ポニの大渓谷を、今日も進むヨウカ達。
途中には一度下らないと上へは上れないような道や、カイリキーに押してもらわなければ動かせない大岩が道を塞いでいたりしていた。
「ありがと、ニャーくんっ」
途中で野生のポケモンが襲いかかることもあったが、それらはすべてポケモン達が戦って追い払ってくれた。
さっきもゴルバットが集団で襲いかかってきたが、ニャーくんがそれを一掃してくれたのだ。
無事にゴルバットの集団を追い払って安心したところで、休憩のために昼食を用意し始める。
「・・・このポニの大渓谷に突入してから、一日以上が経過しているんだよな」
「ビビビビビ・・・サイキンまともに、ジューデンできてないから・・・ちょうしがわるいロト・・・」
「大丈夫、ロトム?」
ロトムの様子が最近おかしい。
その異変に気付いたセイルは一度そのロトムに触れて状態を確かめる。
「ふむ・・・薄々感じてはいたが・・・この大渓谷にはなにか特殊なエネルギーが流れているようだな・・・」
「特殊なエネルギー?」
「ああ・・・電磁波というべきか・・・。
それがロトムを狂わせているようだな」
「・・・ここのところずーっと、口数少ないなぁとおもっとったんやけど・・・そのせいやったのかな?」
「・・・」
ロトムの調子をチェックしていたセイルは、ヨウカにそっとロトムを返した。
「今は休ませておくといいだろう」
「せやね・・・ロトム、バッグに入ってて」
「かたじけないロト」
「なにそれ」
そうツッコミを入れつつ、バッグの中にロトム図鑑を入れる。
この大渓谷の中に電磁波のようなエネルギーが流れていると聞いたツキトは周囲を見渡しつつ、つぶやいた。
「ますます、この大渓谷のてっぺんに祭壇がある予感がしてきたぜ」
「・・・それなら絶対に、いかなくちゃいけませんね」
「うん」
「ほしぐもちゃんを蘇らせて、ウルトラスペースにいって・・・母様に会って、思いを伝える。
それなら、ポケモントレーナーじゃなくても、できることですから・・・」
「そうだね・・・やろうよ」
ヨウカとリーリエが気を引き締めなおしていると、ツキトは昼食用に暖めていたスープが入ったコップを差し出してきた。
「さ、目的を果たしたきゃこいつをのみな。
腹が減っては戦はできぬ・・・だろ」
「うん!」
「はい!」
こうして昼食もしっかりととり、4人はまた先へ進むのだった。
「でられた・・・外に・・・!?」
ずっと洞窟の中にいたので、ようやく外にでられたことに喜んだのもつかの間、そこには人工物のような空間が広がっていた。
大理石のようなもので作られた床や柱が設置されているその空間にたいし目を丸くしているヨウカの横でセイルは、周囲を見渡しつつこの場所の招待を
「ここが、日輪の祭壇か」
「え・・・ここが、そうなんですか?」
「ああ・・・間違いないだろう」
そうして奥の石碑を見つめる。
そこには太陽を模した装飾があり、そのマークは太陽の笛についている飾りと同じだった。
「ここにくるまでに、また一日使っちゃったんですね・・・もうお空が真っ暗です」
「そうだな・・・」
リーリエに言われて初めて空をみたことで、今の時間に気付く。
朝にスカル団と戦い、プルメリからボスであるグズマのことを託されたことを思い出す。
それから、そんなに時間が経っていたのだ。
「ウラウラ島には月輪の湖があるという・・・そこと対になっているんだな」
「伝説あったよね、太陽のポケモンと月のポケモンのお話」
「ああ・・・ソルガレオとルナアーラの伝承だ」
アセロラが紹介してくれた本を通して知った、アローラ王朝の伝説。
そこには月と太陽、それぞれの力を持つ伝説のポケモンについて書かれていた。
おそらくこれから行う儀式は、そのポケモンを呼び寄せるためのものだろう。
「・・・ヨウカさん・・・」
「・・・うん」
リーリエは月の笛、ヨウカは太陽の笛を手に取った。
そしてハプウの話を思いだして、儀式の内容を確認しあう。
儀式の行程や、笛で奏でるメロディを。
「・・・オレも、お前達ならうまくいくんじゃないかと思えてきたぜ」
「俺もだ。
ほかの誰でもない、お前達だから俺も信じようと思える」
「・・・絶対に、成功させます」
ツキトとセイルにそうつげ、ヨウカ達はそれぞれ位置に着く。
ヨウカは太陽のマークの床の上で太陽の笛を、リーリエは月のマークの上で月の笛を手に取り、それを口に当てる。
「・・・」
いざ笛を奏でたそのとき、空が光りはじめた。
それはまるで、昼間のように。
「なんだ!?」
輝きは太陽のように祭壇全体を照らしたかと思うと、その光から4本の足で空中をかけながら、何者かが姿を現した。
光から現れたのは白い硬質な体とタテガミ、体毛をもつポケモンだった。
その姿を知っているのか、セイルは驚きながらそのポケモンの名前を告げる。
「これは・・・太陽を食らう伝説のポケモン、ソルガレオ・・・!」
「ソルガレオ・・・?」
もしかしてこのポケモンが、自分達をウルトラスペースに連れて行ってくれるのだろうか。
そう思ってそのポケモンを見つめていると、ソルガレオはさっきよりも高く吠えた。
「なに・・・?!」
そのほうこうに応えるように、太陽の笛と月の笛は輝きだした。
「・・・笛が、輝き始めた・・・!?」
「・・・もしかして・・・もう一度これで吹け、てこと?」
ヨウカがそうたずねるとソルガレオは頷く。
「リーリエちゃん」
「はい」
二人はもう一度顔を見合わせて頷きあうと、指定の位置について笛を奏で始める。
先ほどよりも澄んだ音色が、日輪の祭壇に響きわたった。
「!?」
「なんだ!?」
その儀式の様子を少し離れたところで見ていたツキトとセイルは、異変が生じているのに気付いた。
月から光がのびて、その光が泉に注がれると泉は水かさを増していき、祭壇全体のブロックの溝をつたっていき、祭壇を輝かせたのだ。
「ラリオナッ!!」
さらにそこで、ソルガレオが高く吠える。
すると中心で光の粒子が舞い上がり、さらに嵐がまきおこり、ヨウカとリーリエはとばされないように踏ん張る。
だがそのとき、リーリエのリュックがひとりでに動き出して彼女の体から離れていったと思うとそれは嵐の中に飛び込んでった。
「あ、リュックが・・・!」
リュックの中からほしぐもちゃんが現れると、ほしぐもちゃんの身体は強い光を放って天にのびていった。
あまりの眩しさに目をつぶるヨウカ達。
ゆっくり目を開けつつほしぐもちゃんをみるが、そこにいたのはほしぐもちゃんではなく全く違うポケモンのシルエットだった。
「ほしぐも、ちゃん・・・?」
リーリエ達の目の前で光に包まれていたほしぐもちゃんは、みるみるうちにその姿を変えていった。
星空のように煌めく、まるで膜のような大きな翼、赤く輝く瞳、骨組みのように細く白い手とパーツ、金色の装飾。
その姿を見たセイルはツキトとともにポケモンに駆け寄ると、そのポケモンの名前を告げる。
「月を誘う伝説のポケモン、ルナアーラ・・・!?」
「・・・これが・・・ルナアーラ・・・!」
「・・・まさか、ほしぐもちゃんが・・・」
あの弱くて小さなポケモンを思い出しながら、ヨウカはルナアーラを見つめた。
リーリエも驚きながらも、必死で今の気持ちを口に出していく。
「私・・・今・・・とても感激してます・・・!
どんな本にも書いてなかった・・・こんな奇跡のような光景・・・」
リーリエは大きな翡翠色の瞳で、ルナアーラを見つめる。
「・・・2本の笛で伝説のポケモンに力を与える儀式・・・。
まさかそれが、伝説のポケモンを進化させるための儀式だったなんて・・・!」」
「俺も初めてみた・・・こんな話など、聞いたことがない・・・!」
その場にいた全員が、ここで行われた儀式の真実を知って驚き、感動していた。
特にリーリエは、このルナアーラがコスモッグだった頃から一緒にいたので感慨深い気持ちになる。
一緒にいた小さなポケモンの、あまりにも立派すぎる進化を心から喜びたい。
だが、今はやるべきことがある。
今すぐにでも抱きしめてあげたい気持ちを抑えながら、リーリエはルナアーラに向かって自分の願いを告げる。
「・・・ルナアーラさん・・・ううん、ほしぐもちゃん!
そして、ソルガレオさん!
私・・・母様に会いに行きたい!
どうか・・・私達をビーストの世界へ連れて行って!」
「マヒナペーアッ!」
「ラリオーナッ!」
2匹は高く鳴くと、ソルガレオがまずは動き出す。
ソルガレオは全身を太陽のように輝かせると、目の前に光線を放ち、ウルトラホールのような空間の穴を開けた。
ルナアーラは4人に捕まるように促し全員が捕まったのを確認すると、大きき羽ばたき始めた。
「いくよ!」
「はいっ!」
4人はルナアーラとともに、ウルトラホールに飛び込んでいった。
「・・・ここが、ウルトラスペースなのか!?」
「だろうな・・・漠然としている・・・」
4人がルナアーラに連れてかれた場所は、自分達が知っている景色とは全然違うものだった。
簡単にいえば、異質な世界。
本当に別世界にきてしまったのだと彼らは思う。
「ロトム、なんもゆわなくなっちゃった・・・。
このどんよりとしてて苦しい空気のせいかな?」
一応バッグの中からロトム図鑑を取り出してみるが、ロトムは図鑑の中にいないようだ。
おそらくウルトラスペースにはいるときに、追い出されてしまったのだろう。
ここにいないロトムの分まで、頑張らなければとヨウカは気を引き締める。
「ここを動けないんですね?」
「マヒナペッ」
「・・・あたし達を待っててくれるんでしょ、ここから帰れるように」
「マヒナペッ」
「・・・連れてきてくれて、ありがとう・・・。
私、絶対に戻ってくるから・・・待っててくださいね・・・」
「・・・」
「・・・いきましょう!」
そう言ってリーリエはヨウカ達とともにウルトラスペースを進む。
いつウルトラビーストが現れおそってくるかわからないから、警戒する。
その途中で発見したものに、全員は驚く。
「グズマ!?」
岩に腰掛けるように、グズマはそこにいた。
グズマは空虚に満ちた目と絶望を携えているような表情でヨウカ達をみる。
あまりに覇気がないその姿からは、あの威勢の良さを感じない。
「・・・おそれるものはない、こわがらせてなんぼのスカル団のボス・・・いわゆるグズマさまだけどよ・・・」
「・・・」
「・・・おまえらも、バカだよな」
「なっ!?」
グズマはウルトラスペースに入ってからのことを、ヨウカ達に説明し始めた。
「あいつらを・・・捕まえようとしていたら・・・逆にとりつかれちまった・・・。
すると・・・心も、身体も・・・勝手に思うがままになっちまったんだ!!」
そう叫ぶとグズマは頭をかきむしり身体をふるわせる。
そのときの彼の顔は、恐怖の色に染まっていた。
「自分が自分でなくなるようで、怖くなっちまうんだよぉぉぉぉ!!」
「・・・グズマ・・・」
「特にあの人・・・あの人はやばい・・・やばすぎる・・・!
そんな不気味な連中・・・ウルトラビーストにすっかり夢中になっちまった!」
「・・・!」
彼の話を聞いていたリーリエは、戸惑う。
彼の言うあの人というのは間違いなく、母親であるルザミーネなのだ。
「・・・もう、誰の言葉も・・・思いも・・・とどかねぇだろうさ・・・!」
「・・・」
「・・・リーリエちゃん・・・」
リーリエを心配してヨウカは彼女の顔をのぞき込む。
するとリーリエは強く顔を上げると、前を見つめた。
「・・・それでも、私はいきます!」
「・・・そうだね・・・あたしもいくよ!」
彼女の決意は固い、だからそれに応えようと、ヨウカは強い気持ちでリーリエの隣を歩く。
ツキトとセイルはグズマとともにあるきつつ、どこかにいるであろうルザミーネを探した。
すると。
「うふふふ・・・ふふふふふふふ・・・・」
「・・・!」
「ああ・・・なんて、なんて素晴らしいの・・・ウツロイドと私だけの、パラダイス・・・!
私達の愛だけがここに存在しているわ・・・!」
艶やかだが、冷たくて不気味な笑い声が聞こえてきた。
その言葉を乗せている声は、快楽に満ちていた。
声と同時に、声の主の女性が、ウツロイドとともに姿を見せる。
「・・・お、かあ・・・さま・・・!」
そこにいたのは、ルザミーネだった。
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伝説が降臨します。
アニポケも燃えてきてますね。