No.935185

狭間で揺らいで

紫月紫織さん

2016-07-09に書いてぷらいべったーに投稿していたものの転載となります。

申し訳程度のオル光♀成分
独自解釈、独自設定多数、シヴァ討滅直後のお話
モグル・モグはログアウトしました

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2017-12-30 16:27:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:718   閲覧ユーザー数:718

 氷の巫女が下ろした神を打ち払ったものの、霧散する高濃度の氷のエーテルにあてられ膝をつく。

 蛮神を倒したあとは酷い目眩や頭痛など体調不良に陥るのが常だった。

 だが今回はまずい、シヴァを打ち払いはしたものの、氷の巫女を倒したわけではない、このままだと不意を突かれる、そう思い顔を上げるもいつもと違う奇妙な視界は巫女を捉えることすらままならなかった。

 少しして、ようやく症状が落ち着いた頃には氷の巫女の姿は無く、なんとか立ち上がれる程度に回復してやっと、自分の左目がおかしくなっていることに気づいた。

「これは初めてね……」

 左目の焦点が合わないし、何か変なうねりのようなものが見える。

 せめてこの不愉快な視界を閉じようと、左目を瞑ればそれは見えなくなってくれた。

 だが、それよりも気にかかるのは氷の巫女のした事そのものだ。

 

 まさか、蛮神をその身に下ろすとは。

 

「別の可能性はある……かな、いや……どうだろう」

 蛮神をその身に降ろして闘う、ならばそれを打ち払える私はなんだろう?

 蛮神の特性、超える力の見せた可能性、力、影響、莫大なエーテル、私の特性。

 独学とはいえエーテル学に手を出している私にとって、一つの可能性を導き出すのは容易だった。

 その可能性に、吐き気を覚える。

 

 人が蛮神に成るだなんて──私が蛮神だなんて、冗談じゃない。

 

 ともかく、体調が悪いまま一人で居るのはまずいと思い暁の面々が待つ大氷壁の向こう側へと転移する。

 見慣れた顔に安堵した自分と裏腹に、彼らの顔は一様に驚愕に満ちたものだった。

 

「……どうしたのよ──バケモノでも見たような顔して」

「あなたっ……その姿はどうしたの! 何があったの!」

 

 らしくもなく取り乱して駆け寄ってくるヤ・シュトラを不思議に思いながら、事の顛末を説明する。

 氷の巫女が蛮神をその身に呼び下ろしたという事に、暁の面々は驚愕したようだが、どうにも先程からそれとは違う意味で私のことを気にしているようで、なんとなくイライラする。

 先程至った可能性の所為だろうか。

 

「そんな神降ろしの方法があるとはね……けど、今はその事は置いておこう。それよりもその姿はどうしたんだい」

「なによ、羽でも生えてる? しっぽは元からだけどね」

「またそんな軽口を……そうか、自分じゃ気づきにくい変化かもしれないね。ちょいと待ってくれ、確か手鏡があったはずだ」

 

 ムーンブリダから手渡された手鏡を、彼女も女なんだなぁと我ながら酷いことを考えつつ受け取り、自分の姿を映す。

 そこに見慣れたペールブルーの髪の姿は映っていなかった。

 見えるのは緑のメッシュが入った濃紺の髪、これは水や氷、風のエーテルの影響だろうか、確かに私との親和性は高かったはずだけれど。

 試しに左目を開けてみると、こちらも緑色に変わっていた。

 もともと両目ともに青だったはずが、今ではオッドアイか。

 なるほど、驚かれるわけだ。

 この程度、私の仮説からすればかわいい変化だけど。

 

「ムーンブリダ、この鏡変な仕掛けでもしてあるの?」

「してるわけ無いだろう。髪の色が変わってる、あとその左目も、さっきまでずっと瞑っていたのは理由でもあるのかい?」

「別にどうも、疲れてると瞑る癖があるだけよ……まあ、この程度の影響なら大したことないでしょ」

 

 さらりと嘘を口にしながら、気にしてないという風を装う。

 それに対して意義を申し立てたのはヤ・シュトラだった。

 

「大したことないって、あなたそれ正気で言っているの!?」

「腕や足がちぎれたわけでもあるまいし、たかだか色が変わっただけでしょう?」

 

 そう言って大げさに呆れてみせる。

 大体予想はついている。

 イフリート、タイタン、ガルーダ、リヴァイアサン、ラムウ、そしてシヴァ。

 これで私は六属性全ての高濃度のエーテルに晒された事になる。

 大きな変質が起こったとしても、まぁおかしくはないだろう。

 私の反応にヤ・シュトラもこれ以上言っても無駄だと悟ったのか、何かあったらすぐに話しなさいとだけ言って引き下がってくれた。

 彼女は私以上にエーテル学について深い見識を持っているし、私より先の可能性まで思い至っている可能性は十分にある。

 そのうち、時間を見てその辺について聞いてみる必要はあるだろうが、今はとにかく休みたかった。

 

「私はオルシュファンのところに報告に戻るわ。疲れたんでホワイトブリムへの報告は任せた、じゃ」

「え、あ、ちょっと!」

 

 暁の面々を横目に、嫌な考えがこれ以上出てこないように、私は逃げるようにテレポの詠唱を完了させた。

 

 

 

 キャンプ・ドラゴンヘッドの司令室に入ろうとして、はたと足を止める。

 そういえば、このまま飛び込んだら暁の面々と同じように、オルシュファンも心配させてしまうかも知れない。

 いや、もしかしたら私だとわからないかも知れないな、だとしたらそれはちょっと面白いかもしれない。

 そう思って普段とは違い静かにドアを開けて中へ入ってみる。

 書類に目を通していたオルシュファンが顔を上げ、互いの視線が交錯する。

 次の瞬間オルシュファンは書類を放り出しイスを蹴り倒してこちらへと駆け寄ってきた。

「どうしたのだその姿は!?」

 オルシュファンの第一声もまた、私を心配するものだった。

 

 

 

「よくひと目で私だって分かったわね」

 

 私が疲れていることを見ぬいた彼は、私を私室へと案内しホットココアを用意してくれた。

 それに舐めるように口をつけながらの私の発言に、オルシュファンは少々憤慨したようだ。

 

「他ならぬお前を見間違えるなどありえん、一体何があったのだ?」

「起きたことを説明するのは簡単だけど、私のこの変化はほぼ推測の域での話になるわよ?」

「構わん、まずは基点を置かなければ動くこともままならんからな」

 

 私はひとまずソファに体を沈め、体から力を抜く。

 順を追って今回の一件を一通り話し終える頃には、彼の眉間には深い皺が刻まれていた。

 

「氷の巫女が、自らを依代にしてシヴァを召喚した、か」

「正直、そんなことができるなんて思ってなかったからかなり驚いたわね」

「それもそうだが、氷の巫女がお前と同じ超える力を持っているということも含めて、事態は思ったよりも遥かに深刻なのかもしれんな」

 

 どうやらオルシュファンは、私も同じことができるとは考えなかったようで、少しだけ安心した。

 口に出していないだけかもしれないけど。

 

「なるほど、事の顛末はわかった。次はお前のことだ」

「あー……貴方には、私の体質の事は話したっけ?」

「体質? 魔法とは違う形でエーテルを操る能力があるとは聞いているが」

「うん、これもまぁ……仮説の段階なんだけど、私は自分の体質を、エーテル吸収体質と呼んでる。主な影響、効果って言うほうがいいかな──は、エーテル密度の高い場所で周囲のエーテルを吸収し自分の力に変える事」

 

 そう、そう考えれば辻褄は合うと思う。

 蛮神を倒す度に強くなる自分、今回のシヴァ討滅で体に影響がでた事。

 風や氷と親和性の高い私がクルザスを心地よく感じる理由も、もしかしたらそういうことなのかもしれない。

 

「もともと氷のエーテルと親和性の高い私は、今回のシヴァが霧散するときのエーテルの影響を、特に強く受けたんだと思う」

「なるほど、左目の視力の低下もそれが原因か」

「──え?」

 

 言わなければ決してわからないだろう事をさらりと言い当てたオルシュファンに、つい反応してしまうことでそれを肯定してしまったと気付き、内心で舌打ちする。

 なんでこの人は、私が隠そうとした事に限って見ぬいてくるのか。

 

「目の見え方と言うのは意外と体に出る。戻ってきてからお前の体の動かし方が少し違っていたからもしやと思ったのだが、どうやら当たっていたようだな?」

「あなたにはなんで隠し事が出来ないのかしらね」

「お前が本気で隠そうとしていないだけだろう、さもなければ気が抜けているかだな。私としては、それぐらい気を緩められるか心を許せる、お前の帰る場所となれているのであれば光栄だが?」

「そういう口説き文句みたいなのは意中の女性にでも言ってあげなさい」

 

 少し冷めてきたホットココアを飲みながら、私はオルシュファンから視線を逸らした。

 まったく、ちょっとドキッとしてしまったじゃないか。

 

「ともあれ、そうであれば彫金師を手配するから今日は泊まっていくといい。イシュガルドを脅かした蛮神シヴァを倒してくれた我が友を労うのは、私の役得というやつだな」

「泊まるのはうん、っていうか……ある程度当て込んでたからいいけど、彫金師ってなんで?」

「そのままでは戦いづらかろう、眼鏡を用意させる」

「なるほど、そういう手があったか。それじゃあ……お言葉に甘えさせてもらおうかしら」

「うむ、存分に甘えるがいい! 蛮神との激戦、その疲れを癒やし憩う姿もまた……イイ」

 

 オルシュファンはいつも通りだなぁ、と苦笑しつつ、そんな変わらない彼の姿にどこかざわついていた心がおちつくのを感じる。

 

「ところで友よ、お前を悩ませているものはまだ他にもあるのではないか?」

 

 オルシュファンの言葉に、あえて言葉を返さず耳を伏せる。

 そこから先は言わないでほしいという意思表示のつもりだったのだが、どうやら彼は追求をやめるつもりは無いようだ。

 

「少し気になったのだ。激戦の後の疲れとは別の顔の曇らせ方をしていたからな。お前はミコッテ族な分、案外感情が読みやすいぞ。話したくないのであれば話さなくていい、そばに居て静かに支えるのもまた友の努めだ。だが……お前は聞かねば自分からしゃべりそうにないから、な」

「……そうね」

 

 側のテーブルにココアの入ったカップを置き、ソファにころりと体を倒す。

 そのままに思っている事を口にだすのも憚られて、何か言い換えるにいいものはないだろうかと頭のなかをひっくり返す。

 何の事はない、人が蛮神に成る可能性というのを、口にだすのが怖かったのだろう。

 少ししてこの地ならではの比喩があるではないかと思い至った。

 

「オルシュファンは、さ……もし、私がドラゴンになったら、どうする?」

「随分と、唐突だな。しかもドラゴンとは……難しいことを聞く」

 

 暁やエオルゼア事態の脅威としてある蛮神と、イシュガルドとドラゴン族の関係は、よく似ていると思う。

 オルシュファンは席を立ち答えないままに部屋をゆっくりと歩き回る、考えをまとめているのか、言葉を選んでいるのか。

 それを目だけで追いかけると、やがて彼は私が寝転がるソファに腰を下ろした。

 彼の手が、ゆっくりと私の頭を撫でるのが、少しくすぐったくて耳が跳ねた。

 

「一緒に居るのは、難しくなるかもしれんな。だが、たとえどのような姿になろうと、お前はお前だ。かけがえのない、我が友だ。心は常に、共にある……これでは、答えにならんか?」

「どうだろ、でも……あなたらしいかな」

 

 どのような姿になろうとも、と彼が言葉を選んだのは偶然なのか、それともなんとなく感じ取っているからなのか……そういった機微に意外と敏感な彼のことだ、きっと後者だろう。

 オルシュファンの言葉を何度か心のなかで反芻するうちに、気持ちが軽くなっていることに気づいた。

 

「うん、今の私には、十分みたいだ」

「そうか」

 

 次第に微睡んでいく意識、頭を撫でる手の感触に、私はそのまま意識を手放した。


 
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