No.942775

司馬日記外伝 人に歴史あり?

hujisaiさん

お久しぶりで御座います。
司馬日記4~6の頃の斗詩さんです。


所で、r-18を含む物についてはハーメルンにて上げさせて頂きましたのでそちらも御覧頂けると幸いです。

2018-02-24 11:38:46 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5565   閲覧ユーザー数:4316

下着のまま鏡台の前に座って自分の顔を確認する。

うん、血色は悪くない。

前髪は少し切ってきた。

専用の大きな化粧箱を開けて、道具を取り出す。普段は殆どお化粧はしないけど、『こういう日』の為に、随分上手くなってきた。

 

白粉は多少色の強いものを濃い目に。

口紅はやや薄く。

目じりの線は強く、切れ上がるように。これで大分印象が変わる。

おでこに金鍍金の宝飾具。

お化粧はこれで大体終わり。鏡に向かって少しキリッとした表情を作ってみる。うん、大丈夫。

密かに購入した淡い臙脂の上着を頭からかぶって、鏡の中の胸元を確認する。

…少し余ってる。

私だって小さいほうじゃないのにやっぱりすごいおっぱいだなぁ、と小さくため息をつきながら『胸ぱっど』を下着の中に詰めるとちょっときつい。下着も『こういう日』専用に大きいやつを買おうかと思ったけれど、結構高かったのを思い出して我慢する。

下を履いて、青い帯紐を蝶々型に結ぶ。

花柄の淡い茶色の『すとっきんぐ』を履き、さらに白い軍靴を履く。

鏡の中の太腿は記憶の中のものより少しむっちりしているような気がする。

…太ったかな。

 

そんな筈は無い、太る暇なんて碌に無い筈だし。嫌な考えを振り払う。

外套と鎧は今日は無し。

そして仕上げに前髪をすこしひっ詰めて、長い――――重たいくらいの、特注のかつらを被る。

 

 

 

--------------

 

 

昼下がりの皇帝の執務室。仕事場のここには、今はあたしと一刀様の二人だけ。

お茶は月さんが持ってきたのがある。

おやつの時間にはまだ早い。

昼食の用意の補助はあたしがやったので、食器の片付けは杏(逢紀)がやっている。

洗濯は月さんが干している最中だ。洗うのは他の人がやっても干すのだけはどうしても自分でやりたいらしい。

あの偉そうで小うるさいメガネチビは張任と会議に出てる。劉璋は非番だ。

一刀様は何か難しい顔して荀彧の書類を決裁中。

荀彧も「忙しいんだから詠とか風とかに聞かないで自分で考えんのよっ!でもどうしても分かんなかったら私に聞きに来るのよ、絶対他の女に聞くんじゃないわよいいわねっ!!」とか言って、一体考えろなのか聞けなのかどっちなのか。

こうしてあたしはやることが無く、ぼさっと部屋の隅に突っ立ってたりするとふと思い出した事を口にしたくなるのも仕方のないことだ。

 

「ねェ一刀様」

「ん?何、燕(許攸)さん」

「何で斗詩みたいな恐ろしい女まで囲ってんの?」

「…燕(許攸)さん死ぬぞ?」

「だ、大丈夫よ、今二人だけじゃない?」

「残念二人だけじゃない」

天井を指差しながら一刀様の少し呆れたような視線。でも前から気になってた事ではある。

「これだけ女いっぱい囲ってるんだから、別に斗詩みたいな鬼女まで手ェ出すこと無いじゃない。…そ、それにさ、一刀様がさ、したいって言うんなら…その、あ、あたしだって別に…」

言いながら、メイド服の裾を少しだけ持ち上げる。

 

――――君の事を大切にさせてくれないか。

斗詩に拉致られそうになった数日後、皇帝陛下―――一刀様からそう熱烈に口説かれて、私はこの人と結ばれた。

『死なせたくないんだ』

『君ならやっていける』

『ずっと大事にするよ』

どう聞いたって事実上の愛の告白。

そして、あんなに口付けをして。あんなに体中を嘗め回して。あんなに硬いものが、あたしの胎内で。

ここ(総務室)に入る時は天下取ろうとか思ってたけど、そんなものよりずっと大切な旦那様が出来て、ついでに付いてきた天下は旦那様に任せてあたしは側に寄り添ってあげる事にした。

一応筋は通そうと思って、冀州の仲間に『あたし、皇后になっちゃった』って伝えたら、『お手つきになって舞い上がった女が必ず一度は通る道よねぇ。まあ二、三ヶ月位すると現実を知るだろうけどさ』とか彩(張郃)とか恵(高覧)が生温かい目つきで見てくるのは所詮都合のいい女か側室止まりであんな言われ方をした事が無いからに違いない、かわいそうに。

…旦那様がしたくなったらさせてあげるのが妻の務めだから。

皇帝様がそこらへんの変な女つまみ食いして食あたりでもしたら目も当てられないし。

もう少しで下着が見えちゃうんだから早く何か言いなさいよ。

 

裾を掴んだ指がぷるぷると震えながらゆっくりと太腿の上まで上がろうとしたところで、部屋の入り口からカーンカーンとお玉で鍋を叩く音が聞こえた。

「燕さぁーん!?もうすぐ午後の『当番』の方来るからそういう事止めてもらえますぅー?前から言ってますけど死にますよぉー!?」

「あ、杏さん!」

見ると、思いの外早く洗い物を終えた杏が扉に凭れて立っていた。夫婦の睦み合いに水を差す空気の読めない女め、側女の一人や二人待たせておいたっていいでしょうに。

 

「こんにちは…あ、燕もこんにちは」

「う…お、おはよ」

ひょこっと扉の端から顔を覗かせたのは噂をすればの斗詩だった。…まあ昔の誼で今日は譲ってやる事にする、別にこないだの事でビビってるわけじゃないわよ。無いんだったら。

「ああ、待ってたよ斗詩。じゃ、出かけようか」

「あ、はい。じゃ、外で待ってますね」

残っていた書類の決裁欄に署名すると、外套を掴んで羽織り始める一刀様と目が合った。

「斗詩にはさんざん苦労かけたからねぇ。労わってあげる時間も必要なんだよ」

「旦…一刀様がそう言うんならそれでもいいけど。知らない女じゃないし」

膨れっ面をしていたらしい私を宥めるような言葉に、意識して頬の力を緩める。

それじゃあね、と執務室の扉を閉める旦那様を見送ると後には杏と私の二人が残された。

 

「…ねェ。斗詩、そんな苦労してたの?」

「さぁ?私こっち来てからは日が浅いからあんまりよく知りませんけどねぇ、昔冀州で麗羽様の部下だった頃は苦労してんなーと思いましたよ、つかその頃だったら燕(許攸)さんだって知ってますよね。それよか一刀さん居ないうちに掃除やりますよ掃除、ほら台拭きありますから」

「きゃ、ちょっと投げないでよ!」

「取れるでしょそれくらい。私床の方やりますから」

下投げで飛んできた台拭きを受け取ると、私は斗詩の事などすっかり忘れてまだ旦那様の温もりが残る執務椅子に腰かけながら黒檀の机を拭き始めた。

 

---------------

 

ある郡吏曰く、『私、忙しくて余り覚えていられませんの』が口癖らしく、事業の御礼を言いに行っても『そんなこと言いましたかしら』と実際よく忘れられているという。

ある太守曰く、口調に似合わず指示が的確らしい。

ある豪商曰く、『おーっほっほっほ』の声の元気がいまいちな時は財布が渋いらしい。

ある県令曰く、『お一人で来られる時は詳細な打ち合わせをされ、二人のお供がいる時は韜晦しているのではないか』

ある村長曰く、驕慢苛烈と聞いていたが温和で話しやすく、噂は当てにならないと語った。

 

魏領内の巡幸で冀州周辺を回っていると、麗羽についての不思議な噂を聴いた。

俺の記憶が確かなら麗羽は都に居座ったっきりで冀州には碌に帰っていない筈であるし、妙にいい噂が多いのも正直聞いていたのと違う。本人に聞いても

『おーっほっほっほっほ!私の善政が海内遍く行き渡っていると言う事ですわ!』

と割と予想通りの答えだ。麗羽の事はそれなりに知っているはずの華琳に聞いても、眉を顰めながら

『もしそれが事実なら、とっくの昔に私は官渡で敗れてここには麗羽が座っている筈だけど』

と言う。寧ろ最近の都でのやりたい放題にはいよいよ頭が痛いところに、有る晩桐花(荀攸)から寝物語に麗羽を調教しろと焚き付けられた。

「あの女、ウザいから調教しちゃって下さいよ一刀様ぁー?絶対、絶対ですって本性間違い無くどMですから!ああいう高慢ちきなアホ女、一回ビシッと躾けてやれば結構いい雌奴隷になりますよぉ?」

「そうは言われてもなぁ…」

心底鼻っ柱へし折られた麗羽がどうなってしまうか心配だし、正直女の子にそーゆー事をすること自体かなり気が進まない。

乗り気でない俺の返事に桐花(荀攸)はむー、と不満げな表情を浮かべたが直ぐに悪戯っぽい顔をすると、

「じゃ、一刀様をその気にさせてあげますよ。…柳花(荀諶)からもあの先輩可哀想だから助けてあげてって言われてますしね」

「?何の事?」

「こっちの話です。じゃあですね一刀様、…」

 

――――――三日後の昼過ぎ直ぐに、こっそりと顔良の部屋を訪ねるといいですよ。

何故かと聞いても行けば分かります、んで袁紹を調教しようって気になると思いますよ、と言うだけで唇を塞がれてもう一戦にもつれ込んだだけだった。(尚返り討ちにした)

 

------------------

 

三日後、怪訝に思いながらも言うとおりに斗詩の部屋を静かに覗くと、部屋の前室に使い古されたノートらしき物を見つけた。

こっそり覗け、と言われた趣旨から考えて見ざるを得ないと判断して、斗詩の気配に注意しながら静かにページをめくる。

「………」

一見して仕事のメモのように見えるそれは、何か強い違和感を発している。

これが、仕事のメモだと、おかしい。

部屋の中で人が動く気配にそっとノートを閉じて中の様子を探ると、かつら――――豊かな金髪くるくるのそれを被った『麗羽っぽいなにか』が、姿見の前で一度目を瞑り、目を見開いて顎の下に手の甲を添えて息を吸った。

「おーっほっほっほっほ!……ん、んん」

小さく喉を鳴らし、ちょっと低いかなと呟き再びすうっと息を吸った。

「おーっほっほっほっほ!!……こんなかんじかな。さっ、今日も頑張んなきゃ」

半音上げた高笑いの後にそう呟いて顔を上げると、部屋の入り口に立っていた俺と目が合った。

 

 

 

止まる時。

ぽかんと開けられた口。

目を見開いた『麗羽っぽいなにか』の姿が、俺自身の涙で滲みはじめる。

 

 

 

 

「…お、おっ、おーっほっほっほっほ!斗っ、斗詩さんならいらっしゃいませんわよ!?わわわたくしこれから平原令と打ち合わせですので失礼しますわ!」

「…もういい」

額からだらだらと汗を流している『麗羽』の腕を掴む。

「かっ、一刀さんは何を仰っているのかしらっ!?わ、わたくしは麗羽でしてよ!?」

「…もういいんだっ…!」

「な、なんで泣かれているんですのっ!?」

「これも見させてもらった…」

「あ、そ、それはっ」

俺の手元にあるノートを見て慌てる『麗羽』。

 

*************

 

≪打合せ備忘録≫

 

【平原令○○と】

○月×日

税制について打合せ。再調査後の戸籍簿の提出と引き換えに減税を提案。

 

△月□日

連絡無しで上京され麗羽様に面会されていることが判明。麗羽様が好きにしなさいと指示されてしまっていた為上記のとおりと再指示。

 

※月?日

減税幅について吏員より説明資料を受領、一ヶ月以内に回答予定。上京の際は私に事前連絡をするよう指示。

 

!月%日

郡の年賀式典に出席。想定戸籍数について回答あり、提案通りの減税幅として来年施行を指示。

 

&月#日

麗羽様が新鎧の調達を指示されていた事と引き換えに減税幅を倍にする事を承諾していた事が判明、急遽平原へ赴き鎧の仕様の変更、減税幅の削減を打合せ。

やや不信感を抱かれている様子を感じる。誤魔化しきれない可能性があるので新人の荀諶さんに引継ぎを検討。

 

【鄴太守○○と】

 

……

 

【渤海太守○○と】

 

……

 

*************

 

 

「あ、あのっ…私、騙したり悪い事するつもりじゃなくてっ」

「分かってる…分かってるっ…!」

俺を見上げる斗詩の瞳にみるみる涙の粒が盛り上がる。

「こっち(都)のお仕事もありますけどっ、国(冀州)の方の事が全然回らなくて、でもこっちで麗羽様とか文ちゃんとかが問題起こしたらそっちにも行かなきゃいけないし、太守さんたちからもいっぱい問い合わせ来てたりさぼっちゃう人とか謀反起こしそうな人とかいたりするからそういうのもなんとかしなきゃいけないけど、でも私の名前じゃどうにもならなくて麗羽様じゃないと出来ない事がいっぱいあって、…わ、私っ…うううっ…」

「休めっ…!もういいっ…休めっ…!」

「か、一刀さぁぁぁぁん!うわぁぁぁぁぁーん!!」

自身の不甲斐無さ。

甘さを優しさと履き違えていた自分の愚かさを、泣きじゃくる斗詩を抱きしめながら痛感する。同時に日頃は甘く、下手から接してくれる桐花(荀攸)が時には今日のような体験をさせて反省させてくれる事に感謝も胸に湧き上がる。

 

一頻り泣かせた後、かつらと涙で乱れた厚化粧で違和感バリバリの斗詩の顔をそっと上げさせた。

「大丈夫だ。後は任せてくれ、麗羽は俺がなんとかする。あと冀州の方を見てくれる人材の手配もするから、仲達さん…総務の司馬懿さんに言ってくれ」

「え…、大丈夫なんですか、本当に…」

「ああ、大丈夫」

精一杯のハッタリの笑顔。

正直それほど成算がある訳じゃない。しかし、必ずやり遂げる。

戦乱の頃はたまには俺の所に来て愚痴る程度の事はしていたのに、最近はそれにすら来ない程多忙を極めていた斗詩を労わる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それからだったかなぁ、一刀さんと距離がぐっと縮まったのは。うん、体の関係はそれより前からもあったし好きだなっていうのも優しくして貰ってるなっていうのもあったんだけど、やっぱりこの頃から凄く気持ちが通じ合うようになったって言うかぁ。麗羽様もすごく落ち着かれたし、お仕事も純(田豊)と静(沮授)とかのお陰でぐっと楽になったよね。あ、そうそうその純たちに就職して貰う為に冀州に一刀さんと旅行…うん、まあ出張だったんだけどね、その時の話まだしてなかったよね?その時も一刀さんすっごく優しくしてくれて…って、燕(許攸)聞いてる?やだもー、燕まで寝たふりしちゃってー。『つきあってあげるわよ』って言ってたんだからもうちょっと飲も?ほら上向いて、あーん♪…

やだ駄目じゃない零しちゃー、燕なら一升瓶くらいいけるでしょ?…厠?さっき杏(逢紀)が青い顔して駆け込んでたから空いてないんじゃない?それより聞いてよ、冀州でね…え?何も謝られるような事はされてないと思うけど。…でーと中に燕が一刀さん緊急会議に呼びに来たのはそれがお仕事なんだし、別に燕のせいじゃないじゃない。折角新調した下着が無駄になっただとか次は一ヵ月後迄二人の時間は取れないとか新参のくせにしょっちゅう一緒に居られるのがずるいとかは燕には関係ない話だからそんなガタガタ震えて涙目になることないよ?むしろ優しい友達に囲まれて私幸せだよ、有難うね、なんか彩(張郃)も恵(高覧)も純(田豊)も静(沮授)も杏(逢紀)も、みんな倒れて寝ちゃったけど。

…あ、『もう限界』ってどこ行くの!?…もーしょーがないなぁ。…あ、杏(逢紀)お帰り。それじゃお店変えて飲み直そ?彩(張郃)も恵(高覧)は私が背負ってくから、純(田豊)と静(沮授)は杏がお願いね?」

 


 
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