No.95950

恋姫無双~魏の龍~第拾肆話

タンデムさん

皆様お久しぶりです。
大変長らく御待たせしました!
6月に小説サイトを設立して、そちらに熱を入れすぎてしまい、
中々小説ができませんでしたorz
しかし、やっとこすっとこ完成いたしました!!

続きを表示

2009-09-18 04:01:44 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:23976   閲覧ユーザー数:15548

「是は一体如何言う事ですの、華琳さん! この私達を抜きにして、行軍を進めるなんて!!」

「そうじゃぞ! 妾達が起きるのを待たぬとは、何事じゃっ!!」

 

戻ってきたら、やっと起きたのか、喧しい声を上げて騒いでいるお馬鹿その1と2の姿があった。

 

「……兄さん?」

「是は僕も想像していませんでした。 (あと2日は起きない筈なのに……。)」

 

初めて、馬鹿につける薬など無いと言う意味を知った龍翠だった。

その後も、暫く喚き立てた後、今度は自分たちが前に出ると言い出した。

劉備に落とされたのが、余程悔しかったのだろう。

止める龍翠の言葉も、今の彼女達には届かない。

そして、軍議は彼女達が退出する事で、強引に終わらせてしまった

 

「兄さん、なんで麗羽を止めようとしたりしたの?」

「そうよ、自分たちから行くって言ってるんだから、行かせてあげたらイイじゃない?」

 

麗羽と美羽が退出した後、他の諸侯は残り軍議を続け、華琳と雪蓮が龍翠に疑問を言った。

 

「……次の関に居るのは、あの飛将軍と謳われる呂布だからだよ。」

「……なにか、まずいんですか?」

 

余りにも深刻そうに言う龍翠に、桃香は不安そうに聞く。

 

「とっても不味いです。 呂布は……恋は、僕のもう一人の弟子で、僕の龍技を完全に己が物のように扱える。 それに、体力は菖蒲の……華雄の比じゃない。」

「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」

「なんですって!?」

 

余りの事実に、水面ですら聞かなければ良かったと言う感じの声を上げた。

飛将軍呂布。

名前負けなんてとんでもない。

何せ、あの魏の龍が本当に焦っているのだから。

 

「下手したら、袁両家の軍が崩壊します。個人的には構わないんですけど、これじゃあ董卓を助けられない。」

「其れは、不味いわね。」

 

そう、此処で連合が崩壊してしまうと、龍翠達の計画した事が台無しになってしまうのだ。

 

「それに、何より彼女達にお仕置きが出来ません。」

「結局、それなの!?」

 

結局、お仕置き好きな龍翠だった。

~虎牢関~

 

SIDE袁家軍

 

「さぁ! 皆さん、袁家の兵の誇りを見せて差し上げなさい!!」

「皆の者! 麗羽の兵などに負けるでないぞ!!」

 

と、意気揚々と虎牢関に向かっている麗羽と美羽。

だが、残念ながら意気揚々なのは、トップの二人だけ。

何故なら、猪々子、斗詩、巴、張勲は龍翠より次の虎牢関の将呂布の事を知らされてしまっているからだ。

 

「どうしよう、文ちゃん、斗詩ちゃん、張勲さん。」

「さ、流石のアタイもアニキ(龍翠)の直弟子となんて無理かなぁ……あはは。」

「うぅ……どうしよう。」

「で、でも此方は相手の3倍の兵力差があるんですよ? そうそう負けたりしませんって。」

 

と、とんでもなく弱きだったのは無理も無いだろう。

そして、全員が思う。

いざとなったら、自分の主を気絶させてでも逃げようと。

 

 

 

SIDE董卓軍

 

「…………。」

 

赤い髪の少女が、虎牢関の下に群がるモノを見ていた。

彼女の瞳の中に燃えているのは、怒り。

自分の親友を悪に仕立て上げた憎き袁家の旗印を、見ていた。

 

「れ、恋殿ぉ?」

「恋、ねねが怖がってんで。(うちも、すこしひよったけどな。)」

 

その怒りは、傍に居た味方の将張遼こと霞と陳宮こと音々音を怯ませるほど。

恋は自分の名前を呼ばれ、彼女はそちらを向く。

その表情は、怒りの余り無表情になっていた。

 

「霞、ねね、恋行く。」

「行く? 行くって何処に?」

 

唐突に行くとだけ言われて、分からず聞き返す。

 

「……ん。」

 

そして、彼女が己の武器『方天画戟』を目の前に群がる、袁家の旗印に向けた。

 

「え!? ちょ、行くってまさか、あそこか!?」

「……(コクッ)。」

「恋どの! なりませんぞ!!」

 

首を縦に振り短く応える事で、彼女は肯定の意思を伝える。

その事に勿論、霞と音々音も反対の意思を示すが、全くといって彼女は聞かない。

 

「大丈夫、恋負けない。 あんなのに、負けない……絶対っ!」

「ひぃ!!」

「くっ?!」

 

恋が絶対といった瞬間、彼女から途轍もない殺気が溢れ出す。

是には溜まらず、陳宮は耐えられず気絶し、

恋の本気の殺気に、霞は一瞬とは言え身体が恐怖で震えた。

 

「……わかった、ウチも準備するから待ちぃや。」

 

仕方なく、戦の準備をするから待てと、恋に言って見たものの思いもよらぬ答えが返ってきた。

 

「(フルフル)……恋、一人で行く。」

「な! そ、其れはダメや! 見てみい! あんなにおるんやでっ!?」

 

流石に、それは自殺行為もいい所の発言は却下しようと思ったが、恋はそれを遮るかの様に言う。

 

「大丈夫。 絶対、還って来る。」

「……絶対やな? ウチ、こっから銅鑼鳴らすから其れ成ったら絶対帰ってくるか?」

「……(コクッ)」

 

彼女の瞳に移る怒り、決意、それを見て霞は何も言えない。

部下に、銅鑼を鳴らしたら門を開けるように言い恋を送り出すことにした。

 

今、董卓軍の『怒れる龍』がその姿を現そうとしていた。

 

SIDE袁家軍

 

 

「お~っほっほっほ!! さぁ董卓軍の皆さん! この数の違いがお分かりになるでしょう? だから無駄な争いはおやめになりません? お~っほっほっほ!」

「今なら、命を助けてやらん事も無いぞよ。 ほっほっほ。」

 

戦場に場違いな2種類の高笑いが響く。

 

ギィ~~。

 

それに示し合わせたかのように関の扉が開き、

真紅の髪の少女呂布がその門から姿を現し、又関の門は堅く閉じられる。

顔は伏せており表情を読み取る事は出来ない。

 

「お~っほっほ。 呂布さん一人と言う事は、降伏の使者と言う事かしら?」

「きっと、そうじゃ。 この数の違いに恐れをなしたに違いないのじゃ! ほっほっほ。」

 

彼女達はまだ知らない。

今から始まる本当の恐怖を。

麗羽と美羽の声に反応するかのように、呂布が顔を上げる。

 

「「ひっ!!」」

「「「「っ!!!」」」」

 

途端に重圧な威圧感、濃密な殺気が彼女達の軍を襲う。

先頭に立たされていた兵達は、その濃密過ぎる殺気に堪らず、意識を手放し恐怖から逃亡する。

そして、呂布がその口を開く。

 

「……コロス。」

 

立った一言、その一言がどれだけこの軍に影響を与える事か。

この空間を支配した彼女は、単騎で敵陣に向かって走る。

 

「あ、相手は一人ですのよ!」

「み、皆の者! つ、潰してしまうのじゃ!」

 

恐怖から声は震えているが、数の有利が彼女達に少しの安堵感を与えていた。

だが、そんな物は意味が無い。

第一陣と彼女が激突した瞬間。

 

「……邪魔。」

 

そう言い、戟を振るう。

 

『ぎゃぁあぁあぁぁぁぁ!!!!!』

 

その一振りで、100近くの命が大地に散り、紅い華を咲かせる。

武器を振るう為に、一度動きを止めたにも拘らず、また全速力で走り抜ける。

それを目の当たりにした敵兵は、

 

「ぁ……ぁぁぁ……。」

「ひっ……。」

 

恐怖の余り足がすくみ尻をつき、動く事が出来ない。

そんな地面にへばってしまっている奴などに眼もくれず、彼女はただひたすら目指す。

袁と掛かれた二つの旗の方に。

 

 

SIDE龍翠達

 

華雄こと菖蒲が起きたので、彼女も一緒に戦場を見る事にした。

だが遠目で見ている龍翠達に、言葉は無い。

何故なら、今し方巳水関で見た龍翠の戦い方に動きが酷似しすぎていたからだ。

 

「……なるほど、こう言う事ね。 兄さんが焦るのも分かるわ。」

「あっちに、龍翠がもう一人居るものと考えていかないといけないわね。」

 

やっとの事の様に、美蓮と華琳が声を絞り出す。

離れていても届く殺気に、直に当てられては気がおかしくなりそうだと思える。

 

「如何するの? 龍翠君。」

「大丈夫、一応手は打ってあるよ。 其れにいざとなったら、僕が此処の大将になるから。」

 

今も、龍翠が大将の様な事をしていため、皆も文句は無かった。

 

 

 

SIDE袁家

 

こんな筈ではなかったと、麗羽と美羽は思っていた。

麗羽の思惑では、美羽の軍とともに呂布を叩き潰し、

虎牢関を制圧しているはずだった。

なのに、現実はどうか。

 

「うぅ……と、しぃ……。」

「ぶ、ん、ちゃ……ん。」

「おじょう、さま……。」

 

自分たちの兵は、呂布に一太刀の元に切り捨てられ、

目の前で、呂布に一合武器を交えただけで自分達の部下が叩き潰されていた。

 

「……お前達が、袁紹と袁術?」

 

首を傾げて聞いてくる彼女の姿は、可愛らしいものだが

事この場においては、恐怖以外の何物でもない。

麗羽と美羽はお互い抱き合って、呂布の殺気に震えていた。

美羽に至っては、恐怖の余り失禁してしまっていた。

 

「……弱い奴は、死ね。」

 

そんな愚か者達の姿を見て、怒りがまた噴出し、麗羽達に方天画戟を振るった瞬間。

 

ジャーンジャーンジャーンっ!!!

 

「ん?」

 

ピタリと彼女達の首もとで、戟が止まる。

虎牢関の方から、銅鑼の音が聞こえたからだ。

すっと戟を引き、その肩に担ぐ。

 

「約束……帰る。」

 

そう呟いて、踵を返し去ろうとした所で一度振り返り、

麗羽と美羽を睨みつけ、殺気をぶつけながら言う。

 

「次は……コロス。」

「「ひぃっ」」

 

そして、今度こそ去っていった。

後に残ったのは、龍に食い散らされた袁家の兵と、

その龍に恐怖し、無様な姿で気を失った袁両家の二人だけだった。

 

 

 

呂布が虎牢関に引っ込んだ後、袁家の軍と将達を回収する。

最悪の結果は免れたが、本当に運が良かったとしか言いようが無い。

袁家の軍も初期の人数の1/5ほどに減っており、呂布のとんでもない強さが伺えた。

そして、麗羽も美羽も気絶したまま起きる気配が無いので、龍翠達は麗羽と美羽達が不在のまま軍議を始めた。

 

「さて、如何しましょうか。」

「流石に、あの呂布は龍翠だけには任せられないわね。」

「かと言って、私達が行っては足手まといになりかねんぞ?」

 

眉間に皺を寄せながら、華琳、雪蓮、公孫賛の順で口を開き論じる。

先ほど見た呂布の強さ、体力、威圧感。

どれをとっても、規格外としか言いようが無い。

単騎掛けで対抗できるのは、鮮血の龍の四人ぐらいだろう。

防戦一方に徹すれば、美蓮、愛紗、鈴々は一応は生き残りそうだが他のものは厳しい。

頭を悩ませていると、突然龍翠が頭を上げ、

 

「如何したんですか、颶柳さん?」

「返事が届きましたので、お持ちいたしました。」

 

龍翠の視線をたどって行くと、先ほどまで居なかった臧覇こと颶柳が其処に佇んでいた。

一流の武人達が多く居る中で、気付いたのが龍翠だけと言うことから、颶柳の隠密術は凄いものと言えよう。

 

「返事?」

「ええ、『手を打っている』とあの時言ったでしょう?」

 

質問して来た声に、応えながら龍翠は颶柳から手紙を受け取りそれを開く。

其処に書いてあったのは、

 

 

『了解いたした。

出陣の際、銅鑼を四つ叩く、それを合図にされたし。』

 

 

と、簡潔に書かれたものだった。

 

「是だけか?」

 

余りにも簡潔すぎる内容に、拍子抜けしたかのような声を上げる翠。

 

「ええ、充分。 手柄が欲しいのは、雪蓮達でしたね。 明日の軍は、呉の皆と鮮血の龍で行きましょう。」

「……そ、そんなに簡単に決めてしまっても良いのか?」

 

手紙を見た瞬間、先ほどまで焦っていたと言うそぶりなどつゆも見せず、笑みすら浮かべていた。

そんな様子に、少しの疑問を持ち、冥琳が驚いたように聞いてくる。

 

「ええ。 全然、構いません。 ああ、それと明日の戦いは、物凄く激しいものとなりますから、飛礫とかに気を付けていて下さいね。」

 

冥琳の質問に、それだけ言って、不敵な笑みを浮かべて水面と共に、自分達の天幕に去っていった。

 

 

~少し時間を巻き戻して虎牢関~

 

 

 

「ひゃ~凄いなぁ、恋は。」

 

口調とは裏腹に、霞は戦慄していた。

何に戦慄していたかと言うと、余りにも自分と格の違う呂布こと恋の武に。

 

「天才が努力したら、超天才ってか?」

 

口調は、相変わらず軽いものだが手は震えていた。

其れは恐怖から来るものなのか、はたまた強者に出会えた歓喜の震えなのか、

と言われたら、断然後者だと言えた。

 

「此処までワクワクしたんは、本っっ当に久しぶりや。 ホントに本気で手合わせして欲しい位や。」

「ならそれを教えたお方と、手合わせするか?」

「っ!? 誰や!」

 

目の前で起こっている戦いに、見入っていると行き成りかけられた声に振り返る。

其処には、全身黒尽くめの大男が立っていた。

両手には、龍の刻印の入った黒光りする籠手をつけている。

 

「(完全に気配が分からんかった。 それにあの黒い籠手。) 若しかして、『鮮血の龍』か?」

「うむ。 流石に、何進殿に仕えて居れば分かるか。 その通り某(それがし)は、鮮血の龍隠密役のものだ。」

 

自分の所属を言う颶柳だが、流石に名前までは余り表に出したくないようで名乗らない。

警戒心たっぷりに、霞は言う。

 

「で、その鮮血の龍の隠密が何の用や?」

「うむ。 某はこの書状を届け、答えを持ち帰れと仰せつかった。」

 

そう言って、颶流はある文を張遼に差し出す。

まだ少し警戒気味に、近寄り文を受け取り中身を見る。

 

「……。 これ、本当か?」

 

まるで信じられないものを見たと言う感じの顔をする張遼

 

「うむ。 是から先は、貴殿等との協力が必要不可欠。 返事やいかに?」

「……分かった。 ってぇえ!? さっさと銅鑼鳴らさんと、袁紹達逝ってまう! 誰かある!!」

「はっ! 御呼びでしょうか。」

「はよ銅鑼鳴らせ!」

 

協力することにした霞は、再び戦場に視線を戻すと、

今正に袁紹達の将を吹き飛ばして居る恋の姿が眼に映つり、

とりあえず手遅れになる前に恋を帰還させるために、銅鑼を鳴らした。

 

ジャーンジャーンジャーン!!

 

程無くして、銅鑼の音が響き渡る。

戦場を見ると、間一髪、袁紹達は助かった様だ。

 

「ふう、是で一応は大丈夫や。 門開けたら、直ぐに閉めえや。」

「は!」

 

恋が帰ってくるのを関の上から確認すると、

霞は親衛隊の一人に門を開けるように伝え、颶柳の方に向き直る。

 

「待たせてすまんな。」

「して、返事は何時になる?」

「ちょい、待ち。 今、軍師起こすさかい。 ほれ、何時まで寝とんじゃ起きんかい!」

「い、いた! 痛いのです! 張遼!」

 

足元で気絶して、そのまま眠りこけていた軍師を蹴り起こし、色々と説明をし文を見せる。

 

「……。 分かったのです。 ちょっと待つが宜しいのです。」

 

そう言って、関の中に行った。

それから、一刻後返事をしたためた音々音が恋をつれて戻って来た。

 

「是が、文です。 確り渡しましたぞ。」

「うむ。 確と受け取った。 うん? どうなされた呂布殿?」

「……。 (じー。)」

 

来たまま颶柳をじー、と穴が開かんばかりに見ている恋に問いかける。

 

「……せんせい、来る?」

「先生? ああ、龍翠……曹錬鳳殿の事か?」

「…………(コクッ! コクッ! コクッ!)」

 

龍翠の名前を出すと、首が取れんばかりに振る恋を見て、苦笑をもらした後、

 

「心配せずとも、次の戦場で、会い見(まみ)えるだろう。 其れまで、の辛抱だ。」

「……(コクッ。)」

「では、某は是にて自分の軍に帰るとする。 御免!」

 

そう言って、そのまま関を飛び降りた。

 

「っでぇぇえぇぇっ!?」

「お、落ちましたぞ!?」

「……!」

 

三人が、飛び降りた先を見ると関の壁をそのまま垂直に走っている颶柳が居た。

丁度、日の当たらない影の部分だったので、

黒い服装の颶柳の姿は、遠目からでは先ず分からないだろう。

そして、地面に激突する間際、関に手をついてずり落ち減速し、ある程度減速したらそのまま飛び降り、着地してそのまま最大加速で自軍に走る颶柳の姿が確認できた。

 

「……鮮血の龍って、ほんま化け物揃いなんやなぁ。」

 

霞のその呟きに、他二人が同意したのは当たり前と言えよう。

 

~翌日~

 

 

SIDE龍翠達

 

 

朝食をとった後、龍翠達と呉の軍勢は虎牢関に向かった。

ちゃっかりと、その中に華琳が混ざっているのはご愛嬌と言うことだろうか。

 

「さて……今回の兵たちは颶龍さんの情報もあって、巳水関より少ない4万と言う事が分かりました。」

「4万か……その位だったら、俺たち三人で行けそうだな。」

 

龍翠の言葉に、太史慈こと焔が言う。

その言葉に、他三人も頷き、龍翠が最終確認のようにい言う。

 

「そして、恋……呂布は僕が相手をするよ。 弟子の相手は、ヤッパリ師でないとね。 激戦が予測されるから、皆さん巻き込まれないように気を付けてくださいね。」

「……なんでもないように話してるけど、是って戦の前の話なのよね?」

 

余りにも軽すぎる上に、微妙に疎外感を感じてしまった美蓮がポツリと呟いた。

 

「そうですけど何か?」

「いやそうですけどとかじゃ無くて、思ったけど何のために私たち戦わないの?」

 

そして、疑問に思っていたことを聞いてみた。

 

「後に起こるであろう事に対処する為です。そのためには、流石に僕達ではどうにもならない可能性がありますから。」

「その起こるであろう事って?」

「今はまだ……。 この戦が終わり次第、お話します。」

 

そう言って口を閉ざし以降、虎牢関に着くまで口を開かなかった。

 

 

 

実は、口を開かなかったのは、龍翠が自身の興奮を隠す為でもあるのだ。

 

「……。(恋。 君があんなに強くなっているとは、思わなかった。 約束通り見せよう、僕の本気をね。)」

 

ギュッ。

 

高ぶる気持ちを抑える為に、龍翠は誰にも見られぬように拳を握り締めた。

 

 

SIDE虎牢関

 

 

下に見える黒地の布に紅く龍と書かれた旗を、三人で見ていた。

 

「あ、アレが伝説の鮮血の龍の旗……。」

「ホンマに存在したんやな。」

 

いや、正確には二人だった。

残りの一人、呂布こと恋は何を見ているかと言うと、

 

「……! 見つけた、先生。」

 

そう、彼女は自分の師曹錬鳳こと龍翠の方を見ていた。

恋の呟いた一言に、霞は彼女の視線を追っていくと、ある紅い四人の集団が見えた。

その中で、一際目を引くのが淡い緑色の髪で、その身の丈に似合わぬ剣のようなものを持つ人物。

 

「……。 (一目で分かる。 あの緑の髪の奴だけは別格や。 アカン、戦いたくてしゃあない……。 でもどっかで見たこと有るな?)」

 

霞はワクワクした。

自分は、まだまだ井の中の蛙。

恋や華雄のように、自分より強い者達がまだまだ居るものだ。

と、龍翠を見ながら霞は考え事をしていたが其れは中断される。

 

「っ!」

「……!」

 

彼が顔を上げたからだ。

その瞬間、霞は足がすくんでしまった。

其れこそ、蛇ににらまれた蛙のように固まってしまった。

かなり遠くに居るのにも拘らず、彼と目が合った気がしたからだ。

 

「……。 (フルフル!」

 

隣に居る恋が、突然何かを振り払うかのように首を振った。

彼女が、このような不自然な行動を取ると言うことは、

自分が思ったことは強ち間違えでもないかもしれないと思った。

 

「恋、ウチは先行くで。 ほんで、ウチが戦いの『舞台』、作ってやるさかい。」

 

本当を言うと、自分も恋と一緒に戦いたかったのだが、

自分が居ては逆に戦い辛いだろうと思いそうすることにしたのだ。

 

「(コクっ) 霞、がんばって。」

「おう! 銅鑼鳴らせ!!」

 

程無くして、虎牢関に四回銅鑼の音が響き渡った。

 

 

 

~虎牢関前~

 

銅鑼が四回鳴るとともに、敵兵(十常侍兵)全てが門より出てくる。

そして、その軍を先導するように紫色の髪の女性が前に出てくる。

 

「ウチは、張遼。 鮮血の龍で合ってるか?」

「ええ。 僕達が鮮血の龍です。 そして僕が、鮮血の龍隊長で恋の師である曹錬鳳です。」

「っ!? (曹錬鳳やて!?) なるほど、あの『魏の龍』が恋の師匠やったんやな。」

「今は、鮮血の龍小隊長曹錬鳳ですよ。」

「……そか。」

 

と、一通り話した後、霞は自分の率いて来た十常侍の兵に向き直る。

そして、自身の得物を構えて宣言する。

 

「ウチは、お前等みたいに薄汚い十常侍の狗どもを率いる為に、将になったんやない!

やから、今からウチもお前等の敵や! 覚悟せいっ!」

 

霞は、そう言って殺気を元自分の軍にぶつける。

と、肩に手を置かれる。

首だけ振り返ると、四人の内一人だけの紅一点、司馬徽こと水面の手が乗せてあった。

 

「ありがとう、張遼さん。 でも、最前線は私たち三人に任せてくれないかしら。」

「貴殿は、某達が討ち漏らした者達を殺してくれ。」

「この戦いは、前座。 この後の戦いを邪魔せん為に、全部掃除しとかねえといけねえからな。」

 

そして、その三人の目が敵を視界に入れた瞬間、世界が変わった。

 

「っ!?」

 

霞は背筋が凍るような寒気に襲われた。

そして、その正体が身の前にいる三人から放たれている殺気だと言う事が分かった。

霞は思った。

 

「(あかん。 今のウチが居ったら、足手まといになってまう。)」

 

そう思わされるだけの、明確なまでの力量差を感じ取ってしまった。

 

 

それから半時。

文字通り、敵は全て掃除された。

一つも後ろに通す事無く、全てが三人の武によって片付けられたのだ。

そして、その戦いが終了すると関の門が開く。

 

「……。」

「れ、恋どの! お待ちください!」

 

中から出てきたのは、真紅の髪を持つ少女とその少女にトコトコと着いて来た小さい少女だ。

呂布こと恋と、陳宮こと音々音だ。

 

「……ねね、霞のトコ行く。」

「な、何故です恋どの!」

「ねね、怪我する。 だから霞のトコ行く。」

「え? れ、恋どの? ま、待ってくだぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁっ!!!!!」

 

有無を言わせぬように、恋は彼女を霞の方に放り投げた。

霞は、難なく音々音を受け取め、後方に引いた。

ギャーギャーと騒ぎ立てているが、恋には何も聞こえていなかった。

 

「……。」

「……。」

 

ただ見ているものは、目の前に立っている自分の師のみ。

対する龍翠も、恋だけしか視界に入ってなかった。

 

「強くなったようだね、恋。」

「……(コクっ)」

 

ただ一言そう龍翠が喋っただけで、両者は己の武器を構える。

すると、途方も無い殺気が両者から放たれる。

下級の兵士達は、其れだけで尻を地面につけていた。

 

「「勝負。」」

 

瞬間、世界が爆ぜた。

 

ドンッ!!!

 

両者が全力で踏み込み、その力で地面が陥没し、後ろの方に飛礫が飛ぶほどだ。

 

「はぁっ!!!」

「……っ!!!」

 

ガギィィン!!!!

 

そして、両者が激突する。

龍翠は上方からの切り落とし、恋は下から、切り上げる。

 

「……いくっ!!」

 

暫く両者が拮抗を保った後、恋が一歩踏み込み身体を半回転させる要領で、

方天画戟の柄で痛撃を与えんとするが、それを龍翠はしゃがんでかわし、恋に足払いをかける。

 

「せぃっ!!」

「……っ。」

 

だが、恋も後ろを向いていたが、それに反応し飛び上がって避ける。

 

「……はっ!」

 

そして、飛び上がった瞬間、身体をくの字に曲げて、

背中の方に回っていた柄を真下に居るであろう人物にむけて叩きつける。

 

「!? くっ!」

 

足払いをしたばかりの龍翠は体勢が悪いのにも拘らず、

上からの脅威を察知してかそのまま後方に飛び引いた。

一連の動作を周りで見ていた者達は、驚くばかりだからだ。

無理な姿勢からの攻撃、見えるはずの無い場所からの超速反応など、上げればキリが無い。

 

「……。」

「……。」

 

両者は無言で、居住まいを正し、また己の武器を構える。

だがここで、龍翠は違う行動をし出した。

 

「(余り時間をかけては、策の支障になる。 一気に決める!)」

 

玖頭龍牙龍を右手で持ち、その柄尻についている鎖に連結されている鞘を、左手に持った。

周りは一体何をするのだろうと、思ってみていると、

 

「はっ!」

 

ブンッ!!

 

「っ!?」

「「「「「なっ!?」」」」」

 

 

突然龍翠は、鞘を恋目掛けて投げつけた。

驚いて一瞬だけ、回避行動を取るのに遅れてしまった恋は、

避けるのは無理と判断し戟で受け止めるが、

二五貫もある牙龍を支える鞘と鎖、それなりの重さがないと先ず耐えられない。

それを投げつけられた彼女の手は、一瞬だが痺れてしまった。

 

「はっ!」

「っ!?」

 

さらになんと、投げた本人が目の前で剣を振りかぶっていたのだ。

このまま一撃を耐えていたら必ず武器を手の内から叩き落される。

恋は慌てて、後ろに跳び引き何とか難を逃れるが、着地する間際、

 

ブンッ!!

 

また、あの黒い鞘が飛んで来た。

恋は今度は受け止めようとせず、戟の柄を叩きつけて軌道を逸らし、

自身に当たらぬようにした後次の攻撃に備えるが、目の前には誰も居ない。

 

「っ!!」

 

恋は悪寒を感じ、反射的に身体を回転させて戟を横薙ぎに払った。

 

ガギィン!!!

 

「っ!?」

 

すると、鈍い金属音が響き、其処を見ると牙龍で防ぎ驚いた表情をした龍翠の顔があった。

 

「是に反応できるとはね。 本当に成長したね、恋。」

「恋、負けない!」

 

そう言って、先ほどのように柄で痛撃を加えようとするが、

何時の間に拾ったのか、彼の手にあった鞘によって防がれる。

 

「まだっ!!」

 

其処から最小限の動きで、振りかぶり一気に振り下ろす。

だが、やはり是も牙龍によって防がれる。

 

「やるようになりましたね。」

「先生に、勝つ為に、恋頑張った。」

「そうですか。」

 

でも、と続け、

 

「僕の勝ちです。」

「え?」

 

そういった龍翠は、何を思ったか恋の戟を払いのけ、手に持っている玖頭龍牙龍を空中に投げた。

 

ジャラァァっ!!!

 

「っ!?」

 

そして、いつの間にか恋の足元に、囲むように何重にもなった鎖が、投げた武器についていき、

恋の周りを舞った。

 

「是で、終わりです。」

 

そう言って、彼女の肩辺りの鎖を両方とも左右に強く引く。

 

「っ!?」

 

すると、彼女に纏わり着く様に鎖が彼女の身体を縛り上げた。

 

ドゴゴンっ!!

 

そして、鎖で縛り上げる事が完了すると同時に、龍翠の両側に武器が落ちてきて地面に刺さる。

そして、牙龍を地面から抜きジャラジャラと身動きが取れない恋の首筋に刃を当てる。

 

「僕の勝ちで良いよね。」

「……(コク。) 恋、の負け。」

 

ガラン!

 

そう彼女が呟くと、彼女の手から戟が離れる。

此処に、双龍による闘いは幕を閉じた。


 
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