No.95155

真・恋姫無双 蒼天の御遣い12 後編

0157さん

やっと終わったよ~; ;

本当は1週間で仕上げるつもりが、試行錯誤しながら付け足していくにしたがって・・・・・・なんと、前編の倍ぐらい書いてしまいましたw

とりあえず時間をかけた分、面白く仕上がったと思いますのでよろしくお願いします。

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2009-09-13 07:02:08 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:39416   閲覧ユーザー数:27220

約束の刻限通り、一刀と雫は城門の前で再開した。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

ただ、両者の間では微妙な沈黙が漂っていた。

 

不意に、雫がその沈黙を破った。

 

「・・・一刀様、その方はどなたですか?」

 

雫は一刀の後ろにいる人物について尋ねた。

 

「あー・・・えーっと、その・・・」

 

「俺の名は華佗っていうんだ。よろしくなお嬢さん」

 

一刀が言葉に詰まっていると華佗と名乗った男が自己紹介した。

 

「・・・それで華佗さん。どうしてあなたは一刀様と一緒にいるのですか?」

 

「それは、俺と一刀は兄弟だからさ!」

 

雫の問いに華佗は自信満々といった感じに答えた。

 

「・・・・・・・・・一刀様」

 

雫の『説明してください』という視線を受けて、一刀は大きなため息を吐いた。

 

「・・・・・・ああ、分かったよ、雫・・・」

 

一刀は事の顛末を話した。

 

 

雫がちょうど、曹操と邂逅しているときのこと。

 

「えっ?」

 

「ん?」

 

一刀もまた、雫と同じ反応をして振り向いた。

 

その視線の先には、一人の男性がいた。

 

「あっ、華佗さん!?いらしてたんですか?」

 

店の人が驚いたように男の名を呼んだ。

 

「ああ、久しぶりだな店主。元気にしてたか?」

 

「ええ、華佗さんに診てもらってから、相変わらず好調ですよ」

 

「そうか、それならよかった」

 

二人が話し合ってる間、一刀は呆然と華佗を見つめていた。

 

「・・・・・・華佗?」

 

「・・・?そういえば店主、彼は?」

 

自分を見つめているのを不思議に思ったのか、華佗は店の人に尋ねた。

 

「この方は旅のお方ですよ、華佗さん。・・・どうしたんですか、旅のお方?華佗さんをジッと見つめたりして?」

 

「・・・え?あ、ああ、なんでもないよ。その・・・華佗・・・だっけ?華佗は医者なのか?」

 

店の人に言われ、慌ててごまかした一刀は恐る恐る尋ねた。

 

「ああ、そうだ。俺は五斗米道(ゴットヴェイドー)の教えを受けた、流れの医師だ」

 

「えっ?・・・・・・ごっと?」

 

「五斗米道(ゴットヴェイドー)だ」

 

華佗がもう一度言う。

 

何だかこの時代ではありえない発音を聞いたんですけど・・・

 

「旅のお方、気にしないでください。毎度のことですから」

 

店の人が苦笑気味に言ってくれる。

 

「華佗さん、もう五斗米道(ごとべいどう)でいいじゃありませんか。むしろ、世間ではそっちで通っているじゃないですか」

 

「良くないっ!たとえ世間でどう呼ばれていようがこれだけは譲る気はない!あと五斗米道(ごとべいどう)ではなく、五斗米道(ゴットヴェイドー)だっ!」

 

よく分からないがこの呼び方にこだわりがあるみたいだ。

 

「と、とにかく、華佗は五斗米道(ゴットヴェイドー)の医者なんだな?」

 

「っ!?君っ!!」

 

一刀が確認するように聞くと、突然、華佗が詰め寄って両肩をつかんだ。

 

「・・・な、なに?」

 

「・・・もう一度言ってくれないか?」

 

「・・・・・・・・・へっ?」

 

「もう一度さっきの言葉を言ってくれないかといったんだっ!!さぁっ、早くっ!!」

 

凄まじい勢いだった。

 

「か、華佗は五斗米道(ゴットヴェイドー)の医者なんだな?」

 

その勢いに押されて、怯みながらも一刀は一字一句違わずにもう一度尋ねた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

しかし、華佗はそれには答えずさっきの言葉をかみしめるかのように目を閉じていた。

 

店内にはある種の静寂がただよっていた。外のざわめきが鮮明に聞こえるほどだ。

 

いい加減じれてきて一刀が声をかけようとしたその時、華佗の目がカッと見開いた。

 

「・・・・・・素晴らしい・・・」

 

「・・・・・・は?」

 

「君のその発音、まるで長年修行を積んだかのような素晴らしい発音じゃないか。これほど素晴らしい発音を師以外にも出せる者がいるとは・・・」

 

(・・・普通に英語の発音で言っただけなんだけど)

 

一刀の内心など知らず、華佗は何度も感心したようにうなずいていた。

 

「俺もまだまだ修行不足だな・・・・・・よしっ、決めた!」

 

「えっと・・・何を?」

 

「君っ!名前はっ!?」

 

「ほ、北郷一刀だけど・・・」

 

「なら北郷・・・いや、一刀っ!俺と兄弟になってくれないか!?」

 

「は?・・・はぁーーーーーっ!?」

 

通りには一刀の絶叫が響き渡ったそうな・・・

 

 

「・・・というわけなんだ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

雫が疑わしげな目で一刀を見つめていた。

 

「い、いや、本当なんだって。なぁ、華佗?」

 

「ああ、本当だぞ。俺と一刀は兄弟の誓いを交わしたんだ」

 

「いや、ちょっと待て!俺はそんな誓いをした覚えはない!」

 

「そうか?まぁ、とにかく俺は一刀についていくと、そう決めたんだ」

 

そう言って華佗は手を差し出した。

 

「そういうわけだからよろしくな、お嬢さん」

 

「・・・・・・一刀様はよろしいのですか?」

 

雫は差し出された手をジッと見ながら一刀に尋ねた。

 

「・・・まぁ、悪い奴じゃなさそうだし、俺は別にかまわないと思ってるけど」

 

「・・・そうですか・・・・・・分かりました」

 

そう言って雫は華佗の手をとった。

 

「こちらこそよろしくお願いします。私の名は徐庶といいます」

 

「そうか、じゃあ改めてよろしくな、徐庶」

 

二人がちょうど挨拶を終えた時、通りに悲鳴が響き渡った。

 

「か、火事だぁーーー!」

 

「「「っ!?」」」

 

三人はそれぞれ顔を見合わせたあと、声のした方へかけだした。

 

 

野次馬を掻き分けながら進んで行くと、確かに家が燃えていた。

 

それなりに裕福なのだろう、二階建ての家には所々煙が出ている。

 

「どうやら怪我人はいないようだな」

 

華佗が周囲を見回しながらそう言った。

 

「そうだね。それにもう、片がつく頃合だ」

 

一刀が指を差すと、その先には斧や大槌を持った屈強な男たちがやってきた。柱を壊し、家を崩すことで隣家への延焼を防ぐというのだ。

 

男たちが「さぁ取り掛かるぞ」とばかりに家に寄ると、一組の男女が男たちに取りすがった。

 

「ま、待ってくださいっ!!まだあの家には娘がいるはずなんですっ!!」

 

どうやらその人たちはこの家の人であるらしかった。

 

男たちの長なのだろう男はその言葉を聞いて沈痛な表情を浮かべた。

 

「し、しかしでさぁ、親御さん。この火の勢いじゃあもう助けに行くことはできやせん。・・・それに早ぇこと壊しちめねぇと、隣に燃え移ってしまいやす。・・・・・・娘さんにはお気の毒だが・・・」

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

それを聞いて母親は愕然とした表情で崩れ落ちた。

 

「待て、華佗」

 

一刀は華佗の肩をつかんで呼び止めた。華佗はあの家に向かって突っ込もうとしたのだ。

 

「待っている暇などあるか!離せっ、一刀!早くあの子を助けないと・・・」

 

「だから待てって言ってるだろ!そのまま行っても共倒れになるだけだ!」

 

「じゃあどうすればいいんだっ!?このままあの子が焼け死ぬのを黙って見ていろって言うのかっ!?」

 

「そうじゃないっ!!」

 

凄まじい一喝だった。周りの野次馬たちも何事かと見ている。

 

「・・・・・・雫、どこからでもいい。至急、おけ一杯分の水を持ってきてくれないか?」

 

「・・・分かりました」

 

一刀の命を受けて雫は駆け出した。

 

「華佗、少しの間だけ持っててくれ」

 

そう言って一刀は華佗に荷物を手渡した。

 

「・・・一刀?」

 

「俺が行く」

 

華佗が呆然とした面持ちでいると。一刀が男たちの所へ向かって行った。

 

「少しいいか?」

 

「ん?何だ兄ちゃん?」

 

「俺がその人の娘を助けに行くからその間だけ家を壊すのを待ってくれないか?」

 

「む、無茶を言うな兄ちゃん!?一階はもう火の海になってやがるんだっ!兄ちゃん焼け死んじまうぞっ!」

 

確かに男の言うとおり、すでに一階の火の勢いは凄まじく、そこを通るのは自殺行為に等しい。

 

だが、一刀には目算があった。

 

「問題ない」

 

「も、問題ないったって・・・」

 

「一刀・・・様・・・・・・お待たせ・・・しました・・・」

 

男がさらに言いつのろうとすると、雫が息を切らせながら戻ってきた。

 

雫はひと抱えある大きな木おけを持っており、その中にはおけ一杯分の水が入っていた。

 

「ありがとう、雫」

 

一刀は雫をねぎらうと、おけを受け取り頭から水をかぶった。

 

ザバァ

 

全身ビショ濡れになった一刀は聖天を抜き取ると共に付け加えた。

 

「一階を通らなければいいんだろ?」

 

「何を言って・・・っておい!?」

 

男の言葉を最後まで聞かずに一刀は駆け出した。

 

燃え盛る家に向かって一直線に突っ走る一刀はそのまま家の中に突っ込むかのように思われた。・・・が、

 

「ふっ!」

 

一刀は走った勢いのまま、前方に聖天を突き立てた。

 

「・・・っだぁっ!」

 

そして、気合と共に一刀は跳んだ。

 

その体は瞬く間に高く浮かび上がり、一刀は二階の窓に突っ込んだ。

 

『おおーーーっ!!』

 

一刀が二階への侵入を果たした直後、外からは歓声が響き渡った。

 

その歓声を背に受けて、一刀は家の中を捜索する。

 

すでに二階にも火の手が上がっていた。煙がいたるところに充満している。

 

一刀はその煙を吸わないように、ハンカチで口をふさぎ、姿勢を低くしながら移動した。

 

一部屋一部屋探して、ついに一刀はその子を見つけ出した。

 

「・・・そんな・・・・・・」

 

しかし、一刀はそれを見て絶句せざるおえなかった。

 

なんと、その少女は柱に縄で縛りつけられていたのだ。

 

「いったい誰がこんなことを・・・」

 

妙だとは思っていたんだ。なぜ少女はずっと家の中にいたのかと。

 

二階の窓から助けを求めることも出来ただろうし、怪我を覚悟をすればそこから飛び降りることだって出来たはずなのだ。

 

一瞬、物思いにふけりそうになるが、そんなものは後回しにしよう。今はこの子を助けるのが先決だ。

 

一刀は聖天で少女を縛っていた縄を切った。

 

少女に意識はなく、ぐったりと力無くうなだれている。恐らく煙を吸ってしまったのだろう。

 

「間に合ってくれよ・・・」

 

一刀は少女を抱き上げると一直線に外まで駆け出した。

 

 

「なぁ、徐庶」

 

一刀が二階に突っ込んだあと、華佗は雫に声をかけた。

 

「何ですか?」

 

「一刀はいつもああなのか?」

 

「・・・はい。一刀様は困っている人を見ると放っておけない性質ですので」

 

「そうか・・・・・・やはり俺の目に狂いはなかったようだな」

 

「・・・そうですね」

 

ちょうどその時、二階の窓から一刀が飛び出してきた。

 

「華佗っ!!」

 

着地の衝撃をうまく殺した一刀はすぐさま華佗を呼びつける。

 

「どうした!?」

 

「急いでこの子を診てくれ!恐らく煙を吸っている!」

 

一刀が示唆したもの。それは一酸化炭素中毒のことだ。

 

詳しい説明は省略するが、分かりやすくいうなら密閉された空間にストーブをつけ続けるとなってしまう症状のことだ。

 

「なんだと・・・・・・それはまずいな、急いでその子を治療しよう!」

 

そう言って華佗が取り出したものは・・・鍼(はり)だった。

 

「・・・鍼?」

 

「ああ。我が五斗米道はこれをしかるべき箇所に打ち込んで治療する・・・・・・はああああああああああっ!」

 

一刀の疑問に答えると、突然、華佗が気合の声を上げた。

 

「違う・・・・・・こいつらじゃない・・・・・・こいつか・・・・・・?いや、こいつでもない・・・・・・」

 

「あの・・・華佗・・・?」

 

何をしてるんだ?と一刀は聞きたかったが、なんとなく口が出せる雰囲気ではなかった。

 

「見えた!貴様ら病魔など、この鍼の一撃で蹴散らしてやる!はあああああああああああああっ!」

 

「・・・・・・雫?」

 

「・・・・・・わかりません」

 

「我が身、我が鍼と一つとなり!一鍼同体!全力全快!必察必治癒・・・・・・病魔覆滅!げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

ピシャーーーンッ

 

華佗が少女の身体に鍼を打ち込むと、まるで落雷でも落ちたかのような音が聞こえた・・・・・・気がする。

 

「・・・・・・病魔、退散!」

 

一刀と雫が唖然としていると、少女がむくりと起き上がった。

 

「あれ・・・?どうしたの、お父さん、お母さん?」

 

少女が無事であることを知ると、その子の両親は少女の名を呼んで抱きしめた。

 

「良かった・・・・・・本当に良かった・・・・・・」

 

母親が涙を流しながら、そう口にする。

 

「えっと・・・・・・ちょっといいですか?」

 

正直、感動の対面に水を差すのもアレなのだが、その少女には聞きたいことがある。

 

「少し聞きたいことがあるんだ。いいかな?」

 

一刀が少女に尋ねると少女はうなずいた。

 

「どうして君は家の柱に縛りつけられていたの?」

 

一刀の言葉に周囲の人たちが息を呑む音が聞こえた。

 

少女は目をパチクリさせると、ハッと思い出したかのように話した。

 

「あ、あのね、家に知らないオジサンが入ってきたの」

 

「知らないオジサン?」

 

「うん。そして『金目のものはどこだ』って言ってきたの。知らないって言ったらその人が・・・」

 

言っているうちにその時の怖さを思い出したのか、少女の目に涙がにじみ始めた。

 

「もういいよ。ごめんね、つらいこと思い出させちゃって」

 

「こいつぁ・・・・・・放火魔の仕業じゃねえか?」

 

一刀が少女を慰めると、そばにいた男たちの長がつぶやいた。

 

「何だ?その放火魔ってやつは?」

 

それを聞きとがめた華佗が尋ねた。

 

「へい・・・最近になってそこらに火事が多発するようになったもんで・・・・・・俺たちの間では誰かが放火してやがるんじゃねえかって話になってたんでさぁ」

 

「・・・・・・ここの城主には言ってないのですか?」

 

「言ったさ!だけど城主は『証拠がなければ兵は動かさない』の一点張りで全然動いてくれないんだ!」

 

「・・・なんて愚かな」

 

雫がうめくように言った。火事で全てが燃えてしまっているのだ。証拠など出るはずがない。

 

「・・・雫、華佗」

 

不意に一刀が二人の名前を呼んだ。

 

「しばらくはここに滞在する。少し長くなるかもしれないけど構わないな?」

 

「あの放火魔を捕まえるのか?」

 

華佗の問いに一刀はうなずいた。

 

「なら俺は構わない。罪もない民たちから金品を奪い、あまつさえ家を燃やすなど・・・・・・そんな悪党を俺は見逃す気はない!」

 

「私も構いません、一刀様」

 

「ありがとう二人とも」

 

「い、いいのかい、兄ちゃんら?手伝ってもらっちまって?」

 

一刀たちの話を聞いた長が恐る恐る尋ねた。

 

「はい。ここの城主は全くあてになりませんし、俺たちでよければ是非手伝わせてください」

 

「あ、ありがてぇ!恩に着る!」

 

「それじゃあここはこの人たちに任せて、俺たちはひとまずは宿に戻るか。対策も考えなきゃいけないだろうし」

 

一刀の提案に二人がうなずき、その場を離れようとしたところに、

 

「た、たいへんだぁーーーっ!!」

 

ひっぱくした声を上げる一人の男が転がり込んできた。

 

「どうしたっ!?」

 

そのただ事ではない雰囲気に長が男に問いただした。

 

「・・・・・・ほ、放火魔が・・・」

 

「何っ!?放火魔だとっ!?また火事なのかっ!?」

 

「・・・・・・捕まった・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・・』

 

静寂が辺りを包み込んだ。

 

『・・・・・・・・・は?』

 

その場にいた全員がそんな声を上げたとか、上げなかったとか。

 

 

時は少し逆のぼる。

 

とある路地裏では一人の男が走っていた。

 

その者は辺りを見回して、人気がないと分かり、やっと足を止め一息ついた。

 

そうしていると、ふつふつと男の内側から苛立ちがつのってきた。

 

「ちっくしょう!何だよあの家は!?全然、金目の物がねえじゃねえか!」

 

男は苛立ちまぎれに壁を蹴った。

 

しかし、想像以上に硬かったのか、男は足を抑えてうずくまった。無論、完璧な自爆だ。

 

男にとって今日は最悪の日だった。忍び込んだ家には全然、金目の物がなく、おまけに自分の顔をあの家のガキに見られた。

 

ガキを脅しても『知らない』としか答えないから口封じもかねて、家と一緒に燃やすことにしたのだ。

 

人を・・・しかも、子供を焼き殺そうとした男はそのことに何の感慨も持たなかった。それよりも今はこの苛立ちどうにかするのが先だ。

 

「くそっ!こうなったらもう一軒焼いてこの鬱憤(うっぷん)を晴らすしかねえな・・・」

 

男は一人ぼやくと共に歩き出そうとした。すると・・・

 

「華琳さま!見つけました、こやつです!」

 

後ろからした声に驚き、男は振り返った。

 

そこには曹操と夏候惇がいた。

 

「へぇ・・・あなたが最近ここらを騒がしている放火魔なのね?」

 

「な、なんだよ、放火魔って人聞きの悪りぃ・・・・・・俺はそんなことしてねえよ」

 

曹操の言葉に男は心外だって顔で返した。

 

「そう?だってこの子が見たのよ。火事になる前にあなたがその火事になった家から出てくる所を」

 

「そ、そんなのは見間違えだ!俺はそんな所には行ってねぇっ!」

 

そこで男は開き直ったかのように笑った。

 

「はっ!それともなんだっ!?証拠でもあるのかよ!?あるんならさっさと持ってこ――」

 

「黙れ、この下衆が」

 

男は思わず口をつぐんでしまった。曹操の口調は決して強いものではない。しかし、その声音は鋭く、そして冷たかった。

 

「影でこそこそと這い回るしか能の無いクズが。それ以上その汚らしい口を開くな。空気がけがれるわ」

 

「――っ」

 

そのあまりに辛らつな言葉に男は声が出せなかった。

 

そこでもう一人が曹操の背後に現れた。夏候淵だ。

 

「戻りました、華琳さま」

 

「ご苦労、秋蘭。それで?」

 

「はっ。火事になった家には少女が一人取り残されていたようですが、通りすがりの者がその少女を助け出しました」

 

「なにっ!?」

 

そこで男が驚きの声を上げた。

 

「さて、これで証言がもう一人増えたわね。ではその少女の所までついて来てもらおうかしら。その少女が貴様を犯人だと言えば信憑性が高まって、十分証拠になるわよね?」

 

「・・・ちっ、くそぉっ!」

 

そう言って男は懐から小剣を取り出して襲いかかった。

 

それに反応して夏候惇が立ちはだかる。

 

「ふんっ!」

 

男の破れかぶれの一撃を難なくかわして夏候惇が拳を突き出した。

 

ドガァッ

 

その拳は男の顔面にめり込み、男を吹き飛ばして壁に叩きつけた。

 

壁に張り付いた男にとどめをさすべく夏候惇はさらに拳を繰り出そうとしたが、

 

「そこまでよ、春蘭」

 

曹操が制止の声を上げた。

 

「なぜですかっ、華琳さま!?こんな輩、生かしておく必要はありませんっ!」

 

「その通りよ。だけど、ここはまだ私の領土ではないの。だから、この男の処罰はここの者に任せるしかないわ」

 

「ですが華琳さまぁ・・・」

 

「抑えろ姉者。華琳さまとて口惜しい気持ちはおありなのだ」

 

「うぅ・・・・・・分かりました、華琳さま。・・・華琳さまがそうおっしゃるのなら・・・・・・」

 

夏候淵にもたしなめられ、夏候惇は不承不承といった感じで引き下がった。

 

「すまないわね、春蘭。・・・・・・それにしても、ここ城主はいったい何をしているの?こんなやつを野放しにしておくだなんて信じられないわ」

 

「このところ、朝廷の者どもの怠慢さには目に余るものがあります」

 

「そうね、秋蘭。・・・・・・もはや、漢王朝は長くない・・・か」

 

曹操がなにやら物騒なことをつぶやいていると、夏候淵がふと話しかけた。

 

「そういえば、華琳さま。少し気になる人物を見たのですが・・・」

 

「なんなの?言ってごらんなさい」

 

「はい。その者とは、先ほど言いました少女を助け出した者のことです」

 

「そいつがどうかしたのか?確かに燃えた家に少女を助けに行くのは勇敢だと思うが・・・」

 

夏候惇の言葉に夏候淵は首を横に振った。

 

「いや、その者の動きや立ち居振る舞いを見ていてただ者ではないと感じたんだ」

 

「へぇ、秋蘭ほどの者にそう言わしめるなんて・・・・・・。秋蘭の見立てではどうなの?」

 

「・・・・・・私の見立てでは少なくとも姉者と互角に渡り合えるほどはあるかと・・・」

 

「・・・・・・なるほど。まだそれほどの人物が野に埋もれていたのね。・・・興味が出てきたわ」

 

「・・・また華琳さまの悪いくせが・・・・・・」

 

夏候惇はまたもや深いため息を吐いた。

 

「秋蘭。その者の風貌は覚えている?」

 

「はい」

 

「ならそこの男を警備の兵に引き渡して陳留に戻るわよ」

 

「・・・へっ?華琳さま?その者のことはいいんですか?」

 

夏候惇としては嬉しいのだが、思わず尋ねてしまった。

 

「ここで正体を明かすわけにもいかないでしょう。それにそれ程の者ならそう遠くないうちに相間見えるはずよ」

 

「はぁ、そういうものなのですか?」

 

「そういうものよ。行くわよ、春蘭、秋蘭」

 

「「はっ」」

 

三人+一人(春蘭に足を持って引きずられてる)はその場をあとにした。

 

 

 

 


 
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