No.927681

真・恋姫†無双 異伝「絡繰外史の騒動記」第二十四話


 お待たせしました!

 今回も拠点回です。

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2017-10-27 20:21:41 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:3376   閲覧ユーザー数:2810

 

「ほぅ…本をですか」

 

「はい、今の造り方ではどうしても時間と人手が必要となってしまっており…高名なる北郷様

 

 の絡繰で何か良い方法はないものかと」

 

 ある日、月様からの紹介で俺の工房にやって来た一人の男性、どうやら書籍の製本及び販売

 

 を手がけている人らしく、今よりももっと多くの人に本を読んでもらう機会をと大量生産を

 

 考えたものの、今のままではコストがあまりにもかかり過ぎると悩んでいた所、その話を聞

 

 いた文官の人から月様の所へ話が届き、月様の紹介で此処に来たという話なのであった。

 

 確かに、こっちではそもそも紙が高級品な上、文章は基本手書きなので一・二冊位なら大し

 

 た問題ではないだろうが、何十冊や何百冊などという単位になると時間も手当も結構バカに

 

 ならないだろうしね。

 

「そうですか…月様の命でもありますし、お引き受けいたしましょう」

 

「本当ですか!」

 

「ええ、その大量に製本するという方法に心当たりが無いわけでもないですので」

 

 大量の製本とくればあれしかない。でも、あれの発祥って中国ではなかったはず…まあ、今

 

 更か。此処は違う世界だから良しとしよう。

 

 ・・・・・・・

 

「北郷様、これでよろしいでしょうか?」

 

「ううむ…大分良くはなってきているんだけど、まだ右側と左側の高さの差が出ている。完全

 

 にとは言わないけど、あと薄皮三枚…いや、二枚分は近付けて欲しい」

 

「…分かりました。もう一度やってみます」

 

 俺の要望に職人は若干苦笑いを浮かべながらもそう言ってくれる。

 

 

 

「今回は何時も以上にえらい細かく指示してるじゃねぇか。そんなにその差とやらがあったら

 

 具合悪い物なのか?」

 

「ああ、それをそのままにするとうまく仕上がらなくなるんでね」

 

 そう、これは面全体が均等になる事が重要なものなのだ。仕上がりが悪いせいでうまくいか

 

 なかったなどという事になれば色々ともったいない結果となる。

 

「さて、こっちはまた完成次第確認するとして…次は紙の方だな」

 

 ・・・・・・・

 

「北郷様、このような感じで如何でしょう?我ながらなかなかの出来だとは思うのですが…」

 

 紙職人が差し出した試作品は、本人が自画自賛する位には良い出来であったのだが…。

 

「もう少し薄く作れないか?」

 

「もっと薄くですか!?これでも今まで作っていた紙に比べると、三割以上薄く作ったのです

 

 けど…」

 

「ならば今まで作った紙に比べて五割の薄さが目標で。大丈夫、俺が教えた紙の作り方を覚え

 

 てほんの数日で此処まで仕上げたんだし、まだまだいけるって!」

 

「…なかなかに無茶をお言いになりますな。でも、そう言われた以上はやってみましょう」

 

 紙職人も俺のリクエストに苦笑いしながらも請け負ってくれる。

 

「…なかなかお前さんも職人を乗せるのがうまいな」

 

「別にうまい事言って乗せているような事をしているつもりは無いけど…俺も職人の端くれだ

 

 から思うんだけど、新たな何かを造る時ってとてもワクワクを感じるものなんだよ。特に今

 

 までに無い物を自分の手で造りだせそうな時にはね。きっと木地職人さんも紙職人さんもそ

 

 れを感じてくれているに違いないからこそ、俺の無茶も聞いてくれているはずさ」

 

「ふ~ん…そんなもんかね?まあ、お前さんが楽しそうなら俺は別にそれで良いけどね」

 

 

 

 そして二日後。

 

「おおっ…これです!この質こそが求めていた物ですよ!!」

 

 再び訪れた紙職人の家で見せてもらったのは、それまでとは明らかに品質の向上した紙であ

 

 った。とはいえ、現代の紙に比べると…という所はあったりするのだが。まあ、そこまで無

 

 茶を言うつもりは無いし、これだけの品質であればうまく刷れるだろう。

 

「さすがに凄いな…まさか生きている間にこれだけの紙を見る事が出来るとは思わなかったぞ」

 

 公達も新たな紙の出来栄えには素直にそう驚いていた。ふむふむ、基本毒舌野郎の公達です

 

 ら認める位ならば、他からも文句はそう来ないかな。

 

「さて、後は木型の方だけど…」

 

 こっちはちょっと難しいようで、昨日確認した段階では合格ラインに後一歩という状態であ

 

 った。あまり根を詰め過ぎて倒れられても困るし、現段階で一回試しに持っていく事も考え

 

 なければならないかもしれないな。

 

 などと思いながら木地職人の所に行ってみると…。

 

「おおっ!?完璧ですよ!!昨日のあの状態からよくぞここまで…凄いです!」

 

 出来上がった物は俺の想定以上の出来になっていたのであった。

 

「ふぅ…ようやくですね。でも、まだこれからでしょう?」

 

「はい、一冊の本を作るのに必要な枚数と作って欲しい本の種類がこれだけになりますので…

 

 でも、今日の所は休んでください。この所、朝から夕方までだけでなく夜もやってると聞き

 

 ました。しかも夜の作業の為に無尽灯まで入手したとか…無茶な事を頼んでいる立場で言う

 

 のも何ですが、あまり無理はしないでください。これが軌道に乗ればまだまだ忙しくなりま

 

 すから」

 

「確かに身体の疲れが無いといえば嘘になりますが…気力はこれでもかばかりに漲ってまして、

 

 このままじゃ落ち着いて休めませんのです。とりあえずもう一枚だけ造らせてもらいますよ。

 

 感覚を覚えている内にやっておきたいんです」

 

 

 

 木地職人さんはそう言うと材料を取りだして再び造り始める。俺もじいちゃんに絡繰を褒め

 

 てもらった時に同じ事をしたので、気持ちは大いに分かるが…まあ、職人さんもプロなので

 

 これ以上は言わずとも分かるか。

 

 ・・・・・・・

 

 そして二十日後。

 

「何と…これは凄いです。一刀さんであれば要望通りの物を仕上げてくると思っていましたが、

 

 此処までとは予想以上です」

 

 そう言って驚く月様の前に並んでいるのは、大量に刷られた本であった。そう、今回の要望

 

 に応える為に造ったのは木版印刷の道具と刷る為の大量の紙なのであった。特に版木の製作

 

 に結構な時間を費やしたものの、一度形になるとそこから必要分の量が揃うのにそれまでの

 

 半分の時間も必要としなかったのであった。恐るべしは古代中国の職人の腕…とはいっても、

 

 さすがに製本に関しては人の手でやらなくてはならないので、その分の時間も結構費やす事

 

 にはなったのだが。

 

「うん…本当に凄いわ。こんな短期間でこれだけの量の本を作るなんて…しかも、文字もとて

 

 も見やすいわ。通常の手で書き写す方法では絶対にこうはいかないわね…しかも、紙だって

 

 今までよりずっと質が高いのに、費用はずっと安く仕上がるなんて…一刀、紙の製造につい

 

 てはすぐにでも予算を組んで進めるから」

 

 詠にまでそう言ってもらえるなんてこれはもはや大成功といっても過言ではないな。正式に

 

 予算もつくなら職人さん達ももっと頑張るだろう…でも、ちょっとだけ疑問はある。

 

「でも、本を大量に作るっていうのはとても良い事だとは思うのですが、字って皆が読めるわ

 

 けじゃないですよね?」

 

 そう、この時代、字を読めるなんていうのはそれなりにお偉い方々かお金持ちに限られてい

 

 たはず…幾ら本を作っても読む人がいなければ意味がない。

 

 

 

「ふふ…その為の本でもあります。確か前に一刀さんが『教科書』という物の話をしてくれた

 

 事がありましたよね?」

 

 教科書…ああ、確か連合との戦が終わってすぐ位の時に現代日本の教育制度的な話を月様に

 

 した事があったな。当然、その時に教科書についても話はしたわけだが…。

 

「ですので、次に作ってもらうのはその『教科書』になります。そして漢の主要な都市、さら

 

 にゆくゆくは全ての街に一刀さんの世界にある『学校』と同程度の物を造り、国全体の教育

 

 水準をあげる。そうすれば、より多くの有為な人材を得る事が可能になるはずです。それこ

 

 そが国を五十年・百年と保たせ発展させていく礎となっていく事となると私は信じています」

 

 何と、国のさらなる発展の為に教育を根幹に持って来るとは…本当に此処は古代中国の世界

 

 なのだろうか?

 

「無論、それを実現していく為には色々と解決しなければならない問題は多いです。地方に行

 

 けば行くほど子供を労働力として用いる家が多く、すぐにご飯の種になるわけではない教育

 

 というものに理解を示す親はそういなかったりなど…ですが、例え何年かかろうとも必ず実

 

 現させるつもりです」

 

 本当にこの人は董卓なのだろうか?三国志演義に出て来るあの暴君豚野郎とは180度違う

 

 眼の前の月様に一種感動すら覚える。これは是非とも実現出来るよう俺も出来る限り力を尽

 

 くさなければなるまい。

 

 それから程無く、月様により『学校』及び『教育制度』が設立され、人材の発掘及び教育が

 

 行われて行った事により、ますます漢は月様の下で発展していく事になるのであった。

 

 ・・・・・・・

 

 ~???~

 

 一刀と月の会話からさらに四十日後…。

 

「どうです、地和さん?内容は合っているはずですが」

 

「ええ、一字たりとも間違ってないわ…でも、まさか本気でこれの写本を作るなんて思わなか

 

 ったわ。ちぃも書き写させようとしたけど、やろうとすると皆、人事不省に陥ったから諦め

 

 たのに…さすがは月って所ね」

 

 

 

 

 

 

「これの版木を造り上げるまでにも少なからず犠牲が出ました。余程この書物の言葉に込めら

 

 れた力は強いようです…ですが完成した以上、後はこれを広めるのみです」

 

「ねぇ、加担しておいて何なのだけど…本当に大丈夫なのよね?」

 

「ええ、地和さんは安心して見ていてください。但し、この事は他言無用に願います。天和さ

 

 んと人和さんにもですよ。これを知っているのは私と地和さんだけですから」

 

「分かっているわよ…それに幾らなんでも怖すぎて言えないわよ。まさか教育制度とやらの裏

 

 にこんな物が隠されているなんて…」

 

 そう呟いた地和の眼の前に並んでいたのは『太平要術』と書かれた百冊近い本の山であった。

 

「…とはいえ、これを使うにはまだ時期尚早です。まずは教育制度で計画に有為な人材の育成…

 

 それがなった時にこそ、この本の出番となるのです。それで漢は…我が軍は誰にも負けない力

 

 を手に入れる。その時こそ私の悲願が成就する時なのですから…」

 

 そう呟く月の眼は妖しい光をはなっているかのように見えたのであった。

 

 

 

                                        続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 毎度毎度、投稿が遅くなりまして申し訳ございません。

 

 しかも、今回は話の流れで何時もより内容が大分少な

 

 めになってしまいました。次はもうちょっと多めにい

 

 きたいと思っておりますが…。

 

 そして作中で月が何やら怪しげな方向に進んでいるよ

 

 うに…ではなく、進んでいますが今後どうなるかは本

 

 編にてお送りしていきますので。果たして、その時に

 

 一刀はどういう決断を下すのか…乞うご期待(?)

 

 とりあえず次も一応拠点回の予定です…次に誰が出て

 

 一刀とどう絡むのかはお楽しみに。

 

 

 それでは次回、第二十五話にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 最後の月の行動は詠も知りません。薄々勘付い

 

    て調べようとはしているようですが…。 

 

 

 


 
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