No.96841

恋姫無双 袁術ルート 第二十七話 曹操軍の軍略

こんばんわ、ファンネルです。

結構日が経ってしまいましたが、二十七話です。

この話で虎牢関編は終わりです。

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2009-09-22 23:31:09 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:25238   閲覧ユーザー数:18307

第二十七話  曹操軍の軍略

 

 

一刀たちが籠城してすでに二週間ほどたった。万事が上手くいっている。このまま何事もなく一か月間耐える事が出来ると誰もが思っていた。

 

「よし、あと二週間をもたせる事が出来れば俺たちの勝ちだ。」

 

一刀たちは少し油断していた。だが油断するのも分かる。なぜなら今のこの虎牢関は鉄壁だ。いかに敵が多く、強大であってもこちらには恋がいる。恋の武は敵を震え上がらせ、味方の士気を上昇させる。それほどの存在なのだ。恋は。

 

「さてと………それでは恋殿。そろそろ準備をお願いするです。」

 

ねねは駄目押しとして恋を出そうとしている。恋もまたねねの言われたとおり出撃の準備をしていた。

 

「なあ、ねね。」

「なんですか?チ●コ。」

 

ねねの考えは分かるが、一刀はこれ以上、恋に危険な真似をさせたくなかった。

 

「もう恋を出さなくても十分なんじゃないかな?敵はもうビビッて向かってくる様子なんてないしさ……」

「う~ん…………チ●コの言うことも一理あるです。いかがなさいますか?恋殿。」

 

ねねは恋に答申を求めた。

 

「…………恋は大丈夫。」

 

だが帰ってきたのはあまりにも普通な答えだった。恋が大丈夫と言うのなら大丈夫なんだろうが、危険なことには変わりない。いつも何事もなかったかのように帰還しているが今度も無事に帰還できるかどうかなんて保障はどこにもないのだから。

 

「でもさ……」

「………大丈夫。恋は無敵。」

「///!!」

 

恋は一刀に微笑みかけた。不覚にも一刀はこの恋に対して少しばかりかわいいなどと思ってしまっていた。

 

「こらチ●コ!そんなに恋殿を見つめるなです!恋殿が穢れるです!」

「わ、分かったよ!そんなに怒鳴るなよ。」

「………クス。」

 

ねねは相変わらず一刀に対してちょっかいを出す。そんな一刀たちのやり取りを見ていて恋はまた笑ってくれた。一刀もねねも恋の笑顔を見る事が出来たので争いをやめた。そんなこんな事をしているうちに時間がたってしまった。

 

「では、この出撃を最後に恋殿には虎牢関の守りを重視してもらうです。チ●コもそれでいいですな?」

「うん。それでいいよ。」

「…………恋、頑張る。」

「ああ、がんばれ恋。」

「………コク。」

 

結局、恋は出撃することになった。だが、本人もやる気満点だ。今の恋に勝てる奴など大陸中探してもいないだろう。こうして、恋は自信満々に出撃していった。一刀たちの何の疑問もなく恋を見送っていた。

 

 

連合、曹操軍side

 

 

「華琳様!呂布が城門から姿を現しました!」

 

「………そう。ならば手筈通りにいくわよ!」

 

「御意!撤退!撤退しろ!」

 

「ふふふ。追ってきなさい、呂布。」

 

 

虎牢関side

 

 

恋が出た瞬間、敵が敗走していった。当然ながら恋は兵士たちを追いかけていった。

 

「ふはははは!チ●コ!あれを見るです!恋殿が姿を現した途端に敵が敗走していきましたぞ!」

「………え?あ、ああ。さすが恋だな。」

 

一刀は何か歯切れの悪い返事を返した。ねねは何か一刀を不審に思った。

 

「どうしたのですか?随分と歯切れの悪い返事を返して……。」

「いや、何か違和感のようなものがあってな。」

「違和感ですか?」

「ああ。気のせいだと思うんだけど………」

 

一刀は敵の撤退に関して何か違和感のようなものを感じていた。なぜ、こうも簡単に敵は敗走していったんだ?それにあの逃げ方は何かおかしい。恐怖から逃げるような走り方じゃない。何かこう………わざと逃げているようにも見える。一刀は自分の感じた違和感をねねに話した。

 

「ではチ●コは、あの敗走は敵の策略だというのですか!?」

「そうは言っていないけど………なんかいやな予感がするんだ。」

 

ねねは考えてみた。確かに一刀の言うことには一理あるのではないか?あまりにも敵の撤退が鮮やかすぎる。ここは一刀の言うとおり、恋を呼び寄せて少し様子を見るべきなのではないだろうか?

 

「伝達係!今すぐ恋殿を止めるのです!そして虎牢関に戻っていただけるよう進言するのです!」

「はっ!」

 

ねねは伝達係に命令を出して、恋に撤退を言いつけようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、一刀たちが敵の策略に気付くのは少し遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉおおお!!!!」

 

 

何と、撤退していった敵の部隊が二手に分かれ、その中央から大部隊が恋に向かって突撃を敢行してきたのだ。

 

 

一刀たちには油断があった。敵は恋を恐れて向かってこなかったんじゃない。恋が出てくるまで待っていただけなのだ。

 

「恋!」

 

一刀たちは恋が襲われる様を虎牢関から見ていた。だが、敵は恋に襲いかからず、左翼と右翼に分かれ、恋を通り過ぎて行ったのだ。

 

恋はいきなりの事で一瞬、面を食らった顔をしたがすぐさま態勢を整え、虎牢関に向かっていった部隊を止めるべく、その部隊を追いかけて行った。

 

 

その時だった。

 

 

 

 

ヒュン!!

 

 

 

 

背後から、正確無比な矢が恋を強襲したのだ。恋はその矢を寸でのところで撃ち落とした。そして矢を放った者の方を見たのだ。

 

 

「ここからは行かせぬよ。呂布!」

 

 

少し前、曹操軍side

 

 

「撤退部隊が戻ってきたら、真桜と沙和は左翼と右翼に分かれ、呂布を追い抜きなさい。その後、虎牢関の城門を破ること。いいわね?」

 

曹操は自分の部下である子たちに命令を出した。だが、命令された子たちの顔は『無理』と言わんばかりの顔であった。

 

「華琳様~。それはちょっと無理がありますわ。」

「そうなの~。沙和たちだけじゃ絶対に無理なの~!」

 

部下たちの嘆きに曹操はため息をついた。

 

「はあ……呂布の方は秋蘭たちが何とかするから、安心しなさい。それに真桜。」

「な、なんですかい?」

「あの強固な城門を破れるのはあなたのその変てこな槍くらいなものよ。」

「………変てこ……立派な名前があんのに……」

 

真桜と呼ばれた女の子はがっぐしと頭を垂らした。

 

「それに、沙和。」

「あ、はいなの!」

「あなたの鍛え上げた屈強な兵たちで、真桜を援護してやりなさい。」

「任せてくださいなの!あのビチクソ共にはちょうどいい訓練なの!」

「……き、期待しているわよ。」

 

沙和のあまりの張り切りに少し腰が引けている曹操だった。

 

「あ、あの華琳様。私は……」

 

顔に傷がある利発そうな女の子は聞いてきた。自分はいったいどうすればいいのかと。

 

「凪。あなたは秋蘭の援護に回ってもらうわ。」

「は、はい。分かりました!」

「季衣も流琉も秋蘭の援護をすること。いいわね。」

「はーい!」

「分りました!」

 

曹操は、いったん間をおいた。その傍で今か今かと曹操の言葉を待っている女の子がいる。夏候惇だ。

 

「そして、春蘭!」

「は、はい!」

 

曹操に呼ばれて、夏候惇は元気よく返事をした。いつもなら、ほのぼのとしている空気であっただろうが、この時の夏候惇の顔は真面目そのものであった。

 

「秋蘭たちが呂布を止めている間、必ずあの目障りな遊撃部隊が現れる。そこの将は……あなた一人で平気よね。」

「はい!お任せください!」

「期待しているわ。そして、もしその将が我らにとって有意義になるような存在だった場合……分かっているわね?」

「はい!分っています!」

「そう……なら結構。」

 

曹操は将たちと兵たちを纏め上げ、最後に号令をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇敢なる曹操の兵たちよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵たちに鼓舞する曹操の姿はとても凛凛しかった。そして、とても美しく気高く見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、目の前には難攻不落とうたわれる虎牢関があり、そこを守っているのは天下の飛将軍、呂布だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵たちには少し震えていた。無理もないだろう。呂布の人離れした武を間近で見てしまったのだから。それでも曹操は続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、敵は呂布だけではない!最強の騎馬隊を持つ張遼!天下に名を轟かせている軍師、陳宮!その者たちを纏め上げている北郷一刀!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵たちの震えはさらに大きくなった。それほどの人物たちが守っている虎牢関なんか落とせるのだろうかと弱気になっているのだ。だが、曹操は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが、恐れるな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵たちにそれでも恐れるなと言ったのだ。誰もが曹操の言葉を疑うだろう。だが、その場にいた兵たちは震えを止め、曹操の言葉に耳を傾けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所詮、敵は先に言った者たちの威光に従っている集団にすぎん!そんな者どもに我が誇り高き兵たちが遅れをとる事は決してない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇敢なる兵たちよ!死を恐れるな!名を惜しめ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

うおおおおおおぉぉぉぉぉおおおお!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曹操が言葉を出せば兵たちの士気が上がっていく。曹操の鼓舞は一刀とは違う。一刀は徳や人情と言ったもので兵たちの士気を上げた。だが、曹操は力。力とその自前のカリスマ性で兵たちを鼓舞していた。

 

 

 

 

 

 

 

「そしてその気概を敵に見せつけてやりなさい!」

 

 

 

「うおおおおぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」

 

 

 

もはや、兵たちに呂布に対する恐怖など無かった。おそらく彼らの目には呂布より曹操の方が恐ろしく、尚且つ頼もしく見えるのだろう。

 

「全軍、作戦を開始する。進め!」

 

そして、兵たちは命令通り作戦を遂行したのだ。

 

 

現在、曹操軍side

 

 

「呂布、ここからは行かせぬよ。」

 

夏候淵は恋と対峙していた。すでに沙和と真桜は呂布を追い越した。あとはこの恋をここに足止めするだけであった。

 

 

そのはずだったのだが………

 

 

「………邪魔。」

 

 

ブン!

 

 

恋は無造作に得物を横になぎ払った。

 

 

「くっ!」

 

 

 

夏候淵はその攻撃を受ける事が出来なかった。まともに受けていたら間違いなく一刀両断にされていただろう。一瞬、背筋が凍りついてしまった。

 

 

「なっ!?しまった!」

 

 

夏候淵がひるんだのはほんの一瞬だった。その一瞬の間に、恋は包囲網を突破して先行して行った敵部隊を殲滅しようと沙和と真桜の部隊を追いかけていったのだ。だが、

 

 

 

「行かせるか~!!」

「!?」

 

 

ドゴーン!

 

 

突然、恋の背後から凄まじい衝撃が飛んできた。

 

 

 

「凪!」

「ご無事ですか、秋蘭様!」

「ああ、良くやった。」

 

 

さすがの恋も今の一撃にはひるんだようだった。最も殺すつもりで放った気弾だと言うのにひるんだ程度しか食らっていない。

 

 

 

「なんて奴だ!」

「ああ、まるで化け物だな。」

 

 

彼女たちが嘆くのも分かる。だが、これが恋だ。恋にとって一騎当千の彼女たちですら雑魚扱いだろう。

 

 

「季衣!挟み撃ちにするよ!」

「うん!」

「!!?」

「でやあああああ!!」

「はああああああ!!」

 

 

ドガーン!!

 

 

恋は先ほどの攻撃で足を止めてしまっていた。そしてその両脇から巨大な鉄球とヨーヨーのような物体が飛んできたのだ!

 

 

「くっ!」

 

 

恋はかろうじてその攻撃を防いだが、先ほどの余裕は完全になくなっていた。恋はすでに気付いている。この四人は間違いなく強い。一人一人ならともかく、これほどの使い手が四人同時に来れば倒しきることは至難だろう。

 

 

「呂布、四人がかりで卑怯だと思うが、我らにはもう時間がないのでな。なりふり構わず行かせてもらうぞ。」

 

いつの間にか、恋は四人に囲まれてしまっていた。恋は何とかこの包囲から抜け出そうとするがこの四人がそれを防ぐ。恋は完全に孤立してしまっていた。

 

 

虎牢関side

 

 

「ああ!!恋が!」

 

一刀たちは城壁の上から恋の様子を見ていた。

 

「ねね!早く恋を助けよう!」

 

一刀はそう提案したがねねは一向に動かない。いつもなら恋の危機にいち早く行動を起こすというのに。

 

「敵部隊が近づいてくるです!今すぐ門を閉じるんです!」

「なっ!?」

 

驚いた事に、ねねは恋がまだ戻らないというのに虎牢関の城門を開けさせようとしていた。

 

「おい!ねね!恋はまだ戻ってきていないんだぞ!どういうつもりだ!?」

「うるさいです!ねねたちは絶対にここを守らなきゃならないんです!それに恋殿は無敵です!絶対に負けるはずないんです!」

 

ねねは歯ぎしりをしている。もしかしたら一番つらいのはねねなのかもしれない。あまりの迫力に一刀はこれ以上追及することが出来なかった。

 

「………恋!無事でいてくれよ!」

 

城門の向こうの恋の心配をした一刀だった。

 

 

霞side

 

 

「張遼将軍!呂布将軍が敵に包囲されています!それに虎牢関にも敵の部隊が!」

「そんな事見りゃ分かるわい!」

 

霞は断崖の上から様子を見ていた。そして決断を迫られていた。恋を助けに行くか、虎牢関に向かった部隊の足止めに行くか。

 

「張遼隊!全軍で虎牢関に向かった部隊を一掃するで!」

 

そして霞が決めた判断は虎牢関に向かう部隊の一掃であった。

 

「呂布将軍はどうするんですか!?」

 

部隊の一人が聞いてきた。遠目から見ても恋は絶体絶命だ。常人ならの包囲網を突破することは難しいだろう。常人なら……

 

「恋は大丈夫や!忘れたんか!?恋は無敵なんやで!」

「ぎょ、御意!」

 

霞はそう言ったものの本心は恋の助けに行きたかった。だが、虎牢関には一刀がいる。何としても一刀だけは守らなくちゃならない。そういう思いに駆られていた。

 

「全軍、何としても虎牢関は守るで~!突撃や!」

「おう!!」

 

霞の号令で張遼隊が動き出した。全員、断崖の上を走り、虎牢関に向かって言った部隊を横から横撃しようとしていた。断崖を駆け、そのまま敵部隊に突撃するはずだった。

 

 

その時だった。

 

 

「なんや!あれは!?」

 

 

その部隊から、まるで自分たちの進行を防ごうとするような形で部隊が分かれてきたのだ。だが、関係ない。敵が自分たちを遮ろうとも突破するのみであった。

 

「なんや知らんけどうちらの邪魔をすんなや!」

 

そして張遼隊と敵の分隊が突撃したのだ。

 

「オラオラ!怪我したくなかったら退きや!」

 

霞は敵の分隊を尽く薙ぎ飛ばしていったが、彼女はすでに気付いていた。この分隊はそこらにいる部隊とはけた違いな強さを持っていた事に。

 

 

 

その時だった。

 

 

「張遼~!!」

 

 

突然、横から巨大な大剣がなぎ払われたのだ。

 

「くっ!」

 

霞はなんとかその攻撃をよけられた。だが、バランスを崩し、馬から落ちてしまった。

 

「誰や!?」

 

霞はその大剣の持ち主であるだろう人物の方を見た。赤い服を着た若い女性だった。

 

「張遼!あの時の借りをここで返させてもらうぞ!」

「だから、誰やと聞いとるんや!」

「な、何~!私の事を覚えていないのか!?」

「知らん!」

「私はお前に崖から突き落とされたんだぞ!」

「そんなもん知らん!」

「な、な、な、……」

 

赤い服を着た女性は夏候惇だ。夏候惇は顔を真っ赤にしながら憤慨していた。

 

「いい加減名を名乗り!名を名乗らんのは武人としての礼儀に反するで」

「あ、ああ。すまない。」

 

なんとも気が抜けた空気になってしまった。夏候惇は何とかして緊迫した空気に戻したかったため、大声で、誇りらしく、堂々と名乗った。

 

「私の名前は夏候惇!この大陸に覇を唱える曹操猛徳の一の腹心だ!」

「曹操?………ああ、うちらの一刀を狙おうとしとるあの曹操か!?」

 

霞は一刀に曹操の事を聞いていた。この連合も曹操が裏で糸を引いているかもしれないとうこと。一刀を仲間に迎えようとした事も。

 

「うちらの一刀に目をつけるとは……あんたんとこの大将もいい目をもっとるやないかい!」

「ふふ~ん♪!何を当り前なことを言っておるのだ!?」

「………いや、褒めたのはあんたとちゃうから。」

「同じことだ。華琳様を褒めるということはすなわち、この私を褒めていることと同義なのだから!」

「………そか。」

 

霞は不思議な感じに襲われた。あの曹操の一の配下と言っている人物にしてはあまりにも純粋すぎる。もっとこう……策謀に長けた武将だと思っていたのに。

 

 

「はあ……」

 

夏候惇のあまりにも誇らしげな顔に霞は毒気を抜かれてしまっていた。そのためか溜息をついてしまった。

 

「なあ、惇ちゃん。」

「と、惇ちゃんだと!?」

 

いきなり、仲よさげな通称で呼ばれてしまって夏候惇は少し戸惑った。

 

「ああ。夏候惇やから惇ちゃん。かわいいやろ?」

「そ、それは……確かにかわいいが………で、いったいなんだ!?」

 

(……かわいいと思ってくれたんやな?)

 

挑発のつもりで言ったつもりだったが、あいにくと気に入られてしまったようだった。

 

「うちらは先を急ぐねん。後生やからそこをどいてくれへん?」

「なっ!?そんな事できるはずないだろう!私はここでお前の足止めを命じられているのだから!?」

「………いや、それを言っちゃ駄目やろ?」

「え?………あああ!!しまった~!!!」

「……はぁ。」

 

足止めを命じられていると敵に教えるなど愚の骨頂だ。だが、あまりにも正直なために霞はため息をまたついた。

 

「う~!!……今言ったことはすべて忘れろ!いいな!絶対に忘れるんだぞ!」

「いや、もう手遅れやから。」

「く、くっそ~!!」

 

あまりにもアホすぎる。霞はもうついていけないと悟り、改めて馬にまたがった。

 

「あんたがうちらの時間稼ぎに来たのはよう分かった。なら、こっちも本気で付き合う必要はないわけや。悪いけど、うちは行かせてもらいで。」

 

霞が馬の脇腹を軽く蹴り、馬を走らせようとした時だった。

 

「行かせるか~!!」

「なっ!?」

 

 

ガン!

 

 

鈍い音と共に、霞は馬上から吹っ飛ばされた。夏候惇が真正面から凄まじい一撃を放ったのだ。

 

「ここを通りたかったらこの私を倒していくんだな!」

「………」

 

霞は気付いた。この夏候惇は馬鹿だが、腕は確かだ。不意に後ろを見せたら間違いなくやられる。そう思っていた。

 

「……やるしかないんやな?」

「当たり前だ!行くぞ!」

「ちょい待ちい!」

「な、なんだ!一体。」

「名前や。」

「名前?」

「そや。あんたが名乗ってうちだけ名乗らんのは礼儀に反すると思おてな。」

「ふん。まじめな奴だな。」

「あはは………それじゃ、改めて。」

 

霞は一度息を吸って改めて夏候惇の方を見た。

 

「うちは張遼!字は分遠!『天の御使い』北郷一刀の配下であり、神速を誇りとしている武人や!」

「ふん!華琳様を差し置いて『天』とはな。では行くぞ、張遼!」

「来いや!」

 

そして、夏候惇と霞がついに激突したのだ。

 

 

虎牢関side

 

 

「弓兵隊!敵がこれ以上近づけないように、矢を撃ちまくるんです!」

 

ねねの号令通り、弓兵隊の人たちは矢をうちまくる。さすがに敵もこの矢の雨を突っ切る事が出来ないようである。

 

「御使い様!こっちに矢を!」

「あ、はいはい!」

「御使い様!こっちの矢もお願いします!」

「ああ!今行くよ!」

「御使い様~!!矢がなくなりました!」

「待っててくれ!」

 

一刀はねねに奥に隠れていろと言われていたが、さすがにみんな戦っているのに自分だけ隠れている事なんて出来なかった。なのでこういう、使いっぱしりのような仕事を自分から率先してやっているのだ。

 

「ぐわああ!!」

 

さすがに敵も黙っていてはくれないようだ。こっちにも矢の雨を降らせてきた。当然、傷を負う人たちも増え始めてきた。

 

「大丈夫か!?」

「み、御使い様!こ、この程度……平気……いててて!!」

「むちゃすんなよ!今、手当てしてやる!」

「へっ!?よ、よしてくだせえ!御使い様のようなお方に手当なんてさせられませんよ!」

「いいから黙っていろ!出血がひどくなる!」

 

一刀は使いっぱしりのような仕事のほか、兵たちの手当てもしていた。専門的なことは分からないが、簡単な止血方法や包帯の巻き方くらいは知っていたからだ。

 

虎牢関の兵たちの士気は一向に下がらなかった。自分たちの倍近い敵が押し寄せてきたにもかかわらずだ。それは全てこの一刀の行動のおかげだ。指導者である一刀が自分たちと一緒に戦ってくれる。それだけで兵たちはやる気を出してくれていたのだ。

 

敵兵の抵抗は強いが、今は自分たちの方が強い。これなら、敵もそのうち諦めるだろう。一刀たちはそう思っていた。

 

 

沙和、真桜side

 

 

「こら~!ビチ●ソ共!矢の雨くらいでビビるな~なの!」

「さ、サー!イエッサー!」

 

沙和は兵たちを鼓舞しているが、いかんせん敵の反撃が思ったより強すぎる。さすがに精神論をたきつけても限界がある。

 

「な、なあ沙和。」

「何?真桜ちゃん。」

「うちら、そろそろ撤退した方がええんとちゃう?」

「え、ええええ!だってまだ城門を壊してないの~!」

「せやけど……もう限界やで。これじゃ、城門に近づくことさえ出来ないっちゅうねん。」

「う~ん……でも途中で逃げたら絶対に華琳様に叱られるの~。」

「せやな~………はあ。」

「はあ……なの~。」

 

二人が、そんな会話をしていた時だった。

 

 

「うおおおおおぉぉぉぉおお!!」

 

後ろから突然大群が向かってきたのだ。

 

「な、なんやあれ!?」

「わ、分かんないの~!!でも少なくても味方だと思うの~。」

 

それもそうだ。ここから後ろには連合軍のしかいないのだから。二人は向かってきた軍の旗を確認した。

 

「え~と………えん……『袁』だって。真桜ちゃん!」

「はい~!?何で袁紹の軍が来るねん!?」

「分かんないけど、これは絶好の好機なの!」

「せやな!よくわからへんけど、あれだけの援軍や。これで勝負も振り出しに戻ったで!」

「そうなの~!!」

 

 

少し前、袁紹軍side

 

 

「麗羽様!麗羽様!」

 

「なんですの?斗詩さん。」

 

「はい!先ほど曹操軍が虎牢関に向けて進軍しました。」

 

「な、なんですって!それは本当ですの!?」

 

「はい!ですから私たちも動くべきかと。」

 

「もちろんですわ!華琳さんばかりに良い格好はさせませんわよ!」

 

「お!とうとうアタイたちの出番か!?」

 

「その通りですわ!華琳さんよりも早く虎牢関を抜けるんですわよ!」

 

「任せてください!姫!」

 

「もう……文ちゃんたら……」

 

 

曹操軍side

 

 

「華琳様!袁紹が軍を動かしました!」

「………そう。麗羽にしては英断だわ。」

「はい。袁紹軍を利用すれば我らの軍の被害も少なくなります。」

 

曹操は遠くから、自分の放った将たちの活躍を見ていた。夏候淵たちは呂布を相手に互角以上の戦いを繰り広げている。夏候惇も張遼との戦いを始めた。沙和と真桜は少し苦戦しているようだが、袁紹が軍を動かしたとなれば形勢は逆転できるだろう。

 

曹操は虎牢関の方を見、そして北郷一刀に告げるようにそっと呟いた。

 

「一刀、あなたたちは強かったけれど所詮は個人による武。戦いを決めるのは将の力ではなく、兵の数よ。」

 

当然、返事は返ってくるはずはない。だが、曹操はそれでもまだ見ぬ一刀に言葉を続けた。

 

「この勝負は私たちの勝ちね。一刀。」

 

 

沙和、真桜side

 

「真桜ちゃん!これなら城門までいけるの!」

「おっしゃあ!!それじゃ行ってくるで!背中は頼むで!沙和!」

「うん!任せてなの~!!」

 

すでに兵の群れは城門まで来ていた。真桜はその兵たちの群れの中をすり抜け、とうとう城門前まで来てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「近くで見るとえらく大きい門やな~!しかも鋼鉄製かい!だけど………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真桜は自分の持っている槍を掲げ、構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちの螺旋はそんなものでは防げへんで!なんせうちの螺旋は『天を衝く螺旋』やからな!」

 

 

 

 

 

ドガがガガガガガガ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈍い音と火花を放ちながら、少女は槍で門を突いた。すると、ボコっと鈍い音を出し、門の施錠部分を破壊したのだ。

 

 

虎牢関side

 

 

「な、なんだ!?あのドリルをもった女の子は!?」

 

一刀は城壁の上から城門の様子を見ていた。すると年端もいかない女の子がドリルで城門の施錠部分に穴をあけたのだ。

 

(あ、ありえね~!!)

 

そう叫びたいのは山々だが、実際に起きてしまった。問題なのはどうしてこの時代にドリルがあるかと言うことではない。城門が破壊されてしまった。こっちである。

 

「チ●コ!」

「あ、ああ!ねねか!大変だ城門が……!」

「そんな事は分かっているです!」

「ならいったい何の用……」

 

一刀が言いかけた時だった。ねねは一刀の手を取り、急いで走りだした。

 

「お、おい!ねね。一体どこに行くんだよ!?」

「黙ってついてくるです!」

 

一刀は言われたとおり黙ってねねに手を引かれながら付いて行った。そして到着したのは馬などが保管されている馬小屋であった。

 

「おい!こんな所に連れてきてどうするんだよ!早く城門の守備をしなくちゃ……」

「チ●コ!お前はこいつに乗って早くここから逃げるです!」

「………え?」

 

 

恋side

 

 

ガン!

 

鈍い音を響かせながら、恋はまだ戦っていた。対する四人は息は乱れていても戦意はまだ衰えていなかった。

 

「はあ……はあ……くっ!化け物め!」

 

夏候淵はいまだに恋を倒しきる事が出来なかった。四人なら倒せると思ってた自分が甘かったようだ。しかも恋は夏候淵たちの相手をしながら包囲を抜け出そうと包囲の甘いところを探している。つまり自分たちは今でも手加減されているのだ。

 

「はあああああぁぁぁぁ!!」

「でやあああああぁぁぁ!!」

「たあああああぁぁぁぁ!!」

 

凪と季衣と流琉が三人同時に攻撃してきた。

 

「………邪魔。」

 

だが、恋は三人の同時攻撃さえ難なく防いだ。

 

「凪、季衣、流琉!呂布を倒そうと思うな!我らの使命を思い出せ!」

「「「はい!」」」

 

夏候淵は功を焦ってきた部下たちに活を入れた。体は熱くとも頭は冷静であったのだ。自分たちの使命。それは呂布をここに留めておくこと。決して虎牢関に近づけさせないこと。いかに悔しくともこれだけはみんな忘れていなかった。

 

その時だった。部下の一人が突然大きな声で叫んだのだ。

 

「夏候淵将軍!作戦完遂の報告が来ています!作戦は成功しました!とうとう虎牢関の門を破ることができたのです!」

 

夏候淵たちはその言葉を聞いた瞬間、安堵の顔になった。一方の恋は信じられないと言わんばかりに驚いていた。いつも無表情であった恋の顔に初めて恐怖と言うものが見えた瞬間だった。

 

「…………嘘。」

 

恋はそう呟いてしまった。夏候淵は恋の呟きが聞こえて返事をした。

 

「嘘ではない!虎牢関はもう落ちた!貴様たちの負けだ!呂布!」

「…………嘘。」

「貴様たちの主である北郷一刀もじきに捕えられるだろう!」

「…………ご主人さま。」

 

恋は一刀の事が頭によぎった。もしかしたら一刀が殺されるかもしれない。怒りよりも一刀が死ぬかもしれないという事の恐怖感の方が大きかった。

 

「だが、安心しろ!呂布!」

「…………え?」

「我らはお前の主を何も殺そうとしているわけではない。むしろ仲間にしようとしているのだ。」

「……………」

 

最初、恋は夏候淵が何を言っているのか理解できていなかった。恋は無表情で単純だが決して馬鹿じゃない。自分たちの大将を仲間にしようなんていったい何の魂胆があるのか分らなかったのだ。

 

「呂布。お前も我らの仲間になれ。それほどの武をここで散らせるのはあまりにも惜しい。」

「……………」

 

恋は単純な頭で単純なりに考えてた。本当に一刀を殺さないのなら仲間になってもいいとも考えていた。一刀だけじゃない。お願いすれば月だって美羽だって助けてくれるかもしれない。少なくてもこの夏候淵は嘘を言っているようにも見えない。だけど……

 

「…………信用できない。」

 

恋は作戦完遂のため気の抜けた兵の集まりの部分を見つけ、そこを集中的に攻撃した。気の抜けたところへの強襲であったために先ほどの堅固な包囲陣は見る影もなく無残に散っていった。そして恋は包囲を脱し、虎牢関に向かって走り出したのだ。

 

「呂布!貴様……」

「よせ!凪!」

「秋蘭様?」

 

凪と呼ばれた少女は恋を追いかけようとしたが、夏候淵によって止められた。

 

「この勝負はすでに我らの勝ちだ。無駄に戦うことはない。」

「し、しかし……!」

「もう、呂布でもこの状況を覆すことはできんよ。我らは残された仕事に取り掛からなくてはならない。」

「あ、…は、はい!」

 

そういって、夏候淵たちは兵たちを集めて陣を敷き、虎牢関に向けて進軍したのだ。

 

 

雪蓮side

 

 

雪蓮は天幕のなかで華雄の看病をしていた。華雄はこの数日間の間に傷を治す事に専念していたが、まだ動くことは出来なかった。

 

「はーい!華雄。あーんして。」

「ふ、ふざけるな!一人で食える!」

「何言ってんのよ。まだ体を起き上がらせることも出来ないのに。」

「む~……あ、ああ……あ~ん!」

「はい。よく出来まちたね。華雄ちゃん。」

「………こんな屈辱は初めてだ!」

 

雪蓮は華雄に食事をさせていた。未だに動く事が出来ないために雪蓮は華雄の口に食事を運んでいたのだ。

 

「お、お前は、私を憎んでいたんじゃないのか!?」

「憎いわよ。」

「だ、だったら……!」

「でも、一刀なら助けるわ。」

「……え?」

「一刀なら、相手がどんな悪人でも、どんなに憎い相手でも困っている人がいたら絶対に助ける。そうでしょ?」

「………一刀様はお優しいのだ。」

「そうね。でもそういうところに私は惚れたわ。」

「な、何ぃ!!……いたたたた!!」

 

華雄は体を起こそうとして傷にさわった。

 

「下手に体を動かすとまた傷が開くわよ。」

「そ、孫策!ほ、ほほ惚れたとは一体どういうことだ!?」

「え?気付かなかったの?私は一刀の事が好きなのよ。」

「え……ええええええ!!」

 

華雄は顔を真っ赤にしながら驚いた。その反応が面白くて雪蓮はさらに言葉を続けた。

 

「何驚いているのよ。私と一刀は相思相愛なんだから。」

「な、なななな!!う、ううう嘘だ!」

「嘘じゃないわよ。寝屋だって共にしたことだってあるんだから。」

「ね、寝屋をととと共にだと…・!」

「うん。あの時の一刀は本当に激しかったわ。例えば……あんなの事を……こうやって……さらに……こんな事を……ああやってきて……」

「かあああああああぁぁぁ!!」

「あ、壊れた。」

 

華雄の動揺はかなり激しかった。雪蓮が一刀の寵愛を受けていたのは知っていたが、まさか二人がそんな関係になっていたなんて。

 

華雄は武の道しか歩まなかった。当然ながら男と女の情事なんて考えたこともなかった。足りない情報を自分の妄想で補ったあまり、妄想部分が強すぎて華雄の頭はパンクしてしまったのだ。

 

「ま、これで私が一刀を助けたいと思う気持ちは理解できたでしょ?」

「あ、ああ。」

 

雪蓮は華雄の食事を続けた。華雄は横眼から雪蓮を見てまた悲しくなってしまった。雪蓮があまりにも美しいためだ。容姿だけではない。精神面も思想もふるまいさえも美しく見えた。

 

それに比べて自分はどうだ?一刀に対する忠誠心は誰にも負けないつもりだったが、結果的にその一刀を危険な目にあわせているばかりか、ほかの仲間達にも迷惑をかけている。一体、どれほど自分は醜いのだろうか?

 

「華雄、おかわりは?」

 

そんな事を考えているうちに食事は済んだようだった。

 

「い、いや。もう十分だ。」

「そう。なら私はもう行くから。何かあったら呼びなさい。」

「あ、ああ分かった。」

 

そういって、雪蓮は立ち上がり、華雄の天幕から出ようとしていた。

 

「ま、まて!孫策!」

「うん?」

 

その時、華雄は出て行こうとしていた雪蓮を呼び止めた。

 

「何?華雄。」

「そ、その………ええと……」

 

華雄は顔を真っ赤にしながら何かを言いたげな顔をしていた。雪蓮は別に焦っているわけではなかったから華雄がしゃべるのをじっと待っていた。

 

「その……済まない。そして……あ、ありがとう。」

「え?」

「その……まだ謝罪も礼も言っていなかったから……」

 

雪蓮は少し驚いた。そして、本心から華雄に行ってあげた。

 

「どういたしまして。」

 

雪蓮は間違いなく華雄を憎んでいた。だが、華雄があまりにも純粋なものだからいつの間にか憎さなんてどっかに行ってしまった。

 

雪蓮はどういたしまして、と言った後、天幕から出た。その時の雪蓮の顔は笑顔に満ちていたが、天幕の外には怖い顔をした冥琳が立っていた。

 

 

天幕の外には怖い顔をしていた冥琳が立っていた。

 

「どうしたの冥琳。そんなに怖い顔をしちゃって。」

「雪蓮、落ち着いて聞いてくれ。」

「だから何なの?」

「……虎牢関の門が破られた。」

「………え?」

 

最初、雪蓮は冥琳の言っている事は冗談だと思っていた。あまりにも早すぎる。この前、明命からの報告からそう時間はたっていないはず。しかし……

 

「明命からの報告だ。間違いない。」

「そんな……早すぎるわ!」

「私も耳を疑ったが間違いない情報だ。」

 

雪蓮は茫然と立ちすくんでしまった。門が破られたということは虎牢関の陥落は時間の問題だ。と言うことは一刀は間違いなく捕らわれるか、殺されるかの二つしかない。雪蓮は驚きのあまり、頭が真っ白になっていた。

 

その時だった。

 

「そ、孫策!今の話は本当なのか!?」

「か、華雄!?」

 

天幕から体を這いずりながら華雄が出てきた。どうやら今までの話は天幕に中に漏れていたようだった。華雄はそれを聞き、動けない体で体を這いずりながら移動してきたのだ。

 

「本当に虎牢関が落ちたのか?」

「完全には落ちてはいない。ただ、城門が破られただけだ。だが、その時点で陥落は時間の問題だろう。」

「一刀様は?」

「不明だ。」

 

冥琳は冷静に今の状況を華雄に話している。断わっておくが冥琳だって冷静ではない。一刀の事が心配でたまらないのだ。だが、自分が熱くなってもどうしようもない事を知っているために無理やり冷静になったのだ。

 

雪蓮はただ茫然と立ち尽くすのみだった。冥琳は雪蓮の心情を察してか何も言わない。その時、華雄がまだ動けない体を必死に動かし、雪蓮の足元にきた。

 

「そ、孫策!」

「………え?」

 

雪蓮は茫然としていたために華雄が近づいてきたことに全く気が付かなかった。

 

「か、華雄!?あんたはまだ動けないでしょ!」

「そ、孫策!頼む!一刀様を、一刀様を助けてくれ!」

 

華雄は必死になって雪蓮に懇願した。まだ傷は癒えていないはずだ。その証拠にあまりの激痛を耐えているために涙と脂汗が滲み出ていた。

 

「頼む、孫策!」

「っ!!あ、あなたに言われるまでもないわ!一刀は私が守るんだから!」

「す、すまない……」

 

気力だけで這いずってきたために、気が抜けた瞬間、華雄は意識を失った。雪蓮は華雄を寝床に運び、改めて冥琳の前に立った。その時の雪蓮の顔は何か決意したような顔だった。当然、冥琳もそれを感じていた。

 

「冥琳、そこを退いて頂戴。」

 

冥琳の顔つきも神妙であった。当然だ。冥琳は雪蓮がこれからしようとしている事を理解していた。

 

「それは出来ない。どいたらあなたは虎牢関に向かうでしょう?」

「冥琳、退いて。」

「雪蓮、もう北郷たちは無理だ!諦めろ!」

「冥琳、どかないなら貴方を殺すわよ。」

 

雪蓮は兄弟同然に育ってきた冥琳を本気で殺そうとしていた。凄まじい殺気であったが冥琳はおびえなかった。殺されることよりも雪蓮が死ぬことの方が恐ろしいからだ。

 

 

 

 

トン

 

 

 

 

「……え?」

 

ドサ!

 

突然、祭さんが雪蓮を後ろから襲った。不意打ちであったために雪蓮は有無も言わないうちに意識を失った。

 

「祭殿、助かりました。」

「いや、儂もお主と同じ気持ちじゃよ。策殿を死なせたくないのじゃ。」

 

冥琳は倒れた雪蓮を持ち上げ、祭さんとともに雪蓮の天幕に向かい、そして雪蓮を寝室に寝かしつけた。

 

「祭殿、私は今ほど自分の無力さを呪ったことはありません。」

「それは儂も同じじゃよ。」

 

冥琳と祭さんは気を失った雪蓮の隣で一刀の安否を祈っていた。

 

 

一刀、ねねside

 

 

「チ●コ!お前はこれに乗ってここから早く逃げるです!」

 

ねねは一刀を馬の保管場所に連れていき、ここから脱出するように言いつけた。

 

「は、はあ!そんな事出来るはずないだろう!何でみんな戦ってんのに俺だけ逃げるんだよ!」

「分らないのですか!?チ●コ!もうこの虎牢関は終わりなんです!」

「だ、だけど……!」

「チ●コ!お前が捕まったら何もかもが終わってしまうのです!」

 

ねねは一刀を無理やり馬に乗せようとしたが、当然一刀はそれを拒否する。

 

「で、でも!みんなが戦っているのに自分だけ逃げるなんて……嫌だよ!」

「あああ!!面倒くさい奴です!そこの兵隊!ちょっと来るです!」

 

ねねは何人かの兵を呼び寄せ、命令した。

 

「この馬鹿チ●コを馬に乗せるです!」

「はっ!」

「お、おい!よせ!」

「御使い様!すみません!」

 

兵たちはねねの言われるがまま、一刀を馬に無理やり乗せた。しかもずり落ちないようにしっかりと馬と一刀を縄で縛った。

 

「ねね!お前や恋や霞を残して逃げたくないよ!」

 

一刀は半泣きで言った。それをねねは、

 

「チ●コ!お前はねね達の君主です!ねねたちはお前を死なせたくないんです!」

 

 

バシ!

 

 

そう言って、一刀が乗っている馬に鞭を叩きこんだ。痛みで興奮した馬はそのまま走り出してしまったのだ。

 

「ねねー!!」

 

一刀の叫びは馬には届かなかった。そのまま、一刀を乗せながら走り去ってしまった。

 

 

「チ●コ!無事に生きるんですぞ。」

 

ねねは小さくなっていく一刀を見てそう呟いてしまった。そして、改めて兵たちに命令を出したのだ。

 

「ねね達は虎牢関に残り、あの馬鹿チ●コが逃げられるように時間を稼ぐです!」

「御意!」

 

不思議な事に兵たちは誰も文句を言わなかった。ねねは兵たちに死ねと言っているようなものだったのに。

 

「陳宮さま!呂布将軍がお戻りになりました!」

 

ねねは驚いた。なんと恋は、あの敵で一杯の城門からやってきたのだ。城門前はすでに混戦で、恋は有無も言わさず敵兵たちをふっ飛ばしながら帰ってきたのだ。

 

「恋殿!ご無事でしたか!」

「………うん。御主人さまは?」

「心配無用ですぞ!すでにここから逃がしましたぞ!」

「………良かった。」

 

恋はホッとしたような顔になった。相当一刀の事が心配であったのだろう。もう恋に迷いはなかった。

 

「恋殿!我らはあのチ●コが逃げられるように時間を稼ぐです!」

「………分かった。」

 

恋たちは一刀を守ろうと自ら虎牢関に残ったのだ。

 

 

一刀side

 

 

「止まれ!止まってくれ!」

 

一刀は必死になって馬を御しようとした。だが、興奮した馬を手なずけるのは熟練者であっても難しいものだ。当然、一刀が馬を止められるはずはない。

 

そんな一刀を遠くから見ていたものがいた。曹操の兵だ。

 

 

霞side

 

 

「はあ……はあ……」

「ぜえ……ぜえ……」

 

霞と夏候惇はまだ戦っていた。すでに虎牢関の門が敗れたのはお互いに知っている。それでもまだ戦っているのだ。

 

「はあ……はあ……ずいぶんと息が上がってきたじゃないか、張遼!」

「ぜえ……ぜえ……それを惇ちゃんが言うんかい。」

 

二人ともすでに疲労困憊であった。それでも決着はつかなかった。二人の実力は完全に拮抗していたのだ。

 

(まったく……左目が無くのうてしまっていうとんのに……どんな根性しとんねん)

 

霞はそんな事を考えながらこの夏候惇の事を褒め称えていた。

 

先ほど、二人の戦いにハプニングが起きたのだ。何と流れ矢が夏候惇の左目を直撃したのだ。だが夏候惇はその左目を抉り取り、自ら飲み込んだのだ。

 

そのあまりの気高さに、霞は武人として感動したのだ。虎牢関が危ない状態だというのにいまだに戦っているのは、下手に背中を見せられないのもあるが、おそらく、この夏候惇とトコトン戦いたいからなのだろう。

 

「張遼!」

「うん?なんや?」

「私たちの仲間になれ!」

「………いきなりやな。」

 

夏候惇はいきなり霞に仲間になれと言ってきた。

 

「お前ほどの武人をここで失うのはあまりにも惜しいのだ。この勝負は我らの勝ちだ。おとなしく、華琳様に降れ!」

「………惇ちゃん……」

 

霞は不思議な事に怒りを感じなかった。一刀を裏切れと言っているにも関わらずだ。

 

「華琳様はとてもお優しい方だ。お前ほどの武人なら華琳様もお喜びになる!」

 

夏候惇の言葉はとても魅力あふれる言葉に聞こえてきた。

 

 

と、その時だった。

 

「夏候惇様!」

「なんだ!?」

「はっ!虎牢関から脱出した者がいると報告が……!」

 

夏候惇の部下が報告に来たのだ。

 

「敵兵の逃亡くらいで報告に来るな!」

「ひっ!」

 

夏候惇は勝負の途中に水を差されたためにかなり不機嫌になっていた。

 

「し、しかし……!」

「なんだ!?」

「ひっ!………逃亡したのは『天の御使い』と思われる人物だったのですが……」

「な、何!?間違いないのか!?」

「は、はい!報告にあった服装と同じでした!」

「!!」

 

夏候惇と霞は同時に驚いた。その時、夏候惇が笑い出したのだ。

 

「ふははははは!!張遼!お前たちの主は尻尾を巻いて逃げたぞ!」

「な、なんやと~!!」

 

霞は激高した。一刀が逃げたことに対してではない。この夏候惇が一刀の事をよく知りもしないで笑った事が許せなかったのだ。霞が夏候惇に仕掛けようとした時だった。

 

「すぐに追跡部隊を編成し、奴を捕えろ!」

「はっ!」

 

夏候惇は素早く部下に指示したのだ。霞は怖くなった。一刀の馬術では洗練された兵たちから逃れる事は絶対に出来ない。かと言って、この状況では助けに行くことも出来ない。

 

「待てや!」

「うん?なんだ?」

 

霞は一刀を助けるためにある決断をした。

 

 

 

 

 

「…………降る。」

 

 

 

 

 

「………え?」

 

 

 

 

 

「あんたらに降る!せやから一刀を見逃してくれ!頼む!」

「な、何!?」

 

 

霞は武器を捨て、無抵抗の姿勢をとったのだ。夏候惇は驚くと言うより怒り出した。

 

「な、何をしているのだ!貴様ほどの武人が武器を捨てるなど!お前たちの主はお前たちを捨てたんだぞ!」

「それでもや!」

 

霞は一刀が自分たちを捨てたとは微塵も考えてなどいなかった。おそらく……いや、間違いなくねねとかに無理やり脱出させられたのだろう。そう考えていた。

 

「ふ、ふざけるな!北郷一刀を捕える事も、華琳様から頂いた命令に入っているのだ!」

「惇ちゃん、これだけ言っても無理かい?」

「当たり前だ!」

 

そう言った瞬間、霞は捨てた武器を拾い、凄まじい闘気を出しながら言った。

 

「せやったら、うちはこの命が尽きるまで戦うで!今の惇ちゃんにうちを止める事は出来んのかい!?」

「くっ!」

 

夏候惇は霞の闘気にあてられ、思わず足を後ろに下げてしまった。正直、夏候惇はすでに左目の激痛で意識を失いそうになっている。しかも、左目の出血が酷く、もう戦える状態ではない。その上、霞のこの闘気。万全の状態ならともかく、今の自分には絶対に止められない。そう直感していた。

 

「わ、分かった!北郷一刀は見逃してやる!その変わり、貴様は我らの仲間になるんだな!?」

「おお!もちろんや!武人に二言はないで!」

「いいだろう!華琳様には説明してやる!ただし、もし我らを裏切った時は容赦しない!」

「もちろんや!もし裏切ったら、うちの首はあんたに差し出すで。」

「……そうか。」

 

そう言った瞬間、夏候惇は意識を失った。すでに彼女は限界を超えていたのだ。霞は夏候惇を抱き抱え、自分の足で曹操軍の陣地に行ったのだ。

 

(一刀、うちはあんたを助けるために皆を裏切ってしもた。一刀、絶対に逃げ切るんやで!)

 

霞は遠くで一刀の事を想っていた。

 

 

 

一刀side

 

 

「ちくしょう!止まってくれよ!」

 

一刀は馬上で何とか馬を抑えようとしていた。だが、人間の力が馬の馬力に勝てるはずはなかった。

 

 

その時だった。

 

 

 

トス!

 

 

「……え?」

 

鈍い音が背中から聞こえてきたのだ。一刀は背中を触ってみた。すると背中から真っ赤な血が流れてきたのだ。

 

「………嘘だろ?」

 

後ろには乱戦状態になっている虎牢関しかない。とすると、この矢は流れ矢に間違いないだろう。

 

徐々に痛みが広がってきた。一刀は握っていた手綱を放してしまったが、ねね達が一刀を馬に縛り付けたおかげで落ちる事はなかった。

 

(……美羽……七乃さん……ちくしょう……)

 

思わず、一刀は二人の事を思い出していた。まるで走馬灯のように。そして、そのまま意識を失ったのだ。馬は馬上の一刀がそんな状態になっている事を知らず、そのまま虎牢関でもなく、洛陽でもない方向へと走って行ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………

 

 

 

 

 

 

とある名も無き村

 

「亞莎ちゃん!亞莎ちゃん!大変だよ!」

 

「どうしたんですか?おばあさん。」

 

「馬が、馬が血みどろになった男を連れてきたんだよ!」

 

「え!?」

 

タッタッタッタッタ!

 

「あっ!大変!早く手当てしなくちゃ!おばあさん!手伝ってくれませんか!?」

 

「ああ、分かったよ………おや?この人何か言っているよ?」

 

「え?」

 

「……うっ!……美羽……七乃さん……!」

 

「本当です。何か喋っていますね………とっ!その前に早く手当てしてあげなくちゃ!」

 

 

 

続く

 

 

あとがき

 

こんばんわ、ファンネルです。

 

前回の話、コメントをくださった皆さん。返事を返さなくてすみません。ちょっと、事情がありまして書いている暇がなかったのです。許してくださいね。

 

虎牢関での戦いは一刀たちの完全敗北で終わりました。そして、霞は曹操の所に。ねねと恋は不明という形になりました。

 

以前、もう止めます。と言っておきながら、応援やショトメで元気が出たので作者の意地としてここまで書きました。

 

この話で、『董卓編』は終了です。このあとは第三章に続くのですが、書こうか書かないか悩んでいます。

 

気が向いたら書きますので、この『袁術ルート』を楽しみにしている皆さん(いるか分らないけど)次回もゆっくりして行ってね。

 

 


 
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