? この状況で?)

 

「ふぅ……さんざん固執しないとか言っておいて、いざとなったらこの様だ。まったく自分が情けない」

 

「一体何を……」

 

「ああ、それについては言葉よりも実感してもらったほうが早いだろうな。―――『我が深淵にて煌めく紫碧の刻印よ』」

 

 アスベルの背後に発現したのは『聖痕』。そして、それだけではない変化をアリアンロードは感じた。その証拠に、彼の持つ太刀を覆うように高密度の霊力の刃が顕現していた。その長さで言えば、もはや大太刀と言っても差支えないほどのリーチ。

 

「行くぞ<鋼の聖女>。我が一太刀を以て、汝の神技を打ち破らん」

 

「いいでしょう。神技―――グランドクロス!!」

 

 そして、八葉一刀流では使うことのなかった『神速』を発動。今まで学んできた『八葉一刀流』と前世で学んできた『御神理心流』の二つを『聖痕』で一つに束ねて渾身の一撃を放つ。

 

「八葉一刀……御神理心……二つの理、ここに表裏一体となりて我が刃と為せ」

 

 森羅万象すべての先にある極地。全ての刀の理を超えし先にある境地。二つの世界の果てを見たアスベルが放つ渾身の技。それは最早人を超え、神の領域へと足を踏み入れる技。

 

 

─────八葉一刀流。零の太刀、八心(はっしん)

 

 

 その技とアリアンロードの『グランドクロス』がぶつかりあい、竜巻が消えると……アリアンロードは突撃槍を床に突き立て、その場で片膝をついた。アスベルは一息吐くと、全ての状態を解除して刀を納め、彼女のほうへと向き直った。

 

「フフ、お見事です。人の身でありながら神の如き技を放つ。まさに神技。そして、貴方自身も切っ掛けを掴んだようですね」

 

「一応敵なんですが……まぁ、貴方のお蔭で胸に落ちたような気分です。もう一つ先に行ける切っ掛けもいただけましたから……鐘、綺麗に吹き飛んじゃいましたが」

 

「やりすぎましたか……でも、後悔はありません」

 

 どうやら二つの技の余波で鐘が消し飛んでしまったようだ。そりゃ先ほどの技でなくともあれだけ周囲に災害を齎す様な戦いの衝撃波だ。見るからに周囲の森林も根こそぎ吹き飛んでいる様相に本気を出すことのヤバさを改めて感じてしまったアスベルだった。そして、それを証明するかのように姿を見せたロイド達の様子はというと、色々複雑というほかなかった。

 

「その、頼むからあまり本気を出さないでくれ……」

 

「えと、ごめん」

 

「確かに鐘を止めたことには変わりないのだけれど……」

 

「この場合、感謝すべきか呆れるべきかわかりませんね」

 

「まったくだ……」

 

 その間にアリアンロード達は転移して撤退したようだ。アリアンロードとリアンヌ・サンドロットの関連性に触れることはなかったが、それでも今回の戦闘は大きくプラスとなった。ちなみに、もう一つを担当したルドガーだが、カンパネルラを鐘もろとも切り刻んだらしい。それを見ていたティーダから話を聞いた。

 

「えと、アイツが『君ってやっぱロリコン』って言った瞬間、ルドガーの姿が消えてアイツから血飛沫が大量に……」

 

「……そりゃカンパネルラが悪いわ」

 

 同行していたリーゼロッテのことをからかったのだろうが、個人の嗜好は個人で決めるものだ。犯罪にならなければセーフである。というか、カンパネルラも煽っていた側の人間なのに酷い有様である。言い方を変えれば因果応報だが。

 

 第一段階、第二段階も完了して、次に挑むは第三段階。その役目は特務支援課ではなかった。

 何と神機の前にオルキスタワーの屋上へと降り立ったメンバーはというと、クロスベル帝国皇帝リューヴェンシス・スヴェンド、クロスベル帝国執政官クルル・スヴェンド、リベール王国軍中将カシウス・ブライト、七耀教会星杯騎士団<守護騎士>ライナス・レイン・エルディールにシルフィア・セルナート、クロスベル帝国軍最高司令官レヴァイス・クラウゼル、S級正遊撃士レイア・オルランドという面々。

 

「フフッ、ここに来るのが特務支援課でなく君たちとはな……それに貴殿も一緒とは。カシウス・ブライト中将殿」

 

「下手な真似はしないほうがいい。その気になれば、ガラクタにするのは簡単」

 

「私はあくまでも軍人ではなく遊撃士の協力員としてですが……教団に関わった人間として『けじめ』をつける。その為に、再び剣をこの手に取る決意を固めた」

 

「<剣聖>……ですが、それが強がりでないことを祈りますよ」

 

 ディーター・クロイス大統領は神機と同一化した。だが、その程度のことなど児戯としか言いようがなかった。ロイド達が屋上に到達したときには、神機が完膚なきまでに破壊され、片膝をついている大統領。そして、端に心臓部分が貫通して絶命した白衣姿の人物がいた。

 

「これは……って、あの人は確か……」

 

「ええ、以前ヨルグさんの工房前で見かけた人ね……」

 

「ロイドか。人質たちはどうなった?」

 

「彼らは無事です。ティオがシステムを復旧させてくれて、順次タワーの外に脱出してます」

 

「そうか……さて、覗き見とは趣味が悪いのではないか? マリアベル・クロイス」

 

『フフフ……』

 

 上空に浮かび上がる映像。そこに映し出されたのはマリアベル、アリオス、シグムント、シャーリィ、ヴァルド。マリアベルはリューヴェンシスを見て、興味深そうな視線を向けた。

 

『私の視線に気づくとは、貴方も錬金術を嗜んでいらっしゃるのかしら?』

 

「……猟兵としての勘の賜物、と言っておこう。だが、お前らの黒幕が一人足りないんじゃないのか?」

 

「黒幕?」

 

「考えてもみろ。お前の兄が殺された死因は『銃殺』。だが、ここにいる五人で拳銃を嗜んでいる可能性はあったとしても、天性の勘の塊みたいなあいつがそう不覚を取るとも思えないし……第一、ここまでの政治体制を綺麗に引ける奴なんざ銀行家には到底無理だ。政治というのは経済だけじゃないからな……そうだろう? 『イアン・グリムウッド』」

 

『……流石、アルバレアの麒麟児といったところか』

 

 そうして映し出されたイアンの姿。これにはロイド達も驚きを隠せない。だが、リューヴェンシスを初めとしたクロスベル帝国・転生組は冷静に見つめていた。

 

『いつから気づいていたのかな?』

 

「そうだな……強いて言うのであれば、二国間による暗躍がなりを潜めた頃だな。エレボニアにしろカルバードにしろそれぞれの思惑はあるのだろうが……そうなれば空白は生まれる。あまりにも不自然な空白を取り持ったのが誰かとするなら、国内外の法に精通している人間が一番動きやすい、とな」

 

 暗躍がばったり無くなるというのはあまりにも不自然。お互いに大きな損害でも受けないか……あるいは、そうすることで更なるメリットが生じない限りにおいて、暗躍が起こらない安全は不自然なものとなる。リューヴェンシスは貴族だったからこそ、そして猟兵だったからこそ、その状況の裏で何かが動いているのを。ロイド達は遊撃士協会との会話でアリオスと連絡を取っていたのは数年前だが、それ以外の繋がりはさらに以前の話だろう。

 

『まあ、深くは語るまい。君たちがどうあれ、歴史は動き出した。因果を変えることは最早叶わぬだろう』

 

 その言葉と共にミシュラム方面に立ち上る光の柱。それは青白く光る大樹の姿へと形を成す。それに視線を少し向けた後、リューヴェンシスは騎士剣を手に持ち、彼らに向けて力強く宣言する。

 

「そんな因果、誰が決めた? 命を都合の良い道具にしか見ていない貴様たちに、明日を語る資格などなし。今ここに宣言しよう―――我が名はリューヴェンシス・スヴェンド。改めてこの地よりクロスベル帝国の建国を宣言する! これが最後通告だ! 大人しくキーアを特務支援課の元へ無事に返すこと! それを飲めぬというのならば、その大樹を墓標とするがいい!!」

 

 その宣言の後、クロイス大統領は拘束されて正式建国後にその処遇が決まることとなった。そして、あの大樹にいる連中についてだがリューヴェンシスはロイド達にとある提案を出した。

 

「ええっ!?」

 

「その、よろしいのですか?」

 

「ああ。『赤い星座』は敢えて泳がせるから、処断はしない。ヴァルド・ヴァレスはまあ、ワジに個人的な感情があるから丸投げする。アリオスは一旦拘束するがあの実力を腐らせるのは得策ではないゆえ、ある程度の減免措置はしよう。尤も、マリアベル・クロイスとイアン・グリムウッドについては“極刑”の措置を取らねばならん。ディーター・クロイスに対してもな……教団の件を公表して完全解決とさせるためにも。エリィにとっては辛いかもしれないが……」

 

 教団事件はいまだ完全解決していない。その黒幕であるクロイス家の存在を公表することで安心材料を提供する。被害者に対しても一定の落としどころを作るために、クロイス家と今回の事件の首謀者であるイアン・グリムウッドは極めて重い刑が科せられる。

 

「いえ、クロスベル帝国の書記官として覚悟はしています……キーアちゃんを苦しめているのがベルならば、躊躇うつもりもありません」

 

「エリィさん……」

 

「無理はしないことだな。ロイド、恋人としてしっかりフォローしてやれよ?」

 

「真面目なのかふざけているのか判断に困りますが。その、出発は明日ですか?」

 

「いや、明後日だ。少しばかり帝国軍の再編成を済ませておきたいからな」

 

 そうしてモニターのディスプレイには現在の日程と今後のスケジュールを含めた情報が提示される。

 現在の日付は12月2日。<碧の大樹>と名付けられたあの場所への攻略決行日は12月4日となる。主要者を倒してキーアを奪還する攻略完了予定日は12月5日から6日の予定となる。

 

「しかし、ここまでかなり強行軍に近かったけれど、協力者がよく国防軍に見つからなかったね?」

 

「連絡というか対応の仕方は潜ませるまでに済ませてあったからな。あとはその状況に応じての動きをほぼパターン化してあった。クロスベル旧自治州内の混乱も数日中には沈静化できる。残るは……クロスベルの体制の再構築だな。マクダエル議長は引退を表明しているが、その後継者を早急に決める。とは言っても、もう決まっているのだが」

 

「……もしかして、アーネストさんでしょうか?」

 

「ある意味半分正解だな、ロイド。アーネストは議長秘書をやってもらう形となった」

 

「ということは、既に<グノーシス>の治療は完治したのですか?」

 

「ああ。ヨアヒム・ギュンター教授の尽力の賜物と言っておこう。彼には後々功績を称えて勲章を贈る予定だ。っと、話がそれたな。その人物だが―――」

 

『陛下、お連れいたしました』

 

「ああ、入ってもらってくれ」

 

「失礼します。これは先客が……エリィ、なのか?」

 

 部屋の中に入ってきたのは一人のスーツ姿の男性。その男性はロイド達に気付いて声を上げるが、その中にいるエリィの姿に目を見開く。自分の妻の若いころを思い出したのだろう……エリィも自分の父親の姿に、思わず駆け出して抱き着いた。

 

「お父様……!」

 

「大きくなったな、エリィ。若いころの彼女にそっくりだ」

 

「エリィのお父さん……か」

 

「フフ。あの感じだと、エリィはお母さんに似たのかな?」

 

「もうワジ君、水を差さないの」

 

 そしてお互いに落ち着くと、エリィはロイド達を紹介した。そして、男性も自己紹介をする。

 

「私はフィリップ・ランカスター……いや、フィリップ・マクダエルという。自分の夢を叶えられず、妻と娘を置き去りにしてしまった愚かな男さ」

 

「お父様……」

 

「その様子だと、マクダエル議長と折り合いはついたようだな?」

 

「ええ。正直殴られたり叱られたりするぐらいは覚悟しておりました。ですが、父は私の肩に手を置いてこう言いました」

 

『済まなかった。クロスベルという魔境に耐えうるだけの心を育ててやれなかった。許してほしい。これからは、お前がクロスベルの未来を紡いでくれ』

 

 マクダエル議長は、自身の役目と父親の役目を天秤にかけて、クロスベルをよりよくしようと足掻き続けた。その過程で家族を顧みなかったことで、幼い孫娘に迷惑をかけてしまった。自身がこれ以上政治に関わることを止めようと決心したのは、残りの人生を家族と共に過ごしたいという思いがあった。

 だからこそ、リューヴェンシス皇帝も無理強いはしなかった。フィリップもその意思を汲み取ったからこそ、マクダエル議長の願いと意志を継ぐ決意を固めた。彼が笑って残りの人生を過ごしてもらうためにも。

 

「……共和国の親族に身を寄せ、縁故でヴェルヌ社で働く日々を送っていましたが、本当にそれでよいのかと自問自答していました。そんなある時、若い遊撃士三人の仲介でリベール王国に出向くこととなりました。その折、エレボニア帝国のオリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子と面会したのです」

 

「あの皇子様とかよ!?」

 

(若い三人って……まさか)

 

(エステルさんとヨシュアさん、それにレンさんですね)

 

「依頼はアルフィン皇女殿下の家庭教師。ですが、共和国に身を置いている人間を雇うなどできないだろうと……彼はリベール王国の取り成しでZCF(ツァイス中央工房)から聖アストライア女学院への特別講師ということになりました。元々ヴェルヌ社の平社員でしたから、転職や転居に問題はありませんでしたよ。まあ、女学院の生徒たちが好奇心旺盛で、私がうっかりクロスベルの出身だと漏らしてしまって、毎日話を聞きたいと引っ張りだこでした」

 

「……ロイドさんのことを強く言わなかったのも、解る気がします」 

 

 父親がこんな性分なので、娘であるエリィの嗜好も似てしまったのだろう。娘の初恋は父親という話もあるぐらいだから、無茶苦茶というわけでもない。そんな似たような雰囲気を娘の将来の夫であるロイドから感じ取り、フィリップも『君も何かと苦労するだろうが、エリィを泣かせないでくれよ?』と言うぐらいに留めていた。

 

「まあ、それはともかく……アルフィン殿下が政治に詳しいのはお父様の教えがあったからですか」

 

「驚くのはまだ早いよ、エリィ。それを推薦したのはヘンリー・マクダエル―――父と聞いたときは、さしもの私も驚いてしまった」

 

「マクダエル議長が……」

 

「父は、情熱を完全に失ったわけではない、と理解していたのかもしれない。現状を変えるためには苦しくても今を足掻く他ない……それは、クロスベルに生まれたものとして一番理解しているつもりだ。陛下、議会議長の件について改めて引き受けさせていただきます」

 

「ああ。其方には共和国議会の混乱を収めた功績がある故、能力は十分だろう。その能力を存分に生かし、クロスベルの民にとって明るい未来を描ける地とするためにも一層の努力を期待する」

 

「はっ、一度は故郷を離れた身に再起の機会を頂き感謝しております。非才ではありますが、微力を尽くします」

 

 マクダエル議長の子息が次期議長となる。これについては問題なく進むだろう。ふと、ここでロイドは気になることを尋ねた。

 

「陛下。そうなるとクロスベル帝国の治安機構は一体どうなるのですか?」

 

「確か、リベール王国では王国軍が警察機構も担っていますし、旧カルバードやエレボニアも軍や憲兵隊が担っていますが……」

 

「……ロイドには以前話したが、クロスベル警察はクロスベル帝国軍:クロスベル地方軍警察と名称が変わる。業務内容自体は変わらないが、特務支援課だけは話が別だ。特務支援課は俺の、皇帝直属機関となる」

 

「直属ってことは……ある意味貴族ってことですか!?」

 

「ああ、ランディの弟貴族が言葉通りになるな。特務支援課の設立理念は俺もよく知っている。だからこそ、解散させるのは惜しいと考え、各方面に了解は取り付けた。この先待ち受けているであろう激動の時代という『壁』を乗り越えるためにも。一応ロイド、エリィ、ティオ、ランディの4人は了解してもらっているが、新参組は特に制限を設けない」

 

 設立当初の4人はリューヴェンシスの意図を聞いて了承している。ティオはフュリッセラ技術工房のこともあるのだが、そちらの人事も刷新してティオをフュリッセラ技術工房からの出向者としてクロスベル帝国で勤務する。これはクロスベル帝国とレミフェリア公国の交渉の糸口としての意味合いを含んでいる。それに、レヴァイス・クラウゼルは教団事件以前からアルバート・フォン・バルトロメウス大公と親交があり、その縁で実現したところもある。

 

「なら……ティーダ・スタンフィールド、特務支援課への配属を希望します」

 

「リーシャ・マオ、同じく特務支援課を希望します。ただ、私の場合は『アルカンシェル』が優先となりますが」

 

「それで構わない。フフ、一番の理由はティーダがいるからか?」

 

「えと……まあ、否定はしません」

 

「ハハ。ティーダってば、思いっきり口説き文句だったからな」

 

「それをロイドに言われたくないんだが……」

 

 ウルスラ病院を出たところでティーダと遭遇し、そのまま合流。次に向かった太陽の砦にて『赤い星座』に襲撃されたロイド達。その危機を救ったのはレヴァイスをリーシャであった。レヴァイスに雇われる形でクロスベルに留まっていたリーシャに、彼女の同行を申し出たのはティーダだった。彼はウルスラ病院でイリアの見舞いをしていた際、リーシャのことを頼まれていた。

 

『イリアさんに頼まれていたというのもある。けれど、このまま放っておけばふらりと居なくなりそうなリーシャをほっとけるほど、俺は薄情者じゃない。いや……率直に言うなら、俺の傍にリーシャがいてほしいんだ』

 

『………ふえっ!?』

 

 今まで男性から好奇な目で見られることは多かったのだが、話しかけてくる男性は劇団員ぐらいだった。それ以外だといつもイリアが傍にいたため、近寄ってくる男性は皆無であった。ある意味男性の免疫がないリーシャにティーダのその言葉は理解するのに時間を要したほど狼狽えてしまった。そして、ロイドから仕込まれたようなティーダの言葉に対し、リーシャの答えはこうなった。

 

『えと……不束者ですが、宜しくお願いいたします』

 

 ティーダ自身、仲間としていてほしいと思ったことには違いなかった。その中に若干の恋心が含まれていたことも否定はしない。リーシャはその言葉を述べた後に、ティーダに身を寄せた。ベタベタな恋愛展開を見て、自分の兄と姉のような人物もこんな感じだったのかなと思いを馳せるロイドであった。

 

 その一件で二人の仲は縮まり、リーシャも年相応の表情を見せることが多くなった。戦闘連携では互いにトリッキーなスタイルなため、ロイド達も苦戦を強いるほどの強さを持っている。実力を見たいと組まれたエステル、ヨシュアとの戦いでも拮抗した戦いを見せていた。その戦いはエステル達が経験の差で勝利を収めた。

 

「それを言うなら、ロイドだってベルガード門でノエルと戦ったとき『お前が欲しい』って……しかもエリィやティオのいる前で言うか?」

 

「ちょっ、ティーダ! それを蒸し返さないでくれ!」

 

「アハハ……ノエル・シーカー、特務支援課への配属を希望します。妹のフランからは既に聞いていると思いますが……」

 

「姉妹揃って弟貴族に墜ちるとはな。施行するクロスベル帝国法では一夫多妻を認めてるが、第一夫人のエリィは苦労しそうだな」

 

「でしたら煽るのを止めてほしいのですが……特に第三夫人に」

 

「いいじゃない、エリザベス嬢」

 

「というか、誰ですか」

 

 ロイドの序列はエリィ、ティオ、ルヴィアゼリッタ、ノエル、フランというのが現状の序列。リューヴェンシスの見立てでは、ここにキーアとシズクも入ると思っている。ロイド本人は至って親としてのつもりだろうが、エリィとティオは少なからずキーアの感情に気付いているのだろうと。シズクに関してはロイドが父の親友の弟であり、何かしら引け目を感じている。そこにロイドが声をかけた段階で確実に墜ちると踏んでいる。

 

 ここまで来るとランディは嫉妬するのだろうが、その当人に恋心を抱いている人間がいることは周囲からすればバレバレである。ランディも何かしら気にかけていることもロイドですら気付いているほどに。

 

 

少々長めになりました。

アスベルの強化フラグですが、まさか原作のほうでやられるとは思ってもみませんでしたが、こうなったらやってしまえということで踏み切りました。これで『試し』への道筋も一応整えました。

 

エリィの父親ということで登場。以前オリビエが話していたアルフィンの家庭教師が彼です。原作では多分名前は出てなかったはず……見逃していたら御免なさいです。というか、エリィとあの人が類縁というのは驚きましたがw

 

そして、書ききれなかった面子もまだまだいるので、そこら辺は追々やっていきます。


 
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