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「ど、どうかな？」

「はい、すごく美味しいです！！」

「……よかった」

　なぜか私が作った訳でもないのに、悠里がカレーを美味しそうに食べてくれて……すごく安心できた。

　ちなみに、お母さんがすごく気を利かせてくれて、リビングで家族と一緒に食べるのではなく、私の部屋で悠里と二人きりで食べている。……別にリビングでもよかったと思うんだけど、でも、誰にも邪魔されないというのは……少し、嬉しい。

「辛くない？」

「はい、ちょうどいいぐらいの辛さですよ。……この感じは、中辛ですか？」

「うん、私は甘口だとパンチがないし、辛口は私だけなら食べられるんだけど、両親が苦手だから」

「ふふっ、わかります。ボクもあんまり辛いのは得意じゃないですが、甘口はカレーを食べている気がしないので」

「そうだよね。……後、私はソースをかけたりもするんだけど」

「ボクは昔、生卵を入れてましたね。でも、今はもういいかな、ってなってます。……んっ、本当に、美味しいです」

「……なんか、悠里がこうして食べてるところを見るだけで、なんか……」

「なんですか？」

「……めっちゃかわいい」

「もうっ、ゆたかったら」

　こういうしっかりとした食事をする風景を見るのは初めてのことだけど、なんだか、予想通りに小動物みたいで可愛い。

　小さな手でスプーンを使い、少しずつカレーをすくっていく。

「ゆたかはいいんですか？……って、もうほとんど食べ終わってる！？」

「あははっ、私、食べるの早いから」

「よく噛んで食べないとダメですよ？」

「いやー、普通のご飯なら、もっと時間かかるけどね。なんというか、カレーって食べ物というよりは、飲み物の側面が強くない？」

「おかゆとかならともかく、カレーってしっかりとしたご飯ですよね？それを流し込むのは、本当に消化に悪そうなんですが……」

「大丈夫大丈夫、もうそういう食べ方に慣れてるから」

「……実は、それが身長の秘訣だったりするんでしょうか？ボク、あんまりご飯を食べられないので、ゆたかみたいにいっぱい食べて、せめてもう少し身長を伸ばしたいです」

「またそんなこと言ってる……悠里は今のままで、最高に魅力的だよ？」

「いえ、胸はいいです。そこは諦めることにしました。……天使みたいに可愛い胸、ですしね」

「……そうだね」

「ただ！……ただ、身長はもう少し欲しくって！！」

「なんで？」

　すると、悠里は少し深刻そうな面持ちになって、視線を落とす。

「……ボク、ゆたかとキスしていてわかりました」

「な、何をいきなりっ……」

「ボクとゆたかの身長差って、約30センチもありますよね？それだと、ゆたかがすごく身を低くしてくれないと、ボクと上手くキスできないじゃないですか。……だから、せめて10センチは伸ばして、ボクが軽く背伸びをして、ゆたかが少しだけ身をかがめるだけで、違和感なくキスできるようになりたいな……なんて」

「そ、そうっ…………」

　もう、あまり悠里に話の流れとか、情緒とか、そういうものを求めるのは諦めた方がいい、とはわかっているけど、食事中に思いっきりキスの話をしてくるなんて。

「ね、悠里。それもいいけど、こうして座ってたら、少しはキスもしやすいでしょ？」

「はい……でも、やっぱり身長差はありますし」

「じゃあ、こうやったらどう？」

「えっ……？」

　私は、悠里の体を抱き寄せて、ぎゅぅっと体を密着させた状態で、その唇をもらった。

　――今日のキスは、カレー味。だけど、少しだけ悠里自身の甘い香りがした気がする。

「んうっ……ふぅっ…………」

「んんっ…………。んふっ、はふぅっ…………」

「んっ……はぁっ、どう？この方が、お互いの体の柔らかさとか、心臓のドキドキとか、よくわかるし……ずっとやりやすかったでしょ？」

「そ、そうです、ねっ……。あっ、ははっ……ゆたか、大胆です。こんな、まだご飯を食べている途中なのに、キスするなんて……」

「だって、一回やっちゃったんだから、もう何回やっても同じでしょ？……悠里とは、毎日でも。何回でもしたいもん」

「……ボクも同じです。は、ははっ……ゆたかの唇、すごく温かくて柔らかかったなぁっ。……そうだ、えっと――」

「今度は悠里からしてくれるの？」

「う、ううっ、そこはわかっていても、知らないふりをしてください。ゆたかのこと、驚かせたかったんですから」

「ごめんごめん、でも、悠里からしてくれるなら、サプライズじゃなくてもすごく嬉しいよ」

「んぅっ……！んーっ、んぅぅっ！！」

　悠里は、私の体にしがみつき、木登りをするように私の顔に自分の顔を近づけ、一生懸命、唇を近づけてくる。……まだその行為の意味を知らない小さな女の子が、大人への憧れから、そうしているよう――なんて、思ってしまった。

「んぅっ…………」

　そんな悠里と、優しく唇を重ねる。

　……自分からするより、ずっと気が楽で、本当に優しくその唇の感触を楽しむことができた気がした。

「どう、自分からしたキスは？」

「……ダメです」

「えっ？」

「ゆたかのこと、好き過ぎてっ……なんだか、おかしくなってしまいそうです。いえ、もう既におかしいのかも……」

「私も、悠里が好き過ぎてよくわからなくなってるから、大丈夫だよ」

「んぅっ……ふぁぁっ…………」

　私は、ぎゅうっと悠里を抱きしめた。

　まるでぬいぐるみのような、柔らかい体。ふわふわの毛糸のような髪の毛。つるつるの陶磁のような肌。

　可愛く、奇麗で、魅力的な私の恋人を胸の中で感じられる。それだけで、幸せで、もうずっとこのままでいたくて。でも、いつまでもこうしてもいられないから、優しく解放してあげた。

「……ごちそうさまです」

「ボクはまだ食べ終わってませんよ……。あっ、でも、ゆたかの胸は堪能しました！」

「こら、エロJKめ」

「えへへっ……でも、ゆたか、本当に柔らかくて、ふわふわで……ゆたか自身が優しいのも、納得できるおっぱいだと思います」

「……悠里さんや、その容姿でおっぱいなんて下卑た表現を使っちゃいけません。おバスト様と言いなさい。……そんなに、よかったの？」

「はい、このまま寝られそうなぐらいでした！」

「じゃあ、今夜……一緒に寝る？お客さん用の布団はないから、私が布団なしで適当にブランケットにでもくるまって寝るつもりだったけど。……悠里が、その方がいいって言うなら」

「はい！！ぜひ、ぜひにお願いします！！！！」

「……そう。なら、私も嬉しい」

　ちょっと前までなら、こんなこと言えなかったし、仮に勢いで言ってしまっても、ものすごく自己嫌悪してしまっていたんだろうな。

　……正直、今でもこういう、歯の浮くようなセリフっていうか、どこのギャルゲーだよ、とセルフツッコミを入れたくなるようなセリフを言うことには抵抗がある。それが正常な感性だと思っている。

　だけど、相手が悠里だから。……大好きな人だから、言ってもいいや、と思えるようになっていた。

　悠里は私がどんなことを言っても、きっと拒絶しない。バカにはしない。……私を、傷つけない。

　私は別に今まで、誰かに傷つけられたことが、そんなに多い訳じゃない。人並みか、それより少ないと思う。なぜなら、意図的に自分が生きやすい方に流れていったから。同性の友達を作らず、異性とも深い仲にはならず、少なくとも自分をバカにはしない、都合のいい相手を求めていた。

　だけどそれは、自分のことをちゃんと理解してくれない人と接していると、いつか、本人にその気がなくても、私を傷つけるようなことを言われてしまうだろう、と恐れていたから。

　……その基準で言えば、悠里は私とは全く違う世界に生きている。生きていた。

　だから、本来なら関わるはずがなかった。

　でも、私は悠里のことが好きになってしまった。

　容姿からの一目惚れなんて、バカな話だとは思う。

　だけれど、入り口はそんな安直なものでも、徐々に知っていった悠里は……繊細で、図太くて。天然で、真面目で。

　同性での“恋人”なんて、普通じゃないとわかっている。このことは、誰にも言えない。親にも、誰にも。

　それに、恋人と言っても、絶対に結ばれはしない。そんな間柄の相手に恋人という呼称を使うのは、間違っているかもしれない。

　それでも。

　それでも、悠里は、恋人にならなければならない相手だと。

　彼女とは、もうただの友達では終われない。こうやってキスをして。抱きしめ合って、大好きだと。友達としてではなく、人として大好きなのだと、伝えたい、伝えなければならない相手なのだと、悠里は私に思わせてしまった。

　だから、私は悠里相手になら、どんな姿だって見せる。心も体も、一糸まとわぬありのままの自分を。

「ね、悠里」

「はい？」

「……一緒にお風呂、入る？」

「もちろん……！！」

　いや、まあ、一糸まとわぬっていうのはたとえ話で、本当に見せるつもりはなかったんですけどね？