リーリエは新しい装いで、覚悟を決めて再出発を決めた。
ヨウカはそんな友人の決意を見つめ、そんな彼女の支えになると決めた。
「起きていたんだな」
「グラジオくん!」
「兄様!」
そんな2人に声をかけてきたのは、グラジオだった。
彼の側にはシルヴァディ、という名前を彼から授かったポケモンがおり、彼の手には月の飾りがついた笛があり、それをリーリエに渡す。
「・・・これを持っていけ」
「これは?」
「月の笛だ・・・。
伝承によれば、この月の笛と、それと対になる太陽の笛を祭壇で吹けば、伝説のポケモンが姿を現すという。
・・・例の部屋で見つけたものだ」
「・・・まさか、伝説のポケモンも、ああいうコレクションに・・・?」
「・・・可能性もなくはないな・・・」
ルザミーネが考えていたようなことを想像し、ヨウカは思わずぞっとするが、そこにいる彼女の子供達のことに気付きそのリアクションを悟られないようにした。
そのとき、ハウやツキト、そしてセイルも姿を見せてくる。
「おはよー!」
「おはよう、ハウくん」
そこでハウはリーリエに気付き、彼女に声をかける。
「わー、リーリエ!?
ねぇねぇ、リーリエだよねー!」
「はい、ハウさん!」
無邪気に笑っているハウにリーリエもにっこりと笑いながらうなずくと、ツキトとセイルは彼女達に自分たちも同行することを告げた。
「オレ達も、お前達に協力することにしたんだ」
「ツキトくん・・・セイルさん!
じゃあ、よろしくおねがいしまーす!」
「ああ、頼まれたぞ」
ヨウカとリーリエ、ツキトとセイルは4人で行動をすることを決めあった。
グラジオは既に全員にこのエーテルパラダイスでの後始末をすると告げていた。
次になにをするのかを問いかける相手はハウだ。
「ハウくんはどうするの?」
「おれねー・・・もっと強くなるために、ちゃんと島巡りをしようって決めたんだー。
だからね、ほったらかしだったウラウラ島の試練をやってくるよ」
「あ、そういえばそやった・・・」
今はすっかり回復したので忘れていたが、ハウはここに乗り込むまでずっとスランプ状態だったのだ。
そのためにウラウラ島の、マーマネとアセロラの試練には挑んでいないのだ。
彼が試練を受けていないことにたいし、グラジオは少し申し訳なさそうに口を開いた。
「悪かったな・・・身内の事情に巻き込んで」
「んー、確かにすごかったねー!
なんてゆーか、スペクタクルってやつー!?」
「・・・スケールがでかすぎるんだ、うちの母親は・・・」
脳天気にそう言うハウにたいし、呆れてため息をつきながらグラジオはそう言うと、ハウはヨウカとリーリエの方を向いて無邪気な笑顔で言葉を向けた。
「・・・というわけだからー、おれはヨウカたちとは別行動だよー!
でもねー!」
「でも?」
「きみ達ならちゃんとできるってー信じてるからー!
だからおれも強くなるためにもちゃーんと、島巡りをやりとげるよー!」
「・・・ハウさん・・・」
「えへへへっ」
2人がそう言って笑いあうのを見届けたグラジオは彼らを船の停留所に案内する。
停留所についたとき、リーリエは思い出したようにグラジオに問う。
「それにしても兄様・・・2年前に家出してからずっとなにをなさってたんですか?
あなたがいなくなったあと、母様はずっと大変だったんですよ?
ビッケさんがいなかったら・・・もうメチャクチャでした」
「・・・すまなかったな・・・俺もヌルを守るために一杯一杯だったんだ・・・。
お前には、心細い思いをさせてしまった・・・。
その償いとして、できる限りのサポートをさせてほしい」
「兄様・・・」
グラジオの話を聞いたリーリエは、穏やかな表情になる。
もう理由など必要ない、こうして再会できたのだから・・・と、リーリエは思っているからだ。
「・・・ふふっ」
そんな兄妹の会話に対しヨウカはほほえむ。
そして、ハウは職員に用意してもらった船で、ヨウカ達はツキトの船でそれぞれの目的のために動き出したのだった。
「ハウくん、試練にうちかってねー!」
「ヨウカも、がんばってねー!」
そういいながらハウの船とヨウカの船は別々の方向へ進んでいった。
「見えたぞ、ポニ島の港・・・海の民の村だ!」
「ここが、そうなんやぁ」
昼を少し過ぎた頃。
ツキトが操縦する船は、未だ未開拓な地が多いというアローラ地方の4番目の島である、ポニ島に到着した。
そんな船が一隻、村の港に到着してその船からおりようとしているのをみているものが一人。
「んー?」
それがほかの島からきた人達、あるいは島巡りの人達だと思ったのかその人物はヨウカ達の前に姿を現した。
「ほぇ?」
「おー・・・ナイスモチーフですね、あなたー!」
ヨウカ達の前に現れたのは、10代前半であろう少女だった。
絵の具がついて少しだぼっとしたスモックをきている、金髪の少女はペイントがついた顔でじっくりとヨウカ達を観察していた。
そんな彼女に戸惑っていると、ヨウカは彼女の指輪に気付いてそのことで話しかけた。
「あれ、それってもしかして・・・」
「そう、キャプテンの証だよ。
これに気づくってことはやっぱり、島巡りのトレーナーさんだよねー。
あ、あたしはマツリカ、一応キャプテンをやっておりまーす」
マツリカの発言に4人は驚いた。
「キャプテンなのか!?」
「うん、得意タイプはフェアリータイプです。
といっても、あたしの試練はまだないんだけどね」
「まだない?」
「うん。
あたしこれでも画家で、色んなところで絵を描くためにプラプラしてるし・・・。
なによりも実はしまキングさん・・・半年前に老衰で亡くなったんだよ」
「「「「え」」」」
マツリカの口からでた衝撃の事実に、4人は口をポカンとあけた。
「あー・・・やっぱ島巡りのためにお会いしたかった?」
「うーん・・・島巡りよりもっと大事な用事があるから、会いたかったんだよなぁ」
「大事な用事?」
ヨウカ達はこのポニ島を訪れた本当の理由をマツリカに話した。
もちろんエーテルパラダイスでの出来事のことは伏せつつも、伝説のポケモンについて知りたいと告げるとマツリカはぼーっとした顔で頭をかきながらある人物を紹介する。
「んー・・・伝説のポケモンについて知ってそーなのねー・・・やっぱり村長さんじゃないのかなー?」
「村長さん?」
「呼んだべか?」
「うわわ!?」
「きゃっ!?」
突然後ろから声がしたのでヨウカとリーリエは驚きの声を上げた。
それにたいし声をかけた張本人である初老の男はすまんすまんと、明るい調子で謝った。
「その人が、村長さんだよ」
「え、この人が?」
「うむ、わしがこの海の民の村の、村長だぁよ。
して、あんたらなにかあったんかねー?」
「ええ・・・実は」
セイルが率先して、村長にここまでのいきさつを説明する。
その話を聞いた村長は、その伝説のポケモンにまつわるものがあると彼女達に告げた。
「どこにあるんですか?」
「この村とは、別の場所だべ」
「笛はこの、ナッシーアイランドにあるんですね」
「村の村長さんの話の通りならね」
笛が保管してあるのは、文字通りナッシーがたくさん生息しているという島、ナッシーアイランド。
その話を聞いたヨウカとリーリエはその島にきたのだった。
ちなみに、ツキトとセイルは彼女達とは別行動で、ポニ島について聞き込みをしてくるとのことだ。
「ナァッシー」
「アローラのナッシー、たーくさんいるロトよ!」
「おぉぉ・・・」
その島にいるポケモンを、ヨウカは顔を上げて見上げる。
「前にもみたことあるけど・・・やっぱアローラのナッシーはでかいんやね」
「ヨウカがしっているのは、こういうナッシーロトね!」
「せや・・・!?」
そのときヨウカは目の前にポケモンが飛び出してきたことに気付く。
そのポケモンは、タマタマだ。
「きゃ!?」
「サンくん!」
驚くリーリエの横で、ヨウカは迷わずサンくんを出した。
タマタマはたまなげ攻撃を繰り出してきたが、サンくんはビクともせずアイスボールで反撃した。
そこからアイアンヘッドを食らわして、タマタマを倒して追い払った。
「さん!」
「ありがとう、サンくん」
「その子、小さいのに強いんですね」
「うん!」
このポケモンとはタマゴの頃に出会っており、誕生したところもみたリーリエはサンくんの成長に対し感慨深い気持ちになる。
無事に襲いかかってきたポケモンを追い払ったので、引き続き笛を探す。
「あ、あれってもしかして?」
「どうしました?」
そのとき、ヨウカは何かに気付きそこに駆け寄る。
リーリエとサンくんも同じ場所にくると、彼女の目の前には小さな祭壇があり、そこには太陽のような飾りのついた横笛が置かれていた。
その笛をみたリーリエは驚きながらも、自分が持っている月の笛を取り出して確認した。
「これ、そうなんじゃない?」
「・・・間違いありません、これが太陽の笛です!」
「やった!」
お目当ての笛を発見した喜びでヨウカは飛び跳ねるが、その拍子にバッグから何かがこぼれおちた。
「あっ・・・石!」
「サッド!」
彼女が落としたのは、クチナシからもらったこおりのいしだった。
サンくんはそれを拾いにいったが、そのときに石にふれたのでその体に徐々に変化を起こしていった。
「サンくん!」
「これって・・・!」
光がやんだときにそこにいたのは、サンドではなく別のポケモン。
氷柱の背中と鋼の爪を持つポケモン、アローラのサンドパンだ。
「サンくん」
「サッドパン!」
「・・・うん、よろしくね!」
強く、新しく進化したポケモンに対しヨウカは微笑みかける。
そんな彼女達をリーリエは、うらやましそうに見つめていた。
「まさかここで、雨が降ってくるなんてビックリだね」
「はい・・・でも近くにこんな洞窟があるのは幸運ですね」
「せやね」
太陽の笛は無事に手に入れたものの、それと同じタイミングで雨が降ってきたので、ヨウカとリーリエは近くあった洞窟で雨宿りしていた。
「スカートが少しだけ濡れちゃいました・・・」
「あたしも上着がちょっと・・・」
そんな話をしていると、リーリエは不意に外を見て、物思いに耽り始めた。
「・・・」
「なにを考えとるん?」
「考えると言うより・・・思い出しているんです」
「思い出す・・・?」
リーリエは頷くと、今も雨が降り続いている外の景色を見つめながら、話し始めた。
記憶の中にある、幼い自分と母の思い出を。
「・・・私・・・幼い頃、映画のまねをして雨の中で歌って踊ったことがあるんです。
そんな私をみつけた母様は、驚いて私に駆け寄ってきて・・・そうしたら母様は、私と一緒に歌い始めたんですよ」
「・・・!」
「・・・そのあと、当たり前のように二人そろって風邪を引いて・・・。
でも、そのときのことが私は嬉しくてうれしくて・・・寝ていなくちゃダメなのに、何度も母様を起こしちゃったんです」
「・・・そういうことが、あったんやね・・・」
「はい・・・今も、私の大切な思い出です」
そう思い出を語るリーリエは、本当に楽しそうだった。
そんな彼女の姿を見て、ヨウカは彼女達親子は最初からああでなかったことを知る。
ルザミーネも昔は、子どもと一緒に楽しんだり歌ったり、一緒に寝たりする・・・そんなどこにでもいるような、優しい母親だったのだ。
その真実を知ってからヨウカは、あのときに母親である資格がないと彼女に向かって怒鳴ったことにたいし罰が悪い気持ちになる。
そして、同時に気になった。
そんな優しい母親が、あんなに冷酷非情になってしまうなんて、なにがあったのだろうと。
「リーリエちゃん・・・絶対に、お母さんを助け出そうね」
「・・・はい」
その真実を知るため、そしてなによりもリーリエとグラジオのため。
ウルトラホールから彼女達の母親を助け出さなければならない。
ヨウカはそう決意を固め直し、リーリエの手を握ると、リーリエもその手を握りなおした。
「ん?」
ちょうどそのとき雨は上がり、空には太陽が雲から顔をのぞかせる。
やはりさっきのは通り雨だったのだ。
「雨、やんだね」
「はい・・・もうツキトさんもセイルさんも、情報収集が終わってるかもしれません。
私達も目的は果たしましたし、戻りましょう」
「うん、いこう」
そうして2人は洞窟をでる。
「あっ!」
「どしたん?」
そこで、リーリエが何かに気付いて空を指さしたので、ヨウカもつられてその空をみると、そこには七色の光の橋がかかっていた。
「うわぁ・・・虹!」
「・・・ふふ、これからなにか、いいことがありそうな予感がしてきました!」
「あたしもっ!」
2人の少女は虹を眺めながら、船に乗って島を旅立っていった。
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あの雨宿りシーンは男主人公だと良さが増しますね。